11月も後半に差し掛かった頃。
月に一回以上は必ず遊びにくる。という約束通り、本日は生徒会室に堀北先輩と橘先輩が遊びにきてくれた。
ただ、俺以外の生徒会メンバーは業務で席を外しているため、現在生徒会室にいるのは堀北先輩と橘先輩と俺の3人だけとなっている。
みんな残念だったね。
「それじゃあ何して遊びます?」
「一応人狼ゲームは持ってきたんですけど、この人数ではできませんね」
「俺は自習が目的で来たのだが……」
堀北先輩はそこまででもないが、橘先輩は人狼ゲーム持参で遊ぶ気満々なご様子だ。
生徒会メンバーでの人狼ゲーム、やりたかったなぁ………ん?
「堀北先輩、何かありました?」
「……なんのことだ?」
「なんかずっとそわそわしてるので、ちょっと気になりまして」
今更気付いたが、堀北先輩の様子が少し変だ。何かに焦っている?ような雰囲気を感じる。
「特に何もないぞ。今日も変わらず普段通りの学校生活を送っている。無論、体調管理も万全だ。受験勉強のほうも順調、何も問題はない」
「めっちゃ喋るじゃないですか」
「特に何もないぞ」だけで終わると思ったら、その数倍の量が返ってきた。絶対何かあったじゃん。
「悩みがあるなら聞きますよ?」
「うむ……」
堀北先輩は少し考え込んだ後、神妙な面持ちで口を開いた。
「少し事情が複雑なのだが……俺の悩みを話した場合。ある生徒に対する印象が大きく変わり、その生徒の不利益に繋がる恐れがある。それ故に、この悩みは気軽に相談できるものではないんだ。気を遣ってもらった手前申し訳ないがな」
堀北先輩は本当に申し訳なさそうな表情でそう説明してくれた。
どうやら、俺が思っている以上に面倒なことに巻き込まれているらしい。
「もしかして、橘先輩も聞いてない感じですか?」
「聞いてませんよ。無理に聞き出すのも悪いですから」
「気にはならないんですか?」
「たしかに気にはなりますけど——」
堀北先輩にちらりと視線を向けた橘先輩は、優しく微笑みながら言葉を続けた。
「——学くんのことは信じてますから、不満は一切ありません。それに、その……学くんのそういう誠実なところも、好きですから」
「ごふっ…」
不意に発生した惚気によって少なくないダメージを受ける俺と、無言のまま僅かに耳を赤くする堀北先輩。
ダメだ。彼女いない歴が今世の年齢を突破している俺にとって、この話題はあまりにも過酷すぎる。
「話を戻しましょう」
「それがいいだろう」
橘先輩の「好きですから」発言は俺とは別のベクトルで堀北先輩にも効いていたようで、なぜか意見が一致した。
「ひとまず、そういった事情があるなら俺も無理に聞くつもりはありません。まぁ、堀北先輩がそこまで悩むってことは、橘先輩のこと以外だと妹さん関連しかなさそうですけどね」
「……」
「えっ、まさかの正解?」
無言の肯定。冗談のつもりだったのに、正解を引き当ててしまったらしい。
それにしても、堀北妹関連の悩みか。
この時期のイベントで堀北先輩がそわそわするレベルのものとなると……あれかな?
「もしかして、印象が変わる可能性のある生徒って櫛田さんのことだったりします?」
「……まさか知っていたとは、流石だな」
今の反応的に間違いない。
堀北先輩がそわそわしている理由は、ペーパーシャッフルの裏で巻き起こっている『櫛田の裏切りを止めたい堀北妹』VS『堀北妹と綾小路を絶対に退学させたい櫛田』の熱いバトルのせいだ。
原作の1年生編6巻で行われたペーパーシャッフルの裏では、櫛田の裏切りを止めるために堀北妹が自身の退学を賭けて数学のテストで勝負を挑んでいた。その際、堀北妹は堀北先輩を呼び出し、勝負の審判をお願いしている。
どうやら、この世界でも俺が知らない間にそのイベントが発生し、堀北先輩は原作通り審判役を任されたようだ。
「なんというか、お疲れ様です」
「うむ……」
堀北先輩からすれば、妹に頼られて内心ウッキウキの状態で現場に行ったら、妹が退学するかもしれない勝負の審判をいきなり任されるという想定外過ぎる展開のため、そわそわしてしまうのも無理はないだろう。
「そこまで心配しなくても大丈夫ですよ。妹さんは優秀ですから。それに……」
原作だと今回の勝負は普通に堀北妹が勝つのだが、綾小路は万が一に備えて櫛田を退学させる手筈(櫛田の制服にカンニングペーパー投入)を整えていた。
そのため、堀北妹が勝負に負けたとしても、退学するのは櫛田になる可能性が高い。
だが——
「いざとなったら俺も介入するつもりですし」
——原作の2年生編で堀北妹と櫛田と伊吹が仲良し3人組になる展開が大好きだった俺としては、堀北妹と櫛田のどちらにもまだ退学して欲しくはない。
2人の成長の邪魔はしたくないけど、最悪の場合は生徒会長権限や原作知識を総動員して今回の勝負を無かったことにするつもりだ。
「ふっ、そうか。それなら安心だな」
いつの間にか、堀北先輩のそわそわは収まっていた。俺の言葉を聞いて少しは安心してくれたようだ。
ただ——
「……」ジーッ
「あ、あの……なんでしょうか?橘先輩」
——先ほどからなぜか、橘先輩にジト目で堀北先輩と俺が睨まれ続けている。
堀北先輩のそわそわが止まってからは、さらに目つきが鋭くなった気がする。なぜだ。
「別になんでもないですよー。ただ、やっぱり学くんと南雲くんは仲が良いんだなーって、改めて思っただけですよー」
口を僅かに尖らせながら、不貞腐れた顔でそう呟く橘先輩。
これは、乙女心検定0級の俺でも流石にわかる。橘先輩が、拗ねている!
ただ、理由は分からない。なぜなら乙女心検定0級だから。あっ、仲間外れにされて怒ってるのかな?
「ここは彼氏さんにお任せします」
「む、うむ……」
難しい顔で考え込む堀北先輩と、そんな堀北先輩にジト目を向け続ける橘先輩。そして静かに気配を消す俺。
うむ、堀北先輩にぶん投げちゃったけど、これで良かったのだろうか?真相は闇の中だ。
そう思っていると——
「ただいまです、南雲会長」
「戻ったどー!」
——元気よく入室してきた一之瀬と溝脇を先頭に、桐山と殿河と葛城も生徒会室に戻ってきた。
どうやらみんなの用事が終わったらしい。ナイスタイミング過ぎる!
「橘先輩、みんなで人狼ゲームやりましょう。人狼ゲーム」
「うっ。それはたしかに、やりたいかもです」
「おっ、人狼ゲーム?俺もやりたい!」
「あっ、私もやりたいです!」
元気よく手を上げた溝脇と一之瀬に続き、桐山たちも参加を表明。最終的にこの場にいる8人全員での人狼ゲームが始まった。
始まったの、だが……。
「堀北先輩、いつもより口数が多いですね。もしかして人狼ですか?」
「ふっ、随分と露骨な難癖だな。南雲、俺からすればむしろお前が人狼に見えるぞ?いつもより声が僅かに上擦っている」
「ふっ、それこそただの難癖ですね。堀北先輩はこの回からメガネをクイっとする頻度が増えてます。無理して嘘をついている証拠です」
「それを言うならお前は……」
といった感じで堀北先輩と舌戦を繰り広げていると、橘先輩からだけでなく一之瀬からもジト目で見られるようになった。なぜだ。
「前から思ってたけど、堀北先輩と南雲って本当に仲良いよなー」
人狼に喰われて観戦者となっていた溝脇の一言で、さらに視線が鋭くなる橘先輩と一之瀬。一体なぜこんなことに……。
だが、せっかくの堀北先輩たちとの人狼ゲーム。やるからには本気で勝ちたいため、今は気にせず続けさせていただく。
「あれ?堀北先輩から変わった匂いがしますね。これ、さっき喰われた溝脇の血の匂いでは?」
「ふっ、随分と鼻が利くな。まるで狼のようだ」
舌戦の末、先に難癖をつけた俺が村から追放されてしまった……が、
そう。先ほどの人狼同士の舌戦は、初めから人狼(堀北先輩と俺)のうちどちらか一方を確実に生き残らせるための布石だったのである。
「やりましたね堀北先輩」
「ああ、見事に策がハマったな」
ハイタッチを決める堀北先輩と俺……そして、その光景をジト目で見守る橘先輩と一之瀬。
現在進行形で間違い続けている気がするけど、そんな中でも一つだけわかったことがある。
それは……大人数の人狼ゲームはやはり楽しいということだ!
「それじゃあ、もう一回やります?」
その後、堀北先輩と橘先輩が見事な連携で村人を勝利に導いたり、人狼になった一之瀬と一緒に村人を全滅させたりしているうちに、いつの間にか2人の機嫌は直っていた。
うん、とりあえず一件落着だな!
〜それぞれの心境〜
・橘茜
南雲のことは人として好きだし尊敬もしているし素晴らしい後輩だと思っているが、それはそれとして南雲が自分以上に恋人(堀北学)と分かり合っている様子にはちょっとだけ思うところがないとは言い切れないものの、それは浮気でもなんでもない上にむしろ理想的な友情の形だと理解しているため、何も言えずジト目を向けることしかできなかった。
でも最後にはみんなと一緒に……特に堀北と人狼ゲームで楽しめたため、なんのわだかまりもなく笑顔で帰宅した。
・一之瀬帆波
堀北学のことは人として好きだし尊敬もしているし素晴らしい先輩だと思っているが、それはそれとして人狼ゲームの際に南雲とアイコンタクトだけで通じ合う様子にはちょっとだけ思うところがないとは言い切れないものの、それは理想的な友情の形だと理解しているため、何も言えずジト目を向けることしかできなかった。
でも最後にはみんなと一緒に……特に南雲と人狼ゲームで楽しめたため、なんのわだかまりもなく笑顔で帰宅した。