試験3日目――いつものように6時には目を覚まし、テントを片付けて準備を始める。
七瀬も、オレが起きるとすぐにテントから姿を現した。パッと見た感じ、疲れが残っているようには見えない。何時に眠ったのかはわからないが、七瀬もそれなりに眠れはしたのだろう。
そのまま、軽く朝食を済ませて、朝7時に告知される指定エリアの発表を待っていく。
やはり、原作通りにH7が指定エリアになったということで、オレと七瀬はワンツーフィニッシュで着順報酬と到着ボーナスを得ていった。と、いっても、七瀬は宝泉グループなので、着順報酬を得たのはあくまでもオレだけだが。
しかし、問題はここからだ。
今回は原作知識を利用して、昨日のうちにI7まで来ていたから先着が取れた。普通は原作の俺のように、昨日の時点では無理はせずに今日になってから動こうとするだろう。
だが、オレは原作知識で次の指定エリアが、ランダム指定でJ5になるのを知っている。故に、今日から動く組はどうしても指定エリアを目指す都合上、テーブルに振り回されるというのがわかっていた。
原作の俺は、I7含めエリアを2回スルーし、次のエリアがJ5だと判明した時点で、浜辺を突っ切るという荒業で1位を取っていたが、今いる俺たちの場所は森の中だ。ここからJ5を目指すとなると軽く普通は1時間以上かかる。
おまけに、七瀬は次の指定エリアを、おそらく縦横2マス斜め1マスのどこかになると考えているはずだ。そんな中、下手に的外れなJ5の方へ誘導するのは一見難しい――が、H7は運が良いことに半分以上が山に囲まれた立地をしていた。
当然下のH8や左のG7、左斜め上のG6などは完全に山の中であり、こういう所が指定されることはまずない。
勿論、可能性がゼロという訳ではないが、学校側としても生徒の安全には配慮している。基本的に選ばれることはないと判断してしまって良いだろう。
他にも山以外の場所が小さく入っているエリアなんかもあるが、そのどれも山越えをしない場合は、I7から再び回っていく道を選ぶことになる。
つまり、山を避けつつ最短でJ5狙える位置は限られていた。後は七瀬にそれっぽく理論的な説明をしてそこに移動できれば、J5の着順報酬を得る可能性が出てくる。
仮に着順報酬が取れなかったとしても、かなり早い段階で指定エリアに到着することが出来るはずだ。
これ以上は、七瀬に妙な疑いを抱かせる可能性があるので無理はしない。原作では長い道を歩き詰めだったが、昨日少し無理をしたおかげもあって七瀬も体を休めることが出来たのか、今の所はそれほど疲れを見せる様子はなかった。
そのまま9時になると、本日二度目の指定エリアは、やはりランダム指定が発生してJ5に決まる。
今いるのは先程のH7ど真ん中ではなく、H7北東の端だ。このまま北東に少し歩けばすぐにI6に入る。後はまっすぐ北東に進んで着順報酬を狙うだけだった。
読みは外れたが、結果的には問題なかった――という体で、まっすぐJ5に向かっていく。スタートダッシュを勢いよく切った甲斐はあったようで、多少足場の悪い森の中を進むことにはなったが、何とか1時間ちょっとでJ5に到着することが出来た。
運が良く、今回も何とか1位。
これで再び11点が加算され、オレの今のポイントは81点――タブレットを開くと、この隣のJ6で『ビーチフラッグス』がやっているということで、そのまま参加しに行くことにした。
この『ビートフラッグス』は男女別で8人ずつの募集が行われており、同一グループからは一人しか参加できない。報酬は1位のみで6点、参加証として500mlの水が貰える。間に合うかどうかは怪しいが、出来れば参加したい所だ。
と、いうことで、J6に入り、課題の前まで到着すると、原作通り3年の桐山がいたようで、「綾小路、後一枠だ。登録するなら急げ」と声をかけられる。
女子も丁度一枠空きがあったということで、オレと七瀬でエントリーしていく。当然ながら偶然な訳もなく、原作知識を擦ってここで桐山と合流するのは当初から予定していた。
更衣室で水着に着替えながら、桐山とトランシーバーのコードを交換し、近況を報告していく。
どうやら、今は南雲もまだ大きく動いていないらしい。桐山たちも、予定通り3年Aクラス以外のグループで結託して課題を独占するなどして上手く妨害もしているとのことで、そこまでの得点は持っていないはず――と、いうことだった。
まぁ、南雲としても、本番は全グループの上位と下位の10組がタブレットに告知される明日からということだろう。
とりあえず、近況を確認しつつ、課題は課題で真面目に行っていく。男子は基本的にオーソドックスなダボっとしたハーフパンツタイプの水着を着ていた。
メンバーは、オレ以外は全員3年生であり、桐山も「こればかりは手を抜かないぞ。正々堂々の勝負だ」と、真面目に戦う素振りを見せている。やろうと思えば、他の3年を使ってオレを妨害することも出来るはずだが、そういうことをするつもりはないらしい。
この辺が桐山の甘い所だ。勝ちたいなら徹底して相手を妨害しないと意味がないだろうに――と、思っていると、続いて女子も出てきた。
参加メンバーの内、7人が3年生のようで、残る1人が唯一1年生である七瀬だが、8人中5人がスクール水着を着ている中、七瀬は残る3人に含まれており、原作通りになかなか攻めた水着を着ている。ポロリを期待したい所だ。
と、考えていると、まずは男子から課題を行っていくことになった。1対1の勝負を3回繰り返し、最後まで勝った生徒の勝利という単純なルールだが、流石に妨害無しの真剣勝負で負ける理由はない。
どいつもこいつも、妨害など欠片も考えていない真剣勝負を繰り広げており、決勝戦ではオレに負けた桐山が「くそっ、及ばなかったか」と、悔しそうにしている。妨害すれば勝てたはずと、言うと「仲間を妨害してどうする」と呆れた顔をされた。
どうやら、桐山にとってオレは既に仲間判定であるらしい。こちらにしてみれば都合のいい駒としか考えていなかったが――まぁ、向こうがやる気になってくれればどうでも良かった。
500mlの水と、8点を追加で貰い、続く女子の試合を応援していく。七瀬はビキニ姿で準備運動を始めており、目の保養と言って良いくらい男子の注目を集めていた。
いざ、女子の組が始まると、原作通りに七瀬が無双を始めている。オレと同じく手加減などする気は欠片もないようで、あっという間に三年をなぎ倒して一位をもぎ取っていた。
「圧勝だったな」
「ありがとうございます。何とか勝てました」
正直、七瀬が勝つのはわかりきっていたので、オレの方は途中で既に着替えも終えている。
七瀬も、流石にこのままの姿でいるのは恥ずかしいのか、少し会話をするとすぐに更衣室に走っていった。
「綾小路」
「わかってますよ」
桐山が声をかけてくるが言いたいことはわかっている。男子のビーチフラッグスが終わる頃には、南雲が海で遊んでいたのは既に見つけていた。
同じグループのなずなや他の女子と共に、余裕を見せつけるかのように楽しんでいる様子が目に入ってくる。南雲も、オレが見ていることに気付くと、手招きするようにオレに手を振ってきた。
無視する訳にもいかないので、そのまま南雲の方に向かって歩いていく。桐山はもう移動するようで、トランシーバーで指示を出しながら森の中に入っていった。
「見てたぞ。まぁ、お前の能力なら1位なんか余裕だろうがな」
「いえいえ、桐山先輩は強かったですよ。少し油断すれば負けていました」
「油断すれば俺だって負けるさ。油断しないから負けないんだよ」
それはそうだ。これは一本取られたな。
「お前も泳いだらどうだ?」
「そうしたいのは山々ですが、南雲先輩のように水着を借りるほどポイントに余裕がありませんから」
「そうか? お前もやろうと思えばできたと思うけどな」
「随分と余裕ですね。妨害もいろいろ受けていると聞きましたし、血眼になって得点を集めていると思いましたが……」
「息抜きも必要だろ? それに、本番は明日からだ」
そう言って、南雲は獰猛な笑みを浮かべてくる。
「お前の順位を確認し次第、俺はそこで動く。どんなに頑張っていても、お前が表彰台に立つことは不可能だぜ」
「それは怖い……」
「早いうちに誰かとグループを組むんだな。勝手に自爆して退学なんてことになったら、堀北先輩もがっかりするだろう」
と、話していると、更衣室から着替え終わった七瀬が出てくるのが目に入った。南雲も、オレと七瀬が行動を共にしているのは知っているようで、話を終わらせようとしてくる。
「明日以降を楽しみにしてろ。お前はオレを捕らえたつもりだろうが、この程度の包囲網は無駄だってことをすぐに教えてやる……そろそろ時間だ、行くぞなずな」
まるで、自分の女だと言わんばかりになずなに声をかけると、南雲は海から上がって更衣室に向かって歩いて行った。
入れ替わるように、こちらに気付いた七瀬が小走りに駆け寄ってくる。とりあえず、勝手に動いたことを謝りながら、次のエリアに備えてJ5に戻って休むことにした。
◇◆
本日のランダム指定は終わったので、次の3回目の指定エリアは縦横2マス斜め1マスから選ばれる。とはいえ、Jは無人島の一番東側なのでここから右側が選ばれることはない。
また、今オレたちがいるのはJ5だが、J3から上は完全な海なので、可能性としては左側か下側の方が選ばれる確率が高いはず――と、いうこじつけ推測で、次のエリアになるH5に早く着けるように、J5エリア左端の森の入り口辺りに陣取っておく。
しかし、再び森を抜ける都合上、どうやったってH5に着くのは一時間近くかかる。ここまでは原作知識を悪用して上手く周りを出し抜けたが、流石にここから着順報酬を狙うのは無理があるだろう。
それに、水の問題もある。
オレは昨日のクイズやビーチフラッグスで水を確保できているので当面の問題はないが、七瀬の方はそうはいかない。
今手持ちの水を聞いてみると、今手に入れた500mlが一本だけということだった。これでは無理をしても後に響く。今後のためにも、今はまだ七瀬に抜けて貰う訳にはいかない。
とりあえず、到着ボーナスだけでも貰えるように、ゆっくりと指定エリアのH5に向かって森の中を進んでいく。
途中、七瀬がオレのことを探るように会話を振ってくるが、この会話は七瀬のオレの中の印象を変えるためにも重要なものだった。今の七瀬は、親父殿のせいで松雄の息子が自殺したことを恨んでおり、当然ながら親父殿の息子であるオレのことも逆恨みしている。
故に、オレは親父殿とは違うということを随所でアピールする必要があった。最終的にはオレのために動く可愛い番犬にしたい――と、考えながら、七瀬と話をしていると、一時間と少しでH5に辿り着いた。
結果は予想通り到着ボーナスの1点のみだったが、これで90点とかなり順調に稼いでいる。また、原作ではここで疲れを見せる七瀬も、昨日頑張ったおかげで、今日の序盤に休めていたからか、まだ少し余裕があるようだった。
七瀬自身も、「大丈夫です、いけます!」と笑顔を見せるので、H5でやっている『歴史』の学力テストを一緒に受けに行くことにする。参加人数は8組までだったが、オレが7組目、七瀬が8組目で、ギリギリでエントリーすることが出来た。
だが、オレたちがエントリーを済ませると同時に、何人かのグループがこちらに走ってくるのが目に入る。
一人は龍園グループの橋本だ、龍園や葛城の姿はなく別行動をしているらしい。もう一人は真澄で、橋本に並ぶように走りまくっている。その後ろに何人かの1年生と、置いて行かれたらしいひよりや西野の姿があった。
「「受付けは!?」」
ほぼ同着だった真澄と橋本が声を揃えて、担当の職員にそう声をかける。しかし、残念ながらオレと七瀬がエントリーしたことで枠はもう一杯になっていた。
「残念ながら締め切りです」
「まじかよ……」
「こんだけ、走らされて……骨折り損所じゃないわよ……」
もし、オレが原作通りに七瀬を休ませる判断をしていたのなら、橋本か真澄のどちらかはエントリーで来ていただろう。
しかし、オレが原作と動きを変えていることで、起きるイベントは同じでも、結果が大きく変わるという事態になっている。まぁ、そもそも橋本と真澄が別グループというのも、原作から大きく変わっている要素なのだが――
「にしてもやるじゃん真澄ちゃん。俺に着いてくるなんて……」
「っさい話しかけないで……暑いし汗かくし、最悪……」
肩で息をする真澄が、近づこうとする橋本を、ハエでも払うかのように遠ざける。振られた橋本はやれやれと肩を竦めながらこちらに歩いてきた。
「よっ、試験では初めて会うな綾小路。お前もこっち側に来てたのか」
「ランダム指定でな。危うく山を越えさせられる所だった」
「しっかし、単独で参加なんて勇気あるよな。相当稼いでるのか?」
「さてな。明日になってからのお楽しみだ」
流石に、これだけ稼げば上位10名には入っているはずなので、橋本の驚く顔が想像できる。
「す、すい、すいま……はぁ、はぁ……っ」
「はぁ、はぁ……で、神室さんはエントリーできたの……?」
と、話をしていると、息も絶え絶えという様子のひよりと、結果を気にする素振りの西野が合流し、真澄が苦渋の表情で「受付が締め切られてた」と返す。
また、同時に、エントリーできなかった原因であるオレの存在に気付いた西野が、「あ、綾小路くんっ!? い、いたんだ……!」と、ワタワタした様子を見せた。
「んじゃ、俺は行くよ。またな、綾小路」
周囲が騒がしくなってくると、そう言って橋本が離れていく。しかし、最後に真澄にちょっかいを出しているようで、面倒くさそうにあしらわれていた。
その間に、ひよりと西野の傍に寄っていく。それだけで、西野はわかりやすくあたふたするが、ひよりはまだ呼吸が整わないからか西野の様子に気付いておらず、真澄は橋本に絡まれていてそれ所ではない。
だが、オレと一緒にいた七瀬は何かピーンと来たようで、気を使ったように後ろに下がっていった。気の使える女だ――と、思いながらも、有難くその気遣いを受け取る。
「オレがエントリーして締め切りだったんだ。悪いな」
「う、ううん! そういうのは運だから……」
「西野はどうだ? 真澄やひよりと一緒のグループでちゃんとやれているか?」
「うん。二人とも気を使ってくれるし、意外と話も合うから……」
「そうか、なら良かった」
今、ここでは適当な会話をするだけでいい。
ずっと焦らして、長い時間話せていなかったし、もっと話したいと西野は思うだろうが、ここは物足りないと思わせるくらいが丁度良かった。
切り良く話を切ると、今度はようやく息が整ったらしいひよりに声をかけていく。
全体的にバランス型の真澄と違って、ひよりは学力や知識はあっても体力がない。この日差しの中、無人島を動き回るのはかなり疲れるはずだ。
「大丈夫か、ひより?」
「はい、なんとか……我ながらかなり頑張ってると思います……」
「まだまだ試験は続く。あまり無理はしないようにな。真澄の手綱を上手く握ってくれ」
「ふふ、あれで真澄ちゃんも意外と気を使ってくれるので大丈夫ですよ。今回は橋本くんに煽られて少し暴走してしまいましたけど」
「別に煽られてなんかないわよ」
と、真澄の話をしていると、橋本を置いて当の本人がこちらに歩いてきた。どうやら橋本にかなりウザ絡みされたようで、あからさまに不機嫌さを隠しきれていない。
「あんたもこの近くだったのね」
「ああ。H5がエリアだった」
「私たちはH4だからテーブルはやっぱり違うみたいね」
「さっき、ひよりや西野にも聞いたが順調みたいだな」
「今の所はね。でも、やっぱり水がちょっと……」
やはり、どのグループも水が死活問題になってくるか。今、全力ダッシュして喉も渇いているだろうし、ここは少しだがオレの水を分けてやることにする。
運よく、昨日のクイズで1.5ℓだが水を多めに確保できていた。オレは水分補給の当てもあるし、ここは気前よく水を真澄たちに譲ってやろう。西野へのアピールにもなるしな。
「それではこれより課題を始めます」
と、考えていると、準備が出来たようで課題が始まる。真澄たちもすぐに他のエリアに移動するつもりのようなので、とりあえず要件だけ済ませてしまうことにした。
「真澄」
「なに――って、あんたこれ……」
「多めに持っている。一本やるから仲良く分けろ」
そう言って水を渡しながら、ついでにオレのトランシーバーのコードが書かれた紙を渡しておく。原作でもここで真澄と出会うことになっていたし、こういうこともあろうと事前に準備は出来ていた。
そのまま、すぐにオレも『歴史』の課題を受けるためにタブレットを出していく。真澄も、「今度、お礼するから……」と小さく呟いて、この場を離れて行った。
お礼には存分に期待させて貰おう――と、思いつつ、歴史の問題を解いていく。問題の答えは全て4択であり、全20問で正答率が一番高い生徒が勝者となる。
クイズなどと違って、この手の問題でオレが負けるはずもなく、全問正解で余裕の1位を決めた。2位は80点で3年生のグループ。その次が75点で七瀬がポイントを稼いでいる。追加報酬として食料も与えられ、これで食料には多少の余裕が出来た。
「やりましたね、綾小路先輩」
お互いに課題で得点を得られたと言うことで、七瀬が嬉しそうな顔でこちらに寄ってくる。もう真澄たちもいないので、七瀬も気を遣う必要がないのだろう。
「体力は?」
「問題ありません。いけます」
「じゃあ、近くで化学のテストもやってるから、それにも参加するぞ」
問題を解いている間は動かずに済むので、逆に少し休めたくらいかもしれない。勿論、頭を使うから疲れない訳ではないが、体力的な意味ではいい休息だった。
そのまま七瀬を引き連れて、化学のテストでも1位を取り追加で5点を奪っていく。これで歴史と合わせて10点がプラスされ、100点となる。原作の約2倍の点数だ。少し動き方を変えただけだが、効率よく動けばそれだけの差が出て来てもおかしくはない。
また、午後3時に解禁されるエリアはI4となった。今オレたちはH5にいるので、H4を通過しつつI4を目指すことにする。
だが、遠回りすることを承知で、敢えてH4の中央を通るように動いた。もし最短を目指すなら、わざわざこんな道を通る必要はない。
しかし、今はこの道を通ることが必要だった。
真澄たちに水を渡したことで、オレも七瀬も手持ちは後500mlの水が一本だけとなっている。
これまでの傾向から見て、次にH4で『競争』という形で水が貰える課題が開かれるのは予測できていた。なので、今回は着順報酬よりも水の補給を優先することにする。
七瀬に有能さを見せつけるためにも、1日目や2日目の情報からの推測という形で、水が貰える場所を推測できると説明しながら坂上が設営しているエリアを見つけたので陣取っていく。
しばらくして、課題の参加受付が始まると、オレと七瀬でワンツーフィニッシュを決めた。内容は『競争』なので、何もせずに1位のオレは3点と水2ℓ、2の七瀬は2点と水1.5ℓが与えられる。
本質的に素直な七瀬は、オレに向かって「凄いです、先輩」と尊敬の視線を向けてきた。
原作のオレは七瀬が味方かどうか判断できなくて素っ気ない態度を取っているが、普通の女の子は自分に優しくて頼りになる男が好きなはずだ。
ただ、もしかしたら七瀬は自分が先輩を守らないと――と、いう相手が弱い方が好きになりやすいタイプの可能性もゼロではないのだが、まぁ完全に惚れさせる必要はない。この人になら食べられてもいいくらいの好感度があれば十分だ。
そんなこんなで、途中で水を補給しつつ、3日目最後の指定エリアであるI4に到達する。流石に着順報酬は得られなかったが、これで計104点となった。
しかし、森の中はキャンプには適さないということで、南下して近くの川辺を目指して歩いていく。
そのまま、20分程かけて森を抜けてキャンプの準備をしようとすると、こちらに向かって「おーい、綾小路ー!」と聞き覚えのある声から呼びかけがかかった。
振り返ると、川の向こう側に池がおり、ブンブンとこちらに手を振っている。「魚もあるし、こっちに来いよ!」と声をかけられたので、急遽予定を変更して池たちと合流した。
原作と違って、池がそこまで不安定じゃないこともあって、七瀬と池たちが親睦を深めるイベントは発生していない。
だが、七瀬が可愛いこともあって、須藤以外の二人はデレデレで七瀬を迎え入れていた。それを見た須藤が、「寛治、お前……」と、残念そうな声を零す。それを聞いて、「ち、ちげぇから! 浮気じゃねぇから!」と、必死に言い訳をしていた。
「ごほん! じゃあ、そろそろ飯にしようぜ!」
気を取り直したように池がそう声を上げる。どうやら、オレたちが合流する間に枝などを集めて既に火は起こしていたようで、池がどや顔でテントの近くからバケツを持ってきた。
「わ、凄い……!」
「海に行った時に時間があったからついでに釣ってきたんだ。食べようぜ!」
七瀬の称賛を聞きながら、必死に鼻の下が伸びるのを耐えつつ、池が魚を焼き始める。
どうやら血抜きや内臓の下処理なども既に済ませているようで、器用に串を差して魚を焼き始めた。こういうのは知識があっても経験がないと上手く焼けない。そういう意味ではやはり池はこういう試験だと輝く人材だな。
七瀬も、池が話しやすく、盛り上げ上手のムードメーカーだと気付いたようで、手際よく魚を焼いていく池を褒めて調子に乗せている。
それを見て、本堂も良い所を見せようと池の手伝いを始めた。お調子者の二人がせっせと働くのを見つつ、こちらはこちらで須藤と適当な世間話をしていく。
「お前、一人で104点かよ……俺らの倍以上の得点じゃねーか」
「運が良かったのもある。昨日の時点で無理してこっち側に来てなかったら、もう少し得点も減っていたかもな」
「にしても、だ。まぁ、お前の能力なら課題なんて楽勝だろうし、エントリーさえ出来れば零すこともないんだろうけど」
「そうでもない。地味に、お前たちと一緒にやったクイズには助けられた。あれはオレ一人じゃどうにも出来ない問題だったからな。アニメの知識はそこまで持ってなかったし」
「つまり、運が良かったってことか?」
「いや、運と実力、両方だ」
「ケッ、少しは謙遜しろよ……まぁ、無事なら何よりだけどよ」
七瀬と一緒に行動していると言うこともあって、須藤は何だかんだオレのことを心配してくれていたらしい。
まぁ、原作と違って、須藤は七瀬に悪い印象を持ってはいないが、それでも下級生と上級生が組むメリットがない以上、何かを企んでいるとしか思えないだろうしな。
「なんかいい匂いするんだけどー」
と、須藤と適当な話をしていると、その匂いに釣られて恵のグループがこちらに歩いてきた。
恵のグループメンバーは、原作通りに2年Aクラスの島崎いっけいと福山しのぶであり、どちらも学力に秀でた生徒でもある。基本的に学力に不安のある恵としては頼もしいメンバーと言って良いだろう。
「あっ、清隆」
「恵か、元気そうだな」
恵もオレがいることに気付いて普通に声をかけてきた。原作と違って付き合っている訳ではないので、別に仲良くしようと誰の迷惑にもかからないからな。
しかし、福山はそんなこちらの様子を見て、「なになに~、良い感じ~?」と、こちらを囃し立ててくる。恵は「そんなんじゃないって」と、平然としているが、確かにパッと見は普通の友達よりも距離が近いかもしれない。セフレだからな。
「ねぇ! あたしたちもここでキャンプしない? 池くんがご馳走してくれそうだし!」
福山が妙にせっついてくるので、面倒くさいことになる前に話題を変えようと、恵がそう声を上げる。当の池は、いきなりの提案に、「はぁ!?」と驚きの声を上げた。
「な、なんで俺がご馳走しなきゃいけないんだよ!」
「あれぇ~、そんなこと言って良いのかなぁ? 私、知ってるんだけどなぁ……篠原さんのグループのよ・う・す」
表向き陽キャである恵のことを、池はあまり好んでいないこともあり、露骨に嫌そうな顔をするが、そんな池の態度を見てすぐに恵が強気に出る。
恵は、篠原と仲の良い友達だ。
おそらく、この無人島試験でも何度か関わる機会があったのだろう。気にしないようにしていても、自分の彼女がどうしているか――と、いう情報をぶら下げられて、池は一瞬で掌をひっくり返した。
「しゃ、しゃーねーなぁ! こうなったら追加3人の魚も用意してやんよ!」
「よっ、男前! こんなにいい男を彼氏に持って、篠原さんは羨ましいね~」
と、恵が乗せに乗せたこともあって、池は追加で3人分の魚の準備を始めた。本来であれば、残りは池たちの明日の朝食だったのだろうが、須藤や本堂も特に気にした様子はない。
島崎と福山も流石に図々しいのではないかと遠慮する素振りを見せたが、恵が半ば無理やりに座らせた。AクラスとBクラスは意外と仲が悪くないこともあって、須藤や本堂も普通に話をしている。
そんな中、オレの隣に座る七瀬をけん制するかのように、恵がオレの反対側に座ってきた。「失礼しますよっと」と、わざと距離を詰めながら、七瀬に探るような視線を向ける。
「……何で1年生と一緒にいる訳?」
「行動を共にしている。同じテーブルだからな」
「だからって! この試験じゃ他学年の生徒は敵なんだよ!?」
「それ、須藤にも言われたな。大丈夫だ、警戒してる」
「まぁ、わかってるならいいけど……後輩の女の子一人抱えて本当に試験クリアできんの? 退学しましたじゃ洒落にならないんだからね!」
「似たようなことを須藤にも言われたな」
「ちょっと須藤くん! 私のセリフ取らないでよ!」
「何の話だよ! なんで、俺が責められなきゃいけないんだ!?」
理不尽な追及が須藤を襲う中、七瀬がいつものように気を利かせて少し距離を取る。自分がしゃしゃり出る場面ではないと察したのだろう。
「で、お前は順調なのか?」
「それなりにはね。あたしは助けて貰ってばっかりだけど。そっちはどうなの? イチャイチャしてるだけゃないでしょうね?」
「それなりに上手くやってる」
「ふーん……今の得点は?」
「104点だな」
「ちょっ!? 私たちの3倍近くあるじゃない! それなりにって、どこがそれなりなのよ!?」
聞けば、恵たちはこの3日間で37点を獲得したらしい。それだけあれば、下位に名前を連ねることはまずないはずだ。
恵も、オレがそれなりに真面目に試験をやっているとわかると、「全くもう……」といいながら、こちらの耳に口を寄せてくる。
「そっちの子……確か、七瀬ちゃんだっけ? 狙ってんの?」
「わかるか?」
「わかるに決まってんでしょ……どれだけあんたと一緒に居ると思ってんのよ。また順番が少なくなるじゃない」
「その分はお前も、千秋や佐藤の時に紛れて来てるだろう」
「そうだけど! そうだけど、そうじゃないのよ!」
何が言いたいのかよくわからないが、別に七瀬を特別扱いするつもりはない。今は攻略のために一緒に居る必要があるだけであり、落ち着けば扱いは他のセフレたちと一緒になるだろう。
とりあえず、恵の頭を軽く撫でてやると、「もう、ずるいんだからっ」とそっぽを向く。雪もそうだが、大体の女はこれをやると怒っていても許してくれる。
その後、池が魚を焼くのを見つつ、恵たちも近くでテントの準備などを始めた。宣言通り、今日は近くで休むつもりらしい。
そのまま、恵たちがテントを設置し終え、池の準備が完了すると、全員で焼き魚パーティが始まった。
池は魚を食いつつ、恵から篠原の様子を聞いている。今の所は元気にしているようだが、連続でエリアに辿りつけなかったということで、少し厳しい状況になっているらしい。
池も心配する素振りを見せるが、今の池に出来るのは応援することくらいということで、魚を食いながら明日からも頑張ろうと気合を入れている。
この試験である程度の成果を出すことが、池に出来る篠原へのアピールだからな。二人の関係がどうなるにしろ、この試験中だけでも池には頑張ってほしいものだ。
原作との変化点。
・エリアの進み方が違う。
原作だと朝早くから山を迂回してI7を目指しつつ途中でH7になるも、距離の問題で間に合わず2連続スルーして9時からのJ5で到着ボーナスを狙ったが、このSSでは昨日の時点でI7まで来ていたためH7にも間に合っている。また、原作知識を擦ってJ5も1位で到着した。
・ビーチフラッグス。
原作では桐山が南雲と組んでいるため参加できないが、このSSでは清隆が桐山と組んでいるため参加できた。ここで桐山との連絡手段をゲットするのは、原作知識を利用した当初からの予定に組み込まれている。仮に何かの手違いで会えなかった場合は、3A以外の上級生を捕まえて桐山との連絡を取るつもりでいた。
・ビーチフラッグスで勝利した。
が、一位よりも七瀬の水着に目が行っている。この禁欲生活の中で、久しぶりの目の保養になった。
・南雲と会話した。
原作と同じ状況ながら立場が違う。今回、南雲は桐山によって、近くの課題を封殺されて参加が出来ない状況。
・歴史の課題。
原作では、朝から歩き詰めで七瀬の体力が付きたため、その回復の時間を稼ぐ意味も込めて清隆が個人で参加する。そこに橋本&真澄グループが来て勝負するという流れだが、この世界では昨日の時点で移動をしていたおかげで七瀬の体力にも余裕があったため、橋本や真澄(このSSでは別グループ)の参加枠が奪われた。
・西野の状況。
ちょっと焦らすターン。
・須藤や池たちとキャンプをした。
原作通りの流れだが、前日にエリア移動を優先したため、このSSでは池や本堂は七瀬とほぼ初対面。また、恵のグループが原作通りにやってきて一緒に夕食を取った。原作だと、恵のグループはこの後別の場所に移動したようだが、このSSでは一緒にキャンプをしている。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
無表情だが、しっかりと七瀬のビーチフラッグスは見ていた。七瀬の番じゃない時に着替えをして、七瀬が優勝するのをしっかり見届けている。
・七瀬翼
清隆の未来予知のような推測や、課題で見せる能力の高さに舌を巻いている。また、清隆が原作よりも七瀬を警戒しておらず、邪険にしていないこともあって七瀬からの信頼度も上がっている。
・朝比奈なずな
軽く挨拶を交わした程度。南雲と同じグループになっている。
・神室真澄
橋本にちょっかいを受けてウザがっている。また、そのせいで西野の表情の変化を見逃した。清隆から水を貰って少しきゅんとしている。
・椎名ひより
息を整えていて西野の変化を見逃した。無人島試験のように体を動かす試験は苦手だが、代わりに学力面でグループに貢献している。
・軽井沢恵
原作では二人っきりになるが、このSSではなっていない。また、七瀬を狙っていることについてもすぐに気付いた。
・西野武子
久しぶりに清隆と話せて喜んでいる。少し話足りない気もしているが、試験中なので仕方ないと自分に言い聞かせていた。順調に意識させることが出来ている。
・南雲雅
ビーチフラッグスに参加しようとしたが、最後の枠を清隆に奪われた。今はまだそこまでガツガツ得点を稼いでいないように見えるが、しっかりと基本移動の得点を重ねている。
・桐山生叶
いくつかの小グループを使って、南雲を抑え込んでいる。今の所は順当に得点を重ねている様子。
・須藤健
原作よりも清隆に懐いており、その実力も知っているため、普通に接している。平田ってはいない。
・池寛治
軽井沢に乗せられて朝用の魚を献上した。彼女の篠原がピンチで少し心配しているが、信じることが大事と自分に言い聞かせている。
・本堂遼太郎
池と一緒に七瀬の可愛さデレデレしていた。
・島崎&福山
学力枠。福山の方は原作の体育祭後半で女子バレーにも参加しているため、そこそこ運動能力もありそう。島崎は原作とアニメで顔が結構違う。