【書籍化決定】ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない   作:音塚雪見

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ダブルデートの変化形

 地獄とはなんだろう。

 古来より人類が考察してきたことであり、俺のような一般人が答えを見つけられるはずもないが、一応、考えてみることにする。

 

 

 辞書的な意味で云うと、仏教において──他の宗教にも同様の概念が存在するけれど──、生前悪い行ないをした人間が死後に落とされる場所だ。灼熱だとか血の池だとか、とにかく苦しい思いをするらしい。

 転じて、つらい状況に立たされることを比喩して、「地獄」なる形容をする用法が見られる。

 

 

 つまり俺の現在の状況は、まさしく「地獄」と喩えるに相応しい。

 今すぐ逃げ出したい。

 

 

「あら? 化野、なんだか顔が浮かないわね」

「メイクの調子が悪いのかな」

「軽口を言えるくらいだから、体調は問題なさそうね」

 

 

 隣を歩いていた雪花は肩を竦めた。彼女の首からは愉快なデザインの箱がぶら下がっており、中には、かぐわしいポップコーンが収まっている。

 

 

「こんな美少女を二人も捕まえて表情を翳らせるなんて、まったく贅沢者だわ」

 

 

 ふん、と鼻を鳴らす雪花。

 こんな美少女──とはいったい誰のことだろう。俺は首を傾げた。

 隣に居るゾンビはもちろん対象外だし、もう片方の餓鬼についても、およそ少女とも枕に「美」を付けられる外見でもない。

 

 

 要するに、俺が文句を募らせるのに謂われはないのだ。

 どうしてたまの休日を化け物どもと付き合うのに使わなければならないのか、関係各所に問い質したい心地である。

 

 

 ──そう。

 目下の俺は、草壁雪花と蕪木綾瀬の二体と一緒に、遊園地デートと銘打った地獄を体験していた。

 

 

『なら、ダブルデートの変化形で行きましょう』

 

 

 とはふくろうカフェの前で合流した雪花の言だが、ダブルデートの変化形とやらが、よもやこんな地獄だとは思わなかった。もし事前に承知していたら、まず間違いなく断って直帰していたのに。というか今からでも帰りたい。ここから入れる保険はないんですか。

 

 

「あはは……雪花先輩、ちょっと強引なところがあるっすから」

 

 

 考えていたことが顔に出ていたのだろう、所在なさげに息を潜めていた綾瀬が、苦笑しつつ呟いた。

 

 

「まさか遊園地に連行されるとは」

「わたしもびっくりしたっす」

「そこ。二人で内緒話なんてつれないじゃない」

 

 

 びしり。

 と指を突きつけてくる雪花。

 

 

「いい? 三人で遊びに来たときはね、一人と二人にならないよう調整するのが大切なの。独りは寂しいのよ。疎外感を覚えるわ。どうしようもないくらい。胸が張り裂けてしまいそう」

「結構余裕がありそうな口ぶりだけど」

「そりゃあ可愛い後輩の前だもの。もし化野と二人きりだったら、何があっても私しか視界に映らないようにしてやったところよ」

 

 

 怖い。眼球でも抉り取って、物理的に雪花しか見られないようにするつもりだったのだろうか。ゾンビだし。

 俺は恐怖に打ち震えた。隣では、「もしかして雪花先輩……」と綾瀬が意味深に眉をひそめていた。

 

 

「にしても、どうして遊園地に?」

「私の中にあるデートのストックは、海か雪山か遊園地かしかないの。前二つは弾丸で行ける場所じゃないし、消去法で選んだのよ」

 

 

 まったく仕方ないわね。

 みたいな顔をしているが、雪花の表情は晴れ晴れとしている。

 心の底から満喫している様子だ。楽しそうで何より。

 

 

「あと、後輩を連れて遊びに行くとしたら、やっぱり遊園地が定番じゃない」

「そうなの?」

「付き合いの少ない化野には分からないでしょうけど」

「言うねえ」

 

 

 確かに人間との付き合いは少ないけれど、対象を人外にまで拡張すれば、それなりの数あるのだが。

 いや人外との付き合いを誇っては駄目か。どうかしてた。

 

 

 俺はすんでのところでホモ・サピエンスのプライドを取り戻し、おとなしく彼女の言葉を受け入れた。

 

 

「……お客さん結構多いわね」

「週末だからじゃない?」

 

 

 俺の現状は終末さながらだが。

 まあ、それはさておいて。

 

 

 週末の遊園地は家族連れのお客さんが多く、彼ら彼女らは幸せオーラ満載の雰囲気で歩いていた。風船を持った子供が走る。父親らしき男性が苦笑し、母親らしき女性が半笑いで注意する。まったく平穏な光景だ。

 

 

「……? 何よ」

「別に」

 

 

 片や隣の光景はどうだ。

 血みどろのゾンビである。

 平穏など遥か彼方。全て遠き理想郷。

 

 

 俺はこめかみがピクピク動くのを抑えながら、菩薩を彷彿とさせる微笑で以て、雪花の追及を誤魔化した。

 

 

「家族連れ、ねえ」

「含みのある言い方」

「私たちも傍から見たら家族に見えるのかしら」

「いくらなんでも高校生でそれを言うのはませ過ぎだと思うよ」

 

 

 大人の男女カップルが夫婦のように見えたり、歳の差のあるカップルが親子のように見える場合は多々あるだろう。

 けれども、それを高校生が心配するのは、いくらなんでも『こましゃくれている』と表現せざるを得ない。

 だいいち二人きりならともかく、普通に三人組だし。百歩譲って仲良しグループ扱いが関の山ではなかろうか。

 

 

 俺の冷静な指摘に、雪花は頬を膨らませた。

 腐りかけの頬が拡張されてあわや崩落の危機。

 気軽にバイオハザード始めようとするのやめてね。

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