ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯036 『もっと凄いサービス』

 5日目――朝7時になるかならないかのギリギリで、オレと七瀬は移動の準備を始めていた。当然ながら、7時に更新された指定エリアはI8であり、表向きは偶然を装いつつも予定通り着順報酬の1位10点と到着ボーナスの1点を得ることが出来ている。

 昨日の朝に事件を起こした天沢も、時計の交換のためにスタート地点へ一時的に戻っていたが、夜にはもうこちらに戻ってきたようで、I8でその姿をこちらに軽く見せていた。

 

 とはいえ、基本的に接触するなという命令を出しているので、向こうも近づいては来ない。天沢としても自分が戻ってきたことをアピールするために顔を出しに来ただけだろう。

 七瀬も、天沢のことには気づいたようだが、特に反応を見せる様子はなかった。とても同じグループとは思えない態度だが、七瀬にしてみれば天沢は小宮や木下を襲った犯人であり(正解)、いつオレを襲ってくるかわからない敵な以上、仕方ないと言えば仕方ない。

 

 さて、ここまでは順調だったが、次のエリアは流石にどうしようもなかった。次の指定エリアはH9だ。

 2日目の最終日に通過しているので今更ではあるが、H7、I7、I8のマップは全体的に山道になっている。今までのように偶然を装って移動することは出来なかった。

 

 と、いうよりも、今回に関しては指定エリアが判明した時点でなりふり構わず動き出すしかないだろう。

 

 着順報酬を得るのは無理かもしれないが、その次の13時がランダム指定でB6が指定されるので到着だけでもしておきたい。

 B6はH9から真っ直ぐ進んでいっても軽く3~4時間はかかる距離だ。こういう時はスルーしかないので、出来れば取れる所は取っておきたかった。

 

 結果的に時間ギリギリでH9には到着したが、その次のB6はやはりどうやっても無理なので七瀬とも相談してスルーしつつ、そのままG9の砂浜を進んでスタート地点の方へと進むことにした。

 あそこなら無料で水が飲めるし、次の指定エリアもB5なので物理的に間に合わない。今日はC8かC7辺りでキャンプをし、明日の朝7時の指定エリアであるB6を狙いに行くのがベストの動きだろう。

 

 問題なのは、明日からGPSサーチが解禁されることだ。今は物理的な目視でオレの位置を補足しているので動き出しにも隙があり不意を突きやすいが、流石に居場所がまるバレでは妨害はより一層厳しいものになってくる。

 だが、南雲の方は正直あまり問題ではない。

 問題なのは八神だ。仲間になるフリをしているだけとはいえ、あいつの傍には椿がおり、表向きは八神の仲間のフリをしてこちらを妨害してくるだろう。

 

 椿の妨害は、原作のオレもそうだが逃げる以外に手がないくらい強烈だ。必然的に後半が厳しい状況になってくる――どこかで、八神に対して反撃の一手を打つ必要があった。

 

「七瀬、少し寄り道をするぞ」

 

 そう考えながらスタート地点に戻る途中でE8に寄っていく。今は丁度、15時になり指定エリアが切り替わってB6からB5になった所だった。

 七瀬はもう何も言わずについてくる。と、いうより、流石にずっと歩き詰めで足に来ているのだろう。口数も大分少なくなって疲労が出てきているように見えた。

 

 これまでの傾向から見て、15時半にこのE8のど真ん中にある川沿いで、水の課題が出てくるはずだ。何だかんだでそろそろ水の在庫も怪しいし、補充しておくに越したことはない。

 と、考えながら進んでいると、設営をしている星之宮を見つけた。星之宮だったのは偶然だが、向こうもまさかオレが来るとは思っていなかったようで、「あら、偶然ね」と笑みを浮かべている。

 

 内容は競争なので何もする必要はなかった。星之宮が設営を終えるのを待ち、課題がスタートしたタイミングで、オレに3点と2ℓの水が、七瀬に2点と1.5ℓの水が与えられる。

 

「そういえば、教師は全員の得点がわかるのか?」

 

 川辺で軽く休憩しながら、星之宮にそう話しかけた。別に深い理由はない。七瀬の体力が回復するまでの適当なお喋りだ。

 

「スタート地点に設置してあるモニター室で確認できるようになっているわね。でも、基本的に教師たちはこうして課題に駆り出されてるから、リアルタイムでチェックしているのは月城理事長代理くらいじゃないかしら?」

「月城はずっとテントの中にいるのか?」

「そうね。表向きは生徒たちの腕時計に異常がないかをチェックしているけど、日に何度かは無人島内の見回りをしているみたいよ」

 

 まぁ、オレの動向を確認しているのはまず間違いないだろう。七瀬にも聞こえる音量で話しているが、別に聞かれて困る話をしている訳でもないので問題はない。

 

「そういえば、約束が違うじゃなーい。うちのクラスを勝たせてくれるんじゃなかったのー?」

 

 と、思っていると、ここからは七瀬に聞こえないレベルの音量まで絞って、星之宮が笑顔でこちらに詰めてきた。

 今現在、まだ雪たちのグループは上位10組には入ってきていない。それが星之宮には不満なようで、笑みを浮かべてはいるが圧が強かった。

 

「もう少ししたら上位に顔を出すさ。既に7人グループにはなったと、昨日の昼頃に連絡があったしな」

「ならいいけどー……勝てたらもっと凄いサービスしてあげるから本当にお願いね?」

「心配しなくても、帆波のグループが1位になるから安心してみていろ」

 

 星之宮も、オレが持っていた『試練』のカードを帆波に渡してあるのは知っている。

 1位になればCPは一気に225も上昇し、578まで回復する。それでもまだ上2クラスには届かないが、それでも353しかない今より確実に楽になってくるのは間違いない。

 

 そして、この勝利により、星之宮は完全にオレから離れられなくなる。オレに従っていれば結果が出るとわかれば、何かの間違いで魔が差すということもまずなくなるだろう。

 原作では、茶柱の目的を妨害できれば自爆してもいいくらいの覚悟を持っていたが、この世界ではオレを味方につけることに成功していることもあり、そこまで精神的に追い込まれてはいなかった。

 

 程々にTレックスを楽しみつつ、茶柱の妨害を楽しむ――それが今の星之宮のスタイルだ。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 適当に休憩を挟みつつ、そこからたっぷり1時間程時間をかけてオレたちはスタート地点であるD9の港まで戻ってきた。

 七瀬も途中で休んだおかげで遅れずに後をついてきているが、それでも疲労感は隠せないようで、汗をタオルで拭いながら呼吸を整えている。

 

「大丈夫か、七瀬?」

「はい、何とか……でも、やっぱり綾小路先輩は凄いですね。こんなに歩いたのに息一つ乱していません……本当に凄い人です」

「これでも体力には自信があるからな。それより、見てみろ」

「わ。凄い、ですね……」

 

 流石にスタート地点だけあって、行き交う人の数が桁違いに多かった。

 事前の説明でもそうだったが、ここでは追加で物資を購入したり、トイレやシャワーなどを使用したりできる。また、無料で水も飲めるという、まさに天国と言って良い場所だ。

 

「思ったよりも多くのグループがスタート地点に固まっていますね。やっぱり、4日も5日も無人島で生活していると辛くなってくるからでしょうか?」

「それもあるが、一番は下位10組が可視化されたからだろう」

「……そうか。退学のリスクがあるのは最下位を含めて5組まで、4日目からはタブレットで逐一状況がわかるからこそ余裕が生まれる……」

 

 おまけに、八神と桐山が、オレと南雲を抑えるために、わざと下位に沈むグループを作っている。

 最終的には他グループと合体させて引き上げるか、最悪でも半減や無効を使って退学を防がせるだろうが、今は下位が固まっているので中間層には余裕が生まれていた。

 

「ですが、仮に10点や20点のリードがあっても、絶対の保証はありませんよね? 私なら頑張って30点でも40点でも多く集めてリードしておきたいです」

「そうだな。勿論、頭では誰だってそうべきだとわかっている。最初から最後まで全力で戦うつもりでこの特別試験に臨んでいるからだ。だが、現実はそんなに甘くない。人間ってのは欲に弱い生き物だ。喉が渇いたら水が飲みたいと思うように、1度甘い思いをするとそれを手放したくないと考える」

 

 だからこそ、この二週間の禁欲生活はオレにとっても、Tレックスにとっても死活問題と言える。

 

「確かに、ここは無人島試験で唯一安全が確約されたエリア……水も好きな時に飲めて、何かあれば先生たちにも助けて貰える」

「いくら、頭では駄目だとわかっていても、一度緩んだ心はそう簡単に引き締まらない。特に、4日目からは食料や水も手持ちが尽きてくるし、疲労も強くでてくる。この状況を見たら、自分も少しくらい休もうかな――と、考えてしまうのは自然なことだろう」

「では、その甘えを捨てて強行することが正解……ということですか?」

 

 そう――と、言いたいが、残念ながらそんな簡単に済むほど人間というのは頑丈に出来ていなかった。

 

「七瀬は多く得点を稼ぐためにリードしたいと言ったが、ここまで来るのに疲れは溜まってきているんじゃないか? これまでよりも動きは鈍くなっているし、汗もかなりかいている」

「そう、ですね。実際、ペースは初日と比べると落ちていると自覚しています。明日、明後日になれば、もっとペースは下がるかもしれません……」

「休むことは大切だ。無理をすれば、体が動かなくなる可能性もある。漫画やアニメのように人は無尽蔵には動けない。しかし、時には体に鞭を打ってでも得点を集めなきゃいけない時もある。要は、メリハリだ。休む時は休み、動く時は動く」

 

 と、軽く蘊蓄を垂れ流しながら、ここに来た目的の一つを果たしに行く。七瀬を連れながら、砂浜にパラソルを立て、ビーチチェアに優雅に腰かけて水を飲んでいる坂柳の元へと歩いて行った。

 

「こんにちは綾小路くん。今日はとても暑い1日でしたね」

「調子はどうだ?」

「それなり、といった所でしょうか。伊吹さんも山田くんも頑張ってくれていますし、贅沢は言えません」

 

 パッと見た限り、その澪とアルベルトの姿は見られない。おそらく、指定エリアに向かって動いているか、課題をこなしているかで、無人島内を動き回っているのだろう。

 

「聞きたかったんだが……着順報酬は貰えるのか? リタイアした生徒がいたり、全員が指定エリアに着かなかったりしたりすると着順報酬は貰えないが、お前の立ち位置は微妙だからな」

「有難いことに認めて頂いております。意図的なリタイアではありませんからね」

 

 勿論、原作知識で知っている。が、この流れで確認しないのは不自然なので聞いておいた。

 とはいえ、坂柳も全てを話はしない。半リタイアは特別扱いといっていいくらいのメリットもあるが、坂柳を除いたグループの全員がリタイアしてしまった場合、坂柳も一緒に失格になってしまうという致命的なデメリットがあるということを。

 

 まだ大グループを作ってはいないようだし、今澪とアルベルトを落せば坂柳は簡単にリタイアとなる訳だ。まぁ、そんなことをするつもりは欠片もないが。

 

「そういえば……上位のグループに鬼頭や森下、山村のグループの名前があったのは驚いたぞ」

「あれから、森下さんとはよく話すようになりました。そのおかげか、森下さんに巻き込まれる形で、山村さんとも前より仲良くなれた気がします。鬼頭くんとは相変わらずですが、彼は彼で私のために動いてくれていますし、あのグループは私の切り札の一つですね」

 

 その切り札をいくつ隠しているのやら。

 

「そういえば、数時間前に高円寺くんを見かけましたよ。ここで行われた『オープンウォータースイミング』に挑戦されていました。他の誰よりも早くゴールし、脅威的なタイムで1位を取っていました。彼はBクラスの麒麟児ですね」

「今も圧倒的な点数で1位だからな」

「綾小路くんも今の所は2位を死守しているようですが、後ろとは大分差が詰まってきていますね。この試験はどうしても人数がモノを言います。一人では限界があるのでは?」

「かも、しれないな」

「どうです、私と大グループを作るつもりはありませんか? 私と一緒が嫌なら、Aクラスの能力が高い女子グループを合流させても構いません。今の所、上位10組には入っていませんが、かなり近い点を持っています」

「有難い話だが遠慮しておく。グループを組むとどうしても得点が平均化するからな」

 

 それに、坂柳と組んで仮にオレが上位3組に入れたとしても、AクラスとBクラスの差は埋まらない。オレの能力を良いように使われるだけだ。

 

「それに、そうしているだけの余裕がないんだ。実は坂柳に一つ頼みたいことがある」

「綾小路くんが私にですか? 篠原さんの件や下位グループ救済の件ではなく?」

「ああ、そっちは何とかする目途が付いた。それとは別件だ」

 

 小宮や木下の件で、龍園はおそらく矛を収めるだろう。が、当事者じゃない坂柳はまだ動く危険が残っていた。だからこそ、ここでもう一釘差しておく必要がある。

 

「とても興味のあるお話ですね、是非聞かせてください」

 

 と、その前に――

 

「七瀬。悪いんだが、この先は坂柳と二人で話をさせて欲しい。万が一にも、他人に漏れて欲しくない話なんだ」

「分かりました」

 

 七瀬は嫌な顔一つせず、距離を取るように離れた。同時に、坂柳が「では、こちらも内緒話をするとしましょうか。どうぞ、こちらへ。日陰になっていて涼しいですよ」と、オレをパラソルの空いているスペースに入るように誘ってくる。

 

 今、大体16時半――もうすぐ夕方と言って良い時間だが、夏ということもあり日差しはまだかなり厳しい。

 一応、形だけ「いいのか?」と聞いておく。当然ながら、答えは「フフ、どうぞ遠慮なく」だった。ならば、遠慮なく日陰に入らせて貰おう。

 

「それで、頼みがある――と、いうことでしたが?」

「ホワイトルームについてだ」

「それはまた、想像以上に面白い要件ですね。七瀬さんを外させたのも無理はない話です」

 

 坂柳が雪のことを知っているかどうかは知らないが、もし知らないのであればホワイトルームの話題はオレとこいつだけの秘密の話題だ。女は秘密の共有を好むというが、それは坂柳も例外ではないだろう。

 

 特に、この世界では月城と手を組んでいることもあって、真嶋にもヘルプを求めていない。必然的に、坂柳はずっとカヤの外だった。

 

 ここで、月城がホワイトルーム生を送り込んできており1年の中にその人物がいるということ。また、南雲と勝負をしていることや、そのホワイトルーム生が南雲と組んでオレを妨害してきているであろうことについて話していく。

 

「もっと早く教えてくださればよかったのに」

「南雲との勝負はオレ個人の話だし、ホワイトルーム生については確証がなかったからな」

 

 嘘である。もう天沢、八神、両方に接触済みだが、ここでオレの駒である天沢の情報や、下手に八神のことを教える必要はないので、原作よりも情報を搾って話しているだけだ。

 

「それで、そのホワイトルーム生が誰か探し当てればいいのですか?」

「いや、違う。実はもう一つ、面倒くさい事情があってな」

 

 さらに、1年生の中で行われている、月城主催の『綾小路清隆退学チャレンジ! 達成出来たら2000万PP!』というイベントについて話をしていく。

 これで、勝負をしている南雲はともかく、ホワイトルーム生だけではなく1年生全体がオレの敵になっているという状況を坂柳も理解したらしく、オレが何を頼みに来たのかもすぐにわかったようだった。

 

「ホワイトルーム生は、2000万という賞金を上手く利用して1年生を間接的に掌握……そして、綾小路くんを襲いに来る。と、いうことですね」

「ああ。おそらくは終盤に動いてくる。対処するのに、お前の手を借りたい」

「ですが、同じホワイトルーム生ならまだしも、それ以外の方に綾小路くんを追い詰めることは出来ないと思うのですが?」

「おそらく、1年生は強硬手段に出てくる。オレを退学させるには単独グループである部分を突いてくるのが一番簡単だからな。現に今も、人数を使って課題を封殺され、指定エリアへの移動も妨害されている」

 

 とはいえ、八神としてもこんな手でオレを退学させる気はない。あくまでも、オレの足を止められれば御の字程度の考えだ。

 そして、オレの足が止まっている間に自分がトップに出て、オレに勝つつもりでいる。南雲も、そのための駒に過ぎない――まぁ、それは南雲も同じ考えだろうが。

 

 結局、八神も南雲も互いを利用しているだけだ。

 

「流石の綾小路くんも、1年生の妨害に対応しながら南雲先輩の相手をするのは困難。どんな勝負をしているかは存じ上げませんが、勝つために私の手を借りる必要がある……と、いうことですね」

「いや、南雲たちに勝つこと自体はそう難しくない。問題なのは、月城が何かを企んでいる可能性があるということだ。出来れば、そっちに対応するだけの余裕が欲しい」

 

 南雲の相手をしながら、1年を捌きつつ八神の対処――からの月城というのはスケジュール的にハード過ぎる。

 おまけに、ここから龍園や坂柳が動いてくるなら、流石にキャパシティを超えかねない。原作では2年生は味方という暗黙の了解があったが、この世界ではオレが帆波クラスを掌握しているせいで、坂柳も龍園もオレの敵に回ろうとしていた。

 

 だからこそ、ここで龍園と坂柳はこちらの味方にする。龍園は小宮や木下の件で既に説得済だ。後はここで坂柳を完全にこちら側に出来れば後顧の憂いはなくなる。

 

「事情はよく分かりました」

「坂柳の負担が大きくなることは避けられないが……」

「分かっています。明日から解放されるGPSサーチ……もし、1年生たちを相手取るのであれば、それを多用しなければ対処は難しいでしょう」

 

 GPSサーチは、無人島全体にいる生徒の位置を探すことが出来るメリットがあるが、そのために一度使う毎に得点を1消費するデメリットがあった。

 しかし、1年の動きを監視しつつ、その動きに対処するのであれば、どうしてもGPSサーチを定期的に使わなくてはならいリスクがついてくる。だが、坂柳なら――

 

「ご心配なく、こちらは既にAクラスが所属するグループの全得点を把握しています。彼らの力を借りれば、対処はそう難しくありません」

「流石だな」

「下位10組の点数が12日目まではわかる仕組みですからね。どのグループがピンチで、どのグループに余裕があるのかを把握することは極めて重要なことですから」

 

 上位10組には届かないが、余裕のあるグループはいくらでもあるということだろう。

 仮に1組につき、複数回GPSサーチを使うとしても、坂柳自身の点数を犠牲にすることなく、オレの頼みを聞くことが出来る。故に、坂柳を頼った――こればかりは他のクラスではどうにもできないし、同時に坂柳自身をこちら側に付けることも出来るからな。

 

「綾小路くんを狙う1年生を食い止めればよろしいんですね?」

「ああ。でも、無駄にGPSサーチは使わなくていい。動いて欲しいのは後半だ。その時が来たら、オレからお前に連絡する」

「引き受けましょう。課題をクリアするだけでは少し退屈な試験でしたし、それにこのお話は私にとってもメリットになりうるものですから」

 

 つまり、対価を払え――ということだろう。

 

 いくら、オレと坂柳の仲とはいえ、無償の協力は有り得ない。労働にはそれに応じた報酬が必要だ。

 

「そうですね。GPS代と1年生の足止めで、貸し2つ……と、いう所でしょうか」

「前払いで貸し1つ、成功報酬で貸し1つ、合わせて貸し2つでいいなら借りておく」

「決まりですね。では、私の力が必要な時はいつでも連絡をください」

 

 話は着いたので、急いで炎天下の中で待たせてしまっている七瀬に合流する。貸し2つは大きいが、原作通り白波の件を解決できれば、この貸しも1つに減らせるはずだ。ここはこれで問題なかった。

 

 また、既に小宮の件で連絡した際に、互いのトランシーバーのコードは交換済みだ。事前準備は完了したので、これでいつでも動くことが出来る――が、動くのはもう少し後だ。

 

「待たせて済まなかったな」

「いえ、水もありますから、ここで休むのはそう苦ではありませんでした」

 

 上手いこと日陰の中にいたようで、むしろ休めて助かったとばかりに七瀬が笑みを浮かべる。

 原作ではオレの方が壁を作っていたこともあってあまり距離が縮まらなかったが、この数日で七瀬とも大分仲が深まったように思う。後は、原作通りにオレを襲わせて、食べる理由を作ってやるだけだ。

 

「大変だとは思うが、もう少し歩く。C7辺りでキャンプが出来るのが理想だな」

「明日の7時の時点で、指定エリアになる確率を下げるためですね?」

「ああ。ランダム指定以外ならそれで偶然指定エリアを踏むという可能性は回避できる」

 

 七瀬も頷きを返した。問題ないという事だろう。

 

 今日は13時と15時、両方共に指定エリアをスルーしている。明日の指定エリアをスルーしてしまえば、マイナス1点のペナルティだ。

 まぁ、七瀬は同じグループの宝泉や天沢がいるし、オレも明日の7時にB6になることは把握しているので問題はないが、表向きはピンチなので出来ることはしておく。

 

 明日からは先程言ったGPSサーチ解禁されるので、オレへのマークはより一層厳しいものになるだろう。

 しかし、明日を乗り越えれば、明後日はご褒美が待っている。七瀬との微妙な敵対関係もそれで終わり――この退屈なお遊戯会も順調にフィナーレへと向かいつつあった。

 

 

 




 原作との変化点。

・星之宮と合流した。
 偶然だったが、休憩ついでに月城の様子を探っている。

・坂柳と合流した。
 動かない龍園と違って(龍園が全く動かないという意味ではなく、動く前に宝泉で封殺する予定なので問題ないという意味)、坂柳はまだ裏で動く可能性を捨てきれないので無理やり味方に引き込んだ。原作通り、椿が指揮する1年生軍団の相手をさせる予定。


 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 Tレックスがそろそろ限界を訴えつつある。しかし、ここで暴発させる訳にはいかないので死ぬ気で耐えている。

・七瀬翼
 清隆が全然疲れていないのを見て驚いている。本人は、もうバテバテ。

・坂柳有栖
 澪とアルベルトを効率よく使っている。また、清隆が来る少し前に大グループを結成した。皆、文句を言いながらも素直に動くので坂柳としても有難がっている。貸し2つで本格的に清隆の味方になった。

・星之宮知恵
 月城の行動や、見慣れぬ異常について清隆に報告している。今回は七瀬が一緒だったのでサービスはお預けになった。


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