8日目――朝、七瀬をこちらに寄らせてこれからの行動について話をしていく。服を着ていないのでお互いに裸だが、もう七瀬も特に気にした素振りは見せなかった。
むしろ、オレが自分のタブレットの中身を見せようとすることに対して、「あの、いいんですか? それは綾小路先輩の個人情報ですし……私なんかに見せても?」と、遠慮する様子を見せる。
なので、改めて七瀬と唇を合わせ、「もう七瀬とは余計な隔たりはなくなって信頼できる関係になったと思ったんだが?」と言うと、恥ずかしそうに「信じて下さってありがとうございます」と、少し嬉しそうな表情を見せた。
裸の付き合いではないが、一線を越えたことでもうオレと七瀬の間に非礼も無礼もなくなっている。
勿論、それが恋愛感情ではないことは互いに承知していた。だが、不思議なもので、男と女という生き物は一線を越えると、愛や恋などとは別に深い所まで分かり合うことが出来るようになる。
実際に今、オレと七瀬は、互いのことを信頼できるようになっていた。最初はなし崩しで始まった関係も、一晩情を交わし合えば見えるものはある。
七瀬もそれがわかったようで、少し恥ずかしそうにしつつも、しっかりと切り替えてオレのタブレットを覗き込んできた。
そもそも、七瀬はずっとオレと一緒にいたし、オレが何点持っているかなど大体予測が付くので見せても問題はないのだが、この真面目さが七瀬の良い所でもある。
「あれ? 先輩の持ち点……思ったよりも少なくないですか?」
「わかるか?」
「はい。着順報酬、到着ボーナス、それに課題……私の知る限り、先輩の点数はもう少し上だったと思います」
「その通りだ。本来なら、今持っている点数は177点だった」
しかし、今のオレの持ち点は167点だ。では、この10点を何に使ったのかと言えば、原作のようにサーチで消費していた。
「この特別試験は、日に4回指定エリアが発表され、基本移動をする。オレはGPSサーチが解禁された一昨日の朝7時から休憩の12時を除いて、1時間おきに合計10回のGPSサーチを行っていた」
これだけは原作知識があっても、実際に見ないと動きがわからないので仕方のない消費だ。しかし、これにより、誰が何をしようとしているのか、どういう意図で動こうとしているのか、朧気ながらも全体図が見えてくる。
「GPSサーチは島全体の全生徒の位置がわかる便利な機能だ。1日分を10分割してサーチを繰り返せば、これまで見えなかったものも見えてくる」
「あの、点数が何に使われていたかは分かりました。確かに1時間毎に生徒の移動先がわかれば、誰が同じテーブルであるかを見つけることも出来るかもしれません。ですが、先輩は殆どタブレットに触っていませんでした……一瞬で全てを覚えたということですか?」
「まさか。流石のオレもそこまで万能じゃない。GPSサーチを行った後、スクリーンショットを撮っていただけだ。これなら暇な時間にゆっくりと観察できるからな」
そう言って、七瀬にもスクリーンショットを見せていく。これで大体誰がどういう動きをしているかは丸見えになる――今の七瀬のようにな。
「これで天沢の6日目の動きもわかる。朝の段階ではオレたちと同じ指定エリアの中にいたようだな」
天沢はオレの命令に従って、付かず離れずの距離を保っていた。山を登る時も、オレの位置から少し離れた場所から、同じように山を登って後を追ってきている。
「……凄いですね。地図上で一人一人の行動が手に取るように見えてきます。確かに、10点の価値はありますね」
「だが、少なくとも6日目の17時までの段階では、天沢が特に不審な動きを見せることはなかったな」
「……残念ですが、収穫は0ということですね」
「いや、そうでもない。少なくとも、天沢はオレを追いつつも、ある程度真面目に試験を受けていること。そして、GPSサーチで探れるような隙を見せない奴ということもわかった」
まぁ、そのどちらも、オレがそうするように命令しているからなんだが。
「それに、天沢以外にも面白い動きがあるのがわかった。見ろ、この3年生や1年生の一部のグループは1日中変わった動きを見せている。両方とも南雲に密接に動いているが、やっていることは正反対だ」
「多くのグループが集まるようにして動いていますね……魚の群れみたいに」
「これは課題の独占のための動きだ。3年は南雲に得点を与えないため、逆に1年は南雲に課題を受けさせて1位を取らせるためにこういう動きをしている」
「私たちの指定エリアの方にも1年生や3年生が多くいますね。でも、1年生は何で3年生……いえ、南雲先輩に協力を? 仮に南雲先輩が上位に入賞しても、1年生には何の得もないのに……」
「さてな。その辺りは南雲が何かしらの契約を1年生と結んでいる可能性がある。後は、おそらく例の2000万の件にも関係しているんだろう」
本当は、南雲も八神もオレと一騎打ちのバトルをしているからなのだが、そこまで七瀬に説明してやることはなかった。
「先輩はこれからどうするんですか?」
「基本的にはこのまま試験を続ける。幸か不幸か、まだ上位10組には入っているからな」
と、言って上位10組のランキングを表示する。昨日、試験が中断して得点は止まったが、それでも僅かの間にランキングは多少の変動を見せていた。
1位は変わらず高円寺で218点。
2位は桐山グループで180点。
3位は雪グループで176点。
4位は坂柳グループで168点。
5位はオレで167点。
6位は八神のグループで152点。
7位は龍園のグループで149点。
8位は3年Aクラスの殿河グループで148点。
9位は南雲のグループで145点。
10位は2年Aクラスの女子が3人集まった六角のグループで135点。
この10位のグループは六角・帆足・元土肥の3人が集まっており、桔梗たちと同じく小グループで頑張っているらしい。
おそらく、坂柳がオレと合流させようとしていたグループはこのグループと見て良いだろう。桔梗はどうやら10位をキープできなかったようだが、それでも近い所にはいるはずだ。
オレも5位に落ちてしまったが、まだまだトップ3を狙える位置にいた。まぁ、ぶっちゃけ試験の結果には興味がないが、南雲や八神に勝つためにもある程度の得点は稼いでおく必要がある。
そして、何より重要になってくるのは、昨日の昼に学校側から届いたこのメールだ。
『悪天候により、7日目の基本移動、課題を1/4程しか消化することが出来なかったため、最終日の到着ボーナス、着順報酬、課題による報酬を全て2倍とする形で補填することが決定しました』
正直、2倍というのはかなり大きい。それこそ、仮に1位10点の課題を解けば一気に20点稼げる。一つの課題に30分かかる計算だとしてもお釣りがくる結果だ。
この最終日のボーナスがあることを考慮に入れながらも、出来る限り得点は稼いでおく必要がある。そのためには、これからの移動に七瀬はどうしても足手纏いだった。
「先輩。私はこれから天沢さんを追いかけようと思います。彼女が月城理事長代理の手先であることはハッキリしましたし、今後の動向が気になりますから」
七瀬も、自分が邪魔になるであろうことはわかりきっているようでそう提案してくる。しかし、無理をされては困るので釘を刺しておく必要があった。
「あくまで様子を探るだけにしてくれ。七瀬の不用意な行動がオレに思わぬ弊害を与える可能性もある。リスクのある行動は極力避けて貰いたい」
「わかりました……これ以上、綾小路先輩にご迷惑はかけられません」
「いい子だ。ついでに、宝泉に伝言を頼む」
そう言ってご褒美に頭を撫でながら伝言内容を話すと、七瀬は何も言わずにコテンと頭をこちらの肩に乗せてきた。
いろいろ疑問はあるが、今は聞かないということだろう。察しのいい女だ――と、いつものように内心で褒めていたのだが、何故かその表情が一瞬で暗いものになっていく。
「……なんか、図々しいですよね私」
「図々しい?」
「昨日まで先輩に敵意を向けて、酷い言葉まで浴びせていたのに……こんなに優しくしてもらって。こんな女、迷惑なだけですよね」
「オレと七瀬はわかりあったと思っていたんだがな。そこまで気にするのであれば、今度またオレのストレス解消に付き合ってくれ」
「えっと、それって、その……」
「勿論、七瀬が嫌なら無理強いはしない。が、お前にはいくつか貸しがあったはずだったな」
「……ずるいです、先輩」
「知らなかったのか? お前の先輩はズルい奴なんだ」
そう軽くおちゃらけてやると、すぐに七瀬も笑みを浮かべた――が、ここでようやくずっと自分が裸のままだったことを思い出したようで、顔を赤くして着替え出している。
いい目の保養だったのだが、この続きは試験後までお預けだな。こちらもそろそろ動く準備を始める。
話が終わり、朝6時になる頃には昨日の雨が嘘のようにいい天気を見せていた。とはいえ、日陰の多い森の中などは昨日の雨の影響を大きく受けている。足場はかなり悪くなっているだろうし、回復にも時間がかかると見て良い。
だが、次の指定エリアに行くにはとりあえず問題はないだろう。七瀬とは別れるつもりではあるが、朝7時に公開される次の指定エリアまでは一緒に行くことにする。
そんなこんなでいざ移動を始めようとすると、七瀬が一瞬股を痛がる様子を見せた。初めてを失った特有の痛みがまだ残っているのだろう。しかし、明るく振舞ってこちらに気にさせないようにしている。
とはいえ、原因はオレにある以上、流石に気を使った。どうせ、急いだ所でここからE3に行くよりも、事前に近くにいる奴らの方が早い。着順報酬が期待できないのであれば、ゆっくり言っても何も問題はなかった。
七瀬も、オレが気を使っているのはわかったようで、小さな声で「……ありがとうございます」とお礼を言っている。
が、ここは気付かないフリをするのが男の優しさということで、何も聞こえていないフリをしつつ、七瀬と共にE3に向かって歩いていった。
◇◆
D3からE3に移動し、到着ボーナスの1点を獲得した所で七瀬とは一旦別れた。
しかし、近くに課題があまりないことを考えると、急いで行った所で参加はまず不可能だろう。今日はサーチを使っていないが、おそらく1年生たちはオレの位置を探りながら近場の課題を受けさせないために動いてくる。
だが、南雲自身が得点を稼ぐために1年生を使っている都合上、どうしたって隙は出来るはずだ。これまでは七瀬が一緒に居て無理が出来なかったから課題を受けるのも諦めていたが、相手の動きを予測すれば空いている場所は明らかになる。
とりあえず、原作知識を悪用しつつ、課題を受けるフリをしながら次の指定エリアになるE6の方へ移動していく。
E4、E5がほぼ山であることを考えれば、D4、D5の課題を狙うフリをして回っていけばいいだろう。
と、駆け足で移動していると、9時になりランダム指定でエリアがE6になったことが発表される。当然、近くにいたオレは即座に1着を取り、着順報酬の10点と到着ボーナスの1点を頂いていった。
これで179点。次指定エリアは13時にE7になるが、その前にやることがあったので、そのままスタート地点であるD9まで足を進めていく。
当然、オレを追っていた他学年のグループも、オレが明後日の方向に向かい出したことで慌てて後を追おうとするが、木の上を飛んだり岩山を越えたりして移動するオレに追いつけず、その先にある課題の独占を失敗してしまっていた。
まぁ、仮に追いつけたとしても、この近辺は桐山のテリトリーなので、一年生が課題を独占することは不可能だっただろうけどな。
欲しかった課題をクリアし、追加で1点をさらにプラスして、一気にスタート地点近くまで戻る。そして、本来であれば昨日合流する予定だった相手――高円寺と再会した。
当の高円寺はオレが来たことに気付いてながらも、敢えて視線を向けずに頭にペットボトルの水を被っている。そのまま、まるで濡れた金髪を自慢するかのように振り回しながら、マイペースにこちらへと振り返ってきた。
「やぁ、ホームズ。こうして会うのは実に一週間ぶりだねぇ」
「ああ。悪かったな。本当なら昨日のうちに合流したかったんだが、流石にあの雨では動きようがなかった」
「なに、自然のアクシデントでは致し方ない。君にとってはボーナスになってしまう形だが、上に立つ者としてたまには飴を与えることくらいはしよう」
そう言って、腕時計のペアリング機能をONにしていく。高円寺には最初から一週間だけ全力で頑張って貰うように頼んでいた。
高円寺自身、原作と違って一週間で終わらせられる以上、後半に備えて体力を温存することなくフルで動いてくれたはずだ。その証拠に、原作では168点だったのが今では231点を稼いでいる。プラス60点以上の働きをしてくれたのだ。文句の言い様もない。
ちなみに、グループを組むにはグループ拡張の課題を受ける必要があるが、ここに来る途中でグループ拡張の課題を受けてきたので何も問題はなかった。
当然、全ては計算通りだ。
ここ数日、桐山たちがあの場所の近くでグループ拡張の課題を独占していたことは知っていた。故に、今日も行けると判断して、枠を貰ってから高円寺と合流したのである。
互いの腕時計を重ねてリンクさせると、10秒ほどして承認の音が鳴り、高円寺の231点とオレの180点の平均――205点が新たにオレの点数として与えられる。
これで暫定だがオレが1位になった。とはいえ、2位のグループとの差も僅かなのですぐに抜かれてしまうだろうが、南雲とは50点以上の差が付いたことになる。
だが、これは南雲が大グループを作って平均得点が落ちたらからというのも大きかった。
グループ人数上限を解放する課題は桐山たちが上手く独占していたはずだが、おそらく試験再開後のどさくさで上手く確保することが出来たのだろう。ここからは南雲も最大人数で追いかけてくる。
逆にこちらは、これで高円寺はリタイアするので、これから着順報酬を受けることは出来なくなった。
しかし、それは基本移動をあまり気にせずに課題に臨めるようになったということでもあるのでそこまでマイナスとは言えない。
「では、私はこれで失礼するよ。後は頑張ってくれ、さらばだホームズ」
当然、高円寺の気が変わって、オレと一緒に行動してくれる――なんて奇跡が起きるはずもなく、当たり前のように高円寺は去って行った。
とりあえず、ここで一回エリアサーチを使用して、オレを追いかけていた3年や1年の様子を確認する。
どうやらスタート地点まで戻ったことで、かなり包囲網も広がっているようだった。これなら隙を突いて課題を受けることも出来るだろう。
七瀬との一夜のおかげで、気分も大分リフレッシュ出来た。と、いう訳で、ここからは高円寺のように木の上を移動するアクロバットな動きも使いながら最短ルートで空いている課題をこなしていく。
当然ながら、オレが何を受けようとしているか事前にわかっても追いつけなければ意味はなく、13時に次の指定エリアであるE7が発表されるまでの間に課題を二つこなしてプラス10点を稼ぐことが出来た。
◇◆
続く15時に指定エリアがF8になる――が、もう着順報酬を気にしなくていいので、近くのエリアをぐちゃぐちゃに動きながら、オレについてくる3年や課題を封殺しようとする1年を翻弄していく。
結局、包囲網が間延びして課題を封じる所ではなくなると、再び課題で4点を稼いでいった。試験前半にかなり体力を残して動いたおかげもあって、まだまだ余裕がある。
逆にオレを張っていた3年や1年はそろそろ疲労も出てくる頃だろう。昨日1日休めたとはいえ、それで体力や疲労が完全に消える訳でもない。
さて次はどこに移動しようかな――と、考えていると、後ろから「清隆!」と、聞きなれた声が聞こえてきた。
振り返ると、特別試験初日に別れて以来の雪、鈴音、千秋、帆波に、大グループメンバーの洋介、神崎、柴田が一緒になってこちらに歩いているのが見える。
「んー! きよたかー! ずっと、会いたかったー!」
「そうだな。思えば、こんなに離れ離れになったのは久しぶりか」
「よかったわ、ここで綾小路くんに会えて……」
「本当、もう駄目かと思った……」
元気いっぱいにこちらに飛びついてくる雪と正反対に、鈴音や千秋はとても疲れたような顔をしている。
「何かあったのか?」
「うーん……何かあったというよりも、何もないから困ったというか、ここ数日綾小路くんに会えなかったせいで雪ちゃんも元気がなくなっちゃってね」
と、帆波が苦笑いでこれまでの状況を話す。今更ながら、オレと帆波が付き合っているのがフリだけというのはもう神崎や柴田も知っているようで特に気にした様子はなかった。
ちなみに当の雪はオレの胸板にスリスリと顔を擦りつけながらも、「くんくん、別の女の匂いがする……」と妙なことを呟いている。既に七瀬と別れてから1日経って、水浴びもしたはずだが、雪には全てお見通しのようだった。
「僕たちはG8なんだけど、清隆くんは?」
「F8だ。方向は一緒みたいだな」
「やった! じゃあ、一緒にいこっ!」
洋介の問いに答えると、雪がオレの腕を組んで満面の笑みで歩いていく。雪は比較的良くくっついてくるタイプだが、ここまで積極的なのも珍しかった。
どうやら、オレと会えなくて元気がなかったというのは本当のようで、まるで充電をするかのようにくっついて離れようとしない。まぁ、それでやる気が出るなら好きにさせることにする。
「綾小路の方は元気そうだな。高円寺とグループを組んだのを見た時は驚いたぞ」
「高円寺が体調不良を起こしてな。リタイアすると退学になるから仕方なくグループを組んだ。まぁ、おかげでオレの点数も上がったから良かったんだが」
「今1位だもんな。せっかく桐山先輩のグループ抜いて俺たちが2位になったー! と、思ったら、お前が1位になっててマジでびっくりしたぜー」
神崎や柴田も、上位グループの動きはかなり気にしていたようで、オレと高円寺がグループを組んだことにすぐ気づいたようだった。
「1位と言っても今だけだ。どうしたって数には負ける。おまえたちが1位を取ってくれるのがお互いのためにも1番いいんだ。これからも頑張ってくれ」
と、雪の頭を撫でてやる。「むふー! 頑張る!」と、気合が入ったようなので、これなら期待しても良いだろう。
しかし、のんびりしているだけではなく、雪も雪でいろいろと心配はしていたようで、4日目に起きた篠原の事件のことや、真澄たちとの大グループのことを質問してきていた。
「そっか、篠原さんのグループは真澄ちゃんのグループと組んだんだ」
「ああ。とりあえず、下位に落ちることはないだろう」
「今の所、他に下位に沈みそうなグループはなさそうだけれど、他の学年が同じように下位のグループを引き上げたらどうなるかはわからないわね」
「でも、スタート地点にかなりの数の1年生や3年生がいたし、2年は大丈夫だと思うけどね。私としては愛里のグループが少し気になるくらいかな」
鈴音がタブレットを見ながら上位下位の順位を確認していると、千秋がそう声を上げる。
千秋も愛里とは去年の船上試験で仲良くなってからよく話すようになったこともあって、この試験で下位に入らないか少し心配しているらしい。
「愛里のグループに会ったのか?」
「数日前だけどね。基本移動で一杯一杯でなかなか課題が受けられないって言ってた。それでも、三宅くんが頑張ってフォローしてるみたいだったけど」
「状況次第では下位に沈む可能性も、ある……か」
「うちのクラスのグループと合流させる? 確か、いくつかポイントに余裕のあるグループがあったと思うけど……」
帆波としても、今回はBクラスと同盟を結んでいる状態ということもあって、即座に自分のクラスのグループと合流させることを提案してきた。
神崎や柴田としても否はないようで頷いている。確かに、この先、1年や3年が下位救済戦術を取ってくるとするなら、ギリギリの所にいる愛里や波瑠加のグループは救済した方が良い。
「そうだな。もし、そのグループに問題がないなら大グループを作らせてくれ。愛里は多少人見知りだが、波瑠加や明人も退学の可能性があるなら嫌とは言わないはずだ」
帆波が目線で合図すると、神崎がトランシーバーを出して指示を出している。こちらも鈴音がトランシーバーで愛里や波瑠加のグループに連絡を取っていた。
原作の鈴音はまだ他人と強い信頼関係を築けるようなタイプじゃないこともあってトランシーバーを使うという手段を考えつかなかったが、この世界ではトランシーバーの重要性を理解して各グループに持たせるようにしている。桔梗を通じて大体のグループのコードは雪や鈴音にも伝わっており、いつでも連携を取ることが出来るようになっていた。
「堀北、三宅たちのグループの持っているトランシーバーのコードを教えてくれ。渡辺のグループに伝える」
「じゃあこちらも、渡辺くんのグループのコードを教えて貰えるかしら。三宅くんたちに伝えるわ」
お互いに同盟を結んでいると言うこともあって、大グループ作りは順調に進んだ。どうやら渡辺のグループは既に大グループを作れるように枠を拡張しきっているようで、後は合流するだけでいいという状態らしい。
これなら任せておいて大丈夫――と、判断し、こちらはタブレットで近くに課題が出ていないかを確認した。
すると近くに参加するだけで食料が貰える課題が出現する。おまけに、受け付けているグループは15と多い。これなら課題が独占される心配はないだろう。貰える得点は参加賞の1点だけだが、オレの方もそろそろ食料の残りが厳しくなってきていた。
「悪いんだが、オレの食料の残りが厳しい。この課題に寄って行こうと思うんだが、お前たちはどうする?」
と、鈴音と神崎が動き終わったタイミングで、そう問いを投げかけていく。どうやら、雪たちもそこまで食料に余裕がある訳ではないようで、一緒に課題を受けに行くことになった。
少し歩くペースを上げながら課題地点に急ぐ。
が、やはり競争率は高いようで、2年生や3年生のグループも多く見かける。そんな中、1年生がこちらのグループを見つけた瞬間、くるりとUターンしていく姿が目に入った。
後からわかった話だが、どうやらこの近くにいた1年生のグループは、帆波にお世話になったことのある生徒たちだったようで、帆波の顔を見た瞬間にこの課題を譲ると決めたらしい。
同じく、オレをずっと妨害していた1年生の中にも信者がいたようで、オレが帆波と行動を共にしている間は近づいてこようとはしてこなかった。
どうやら少しずつではあるが、帆波の『信仰』という武器は機能し始めているように見える。こうなるとずっと一緒に居たい所だが、流石にテーブルが違うのでそういう訳にもいかなかった。
結果的に課題には問題なく間に合い、参加賞の1点と食料を補充することが出来ている。また、F8にもギリギリで間に合い、到着ボーナスの1点も手に入れることが出来た。
これで、オレの得点は221点となり、2位の雪グループと2点差をつけたまま1位をキープしている。
しかし、南雲のグループも今日だけで185点と順位を上げてきており、数日で逆転されそうな感じだった。やはり、人数差が出てきている。このままいけば、明日か明後日には逆転されかねない。
と、そんな予測をしながらも迎えた9日目。
到着ボーナスの3点(最後のエリアが遠かったのでエリアスルーした)と、妨害を振り切って受けた課題3つで何とか12点を稼いだおかげもあって、何とかこの日もギリギリで1位をキープすることが出来ている――が、その差は確実に僅かなものとなっていた。
原作との変化点。
・七瀬と別れた。
原作と違い、宝泉に伝言を頼んでいる。
・高円寺とグループを組んだ。
最初からわかっていた人もいるかもしれないが、やはりこうなった。これでもう着順報酬は得られなくなったが、ここから下り坂になるのは予定通りなので問題ない。序盤は上位に名を連ね、中盤以降失速し、後半で抜かれる。これが既定の流れ。
・地味に南雲が焦っている。
大雨のどさくさで大グループを作って反撃ムードだったが、清隆が高円寺と組んで得点を大きく伸ばしたことでその勢いをへし折られている。これが清隆の切り札だったかと、勘違いをしながらも得点を伸ばすためにますます奮闘し始めた。
・雪のグループと再会した。
原作と違い、鈴音がリーダーではないこともあり連絡係みたいなことをしている。が、何だかんだ得点は稼いでおり、最終的には2位になっている。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
高円寺とグループを組んだ。メリットはほぼないが、暫定的に1位にはなれている。
・椿雪
一週間ぶりに清隆に敢えて機嫌が直った。高育入学以来、一週間も離れ離れなのは地味に初めてで、過去に離れ離れになったトラウマを思い出しかけた。もしここで再会出来なかったら精神的に潰れていた可能性がある。
・堀北鈴音
原作では一人だが、このSSではグループで活躍している。リーダーではないので、クラスを指揮するという重圧もなくのびのび実力を発揮している。
・松下千秋
基本的に言葉のきつい鈴音の緩衝材として上手く機能している。また、その隠れた能力の高さに、帆波や神崎も気づき始めた。
・一之瀬帆波
帆波がグループにいることで、地味に信者たちが忖度している。が、帆波自身はそれに気づいていない。
・七瀬翼
天沢の監視に動き出した子犬ちゃん。ここで一旦、清隆とは別れた。
・高円寺六助
水浴びをしていたのは汗だくの自分を見せないため。強がってはいるが、この一週間フルで全力を出したことで高円寺も疲れている。ので、ここからは優雅に船でリラックスタイム。
・平田洋介
原作ではついぞ名前が出てこないが、このSSではクラスのために頑張っている。清隆と再会できて喜んでいた┌(^o^┐)┐
・神崎隆二
原作と違って精神的に落ち着いており、上位グループ入賞も見えていることもあって、かなりのびのびと能力を発揮している。
・柴田颯
運動能力を生かして点を稼いでいる。こう見えて頭も悪くないので、学力面でも戦力になる地味に優秀な男。