■飛塚のサイドエフェクトは2倍、3倍、4倍と出力を調整できますか?
無理です。できるのはオンかオフか、避けるか弾くかの二つだけです。焦ったりすると感覚が鈍り反応が遅れる事はあります。
《飛塚side》
転校してから2週間ちょい。当初こそ顔も名前も知らぬクラスメイトに右も左も分からない状態だったが、俺も無事にクラスに馴染めた…………
なんて甘い世界では無く、転校先でも俺はクラスで孤立した。
初日と二日目こそ転校生の俺に沢山の人が話しかけてくれたが今になっては誰も近寄って来なくなった。会話をするのもグループ学習の時だけだ。
しかし完全に興味を失われたとは思っていない。
現にやや離れた場所で女子二人が俺の方を見ながらコソコソと話している。つまりまだチャンスはある訳だ。
俺は笑顔を意識しつつ女子二人に話しかけた。
「………ねぇ」
「「あ…………」」
話しかけた途端倒れる二人。その顔は何故か幸せそうだった。
そして慌てふためくクラスメイト達。
気絶した二人。その目の前に俺。
(あれ?これ俺が悪いの?)
多数の視線を浴び、とてつもない居心地の悪さを感じた。三十六計逃げるに如かず。急いでバックを肩に担ぎ教室を後にした。
明日「おめぇの席ねぇから!!!」とか言われない事を切に祈る。割とマジで。
「おーい。置いてくなよ赤松!」
「……公平」
校門を抜けようとした所で公平の声が聞こえ振り返った。わざわざ走って追いかけてくれたらしい。
「そんなに急いで用事でもあんのか?」
「別に」
「そーいややけにおまえのクラスが騒がしかったけどなんかあった?」
「俺は話しかけただけだ」
「あー……………」
おい。なんだその目は。まるで俺に原因があるみたいな目だな?言いたい事があるならハッキリと言いたまえよ出水公平くん。
「いや。な?」
「?」
「それより!用事は無いんだろ?だったら本部に行こうぜ!もうすぐ4000ポイント超えそうなんだ」
「うむ。行く」
「よっしゃ。今日でB級に上がってやるよ」
「応援する」
「応援しとけ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
出水のランク戦を見ていた飛塚は自分もランク戦をやりたくなった。
B級に上がって以来、ランク戦はやっていなかったがこうして見ていると自分でもやってみたくなる。しばらくやってなかったゲームをユーチューブで見ると久しぶりにやりたくなるアレだ。
飛塚は気づけばブースの中に吸い込まれて行った。
『トリオン供給機関破損、
【4003】→【4201】
『トリオン供給機関破壊、
【4201】→【4267】
『トリオン供給機関破損、
【4267】→【4683】
『伝達系切断。
【4683】→【4811】
『トリオン漏出過多。
【4811】→【4859】
「ふー」
5連勝とキリのいい数字になったので飛塚はブースから出て休憩する事にした。
実は三戦目辺りから喉の渇きを覚えていたので自販機で水を買う為に列に並ぶ。
すると何故か並んでいた人たちが次々列から抜け左右に割れた。
「………?……?」
これは、詰めていいやつなのだろうか。判断に迷う。
ここはがっつかずにしばらく様子見を………。
「おい、おまえ」
どこからか声が聞こえた。
この場にいるほとんどが飛塚を遠巻きに見てコソコソと話している中、明確に飛塚本人に向けて放たれた声だ。
後ろを振り向き声の主をその目に入れる。
「(小さい。……年下?)だれ?」
「風間蒼也」
自身を風間と名乗った少年は飛塚の前まで来るとそこで立ち止まった。
有名な人なのか周囲、特にB級隊員の人間が風間の登場にざわめき立つ。中にはさん付けで呼ぶ者もいるくらいだ。
「………買わないのか?」
「あ」
その視線は飛塚の脇を通り自販機に向けられた。
そこで理解する。風間も自販機を使いたいのに飛塚がいつまでも突っ立っていたので声をかけてきたのだと。
飛塚は申し訳なく思いながらさっさと水を買い脇に除けた。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………飲まないのか?」
いやずっと見られていては飲みたくても飲めませんよ。特に陰キャの飛塚は鋭い目線にはすぐにブルってしまう。
というか風間は自販機で飲み物を買う様子を見せないが、だとすると一体何が目的で飛塚に話しかけたのか?
理由は一つだけだ。
「5本先取だ。ブースに入れ」
(ああ。そういう事)
ここはランク戦のロビー。良く考え無くても分かる事だった。
「306に入る。9000前後のスコーピオンが俺だ」
9000ね。9000。…………え9000?
「何をしている?おまえも早く入れ」
「…………………………………………分かった」
━━━━風圧。
ガキン!!と音が響く。
それが自分と相手のスコーピオンがぶつかり合った音だとやや遅れて把握する。
素早く距離を取り後ろを見るとついさっき景色に掻き消えた風間の姿があった。
「透明化」
「当たりだ」
今度は姿を消さずそのまま懐に潜り込まれる。速さだけなら小南より早い。反応がやや遅れた。
みぞおちを狙った突き上げ。それを上から叩きつけ風間のスコーピオンをへし折った。
その隙を狙い攻撃に移ろうとするも、その頃には充分な距離を取られている。
(サイドエフェクトが無かったら今ので二回やられてたな)
スコーピオンを伸ばせば届く距離だが避けられて反撃されるのは目に見えているので様子見に徹する。
「なるほど」
興味深い物を見る様な視線が飛塚を刺した。
「確かに迅から聞いた通り反応速度が人間離れしている」
突然出てきた迅の名前に驚いたが、すぐに平静を取り戻す。あの人アレで顔が広いっぽいし。
しかし年上を呼び捨てにするのはどうかと思う。
「俺は18だ」
「え?」
「なぜそこで隙が出来る?」
「っ!」
この驚きにはすぐに平静を取り戻せなかった。サイドエフェクトの感覚が鈍り左肩がザックリやられる。左腕が使えなくなった。
すると続く苛烈な連撃に右腕では間に合わなくなってくる。
「確かに強力なサイドエフェクトだが、身体の動きは常識の範囲内だ。腕を失えば片手での反撃ができなくなり防戦一方になる」
それは小南の双月で痛いほど実感している。
そして、その状況から抜け出す為のテレポーターだ。
風間の斜め後ろにワープして、素早く攻撃を……
「それを補う為のテレポーターはいい考えだが、もう知ってる」
出現位置をしっかりと読まれ、ワープした瞬間に首を刎ねられた。
「テレポーターの出現位置は視線の先3メートル以内。事前に知っていれば対応は簡単だ」
(簡単?)
『伝達系切断。
ぽすんとマットの上に放り出される。
まだ1戦目なのに疲労感が凄い。
テレポーターに対応されたり、まさかの年上だったり。
『次だ』
「わかってます」
それでも自分と同格以上の隊員の登場に自然と思考が加速する。
今まで通りにトリオン量とワープのゴリ押しじゃ勝てない。サイドエフェクトは有効だが頼り過ぎると危ない。
付け入る隙があるならスコーピオンの練度だ。迅さんが言うにはスコーピオンは作られてから二ヶ月も経ってない最新のトリガー。そんなトリガーを完全にマスターしているとは思えない。
そして飛塚は現状No.1のスコーピオン使いからスコーピオンの使い方を教わっている。おそらく練度だけで考えれば勝っている。と思う。思いたい。思うことにする。
「次は勝つ」
『2本目開始』
左手でスコーピオンを握り、右手は手のひらに生やしそれを握っている風に見せる。
自分から攻めたい所だがあくまでサイドエフェクトを使う戦闘スタイルを今はまだ崩さない。
すると飛塚の狙い通り風間の方から攻めてきてくれた。
しばらく攻撃を弾き続けると風間が口を開く。
「おまえのサイドエフェクト。加減ができないだろ」
「……!」
「あくまで反射の速度を上げるだけ。反射の程度を加減する事はできない。どんなにくだらん小技にも大振りで弾き、大袈裟に避ける。それが重なるとおまえの体が反射に追いつけなくなりやられる」
確かに飛塚のサイドエフェクトはオンオフは出来る。しかし本人の意思で強弱は設定できない。それは紛れもない真実だ。
(けど………)
まだ二戦目。それに戦いながら少ない情報を組み立て仮説を立てる(しかも正解)なんて。どういう観察力をしているんだ。
このままでは手数で責められてじわじわ落とされる。
だから飛塚は自分から攻める事にした。
自分から距離を詰め、右手のスコーピオンを振り下ろす。
当然そんな単調な攻撃に反応できない訳が無く、風間はスコーピオンを攻撃特化からバランス特化の形にして受ける。トリオンの差で砕けかけるが何とか持ち堪えた。
飛塚は次に左手のスコーピオンを風間の脇腹を狙い振るう。コレはシールドで簡単に防がれた。
この間合いは不味いと飛塚は視線を風間の背後に流す。
(テレポーター。姿を消した瞬間を狙って………!)
目を見開く。
『トリオン供給機関破損、
(三本目だと?)
ベイルアウトの直前に見たのは飛塚の右腕から伸びた三本目のスコーピオンで貫かれる自身の胸。
しかしこれは有り得ない事だ。トリガーの同時発動はメインとサブで一つずつ。オプショントリガーでもないと三つ同時に取り出す事は有り得ない。
考えた結果、風間は一つの可能性を思いつく。
「右腕の中に作ったスコーピオンを二つに枝分かれさせる。片方の刃を右の手のひらに生やし、テレポーターで意識の何割かを割かせ完全に決められる場面でもう一つの刃を生やした。三本に見えたからくりはこうか」
『はい』
「そうか」
たった一勝、されど一勝。
どうやらサイドエフェクトだけの新人では無いようだ。
「良い使い方だ。参考にさせてもらう」
『トリオン漏出過多。
完敗だ。結局サイドエフェクトがオンオフ可能な事も見抜かれ負けてしまった。
マットに転がったまま手の甲を見る。
【4859】→【4817】
風間のポイントが9000超えだったからかポイントはあまり減らなかった。その事にほっとして立ち上がってブースから出た。
「おつかれさん。飛塚」
「太刀川さん」
何故か餅を食いながら出待ちしていた太刀川。きな粉をこぼれ散らかしているが誰が掃除すると思っているのか。
さきほど飛塚たちに合流してランク戦をやろうとしていたところで本部長に勉学面の理由で連れていかれたが、解放されたのだろうか。
「いや、10分休憩だからランク戦しに来た」
サラッとおかしな事を言う。10休憩は普通飲み物を飲んだりトイレに行ったりするものだと思っていたが、世の中には色々な人がいる事を再確認した。
「そこでおまえのランク戦を見つけてな。風間さん相手に三本取るなんて想像以上だぞおまえ。コレはチーム組むのが俄然楽しみになって来た」
「そうか。先約がいたか」
「あ。風間さん」
太刀川と話しているうちに風間が二人の会話に混ざってくる。
(風間
失礼な事を言ったか今更心配になる。でも飛塚は口数が少ないので大丈夫なハズだ。
「いや悪いね。先に見つけた俺がラッキーてことで」
「飛塚といったか」
頷いて肯定する。
「このバカの相手が嫌になったらいつでも俺の所に来い」
「おいおいそりゃないぜ風間さん」
絶対に有り得ないと言いきれない所が太刀川の恐ろしい所だ。
「それで、チームはいつ組むんだ?」
「あと一人誘ってるヤツがB級に上がったらですよ」
「オペレーターは誰だ?」
「え?」
「まさか決めていない訳はないだろう」
「え?」
「は?」
「飛塚?」
いや、チーム組むのにオペレーターが必要な事をこの瞬間に知りました。
「………わっはっは。やっちまったな」
「バカが」
その後、休憩時間を超えても帰ってこない太刀川に激怒した本部長が太刀川を連れて行ってしまいオペレーターの話はうやむやになった。
問題を先送りにする性格の飛塚は結構大きそうなオペレーター問題を忘れて出水とボーリングで遊んだ。
オペレーター?何それ?
『飛塚』
B級に上がってからも小南と頻繁に模擬戦をするので実力は現在もメキメキと上がっている。
最近は戦況に応じてサイドエフェクトをオンオフする技術を身につけたのでランク戦をガチれば10000ポイントレベルを越えられるかもしれない。
まだまだ成長途中の有望株。
きな粉振りまきお兄さん
『太刀川』
オペレーターがいない事を忍田との勉強会で忘れた。きな粉もちは無事禁止になった。
1000発50中
『出水』
現在3800ポイント。オペレーター問題はまだ把握していない。
最近の悩みは太刀川に