それは妹のこんな一言が始まりだった。
「あれ? お姉ちゃんちょっと太った?」
始まりは妹のそんな疑問の言葉だった。
ある日を境に少女の腹が膨らみ始めた。貧しい家庭に生まれ、満足な食事を得られない少女の腹が膨らんできたことは、誰が見ても不自然とわかる光景だった。始めは病気を疑った。医者に行けるような環境ではなかったが、少なくとも周りが不気味がる程では無かった。
しかし時が経つに連れ状況は変わっていく。少女の腹は膨張を続け、やがて──誰が見ても妊娠だとわかる状態にまで膨らんだ。
幼い少女が妊娠したその姿に周囲の人間が示した反応は冷酷なものだった。
周りの大人達の目が冷たくなった。それまで会話していた同年代の子供は彼女を避けるようになった。
彼女の両親は幼くして妊娠が発覚した少女を酷く張り倒した。母親は汚らわしい、周りに何て言われるか、父親はお前のせいでどれだけの迷惑がかかると思っている、相手は誰だと責め立てた。
だが少女自身は自分の身に起きたことが全くわかっていなかった。母親や大人の女が妊娠した姿は知っていたが、自分がなぜ受胎したのか、なぜ妊娠したことで自分がこんなに責められ辛い目に合っているのか、幼い少女にはわからなかった。
唯一心を許せたのは、彼女が周囲に罵倒されていても隣で手を握り、ひとり泣いている少女を抱きついてお腹を撫でる、妹の存在だけだった。
周りの視線や死にそうな痛みに耐え続け、生まれた子供は異形の姿をしていた。これによって周囲の辛うじてあった人間に接する態度の最後の一線が消え失せた。
子供を産んで直ぐに、ずっと一緒にいてくれた妹とも引き離され、長年使われなかった部屋に子供と一緒に閉じ込められた。少女は子供を抱えて震えて過ごしていた。泣きながら子供の温もりに必死に縋った。
やがて扉が開くと、大人達が役人を連れてきていた。少女とその子供を確認すると、大人達から何事か話をし、少女は領主が住むという屋敷まで連れて行かれた。
その屋敷は生まれてから何度か遠目に見た、豪華で綺麗だと思っていた建物だった。始めてきた場所で子供を抱え不安そうにする少女は、領主と呼ばれるその存在と面会した。
それは異形の存在だった。
山羊の顔に人間の体、コウモリのような翼が生えた男が、豪華な椅子に腰掛け、仕立てのいい服をきて座っていた。
少女はこの時自分のいる世界が御伽噺に出てきた怪物がいる世界なのだと悟った。
異形の男は語りかけた。その子供は我々支配階級と同じ特別な存在だ。君は神に愛された特別な女だと。
極度の疲労と緊張、恐怖で固まっている少女に、君にはこの屋敷で暮らしてもらうと言った。
少女の脳裏に一瞬、最後まで自分に寄り添ってくれた妹の顔が浮かんだ。一度目を閉じると、瞳を開いて腕の中の子供に目線をを向け、ゆっくりと頷いた。
十四歳の何も持っていなかった少女には、ただ状況に流されることしかできなかった。
これは人の文明が滅びた大地。神によって遣わされた精霊が人を治める世界で、精霊を孕んでしまった少女の物語。