下町ヴァンツァー 【佃製作所2089~】   作:鹿羽 直之

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相似点

 数日後、ファイナが美月にバトリングの話を持ってきた。火気使用可、武器制限無しの試合だ。武器制限無しの試合に関しては、以前より話に出ており、それに対して美月も意見を言ったりしていたのだが、それが正式にまとまったのだ。

 実は、美月には、試合の相手は予め分かっていた。坂田竜二だ。もちろん偽名で申し出ているので、美月以外には、対戦相手の正体がサカタインダストリィ社長の弟だとは知らない。この対戦は、『T175と試合をしたい』という竜二の希望に美月が応え、二人で示し合わせた試合である。

 あの日、竜二からバトリングの対戦を申し込まれた美月は、当初は戸惑いを見せたが、竜二から「君の腕前を見たくなった」とか「佃製作所製のヴァンツァーに興味が湧いてきた」とか言われてるうちに、だんだんとその気になってきて、竜二との対戦を承諾することのしたのだ。

 とは言うものの、美月の一存では決められない。対戦相手を決めるのはマネージャーであるファイナである。なので、美月はファイナの説得を試み、竜二も素性を隠してファイナに交渉に努め、2人で連絡を取り合いながらマッチメイクの実現に向けて尽力した。

 交渉の際、竜二は、ファイナが、兄、現サカタインダストリィ社長の坂田浩一と面識があると知って、

(もしかしたら自分の正体に気づくのでは?)

 と少し不安に思ったが、取越し苦労だったようだ。反対に竜二の方は、ファイナに徒ならぬ印象を抱いた。美人聡明で一見物腰も柔らかいが、真っ当な筋の人間じゃないであろうことは、微塵の隙も無い立ち振る舞いから察することができた。

 ファイナは、本音では今でも武器制限無しの試合には消極的であったが、しかし、もう格闘戦だけの試合をしてる訳にはいかない。時間稼ぎ作戦も、もはや限界なのだ。そんな事情もあって、2人の対戦は思ったよりも円滑に実現した。

 

 試合の当日がやってきた。場所はフリーダムの闘技場。かつてのO.C.U.側の首都的都市でもあり、両陣営が衝突しているロクスタ砂漠に近いこともあって終日盛り上がりを見せている闘技場だ。竜二が素性を隠して参加するのには好都合である。

 美月と竜二が密かに謀っていたのは、あくまで2人が対戦できるようになるまでの段取の話で、試合そのものに関しては完全にガチ勝負である。

 竜二の機体は、O.C.U.軍の主力機《ゼニス》。旧世代の感は否めないのだが、今の竜二にとって調達できるのは、この程度が精一杯だったのだろう。武装は右手にライフル《アイビス》、左肩に3連ミサイル《ピズ》という、中長距離攻撃仕様にセットアップしていた。

 対する美月のT175は、左腕のクロウは固定として、右手にはマシンガン《シージュ》を取り、両肩部にシールド《WS14》を装備していた。

 2機のヴァンツァーがリングに現れた。

 竜二が、そのT175の姿を見た時、思わず息を呑んだ。

(パッと見が似すぎだ!)

 黒いボディーカラー、左腕の大型クロウ、そして得物に選んだ右手のマシンガン。さらに、両肩に装備されたシールドがその印象を決定づけさせていた。このWS14というシールドは、ドーム状で、丸みを帯びつつ先端へ行くにつれて細く絞られていくデザインをしており、それが、ラーカス地区に現れた大型ヴァンツァーのシールド(本当はバインダー?)に酷似しているのだ。

 ここまで外見が似てしまうと、見た目の相似性に引っ張られ、同質的なモノを感じた訳を探ることなどできないのではないか。

 それでも、今更キャンセルすることはできない。もう試合は始まっているのだ。

 序盤、試合の流れは、竜二がライフルでT175を攻撃し、美月がそれを避けながらカウンターを狙うという展開になった。

 実際に対戦してみた竜二は、T175が傍から見た以上に高性能なヴァンツァーだったことに目を見張る思いだった。スピードがあり反応も良い。さらにはコンピュータが卓越していて、美月がマシンガンで牽制してきた時でさえも、危うく被弾しそうになった。予測演算が恐ろしく的確なコンピュータなのだろう。もし搭乗者が美月よりも腕の立つパイロットであったら、初手で勝負を決められていたのではないか、とさえ感じた。

 ふと、ラーカス地区での記憶がよみがえる……一流のパイロットだった《カレン・ミューア》すら一方的に蹂躙した、あの黒い大型ヴァンツァー。

(いや、それも見た目が似ていることにより、記憶が喚起されているだけではないのか。色とシルエットが似ている高性能ヴァンツァーというだけでは、2機の間に同一性を認める理由としてはあまりに弱すぎる)

 竜二の思考はもはやループ状態である。似てると感じては、気のせいだろうと思い直し、そう思うと、また似たようなところを探そうとしてしまう……堂々巡りを繰り返しているだけだあった。

 その混乱してしまった思考が災いしたのか、竜二は隙を与えてしまった。T175のマシンガンが竜二のゼニスを捉える。

(しまった!)

 と思った時には、T175が左手のクロウを振り上げ迫って来ていた。とっさに距離をとりながらミサイルを2発放つ。

 ミサイルは2発ともT175に命中し、一気に形勢逆転かと思われたが、爆発の炎の中から姿を現したT175は尚もこっちに突っ込んでくる。美月はシールドでミサイルのダメージを最小限に抑えていたのだ。それでも、2発のミサイルを受けて致命傷に至らず耐えられるT175のタフさには驚かされる。

 突っ込んできたT175のクロウがゼニスに襲い掛かった。竜二は、何とか機体を捻らせボディへの直撃を避けたが、クロウがゼニスの左腕を一撃のもとに粉砕した。

 しかし、美月に分があったのはここまでである。竜二が隙を見せた唯一のチャンスに勝負を決めきれなかったのは美月の未熟さであろう。竜二は回避行動をとりながら、至近距離でT175にライフルを撃ち込んだ。この至近距離ではいかにT175のコンピュータが優秀でも躱しきれない。

――ドン、ドン、ドン

 3発のライフル弾は確実にT175のボディに命中し、T175はこれ以上闘いを続けることはできなくなった。

 竜二はバトリングの試合には勝った。しかし、竜二の目的は達せられずに終わった。結局、ラーカス地区で見た黒い大型ヴァンツァーとT175に、何故同質的なモノを感じたのかは分からないままである。

(分からないということは、やはり俺の思い違いだったのだろう……)

 そう自分に思い聞かせてみては、また、

(本当に見た目が似ていただけだろうか?)

 とか、

(ヴァンツァーが高性能だっただけだろうか?)

 等々、思考が振り出しに戻ってしまうのだ。もうこれ以上考えても答えなど出ないことは自分でも分かっているのだが……

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