「さて、二つの得点を得る方法を説明した所で、これを見て貰いたい」
試験の説明がある程度終了したタイミングで、真嶋がそう声を上げる。
同時に、2年Cクラスの担任である星之宮が壇上へ移動して真嶋に何かを渡していた。真嶋は渡されたデジタル型の腕時計のようなものを、生徒に見えるように持ち上げる。
「明日の試験開始から試験終了まで、生徒にはこれを身に着けて貰う。去年にも似たようなものを付けたと思うが、この時計は時間の確認だけではなく、得点を得るために必須な道具となる。試験で入手できる得点は、全てこの腕時計に集計されるからだ」
これも重要アイテムの一つだった。今回の試験は、この時計がなければまず話にならない。
「さらにこの腕時計には、身に着けた生徒の体温や心拍数、血圧、血中酸素、睡眠時間やストレスレベルなどを常時学校側がモニタリングしており、何か問題が起きた場合には『警告アラート』が鳴るようになっている」
そう言って、真嶋がマイクを星之宮に預け、実際に時計を身につけ始めた。
今回の時計は前回の試験のものと違い、一人では付けられない仕様になっているようで、作業員が工具をつけて取り付けをしている。
「今、スクリーンに表示されているのが、私の状態だ。これを学校側は随時確認している。そして、何らかの事情……そうだな、仮に体温が38度まで上がったとしよう」
作業員が腕時計を弄ると、すぐに大きなアラート音が劇場内に響き渡った。真嶋の言う通り、38度以上になるように設定を変更したのだろう。
「すると、こうして『警告アラート』が鳴る。これが鳴った段階では、あくまで警告のため、5秒すると自動で鳴りやむ設定になっている。しかし、規定を超えたままの状態が続いていると、10分後には再度警告アラートが鳴る」
そう言うと、再び設定を弄ったようで、真嶋の腕時計から再び警告アラートが鳴り響く。先程のよりも少し音が高く、ボリュームも大きくなっていた。だが、これも5秒ですぐに鳴りやんでいる。
「今のが2度目の警告アラートだ。それからさらに5分、状態の異常が続くと――最後は警告アラートではなく、『緊急アラート』に変わる」
3度目のアラートは今までよりも一際高く、大きな音が鳴り響いていた。これならば、余程距離が離れていなければ何かあったとわかるだろう。
「この緊急アラートは手動で切らない限り鳴り響く仕組みで、5分間停止されなかった場合は、教職員と医療班がGPSを基にその場へ駆け付けることになっている。また、この状態になった場合は、24時間以内にスタート地点にてメディカルチェックを受けて貰う。無視、あるいはたどり着けなかった場合、状況次第でペナルティを受けることになるだろう」
ペナルティと言ってはいるが、実際にはリタイアと同義だった。
「先ほど、腕時計を取り付ける時に見ていたと思うが、試験中は不正が出来ないように取り外しには特殊な工具が必要となる仕様だ。強引に取り外した場合や、強い衝撃などで物理的に破損した場合、または何らかの異常で故障した場合は、自動的に得点機能がオフになる仕組みになっている。その際はスタート地点に戻って交換対応を行って貰う」
腕時計を壊すことにペナルティはなし――だが、交換のために一度、スタート地点に戻るというのは大きなデメリットにもなりかねないということか。
「また、先ほど説明したテーブルについても、この腕時計内部にテーブルが設定されており、自分がどこの指定エリアに行けばいいかわかるようになっている。初日から最終日までのテーブルは内部的に最初の段階で決まっているということだ」
原作通りであれば、オレは七瀬や鬼龍院と同じテーブルだが、原作とグループが変わっている都合上、どうなるかどうかは実際に試験が始まってみたいとわからない。
正直、鬼龍院も七瀬も、オレと別のテーブルだと困るが、鬼龍院はともかく七瀬は月城によって派遣された人間だ。そのことを考慮すれば月城もオレと七瀬を同じテーブルにしてくれると考えて良いだろう――頼むぞ、月城。
「最後に、グループの最大人数を増やして大グループを作る場合だが、引き入れたいグループ側から腕時計の機能を使いメインリンクを起動させる。その後、合流する別グループがペアリングを起動させ、メインリンクしている腕時計に接触させることでグループの合流が出来る仕組みだ」
当然だが、グループを組んでいる者たちは全員同じテーブルとなる。試験中に大グループを組んだ場合も、全員が同じグループに書き換わるため支障は生じなかった。
【腕時計に関する概要】
・腕時計を通じ、24時間学校側に健康状態を管理されている。
・使用者の健康異常については、アラートで知らせられる。警告アラートは無視できるが、緊急アラートが鳴った場合はスタート地点に行かなくてはならない(24時間以内に到着しない場合、ペナルティが与えられる可能性がある)。
・緊急アラートが鳴って止めずに5分経つと、教師や医療班が現地に急行する(心拍の停止や血圧の急低下などの際は、直ちに救助に向かう)。
・破損などの異常が検知されると、得点の入手が不可能になるため、スタート地点に戻って交換が必要になる。
・腕時計には12通りのテーブルが存在し、テーブル毎に指定エリアの順序が異なる。
・腕時計のペアリング機能を使用することで、グループ同士で合流することが出来る(リンク承認には10秒ほどかかり、その間であればキャンセルも出来る)。
「いろいろ悪さが出来そうな仕組みだね……」
明らかに隙のあるルールになっているのは、それを使っての妨害なども暗に認めているということだ。雪も、これがオレを狙って作ったであろうルールなのは察せたようで苦笑いを浮かべている。
「それでは次に、月城理事長代理よりご挨拶を賜りたいと思います」
と、月城の作ったルールについて話していると、当の月城が姿を見せた。真嶋は自分が持っていた月城にマイクを手渡して後ろに下がっていく。
「理事長代理の月城です。この無人島試験は、これまで前例のない大規模な特別試験となるでしょう。気を引き締めて挑戦し、尚且つ学生としての自覚を忘れずに取り組んでください。特に男女の違いによる敏感な問題――性的なトラブルについては、退学も含め躊躇なく厳しいペナルティを与えます。その点をお忘れなきようお願い致します」
いきなりのぶっこんだ話題に、生徒よりも教師側の方が動揺していた。しかし、これはおそらくオレへの釘指しだろう。どうでもいいことで退学するなというお達しだ。
「勿論、学校は生徒である皆さんを守る立場として、最大限安全と秩序の監視を行います。が、それでもこの無人島試験では全てに監視の目が届く訳ではありません。だからこそ、悪質だと判断した場合は、警察への通報も行うつもりです」
確かに、普通ならこれだけいえば、その手の行為は絶対にしない。警察というワードが出た以上尚更だ――が、オレはする。
少なくとも、この試験中に七瀬と西野は攻略するつもりでいるので、その手の行為を封じるなんて馬鹿な真似はするつもりはなかった。
「それからもう一つ。無人島での滞在が長くなるほど、自然とフラストレーションは溜まるでしょう。食糧不足や水不足によって、時には生徒同士で小競り合いに発展するかもしれません。それに関して――私はある程度認める方針です」
先程のぶっこみに続くぶっこみに、教師たちがざわつく様子を見せる。明らかに、予定していたことと違うことを話しているのだろう。原作でも確かこんな感じだった。
慌てたように真嶋が月城に耳打ちをする。発言を撤回しろ――とでも言われたのだろう。しかし、今一番立場が上なのが月城である以上、その要求が呑まれることはない。
「今、生徒同士で生じる問題を容認するような発言を撤回するように仰せつかりました――ですが、撤回は致しません。何故なら、一切の揉め事を起こさないと言うことは不可能だからです。トラブルというのは起こるべくして起こるものですからね」
綺麗毎など知ったことではないと、月城も変わらぬ薄い笑みを浮かべている。
「無論、容認すると推奨するは違います。あくまで偶発的なトラブルを認めるだけであり、悪質だと判断したトラブルには遠慮なく介入します。略奪行為や、同意なき相手の所持品の使用は当然アウトであり、ケースによっては即時リタイアに限らず、退学も有り得るでしょう」
その偶発的なトラブルに見せかけて仕掛けますよ――と、いうのが、月城からの隠れたメッセージだ。やはり原作通り、この試験で仕掛けてくると見て間違いなさそうだな。
「以上となります。どうか、高度育成高等学校の生徒に相応しい行動をお願いしたします」
途中、真嶋も凄い顔をしていたが、何とか揉め事が起きることなくマイクは月城から真嶋へと戻って行った。真嶋も気を取り直したように、再びスクリーン前に移動してこちらに向き直ってくる。
「月城理事長代理、ありがとうございました。では最後に、この無人島で生活をするに当たって、必要不可欠な食料や道具に関する説明に移りたいと思う。先だって、無人島限定で使用できる買い物に必要なポイントについて説明する」
そう言って、真嶋が指示を出すと、作業員によって大きな荷台が押されてきた。上には大量の物品が並べられており、これら全てが無人島試験で使用できるものなのだろう。
「個人に与えられるポイントは基本5000ポイント。それらを使い、お前たちにはここにある一覧から自由に物品を購入し利用して貰う。なお、先行カードを持っている生徒に関しては、さらに+2500ポイントが与えられる」
と、真嶋が宣言すると同時に、前から分厚いマニュアルが回されてくる。どうやら、前に置かれたもの以外にも、今回の試験で購入できる商品の一覧が乗っており、先ほど説明されたルールなどもこれに記載されているようだ。
「今配ったマニュアルに全ての品が記載されている。購入は今から明日の朝6時まで受け付けるが、ポイントを残しておくことも可能だ。試験中、スタート地点の港に用意するショップでの追加購入も認めている。ただし、試験中に現地購入する際の値段は2倍に設定するため、その点をよく覚えておくように」
水や食料といったものを追加で手に入れることも出来るが、2倍ということを考えると便利とはいいにくい。スタート地点に戻るのも手間だし、残金は基本使い切る方向でいいだろう。
「また、スタート地点には無償で利用できるトイレにシャワー室、2日目以降は水分補給できる給水所も用意するため、立ち寄ることがあれば有効利用するといい。しかし、水に関しては持ち出し禁止で、その場で飲むことが条件となる。それから、歯ブラシやシャツ下着などは無料で配布する。不足した際にはスタート地点に戻れば必要なだけ提供する形だ」
前回では生理用品も提供されたが、おそらくは今年も同じと見て良い。2週間だと前回以上に苦しむ女子が続出しそうだった。
まぁ、うちのセフレたちは大半がピルを飲んでいるので、生理期間も短くなっている。万が一、時期が被っても無人島試験での影響も最小で済むはずだ。
「そして、お前たちには腕時計同様にタブレットが全員に支給される。先程の説明でも少し触ったが、基本情報としてタブレットは必要不可欠なため、スタート地点の外に課題を行う際、充電することも可能だ。改めて、タブレットで出来ることをスクリーンに表示する」
【タブレットに関する概要】
・全生徒に支給される小型タブレット。
・無人島の地図を閲覧でき、指定エリアや自身の現在地がリアルタイムで確認できる。
・課題の位置や詳細な報酬を閲覧することが出来る。
・試験4日目から12日終了まで、上位、下位10組のグループメンバーと得点が確認できる(上位10組、下位10組と自身のグループに限り、総得点の内訳も閲覧可能)。
・6日目以降全生徒の現在地を閲覧可能になるGPSサーチ機能が解禁される(ただし、サーチする度に1得点を消費する)。
・試験全体に影響する問題が起こった際等、学校側からメッセージが届く場合がある。
・バッテリー不足になった際はスタート地点や特定の場所で充電可能となっている(本試験で使用する地図アプリを連続使用した場合、稼働時間は約8時間)。
「最後に、どのバックパックにどれくらい入るのかを確かめたり、直接商品をチェックしたり出来るようにサンプル品を置く。各自自由に確認して貰って構わない。展示は別室にて、日付が変わる夜の12時まで行われる。以上だ、解散」
長い説明を終え、真嶋がマイクの電源を切ってスクリーン前から移動していく。同時に、他の生徒たちが並べられた商品を確認しようと移動し始めた。
商品については、夜にまた見に来ればいいだろう。少なくとも、あの人だかりをかき分けてまで見たいとは思わない。それにこれから少ししたら3年生がやってくる。長々とこの場に残っていても邪魔になるだけだ。
と、いうことで、雪を連れて部屋に戻る。
何も言わなかったが、澪も一緒についてきたので、ついでに可愛がってやることにした。期待したようにこっちを見ているのは、猫のようで見ていていじらしい気分になる。
雪も別に澪と一緒でも問題ないようで、二人一緒に新しい個室のベッドを味わっていた。
その後はシャワーを浴び、食事を済ませ、人が少なくなった頃に展示されている商品を確認していく。
実際に物を見てみたが、結局は原作と荷物は大きく変わらないだろう。強いて言えば、トランシーバーを追加で買うくらいだ。こういう時に備えて、既に先行のカードを一枚手に入れている。これでトランシーバーを二つ買って、一つを高円寺に渡せばいいだろう。
◇◆
7月20(月)――遂にオレたちが乗る豪華客船サン・ヴィーナス号は無人島へとたどり着いた。
前に説明された通り、1年前の無人島よりも明らかに大きい。また、7月も下旬に入ったこともあって、今現在の気温は40度近かった。普通に生活するだけでも、リタイアする生徒が出てもおかしくないレベルだ。
8時40分になると、船がゆっくりと着岸作業を始めた。この無人島試験はどうしても1年生に年齢的ハンデがあるため、降りるのも昨日の説明会と同様に1年からとなっている。
また、時間的に1年生全員が降りる9時に、最初のエリアが指定されることになっていた。最初だけではあるが、これも1年生にアドバンテージであり、上級生にはハンデとなっている。
ただ、降りる順番はAクラスからのため、時間的に2年のA、Bクラスはギリギリで1年生に追いつけなくもなかった。
とはいえ、初日からいきなり無理をする意味もないので、おそらく9時の指定エリアは1年生のグループが順当に着順報酬を取るだろう。
「おはよ、清隆。昨日はよく眠れた?」
そんなようなことを考えていると、後ろからバックパックを背負った雪が声をかけてきた。
その後ろには、今回大グループを組むであろう鈴音や千秋も一緒に居るようで、3人がこちらに寄ってくる。
「ベッドに文句はないんだが、部屋が一人だと広すぎてな。夜間の外出禁止を決めた月城には文句を言いたい気分だ」
「随分と余裕ね。2年で1人グループなのは、あなたと雪さん、高円寺くんの3人だけ。雪さんは途中でこちらに合流するとして……数がモノをいうこの試験では退学も有り得る状況よ」
「だからと言って、今更足掻いても仕方ない。それよりも、体調は大丈夫か?」
「平気よ。去年のこと、まだ責めて来るのね」
「責めてる訳じゃない。弄っているだけだ」
と、鈴音と軽く話をしていると、いつもに比べて真剣な表情をした千秋がそっと耳打ちをしてきた。
「3年生が1人、体調を崩したって話……聞いてる?」
「ああ、桐山から連絡が来た。そのグループはもう上位を諦めて完全な妨害役に徹して貰うことにしたよ。マイナスも受け流せるように、PPや『半減』のカードも渡している」
「とりあえず、うちのクラス……っていうか、うちの学年には体調不良者はいないっぽいけど、逆にこの時点で動きを決められる分、3年生は幸運だったのかな?」
「どうかな。下位の1枠として収まるであろうことには変わりない。3年にしてみれば、マイナスであることに変わりはないだろう」
そう話をしている間に、時刻は朝の9時を迎えた。同時に、腕時計から向かうべきエリアが決まったとアラートが鳴る。
1年生はほぼ下船を完了したようで、既にスタートダッシュを決めようとしていた。こちらも、下船前にエリアの確認をしておく。Aクラスからなので、まだ少し時間が残っていた。
ちなみに、オレが最初に向かうべきエリアはD7――原作通り変わっていない。雪はC8、鈴音と千秋は同じグループなのでF9だ。見事に全員グループはバラバラになっている。
「雪、予定通り4日目の合流を第一目標に動け。それまでは無理をしない範囲でポイントを稼いでくれればいい」
「だいじょーぶ! 全部、わかってるから! 鈴音ちゃんたちと、平田くんたちとは、トランシーバーでポイントの調整をするつもり」
グループを作る際にポイントは平均化されるが、それを見越してポイントをほぼ同じにしておけばマイナスは発生しない。勝負が後半である以上、前半はまだ多少手を抜いても問題ないし、効率的な策であることは間違いなかった。
「清隆こそ、無理しないでよ? 月城理事長代理のことも大変だと思うけど、何かあったらすぐに相談してね」
そう言いながら、雪と鈴音がトランシーバーのコードが書かれた紙を渡してきたので、こちらも事前に用意していたものを渡していく。
「勝つための策は考えてある。予定通りに進めば、まず負けはない」
と、話していると、2年Aクラスの下船が終わったようで、Bクラスの番が回ってくる。名前順で降りていくので、あ行のオレは一番に港に降りたが、既に1年生たちは指定エリアを目指して動き始めたらしく、港にはあまり1年生の姿が残っていなかった。
しかし、それでも何人かの1年は港に残っている。移動にかかる時間が1時間から1時間半と考えると、着順報酬に興味がない1年は様子見をしているのだろう。
2年も同様――と、言っても、まだ下船しきったのはAクラスの生徒だけで、殆どのグループはメンバーが全員揃っていないこともあり、特に急ぐ様子を見せていなかった。
だが、唯一――野生児とも言って良い屈強な肉体を持った男、高円寺だけは下船すると同時に颯爽とスタート地点を走り去っていく。すれ違いざまに用意しておいたトランシーバーと、オレのトランシーバーのコードが書かれた紙を渡した。
お互いの視線が一瞬だけ交差する。
いずれ、どこかで再会する日は来るだろう。その時まで、頑張って試験をして欲しいものだ――いや、あいつの身体能力なら、上手くすれば先に出た1年より先に着順報酬を得ることが出来るかもしれないな。
「さーて、じゃあ私も行こうかな」
高円寺に続いて雪が降りてくると、そう言って自分の指定エリアに向かって歩き出した。どうやら、鈴音や千秋を待つつもりはないらしい。
4日目までとはいえ、1人グループの雪は他人に縛られずに行動できる。別に指定エリアが同じという訳ではないので待つ理由もないのだろう。逆に鈴音や千秋は、もう一人のメンバーである帆波が来るのを待つ必要がある。
改めて、セフレたちのグループを確認してみると、オレが単独、雪も4日までは単独、鈴音と千秋、帆波が同じグループで、愛里と波瑠加も同じグループ。真澄とひよりも同じグループで、それ以外のメンバーはほぼバラバラという感じだ。
恵は原作通りにAクラスの島崎、福山と同じグループを組んだようだし、佐藤も同じクラスの鬼塚や森とグループを組んでいる。桔梗もCクラスの能力の高い生徒と組んでおり、今は仲間が来るまで自分のクラスのグループのトランシーバーのコードを聞いて回っているようだった。
パッと見た感じ、退学の危険はなさそうだし、何かイレギュラーでも起きなければ放置しておいても大丈夫だろう。
「お待たせ~、遅れちゃってごめんね」
と、考えている間に、Cクラスも下船を終えたようで、帆波が元気よく鈴音や千秋に合流していた。
「いいのよ。クラス順で下船する以上、こうなるのは仕方ないことだもの。あなたが謝るような理由はないわ」
「にゃはは。ありがとね、堀北さん」
「さーて、じゃあうちも揃ったし、そろそろ出ようか? 二人とも、体調は大丈夫?」
「へーきだよ」
「……あなたまでその弄りをしてくるのね」
千秋にネタを擦られ、鈴音が面倒くさそうな表情を見せる。一人、ネタがわかっていない帆波は首を傾げていたが、とりあえずグループとしても問題なさそうだった。
オレの視線に気付いた帆波が、「じゃあ、清隆くん。お互いに頑張ろうね!」と、声をかけてきたので、軽く手を挙げて返事をする。
そんなこんなで鈴音、千秋、帆波のグループが東に向かって動き出すのを見送ると、今度は洋介、神崎、柴田の男子グループが準備を終えたようで動き出すのが目に入ってきた。
「あっ、清隆くん。まだ残ってたんだね」
「ああ、少し様子を見ていた。さっき、鈴音たちが出発していったぞ」
予定では、このグループが雪や鈴音たちと合流して1位を狙って動いて貰うことになっている。
しかし、大グループを組むまでは別グループなので、雪や鈴音たちとはテーブルが違ってもおかしくなかった。
「一之瀬からはF9が最初の指定エリアだと聞いている。俺たちはC8だ」
「C8か、雪が同じ指定エリアだったな」
「椿が? そうか……もし、彼女も同じテーブルだとすれば、少し動きやすくなるかもしれないな」
「で、そういう綾小路の指定エリアはどこなんだ?」
「オレはD7だ。お前たちとも、鈴音たちとも別だな」
柴田の問いにそう返事をすると、洋介があからさまにがっかりしたような様子を見せる。
「この試験、同じグループにはなれないと思うけど、もし困ったことがあればいつでも声をかけて欲しい」
「ああ、その時は遠慮なく頼らせて貰う。けど、お前たちには1位を狙って貰った方が結果的にこちらとしても有難いな」
「勿論、ベストを尽くすつもりだ」
「勉強と運動が両立できる俺と洋介を、神崎が指揮する! これが完璧なフォーメーションだ!」
そう言いながら柴田が意味もなく走り出した。やれやれという感じで、洋介と神崎がその後を追っていく。こちらも、鈴音たちとは別の意味で仲が良さそうで何よりだった。
そのまま、再びグループが出発するのを見送っていると、最後の2年Dクラスが降りてきたようで、こちらからやや離れた場所で真澄とひよりが西野を迎えに行くのが目に入る。
西野も、真澄とやひよりと上手く打ち解けられたようで、遠目から見ても仲良さげにしている姿が目に入ってきた。
しかし、すぐに出発するかと思ったが、西野が何やらそわそわした様子で辺りをキョロキョロ見回している。その視線がこちらを捉えると、何やらホッとしたような表情を浮かべると同時に、ボッと顔を赤くするという百面相を見せていた。
西野の異常に気付いた真澄とひよりが、「ちょっ!? どうしたの、いきなり?」、「熱さにやられましたかね? 大丈夫ですか、西野さん?」と心配した様子を見せる。
当の西野は、「だ、大丈夫、大丈夫」と、すぐに何でもないとアピールしており、心配そうにする真澄やひよりの背を押して無理やり出発していった。どうやら、真澄たちの最初の指定エリアは、鈴音たちと同じ東のようでそちらに向かって歩いていく。
だが、歩き出してすぐに、西野がチラリとこちらに振り返った。軽く手を振ると、すぐに前を向いて再び歩き出している。
先程の反応もそうだが、どうやら真鍋たちは上手く西野の気を引いてくれたらしい。いずれ、どこかでご褒美をやらないといけないな――と、考えていると、ようやく3年の下船が始まった。
当然、他の学年と同じく、3年もAクラスから降りてくる。しかし、その中に南雲の姿は見当たらなかった。否、南雲だけではなく、なずなの姿も見えない。
Aクラスの番が終わり、Bクラス、Cクラスと下船が進んでも、その姿はついぞ目に入らなかった。そういえば、原作でも南雲は下船時に姿を見せていない。隠れているのか、それともこちらをかく乱しようとしているのか――
「まだスタート地点に残っていたのか、綾小路」
――と、考えていると、3年Bクラスの鬼龍院が、オレに気付いてこちらに歩いてきた。
「おはようございます、鬼龍院先輩。少しスタート地点で作戦を練っていたもので……」
「おいおい、お前も単独グループだろう? 何を考えるにしても歩きながらで良いはずだ」
「まぁ、そう言われればそうですね」
「何か知りたいことがあるなら教えてやるが?」
「南雲先輩の姿が見えないと思っただけですよ」
「成程……言われてみれば確かに、もう降りていてもおかしくはないな」
この言いぐさからして、鬼龍院も南雲についてはあまり知らなさそうだ。まぁ、こいつは元々他人に強い興味を抱くようなタイプじゃないしな。
「ところで、君の最初の指定エリアは?」
「D7です」
「ほう? なら、少なくとも一か所目は私と同じ目的地ということだな。どうだ、一緒に向かうか?」
どうやら鬼龍院も同じ指定エリアということで原作と同じテーブルのようだった。オレが好きに動いたことによる違いはないということで、とりあえず一安心だ。
「……そうですね。このままここにいても意味はなさそうですしお付き合いします」
南雲の様子を見ようとは思ったが、原作通りであるならここに残る意味はない。なら、せっかくの鬼龍院からの誘いに乗るのも悪くないだろう。
原作のオレは警戒する素振りを見せていたが、鬼龍院がオレに抱いているのは完全な興味だけだ。進んで妨害も助力もしない中立派の人間をいたずらに警戒しても無意味だし、これからずっと一緒に行動する訳ではないのなら提案を拒絶する理由もない。
と、いうことで、鬼龍院と共にD7を目指して歩いていく。前にスーパーで会った時もそうだったが、自由人でぼっちを謳っている割に鬼龍院はお喋りな人だった。
オレのことを根掘り葉掘り聞こうと、あれこれ話を振ってくる。とりあえず、答えても問題ないものについては適当に答えた。途中、夜の話になった時は少し驚いたが、今更鬼龍院に隠し事をしても意味がないので素直に全て話している。
途中、D8エリアを通過すると、原作通りに愛里と波瑠加のグループが話をしているのを見つけると、鬼龍院に一声かけて話を聞きに行った。
興味があるようで、鬼龍院も着いてきたが、気にせず愛里や波瑠加の様子を確認する。やはり、原作通りに彼女たちの最初の指定エリアはD8だったようで、既に到着してしまってどうするか悩んでいるようだった。
とりあえず、長期戦ということで体力の配分にだけは気を付けるように注意する。とはいえ、愛里もそうだが、波瑠加も愛里に釣られて最近は運動をしているので、二人とも原作よりもスタミナは増えていた。
今も、短い距離を歩いただけなので当然ではあるが、まだまだ体力は残っているように見える。これなら上位を目指せなくても、下位に沈むようなこともないだろう。
そんなこんなで、再び鬼龍院と共にD7を目指して移動を再開する。意外にも、鬼龍院は愛里や波瑠加、明人のことを気に入ったようで、軽く話をした上で「覚えておこう」と声を上げていた。
愛里や波瑠加はともかく、明人は鬼龍院のことを結構知っていたようで、何故オレが鬼龍院とこんなに仲良くしているのか首を傾げていたが、それについてはオレの方が聞きたかったりする。
また、少し会話をしただけで、鬼龍院は愛里や波瑠加がオレのセフレであることもわかったようで、「なかなかいい女たちだな」と、揶揄うような声を出してきた。
実際、言っていることは何も間違っていないので、「オレには勿体ないくらいですよ」と返す。すると、少し驚いたように、「そういう素直な所は美点だぞ。見栄を張って、女を雑に扱う男よりも好感が持てる」と、何故かオレが褒められる流れになってしまった。
何というか、何を言っても認められるので、オレの何が鬼龍院を楽しませているのかが全然わからない。とはいえ、不機嫌になられるよりはずっといいのは間違いないので、D7に着くまでの間は楽しそうな笑みを浮かべる鬼龍院の美顔を楽しませて貰うことにした。
原作との変化点。
・ルール説明後もしっぽり楽しんだ。
しかし、夜に外出制限があるため、去年ほど好き勝手は出来ていない。月城もPPを支払っての個室での行為には目を瞑っているが、夜の外出だけは許してくれなかった。
・無人島試験開幕。
原作と同じく、全員を見送ってから出ようとしたが、南雲の姿が見えなかったため諦めて鬼龍院と楽しく指定エリアに向かっている。
・鬼龍院が綾小路グループに興味を示した。
覚えておこう(本当に覚える)。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
原作では警戒していた鬼龍院と一緒に楽しんでいる。原作知識があるため、鬼龍院に裏がないのがわかっており警戒する必要性がないので美人を侍らせている。
・椿雪
清隆のために気合を入れて無人島試験をスタートした。
・堀北鈴音
小グループのリーダー。去年のネタを弄られて参っている。
・佐倉愛里
原作よりも体力があるので頑張っている。勝負は中盤以降。
・長谷部波瑠加
愛里が気合入りすぎて少し心配。とはいえ、自分もそこまで体力がある訳ではない。
・松下千秋
上級生の情報を集めたり鈴音をからかったりと気合が有り余っている。とはいえ、普段はブレーキ役なのですぐに落ち着いた。
・神室真澄
百面相している西野を心配している。まだ西野の清隆への気持ちには気づいていない。
・椎名ひより
百面相している西野を心配している。まだ西野の清隆への気持ちには気づいていない。
・西野武子
この約半月。真鍋たちに煽りに煽られてフラストレーションがたまっている。清隆を見てホッとしたが、なんでこんなに意識していると自分を戒めたが、それでも気になって目で追ってしまった。
・伊吹澪
試験前にちゃっかり雪のご相伴に預かった猫ちゃん。
・鬼龍院楓花
原作では誘いを断るが、今回は一緒に行動した。意外とお喋りな性格をしていて一緒に居て飽きない。
・平田洋介
清隆が別のテーブルでショックを受けている
・神崎隆二
必ず1位を取ると、隠れた決意を抱いている。自分がトップグループに選ばれたことを誇りに思いながらも結果を出さないととプレッシャーも感じている。
・柴田颯
運動能力の高さは須藤よりも若干低いが、須藤よりも頭が良くて地味に使い勝手のいいCクラスの有能枠。性格は池、山内と同類。