SIDE:白波千尋
この学校に入学してから、私は一人の女の子を好きになった。それは、私のクラスの委員長をしている一之瀬帆波ちゃん――彼女は可愛くて、頭が良くて、優しくて、いつも私を気にかけてくれる。
もし、私が男子だったら間違いなく彼女にしたいと思う。いや、女子でも彼女にしたい。帆波ちゃんといつも一緒にいて、幸せな時間を過ごしたい。気が付けば、こんなことを考えていた。
勿論、私も自分の考えが異常だということはわかっている。けど、この好きという気持ちは止められない。時間が過ぎれば過ぎるほど、気持ちはどんどん大きくなっていく。
七月、私は遂に帆波ちゃんに気持ちを伝えることにした。精一杯の気持ちを書いたラブレターを送って、体育館裏に来るようにお願いする。
正直、ドキドキが止まらない。
ラブレターを書いている時から、私は自分の思いがちゃんと伝わるか不安でならなかった。この世界は、男の子と女の子が恋愛するのが基本で、私のような人間は少数派だ。それでも、しっかり気持ちを伝えれば、あの優しい帆波ちゃんなら応えてくれる――そう信じていた。
けど、その思いは一蹴される。
帆波ちゃんは、私が呼び出した場所に一人の男子生徒を連れてきていた。1年Dクラスの綾小路清隆くん――事もあろうに、帆波ちゃんは彼が自分の彼氏であり、だからこそ私とは付き合えないと言ってきた。
信じられるはずがない。
つい、昨日まで帆波ちゃんはいつもBクラスの友達と一緒に過ごしていることが多かった。たまに一人になる時があっても、もし彼氏が出来たのならもっとこちらの付き合いに違和感が出るはずだ。
そもそも、二人がデートをしている所なんか見たことないし、するような時間があったとも思えない。
四月は入学したてでクラスの友達と仲良くなる時間だった。五月はこの学校の仕組みを知ってクラスを纏めていた。六月に入ってからだって、帆波ちゃんはずっとクラスのことを気にかけてくれていた――同じクラスならともかく、とても他クラスの彼氏なんて作る暇なんかない。
じゃあ、いつ作ったの?
決まっている、今だ。帆波ちゃんは、私を傷つけずに告白を断ろうとして、居もしない彼氏役を彼に頼んだ。丁度、Dクラスは今、Cクラスとの揉め事でBクラスに協力を頼みに来ていた。そのついでに、彼氏役をお願いしたと考えれば全ては繋がる。
正直、ショックだけど、帆波ちゃんが私の思いに応えられないというのはわかった。
でも、嘘の彼氏を作るのだけは許せない。仮に嘘だったとしても、彼女の隣に男がいるなんて認められない――と、考えていると、気が付けば綾小路くんは帆波ちゃんを抱き寄せて唇を合わせていた。
へ?
キス?
帆波ちゃんも受け入れて?
なんで?
嘘なのに?
頭が回らなかった。綾小路くんは、私の前でまるで見せつけるように帆波ちゃんの唇を奪った。おまけに、舌まで入れて、帆波ちゃんも気持ちよさそうにしていて――
気が付けば、私は逃げだしていた。
あの帆波ちゃんが、男の子とキスをしてそれを受け入れるなんて信じたくなかった。
でも、その日、帆波ちゃんは部屋に戻って来なかった。話をしようとずっと部屋の前で待っていたけれど、彼女が部屋に戻ってくることはなかった。
チャットをしても、既読にもならない。
私は嫌われてしまったのか――と、ぼんやり考えていると、二日経ってからようやく返事が来た。そこには、いろいろあって休んでいた。今日なら会えると書いてある。
この状態を続けたくない。何にしても、帆波ちゃんとしっかり話がしたかった。向こうもそれは同じだったようで、私の呼び出しに応えてくれている。
帆波ちゃんは会うなり、私に謝罪してきた。告白を断るにしても、もう少しやり方があった。でも、私の気持ちを受け入れられないのは本当であり、出来ればこれからも友達として過ごしていきたい――と、そう言われた。
諦めきれない。けど、帆波ちゃんを困らせる気はないので、ここは引いておいた。
それよりも、本当に綾小路くんと付き合っているのか、私の興味はそこだけだった。問いかけると、帆波ちゃんは頬を赤く染めて頷いている。この間とはまるで違う――本当に、恋する女の子の仕草だった。
私は綾小路くんが嫌いだ。
私から帆波ちゃんを奪った。
八月、特別試験という聞いたこともない一週間の無人島サバイバルでも、綾小路くんは帆波ちゃんの前にやってきた。頬にキスをして、まるで自分のモノだと周りにアピールしている。けど、私にはとても彼が帆波ちゃんを愛しているようには見えなかった。
三日目、彼は帆波ちゃんを連れてどこかに行った。こっそり後をつけてみると、綾小路くんと帆波ちゃんは、試験の最中だと言うのにこんな無人島でえっちなことをしていた。
洞穴の中でしているようで姿は見えない。
けど、声は聞こえてきた。今まで聞いたこともない帆波ちゃんの気持ちよさそうな声が外まで響いている。それだけで、何をしているかなど見るまでもなくわかった。
認めたくない。けど、彼らは本当に付き合っていたんだ。そうでなければ、こんな所でS〇Xなどしないだろう――気が付けば、私は泣きながら自分で自分のことを慰めていた。
帆波ちゃんが幸せならそれでいい。
そんな風に考えていた自分の心が嘘だとわかった。悔しかった。帆波ちゃんの隣にいられないことが。あんな男が、帆波ちゃんの体を好き勝手にしていることが――
けど、私には何も出来ない。
出来るのは、帆波ちゃんの様子を探ることだけ。帆波ちゃんは試験が終わった後も、ちょくちょく綾小路くんの呼び出しを受けていた。携帯のGPSで帆波ちゃんが綾小路くんの部屋にいるとわかると、発狂するくらい胸が痛くなる。
しかし、その痛みを受けると、何故か妙に興奮してきた。無様に自分を慰めるのが最高に気持ちいい。
二学期になり、体育祭が終わると、また新しい特別試験が始まった。今回の試験は、自分たちで問題を作って他クラスを攻めるというものだ。
この試験は学力の高いBクラスに有利――やり方次第ではAクラスにだって勝てる。だが、今回は体育祭でこちらをハメてきたCクラスに痛い目を見せてやろう。と、クラスが一致団結していた時、その男は私の前にやってきた。
龍園翔――Cクラスのリーダーであり、私たちの敵。今回の試験、私たちは彼らに攻撃を仕掛ける。きっと、気の弱そうな私から情報を抜こうとしているのだ。でも、仮にどんなことをされても、私は口を割るつもりなどなかった。
けど、彼はそんな私の決意をあざ笑うかのように、とんでもないことを口にしてくる。
「これから、俺たちの用意した問題を教師に提出しに行け。出来なければ、お前の大事な一之瀬が酷い目に合う。それでもいいなら、好きにしな」
そう言って、不気味な笑みを浮かべながら、龍園は帆波ちゃんを人質に取ってきた。この男はこれまでも平然と他人に暴力を振るったり、クラスを裏切ったりしてきている。私が言うことを聞かなければ、本当に帆波ちゃんに酷いことをしかねない。
私は、彼の言うことを聞かざるを得なかった。クラスを裏切るのは心苦しい。でも、それ以上に帆波ちゃんが酷い目に合うのは耐えられなかった。
帆波ちゃんは、普段より元気がないと私のことを気にかけてくれている。なのに、私はその心配を裏切っているのだ。でも、龍園のことをバラせば帆波ちゃんは酷い目に合わされる。話す訳にはいかない。
こんな状況にも関わらず、私はクラスを――帆波ちゃんを裏切っているという背徳感から自分を慰めていた。この心苦しさから逃げるためには快楽に逃げるしかない。結局、私に出来ることはただ黙って全てが終わるのを待つことだけだった。
そんなことを考えていると、試験数日前に龍園がBクラスにやってきて、私のやったことを全て暴露し始めた。当然、クラスメイトたちは驚きながら私を見てくる。
ああ、そうか。最初からこれが目的だったんだ。
私が裏切ったとわかればクラスは荒れる。ただでさえ、問題文が差し替えられている中、Bクラスがボロボロになれば、万が一にも龍園の負けはない。あいつは、最後まで勝利するために私を陥れてきた。
これで、私は終わりだ。みんなから糾弾されて居場所がなくなり、帆波ちゃんからも捨てられる。
でも、いい。それだけのことをした自覚はある。もう何も言うことはない――と、ただ裁きが来るのを待っていたが、帆波ちゃんや他のみんなも、私を責めるようなことはしなかった。
それ所か、本来なら私のせいで負けるはずだった試験は、何故か勝利に終わっていた。いや、Aクラスからの防御に失敗しているので、正確には勝利ではないがCクラスへの攻撃は成功している。
何が何だかわからなかった。
私が呆けていると、帆波ちゃんはいつもの笑みを浮かべて秘密を教えてくれた。聞けば、事前に龍園の行動を予想していた帆波ちゃんは、星之宮先生に「問題の提出権利を持っているのは自分なので、他の生徒が問題文を出しても受理する振りだけしてください」と頼んでいたという。
私はまた帆波ちゃんに助けられてしまった。こんなの、好きになるなという方が無理だ。
ずっと蓋をしていた気持ちがまた溢れ出してくる。何としても彼女に振り向いて貰いたい――けど、帆波ちゃんは綾小路くんと付き合っている。彼女が彼を愛している以上、私に出来るのは彼女を想うことだけ。
と、思っていたある日のことだった。
綾小路くんが、帆波ちゃん以外の女の子とデートをしているのを見たのは。
最初は見間違いかと思った。帆波ちゃんのような彼女がいて、浮気なんてするはずがない。けど、綾小路くんが他の子とデートをしているのは一回や二回じゃなかった。
時には先輩と、時にはクラスメイトの女の子と、代わる代わる女の子を代えてデートを繰り返している。挙句の果てには、クリスマスですら、彼は帆波ちゃんではなく、別の女の子とデートをしていた。
だから、男は信用できない。口先だけで愛を囁いて飽きたら捨てる。結局、男は下半身でしか女を見ていないのだ。
でも、これはチャンスだった。
この浮気を帆波ちゃんに伝えれば、綾小路くんと別れるかもしれない。そして、男によって傷ついた心を癒せるのは、同性の友達である私――と、内心笑みを浮かべながら、帆波ちゃんに全てを伝えた。
流石に驚いている様子だったが、「そっか、ありがとね。教えてくれて」と言うだけで、特に変わった様子は見えない。
何で怒らないの?
あの男は帆波ちゃんを裏切ったんだよ?
そんな私の心の疑問を無視するかのように、帆波ちゃんは変わらず綾小路くんとの関係を続けていた。意味が分からない。帆波ちゃんは騙されているのに――と、何度もそれとなく別れることを提言しても、帆波ちゃんは曖昧な笑みを浮かべて誤魔化すだけ。
それでも諦めきれずに説得を続けていると、帆波ちゃんは少し怒ったように「これは私たちの問題だから、千尋ちゃんは気にしなくていいよ」と、突き放したように言ってきた。
なんで、私が怒られるの?
怒られるべきはあいつなのに。
理不尽に思える怒りをぶつけられ、気が付けばまた私は自分を慰めていた。帆波ちゃんに怒られてショックを受けていたのに、私はそれを喜んでしまっている。
ああ、私もまた異常なんだ――と、考えながら日々を過ごしていると、その事件は起こった。
結果的に、帆波ちゃんと別れることになりそうだったのは、綾小路くんではなく私の方だったのだ。
新年早々に始まった特別試験で、私は龍園クラスの罠にかかって退学の危機に陥った。帆波ちゃんは迷わず、クラスポイント300とプライベートポイント2000万を使って私を救済してくれている――けど、そのせいで、私たちはCクラスに転落し、日々の生活も苦しいものになってしまった。
少しして、畳みかけるように、クラス内投票という誰かを退学にしなければいけないという無慈悲な特別試験が開催される。既に2000万PPを吐き出したうちのクラスに、救済のためのPPはない。今度こそ誰かが犠牲になる。
標的の第一候補は私だった。
勿論、言葉にしてそう言われた訳ではない。けど、私は自分でも男性に対する態度がたまに悪くなるのを自覚しているし、ペーパーシャッフルや前回の混合合宿でもクラスに迷惑をかけている。標的としてはこの上ないだろう。
表立って声が出ないのは、クラスメイトたちが優しいというのもあるけど、前回わざわざポイントを支払って私を救済したからだ。その私をここで切れば、前回何のためにマイナスを支払った――と、いう話になる。
こんな状況だと言うのに、私は自分が退学にさせられると考えながら自分を慰めていた。もはや、現実から逃げるように指を動かし続ける。
結局、このままいけば私か、誰かが犠牲になるのは間違いなかった。それでも、帆波ちゃんは「私は最後まで諦めない」と、クラスを鼓舞している。
そして、帆波ちゃんは宣言通り、2000万PPをかき集めてきた。正確には、クラスのPPも足してなので、完全な2000万PPではないが、ほぼ2000万を集めたに等しい。
クラスは大いに喜んだ。
これで誰も退学にならずに済む。けど、帆波ちゃんは誰からこのPPを借りたかを頑なに口にしなかった。
代わりに、4月から翌年の3月までに利子込みで2000万PPを返済しなければいけないらしいけど、みんなで力を合わせれば何とかなる――そう、私は信じていた。
しかし、私は知らなかった。
帆波ちゃんがクラスを救済するために、どれだけ重いものを賭けていたのかを。
私がその真実を知ることになったのは、二年に上がって綾小路くんとまともに話をするようになってからだった。
SIDE16は白波について。
本編で触れる機会なかったんで、ただの変態オナニストになっちまいましたが、本格的に触れるのは他の女子と同じく二年からのお楽しみにしておきます。
また、アンケもありがとうございました。とりあえず、連続更新派もいるみたいなんで、章毎に区切ってそこまでは連続更新しようと思います。
まずは、入学から中間テストまで。次に須藤の事件から夏までみたいな感じで、本分と同じように区切って纏めて更新します。
まだいつアップするか決めていませんが、多分そう遠くないうちにアップすると思いますので、よろしくお願いします。
前にR18も、今まで通りに書き切ってから更新するってことにしたんですが、R18をちゃんと書いたことがないからこれでいいのかわからなくなってきました。もしかしたら変かもしれないし、やっぱり出来上がりから更新する形でもいいですか? で、変な所とかおかしな所があったら修正するって形を取りたいかもです。
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それでもいい。質のいいR18を作っていこ
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毎日更新派だから嫌。気にしないから書いて