南雲に宣戦布告をして、鬼龍院とちょっとした話をした次の日――石崎経由で、龍園からオレにメールが送られてきた。
内容は、朝9時半にカフェに来いというもので、こちらの予定を聞いて来ない辺り龍園らしいメールとも言える。
確か、原作でも似たような呼び出しはあったが、あの時はメインが葛城の勧誘だった。しかし、この世界では既に葛城は龍園クラスに移動している。と、すると、やはり原作通りに『試練』のカードを買収するために声がかかったと見て良いだろう。
雪たちには情報を伏せる意味も込めて、ギリギリまでグループは組まないように指示してある。当然ながらまだカードの移動もしていないので、『試練』はオレが、『増員』は網倉が持ったままになっていた。
そのため、龍園はオレに狙いを定めたのだろう。もし、既に『試練』を帆波に渡していたら、今日呼び出されていたのはオレではなくて帆波だったかもしれないな。
改めて、今日の予定を確認する。今日は綾小路グループの集まりがあったが、幸い集合は13時なので行くのは特に問題なかった。
石崎には今回の試験でも世話になったし、断ればあいつが龍園の責めを受けるであろうことは間違いなかったので素直に行くことにする。坂柳と手を組んだ経緯なんかも聞いてみたいしな。
龍園のグループは、龍園、葛城、橋本と、原作とは少し顔ぶれが変わっている。だが、葛城は原作通りに龍園クラスへ移動したようで、何もかもが変わっているという訳ではなさそうだった。果たして、橋本が加わったことでどう変化するか。
また、同じく坂柳のグループも、帆波と組めなかったこともあって、坂柳、澪、アルベルトという異色のグループになっていた。原作では鈴音に張り合って、孤独を貫いていた澪だが、この世界ではどちらもグループに入る結果となっている。
しかし、仮に大グループを作るとしても、男女比の問題で龍園と坂柳では大グループが作れない。元々、大グループは組まずに、個々に上位を狙う戦略なのかもしれないが、いざという時に手を取り合う保険を残さないのはらしいと言えばらしかった。
と、考えながら、ケヤキモール内にあるカフェに辿り着くと、いつもは遅れてくる龍園が既に席に座っており、その隣には最近AクラスからDクラスに移動したばかりの葛城が目を閉じて何やら集中したように座っていた。
一見、カフェの席に座っているだけなのに、まるで座禅でもしているかのような空気を醸し出している。少なくとも、仲が良さそうにはとても見えなかった。
「これは一体、何の集まりなんだ?」
「立ち話でもする気か? 座れよ」
確かに、カフェに来て立ったままなのもおかしいので、進められたように空いている席に座る。
既に龍園はアイスティー、葛城はコーヒーを頼んでいたので、オレもコーヒーを注文していく。別にコーヒーが好きという訳ではなく、最近は紅茶を飲むことが多かったので、とりあえずコーヒーを頼んだだけだ。
「坂柳や龍園からいろいろ聞いたぞ。どこか普通の生徒と違う雰囲気を持っていると思ってはいたが、想像以上の牙を隠していたようだな。前回のテストで全教科満点を取ったのもそうだが、お前の実力は底が見えん」
一息つくなり、葛城がそう話しかけてくる。
思えば、葛城とはもう何か月も会話をしていない。最後に話したのは、クラス内投票の結果を確認した時、この3人で偶然一階の掲示板で鉢合わせした時だったか。
いや、思えばあの時も別にオレと葛城は会話らしい会話をしていない。最後に話したのはそれこそ、去年の夏に葛城の実家にいる妹へ贈り物をする作戦を繰り広げた時が最後かもしれなかった。
「クク、そんな昔のことで一々感心してんじゃねぇよ、葛城」
「昔という程、時間は経っていない。事実、あの学力の高さは脅威だ」
どうやら、しばらく会わない間に、葛城も坂柳や龍園からあることないこと吹き込まれたようで、あからさまにこちらを警戒した様子を見せている。少なくとも、オレがBクラスを裏で操っている程度の情報はバレてそうだな。
「それを言うなら、こっちも驚いたぞ。まさか、Aクラスの地位を捨ててまで最下層クラスに移動するとはな。それだけ、坂柳が憎かったか?」
「……間違ってはいない。俺はあのクラスで半分死んでいたようなものだ。坂柳に一矢報いることが出来るのであれば、悪魔にだって魂を売ろうと思った。それだけだ」
「クク。誰が悪魔だって? その悪魔を助けたのはどこの死神だろうな……ククククク」
おいおい、誰が死神だ。
「……そうか。あの時の時任の退学にも、お前が関わっていたのか」
「昔の話はもう良いだろう。それより、何の用があって呼んだんだ龍園?」
別に時任を退学にさせたことに後悔はないが、変に葛城の印象を悪くしたくないのでここら辺で昔話は終わりにさせて貰うことにした。
当の龍園は、「クク、いいのか? 久しぶりに会ったんだからもっと旧交を温めろよ」と、笑みを浮かべているが、明らかにオレが困っているのを楽しんでいるだけだろう。
「まぁいい、要件は単純明快だ。お前が持っている『試練』のカードを俺に売れ」
やはり、原作通りにオレの持っている『試練』のカードを狙ってきたか。
原作では、恵を万が一のペナルティから救出するために売ったカードだが、残念ながら今回はしっかりと使い道があるので売ることは出来ないので首を横に振った。
「残念ながら既にトレードの予約がある。それに、葛城の買収で相当資金繰りは苦しいはずだ。買い取るだけの金も用意できないだろう?」
「100万くらいなら何とかなる。それで売れ」
「トレードの予約があると言っただろう」
「おいおい、100万PPの価値があるのかよ?」
「そうだな。オレはあると思っている」
1位から3位までの報酬で、分割されるのはCPだけだ。PPとプロテクトポイントについては人数分与えられる。
1位に与えられる報酬のPPは100万で、他にもCPやプロテクトポイントの存在を考えれば、単純に『増員』には余裕で100万PP以上の価値があるということだ。
「成程、どうやら一之瀬のクラスを裏から操っているってのは満更嘘でもないらしいな」
しかし、何故か今の会話で龍園は何かを確信したようにそう呟いた。匂わせる要素などなかったはず――なのに、帆波との繋がりがバレた? トレードを断っただけで?
「……何のことだ?」
「100万PPの価値のあるトレードなんて、同じ特殊カードのトレードくらいしかないだろ。そんな中で『無効』はほぼ外れみたいなもんだ。つまり、お前は『試練』と『増員』をトレードしようとしている。一之瀬と繋がってるのはまず間違いない」
「だとしても、それが帆波のクラスを裏で操るのとどう繋がる?」
「ハッ、惚けるなよ。去年の学年末試験の辺りから、らしくねぇことをしてるとは思ってたんだ。お前が裏で一之瀬にそう動くように指示を出していたんだろ?」
「何のことだかわからない……」
「前回の特別試験もそうだ。一之瀬らしくない搦手を仕掛けてきた。ハニトラなんて、あいつから一番遠い武器だろ。それに坂柳と妙な噂で揉めた件もそうだ。最終的に、坂柳の黒い噂が出て来て、あいつは手を引かざるを得なかった……だが、いい子ちゃんの一之瀬に他人の黒い噂なんか流せるわけがねぇ。あれもお前がやったんだろ、綾小路?」
おかしい――前回の試験の後、帆波たちと話している時に会った龍園は、ここまでオレのことを疑っていなかった。
葛城もそうだ。こいつは今の今までオレが陰で動いていたことを知らなかったはずなのに、まるでそうじゃないかと疑う素振りを見せている。
それに先程の「満更嘘でもないらしい」という言い方――誰かからそう吹き込まれたと見てまず間違いないだろう。そして、龍園はその確認のために、カードの売買を口実にオレを呼び出したと考えて良い。おそらくだが、坂柳の奴が情報を売ったな。
「……坂柳にあることないこと吹き込まれたな?」
「ハッ、バレちゃあしょうがねぇ。けどな、怪しいと思っていたのも本当だ。特に5月の件はやり過ぎだ……あれで一気に後ろのお前の存在が匂ったぜ?」
確かに、坂柳の件は帆波らしくない動きだったかもしれない。あれで龍園も、帆波の後ろにオレがいると確証を持ったというなら、もう少し考えて動くべきだったか。
一度繋がりを感じれば、後は芋ずる式に状況を推測できる。3月のクラス内投票で、オレがPPをかき集めて何もせず、帆波クラスから退学者が出ていなかったことを思い出せば、オレと帆波との繋がりを怪しむには十分だろう。
否、重要なのはそこじゃない。仮に、ここでオレが言質を取らせなかったとしても、こいつは自身の考えを肯定して動くタイプである以上意味がなかった。
他人の進言を考慮に入れはしても、最終的には自分の考えで動く――結局、こいつがオレを黒だと確信した時点で、隠している意味などないに等しかった。
「成程、オレたちが組むとわかったから、素直に坂柳と手を組んだ訳だ」
「今回の試験の肝は、他学年にCPを奪われないことだからな。そのためには最低限の味方がいる。だが、BとCがお前の掌中にあるなら、必然的に組む相手は一人しかいないだろう?」
「……それでも、お前たちが組むとは思わなかったけどな」
「お前たちが一之瀬と組もうとしているのは一目瞭然だったからな。他に組む相手がいなかったのさ。その証拠に、一之瀬を始めとしたCクラスの代表格と、お前や雪、鈴音といった主力連中が今の時点でまだグループを組んでない。これを疑うなって方が無理だろう」
情報を伏せるために動かなかったことが、逆に匂わせる結果になってしまったか。
帆波や雪、鈴音といった実力者たちの情報は嫌でも注目される。だからこそ、グループを組まさずに、OAAでも情報を入手できないようにしていたが、逆にその情報が一切出ないことで情報を封鎖していると疑われたのだろう。
それに、オレと帆波が裏で繋がっていると考えれば、この組み合わせがグループを作っていないのは逆に臭くなる。とはいえ、先にグループを組んでも結果は同じだ。遅かれ早かれ、オレと帆波たちが組んでいるのはバレていた。
「確かに、オレたちのクラスと帆波のクラスは今回の試験で手を組んでいる。それを裏で操っていると思うならそうかもしれないな」
「……やっと認めやがったか」
「認めるも認めないも、お前がそう思っているならオレが否定しても無駄だろう」
龍園の中ではもうオレが帆波を操っているのが決定事項である以上、下手にはぐらかす意味などない。それにいずれはオレが帆波を操っているというのはバレていたことだ。先程と同様、早いか遅いかの違いでしかない。もはや、惚ける意味もないだろう。
「そうだな。だが、確認できたのは大きい。この先、BとCの裏にお前がいるとわかっただけで十分だ」
そう言って龍園が葛城を見た。今までずっと黙って話を聞いていた葛城は、まだいろいろ腑に落ちないようだが、オレが敵だということはしっかり認識したらしく鋭い目を向けてくる。
「正直、まだお前がそれほどのやり手だと思えない自分がいる。しかし、状況証拠がお前を黒だと言っている以上、油断する気はない」
「そうか」
「『試練』のカードは手に入れられなかったが、代わりに手に入ったものもある。今回、お前を呼びだした意味もあったってもんだ」
これで、坂柳にも龍園にも、帆波の後ろにオレがいることがバレた――が、いずれはわかることだった以上、それについてどうこう言うつもりはない。
しかし、それでも龍園に情報を流してまで、坂柳が手を組もうと考えたのが少し意外だった。あいつとしても、オレが2つのクラスを支配していることに危機感のようなものを覚えているのかもしれない。
「だが、いくら2つのクラスを支配しようとも、お前の身が一つである以上はどうしたって穴は出てくる。学年末試験の時がいい例だ。あの時既にあのクラスの裏にはお前がいたが、出来たのは事前にアルベルトを排除したことだけで本番では一之瀬に全てを任せるしかなかった……そういう意味では、戦い方はある」
つまり龍園が言いたいのは、オレが帆波クラスを支配しているからと言って、この先ずっと2対1の状況を強いることが出来る訳ではないということだ。
それこそ状況次第では去年のペーパーシャッフルや学年末試験のように、1対1が強要される試験だってあるし、逆に全クラス対抗という形ではこちらも下手に強力出来ないことだってある。
それに、オレがメインで在籍しているのがBクラスである以上、どうしたって帆波クラスには付け入る隙が出てしまう。龍園はその隙を見逃すほど馬鹿ではなかった。地味に面倒なことになったな。
「おい、綾小路。『試練』のカードは無理でも、その他のカードのトレードについてはどうなっている?」
「そこは個人の裁量に任せてあるが、望むならトレードの斡旋くらいなら出来るかもな」
「こっちは半減と保険のカードを捨てる用意がある。そっちで、先行、追加、便乗を持て余している奴が居ればトレードしてやるよ」
と、笑みを浮かべながら、残りのアイスティーを一息で飲み干すと、龍園は挨拶もなしにさっさとカフェから去って行った。
葛城もコーヒーを飲み終えると、スッと席から立ちあがる。ただ、龍園と違って「では、また」と、こちらに一声かけ、急ぎ足で龍園の後を追っていった。
正直、オレももう帰ってもいいのだが、まだコーヒーが残っていたのでのんびりしていくことにする。
少し冷めてしまったコーヒーに砂糖とミルクをマシマシにして頂く。基本的にコーヒーはブラックで飲むが、こういう甘いのも悪くない。森下には面白い飲み方を教えて貰ったな。
◇◆
龍園&葛城とお茶をし、午後から綾小路グループで遊んだ次の日――特別試験前ということで、セフレたちもドタバタしており、恵や佐藤たちも何だかんだ自分のグループを決めたらしい。
また、昨日の話し合いで、やはり綾小路グループでは原作通りに愛里、波瑠加、明人がグループを組むことを決めている。啓誠は頭脳面を買われて、他のクラスのメンバーとグループを組んでいた。
オレは結局、原作通り一人グループということで心配されたが、一人じゃないと不都合が多いので仕方がない。
それに別に最後まで一人でいるつもりはなかった。それこそ、状況に応じて誰かと組むことも視野に入れているので、少なくとも退学になるようなことはないだろう。
そんなこんなで大体のグループが決まり、試験の始まりが朧げに見え始める頃、いつものケヤキモールで珍しく私服姿の星之宮を見つけた。
向こうもオレを見つけたようで、「あれー、一人なのー? 珍しいわねー」と声をかけてくる。
とはいえ、別にオレも毎日セフレたちと一緒に居る訳じゃないので、一人でいることはそう珍しくない。逆に長期休みでもないのに、教師をケヤキモールで見つけることの方が珍しかった。
「星之宮先生は何か用事でも?」
「これからチエちゃんとデートなんだよねー、何なら綾小路くんも一緒に来るー?」
半ば冗談のようにそう声をかけてくる。そういえば、何だかんだ星之宮はずっとオレと茶柱の関係を疑っていたっけか。
混合合宿で起きた南雲停学の一件後からは、明確にオレを意識して茶柱に探りを入れていたようだし、何だかんだ冗談ではなく本気で呼びかけているのかもしれない。
「遠慮しておきますよ。女性同士の楽しみに割り込む気はありませんから」
「そう? 綾小路くんなら大歓迎なんだけどね」
名残惜しそうに星之宮がそう声を上げる。原作ほど関わりがある訳ではないが、何故か気に入られてしまっているようだった。
「こうして1対1で話すのも、学年末試験の時以来だっけ?」
「そうですね」
正確には、学年末試験が終わった後に、一度星之宮をお仕置きしているが、その時は顔を合わせていないので、会話したのは学年末試験の前で合っている。
「にしても、最近は注目を集めてるわよね~」
「そうですかね?」
「そうだよ! 前回の特別試験だって、前代未聞の全教科満点だよ! っていうかアレ、私だって解けないような問題あったんですけどー?」
「教師が解けないような問題を入れるのはどうかと思いますけど? もうそれテストとは言えないのでは……?」
「あーあー、聞こえなーい! それより! 重要なのは、あの問題を解いたのが元Dクラスの生徒ってことよ!」
ビシッと、白くて細い指がこちらに向けられた。
「言葉は悪いけど、Dクラスは不良品が多く集まるクラスって揶揄されるくらい問題児が集められるクラスなの。実際、去年の5月のCPはたったの80。それがたった一年でBクラス! 綾小路くんみたいなトンデモスペックの子が混ざってるのってズルでしょー!」
と、叫ぶように星之宮が本音をぶちまけてくる。確かに、オレが居なければDクラスは今でもDクラスのままだっただろう。
いや、雪が居るからもう少しは善戦していたか? でも、あいつは基本的にオレが命令しないと動かないから、オレがDクラス以外に居たとしたら動かないだろうし、やはりDクラスは原作通りにDクラスのままだったろうな。
「オレを評価してくれているみたいで恐縮ですが、能力だけなら生徒会長の雪を始め、他にも優秀な生徒が2年Bクラスにはいますよ。それに、今年の1年Dクラスを見ても、優秀な生徒はたくさんいると思いますが?」
「うーん、それはそうなんだけどなぁ……やっぱり、今年に入ってからちょっと学校の方針変わったよね?」
「いや、生徒のオレにそんなこと言われても……」
「でもさ、確かに優秀な子はいると思う。だけど、クラスを纏めて動かすほどじゃないっていうか。綾小路くんの場合は、周囲を変えてるような印象を受けるのよね」
周囲を変えているか――正直、原作ほど明確に肩入れしている訳ではない。オレはオレで自分のために動いているだけだし、そう印象を与える程は動いていないはずだった。
おそらく、結果からそう見えるだけだろう。実際にやっていることは、女を篭絡して美味しく頂いているだけで、クラスがBまで上がったのはそのための副産物でしかない。
「私もさ、もう余裕がないのよ。Cクラスに落ちちゃったのは初めての経験だし……なんていうか、これまではAクラスとBクラスが競って、CクラスとDクラスが競うのが通年の流れみたいな所があったのよね~」
「今もそんな感じですね」
「そうね~……でも去年の始まりは、このクラスこそAクラスに、って思ったんだけどねぇ」
「それを何とかするのが担任の務めでは?」
「耳の痛い話~っ!!」
イヤイヤと、両手で耳を抑えて星之宮が首を振る。実際、Bクラスがここまで纏まったのは、オレの指示で茶柱が担任としてそれなりに動いたからという面はあった。
原作のように中途半端に投げ出すのではなく、必要なことはしっかり忠告するという感じで、サバサバしているが生徒のことを考えてくれている――というのが、今の茶柱の印象だ。
「あ、はい! じゃあ、先生から画期的アイデア! 葛城くんがDクラスに移動したみたいに、綾小路くんもうちに移動して来てよ! 私たちと一緒にAクラスを目指しましょ!」
「残念ながら2000万PPなんて簡単に貯められませんよ。それに、仮に用意できても、今はCクラスよりもBクラスの方がAクラスになる可能性が高い。いえ、それ以前に、勝つだけならストレートにAクラスに移動した方が賢い選択ですよ」
「そ、そこまでズタボロに言わなくても……」
「それに、オレも今のクラスに愛着がありますからね」
「……それってサエちゃんがいるから?」
今までの明るい表情が打って変わって、薄暗い目で星之宮がこちらを睨んでくる。そういえば、星之宮はオレと茶柱の契約を見抜きかけていたんだっけか。
「ねぇ、サエちゃんと寝たの?」
と、思っていると、ここで星之宮がぶっこんでくる。とはいえ、ずっと疑っているのは去年からわかってはいた。
「随分とストレートに聞いてきますね」
「だってさ、あのサエちゃんが一人の生徒を贔屓するって今までなかったし、出せるモノなんて体くらいのモノでしょ?」
まぁ、間違ってはいない。実際、オレも茶柱が体を差し出さなかったらこうまで結果を出していたかは怪しい所だった。
「仮にイエスと言ったらどうします?」
「……私はサエちゃんにだけは負けられない。私を勝たせてくれるなら、サエちゃんよりももっと凄いことしてあ・げ・る」
そう言って、オレの耳に顔を近づけてフッと息を吹きかけてくる。原作でも似たようなことを提案して来ていたが、これは上手くすれば星之宮を抱きこむことが出来るかもしれない。
「確かに、星之宮先生が茶柱先生よりもオレを満足させてくれるなら、今のクラスに固執する必要はないかもしれませんね」
「でしょ! 何なら、今からでもいいわよ?」
「ですが、教師に手を出すのはやはりリスクもありますからね……」
「そんなのサエちゃんと寝てるなら今更じゃない」
「茶柱先生は担任ですからね。この一年ちょっと付き合ってきて情もあります」
嘘だ。あるのは情欲だけで、情なんか持ったことはない。
「それに、星之宮先生に手を出すメリットがオレにはないんですよ。だって、Cクラスはもうオレの支配下なんですから」
「……どういうこと?」
「おかしいとは思いませんでしたか? 混合合宿で2000万PPを使って退学者を救済したのに、続くクラス内投票でも何故2000万PPが用意できたのか? 学年末試験前に、龍園クラスの山田アルベルトをハメるような真似を、何故あの仲良しクラスが出来たのか?」
星之宮は確かに茶柱を敵視しているが、担任としての仕事もしっかりしている。あのクラスが基本仲良しこよしで、誰かを切り捨てられない甘ちゃんの集まりであることや、誰かをハメるという強気な策が出来るような奴らじゃないこともよくわかっているはずだ。
「まさか……」
「ええ、オレが背後から手を回したんですよ。帆波が自分とクラスをオレに売ったんです」
予想外のカミングアウトを連続で聞いて、星之宮が驚いたような表情をみせる。
しかし、納得できる部分は確かにあるようで、まるで恐ろしものを見るかのようにこちらへと視線を向けてきた。
「そう、そういうこと……だったのね……」
「なので、星之宮先生の価値も、茶柱先生と同じく体しかありません。なので、こちらとしては下手に手を出す意味もないんですが……」
正直、ある程度CPを回復させたら、Cクラスは放置するつもりだったが、ここで上手く誘導すれば星之宮を奴隷に出来るかもしれない。
「……そうですね、もし星之宮先生が本当に茶柱先生よりもオレを満足させてくれるならCクラスを勝たせてもいいかもしれません」
実際、星之宮のテクニックに興味があるのは本当だ。だが、ここであまり飴を与えすぎるとオレががっついているような印象を与える。ここはどうにかして向こうから頭を下げさせる場面だった。
「逆を言えば、陥れることも出来るんですが……まぁ、そこは帆波がオレに体を売ってくれたおかげで食い止めているって感じです」
「……もう、最初から綾小路くんに縋る以外に勝ち目はなかったのね」
「どうします? オレと契約を結びます? 先生次第でCクラスにも勝ちの目が出てきますし、悪くない提案だと思いますが……?」
「勿論、受けるわ。思っていた以上に、もううちのクラスは後がなかった……今、綾小路くんの庇護下から外れたら勝ち目はないもの」
では、改めて奴隷契約を結ぼう――と、いうことで、星之宮もまた、茶柱と同じ条件でオレの奴隷となり、茶柱との契約内容は必然的に変更になった。
これからは、オレを満足させた方のクラスを優遇する。そういう条件に変更していく。
これで、茶柱にも少しは危機感が出てくるだろう。最近はされるがままで少しマンネリ気味だったし、競争相手が居た方が茶柱も頑張ってくれるはずだ。
と、考えていると、いつもと変わらぬスーツ姿の茶柱がやってきた。オレと星之宮が一緒に居るということで、不安そうな表情を浮かべていたので、その不安を的中させてやる。
茶柱にしてみれば、いきなりライバルが現れ、自分が頑張らなければAクラスへの道が閉ざされかねない非常事態だ。意地でも、星之宮には負けられないだろう。
と、いうことで、本来ならデート(?)だった二人の予定は変更となり、教師二人と共に教員の寮へ逆戻りしていく。初めて星之宮を真正面から食べるが、やはりビッチだけあって、今までのセフレたちとは段違いの技術を持っていた。
まるで波打つような絡み方に絶妙な力加減、緩急、そして妖艶とも言える腰の使い方――自分の体の魅せ方や声の出し方も含めて、どうすれば男が満足するのかを星之宮は理解している。
細い腰が蠱惑的に揺れ、汗で髪が額に張り付く姿すら美しい。油断するとTレックスが早々に敗北しかねなかった。これを味わってしまうと、茶柱との行為は子供の遊びにしか思えない。
茶柱も、焦ったようにいろいろと工夫を見せるが、所詮は素人の浅知恵であり星之宮には適わなかった。むしろ、星之宮が自室から持って来た大人の道具によって、逆に良いように鳴かされるという哀れな結果となってしまっている。
まぁ、元々今回は帆波クラスを勝たせる予定でいたが、敢えてそれは伝えずに無人島試験以降も帆波クラスを勝たせることで、もっと茶柱にも危機感を持たせていこう。
これで互いに切磋琢磨するようになり、茶柱ももっと貪欲に学習しようとしてくれるはずだ。また、星之宮は全面的にオレをバックアップするつもりのようで、Tレックスのお世話以外にも、教師としてアウトなことをしてまでオレに協力する気満々みたいだった。
原作との変化点。
・龍園と話し合い。
内容が清隆が帆波クラスの裏にいることの確認になった。一見、2つのクラスに清隆いるなんてズルのように見えるが、当の帆波クラスが清隆の支配を認識していないことも有り、地味にいろいろと制約もあって実はそこまでの脅威でもないと龍園は見ている。
・便乗。
実はもう便乗は各クラス使い道を決めており、誰に賭けるかも決まっている。と、いうのも、BクラスとCクラスの実力者を集めた7人グループが上位入りしないはずもなく、清隆や帆波だけではなく龍園や坂柳まで雪たちに賭けている。
・星之宮と契約を結んだ。
地味に転換点。ここでもし星之宮と出会わなければ、この先もあんなことにはならなかったかもしれない。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
龍園の呼び出しを受け、葛城の現状を確認した。また、星之宮との新規契約&茶柱との契約変更で、茶柱だけが一方的に被害を受ける結果になっている。
・茶柱佐枝
同期に付き合うはずが、突き合う結果に。また、これまではただ惰性的に体を差し出していればよかったのが、星之宮に勝たないといけなくなり顔を青ざめさせている。
・星之宮知恵
新たな協力者。原作の真嶋枠。今回ようやく顔を見て食べることになった訳だが、星之宮もTレックスの威力には驚きを隠せずにいる。「こんなの普通の女の子が勝てる訳ないじゃん」というのが感想だった。余裕ぶっているが、最終的にはTレックスに食い破られている。
・龍園翔
今回は積極的に同学年を狙う気はない。対他学年の色が強いのもあって、CPを他学年に持っていかれないようにするのをメインに考えている。これは坂柳も同じ。
ので、上位3位の全てを龍園、坂柳、雪グループで埋めるのが一番の目的。とはいえ、清隆がソロであることや、坂柳の状況次第なども考慮して、良いタイミングがあれば仕掛けるつもり。雪グループに便乗を賭けたのはそのためでもある。下手に妨害ばかりしても同学年の潰し合いは旨味が薄いので、戦う相手を厳選している形。
・葛城康平
龍園の参謀として良い空気を吸っている。原作よりもクラスの状況が崖っぷちなので逆にいろいろやりがいがあるらしい。