西野とのつかの間の逢瀬を終えると、恵、千秋、佐藤の三人に連絡して篠原を呼び出して貰うことにした。
原作ではこの日、小宮との話し合いの後にすぐグループを作ってしまうが、この世界で篠原は池と付き合っている。いくら池に非があるとはいえ、このままろくに話もしないまま浮気のような真似をするのは篠原にとっても良くないことだとわかっているだろう。
「池くんが悪いんだから仕方ないじゃん!」
「ほら、麻耶。落ち着いて……」
「そうだよ、それに清隆だって別に篠原さんの行動が悪いなんて言ってないんだし」
佐藤はまだ怒っているようだが、それでもこのまま仲直りしないのも良くないというのもわかるようで、千秋や恵の説得を受けて渋々ながらも提案を受け入れてくれている。
とはいえ、基本的に他人に興味のないオレが、色恋についてどうこう言うことなどない。恵や千秋はそれがわかっているようで、あくまでクラスが勝利するために池のメンタルケアをしているだけというのを理解している様子だ。
早速連絡を付けて貰おうと思ったが、篠原派になっている佐藤に任せると、最悪篠原の勢いに飲まれかねないので、ここは冷静に話を進められる千秋に呼び出しを任せる。
佐藤が相手なら、篠原も感情に任せて取り込むことが出来たかもしれないが、千秋は相手を興奮させないように言葉を選びながら、「このままじゃ篠原さんも落ち着かないでしょ? 少し話して、気持ちの整理つけない?」と提案していた。篠原も、千秋が親身になってくれているというのはわかるようで呼び出しに応えそうな素振りを見せている。
また、そのタイミングで、恵が横から口を出して篠原をリラックスさせていた。飴と鞭――ではないが、篠原も恵が「別にそんな真剣にならなくてもさ、池くんの悪口言いたいだけ言えばいいんだよ」と、軽口を叩くのを聞いて少し安心した声を漏らしている。
そんなこんなでオレの部屋に集合となった。
普通、何故男子の部屋に集まるのか――と、疑問を浮かべる場面だが、篠原も前にこのメンバーで一度オレと関係を持っているので、特に文句を言う素振りは見せていない。
ただ、オレに何か言われるのではないかとは思っているようで、少し居心地悪そうにしていた。だが、先程も言ったが、オレから二人の関係について言及するつもりはない。あくまで、池ともう一度だけ話をしてやって欲しいと篠原に頼みたいだけだ。
「って訳で、オレは話をすべきだと思う。篠原だって、今の自分の行動が全部正しいとは思ってはいないだろう?」
「それは……」
篠原も居心地の悪い感じを抱えているからこそオレの言葉に返事が出来ない。何にせよ、別れるにしろ別れないにしろ、小宮とのグループを確定する前にもう一度池と話し合って、お互いに納得できる答えを出すべきだとオレは思う。
「わかった……」
――と、伝えると、篠原もずっとこのままでいいと思っていた訳ではないようで頷いてくれた。
「でも、直で会うと喧嘩しちゃうかもしれないから、電話でもいい……?」
「篠原がその方がいいと思うなら、いいんじゃないか?」
恵、千秋、佐藤の方を見ると頷きを返してくる。
実際、顔を見れば言いたくなくても文句を言ってしまう可能性はあった。そうなれば意味がないので、電話というのは悪くないかもしれない。後は、池が素直になれるかどうかだが――と、思いながら、篠原が池と電話するのを見守っていく。
通話が繋がると、篠原は一度深呼吸してから「話、いい?」と声をかける。スピーカーモードにしているようで、電話口からは池の「ああ、いいよ」という返事が聞こえた。
どうやら、今日見た光景がかなりショックだったようで、心なしか池の声に元気がない。だが、そのおかげで揉めることなく二人は話をすることが出来ていたので結果オーライかもしれなかった。
改めて、篠原は池に素直な気持ちを伝えていく。
大事にするあまりに、たまに上から目線になるのが好きじゃなかったこと。もっと対等で、お互いに気の置けない関係になりたいこと。小宮とグループを組もうとしたのは、半分は池への当てつけもあるが、根底には自分だけで池を見返してやりたいという気持ちがあったと言うこと――池は騒ぎ立てることなく電話越しで全てを聞いていた。
そして、池も返す。
上から目線のつもりはなく、守ってやりたいと思っていただけだと言うこと。自分が篠原に甘えて、そっちの気持ちを大事にしてあげられなかったこと。今日、篠原と小宮が楽しそうにしているのを見て、涙が出る程悲しくなって、改めて篠原を失いたくないと思ったこと――半分涙声で、池も自分の気持ちを伝えている。
「……ごめん」
池の元気がない原因が自分にあるとわかった篠原は、静かに謝罪の言葉を返した。
『いや、元は俺が悪いから……』
しかし、元々は池が他の女の尻を追っかけたのが悪い。池自身もそれはわかっているようで、篠原を責めることなく反省した様子を見せている。
良い感じの雰囲気になって来たし、オレはてっきり、ここで池が「もう浮気しないから自分と一緒にグループを組んでくれ」――と、言うと思っていたのだが、池は自分の気持ちを押し付けるのではなく、篠原の気持ちを尊重する動きを見せた。
小宮とグループを組むのを認めたのだ。
今回の特別試験は、篠原の好きにさせる。勿論、危なくなったり、手を貸して欲しかったりした時はいつでも助けるつもりだが、篠原のもっと対等になりたいという気持ちを尊重して、この試験では敢えて篠原とは組まないという答えを出していた。
「小宮から誘惑されても靡くなよ」
とはいえ、それと浮気を認めるのは別問題のようで、池がこれでもかと念押ししている。
「私の心配よりも、自分が浮気しないように気を付けてよね。あんた、すぐ他の女の尻追いかけていくんだから」
だが、篠原もちゃんと話をしたことでスッキリしたのか、今回の騒動の原因である池の女子に対する調子のよさを指摘して、逆に何も言えなくさせていた。
まぁ、篠原としても、ここまで来て今更小宮と組むのはやっぱり無理とは言えないだろうし、池のメンタルに大きな影響が出ないのであれば別に同じグループじゃなくても問題ない。
もし仮に無人島試験で告白を受けて篠原が池を捨てて小宮と付き合うことになったとしても、それはもう当人たちの問題であって、オレたちがどうこう言うようなことじゃないしな。
紆余曲折を経て、無事に池と篠原の問題が解決する――と、今度は仲良し4人組による女子会がそのままオレの部屋で行われた。
電話でも直接言えなかったもっと深いプライベートな悩みもあけすけに話している。正直、オレがここにいるのは場違いなような気もするが、ここがオレの部屋である以上は逃げることも出来なかった。
しかし、池。やはり、彼女がいるのに他の女子に色目を使うのは良くないことだぞ。女子はそういうのいろいろ見えているらしいから、あまり露骨にメロンやピーチを見ていると今度こそ振られるかもしれん。まぁ、知らんけど。
と、話している間にテンションはどんどん上がっていき、最終的には溜まっていたストレスを全てぶつけるように4人が裸になってオレのTレックスに群がってきた。
ぶっちゃけ、篠原を除く3人に至っては、最初からこれが目的だったような気もするが――篠原も篠原で何だかんだ期待していたようで、一緒になって服を脱いでいる。
とりあえず、「池のことはいいのか?」とだけ聞くと、「これは、綾小路くんを使った自慰行為だから」と、意味不明な言い訳をしながらTレックスに舌を伸ばしていた。
恵や千秋、佐藤と一緒なのもあって完全にはっちゃけており、普通では出来ないようなプレイも進んでしている。最終的には大喜びで腰を降っており、「これっ、あいつのじゃ届かないのっ」と、可哀想な彼氏への文句を口にしていた。
確かに、池との約束通り小宮とは浮気しなかったが、オレとは浮気してしまったな。
◇◆
池と篠原の問題が解決した次の日――篠原は原作通りに小宮とグループを組んだ。三人目は原作通りに龍園クラスの木下となっており、池もまた篠原の疑念を解消するために原作通り須藤や本堂と男子だけのグループを組んでいる。
これで、とりあえずの懸念は解消されたと言って良いだろう。後は個人的な問題として、西野をどうやって攻略するかだ。
「あ、お……おはよう。綾小路、くん」
「ああ」
今日も今日とて桔梗は忙しくしているようだったので、先に西野と合流する。昨日の今日だが、しっかりと意識させることは出来ていたみたいで、西野はオレと会うなり少し気恥ずかしそうな表情を見せた。
とはいえ、別にこちらが気にすることではないので、昨日と同じように接触していく。
西野も、すぐにオレが昨日通りだとわかると小さな笑みを浮かべたが、事故を装って体を密着させると顔を真っ赤にしてあわあわしている。
オレと接触したことでTレックスのことを思い出してしまったのか、そこからはチラチラとTレックスを伺うような視線が増えたので、それとなく距離を詰めて歩くようにした。
「悪いな、桔梗も忙しいようでもう少し待たせることになる」
「ううん、櫛田さんが忙しいのは知っているし、半分はうちのクラスのせいみたなものだもん」
男女の境界線――他人から見たらちょっと距離が近いかもしれないくらいの絶妙な位置をキープする。
おそらく、西野もちょっと距離が近いと思ってはいるだろう。しかし、それをあえて指摘するようなことはして来ない。西野自身、今のこの状況に酔っているのだ。
日頃、一人でいることが多い弊害と言ってもいいだろう。これは鈴音にもあったことだが、普段一人でいる人間は他人に優しくされることに慣れていない。
鈴音の場合は基本的に他人を拒絶していたので弱っている時に優しくしたのが良く効いたが、西野の場合は他人を拒絶していないので普通に楽しいという気持ちをくすぐってやるだけですぐにこちらに転げ落ちてくる。
そもそも西野は一匹狼を自称してはいるものの、それは友人を作るのが下手なだけであって本心では普通の交友関係を望んでいる節があった。
本当に他人を寄せ付けないタイプの人間は、興味本位で他人のことなんか気にしない。それこそ、原作の鈴音や澪のように進んで一人でいることを望むものだ。
「? どうしたの?」
「いや、なんでもない。そうだ、時間を潰しにゲーセンにでも行かないか?」
とはいえ、それを表立って指摘すると、西野が意固地になってしまうのは目に見えているので、オレの心のうちに留めておく。
別に西野を論破したい訳ではない。あくまで、西野の性格を分析するにあたってそういう結論が出たというだけの話だ。
しかし、一匹狼を気取っているだけあって、中途半端に孤立している人間は崩しやすかった。下手に友人が多かったりすると近づくだけでも一苦労だし、他人を拒絶している場合はなかなか懐に潜り込めない。
「意外。綾小路くん、ゲーセンとか行くんだ」
「いや、逆に普段はあまり行かないな。だからちょっと興味がある」
勿論、だからと言ってすぐに食べられるという訳ではなかった。今はまだ準備段階、本格的に動くのはもう少し先になる。
今は出来るだけ西野を楽しませることが大切だった。オレとの時間を楽しいと思えば思う程、離れた時にオレのことを考えるようになり気持ちは強くなっていく。なずなの時と似ているかもしれないが、基本的に恋心を擽っているので大体動きは似通ってくるものだ。
ぱっと見、友人以上恋人未満という感じで、会話自体は昨日よりも弾んでいた。まだ一日だが、西野との距離はかなり縮まったと言って良いだろう。
そんなこんなで時間潰しも兼ねてゲームセンターに来ていた。クレーンゲームで西野が欲しがったぬいぐるみを取って機嫌を取っていく。
去年のクリスマスに、佐藤に同じようなことをした経験があったおかげもあって、そこまでPPを消費せずにぬいぐるみを取ることが出来た。
「あ、ありがとう、綾小路くん……大事にする」
貰ったぬいぐるみを、西野が大事そうに抱きかかえる。こんな小さなぬいぐるみ一つで、西野の機嫌が買えるなら安いものだった。
今の距離なら手を繋いでも振りほどくことはされなさそうだが、一応一匹狼気質ということでもう少し様子を見ても良いだろう。
別に今日明日すぐにどうこうしたいという訳ではない。もう少し、このぬるま湯のようなおままごとを続けて西野の気持ちをこちらに寄せていく。
「あー! 綾小路くん、西野さん! ごめんね、待たせちゃって!」
だが、流石に二日間も連絡がつかないというのは変なので、程々のタイミングで桔梗に連絡を取って合流した。
そのまま適当なカフェに入り、桔梗自慢の交友関係を駆使して西野に会うグループを構築して貰う。桔梗は会ってすぐに、西野がオレに気があること、オレが西野を狙っていることに気付いたようで、敢えてやきもちを焼かせるかのように体をこちらに密着させてきた。
「ちょっ!」
「ん? どうしたの、西野さん?」
「な、なんでもない……」
狙っていた相手が他人に取られるかもしれない――という嫉妬の感情は、劇薬となって西野の気持ちを大きく膨らませる。
流石は桔梗だ。何も説明しなくても的確なサポートをしてくれる。西野も今は何となく気に入らないような気分になっているとしか思えないだろうが、時間が経って落ち着いて来れば自分が嫉妬していたと言うことに気付くはずだ。
その気持ちを自覚した時、西野がどう動くか。
ここからは少し時間を置こう。せっかく桔梗が煽ってくれたのだ。会えない時間を作って危機感を刺激してやった方が良い。
とはいえ、何もしないというのも勿体なかった。
西野はDクラスだし、澪を使って――いや、あのクラスにはオレの玩具たちが残っていたな。未だにあいつらはTレックスを忘れられずにたまに連絡してくるし、龍園もクラスに損害を与える訳じゃないなら、勝手に駒を使っても文句を言うようなことはないだろう。
真鍋、藪、山下、諸藤の四人に連絡を取る。
去年もたまたま会って遊ぶことはあったが、基本的にはずっと放置していた。しかし、連絡を取ると、五分も経たない内に返事が戻ってくる。
どうやら、まだオレの言うことを聞くつもりはあるらしい。報酬にTレックスをチラつかせたら、クラスを裏切らない範囲でなら何でもすると言ってきた。
彼女たちには、それとなく西野の傍でオレに好意的な話をして貰う。別に話しかける必要はなかった。聞こえるくらいの距離感で適当に世間話をするだけでいい。
今は特別試験の準備期間ということもあって、他クラスの生徒の話をしていても不審がられることもないだろう。そして、西野は真鍋たちがオレに気があるとわかれば、表面上はともかく内心では焦るはずだ。
そうやって、離れている間も心を擽っていく。
最終的には、西野が自分からオレに接触してくるのが理想だ。取られる前に取ってしまえ――という気持ちになれば、何をされても文句は言えないだろう。
と、思いながら、桔梗と西野が話すのを見ていると、西野のグループメンバーは幸か不幸かひよりと真澄になっていた。これなら、上手くすれば無人島試験の間に西野を食べることも不可能ではないかもしれないな。
原作との変化点。
・篠原と池の間を取り持った。
原作と違って正式に付き合っていることも有り、拗れる前に解決した。結果、BSSからNTRにジャンルが変更されている。
・西野攻略中。
書いていて、こいつ女攻略している時は本当に生き生きとしている。親父殿の血が表面に出過ぎてて草だった。
・西野のグループを決めた。
真澄、ひより、西野の3人グループになった。ひよりは基本相手を嫌う素振りを見せないし、実際に西野はひよりに何かしていた訳でもないので人間関係的な問題はない。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
池と篠原の件は解決(?)した。西野には焦らし作戦を決行中。
・櫛田桔梗
マジで忙しいがしっかりご主人様のサポートはしている。こいつ、マジでいい女過ぎる。
・軽井沢恵
篠原派に回る佐藤を、千秋と二人で何とかたずなを握った。飴と鞭の飴担当。
・松下千秋
篠原派に回る佐藤を、恵と二人で何とかたずなを握った。飴と鞭の鞭担当。
・佐藤摩耶
最初は自分が篠原さんを説得しなきゃと意気込んでいたが、ふたを開けたら篠原に懐柔されてしまった単純な子。でも、馬鹿な子ほど可愛いともいう。
・篠原さつき
数分前に池に自分が浮気する訳ないと言い切ってこのザマだった。地味に原作以上に悪いのではないだろうか、この女。
・西野武子
清隆をとても意識している。相手はイケメンで、社交性があって(演技)、自分にだけ見せる一面があって(演技)、優しくて(演技)、ずっと自分のことを気にかけてくれている(演技)。そんなん好きになっちゃうやん。
・池寛治
篠原が自分から離れなくて一安心しつつ、小宮に篠原が奪われる妄想で一人自家発電に盛り上がっていた。今回の件で性癖が変わった被害者。