機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第22話

 

廃墟となったベルリンからミネルバへと帰還したシンを待っていたのは、温かな視線と困難な状況を切り抜けた彼への賞賛の嵐であった。

モニターの向こう側で確認のしようもない場所で戦っていた彼を、遠くから見守るしか出来なかった己を少しでも比べようとしたのだろう。

 

彼の行いを非難するものはなく、寧ろ英雄の凱旋と言ったものだ。

ミネルバから彼の戦闘を確認する事は殆ど出来なかった事から、インパルスの戦闘データを抽出する事によって、今回の事態の詳細を探ろうとしていた。

 

だが、残念な事(・・・・)にフライトレコーダーの中に残っていたのは、出撃から僅か数分の出来事でありその他は完全に破損して見るも無惨なデータであった。

シンは口頭で説明し、文書を作成しろと言われそれを事細かに記した。

 

曰く、戦闘行動中フリーダムと共闘することが可能であった為渋々と手を組んだこと。

敵機体の名はデストロイと言う、可変大型MSであった事。そして、その周囲に展開していた殿を務めた連合のパイロット達は、その半数がエクステンデッドである可能性があった事等。

 

デストロイの破壊に関して言えば、フリーダムの高火力によって出来た隙を突いたと言った簡単な説明をする。

 

だが実際は違う。

デストロイに損傷を与えたのではない、パイロットを説得したのだ。そして、件のパイロットであるステラの事などは完全に伏せてあり、でっち上げであった。

 

更に言えば戦闘データの損傷は、デストロイ無力化後キラの手によってインパルスのデータをサルベージ不可能な領域まで封じる事によって、損傷と誤認させると言う措置を行っていた。

コレが偽りである事を最初に知る人物は、メイリンになる事等この時誰も分からなかった。

 

 

では、数刻程前にどうなったのか?

 

 

デストロイから救出されたステラは、シンと共に地上へと降りると彼の腕に縋り付く様に頭を沈めた。

僅かに香る少女特有の匂いにシンは心臓が速くなるのを感じていたが、シンにとって言えば彼女はどこまで行っても妹分である。

 

そんな彼女であったが、シンはふとある事を思い出した。ステラは投薬無くしては生きてはいけない身体になってしまっていたと言う事実だ。

それを何とかしなければ、またミネルバに連れて帰ればどうなるだろうか?良くて観察保護対象。最悪生きたままモルモットにされる可能性があった。

 

そんな彼の胸中とは裏腹に、ステラはシンのことが気に入っていたのだろう。彼から片時も離れようとしなかった。いや、縋る対象が彼しかいないというところだろうか?刷り込みにも近い。

そんな2人であったが、あまり帰投が遅れればミネルバだけでなく、ザフトの援軍も直ぐに来るだろう。

そうなれば、もうステラの事はどうなるか分かったものではなかった。

 

すると、今度はフリーダムがインパルスの直ぐ近くに止まり、そこから一人の青年が降りる。

蒼い旧式の連合のパイロットスーツ、それが誰なのかシンには分かっていた。無線での話し合いから何から何まででその人物が誰なのかを…。

 

シンはスーツに備え付けられていたホルスターに手を掛け、ステラを後ろ手に彼に拳銃を構えた。

 

「止まって下さい、それ以上近付くと…」

 

「わかったよ…、その子はあの大型MSに乗ってた子で良いんだよね?」

 

キラ・ヤマト、ヤキン・ドゥーエの英雄フリーダムのパイロットであり、あのアスランをして才能を認められた人物。

もし、そうならば近付かれれば最後徒手格闘で制圧される可能性だってある。

 

シンはそれを念頭に距離を取っていたが、実際キラはそれ程格闘が得意ではない、勿論最近では身を守る為に覚えてはいたが、ムウと互角。ラミアスには全く勝てていない。本人としてはスーパーコーディネイターと言えど、所詮こんなものかと言う良い土壌ではあるが。

だからこそ、ザフトの正規兵であるシンには勝てないとキラは思っている。

 

「その子を…どうするの?あの艦、ミネルバに連れて帰るの?」

 

「それは…連れて帰りたい。連れて帰りたいけど…、あ、アンタはどうするつもりなんだ!」

 

シンは怯えるステラを護るために必死になっている。その手は震えていた。

 

「僕は、その子がどういう人なのか知らないけれど…、もし良ければアークエンジェルに連れて帰ろうと思ってる。彼処なら…たぶん治療が出来ると思うから…。」

 

「ステラはエクステンデッドなんだぞ!!そんな簡単な話じゃ!」

 

シンのその発言を受けて、キラの目は心配そうな者を見るような優しげのある物へとなっていた。

 

「大丈夫、僕たちは強化された人達を助ける為の研究をしてたんだ。あの戦争から色々あったから…。だから、シン君。その子を僕たちのところで保護する。」

 

キラの言っている事は半分は嘘である。キラ達が研究をしているのは、所謂MSやそれに類する義手などのものだ。

薬剤を研究しているのは、専らフレイの管轄である。フレイが研究しているわけではなく、財布の中身を出しているだけであるが。

 

だからこそ、伝手が無いという話ではなく。裏での取引が有ればそう言った類のものが手に入りやすいと言うだけの話であるが、薬剤と言う分野に関する研究はプラント等よりかは遥かに可能性があった。

 

コレは一縷の望みというものだろうか?

シンはそれを受けて、ステラの方を見る。ステラは相変わらず怯えている。死というものへの根源的な恐怖は拭いきれるものではないが、死というものはどの様な人間であっても持っている。

 

だから、ステラにもそれに抗する心を持てるはずであった。

 

「ステラ…、俺の言う事を聞いてくれるかい?」

 

「ステラ……シンの事信じてる。だから、シンの言う事聞く…。」

 

「ごめん……ごめんな、俺がこんな何の力も無いばかりに…。」

 

赤の他人の為に泣くことができる、シンはそう言う男だ。単純ではあるものの、こういった物事に対する踏ん切りは、誰よりも付けられる。そう言う勇気を持っていた。

そう、シンはキラを信じたのだ。

少なくとも、アスランよりかは頼りになるとそう思ったのだ。

 

 

 

「……ン…シン!」

 

「えっ…?あっルナどうしたんだよ。」

 

シンはハッとして声のした方を向いた。そこにはルナマリアの姿があり、何やら心配そうな顔であった。

 

「どうしたんだよ…じゃないわよ。帰ってきてからずっ〜と呆けちゃってさ、あの時何かあったの?」

 

「ルナには関係ないよ…、ただ…フリーダムのパイロット良い腕だったなぁって…そんだけの話。俺も追いつかなくちゃなって…。そうだ!ルナ、シミュレーターで模擬戦頼むよ!」

 

シンは己の力を過小した、もっと自分は強くならなければならないと、でなければステラだって…ルナマリアだって…守り抜く事なんて出来やしないと。

その見本は、誰かを護るためにただ一人立ち向かうキラの姿に憧れを抱いて。

 

朝日が昇り、1日が始まる。そのサイクルのように当然の行いと自らに刻み込んで…。

 

 

……

 

大西洋、それはユーラシア大陸西側に存在する地球の三大洋の1つ。

そこは何時の世も歴史の表舞台に現れる場所でもある。そしてその日も、この時代に名を刻まれるであろう事態が発生していた。

 

ジブリールが本拠地とするヘブンズベース、アイスランドに存在するその要衝に向け物資の運搬と艦隊の集結を狙って幾つもの船団が動いていた。

そんな中、MSキャリアーと呼ばれる大型艦を擁する艦隊が、その日も一路ヘブンズベースへと向けて航行していた。

 

突如として、レーダー等の汎ゆる機器類に異常を検知すると次の瞬間。

キャリアーの艦橋がショッキングピンクの奔流に呑み込まれて蒸発し、物質がプラズマ化すると同時に跡形もなく吹き飛んだ。

 

そのビームの威力は、従来の其れ等と比較して明らかにオカシイ物があった。

そもそも、荷電粒子砲と言うものは空気中で使用した場合、粒子が散乱し霧散する性質を持っている。

 

その為に、地上で運用する場合その射程及び破壊力は大幅に低下する。

だが、今回の直撃したそのビームはまるでローエングリンのような出力でありながら、その熱量はそれを上回り一瞬にして艦を大破にまで追い込んでいる。

 

話はそれだけではない、そんな威力の奔流が間髪入れずに艦隊に飛んでくると言う異常事態であった。

陽電子破綻砲であるならばチャージに時間がかかるもの、だがそれの連射速度はあまりにも速かった。

 

次々と突き刺さる砲撃に、味方艦を盾にしようとするもその期待は淡くも消え失せる。

艦艇を真正面から貫通し、後続艦にもその被害が出ているのだ。

 

確認される敵の方角へと起死回生を図る為にMS隊が飛び立っていくと、それに対応する為に今度は1個中隊規模のMS部隊がそれの迎撃に現れる。

 

連合のパイロット達はマニュアル通りの戦闘を得意とする。それは、対コーディネイターに対してナチュラルの身体能力では対応出来ないと、そう判断しているからだ。

だからこそ、先ずは遠距離でのビームの応酬によって決着をつけようとする。

 

だが、今回に関してはそれは最悪のものとなっていた。

たった一機、データに無いガンダムタイプであると思われる機体が現れると、それは大型のライフルを構え正確に1発を放つ。

それに対して、コンピューターの予測通りに盾を構えるウィンダムは、それを防いだと思われた。

 

だが、それは誤りであった。

パイロットの記憶にあるのは一瞬の出来事であるが、その光景は死後驚きへと変換されるであろう。

まず、第一に短時間であるならローエングリンですら防ぐ事のできるビームコーティングを施された盾を通常のビームライフルで貫通することは不可能である。

 

だが、この時のそれは明らかにおかしかった。

1条のビームが盾に当たると同時に、ビームコーティングはその熱量によって一瞬にして蒸発し、盾に抉るように直進する。

熱によって盾がまず貫徹されると、そのビームは左腕を一瞬にして溶かしそのままコックピットすら貫徹し、機体そのものを貫く。

それだけでは止まらず、後方にいた支援射撃を行っていた機体にすらそれは直撃し、その機体も貫徹。更にその後方に存在した機体の盾に当たってその盾を破壊したところで直進は止まった。

 

「何よこれ!!過剰すぎる!戦艦の主砲並みの威力なんて聞いてないわよ!」

 

それを撃った本人であるフレイは、その威力に驚愕しつつ第二射を放ちそれも瞬く間に敵を葬り去っていく。

数発放つと腰部マウントのビームライフルと取り替え、そちらでの攻撃へと切り替えていった。

 

大混乱に陥ったジブリール派の者達は、多勢にも関わらずその数を活かしきれない。

更に中隊規模のドミニオン所属部隊は、ビームを好き勝手に撃つ。それはその機体がバッテリー機ではない何よりの証であった。

 

結果として戦闘は、戦力差からジブリール派は全滅とは行かなかったものの、戦力の過半が手傷を負った。

対してドミニオン側はと言えば、その戦力を十分に保ちながら弾薬不足によって仕留めきれなかった事を悔いる結果となった。

 

この戦いは、メガ粒子砲の初の実戦戦闘でありその後この兵器はグローバルスタンダードへと至っていく事になるが、それは戦後の話である。

 

 

……

 

ロード・ジブリール、彼は周囲の人間たちに戸惑いを覚えていた。自らの行いは決して間違いではなく、コレを理解できないのは彼等が愚か者であるからだと、そう驕りを覚えていた。

だが、そんな彼であるが実際の戦況は芳しくなく、寧ろ段々と状況は悪化するばかりかアズラエルへと鞍替えする者達が後を絶たない。

 

そんな状況に若干の焦りを覚えていた彼が行った行動こそが、ベルリン市街へのデストロイ投入であった。

だが、それも彼の意図していた物とはまったく違う形で、それが明るみに出ていた。

 

彼が指示をしたのは、デストロイでの敵の殲滅。勿論軍民問わずのものであったが思わぬ物がそこに介在していた。

ネオと言う彼の手駒に任せて見れば、なんとデストロイに核兵器が搭載されていたと言う。

 

それはジブリールの意思とは違っていた。寧ろ、ブルーコスモスに所属しているのだから地球上での核の使用等言語道断で、そんな事を命令したと言う事実は無かった。

ではどの段階でデストロイの設計にそれが紛れていたのか?

 

単純な話、ジブリールはアズラエルの様に現場主義では無いことから産まれた不運であった。

現場の人間から信頼されていない上役は、お飾りになりやすい傾向がある。

そこに付け込まれたのだ。

 

苦虫を噛み潰した顔をするジブリールは、己の求心力の低下を危惧していた。

それと同じ頃、何処でも知らない暗闇の中この事態を起こした主犯2人が話をしていた。

 

「しかし、上手く設計を変更させたな。その手腕は素晴らしいな、ミケール。」

 

「ジブリールの様な生ぬるいものでは、コーディネイターは殲滅出来ませんよ。何より、この兵器は核汚染の心配が無いから非常に重宝するでしょう。

本当ならば、奴等の基地の中央で炸裂させてやりたかったが…、あの馬鹿があそこで投入するとは、思わなかったよ。」

 

無骨な軍人である男ミケールは、ネオと共にある。

ネオはジブリールの側近であるものの、この過激派と行動を共にする事があった。

それが今回の事件の裏であった。

 

「私はまだジブリールを利用するよ、隠れ蓑としては遣りやすいからな。」

 

「そうか。健闘を祈る、万が一の場合私は私の部隊を引き連れて潜伏する。それで良いのだな?」

 

不敵に笑い顔を作りながらネオはその仮面の奥に闇を光らせる。

 

「ああ、人類の為だ。全ての事が終わり次第、我々は再び天に立ち向かおう。その為には君のような男が必要だからな。」

 

2人は互いに背を向け、歩き始める。何処へとも知れない場所へと。

 

 

 

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