ようこそ俺小路くんの無念を晴らす教室へ   作:おこむね

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♯082 『将来の夢』

 夕食後、雪と合流し、二人で大浴場前の自販機に売っているフルーツミルクを買いに行くことにした。原作だと鈴音と話をする一幕があるが、あいつはまだいろいろとクラスのことで悩み中だし、オレとしても特別一緒に行動する理由がある訳でもない。

 

 また道中、原作では八神を退学させたことについて鈴音に質問攻めに会うが、この世界では八神は退学していないため、そういうイベントも起きなかった。

 雪の場合は、早くオレに会いたかったーという感想がまず第一に来て、それから今日一日のオレの話を聞きたがる。自分の話をするのはオレが話を振った時くらいで、この修学旅行も雪にとっては、情報収集をする以外はろくに楽しんでいないことが分かった。

 

 まぁ、雪はもう完全にオレ専用というか。オレがいないと生きていけないように幼い頃から仕込んできた。それこそ、原作の親父殿がオレたちにホワイトルームに戻ってくるように仕込んでいたのと同じ理屈で、雪はもうオレがいないと生きられなくしてある。

 

 けど、それで幸せなら問題ないだろう。

 

 原作のように、身勝手に捨てた結果まともに生きられなくなり、椿桜子に無意味に恨まれるよりも、オレを愛してオレのために死ねる女を作ってその妹も巻き込んだ方が良いに決まっている。

 

 その結果、雪は今回のクラス移動でもオレについてきてしまった訳だが、あのクラスに残って雪が活躍しても鈴音や桔梗の成長は見込めなかったしこれはこれで良いだろう――と、思っていると、大浴場前の自販機に着いたのでフルーツミルクを購入し、二階にある休憩スペースで飲もうと階段を上がると、佐枝と知恵がマッサージチェアを独占していた。

 

 二台しかないマッサージチェアに身を任せて、佐枝も知恵もトロンとした表情を浮かべている。原作通りの姿ではあるが――この二人、基本的に仲が悪いのに、何だかんだ一緒に居ることが多いんだよな。

 

「随分とくつろぎモード全開ですね、お二人とも」

「ふぇ? あ、椿さんじゃな~い。昨日は激しかったわね~」

「その節はご迷惑をおかけしました。でも、あれでも控えめな方ですよ」

「やっぱり、綾小路くんは女殺しよね~」

 

 マッサージ機にゆらゆら揺らされながら、知恵が目を細めて雪と会話をしている。

 

「お前ら仕事は?」

「先生だってずっと仕事ばっかじゃないわよー。今夜の私たちは半休日みたいなものなのー。ねー? 佐枝ちゃーん」

「そういう、こと、だ」

「それ、そんなに気持ちいいんですか?」

「歳を、取って来ると、マッサージが、欠かせなくなる。お前たち、若者には、わからない苦労が、いっぱい、あるんだ」

 

 原作のオレが興味を持ったように、雪もマッサージチェアを使った経験はないらしく、興味津々と言った様子を見せる。

 まだ年齢的にもマッサージが必要な状態じゃないこともあってか、雪もこの数日でマッサージ機は使わなかったようだ。

 

「特に佐枝ちゃんの場合、メロンが二つもあるから肩こりが酷いもんね~」

「そういう、余計な一言は、不要だ」

 

 しっかし、鈴音や桔梗はオレのクラス移動で結構悩む素振りを見せていたが、佐枝の場合は驚くぐらい普通だな。

 勿論、クラス移動をした当初は少し動揺していたが、すぐに自分を立て直していつもの状態に戻っている。そういう意味では精神的には佐枝が一番成長しているのかもしれない――

 

「そういえば、綾小路くん、椿さん。Cクラスに移動してどうかしら? 居心地は悪くない? もし何か困ったことが有ったら遠慮なく言ってね」

 

 と、思っていると、知恵がこれでもかというくらいに佐枝に嫌味をぶつけていた。あからさまな当てつけだが、こいつは佐枝とは逆にオレを手に入れてから成長が止まったな。

 

「良くして貰ってるんで大丈夫ですよー」

「そう? 佐枝ちゃんのクラスよりも居心地悪かったらすぐに言ってね。改善するから」

「実際、帆波たちは良くしてくれている。網倉も、この修学旅行中ではオレをサポートしてくれているしな」

「そう? なら良かったわ」

 

 しかし、そんな知恵の、今は自分のクラスの方が優勢だ――という挑発を、佐枝はクールな顔で受け流している。そんな余裕が気に食わないのか、知恵がリモコンに手を伸ばして佐枝のマッサージ機の強さを最大にしていた。

 

「んっ! ひゃっ、あんっ……!」

 

 思わぬ刺激に甘い声を出しながら佐枝が体をビクンと跳ねさせる。同時に、マッサージ機が強い音で佐枝を刺激し始めた。

 

「こ、こら! 知恵っ、な、何をする――んんっ! も、元に戻せっ!」

「そんなに気持ちいい?」

「こ、このっ!」

「んひぃいいいいいっ! ちょっ、やめっ……!」

 

 満面の笑みでリモコンを操作する知恵に対し、佐枝も知恵のマッサージ機のリモコンを取って強さを最大にする。

 オレや雪にはよくわからないが、最大の刺激は気持ちよさとはまた違うベクトルのようで、二人は艶やかな声を漏らしながらキャットファイトをし始めた。が、流石にそう長くは我慢できなかったようで、引き分けということでお互いに強さを下げている。

 

「はぁっ、はぁっ……はぁっ、なんてことをするんだお前はっ!」

「さ、佐枝ちゃんがクールぶってるからじゃない!」

「別にクールぶってなど居ない」

「にしては余裕じゃない。綾小路くんと椿さんっていう強力なカードが手元から離れていっちゃったっていうのに」

「別に余裕がある訳ではない。それだけ、この二人が抜けた穴は大きい」

 

 これまでクラスを支えていた大黒柱を二つも失ったのだ。佐枝としても、余裕を見せられるほど現状は良くない。それは言うまでもなく知恵だってわかっている。

 

 わかっているからこそ、わかりやすく惨めな表情を見せないことが癇に障るのだろう。

 

「これなら満場一致試験の時の方がまだ無様で良かったわよ」

「それは残念だったな。私だってこれでも成長している」

「成長、ね……確かに、紗枝ちゃんのクラスはこれまで目覚ましい成長を遂げてきた。とても元Dクラスとは思えないし、それが佐枝ちゃん自身も成長させていたって言うのならそうなのかもしれない。でもね、それでもサエちゃんのクラスはBクラス止まりのまま。この意味はわかるでしょ?」

「……私のクラスではAに行けないと?」

「べっつにー、そうは言わないけどさー」

 

 とはいえ、現状AクラスとBクラスでもCPが400近い差が付いているのは事実。これはそう簡単に詰められる差ではない。

 

「私はさ、クラスを受け持つ担任として常々思ってることがある。AクラスからDクラスの先生たちもまた、同じように競い合っている訳。例えていうなら、先生同士でトランプの大富豪をしているって感じ」

 

 大富豪とは、トランプ遊びの一種で、1~13までのカードから配られた手札を使って勝敗を決めるゲームだ。基本的には大きい数字のカードが強くて、小さい数字のカードが弱い。

 坂柳や龍園が最大の2だとすれば、池なんかは最小の3だ。Aクラスは10以上のカードが多く、Bクラスは8以上、Cクラスは6以上で、Dクラスは3~4が多いイメージで問題ない。いわば、Aクラスが大富豪、Bクラスが富豪、Cクラスが貧民、Dクラスが大貧民だ。

 

「勿論、生徒は実際のトランプと違って日々変わっていくわ。3や4だった子が成長して12や13になったり、それこそ2になったりすることだってある。だからクラスに変動は起こるし、DクラスがBクラスに上がることだってある。まぁ、極めて珍しい例だけどね」

 

 その極めて珍しい例こそが、現Bクラス――元Dクラスと言いたい訳だ。

 

「そんな中でも大切なのは、どのクラスも平等に戦うことだと思ってる。でもさ、どんなクラスも1から13の数字の中で戦っているのに、特定のクラスにルール違反があったらダメじゃない?」

「ルール違反だと?」

「大貧民なのに大富豪に良いカードを渡さず、ジョーカーを隠し持ってたらダメでしょってこと。そりゃ、勝てる訳ないじゃん。こっちが必死に頭使って戦っても、ジョーカー1枚で状況をひっくり返せるんだから。おまけに、このジョーカーは使っても無くならない。何度でも使えるからこそ、DクラスはBクラスまで上がって来られた」

 

 大富豪のルールでは、大貧民や貧民は手札の強いカードを大富豪や富豪に渡すというものがある。

 勿論、リアルの戦いにそんな決めごとはないのでイチャモンの類だが、知恵が言いたいのは、本来Dクラスでは有り得ないオレという異物を使ってクラスを上げたのはルール違反ギリギリの行動だったのではないかということだ。

 

「だが、そのジョーカーはもう私の手の中にはない」

「そうだね。カードはリセットされて、ジョーカーは別の場所に行った。本来なら富豪か大富豪が持ってなきゃおかしいんだもん。これがあるべき姿と思わない?」

「さてな。だが、私の手からジョーカーがなくなったように、お前の手からもジョーカーは消える可能性だってある。今の状況が永遠に続くとは思わないことだ」

 

 オレという切り札が自分の元に来た。だから今の佐枝は圧倒的に不利な状況なのだとこうして伝えることで、もっと悔しがってくれると思っていたのだろう。

 

 しかし、先程同様、自分の予想と違う反応に、知恵は「あほくさ」と突如として真顔になった。

 

「2000万を貯めるだけじゃない。私に勝たない限り、ジョーカーは決して移動しない。それがわかってて言ってんの?」

「私だって、いつまでもお前に負けるつもりはない。その余裕がいつまで続くかな?」

「つい去年まで行き遅れ処女だった癖に……! あーあ! つまんなーい! 私はもう部屋に戻りまーす! じゃーねー!」

 

 今は自分の方が有利なのに、佐枝が追い詰められていないことが不服なようで、ややキレながら知恵はこちらに手を振りながら廊下を歩いていく。

 

 それを見てため息をつきながら、佐枝が改めて申し訳なさそうにこちらに振り返ってきた。

 

「いろいろ済まなかったな。多分、酒が回っていたんだろう」

 

 流石に近くに生徒の姿も見られることも有り、佐枝は変わらず教師モードで話をしている。

 しかし、申し訳ないという感情はしっかり伝わって来るし、もしこれがオレたちだけだったら、下手をすれば代わりに頭を下げていた可能性すらあった。

 

 とはいえ、知恵もそんなにオレたちに迷惑をかけた訳ではない。実際、雪も特に気分を害した様子はなかった。

 

「別に、私たちは何も……」

「ああ。むしろ、面白いものが見られた。だから、これは特別サービスだ。Aクラスに行きたいなら、鈴音と桔梗を支えてやれ。それが一番の近道になる」

「堀北と櫛田を……? でも、あの二人は確か……」

 

 佐枝も教師なので、当然ながら生徒の情報はある程度持っている。鈴音と桔梗の仲があまり良くないのは知っているのだろう。

 

 だが、その情報は少し古い。今のあの二人は、新たに前を向こうと動き出している。

 

「あの二人も、前を向こうとしている。お前が本気でAクラスを目指すなら、知恵のようにオレだけに固執するんじゃなくて、ちゃんと生徒にも目を配ってやれ」

「……そうだな。勿論、そのつもりだ」

 

 決して今残された手札はジョーカーがなくなってボロボロなだけじゃない。きちんと整理すれば、勝つための力は十分に残っている。

 

「さて……私は知恵を追う。あのまま放っておくと朝まで深酒しかねないからな」

「なら、演技でもいいからもう少し悔しがってやれ。知恵の本質は、お前以上に10年前に囚われている。あしらうだけだといずれ暴走するぞ」

「そう、ですね……知恵が囚われているのも、私のせいだ。何とかする責任が私にはある」

 

 10年前の満場一致試験――それが、この二人の関係を全て狂わせた。しかし、今年の満場一致試験を経て、佐枝は前を向こうとしたが、知恵は変わらず過去に囚われている。

 

 佐枝は、その呪縛から知恵を解き放ちたいのだろうが、あの知恵の頑なさをどうにかするのは一筋縄ではいかない。当然ながら、オレが手を出すことはないので、佐枝のお手並み拝見だな。

 

 と、思いながら知恵を追っていく佐枝を見送ると、オレたちももう一回大浴場を楽しんでから部屋に戻っていった。

 

 部屋では龍園がいつもの窓際ソファーを占拠し、啓誠がテレビを見て、鬼頭がファッション雑誌に目を通している。そのまま適当に雑談をしていると、渡辺がいなくても原作通りに将来の夢の話になった。

 やはり、鬼頭の将来の夢はファッションデザイナーらしい。とはいえ、自身の見た目の怖さから、ファッションデザイナーになるまでが一番大変だと認識しているようで、Aクラス卒業の権利でファッションデサイナーになるのだという。

 

 一度その世界に入れさえすれば、後はやっていけるという自信があるのだろう。外見が怖い鬼頭にとっては、職業に就くまでが一番の難関だと認識しているようだ。

 

 また、鬼頭の話を聞いて、啓誠も漠然と大学へ行くという考えこそあったが、将来何をしたいかについてしっかり考えていなかったことを自覚したようで、大人になった自分が何をしているかを真剣に考えるようになった。

 

 龍園は、鬼頭の話を聞いて、「いっそ、殺し屋って答えた方が周りもすんなり受け入れられたんじゃねぇか?」と、横やりを入れてこそいたが、鬼頭の夢自体を馬鹿にすることはなく静かに話を聞いている。

 自分がどうしたいかを語ることはなかったが、もしかしたら龍園にも叶えたい将来の夢というものがあるのかもしれない。ただ、それはAクラスにならなくても叶えられるものであり、龍園は他者との闘争を優先しているというだけ。

 

 まぁ、オレは当然ながら、親父殿に従ってホワイトルームの指導者になるつもりも、政治家になるつもりもない。

 高円寺の保護下でのんびりと生活するか、自分の世界を広げるために独立してもいい。どの道言えることは、オレと関わりの深い女たちを手放す気はないということだけだった。

 

 

 




 原作との変化点。

・雪と一緒に旅館を回っている。
 原作だと鈴音。そのまま佐枝&知恵と話をするのは原作通りだが、関係性が違うので会話の内容も変化している。

・将来の夢。
 原作通り。幸村は先生とか似合いそうだけど、原作だとハッキリと将来についての話をしていないので独自解釈。


 今話の登場人物一覧。


・綾小路清隆
 雪のご機嫌を取っていたら教師コンビを見つけた。頑張っている佐枝に軽いアドバイスをしている。

・椿雪
 清隆とのデートでご機嫌。

・茶柱佐枝
 精神的にようやく大人になって来ている。原作と違って清隆への依存度が深いが、それ故に完全に見捨てられた訳じゃないとわかってもいるので立ち直りも速くなっている。

・星之宮知恵
 自分が優勢になってきているのに、思い通りにならなくて子供みたいになっている。

・幸村輝彦
 将来の夢は公務員ですって言われたらどうしよう。

・鬼頭隼人
 夢はファッションデザイナー。ぶっちゃけ、実力があれば顔の怖さは関係ないと思うのはワイだけ?

・龍園翔
 将来の夢はって言われて、ヤのつく稼業とかそういう後ろ暗いやつ以外は似合わなさそう。マジで独立するしかないのではないだろうか?


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