実況パワフルプロ野球 『ダイヤモンドの王様』   作:やまとなでしこ

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プロローグ

 

 

帝王実業高校。

 

名門帝王大学の付属高校にして小学校、中学校までを系列に持つマンモス高校。高校野球ファンの間でもその名はよく知られている。

 

特待生枠と人脈を駆使し北は北海道、南は沖縄まで見境なく有望株を集める様から外人部隊と揶揄されることもあるが、ここ数年残した実績からも紛うことなき高校野球界の盟主であることに疑いの余地は無い。

 

「・・・以上の選手を特待生として来年度、帝王へ迎え入れます」

「いやはや流石、これほどの選手を集めるとは!我らが帝王は来年以降も甲子園出場は安泰、優勝も充分見据えられる戦力を補充出来ましたな!」

「うむ。今や高校野球はブランド化し一つの立派なビジネスとなっている。入学者数にも多大な影響を与えてくれることでしょうよ」

 

毎年夏の大会後に行われるスカウトによる成果報告。

中等部で監督を務める沢谷昇(さわたに のぼる)は役員達によるこの品評会の様な集まりに心底嫌気が差していた。

 

昨今の高校野球は金を持った私学が才能の原石を貪り尽くし、如何に優秀な設備で屈強な兵隊を作り上げるかといったマネーゲームの様相を呈している。

 

そんな金満高校の頂点に位置する帝京にも、そこの下部組織で監督をする自分にも反吐が出そうだ。

 

「理事長も満足される結果となったのでは・・・?」

「・・・・・・」

「・・・鍋常理事長?」

 

 

帝王大学兼帝王実業高校理事長、鍋常久雄(なべつね ひさお)

スカウトのまとめた報告書を厳しい表情で見つめる鍋常を前に重い空気が漂う。

 

 

「・・・以前の報告では内部進学者から次期帝王候補となり得る特Aクラスが2人いると聞いていたが」

「は、はい!中等部の友沢亮(ともざわ りょう)は既に特Aとして高等部への進学を承諾しているのですが・・・」

「もう1人はどうした?あそこには巷で“エンペラー”などと呼ばれている非凡な捕手がいると聞いておるぞ」

 

背筋が凍りそうな冷たい視線が沢谷に集まる。

俺を見ても何も出てこねぇよと内心ボヤいているとスカウトが恐る恐る口を開いた。

 

「その捕手、藤崎颯馬(ふじさき そうま)については・・・特Aを蹴り外部への進学を表明しております・・・」

「外部だと・・・?どこの学校に取られた!西強か?まさかとは思うがあかつきではあるまいな?」

「そ、それが・・・し、私立パワフル学園です・・・」

「・・・・・・ぱわふる?そんな何処かもしらん学校に我が校の帝王候補を取られたのかっ!!」

 

ドンッ!!

 

再び会議室に静寂が訪れる。

誰にも見られないようこっそりため息を吐く。

今日は長くなりそうだと・・・

 

 

 

________

 

 

 

「藤崎、お前本当に高等部へは進まないのか」

「えぇっ!?あのウワサは本当だったんでやんすか!?」

 

野球部のメンバーから今日何度聞かれたかわからない疑問に、藤崎は隠そうともせず大きくため息を吐いてみせた。

 

「何度も言ってんだろ友沢、俺はパワ学にいくよ」

 

なんでもないように言う彼に矢部明雄(やべ あきお)は見えない目を丸くする。

 

「パワ学って・・・万年弱小の普通の高校じゃないでやんすか!オイラ聞いてないでやんすよー!!」

「矢部くんは二軍グラウンドにいたからなぁー」

「むきーっ!!三年間補欠だったオイラへの当てつけでやんすかー!」

 

 

「どうしてだ!なぜわざわざ帝王の特待を蹴ってそんな名もない私学へいく!」

 

いつもの藤崎と矢部のじゃれあいを遮るように友沢が声を荒らげる。

 

友沢からすれば藤崎は三年間バッテリーを組んできたいわば相棒のような存在だ。そんな奴が自らの才能と実績を捨てるような進路を選んだことを彼には受け入れられなかった。

 

「確かに……お前らからしたら俺の頭がおかしくなったと思うよな」

「藤崎くんは普段から頭のおかしな練習ばっかしてるから今更でやんすけどね」

「矢部シャラップ!まぁ、お前らになら言ってもいいか」

 

ふざける矢部の頭を押さえつけながら藤崎は一度ゆっくり目を閉じる。

 

「元々俺はパワ学で甲子園を目指す為の力をつける為に帝王の中等部に来たんだ」

 

「……どういうことだ?」

「そんなことする意味がわからないでやんす」

 

だからなとくぎり、真剣な表情で二人に向き直る。

 

()()()の夢だったんだ。子供の頃に憧れて毎日のように見に行っていたパワ学で甲子園に行くことが。だから帝王の高等部に行かないことはずっと昔から決めてたんだわ」

 

「……納得はしていないがそういう理由か」

「まぁな、それに…」

 

ニヤリと笑い友沢へ目線を向ける。

 

「お前と次は敵同士ってわけだ。甲子園をかけて“天才”友沢亮を打ち砕く。それも面白そうじゃねーか」

 

「フッ……藤崎、お前はそういう奴だったな。そういうことなら俺もお前に負ける気は無い」

 

藤崎の挑発に友沢もニヤリと笑い返しながらも互いの視線は既に火花を散らしている。

 

 

「よくもそんなクサイことを言えるでやんすねぇ…藤崎くん!帝王には秘密兵器と恐れられたオイラがいることを忘れてないでやんすか?」

「あ、矢部くんは俺と一緒にパワ学いこうな」

「ファーーーーー!?な、なんでオイラまで!い、いやでやんす!!」

 

勝手に進路を決められそうになり逃げ出そうとするも再度藤崎がガシッと捕まえる。

 

「矢部くん……一般入部でこれから帝王に入ってレギュラーになる自信は?」

「それは!!……ないでやんす…」

 

自信なさげに落ち込む矢部に反し予想通りの答えに満足そうに微笑む藤崎。

 

「甲子園常連の帝王でレギュラーは難しいかもしれない。でも普通の高校であるパワ学に行ったら?」

「れ、れぎゅらー?オイラがレギュラーになれるでやんすか!」

 

「当然だろ?矢部くんは帝王の秘密兵器なんだぜ!パワ学いったら稀代のスピードスターとしてモテモテ間違いなしよ!!」

「友沢くんすまんでやんす。オイラ藤崎くんと一緒にパワ学に行くでやんすよ!!」

「そ、そうか……」

 

肩を組みやいのやいの、目指せこうしえーん!と騒ぐ二人に対し友沢は呆れながらも後ろからついて行くのであった。

 

 

 

________

 

 

「友沢」

 

二人が別れる道に差しかかった頃に藤崎が友沢を呼び止める。

 

「あんまり高等部でも無茶し過ぎるんじゃねーぞ。お前、俺が止めないと投げ続けるだろ」

「誰が言ってるんだ…と思わないとはないが、まぁお互いに気をつけるとしよう」

 

ちげーねーと笑い、二人は背を向けそれぞれの帰路を歩き始めた。

 

 

 

 

後に世間から『ダイヤモンド世代』と呼ばれる球児たちの中心となる藤崎颯馬と友沢亮はこうして互いに違う道を歩み始めた。

 

二人が敵としてグラウンドで再会するとのはそう遠くない話。

 

夕べの会話を思い出し互いにどこか気恥ずかしくなるのは次の日の話であった。

 

 

 

 

 

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