突如実体化したサーヴァントによって凛の攻撃はあっさり弾かれた。実体化というよりもさっきまで別の場所に居たサーヴァントが瞬間移動したかのような速さ、その気配の無さはこの場の誰もが驚くほどだ。
「な、何よあのサーヴァント……!ステータスが全く見えない……!フードを被っているにしてもあれをどういう存在か認識できないなんてある!?」
『凛、こちらからも視認はしている。しかしフードを深く被っている上にあれは何か特殊なスキルを有しているな。正体を知っているのは恐らく本人だけだろう。』
アーチャーからも情報が伝達されるが、やはり正体不明。分かっているのは間違いなく規格外のサーヴァントであるという事実だけ。
「──バ、バーサーカー……!!」
「えっ、何言ってんだセイバー、バーサーカーならさっき──」
「──ほぉ。貴様も召喚されていようとはな。まだ失った何かを求めているのか。だが今は言うまい。真の英雄は過去すらも不変にする、貴様にその資格があるのか試すのも悪くない。」
「何……セイバーとあのサーヴァントは顔馴染みってこと?前回の記憶を持つなんてあり得るのアーチャー!?」
『実際に起きているのだからあり得ないとは言えないだろう。口振りからして前回行われた聖杯戦争でも敵対していたと見るべきだが、これはまた随分とややこしくなったな。』
前回の聖杯戦争で最後まで鎬しのぎを削ったセイバーとシャドウの再びの邂逅。セイバーからすれば因縁浅からぬ相手だが、今は状況がそれを許さない。
「バーサーカーと対峙するとは以前には無い組み合わせ。貴様という試練を越えること、これ以上に無い高鳴りよ!」
シャドウはバーサーカーに向かって真っ向から突進する。バーサーカーもまたそれを正面から受け止める。衝撃波によって発生した爆風にシャドウとバーサーカーが包まれる。
「──馬鹿な男。バーサーカーに勝てる訳無いのに。」
イリヤスフィールは呆れたように嘆息を吐き出す。少なくともバーサーカーのクラスでは無いはすだ。そんなクラスで自らのサーヴァントと真っ向勝負など浅はか過ぎると考えた。
「─────!!?」
バーサーカーの僅かな呻き声がこだまする。正面から斬りかかったように見せて急激に方向を変えてからの横方向の薙ぎ払い一閃が確かにバーサーカーの肉体を捉えた。
「嘘……あり得ない!何やってるのバーサーカー!!」
しかしバーサーカーも対応する。シャドウの独特な剣筋と動きに慣れたかのように自らの剣を視点にして空中で身を翻しながら強烈な蹴りをシャドウに叩き込む。それを瞬時にガードし受け身を取りながら旋回する。武を極めたであろう者同士の緻密なやり取りが二人の間を交差する。
(これは中々。多分今までの敵の中でも難易度は一番高いかな。パワーもスピードも桁外れだけど、あの身体でしなやかさもある。武器の扱いも見事だ。正直ここまで本気を出せそうな相手はヴァイオレットさん以来かな)
先読みの先読み、瞬間的なリアクションと身体の細胞の一部分にまで染み付いた闘争の遺伝子が、この舞台を演出していた。
「ば、化け物だわ……。あんなサーヴァント見たこともない……!」
「ふふふふふっ。素晴らしいわ!流石は私の、いえ私だけの英雄!私だけの人!」
桜は高揚を抑えきれないような上擦った声を上げる。まさに夢にまで見た光景、場は完全に桜が支配している。
「■■■■■■■■■■■───!?」
バーサーカーの心臓部に深々と刃が突き刺さる。自らの魔力を使っての超加速、これまでの戦いでは見せてこなかった最高速でバーサーカーの対応を僅かに上回った。
「バーサーカー!!」
イリヤスフィールの悲鳴に似た叫びが響く。最強と思われたバーサーカーが今まさにシャドウによって倒されたのだ。動揺は必至だ。
「──なぁんてね。」
口角の上がったようにそう呟いた。すると先程まで確かに絶命していたバーサーカーは突如として再び動き始めた。
「────はぁ?」
シャドウから思わず漏れ出た言葉も乾かぬ内にバーサーカーの反撃によってシャドウは吹っ飛ばされる。咄嗟に受け身は取ったが、直撃を食らったのは演技を除けば初めてに近い。
(いやどう考えても一度死んだよね……。僕の心臓ズラしとかの芸当じゃなくて普通に死から蘇ったってこと?ヤバくない?普通に)
「だから言ったじゃない、バーサーカーには勝てないって。でも褒めてあげるわ。バーサーカーを一度でも殺せるなんて──戻りなさい、バーサーカー。」
イリヤスフィールがそう命じるとバーサーカーは距離を取って彼女の前まで歩み寄る。
「今夜はここまでにしてあげるわ。面白い戦いも見れたし、お兄ちゃんの品定めも出来た。もう暫くは生かしておいてあげる。──じゃあね、お兄ちゃん。」
イリヤスフィール組は深い霧へと消えて行った。バーサーカーとの決着が次回以降の持ち越しとなったシャドウは桜の元まで移動している。
「撤退だ桜。今宵の戦いにもはや意味はない。」
「何故ですかシ……ライダー!?目の前にまだ敵は居ます!」
「これ以上の戦いで得られるものはもう無い。それに覗き見されるのは構わないが、いい加減少し目障りだ。」
そう言うとシャドウは自らの剣を槍投げのような構えで思いっきり投擲した。方角はセイバーたちの居る方角とは真逆だ。一同が困惑の表情を見せる中、時間差でとある山から巨大な衝突音が鳴り響いた。
──────────
「──────!!!」
女が反応できたとき、既にその一投はこちら目掛けて進行していた。真っ直ぐ一切の澱みなく向かってくるそれは確実にこちらを狙ったもの。威嚇射撃などという生優しいものでは無いことはすぐに分かる。
「はぁぁぁ!!」
咄嗟に防御術式を展開し、剣の到達に備えた。あと数秒遅れていたら確実に刺し貫かれていたと確信できるほどの威力。防御壁をもってしてもダメージを完全に防ぐには至らない。衝撃波によって生じた圧力で部屋の壁に叩き付けられる。これも普通の人間なら死んでいるレベルだ。
「──やってくれるじゃない小僧が……!」
紫のローブで顔を隠した女は額から血を流しながら苦々しい口調でそう吐き捨てた。部屋は半壊し手傷も負わされた。何より自身の覗き見を戦いの最中に看破するという生意気さ、全てが気に食わなかった。
「覚えていることね……。」
魔女の独り言が月夜に照らされた部屋に残された。
─────────
「な、なんだ今の。柳洞寺の方角か!?」
「アーチャー、今のは?」
『今回のこの戦いを盗み見ていた存在、恐らくはキャスターだろうが、それに対する威嚇、或いは報復の類いだろう。もしくはマーキングだな。あれは自分の獲物だから手を出すなという。』
「魔力の微量な流れだけでそこまで感知したっていうの?一体どこのサーヴァントよ……。」
頭を抱える凛を尻目にシャドウは撤退を決め込む。セイバーが噛み付くかに思えたが、引き際としてはここが最善と判断し静観の構えだ。
桜はといえば納得のいかない様子だが、桜を強引に抱き抱えながら魔力で飛行して撤退していった。桜は桜である意味ご満悦な表情を浮かべていたのだが、そんなことをシャドウはつゆ知らない。
(序盤の顔見せとしては悪くなかったけど、やり方に口を出されるのは思ったより面倒だなぁ。マスターって実は良い相棒だったのかな)
「衛宮くん、今夜はここまでみたい。引き上げ、ってことで良いわよね?」
「──その断るなと言わんばかりの笑顔はやめてくれ……。」
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「──ふむ、柳洞寺で爆発騒ぎ?………よし、ガス爆発……いや、隕石の衝突とでもしておくか……。」