「初」を終え、アイドルとして研鑽を積む藤田ことねであったが、ある日目覚めると、ベッドが黄金になってしまった。

どうやら触れたものが全て黄金に変わってしまうらしい。

果たして、ことねの手は元に戻るのか。

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ごめんねことね。抑えられなかった。

藤田ことねミダスタッチ付与概念を知らしめるため、pixivにアカウントを作って、そっちにも投稿してみました。向こうに同じ小説があっても同一人物の作品なので安心してね


黄金の手、星の価値

 黄金。それは古来より変わらず価値を認められ続けたもの。富の象徴で、もちろんお金にも変えられる。もっと言うなら本質的には逆で、お金が黄金の代わりをしているだとか……聞いたような気がする。授業で、恐らく。

 

 現代社会で生きていくためにはお金がいる。住むところ、着るもの、食べるもの。それに、学ぶことにだって釣り合うだけの価値を持つ対価を支払わなければならない。

 

 だったら、対価を支払えない人はどうなるか。無理矢理に、お金と何かを取り替えて用意するしかない。それがどんなにかけがえの無いものだとしても。

 

 私は失ったものの価値と釣り合うだけの成果で、応えるつもりだった。アルバイトをして、レッスンを受けて、いつかアイドルとして成り上がって見せると。でも。

 

「足りない」

 

 時間も、実力も、お金も、全部。このペースの成長ではアイドルとしての大成は見込めない。そもそも成長なんかしていないように思える。ダンスレッスンでは体が思うように動かず、ビジュアルレッスンでは生気がないと言われ、ボーカルレッスンでは喉がキュッと締まるような感覚が邪魔をして上手く歌えない。いつまで経ってもそうだ。

 

 個人練習の時間も増やしている。練習は嘘をつかないなんて言うけれど、それはどうにも一部にしか当てはまらないようで、どんなに時間をかけても私は落ちこぼれのままだ。

 

 この初星学園において、私は価値がなかったようなのだった。

 

「この子もそうなのかな」

 

 空き教室の隅っこ。星の形を模した人形のストラップを拾い上げる。フィルムに包まれたまま、開封される事すらなく捨てられていた。

 

そんな、誰にも望まれないかのような有様が今の私に重なって見えて、見苦しくて、見ていられなくなった。

 

「ほいっ!せめてこうしてあげれば!」

 

 空き教室の壁にある出っ張りにストラップを引っかける。この教室にはほとんど誰も寄りつかないから、きっと先生に撤去されることもないだろう。

 

 ストラップを良い感じに飾ったところで、現状の何が変わるわけでもなく、逆に一瞬の現実逃避から戻ってきた分より現状が辛く感じる。

 

「はぁ……どうしよう」

 

 結果を出せなければ、これまで失ってきたものが全て無駄になってしまう。何も得られずに、どうしてこのまま帰れるというのだろうか。

 

「この手で触れるものが、みんな黄金になれば良いのに……」

 

「なんてね、馬鹿みたい」

 

 呟いた言葉は、余りにも馬鹿馬鹿しくて、つい、笑ってしまった。

 

「あ、そろそろバイト、行かなきゃ」

 

----------

 

「みんな!ありがとー!!」

 

 ステージの上で、星のように煌めくペンライトが揺れているのを見つめながら、私はプロデューサーを出会う前の事を思い出していた。

 

 まさにどん底、お先真っ暗。過労からくるパフォーマンスの低下に気が付かず、練習量を増やして、また疲れる。言われてみれば、なんともまぁ。お恥ずかしい限りである。

 

 なんて事はないアルバイト終わりに、プロデューサーは私を見つけてくれた。今思えばあの日が私の運命の分かれ道だったのだろう。

 

 今日のライブは大成功。「初」のステージと比べれば大きくないけれど、単独にしては充分大きなステージだし、チケットもほぼ全て売れた。盛り上がりも充分。SNSでもライブの感想ポストが続々と流れてきている。

 

 こうしてアイドルとしての仕事を終えると、前の事を思い出して、センチメンタルな気分になる事がある。あのままだったらどうなってたんだろうって怖くなったりする。

 

「お疲れ様です、藤田さん」

 

 数回のノックの後、プロデューサーの声がした。鏡を見る。よし、大丈夫だ。

 

 入室を促すと、プロデューサーは手にスポーツドリンクを持って入ってきた。たくさん汗をかいたから助かる。

 

「げぇ、また常温。冷えたのが欲しいぃ」

 

「駄目です。急に体が冷えると悪いですから」

 

「わかってますって、気遣ってくれてありがとうごさいまぁす」

 

「プロデューサーとしてアイドルの体調に気を遣うのは当然のことです」

 

 いつもそうやって言うけど、いつも私のことを考えてるのではないかと思ってしまうほどプロデューサーは気が回る。

 

「いただきまーす。ぷはーっ美味しいー!乾いた体に染み渡るぅ〜」

 

「良い飲みっぷり……いずれは飲料のCMの仕事を取ってくるのも良いかもしれませんね」

 

「CM!儲かるやつじゃないですか!絶対やりたい!」

 

「今すぐは難しいですが、藤田さんなら必ずCMの1本や2本、いや、此方が選ばなくてはならなくなるほどにオファーが来るはずです。今は目の前の課題を乗り越え、ステップアップしていきましょう」

 

 以前なら夢を語っているようにしか聞こえなかったプロデューサーの言葉も、今なら目標を言っているのだとわかる。私ならもっと上まで成り上がれると信じてくれている。私も、絶対出来る!とまで自信満々には行かないけど、プロデューサーと一緒にならどんな壁にも立ち向かっていける気がする。もし、1人だったら……

 

「ねぇプロデューサー?」

 

「はい。なんでしょう」

 

「プロデューサー、今日のライブどうでしたか?」

 

「今回も素晴らしいステージでした。目立ったミスはありませんでしたし、観客も満足している。藤田さんはそう思わなかったのですか?」

 

 プロデューサーが不思議そうにこちらを見る。

 

「……私も成功だと思ってます」

 

「その割に浮かない表情ですね」

 

 いつもなら恥ずかしくて言わないことだったのに、今日は何故か留めておかなかった。

 

「プロデューサーが私を見つけてくれなかったら、きっとここに立つことは無かったんだろうなって、考えちゃって」

 

「有り得ない想定ですね」

 

「どうしてですか?私以外にも沢山アイドルを目指してる子はいるじゃないですか。私以外の子を見込んで、プロデュースしてって、そんな未来だってあり得ない話じゃありませんよね?」

 

「あの時、藤田さん以外の方に声をかけるという選択はありませんでした」

 

「そんな、こと……」

 

「プロデューサーとして、藤田ことねというトップアイドルの器をみすみす逃す訳がない。何度繰り返しても変わらず言うでしょう。あなたをプロデュースさせてくださいと」

 

「プロ、プロデューサー!もう!すぐにそういうセリフ言うんだから〜!」

 

 プロデューサーは歯の浮くような熱いセリフを恥ずかしげもなく言う。ずるい。

 

「なんか不安だったのが、どうでも良くなってきちゃいました」

 

「ここ最近立て込んでいましたから、疲労がメンタルに影響しているのかもしれませんね。明日から3日ほど休養の予定になっていますので、ゆっくり体と心を休めてください。くれぐれも!無理のないように」

 

「はぁい」

 

 全工程が終了して、撤収作業が行われている。そんな中、気が引けるけど未成年は早めに上がらなければならないそうで、一足先に帰らせていただくことになった。どうやら打ち上げもあるらしいけど、それにはプロデューサーが私を送った後で出席するらしい。

 

「今日はお疲れ様!良いステージだったよことねちゃん!」

 

「ありがとうございました!お先失礼しまぁす」

 

「失礼します。それでは、また後ほど」

 

 確かに最近レッスンと仕事の密度が半端じゃなかった。ゴールドラッシュだ!とはしゃいでいたけど疲労はガッツリ蓄積していたようだ。

 

 寮に帰ったらまずゆっくり湯船にでも浸かろう。そして明日は買い物に行こう。誰か誘うのも良いかもしれない。そんなことを考えながらプロデューサーの運転するクルマに乗って寮まで帰るのだった。

 

---------

 

「う、うぅ……おも」

 

 押しつぶされそうなほど強烈な重さで目が覚める。そこには眩く輝く黄金が広がっていた。って、は?

 

「な、なんじゃあぁ!!!」

 

 何これ?本物?いやそうじゃなくて重い!早くベッドから出なきゃ潰れるぅ。

 

「うわぁ何これ」

 

 体にのしかかる黄金の布団から何とか脱出し、自分がいたベッドを見る。そこには趣味の悪い金ピカの塊があるだけだった。

 

 一瞬ドッキリを疑ったけど、まだまだ無名の私にこんな予算をかけたドッキリを仕掛ける訳が無いし、こんな重いものを乗せられたら流石に気づく。プロデューサーがそんな仕事を無断で取るとも思えない。

 

「そうだ、プロデューサーに連絡を」

 

 プロデューサーが何か知っているとは思わないけど、きっと力になってくれるはず。スマートフォンは確か枕元に……あった。すぐに手に取って電話をかけようとした。その時だった。

 

──パキパキ

 

 薄氷を踏みつけたような音がスマートフォンから聞こえた。嫌な予感がして手に触れた部分を見ると、そこから侵蝕するようにゆっくりと金色になっていくではないか。

 

「え、嘘まって!」

 

 急いがなければスマホもきっと金塊になってしまうだろう。そんな確信があった。プロデューサーの番号は既に登録してある。連絡先から一押しすれば一発でかかるはず。

 

 電話のコール音が1ループするたびにスマホも少しづつ金に染まっていく、通信に関わる部分が金に変わってしまう前にプロデューサーが電話に出てくれなければ、外に出て会いに行くか、ここに来るのを待つか。プロデューサーが電話にでさえすればこんな事考える必要もない!出てくれ〜!届け〜!!

 

『藤田さんですか?どうされましたか?』

 

 出た!

 

「プ、プロプロプロデューサー!!!」

 

 もう時間がないのにまともに喋れない。そもそもどう言えば良いのだろうか、残された時間で何を伝えれば、金になっちゃった?寝ぼけてるとか思われたら終わりだ。先に何言うか決めてから電話すれば良かった。

 

『!!何かあったようですね、すぐに向かいます。今どこに──』

 

ブツリ。

 

「寮に!あぁ」

 

 その言葉が届く前に、スマートフォンは手のひら大の金塊に変わってしまった。

 

 大金待ちになりたいとは言ったけど、こんなの求めてない。この先、マイクはどう持てばいい?握手は?衣装だって手を使わないと着れない。そもそも食事はどうすれば良いんだろう。まさか箸やスプーンを伝ってまで黄金になってしまうなんて事は無いよね?コップはどうだろうか、中の水も含めて金になってしまったら、この先どうやって生活していけば良いんだろう。

 

 自分を押し潰さんとしていた布団を見つめる。憎らしいほどに純粋に輝く黄金の輝きが、その価値と、これが現実であることを証明していた。

 

「どうしてこんな事に」

 

 急に襲ってきた理不尽に打ちのめされそうになっていると、外から慌ただしい足音が近づいてきた。

 

「藤田さん!居ますか!俺です!」

 

「ちょっと貴方!あまり大きな声を出さないでください!」

 

 プロデューサー来るの早っ!しかも怒られてるみたいだ。早く行って弁明してあげないと。

 

「プロデューサー!」

 

「藤田さん。途中で電話が切れたので何事かと思いましたが、見る限り無事みたいですね。よかった」

 

 扉を開けるなり、話しかけてきたのは息を切らし、肩で息をするプロデューサー。そしてそれを怪訝な顔で見つめる麻央寮長の姿。

 

「本当にことねのプロデューサーだったんだね。どうも落ち着かない様子だったから怪しくてついてきたけど……」

 

「急いでいたもので、申し訳ありません」

 

「確認が取れたところでボクはこの辺りで失礼させてもらうよ。ことねのプロデューサーさん。あまり騒ぎ過ぎないようにしてくださいね」

 

──パキパキ

 

 聞き覚えのある音がした。チラリとドアを見ると、ドアノブが、私の触れた部分から黄金に変わっている。

 

「ん?何か音がしたような気が」

 

「い、いやぁ〜!気のせいじゃないですかね〜。風、とか!」

 

「そうかな?まぁ良いや」

 

「麻央寮長、今日は色々迷惑かけちゃってすいません!それと、見に来てくれて嬉しかったです。ありがとうございました!」

 

「いいんだ。後輩に気を配るのは当然のことだからね。じゃあ、ことね。体調には気をつけて」

 

「はい!麻央寮長も!」

 

 何とか麻央寮長をやり過ごしたようだ。優しい人だというのは知っているけど、流石にこんな事を打ち明けられるような相手では無い。

 

「藤田さん、これは一体……?」

 

 そうこうしている間にドアの半分が黄金に変貌してしまったようで、そうなれば流石に隠す手立てはない。

 

「取り敢えず中、入ってください」

 

 こんな形でプロデューサーを部屋に招く形になるとは思わなかった。思い描いていた甘酸っぱい雰囲気は無く、重い緊張感が充満している。

 

「プロデューサー、これ見てください。どう見えます?」

 

「金のベッド、に見えます。藤田さん、どこにそんなお金が?」

 

「どこにもそんなお金ないです!わかって言ってますよね!?ドアみたいにベッドもこうなっちゃったんですってば!」

 

「冗談です……ですが、困りましたね。触れたものが黄金に変わるなどと、非科学的だ」

 

「プロデューサーこれから私、アイドルどうすれば……」

 

「……分からないです。どうすれば良いのやら」

 

「そんな、せっかくここまでやって来たのに、プロデューサー!何とかしてくださいよぉ!」

 

 プロデューサーは顎に手を当てて考え込んでしまった。何とかって、何とかできる訳がない。自分でも追い詰められて八つ当たりしてるって事ぐらいわかる。それでもプロデューサーなら何とかしてくれるんじゃないかって期待せずにはいられない。

 

「とにかく……調べましょう。その手がどの範囲までを金に変えてしまうのか、どうすれば、防ぐことができるのかを」

 

「……分かりました」

 

 そんな事が可能なのかは分からない。プロデューサーも手探りなんだろう。でも、やるしかないってこともまた、自明だった。アイドルを続けるために。

 

「と、いうわけで色々買ってきました」

 

 手袋やマジックハンド、ストローなど手を覆うものや手の代用となるものがずらりと並べられていた。

 

「プロデューサー。結構楽しんでますよね?」

 

「そんなことはありません。藤田さんが問題なくアイドル活動を続けるためならどんな手でも使うつもりです。今回はそのための下調べなのですから、大真面目です」

 

 その割には目の奥が笑っているような気がする。

 

「まぁまぁ、とにかく試していきましょう。まずは手袋から」

 

「脱げなくなったりしませんよねぇ」

 

「それは想定済みです。これを付けてみてください」

 

 プロデューサーが手渡してきたのはミトン手袋だった。明らかにブカブカなサイズでこれなら黄金に変わってしまっても手を引き抜くだけの余裕がある。

 

「やってみますよ……」

 

──パキパキ

 

 私の手に触れるや否や、ミトン手袋からあの音がする。内側から黄金になっているようで、見た目にすぐ変化は現れなかった。だが、布と黄金では圧倒的に黄金の方が重い。

 

「わ!重っ」

 

 ガクッと手が重くなって引っ張られるように机に押し付けられる。その時、ミトン手袋越しではあるものの、この手が机に触れてしまった。

 

 しまった。と思い、プロデューサーの方へ視線を向けると、神妙な面持ちで机を見ている。

 

「どうやら……変わらないようですね」

 

 確かにあの音がしない。どうやら私の手は物越しに何かを黄金に変えることはしないようだ。

 

「おお!おぉ〜!!これならマイクだって……持てなくないですか?」

 

 カチコチの金ピカになったミトン手袋は中で手を握ろうとしても、うんともすんとも言わない。それに相当踏ん張らないと持ち上げられないくらい重い。

 

「安心してください。いくつか対処法を考えていたのですが、これなら対処はそう難しいものではありません」

 

 プロデューサーはそう言いながらメモ帳を広げると、サラサラと何かを書き出した。

 

「ミトン手袋のような余裕を持たせた手袋では金の重さで腕が上がらなくなり、薄い手袋を用意すれば手に密着した状態で金になってしまい、外すのに手間がかかる。そこで、指サックのようなものをつけていただきます。指先で保持する必要がありますが最低限マイクを持つ事はできます。

 

 また、衣装を着る際は先ほどのような手を引き抜く余地がある手袋をつけ、金に変わり切るまでの間に着替えを終わらせる事で対策可能です。こちらは少々無理矢理ですが」

 

 言い終わると同時にプロデューサーがメモ帳を見せてくる。そこには指サックというにはあまりに刺々しいデザインの指……アーマー?とでも呼べば良いのか、よくわからないものが描いてあった。

 

「な、なにこれ」

 

「折角ですので、小悪魔系アイドルことねというテーマで衣装を用意してみようかと思いまして」

 

「プロデューサー、やっぱ楽しんでるな?」

 

「これは一時的な対処に過ぎません。必ず原因を突き止め、藤田さんの手を元に戻して見せます。それまでの間ですから今のうちに楽しんでおいた方がお得ですよ」

 

「頼もしいのか頼もしくないのか判断に困る……」

 

----------

 

 アラームと同時に目覚め、重い手袋から両手を解放する。寝ぼけ眼を……擦らず、高貴な黄金の輝きを放つ指サックをはめる。変わり果てた朝の一幕。

 

 あれから大体1ヶ月が経つ。人間の適応力とは恐ろしいもので、すっかりこの手に慣れてしまっていた。

 

 休み明けのレッスンでは気が気じゃなくて集中出来ず、トレーナーさんに怒られたりもしたが、今では以前と同じようにレッスンできている。

 

 そして、アイドルとしてのお仕事の方。まさか本当に小悪魔系アイドルの衣装を作って来るとは思わなかった。指の装飾が目立たないように全体的に派手派手のゴテゴテ。お披露目した時のファン達がしてた唖然とした表情は今でも思い出せる。流石にか〜?と思ったその時に起きた大歓声と一緒に……いやはや、人間と適応力とは恐ろしい。

 

 今日はプロデューサーに学園に呼び出されている。どうやら私の手の事で進展があったみたいだ。

 

「おはようございます。藤田さん」

 

「おはようございます、プロデューサー!何かわかったんですか?」

 

「えぇ、原因がわかりました」

 

「本当に!?有能!やるぅ」

 

「恐らくですが……なにぶん非現実的なもので、間違いないとは言えません。この人形に見覚えはありますか?」

 

 その人形を見た時、ひどく懐かしい気持ちに襲われた。それは、私がよく個人練習をしていた空き教室に捨ててあったストラップだったのだ。

 

「プロデューサー、私これ、知ってる」

 

「やはりそうでしたか……」

 

 プロデューサーは何枚かの資料を取り出すと、このストラップについて語り始めた。

 

 曰く、このストラップには願いを叶える力がある。誰かが意図して作った訳ではなく、偶然生み出されたものらしい。現存するものは世界中に3体しかないとされるが、何故初星学園の空き教室にその内の1体があったのか、皆目見当もつかない。だが、あの時、気まぐれに飾ったあのストラップの力によって、私はこんな目にあったということらしい。

 

「藤田さん。話はここからなんです。あの人形ですが、願い事をした人が幸福になるまで願いの力を強め続ける性質があるようです。このまま放置すると、手の力が更に厄介な事になるかも知れません」

 

 試しにと渡されたペンに素手で触れてみると、あの薄氷を踏んだような音すら無く、一瞬にして黄金に変わってしまった。

 

「……ど、どうにかする方法は見つかったんですよね。プロデューサー……!」

 

 もし、もしだ。もしこのまま一生元に戻らなかったら、こんな不自由を抱えて幸せなんて掴めるわけがない。そうしたら今よりもっとこの力が強くなってそしたらいつか、大事なものが全部、黄金に飲まれて……

 

「落ち着いてください。方法は──馬鹿な、早すぎる!」

 

──パキパキ

 

 音がした。薄氷を踏んだような音。間違いない、何度も何度も聞いた音だ。

 

「なんで、触ってない。何も触ってないよ!私、何も触ってない!何でこの音が……」

 

 辺りを見回す。音はだんだんと大きくなっている。音の出所は、下だ。ねずみ算のように黄金の侵蝕はスピードを増している。このままでは、ほんの数分でこの教室は黄金に染まってしまう。

 

「始まって……しまったようですね。うぐっ」

 

「プロデューサー?」

 

 突如プロデューサーが苦しみ出す。理由はもう何となくわかってる。プロデューサーも黄金に蝕まれているんだ。

 

「藤田、さん。願いを、解除、するには、人形に、幸せの形を、見せ──」

 

「そんな、嘘。プロデューサー!元に戻ってください!ねぇ!なんで!ちょっと!」

 

 プロデューサーさえも黄金の像に変わってしまった。最後に願いを解除する方法を伝えて、黄金になってしまった。でも、幸せの形を見せるだなんて、どうやれば良いのだろうか。

 

──パキパキ

 

 こうしている間にも侵蝕は進んでいる。どうすれば良いかなんてあとで考えれば良い。今はあの教室に行かなくちゃ!

 

 あの教室への行き方なんて、調べなくても体が覚えてる。何度も何度も俯きながら通った場所だから。

 

「おい!廊下を走るのは、え、何だこの金ピカな廊下はー!!」

 

「すいませーん!!」

 

 教室に急がなくちゃいけないっていうのもそうだけど、他の人に会ったらその人まで黄金になってしまう。出来るだけ、人通りの少ない道を選ばなくては。さっきの先生は大丈夫なんだろうか。振り向く暇は無い。

 

 この階段を登ればすぐのはずだ。もう息が苦しくて、脇腹が攣りそうになる。それでも、走る。モタモタしていたら何もかもが手遅れになるような気がして。

 

「久しぶり」

 

 ドアを開けると、空き教室は怖いくらい以前と何も変わらない様子だった。端に寄せられた机と椅子、まったく使われていない黒板、埃を被った教卓。そしてあの日に飾ったストラップの人形。

 

「私の幸せの形」

 

 私の幸せは、アイドルとしてお金を稼ぐこと。みんなが私をカワイイって褒めてくれること。一番一緒に仕事がしたいアイドルで、トップアイドル。その景色をプロデューサーと一緒に見ること。

 

 大きく息を吐いて、整える。これから歌うのは始まりの歌。最初にプロデューサーに聞かせたときは、ダンスも歌もボロボロだった。それからバイトとレッスンを禁止されたり、変な着ぐるみの仕事させられたり、初めてのライブをしたり……色々な私が詰まった曲。

 

「見せるね」

 

----------

 

 歌い終わるのと同時に気を失っていたようで、教室に飛び込んできたプロデューサーによって保健室に運び込まれた。これで保健室に連れ込まれるのは2度目である。

 

 気絶している間にプロデューサーが学園内をくまなく捜査してくれてわかったのだが、学園内に黄金は見当たらなかったらしい。帰って確認すると、私の部屋のドアやベッドなんかの最初の方に黄金になってしまった物もちゃんと元に戻っていた。

 

「やっぱり、ちょ〜とだけ、勿体無いような気がするんですよねぇ……」

 

 黄金といえば一グラム一万とかの世界。ベッドがそのままだったら今頃大金持ちだ。せめて、衣装で使っていたトゲトゲのやつくらいは金のままであって欲しかった。

 

「おや、藤田さん。あの程度のものが惜しいのですか?」

 

「あの程度って……プロデューサー、金って持ってれば持ってるほど価値があるんですよ!そりゃ、お金があっても生活がままならないのは嫌ですけど」

 

「藤田さんには願いの力で生み出された全ての黄金より価値があります。黄金の輝きは確かに万人を魅了しますが、あなたにあるのは星の輝きです。星は天に座し、決して届かない。誰の手にも入らない。それでも皆が焦がれる。そんな輝きが、どんな物とも変えられない価値があなたにはあるんです」

 

「愛の告白かな?」

 

 やっぱり、プロデューサーは私のことが好きすぎると思う。そうじゃなきゃこんなに迷惑かけたのに、私を絶賛するなんてあり得ない。

 

「じゃあ、プロデューサー、私を一番星にしてください。私に星の輝きがあるのなら、誰にも負けないくらい輝かせてください」

 

「無論、そのつもりです」

 

 目指すのはH.I.Fの頂点。プリマステラ。きっと一筋縄ではいかない。口ではこう言ったけど、届くかすらも分からない。……それでも、きっと、プロデューサーと一緒なら乗り越えられる。黄金の輝きにすら勝る二人なのだから。




ことねちゃんにタメ口で話して欲しい。そんな妄想が頭の中で常識になって、途中までタメ口で書いてたんだよね。怖い怖い。

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