SIDE:坂柳有栖
グループ作りが解禁されてから初めての週末である金曜日の放課後、私は橋本くんを通じてとある人物を呼び出していた。
同席しているのが、Aクラスで唯一私に反抗的な態度を見せている葛城くんであるということを踏まえれば、頭のいい人であれば誰を呼び出したかはわかるかもしれませんね。
当の葛城くんは、呼び出した相手が時間通りに来ないことで、私と二人きりの状況に居心地の悪さを感じているようですが、彼がいないと話がスムーズに進まないので居て貰わないと困るので我慢して貰うしかない。
とはいえ、今更世間話をする仲という訳ではないので、互いに黙ったまま時間は無駄に過ぎていった。そのまま、約束の時間から1時間程過ぎると、目的の人物はニヤニヤした表情を浮かべながらこちらに歩いてくる。
「来てくださってありがとうございます、龍園くん」
「クク、遅くなって悪かったな。そっちの葛城の様子を見るに、二人で待っているのは余程息苦しかったと見える」
「葛城くんはどうか知りませんが、私は楽しかったですよ。葛城くんが何とも言えない表情を浮かべるのを見るのは」
正直、龍園くんが遅れてくることなど予測がついていた。それに合わせて集合時間をずらしてもよかったのですが、龍園くんはおそらく私が待っているかどうかを仲間に確認させていたはず――そう考えると、下手な小細工は逆効果になりかねない。
ここは彼の子供騙しの駆け引きに乗ってあげた方が、結果的にこちらの利になる。
「それにしても、まさかお前から連絡が来るとはな」
「意外でしたか?」
「そうだな。俺がお前なら、組む相手は俺じゃなくて一之瀬を選ぶ」
確かに、もし何のしがらみのない状況であれば、私もパートナーには一之瀬さんを選んだでしょう。しかし、彼女の後ろにいる人物のことを考えれば、迂闊に接触する訳にも行きません。
「どうやら、龍園くんはまだ気づいていないみたいですね」
こちらがストレートにそう突き付けると、龍園くんが何やら思案した様子を見せる。ですが、心当たりがないようで、すぐに考えるのを止めてこちらを睨みつけてきた。
「……気づいていない、だと?」
「一之瀬さんの裏にはある人物がいます。と、言えばわかりますか?」
流石の龍園くんも、綾小路くんの実力には気づいているようですし、ヒントを与えれば一瞬で答えに辿り着く素振りを見せる。
「成程なぁ……最近のらしくない動きはそういうことか」
「私があなたに接触した理由はお判りいただけましたか?」
「あぁ。確かに、今の状況ならそう動く以外にない……」
と、話していると、この場で唯一話に着いていけていない葛城くんが疑問を口にしてきた。
「さっきからお前たちは何の話をしているんだ?」
「BクラスとCクラスは綾小路が裏から操ってるって話だよ。詳しくは後で説明してやるから今は黙ってな」
「綾小路? なんで、そこで綾小路が出てくる?」
「葛城くん。その話は長くなるので後でお願いします。今は私と龍園くんで話をさせて下さい」
「……勝手なことを。なら、俺をこの場に連れてきた意味などないではないか」
「あなたがここにいるということが重要なんです。しかし、それをわざわざ説明する義理はありません」
スパっと、葛城くんの疑問を一刀両断すると、また何も言えない顔をする。実際、今は彼にかけている時間はありません。
葛城くんも納得できない様子を見せますが、私に逆らえばどうなるかをわかっているからこそ、渋々と言う感じで矛を引いた。そんな葛城くんを横目で見ながら、龍園くんが改めてこちらに向き直る。
「それで、俺に話っていうのは?」
「そうですね、本題に入りましょう。率直に、今の状況を踏まえて、私と手を組む気はありますか?」
龍園くんに対しては下手に言葉を飾るよりも、直接的に物事を伝えた方がいいでしょう。
向こうも、私がこういう提案をしてくると言うのは考慮の上だったようで、特に驚いた様子は見せない。いえ、私相手だからこそ、龍園くんはそういう隙を見せないようにしている――と、言うべきでしょうか。
「確かに、今のDクラスが学年で見ても最下位。Cクラスとは僅差だが、Bクラスとは400ポイント近くの差を付けられている。Aクラスに至っては600ポイント以上……」
「今回の試験で、Dクラスが1位から3位の全てを独占できればその差は埋まりますが、全学年で戦う今回の試験がそんな簡単なものではないのも、龍園くんならお分かりだと思います」
「だからこそ、今回は単独で1位を狙うのは捨て、クラスを浮上させるためにお前と組む……確かに悪くない話だ」
しかし、それでイエスと答える程、龍園翔という人間は素直な人間性をしていない。
「だが、答えはノーだ。理由はわかるな?」
「前回の特別試験の動きから見て、龍園くんは私を倒そうとしている。故に、その相手である私と組むなど有り得ない……と、いうことですね」
「そういうことだ」
「勿論、私もあなたが簡単に首を縦に振るとは思っていません。だからこそ、葛城くんを連れて来たんですから」
ここで、しばらく黙っていた葛城くんが話を振られてピクリと反応を見せる。龍園くんも、舌打ちしながら「そういうことかよ」と呟いた。
「もし、私と組んで頂けるなら、葛城くんをプレゼントしましょう。クラス間移動に足りないPPも、私が融資します」
「……いつから、俺がこいつを狙ってるって気づいてやがった」
「確信を持ったのは最近です。あなたのクラスもそうですが、2月に優秀な生徒を一人引き抜かれていますからね。他に優秀な生徒を引き抜こうと考えてもおかしくはありません。そんな中、葛城くんは私に恨みを持っていて引き抜きやすく能力も高くて優秀です」
事実、龍園くんはそう遅くない内に、葛城くんにアプローチをかけようと思っていたはず――少なくとも、無人島試験が始まる前までには、クラス移動をさせようとしていたのでしょう。こちらの指摘を受けて、わかりやすく嫌な顔を浮かべている。
「待て、何の話をしている? 俺をプレゼントするとはどういうことだ? 本人をそっちのけで何を勝手なことを言っている……!?」
「では聞きますが、葛城くんは今のままAクラスに居てどうするつもりなのですか?」
「それは……」
「元々、あなたと私は意見が合わなかった。その上、私は去年戸塚くんを退学させており、あなたはそれを恨んでいる。しかし、私がAクラスを支配している以上、表立って逆らえば他の生徒が火の粉を浴びかねない。だからこそ、裏切ることもできない。ただただ燻っているだけしか出来ない可哀想な存在――それがあなたです」
もっといえば、去年の無人島試験で龍園くんと結んだ契約――あれもあって、彼はもうどうにもできない状況になっていた。
「だから、チャンスを上げようと思ったんですよ。私としても、いつまでも暴発の危険がある爆弾を抱えておく趣味は有りません。ここで、あなたを手放すことで、龍園くんの手が借りられるなら安いモノでしょう?」
「待てよ、坂柳。それを聞いて、俺がハイ受け取りますって言うと思うのか?」
「言わないかもしれませんね。ですが、その意地を張って私と対立するよりも、私の提案を受け入れて、優秀な生徒を安く手に入れた方がメリットが多いのは明白なはずです」
逆に、ここで彼が私の手を取らないのであれば、龍園くんに脅威は感じない。つまらないプライドに固執しているようでは、私は当然のこと、綾小路くんにも勝つことは出来ないでしょう。
「チッ……おい、葛城。うちに来る気はあるか? そこの意地の悪い女の言う通り、俺は今回お前を引き入れることを考慮に入れていた。お前は死人のまま、まだどこかで生き返るチャンスを模索している。そうだろ?」
「確かに、思う所がない訳ではない。実際、俺が坂柳と対立関係であることは認める。しかし、クラスメイトに迷惑をかけることを望んでいる訳ではない」
「迷惑をかけることを望まないだぁ? 去年の無人島試験以来、お前らAクラスは俺との契約のために毎月せっせと大金を払ってるじゃねぇか」
「アレは対等な契約だ。お前たちのクラスからポイントを受け取り、それをAクラスが代わりに払っているに過ぎない」
「数字だけを見ればな。だが、結果的にお前は敗北し、デメリットの方が強くなっているのが現状だ。他のクラスメイトだって、毎月精神的ダメージを負っているんじゃないのか? 何故、自分たちのPPを分け与えなきゃならないんだ――とな」
結局、去年の無人島試験でAクラスが得たCPは僅か70――PPに換算すれば7000PPです。
対して、龍園くんとの契約で毎月支払っているのは20000PP、とても対等とは言えないのは葛城くんもわかっているでしょう。
「だから、お前のクラスに来いと? Aクラスの地位を捨てて、最下位クラスに行けと?」
「仮にこのままAクラスに居たとして、お前は満足できるのか? いつか、坂柳に捨てられるわからない状況に怯えるのと、俺に力を貸してそこの女を引き摺り下ろすのとどちらがいいかなんて、考えるまでもないことだろ」
その言葉がトドメになったのか、葛城くんも真剣に移動を考えているようで口を閉ざした。では、ここからは値段交渉と行きましょうか。
「葛城くんの今の手持ちはいくらですか?」
「……160万程だ」
「龍園くんが出せる金額はおいくらですか?」
「ここ数か月貯蓄して1200万って所だな」
「合わせて1360万ですか……残りの640万はなかなかに厳しい金額ですね」
「ケッ、悩むフリなんてしてねぇでとっとと本題を言え。俺がAクラスとしている契約を破棄すればいいだけの話だろうが」
「……まぁ、いいでしょう。今回はそれで640万を負担してあげます」
本当ならもう少しごねて譲歩を引き出してもいいのですが、本題は無人島試験の方なのでここで時間を取られるたくはありません。
仮に譲歩を引き出したとしても500万くらいでしょうし、私たちの資金からすれば誤差のようなものです。
それに、龍園くんとの契約を破棄できれば、今後のPPは1000万程浮きますし、PPを支払う精神的負担もなくなり気持ちもリセットできます――結果的にこちらが得をしているのは間違いありません。
「では、話が纏まった所で本題に入りましょう。次に行われる無人島サバイバル試験は、少々厄介なルールになっています。同学年でしかグループを作ることが出来ず、報酬のCPは平等に分配される。つまり、選りすぐりのメンバーを各クラスから集められたとしても、CPに開きは一切生まれません」
「だからこそ、必然的に自分たちのクラスで勝ち抜けるグループを作ることになる」
「しかし、それでは選りすぐりのグループとは言えません。どうしても、自分たちのグループだけでは賄いきれない部分も出てくる……ですが、2クラスになれば? 76名のメンバーから自由に選出が出来れば話は変わってくるでしょう」
「で、誰が欲しいんだ?」
「話が早くて助かります。伊吹さんと山田くんを貸してください。代わりに、こちらから好きなメンバーを引き抜いて貰って構いません」
男子はともかく、うちのクラスは女子で明確に強力といえるような生徒がいない。
私自身が動けないというハンデを持っている以上、グループを作る上で能力の高い男女を得るのは必須事項――そういう意味では、本当なら一之瀬さんが欲しかったのですが、裏に綾小路くんがいる以上、簡単に靡くことはないので諦めるしかありません。
「そういや、お前は無人島試験に参加できんのか? 去年は欠席してただろ?」
「ええ。この足では無人島で歩き回ることは出来ません。しかし、今年は参加を認めて頂きました。少々特殊な立ち位置にはなってしまいますが……」
「特殊?」
「試験開始時点で、体調不良等により参加できない生徒は最初からリタイアの枠に入りますよね? ですが、私は『半リタイア』という形で参加できることになっています」
「半リタイアだと?」
「足が不自由なため、島を自由に歩き回ることはできませんが、スタート地点に留まり皆さんと同じようにルール内で戦うという権利です。つまり、意見を求められば答えることが出来ますし、難題に対して共に取り組むことも可能だと言うことです」
ただし、私がグループの最後の一人になってしまった場合は、その時点でグループの敗退も決まりますが、それは話す必要はないでしょう。
これが一之瀬さん相手なら素直に話して信頼を得ていましたが、龍園くん相手に弱点を晒すのは付け入る隙を与えるようなもの。何かの理由で裏切ると言う可能性もある以上、情報共有は最低限に留めておく必要がある。
「成程、だから動ける手足が欲しかった訳だ」
「Aクラスは、男子はそこそこ実力者がいるのですが、女子の方は平均的な生徒しかいませんからね。伊吹さんのような動ける女性は貴重なんです」
「伊吹は素早さに秀でていて、逆にアルベルトは学年屈指のパワーを持っている。お前が頭脳面を補強できるなら、これほど強力なグループはない訳だ」
「そちらはどうしますか? 橋本くんでも鬼頭くんでも、好きな人材を持っていってもらって結構ですが……」
「橋本を貰っておいてやる。あの野郎が居れば、お前との連絡にも困らないからな」
橋本くんを迷わず選びましたか。どうやら龍園くんには、自分と橋本くんの繋がりを隠すつもりはないようですね。
まぁ、橋本くんも最近はしきりに綾小路くんとグループを組め、PPを貯めてクラスに引き入れろとうるさいですし、今回は龍園くんとの連絡役にした方が静かになるでしょう。
「では、鬼頭くんには遊撃を頼みましょう。私の方は、私、伊吹さん、山田くんのグループ。そちらは龍園くん、葛城くん、橋本くんのグループで上位を狙う……1位、2位を独占できるのが理想ですね」
もっとも、私が龍園くんと手を組もうと思った理由は、戦力の補充だけではありません。
彼はまだ気付いていないようですが、今の綾小路くんの影響力はもはやBクラスやCクラスだけに留まるものではない。
生徒会長である椿雪――彼女もまた、綾小路くんと同じホワイトルームから来た人間だ。
私は、幼少期の綾小路くんを知っている。
だからこそ分かる。
彼女は、偶然そこにいるのではない。
綾小路くんの最も強力な駒の一人として、生徒会長の座に君臨している――もっとも、その事実を今ここで龍園くんに教えるつもりはありませんが。
◇◆
SIDE:龍園翔
坂柳はこちらとの契約を終えると、そそくさと帰っていった。お付きの山村が近くにいたようで、話が終わると同時に姿を現している。
正直、今回の試験で坂柳と組む気はなかった。
去年の冬。綾小路に提示された挑戦権の条件――それは、一之瀬と坂柳を倒すこと。一之瀬に関しては、去年の学年末試験でケリをつけている。アルベルトがしてやられたが、最後に勝ったのが俺である以上、俺の勝利であることは変わらない。
後は、この無人島試験で坂柳さえ倒せば、あの野郎にリベンジするための準備は終わる――はずだった。
だが、綾小路が自分のクラスだけでなく、一之瀬のクラスも裏から操っているという情報を聞かされた上、葛城というおまけを乗せられては首を横には触れない。
ここで、下手に坂柳を拒絶した場合、最悪はA、B、Cクラスによる連合軍が出来上がる可能性もある。それに、プライドを取って葛城を取らなかった場合、仮に上手く坂柳を倒したとしても葛城がリーダーに復帰しかねなかった。
そうなればAクラスは強固な城塞となり、この先崩すのがより難しくなる。だが、先に葛城を奪い、その後で坂柳を倒せば、頭を失ったAクラスは自然と崩壊していく。
それに、この無人島試験では同学年同士のぶつかり合いは、CP的にもマイナスの方が大きい。Aクラスを直接殺すのが難しい以上、今は伏して力を溜め込むのが一番よかった。
「おら、さっさとサインしろよ。2000万を使ってクラスを移動するにはいくつか条件があるからな。他人が強制的に特定の人間に対してクラス移動を命じることは出来ねぇ。あくまでも当人が自発的に、そして自己資金で任意のクラスに移動すると宣言する必要がある」
「……本気で俺を引き入れるつもりか?」
「そう言っただろうが。去年、戸塚が退学した時のお前の顔を見た時から、引き抜きについては考えてた。これも運命だと思って受け入れろよ」
葛城としても、いろいろ思うことはあるようだが、それでも今更坂柳に忠誠をつくせないというのも確かなようで、こちらが用意した契約書にサインをし始めた。
「俺を引き入れるのは構わんが、何を求める? 好きに意見を言っても構わないのか?」
「好きにしろよ。お前の堅苦しい意見も、たまには役に立つこともあるかもしれねぇ」
と、言っている間に、サインを終えたようで書類を回収する。これで、来月から葛城はDクラスに移動となることが決定した。何だかんだ言って、こいつは能力が高い。上手く使えば、かなりこの先の戦いも楽になるだろう。
「では、早速参謀として話を聞きたい。さっき言っていた綾小路がBクラスやCクラスを裏で操っているっていうのはどういうことだ?」
「言葉通りの意味だよ。俺も知ったのは今さっきだが、今あの2クラスはあの野郎が裏で手を引いて動かしてる。おそらくは前回の……いや、去年の終わり辺りからだな」
「待て。確かに、綾小路が非凡な能力を持っていることは認める。しかし、クラスを動かしているのは櫛田や一之瀬だろう?」
「それは表から見たらの話だ。Bクラスに至っては、おそらくは去年の夏前からあいつが裏でクラスを操っていた」
「その根拠は?」
「去年の7月、うちのクラスがBクラスの須藤と揉めたのは覚えているか?」
「ああ、冤罪云々で噂は聞いたことがある」
「あれで俺はあのクラスの裏に誰かいることを察した。本来であれば出てくるはずのない証拠を無理やりでっち上げてこっちの訴えを下げさせるなんて真似、いい子ちゃんの桔梗や平田が思いつく策じゃねぇからな」
ここで、改めてあの事件の全貌を葛城にも話す。こいつも馬鹿じゃない――それだけで、あのクラスの裏に誰かがいるというのを悟ったはずだ。
「次は無人島試験だ。あの時、俺とお前の関係を見抜き、裏をかいたのは鈴音とされていたが、あの時の鈴音は体調不良でリタイアしていた。あれも、あのリタイアを利用して、鈴音を持ち上げた誰かが裏に居たのさ」
「それが綾小路だと?」
「わかったのは体育祭だ。俺が黒幕を探しているとわかると、生徒会総選挙の票と引き換えに正体を明かしてきた」
「素直に信じたのか?」
「ああ。俺も俺で、干支試験を通じて黒幕を探してた。綾小路はその容疑者の一人だったからな、疑う余地もない。それに体育祭を通じてあの野郎の実力も計れた」
綾小路の表面しか知らない葛城に、いきなりこんな話をした所で信じるのは難しいだろう。
だが、この先、あいつと戦う上で、うちの参謀が相手の認識を間違えたままじゃ話にならなかった。今すぐは信じられなくても、この先疑問を抱けるくらいの認識は持たせておく必要がある。
「……仮に、綾小路が自分のクラスを裏で操っていたとして、お前たちの言い分では一之瀬のクラスも綾小路に操られているということだが?」
「それに関しては、まだ俺も裏付けは取れてねぇ。だが、坂柳が俺と手を組もうと考えた辺り、間違いのない情報だろうよ」
俺も、薄々はおかしいと感じていた。特に先月の坂柳と一之瀬のやり合い――最初は確かに坂柳が一之瀬の悪い噂を流して追い詰めていた。だが、最終的に一之瀬側が、坂柳の悪評を流すことで手を引かせている。
しかし、いくらしたたかになってきたとはいえ、あの一之瀬が躊躇いもなく他人の悪評を流すなんて動きが出来るとは思えない。だが、裏に誰かがいるというなら納得できる。
「そういえば……去年の終わりと言えば、学年末試験でCクラスとDクラスが揉めていたな。あれも綾小路がやったことだとでも?」
「……ああ、間違いねぇ。そもそもあの優しい一之瀬に誰かをハメるなんてことができる訳がない。裏で綾小路の指示があったんだ」
学年末試験の冤罪だけでなく、前回の試験のハニトラもそうだ。一之瀬らしくない策だとは思っていたが、裏にあの野郎が居たのなら腑に落ちる。おそらく一之瀬は、クラス内投票で退学者を出させない代わりに、綾小路にクラスを売ったんだ。
あの時、綾小路が俺に時任を売ってきたのは、一之瀬を救うための資金を稼ぐためというのはわかっていた。
だが、それはあくまであいつらがそういう関係だからと決めつけてしまって、その裏で一之瀬が綾小路にクラスを売っていたことに気づけなかった――いや、何か見返りがあるとは思ったが、まさか自分のクラスを売るなんて想像できるはずがない。
「……一様には信じがたいな。綾小路がそんな策士だとは」
「信じたくなくてもそれが現実だ。別に無理に信じろとは言わねぇが、頭の片隅には叩き込んでおけ。俺のクラスに来た以上、そのうち嫌でも綾小路とぶつかることになる」
クソ、坂柳のやつはいつ気づいた? 前回の試験では、あいつも俺と同じで一之瀬にしてやられている。なら、その後? どうして? どこで確信を持った? あいつと俺の持っている情報の差は?
「チッ、どちらにしろ、今度の特別試験で重要なことの一つは2年の持つCPを奪われないことだ。1年や3年の肥やしにされるのはごめんだからな。その上で、BクラスとCクラスが組んで動いてくるなら、こちらが単独でいるのは話にならねぇ。自分たちのクラスだけで勝つには戦力が乏しいなのはうちも同じだからな……坂柳の策に乗るのは癪だが、今回は組むのがベストなのは間違いねぇ」
「それもこれも、お前が去年一之瀬のクラスをハメて揉め事を起こしたからだろう。Cクラスとの関係が悪化していなければ、B、C、Dクラスで組んでAクラスを落とす策も取れた」
「ケッ、元から一之瀬と組むつもりなんかねぇからいいんだよ。Bクラスは組む相手として及第点だったが、あいつがCクラスを掌握しているのなら話は変わってくる」
今からB、C、Dクラスで同盟を結んでも、3クラスの内2クラスを支配している綾小路が圧倒的に有利になる。
結局、うちが勝ち残るには、単独で出し抜くか、Aクラスと組むしかない――が、今回の提案を拒絶すれば、A、B、Cの全てのクラスが敵に回る。そうなれば単独で出し抜くのは流石に難しい試験である以上、どうしたって坂柳の提案を受け入れざるを得ない。
「結局、全部あいつらの掌の上ってことか……」
気に入らない――が、今は泥水をすすってでも状況を立て直す必要があった。前回の負けはCP的には大した痛手ではなかったが、それでも大敗したのはこれからの士気に関わる。
しかし、この試験を制すことが出来れば流れは変わってくるはずだ。葛城を新たに参謀に加え、CPを大きく稼いで他クラスとの差を詰める。
例年通りなら、無人島試験の後は体育祭だ。
今回の体育祭でCPが大きく動くかどうかはわからないが、例え去年と同じ試験だったとしてもうちの連中は身体能力の方が高い以上、下手な筆記試験よりもプラスが見込める。
そうして、少しずつCPを増やしながら同時進行でPPも稼いでいく。素直にAクラスになるのが一番いいが、もしものための保険もキッチリ用意しておけばより体制は盤石だ。覚えておけ、最後に勝つのはオレだってことを思い知らせてやるぜ。
一方その頃視点でした。うちでは坂柳と一之瀬が組むのが難しいので代わりに龍園と組んでいます。とはいえ、がっつり協力というよりは駒交換してお互いに頑張りましょう程度の協力です。多少の情報交換はあれど、問題が起きない限りは本格的に手を組むことはありません。