現チ神   作:Imymemy

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まぁいいか

 初の試みとして始まった雑談配信を終え、座っていた椅子に全身を預ける。

 

 今座っているこの椅子はいわゆる高級オフィスチェアと呼ばれる類の椅子で、茜が家具を新調するという話になった際、まだまだ現役で使えるという理由で貰い受けたものだ。

 引っ越しに伴って新たに椅子を購入する必要が減ったと当時は喜んでいたが、ここまで座り心地が良いと、昔使っていた椅子には戻れないかもしれない。

 

「はぁ」

 

 心労に伴う溜め息が漏れた。最初の方は散々なものだったが、後半の方で上手く巻き返せただろうか?

 

 雑談配信に訪れた視聴者数自体は過去最高で、数だけ見れば成功と取れなくもなかった。

 しかしどれだけ人が来ようとも、それは一時的なものに過ぎない。結局のところ、こういった配信業において重要なのは、安定して継続的に人が来ることなのだ。

 

 今回の配信で炎上していないか?  人が減っていかないか? その辺りが気になって、自身のSNSを見る気力が湧いてこない。

 

「……あ、忘れてた」

 

ふと記憶の片隅にあったことを思い出した俺は、バックグラウンドで放置していたSheepを開き直す。

 

 時代が時代だからかもしれないが、このSheepという名称のコミュニケーションツールアプリは少し使いづらい。次世代のソフトが出るのはあと何年先になるか――そんなことを思うと少し億劫な気持ちになる。

 

 未来視を使って何年後にそういったツールが出来るかを確認するのは簡単だ。しかし俺はそういったテクノロジー関係や、社会情勢といった部分への未来視を意図して避けていた。

 

 この世に生まれて数年後に気づいた通り、この世界は前世よりもテクノロジーやエンターテインメントといった部分の進みが早い。どれくらいかというと、ざっくり十年分前倒しで技術革新が起きている。

 前世と今世は違うのだから技術の進みが早いことは変だと思わないが、だからこそ未来がどうなるのかを知ってしまうと楽しみが薄れてしまう。

 

 そういった意図もあり、遠い先の未来に関して未来視の使用は極力控えているのだ。

 

 

 Sheepを起動し、【テンテン雑談用サーバ】と名付けられた個人サーバに目を通す。そこには俺を含めた五名のユーザーが参加し、サーバのチャット欄では、今回参加してくれた各々が感謝のチャットを俺に向けて送っていた。

 

 感謝としてチャットを送ってくる。そう考えれば礼儀正しいまともな人間に思うだろうが、実際はそれとは真逆で、ほとんど全員がまともではない連中の集まりだった。

 

 一人目の『まとん』はお布施をさせろ、グッズを作れだのと言い出した。日常的に過去配信を見返していたが、最近はそれだけでは物足りなくなってきたという。俺――というよりテンテンという配信者にかなり依存しているようであった。

 

 二人目は金を出すからボイスドラマを作れ、声優になれと騒ぎ出した。(こちらに関してはコメント上にも強烈な賛同者が数人湧いていた)

 

 三人目は俺のファンだと言いながら、SSF上で俺が使用するプレイヤーネーム、キャラクターや武器のスキンを完全に模倣し、実際のゲーム内でマナー違反行為を多数繰り返す狂人。

 

 四人目は当初まともだと思っていたが、俺への質問や相談コーナーで、俺にオフ会を開いてくれと熱弁してくる変な人だった。オフ会を開くメリットやらなんやらをずっと説いてくるので、コメント上でオフ会説法おじさんと呼ばれていた。

 

 唯一まともだったのは五人目、『エイリン』というユーザーただ一人。

 声から年齢を察するに、およそ同年代くらいの女の子といった感じで、あまり喋りが上手というわけではなかったが、一人目から四人目までの強烈な面々と比にならないほど普通に雑談ができた。

 

 最後に来てくれた一人があまりにまともだったので、時間いっぱい雑談などを交わすことができたし、配信における一種の清涼剤として満点以上の働きをしてくれた存在であった。

 

 視聴者参加型の雑談配信。配信自体が上手くいけば、このまま定期的に実施するイベントのようなものにしたいと考えていた。

 しかし、適当に選ばれた参加者のほとんどがここまで扱いづらいとなると、もう一度やるかどうかはちゃんと考えて決めるべきだということがわかった。

 

 

 『皆さん。お疲れ様でした。配信への参加ありがとうございました』

 『次回配信の視聴よろしくお願いします!』

 

 感謝のチャットを送ったあと、次の配信をどうしようかと考えを巡らせていく。思考の中にあるのは、先程の配信を経て俺が学んだことをどう活かすかについてだ。

 

 今回の配信で少なからず失ったものもあるかもしれない。ただ、それ以上に得たものもあった。

 

 例えば配信のニーズ。

 他配信者が遊んでいるようなゲームを遊ぶより、俺の配信でしか得ることのできないものを視聴者は望んでいる。それはゲームのスーパープレイだけではなく、先日やったような手品や、声を用いた些細な雑談や会話も含まれている。

 

 特に俺の声。これは配信という市場において、他で代替が利かない絶対的なものである。だからこそ、これを強みにした配信をしていくのは正しい戦略といえるだろう。

 

「喋ることをメインとするとなると――普通の雑談配信を増やすか、もしくは別配信者とのコラボか」

 

 ゲーム配信は趣味の一環なので辞める予定はない。ただそれとは別に、明確な自分の強みである声を主軸とした配信をしていくべきだと考えた。

 

 トーク力に自信がないという前提はあるが、普通の雑談配信も決して悪い手ではない。

 別の配信者とコラボするのも悪くはない。今まで断っていたが、コラボ配信の誘い自体は少なからず受けていたので、そっちに舵を切ってみてもいい。

 

 懸念点としてはいくつかあるが――。

 

「茜に相談……まぁいいか。あいつも忙しいだろ」

 

 一度くらい相談しなくたって問題ないだろう。次の配信はそこそこ有名どころとのSSFコラボ配信だ!

 

 そうと決まればコラボ相手を探すところからだな。可能なら俺より少しだけランクが低くて、暴言を吐かない性格の良さげな相手がいいな。

 

 

 

 

 配信者活動する傍ら、俺は日課として転生チートの訓練も行っている。

 学校生活はついでのついでくらいの感覚だ。

 

 配信を終えてから少々経過し、あと寝るだけとなったタイミング。このタイミングが明日に影響しない、ちょうどいい訓練のタイミングだった。

 

 そもそもチートに訓練が必要なのか?

 答えとしては別に必須ではない。が、訓練をするメリットはある。

 

 昔は魔法を使う際、『使用したい魔法を思い浮かべる』、『魔法を使用すると思考する』、『魔法の行使』というプロセスを通さなければ使用ができなかった。

 

 今はその基本的なプロセスとは別に、『一定時間経過した後に魔法が自動起動する』や、『特定の条件下で魔法が自動起動する』といったルールを設定することも可能になった。

 

 その成長が活きる場面は多い。

 毎日朝六時に『快適な状態で起床できる魔法』が起動し、咄嗟の状況で思考が止まれば『体感時間を引き延ばす魔法』が起動し、肉体に異常があれば『回復魔法』が起動する。突発的な問題や、交通事故などにも速やかに対処可能となった。

 

 成長はそれだけではない。

 一部のチートは使用に伴い、重い代償が伴うものもあった。しかしそれを大幅に軽減させることにも成功していた。

 

 例で挙げれば時間停止の魔法。元は儀式を必要とする強力な魔法で、停止させたい時間の何千倍もの寿命を消費することで発動が可能だった。

 今では時間制限こそあるものの、魔法の使用自体に寿命を必要とはしない。元の魔法だって今ならもっと小規模に使用できるだろう。

 

 日々の訓練はつまらないものだが、確実に成長していると判明しているので、辞める理由は特になかった。

 

 

「えっと……たしか、『まとん』だな」

 

 『まとん』とは雑談配信に参加してくれたユーザーの一人だ。そして今回の実験対象候補でもある。

 

 俺の雑談配信が滅茶苦茶になりかけた一因でもある彼女のことを思いつつ、チートを行使する。

 

「――未来視、と」

 

 自室の椅子に座ったまま未来視を行う。俺は『まとん』の顔も本名も居場所さえも知らないが、そんなものは不要だ。元々の未来視は、近くに未来を視たい相手を置いておく必要があったが、成長を重ねたことによって自由に未来を視ることができるようになっていた。

 

 思い浮かべた『まとん』の未来、それが俺の眼を通り、脳へと直接送り込まれていく。

 

 未来を視るとはどんなものかと言うと難しいが、文字、音、映像。その他様々なバリエーションで観測することができる。

 

 今回は別に彼女の私生活を覗きたいわけではない(親の顔は見てみたいが)。観測するのはピンポイントで、彼女が直近で辿る最も可能性の高い未来のみだ。

 

「あー……」

 

 未来を見てなんとなく納得。人の将来にケチをつけたくはないが、中々厳しいものがある。配信で会話をした彼女がなんとなく辿りそうな未来がそのまま視えてしまった、といったところだろうか。

 

 ……どうみても幸福とは程遠い未来だし、俺がちょっと弄ってもいいよな?

 

 自分のファンを救うと思って、俺はもう一つのチートを発動させた。

 

「うげっ……すげえ疲れる」

 

 【未来改変】と名付けたそれは、観測した未来に起きる事象を自在に改変させることができる。人が運命と呼ぶものを好き勝手に改変させることができるため、俺が持つ数多のチートたちの中でも特別強力なものであった。

 

 彼女の未来を滅茶苦茶にするわけではないし、それをやるにしても途轍もない労力を要するのでやる気もない。

 

 俺が改変するのはもっと小さい事柄だ。

 彼女がいつも寝坊していた大学の一限目、それが早起きで間に合うように改変を加えるだけ。

 

 バタフライエフェクトという言葉が存在するように、些細な変化が加わると、運命は大きく変わることもあるのだ。

 

「未来を視直す必要は……まぁいいか」

 

 未来を改変した代償だろうか、フルマラソンをしたくらいの疲労がドバっと体内に流れ込み、思わずベッドへと飛び込んだ。

 

 過去改変。現実改変。未来改変。

 俺が使用できるチートの中でもトップクラスに影響力の大きい三種類のチート。これらについて俺が知っている情報は驚くほど少ない。

 

 どれだけ好き勝手に改変できるのか、改変による影響範囲なども具体的に分かっていない。三種の改変を行うと信じられないくらい疲れることもあって、影響調査や訓練がしづらいという欠点があるのだ。

 

 疲れ切った身体のままベッドに転がって、口を半開きにしながら天井の照明を睨みつけた。

 

「あー……次の配信はなんか上手くいって成功しねえかなぁ」

 

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