実況パワフルプロ野球 『ダイヤモンドの王様』   作:やまとなでしこ

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四月第一週 野球同好会

 

 

 

───カキーンッ!!

 

春、サクラ咲く。

入学式から二週間が過ぎ、新入生達も徐々に新たな学園生活にも慣れ始め校内の風景に溶け込み始めた。

 

校舎の目の前に拡がるグラウンドでは野球部に入部したであろう新入生達の気合いの入った掛け声と二、三年生の激が飛び交う。

 

「ナイスセカンッ!」

「次ショート行くよー!!」

「一歩目ちょっと遅いよ!しっかり準備してー!」

「「はいっ!!!」」

 

 

その光景にどこか違和感があるのは普通の高校と違いグラウンドに散らばっている選手が皆全て()()()()だからだろう。

 

私立パワフル学園女子野球部。

 

この学園の部活動において最も全国に近く、実績も残している。

紛れもない名門女子野球部である───

 

 

 

 

 

「あおい!」

「あ、ナッチ!お疲れ様!」

 

練習後、グラウンド横で手を洗っていると聞き慣れた声で呼ばれ振り返る。

 

ナッチこと夏野向日葵(なつの ひまわり)

中学時代からのチームメイトでボクのかけがえの無い親友だ。

その太陽みたいな明るさにいつも助けられてしまう。

 

「いや〜野手練きついよ〜!アタシも体力には自信ある方なのにシートノックきつくてさぁ」

「ナッチがそこまで言うなんて相当大変なんだね」

「投手練はどうだったの?先輩たち噂してたよ〜!()()早川あおい(はやかわ あおい)の実力はどれほどのものなのかって!」

 

()()と言うのはボクらが所属していたボーイズチームが全国大会に出場したことを指しているのだろう。

 

男の子達の中に混ざりながらも、ボクたちは最後の年それぞれエース、ショートとしてレギュラーに選ばれていた。

 

「まだそんなにかなぁ。球数もきっちり管理されててそんなに投げてないし」

「そっかぁ、はぁ〜。これから先が思いやられるよ〜」

 

「……ねぇ、ナッチ」

「ん?どうしたの?」

「パワ学に来たこと、女子野球部を選んだこと後悔してない?」

 

ナッチの様子はいつもと変わらない。今まで通りその明るさと元気ではやくもチームを盛り立てている様子は遠くからでもわかった。

それでも聞かずにはいられなかった。

 

「あおいさぁ」

 

不機嫌そうに腕を組み、怒っていますといった表情で覗き込む。

 

「何回も言ってるでしょ!アタシはあおいと楽しく野球がやれるのが1番なんだって!それに男子の野球部がないパワ学に行こうっていうのさ二人で決めたことでしょ!」

「そうだよね…ごめん。本当にありがとうナッチ」

「うん!明日からも一緒に頑張らないと!」

 

「すいませーん!」

 

どこからか聞こえてくる男の子の声の方を振り向くと丁度こちらに硬球がコロコロと転がってきた。

 

「こっちにボール投げてもらっていいですかー!」

 

「……あ、はい…なげますよ」

 

足下のボールを拾い声の主に投げ返す。

男の子はグローブに入ったボールを一瞬見つめ、何か少し考えるような表情を見せてから笑顔でありがとうと言い残し去って行った。

 

「ナッチ…今のひと、野球の練習着着てたよね…」

「う、うん……」

「この高校には男子の野球部はないはずなのに…」

 

今彼に何かをされた訳では無い。ただボールを投げ返しただけだ。

 

それでも嫌な記憶はどうしてもフラッシュバックされてしまう。

 

「あーあんた達そりゃ知らないか」

「あ、先輩!お疲れ様です!!」

「お疲れ様。あれはね、野球同好会。グラウンドも基本的にはうちらが使っているからいつもは校舎裏で活動している少人数のサークルみたいなものよ」

 

先輩の言葉に緊張が解けていくのを感じる。

野球同好会、部活ではないんだ。

 

「へぇ〜同好会とかあるんですねー!大会には出てるんですか?」

「ははっ!でないでない!!去年なんてたったの四人しかいなかったんだから!公式戦に出るくらいなら野球部って名乗ってるでしょ」

「そっか〜、あおい大丈夫?」

「う、うん・・・」

 

自分とは関係ない、そうわかっているはずなのに。

なぜか頭にはあの男の子の真剣な表情が残っていた。

 

 

 

 

________

 

 

 

 

 

 

「騙したでやんすねぇ!!」

 

 

無事入学式を終えた俺と矢部くん。

さっそく意気揚々と(旧)野球部へ入部するために部室棟へやって来た。

 

「おいおい、騙しただなんて人聞き悪いな。俺はパワ学に野球部があるなんて一言も言ってないぜ、パワ学の野球部は二年前に人数不足で消滅してるからな」

「屁理屈でやんす!話がちがうでやんす!!!」

 

部室で俺たちを待っていたのは四人の二年生。

新入生がやって来ることをよほど楽しみにしていたのかクラッカーを鳴らし盛大に歓迎してくれた。

 

その後ろに飾られている垂れ幕に書いてある新入生歓迎の文字。

 

問題はそれに続く言葉だった。

 

「『ようこそ()()()()()へ』ってどういうことでやんすかぁ!!」

 

「言葉そのままの意味だ。やったな矢部くん!俺たち二人揃ってパワ学のレギュラー内定だぜ!!」

 

「よ!俊足好打が光る名センター!」

「オシャレメガネくん!輝いてるよ〜!」

 

「なにがレギュラー確定でやんす!オイラたち二人を入れても六人しかいない同好会じゃないでやんすか!………あれ?先輩は何でオイラがセンターだって知ってるでやんすか?」

 

「ああ、それは春休みの間に俺が先輩達に入部することを先に伝えてたからな」

 

同意を求めるように振り返ると先輩たちが満面の笑みでサムズアップしてくれる。

 

「おう!帝王中学の秘密兵器くん!!俺たち野球同好会は君を盛大に歓迎するぜ!」

「まずは目指せ部活昇格!!次は公式戦出場だー!」

 

「スペランカーもびっくりなハードルの低さでやんすね………野球部の韋駄天として大活躍してチヤホヤハーレムを築き上げるオイラの計画が…」

 

肩を落としがっくりと項垂れる矢部くん。

この反応、予想はしていたけどかなり落ち込んでしまっているな。

 

「そう落ち込むことはないぜ矢部くん……入学式の時にまわりの新入生を見回したが、何人か顔を知っている奴がいた。」

 

「え…それってつまり…」

 

「俺の見立てじゃギリギリ野球部に昇格する人数を集めることができる」

 

「ホントでやんすか!!」

「なんだとぉ!」「ひゃっほーー!!」

「そんな物好きがまだいたとはー!!!」

 

俺の言葉に矢部くんだけではなく、先輩達も盛り上がる。

よしよしいい感じだ、これならあとひと押しだな。

 

「これから人数を集めて野球部が復活させる。そしてその弱小野球部が前評判を覆して次々に強豪を打ち破り甲子園出場なんてした日には…」

 

「した日には…?」

 

「秘密のまま終わる秘密兵器なんかじゃない。学園のスーパースター、パワ学の稲妻、矢部明雄の誕生だ」

 

「藤崎くん、騙されたなんて言って申し訳なかったでやんす。オイラなるでやんすよ!パワ学の稲妻、スピードスター矢部明雄に!!!」

 

まったく、なんて単純で素敵な男なんだ矢部くん!

これから三年間一緒にがんばろうな!!

 

「よく言ったぜ矢部くん。さぁ!さっそく勧誘にいこう!」

「よーしじゃんじゃん勧誘してやるでやんす!!」

「俺たちも!」「負けてられないな!」

「かき集めるぞーーー」

 

 

こうして4月のとある日、パワ学野球部(仮)は始動した───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全然捕まらないでやんす……」

「どいつもこいつもサッカー部だの、バスケ部だの日本の野球人気はどうなっちまってんだ」

「しょうがないでやんす、高校から野球を始めるっていうのはオイラ達が思っているよりきっと敷居が高いでやんすよ」

 

勧誘を始めて二週間。

先輩たちと手分けして片っ端から勧誘をかけるも成果は未だにゼロ。

事は中々思うように進まない。

 

「前に藤崎くんが言ってた心当たりは全部で何人いるでやんすか?」

「六人」

「おぉ!結構いるでやんすね!早速その人たちを当たりに行くでやんすよ!!」

 

現状他に候補がおらず新入生を捕まえられない中、まだ準備も出来ていないのにいきなり本命と接触するのは怖いが…

 

「……貴重な戦力だからもう少し様子を見てからと思っていたけど、そうも言ってられないしな。ちょっかい掛けに行ってみるか」

 

「その意気でやんすよ!じゃあ最初は誰のところに行くでやんすか?」

「そうだな……ん?あれは…」

 

『さぁ次セカンドいくよー!』

『バッチこーい!』『準備しっかりねー!』

 

グラウンドの方を見ると学園の名物、女子野球部の元気な掛け声が聞こえてくる。

 

全国屈指の強豪なだけあって帝王ほどでは無いにしろ簡易的なナイター設備までついた見事な練習環境である。

 

「羨ましいでやんすねぇ…オイラたちはグラウンドが無いどころかキャッチボールくらいしかまともに出来なさそうなのに」

「まぁな、でも練習環境についてはメンバーを集めきってからだ」

 

女子野球部か、こっちに来てないってことは恐らくあっちに入部しているのだろう。

 

()()()()なら早い方がいい。

 

「じゃあ早速偵察に行こうか矢部くん」

「偵察…?どこにでやんすか?」

 

「我が校ご自慢の女子野球部にだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひょーー!!うちの女子野球部はレベルが高いでやんすね」

「ああ。守備範囲、反応速度、中継プレー、どれもそこらの男子野球部とじゃいい勝負するんじゃねぇかな」

「それに顔面偏差値、胸元のライン、健康的に程よく引き締まった脚!まさに超高校級でやんすよ!!」

「どこ見てたんだよ……」

 

隣で発情しかけているメガネを放っておき入学式で見かけた選手へ目を向ける。

 

「あれが夏野向日葵か…」

 

ショートの守備位置でシートノックを受ける女の子。

名門はなまるボーイズでトップバッターを張り、全国経験もある紛れもない好プレイヤー。

 

センターラインをあのレベルで守れる選手が加わってくれれば何とも心強い。

 

「さぁて、どうやって話しかけるか…」

「藤崎くん、ここはオイラに任せるでやんす」

「矢部くん?」

「男矢部、あのショートカット美少女を華麗に連れて帰ってくるでやんすよ……ヘーイ!そこのショートのお嬢さん!!オイラと少しお話をーーー!」

 

引き止める間もなく飛び出していく男、矢部。

隠れていた茂みから物の数秒、あっという間にグラウンドにまで到達する。

 

それにしても矢部くん、変なところで肝座ってんなぁ。

 

『キャーー!茂みから急に変なメガネが!!』

『なによこいつ!!』『ナッチ逃げて!!』

『あっ!ちょっと待つでやんす!オイラは話を……ぎゃーーーーー!!!』

 

当然の如く袋叩きにされる変態メガネ。

そこに男らしさは微塵もなかった。

 

「ったく矢部くんのせいで余計難しくなっちまったな……」

「せ、先輩!茂みの中にもう一人いますっ!!」

「へ?」

「の、覗き魔よ!!みんな捕まえてーー!!」

「ええっーーーーーー!!?」

 

こ、こんなところで捕まったら勧誘どころじゃない!!

それどころか覗き魔のレッテルを貼られ野球同好会が変態の集まり認定されちまう!!

 

「あっ!逃げた!!」「待ちなさい変態二号!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく…酷い目にあった…」

 

逃走劇から既に二時間。日は既に沈みかけている。

今日も成果はなしか。二週間何も進まないと流石の俺も少し落ち込んでしまう。

 

「ん?…あれは…」

 

乾ききった喉を潤そうと水道の方へ向かうと、みどりのおさげが目立つ女の子が丁度タオルを濡らしているのが見えた。

 

「早川あおい……」

 

どうしても欲しい選手がそこにいた。

男子顔負けのコントロールを持つはなまるボーイズのエース。

一度たまたま試合を見た際、俺はその制球力と打ち気を逸らす変化球、そして何より最後まで諦めずに投げ続ける彼女の闘志に惚れ込んだ。

 

あんなピッチャーをリードしてチームを勝利へと導けたらどれほどの快感を味わえるだろうか。まさにキャッチャー冥利につきるピッチャーだろうと。

 

彼女を入学式で見かけた時は込み上げるワクワクを抑えきれなかった。

柄にも無くこれは運命だとさえ思った。

 

しかし、あれほどの選手が甲子園を目指さずに女子野球部に来ていることには疑問が残る。

どこか怪我をしたのだろうかと一抹の不安がよぎる。

 

「ためしてみるか…」

 

ポケットに入っていたボールを彼女の足下に丁度届くようわざと転がしてみる。

 

「すいませーん!」

 

距離が離れている分声を張って呼びかけると彼女は酷く驚いた様な顔でこちらを見る。

 

「こっちにボール投げてもらっていいですかー!」

 

少し躊躇うような様子を見せたが、何かボソッと呟いてこちらに投げ返してきた。

彼女の放ったボールはほとんどの狂いなく俺のミットに収まる。

 

肩に問題は無い事を確信し思わず笑みが込み上げる。

 

「ありがとう」

 

最後まで少し怯えたような顔をしていたのが気になったが、今日の収穫はこれで良しとしよう。

 

早川あおい。彼女なくして甲子園への道は開けない。

エースなくしてチームが完成することはないのだ。

 

 

「ふ、ふじさきくぅ〜ん……」

「お、矢部くん生きてたか」

「ひどい目にあったでやんす……」

「くっくっ、大変だったな」

 

笑い事じゃないでやんすよと怒る矢部くんと一緒に部室への道を歩く。

まだまだ野球部へは程遠い野球同好会だが、今日一筋の光を見つけた。

 

桜は少しずつ散り始め、風に吹かれていく。

その風がどこか俺たちの背中を押してくれているように感じた。

 

 

 

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