「し、志岐さん!?」
最初に俺の存在に気付いたのは琥珀ちゃんだった。
珍しく素っ頓狂な声を上げた彼女は、はだけた着物を直そうとする。
そこでようやく俺に気付いたのか、琥珀ちゃんの首筋から顔を離す秋葉。
少しぼーっとした様子でこちらを見上げてくるのだが、理解が追いついたのか血の気が引いた顔になる。
顔面蒼白とはまさにこのことなのだが、秋葉の口元には何故か血が付いており。
琥珀ちゃんの首筋にも血が滴り落ちているのが確認できた。
そう、丁度秋葉が顔を埋めていたところから。
以上のことから伺えるのは──。
「ま、まさか、秋葉ちゃんたち……」
「ま、待ってください! 違うんです兄さんッ! 私は──」
「志岐さんっ、これには歴とした訳が──」
何を想像したのか血の気の引いた顔で必死に弁明しようとする秋葉たちだが、この状況を前に弁明もクソもない。
そこそこのショックを受けた俺は震える手で二人を指差しながら、その言葉を口にした。
「猟奇的レズなのか……ッ!?」
『……は?』
昨今、同性カップルも珍しくないし、明るみに出てないだけであって昔から同性愛者というのは存在する。
政府の調査によると全体の一割は同性愛者だという調査結果もあるらしいし、もしかしたら俺のクラスにも一人か二人はいるかも知れないけど。まさか、超身近なところに居たとは!
いや、別に秋葉たちがレズだからといって何か変わる訳でもない。もちろん差別意識もない、けど……!
血を舐めたり啜り合うような猟奇的レズは予想外デス!
「待って兄さん、本当に待って! 決定的な勘違いをしているわ! 私は同性愛者ではありませんっ!」
「私もです志岐さん! 私が好きなのは、その……であって、秋葉様に懸想を抱いてはおりません! 私も秋葉様も、恋愛対象は殿方です!」
そう血相を変えて言い寄ってくる秋葉たち。
仮に二人の言うことが本当であったとして、今見た光景はどう弁明するのだろうか。
「それは……っ」
俺の指摘に秋葉は言葉を詰まらせる。やはり、そうなのか⋯⋯っ。
今後どんな顔で接すればいいのだろうか。割と真剣に悩んでいると神妙な面持ちをした琥珀ちゃんが、静かに口を開いた。
「──分かりました、お話しいたします」
「琥珀!?」
「この状況では言い逃れは出来ませんよ秋葉様。それに考えても見てください。このまま志岐さんに勘違いされたままでいるのと、正直に打ち明けた場合を」
血を舐め合うレズ女だと思われるくらいならぶっちゃけた方がマシです。真剣な顔でそう断言する琥珀ちゃん。
いや、そんな蔑んだような言い方せんでも。でも、ちょっぴり意識しちゃうと思います⋯⋯。
「⋯⋯そうね。確かに、兄さんに猟奇的嗜好を持った同性愛者だと思われる方が深刻ね」
琥珀ちゃんの言葉に、重々しく頷いた秋葉が居住まいを正す。
俺も、どんなことを言われようと正面から受け止められるように覚悟を完了させ、その場に正座した。
さて、何を言われるのやら⋯⋯。
「まず、始めに言っておきます。琥珀が言っていた通り、私も琥珀も同性愛の気はありません。⋯⋯ないわよね?」
念の為確認するように秋葉が視線を向けると、軽く襟元を整えた琥珀ちゃんは何度も頷いた。
咳払いをして調子を整えた秋葉は、真剣な表情で続きを説明する。
「兄さんも知っての通り私の体は虚弱で、兄さんから教わった呼吸法がないと日常生活も儘ならないほどです。なので、定期的に琥珀から血を分け与えて貰うことで、延命措置をしています」
「延命措置? えっ、そこまで悪かったの?」
精々、俺と同じくらいだと思ってたのに!
まさかの命に関わるレベルと知り、慌てふためく俺だが、何故か柔らかい眼差しを向けてくる。
「今すぐどうこうと言うわけではありません。呼吸法もありますし、少なくとも向こう十年は大丈夫でしょう」
「十年って、お前⋯⋯」
思わず絶句する。
それってつまり、それ以降は予後が不安定ってことじゃんか⋯⋯。
「ここから先は私がご説明致します」
秋葉と同じく居住まいを正した琥珀ちゃんが後を引き継ぐ。
「もしかしたらご存じかもしれませんが、わたしと翡翠ちゃんは巫浄一族の出身です」
巫浄って聞いて思い当たるのは一つしかないんだけど。
えっ? もしかして、あの巫浄?
「はい、退魔四家の一つである、あの巫浄です。とはいっても、分家筋ですけどね」
「マジか」
まさか、こんな身近に退魔四家の人が居たとは。
パパ上たちから教わったのは家名くらいで、実際どんな家柄なのかは全くの不明。当然、退魔を生業にしている一族で、うちと同じ四家に属するのだから、何らかの特異性があるだろうけど。
しかし、普段の琥珀ちゃんたちを知っている身としては、魔を退治するような力を持っているようには到底思えないのだが。
「巫浄一族は感応能力という異能を持って産まれます。自らの体力を分け与えることで、相手の生命力を増幅させることが出来るのです。私と翡翠ちゃんは生まれつき、この能力が強いようでして、生命力だけでなく精神面も強めたり高めたりすることが出来まして、この力で秋葉様の生命力を高めていました」
「ほー、そんな能力があったとは」
感応って聞くと何となく共感をイメージするけど、そんなことないんやな。
しかし、なるほど。そういう理由で秋葉に血を分け与えていたのか。
「ごめん、とんだ勘違いをしてたみたいだ」
メッチャ不謹慎なこと言って、申し訳ありませんでしたっ!
「取りあえず、分かって頂けたなら幸いです」
どこかホッとした様子の秋葉。
琥珀ちゃんも安堵した様に一息ついたのだった。
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「琥珀ちゃんのその感応能力って、直接血を飲まないとダメなの? 血液パックみたいに携行したりとか」
「能力が発現するには条件がありまして、体液を直接取り込まないとダメみたいなんです」
「あー、そうなんだ。それで血ね」
血以外だと唾液とオシッコくらいだし、その三択なら血液しかないか。残り二択は性的過ぎる。
離れから屋敷に戻る途中、中庭の惨状が再び目に飛び込んで来た。
秋葉ちゃんたちの猟奇的レズ疑惑のインパクトが強すぎて今の今まで忘れていたが、改めて何があったんだ?
「⋯⋯不審な人物がやって来ました。素性も目的も分かりませんが、突然襲い掛かって来たので、ここで迎撃したまでです」
それを聞いて思わず秋葉の様子を確認する。
目立った外傷はないし、怪我を庇っているような素振りも見られないから大丈夫だとは思うが。
「怪我は?」
「大丈夫です。幸いにも兄さんから教わった呼吸法があったので、最終的には取り逃してしまいましたが」
「はい、私も秋葉様も傷一つ御座いません」
念のため琥珀ちゃんに視線を向けると、彼女はたおやかに頷いた。
それを聞いて安堵する。通りで普段稽古でも持ち出さない抜き身の薙刀を持っていた訳だ。
しかし、不審者ねぇ。シエルパイセンから今朝も吸血鬼事件の被害者が出たと聞いたから、余計に心配だ。
「どんな奴だったんだ? 男?」
「──女性の方でした。それもシスターです」
シスター? シスターって聞くと俺の中では埋葬機関しか当て嵌まらないんだけど。
⋯⋯いや、一人知っている。恐らく埋葬機関に所属しているであろうシスターを。
シエルパイセンだ。朧げだが、あの時見たシスターも藍色の髪をしていたし、何より共通してスパイスの香を漂わせていた。
シエルパイセンも藍色の髪をしているし、カレーを零したんじゃないかと思うほどの強烈なスパイスの香りを身に纏っている。
だけど、仮に不審者がシエルパイセンだったとするならば、何故遠野家を襲ったんだ?
「ところで志岐さん。翡翠ちゃんを見掛けませんでしたか? 志岐さんのお出迎えに向かったと思うんですけど」
「ん? いや、見なかったな」
「だとすると、丁度すれ違いになったんでしょうね」
秋葉の言葉になるほどと頷く。まあ遠野邸って広いし、まれにそういうことも起きるよね。
「志岐様っ」
そんなこんな話していると、テラスの方からパタパタと走り寄る翡翠ちゃんの姿が見えた。
秋葉たちと一緒にいる所を見て、ホッとした顔が一瞬強張ったのはアレか。秋葉と琥珀ちゃんの関係を知ったからか。
それが何故マイナスの方向に進むのか分からないが、取りあえず翡翠ちゃんを安心させるため、努めて笑顔で手を上げる。
「聞いたよ翡翠、不審者が出たんだって? 怪我はない? いやー、それにしても翡翠ちゃんたちが巫浄家の人間だったとは」
俺の言葉に目を見開いた翡翠ちゃんは、震える声で聞いてきた。
「し、志岐様⋯⋯もしや、巫浄の能力のことも⋯⋯?」
「ん? うん、聞いたよ。感応能力だっけ。使いようによっては結構強力だよな」
「──」
まあ経口摂取しないと効果を発揮しないから、それを可能にするほどの信頼関係を築かないといけないけど。
それにしても、なんで翡翠ちゃんはそんな、今にも死にそうな顔をしてるんですかね?
取りあえず、ここまで。
どの程度、月姫について知っていますか?
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無印、リメイクともにプレイ済み
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無印のみプレイ済
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リメイクのみプレイ済
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未プレイだけど設定・世界観は知ってる
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まったく知らない