七瀬が崩れ落ちると同時に、雨が降り始めた。最初はポツポツとゆっくりだった雨足も、すぐに強いものになっていく。
お遊戯会を終え、七瀬もようやく自分の気持ちに折り合いをつけたのだろう。先程まで自分が松雄だと訴えていた時の眼光はなりを潜め、いつもの七瀬がこちらに向けて口を開いた。
「私の負けですね……綾小路先輩」
「諦めてくれた。と、判断していいのか?」
「はい。私では逆立ちしても綾小路先輩に勝つことは出来ないようです」
かなり疲れたようで、未だに呼吸が整っていない。が、こちらとしても、天沢が来るまでにもう少し事情を聞く必要があった。
「出来れば、詳しい事情を聞かせて貰えるか? どうしてオレを狙ったのか、理由もハッキリしないのではいろいろと問題も出てくる」
「そうですね。先輩には知る権利――いえ、私が知って貰いたいと思っています」
そう言って、七瀬は座り込んだまま話を始める。とはいえ、原作知識がある以上、これは既知だ。
七瀬は、親父殿の執拗な根回しで進学先を追われた栄一郎が高校を中退し、進学を諦めたこと。父親の松雄が責任を感じて焼身自殺したこと。
結果的に、息子の栄一郎も首つり自殺したこと。月城から栄一郎が自殺したのはオレの父親の仕業だと聞かされ、オレを退学させたらその報酬として親父殿に会って謝罪を求めるつもりだったこと。その全てを話した――まぁ、松雄が生きていることは言っていないし、まだ隠していることもあったが。
「悪いのは綾小路先輩じゃありません。そんなことはわかっていました……でも、やり場のない怒りを、悔しさを、どうしても誰かにぶつけたかったんです……」
と、話している間に、天沢が到着したようで背後から気配がした。しかし、まだ話が終わっていないので、七瀬の視線がこちらに向いていないことを確認し、手で天沢に待機するようにサインを出していく。
「先輩にはとても顔向けできません……本当に申し訳ありませんでした……」
「謝ることじゃない。お前が怒りを覚えるのも無理のないことだ」
「理事長代理の指示を遂行できなかった私は、もうここに残る意味はありません」
「退学する、と?」
「せめてもの償いは、それくらいしか出来ませんから」
普通ならそうだろう。だが、ここで七瀬に退学されてしまってはここまでお遊戯会に付き合ってきた意味がなくなってしまう。
それに七瀬だって、本心から退学すると言っている訳ではない。オレなら引き留めてくれるという打算あってのことのはずだ。ここでオレが引き留めれば、争っていた関係は清算され、オレと七瀬は打ち解け合うことが出来るようになる。
だからこそ、ここは乗ってやる必要があった。
「せん、ぱい……?」
七瀬に向かって手を差し伸べる。原作云々など関係なく、ここで七瀬を退学させるなんて選択肢はオレの中には存在しなかった。
「もし、オレに対して悪いと思っているのなら、今の言葉は取り消して欲しい」
「どういう、ことでしょうか……?」
「何も恥じる必要はない。お前は自分に出来る全てを使って仇を討とうとした。だが、オレにも負けられない理由がある。オレがこの学校に留まり続けることは、あの男――つまり、オレの父親に対する唯一の攻撃だと考えているからだ」
七瀬は顔を上げない。しかし、ぼんやりとした視線で、伸ばされたこちらの手を眺めていた。
「我儘を言わせて貰えるなら、この学校を去らずにオレに協力してほしい。今も月城はオレを退学させ、父親の手土産にしようとこの特別試験で画策しているだろう。そうなったら命令に背いてまでこの学校に入学させてくれた松雄や、その息子の松尾栄一郎の気持ちにも背くことになってしまう」
「私がすべきことは、反対だった……ということなんですね」
「手を、貸してくれるか?」
白く細い、女の子らしい柔らかい手が、伸ばしたこちらの手を握り返してくる。雨で体温がかなり下がっているようだが、じんわりとした温かい熱を感じられた。
「――約束します」
これで、七瀬の方はしばらく問題ない。今度は、こちらのお遊戯会を開始するだけだった。
「大雨になりそうですね、せーんぱいっ」
こちらの話が終わったのを見計らったように、天沢がわざと派手に音を立てながら背後から近づいてくる。七瀬もそれに気づいてすぐに顔を上げた。
振り返ると、特徴的な赤い髪が揺れる。
当然ながら、天沢をここに呼んだのはオレと七瀬との仲を深めるためだが、他にもう一つ理由があった。
原作でも、月城は七瀬が失敗することを予測しており、その後詰めとして天沢をこちらに向かわせていたのだが、天沢はその指示を無視。その結果、司馬に制裁を受けてしばらく使い物にならなくなるダメージを受ける。
月城も、既に天沢がオレの駒であることは知っているが司馬は別だ。ここで天沢にダメージを与えられるのは、後の行動にも差し障りが出てくる。
故に、天沢にはここでオレと戦って貰うことにした。天沢自身にも力の差をわからせるいい機会だし、オレと戦ったが勝てなかったという理由なら司馬からの制裁を受けることもないだろう。
「私の後ろに下がってくださいっ」
と、考えていると、疲れ切った体に鞭を打って七瀬が立ち上がり、オレと天沢の間に入るように立ち塞がっていく。
――そう、この警戒心が欲しかった。
このまま有耶無耶で仲良くなるのではなく、オレを守らなくてはいけないという使命感に燃えて貰わなくては困るのだ。
「あれ? あたし、七瀬ちゃんに歓迎されてない? 同じグループの仲間なのに冷たいなぁ」
「あなたは、信用できません」
「ひどーい! なんでそんなこという訳? こんなに可愛いのにー! あたし、悪者じゃないって」
「聞く耳を持たないでください。彼女は危険な存在です」
小宮と木下の事件――あれを起こした理由は、龍園や坂柳の懐柔や、椿と合流するためという目的が大きかったが、ここで七瀬と天沢を敵対させるためでもあった。
もし、ここで天沢が登場せずに有耶無耶でオレと七瀬が仲直りした場合、七瀬はオレを騙した罪悪感に押し潰され、しばらくこちらと接触するのを避けようとするだろう。
しかし、オレと七瀬にとって共通の敵が現れたら話は別だ。罪悪感は持ちつつも、それでもオレを守らなければいけないと自分を奮い立たせる。そして、原作のようにオレを心配し、守るためにオレの傍に居ようとするはずだ。
それこそ、大雨の中、無防備に男子のテントの中に入ろうとしてくるくらいには――
その時こそが、七瀬を食べる時――その状況を作り出すためにも、どうしてもここでこの二人にはバチバチにやり合って貰う必要があった。このお遊戯会も、そのためのものだ。
「先輩……これまで黙っていたことがあります。篠原先輩のグループが襲われた時、先輩は池先輩と斜面を登られていきましたよね。あの後、私たちを近くで見ている気配に気づいて後を追いかけたんです」
「それで篠原を見つけて戻る時、須藤たちの傍にいなかった訳だな?」
「はい。走って逃げた相手に追いつくことは出来ませんでしたが……特徴的な赤い髪を見ました」
「あは、やっぱり見られちゃってた?」
天沢は言い訳しない。そもそも、七瀬に見られても全く問題がないのだ。結局、現場を誰も明確に見ていない以上、どんなに疑わしくても疑いがかかるだけで終わる。
「あなたが小宮先輩や木下先輩を傷つけたんですね?」
「えっ、それって決めつけじゃない? たまたま傍にいただけかもしれないのに」
「それなら逃げる必要はなかったはずでは?」
「怖い顔で追いかけられたら逃げちゃうじゃない。それに疑われるのも嫌だなって」
「とても信じられません」
「じゃあ、逆に聞くけど、仮にアレをやったのがあたしだったとして、それでどうするの?」
「そう、ですね……何故あのようなことをしたのか、その理由を教えてください。いえその前に、そもそもどうやって学校が調べるGPS反応であなたの名前が出なかったんですか?」
それは、天沢に聞くまでもないことだった。
「GPSの痕跡を残さないこと自体は難しくない。腕時計を壊すだけでいいからな」
「せいか~い。どんな理由はあれ、故障は故障。無償で交換して貰えるしね」
「しかし、直前にGPSを壊したとしても、学校側はそれに気づくはずでは?」
「そうだな。だが、少なくとも駆け付けたあのタイミングでは困難だったはずだ。生徒の総数は400を超えている。それに小宮や木下の安否が最優先である以上、流石にGPS全ての反応をあの時点で把握するのは不可能だろう」
「ですが、時を改めて学校側も徹底的に調べるのでは? 特定されるのも時間の問題です」
「仮に、小宮たちが襲われた時間、天沢のGPS反応が消えていたら確かに学校側は疑いを持つかもしれない。だが、それだけだ。それ以上の証拠がなければ、天沢を犯人と断定することは出来ない」
決定的な証拠がない以上、疑わしいというだけでは学校側も天沢を処罰できない。
まぁ、それがわかっているからこそ、天沢には今回の事件を起こすように頼んだ。七瀬に見られた所で、それを証明するものがない以上、決定的な証拠にはなり得ない。
「ルールの穴を突くのは定石。証拠さえ見つからなきゃ何やってもいいんだよ」
「証拠がないなら、天沢さんがあの場所にいたことを私が証言します」
「同じことだ。GPSの故障と事件現場近くにいたという事実が結びつかない以上、疑いだけで終わる。篠原の証言が信じられなかったようにな」
「そういうことだよ、七瀬ちゃん」
さて、必要な問答はほぼ終えた。後は、軽く天沢と戦って向こうを撃退――天沢は一度、失敗を報告しに戻り、オレは待ちに待ったお楽しみタイムに突入する。
天沢も、何だかんだオレとの実力差は確かめてみたかったようで、好戦的な笑みを浮かべていた。
原作通り、まだオレと自分にそこまでの差はないと思っているのだろう。早いうちにその鼻っ柱をへし折ってやる必要がある。
「なに? 七瀬ちゃん?」
と、考えていると、こちらに近づこうとする天沢の腕を七瀬が掴んで止めていた。
「綾小路先輩に手を出すつもりですか?」
「いつの間に七瀬ちゃんがナイトになったの? 月城理事長代理の命令で退学させようって画策してたって聞いたけど?」
「何故それを……いえ、あなたには関係ありません」
「それが関係あるんだよねー、あたしは七瀬ちゃんの後詰のために来たんだから」
そう言って、七瀬の足を軽く払って姫抱きにする。七瀬も咄嗟に拳を振り抜いたが、先程までオレと戦って既に体力の限界に来ている七瀬では天沢に攻撃を当てることなど不可能だった。
髪が触る程度のギリギリを見極められ、軽く攻撃を躱されていく。そのまま、よしよしと頭を撫でられていた。
顔を赤くしながらすぐに起き上がって距離を取る七瀬だが、そんな七瀬に対して天沢は臨戦態勢にすら入っていない。
「下がれ七瀬。今のお前に天沢の相手は無理だ」
「ですがっ……」
「問題ない。少し後輩に躾をしてやるだけだ」
七瀬と入れ替わるように、天沢との距離を詰めていく。天沢も変わらぬ笑みを浮かべてオレのことを待っているようだった。
「七瀬ちゃんって可愛いね。今もご主人様の敵に吠える犬みたいにこっちを睨んでる」
七瀬はオレの命令に従って後ろに下がっている。もう、この距離では声も聞こえないだろう。心配そうにこちらを見つめていた。
「余計な話はいい。雨は人が想像するよりも遥かに早く体力を奪っていく。手早く決着を付けるぞ」
「なら、こんなバトル止めて。あたしと二人で一緒にテントで一夜を明かせばいいのに」
「そうもいかないのはわかっているだろう? それに、お前がちゃんと動けば今度こそ約束は守る」
「もうっ! 先輩くらいだよ! こんな可愛い子を数か月も放置プレイするのは!」
と、言いながら、天沢も自身の調子を確かめるように体を解し始める。何だかんだ、こいつも一度はオレとぶつかってみたかったのだろう。
「本気でいいんですよね?」
「むしろ、本気で来ないと後悔するぞ。今日がオレとお前が戦う最後の日になる」
「んじゃ、遠慮なく――」
天沢が左足を踏み出し、一気に距離を詰めてくる。流石はホワイトルーム生だけあって、七瀬とは比べ物にならないくらい動きが早い。
だが、それだけだ。
こちらに振り抜かれる拳を掴み、そのまま背後に回って地面へと捻じ伏せる。同時に、「かはっ!」と、天沢が息を漏らした。勢い良く地面に抑えつけたことで一瞬呼吸が出来なくなったのだろう。
「あっれぇ……これは、ちょっと予想外」
「オレとお前との間に、それほど差がないとでも思ってたのか?」
「宝泉くんに怪我されられたって聞いたんですけど……あれは嘘だったの?」
「本当のことだ。宝泉は体格的に力だけは強かったからな。ガードした腕に軽くヒビが入った」
「力でごり押しかぁ……あたしのキャラじゃないなぁ」
流石の天沢もショックを受けているようで、口から出てくる言葉が少し弱い。目からも自信が消え、プライドに傷がついたことが良く分かった。
「ちなみに、いつからあたしを倒せると思ってました?」
「出会った瞬間からだ」
「それ、先輩のセリフじゃなかったら寒すぎるって突っ込んでますね」
「お前も八神も5期生の中では優秀なんだろうが、所詮はその程度のレベルだ。最初から勝負になるとは思っていない」
「本気――で、言ってるんですよね先輩」
「それがわからないお前じゃないだろう。だからこそ、戦う前から降伏してきたんじゃないのか?」
「そうだけど、そうじゃないんですよね……」
恵が前に言ったのと同じようなセリフを口にしながら、天沢が抵抗を止め体から力を抜いていく。
天沢は、八神ならオレを退学に出来るのではないかと思っていた――だからこそ、八神にも協力しないがオレにも協力しないという、どっちつかずの姿勢を保っていたのだろう。
しかし、仮に天沢と八神が組んでオレを襲ってきた所で勝負にもならない。それは、今この一瞬の勝負の結果を突きつけられた天沢が一番よく分かったはずだ。ホワイトルーム生であり、優秀であるからこそ、力の差を嫌という程理解してしまう。
「……参りました。先輩」
天沢が降参を口にしたので拘束を解く。不意打ちの心配はない。否、仮に不意打ちをされた所で対処は簡単だ。それがわかっているからこそ、天沢も無駄なことはしてこない。
「正直、もう少しまともな勝負になるって思ってました……でも、いえ、これなら先輩が誰かに潰されるなんて心配は不要でしたね」
「そうでもない。人間一人で出来ることなんてタカが知れている。だからこそ、お前にはこれからもオレのために動いて欲しい」
「……もうっ! 先輩ってば、女の子をその気にさせるのが上手いんだからっ」
そう言ってぎこちなくも笑みを浮かべると、天沢が「じゃあ、怒られにいかないとなー」と言いながらこの場から去っていく。
同時に、オレと天沢の勝負を見届けていた七瀬が心配そうな表情でこちらに駆けよってきた。圧勝していたのは見ていたはずだが、それでも何かされてないか不安なのだろう。
「先輩。大丈夫ですか?」
「心配ない。それより、もう雨もかなり酷い。急いでテントの準備をするぞ」
原作では、ここで天沢の足跡を調べたり、天沢の行動に矛盾点があったり、GPSサーチをするしないでひと悶着あるが、ここではガン無視でテントを立てていく。いい加減、オレのもう一つのテントも限界が近かった。
しかし、無言という訳にはいかないので、テントを立てつつ、天沢の不審な行動について七瀬に説明していく。
そもそも崖から突き落とす等という危険な行為をして、興味本位で現場に戻ってくるのはおかしいこと。
また、もし天沢が犯人で、月城の命令に従ってオレを襲おうとするなら、声をかけるのはおかしいこと。
それらの状況から、天沢が犯人ではないかもしれないという可能性を突きつける。まぁ、犯人は天沢で間違いないのだが、七瀬に迷いを生ませるのが重要だ。
そんなこんなで七瀬を言葉で翻弄しながらテントが完成したので、逃げ込むように互いにテントの中へと入っていった。
服は全て脱いで裸になり、濡れた箇所を拭いていく。着替えることはしない。このまま、七瀬が来るまで待つ。
しばらくすると、学校からメールが届き、今日の試験が中止になることが発表された。
これでもう移動の心配をする必要はなくなる。今か今かと、Tレックスも七瀬が来るのを顔を上げて待ちわびていた。
「――ぱい」
「ん?」
「せん――い」
しばらくすると、大雨のせいでかき消されているが、外からオレを呼ぶ声が聞こえた。
テントのファスナーを空けて、そのまま様子を伺うと、「少しお話がしたいんですが! そちらにお伺いしてもよろしいでしょうか!?」と声をかけられる。
当然、ずっと待っていたので即OKを返す。一応、「オレの方からそっちに行くか?」と提案してみたが、七瀬は首を横に振ってタオルを頭に乗せ、素早くこちらのテントに入り込んできた。ようやく来てくれたか、この時が来るのをずっと待っていたぞ。
「ふーっ……すみません先輩、お休みのとこ……ろ……?」
「いや、大丈夫だ」
七瀬の視線がオレのTレックスで固定される。同時に、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに手で顔を隠した。
「な、なんで裸なんですか!?」
「少し問題が発生してな」
「も、問題……ですか……?」
「人間、生命の危機に瀕した時、DNAに刻まれた子孫を残そうとする生存本能が働くというのを聞いたことがあるだろう?」
「はい……あります……けど……」
「結局、難を逃れたが、七瀬と天沢で二連戦だったからな。そのせいで、オレの体は生存本能を刺激されたようで、さっきから体の一部が熱を持ってしまったんだ」
勿論、嘘である。生存本能が刺激されて子孫を残そうとするなんていうのも迷信だし、Tレックスが元気なのはあくまでオレが内心で興奮しているだけだ。
しかし、当事者である七瀬からすると罪悪感を覚えるだろう。オレがこうなってしまったのは自分のせいでもある――そう思ってくれるだけでこちらが付け入る隙が出来る。
「それで、何か用があったんじゃないか?」
恥ずかしそうにTレックスから目を逸らす七瀬だが、ここで逃がすつもりはない。
原作通り、こいつが天沢の件でこちらに来たのはわかっていた。今はそれ所ではないようだが、ここで要件を聞かないのは不自然なので、敢えてこちらから声をかけていく。
「あっ、はい、でも、その……もう少し、後でも……」
「見苦しいかもしれないが気にするな。時間が経てば落ち着くはずだ。まぁ、もう結構な時間が経っても落ち着かないから、オレも少し困ってはいるが……」
と、言うと、七瀬も心配そうな顔をこちらに向け、またすぐに慌てて顔を反らした。
「く、苦しいんですか……?」
「まぁ、そうだな。女性に言うことではないかもしれないが、やはりどうしてもこればかりは耐えがたい部分はある。時間が経てば治るが、この興奮がいつ静まるかはわからない」
「何とか、ならないんでしょうか……?」
勿論、何とかなるとも。
「そうだな……七瀬が手を貸してくれれば、何とかなるかもしれない」
「わ、私に出来ることならなんでもします。先輩がそうなってしまったのも、私が先輩に敵意を向けてしまったせいですしっ」
今、何でもと言ったな? では、何でもして貰おう。いろいろ役を演じていても、七瀬の本性の部分は善人だ。オレを救えるなら助けたいと思ってくれると思っていた――内心の笑みを隠すように、真剣な表情で七瀬を迎え入れていく。
「じゃあ、悪いんだがこっちに来てくれるか?」
「は、はい……」
「そのまま後ろを向いて、オレの足の中に入ってくれ」
後ろからすっぽり包み込むように七瀬を抱きしめる。当然ながら、Tレックスが七瀬のお尻に押し付けられ、七瀬も恥ずかしそうに顔を赤らめるが、これもオレのため――と、拒絶して離れていくようなことはしない。
いや、正確に言えば、本心では離れたいと思っているのかもしれないが、これから先のオレとの関係などを考えると強硬手段には出られないだろう。
ここで本気でオレを拒絶すれば、七瀬は目的を果たせなくなる。ならば、ここでオレに抱かれることも許容する――ここまで来れば、もうこちらのものだった。
「んっ、ふ……っ」
「七瀬、体に触ってもいいか?」
「は、はい……」
心配しなくとも、いきなり性的な箇所を触るようなことはしない。腕や肩、お腹や太もも等――直接的ではない部分に触れつつ、少しずつ七瀬の感覚を目覚めさせていく。
「せ、せんぱいっ……あの、そこは……」
「ダメか?」
「だ、だめじゃ、ないです……」
ギリギリの箇所を責めると、流石の七瀬も声を上げたが、オレへの罪悪感もあって強い非難を行うことが出来ずにいる。
こちらが手を動かす度に、ピクリと小さく七瀬の体が反応した。体も少しずつ熱を帯びてきており、七瀬の口からも甘い吐息が漏れてくる。そろそろいい具合になってきたな。
「ひゃんっ! あ、あのせんぱいっ! そ、そこは耳、です……っ」
軽く耳を甘噛みして、耳たぶを舌で舐める。
同時に、今までは服の上から触っていた手を服の中に入れて、柔らかい体を堪能していく。Tレックスは益々勢いを増し、今にも七瀬の尻に突き刺さりそうだった。
「ま、待って、先輩……待って……」
まるで、うわ言のように「待って」と繰り返す七瀬の顔をこちらに向けて唇を合わせていく。
一瞬、大きく目を見開いた七瀬だが、後ろからオレに抑えつけられていることもあって抵抗できない。基本的に、オレは自分からあまりキスはしない派だが、ここで七瀬を落とすには使うしかないだろう。
「んむっ……ふっ、んんっ……」
ちょんと舌同士が触れ合うと、逃げるように奥に引っ込んでいく七瀬の舌を追って、無理やり舌と舌を絡ませる。もう七瀬の中には、オレに反抗するという選択肢がなかった。
もし、何の手順も踏まずに強行していたら、もっと暴れて嫌がっていただろう。だが、ここまでのオレへの好感度、逆恨みで迷惑をかけてしまった罪悪感に、自分に与えられた任務――何より、先程の戦闘で消耗しきった体が、七瀬から抵抗力を剥ぎ取っていた。
また、外は大雨で邪魔が入る心配もない。そのまま、優しく組み伏せて美味しく頂いていく。Tレックスもようやくの御馳走に満足したように咆哮していた。
いくら月城のエージェントとはいえ、所詮は色事も知らない処女――こうなれば、もう抵抗することも出来ないだろう。
後はもう落ちる所まで。
一度食べられたことで七瀬ももう吹っ切れたのか、多少恥ずかしいことでも言われるがままこちらの言葉に従っていた。
特徴的な金色の髪が上下に揺れ、テントに移るシルエットも連動するように蠱惑的に動く。また、本来ならば聞こえるはずの声や水音も外の雨音に遮られていた。
最終的には大雨の中、疲れ切って眠ってしまった七瀬がそのままオレに寄り添っている。ここまで来るのに本当に大変だったが、それに見合った報酬は得ることが出来た。
後は、この関係をこの一夜のもので終わらせないこと――それに関しては、今まで貸してきたものを返すように言えば、問題なく継続させられるだろう。そして、いずれは七瀬の方から離れられなくさせる。
そんなこんなで朝になり目が覚めると、昨日の痴態を思い出し、七瀬は真っ赤な顔をしながらタオルで体を隠した。
しかし、オレのTレックスが元気だとわかり、「七瀬、ダメか?」と声をかけると、恥ずかしそうにしながらもゆっくりとこちらに近づいてくる。Tレックスが柔らかい感触に包まれると、そのままゆっくりと七瀬の頭が前後に動き始めた。
これならもう離れる心配はしなくていいだろう。
出来ればこのまま、二回戦を行いたい気分だが、今日から試験が再開される都合上、今回はここで我慢しなくてはいけない。
Tレックスが思い切り火を噴くのを見届けるとタブレットを取り出す。そのままこれからの行動についての相談を、その白い喉を鳴らしている七瀬へ真面目に切り出していくことにした。
原作との変化点。
・天沢と戦闘をした。
原作ではここで天沢が自身がWR生だと告白するが、このSSでは清隆が実力を隠していないことも有り早々に実力差を見抜いて白状している。そのため、この戦闘は天沢が作戦を無視したのではなく、実行したけど返り討ちに合ったと言い訳するためのモノ。
・力差の差をわからせた。
本来であれば、原作文化祭に行う躾を今ここでわからせた。これにより天沢も、八神が実力で清隆を上回ることが不可能だということを察する。
・七瀬を美味しく頂いた。
第三段階。七瀬の善性に付け込む。これまでの段階で、好感度を稼ぎ罪悪感を感じさせたことで、嫌だという気持ちを前に出せないようにした。また、七瀬自身に罪悪感があるおかげで、無理やりでも逆恨みをさせずにこれは仕方がないことと思わせている。後は落ちる所までズルズルと、気が付けば可愛い子犬ちゃんがボディガードになりました。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
ようやく念願を果たせてTレックスも大興奮している。ここまで長かった。何だかんだ、1年生初は七瀬になった。
・七瀬翼
美味しく食べられてしまった。清隆のことは嫌いではないが好きでもないという感じ。しかし、自分が八つ当たりで悪いことをしたと言う自覚があるため、そういうことをされても本気で抵抗しなかった。無論、松尾栄一郎のことはまだ好きだが、これも篤臣とのコネクションを作るためと自分の身を犠牲にする覚悟。だが、清隆のテクで嫌な気持ちにはなっていない。
・天沢一夏
清隆との実力差を肌で感じ取った。これから食べられる七瀬を地味に羨ましがっている。清隆に挑んだが負けたという言い訳を手に入れたことで、司馬からの折檻はなくなった。