修学旅行も4日目に差し掛かってきた。ここまでは紆余曲折あれど、そこまで原作と変わらず過ごすことが出来ている。
勿論、原作と動きが違うことで起きなかったイベントもあったが、4日目の朝の自由時間に外で雪合戦をするというのは変わらず起きたようで、外には各クラス合わせて30人前後の生徒が集まっていた。
うちのグループの龍園と鬼頭は原作同様にパスのようで啓誠と共にやってきたのだが、PPを賭けて勝ったチームは負けたチームから1000PPを頂くというルールであり、意外にもこういう体を使う系のイベントが苦手そうな啓誠もやる気を見せている。
曰く、こういうのも思い出らしい。
原作では経験がないからと言ってオレも参加していたが、オレが参加すれば当然雪も参加するだろうし、そうなればパワーバランスが崩れかねなかった。啓誠はオレにも参加するように声をかけてきたが、ここは他の生徒に気を使って見学だけにさせて貰う。
こうして、原作とは違う部分もあれば一緒の部分も有り、何故か原作ほどのライバルではないはずの鈴音と澪が雪合戦で勝負をすることになっていたりもした。
桔梗とも割かし仲良さげにしており、桔梗の本性バレという事件は起きていないはずなのに何がどうすればこうなるんだと、歴史の修正力? に、少し驚いたりもしている。
そんなこんなで雪合戦が始まると、オレは桔梗が連れてきてくれたグループメンバーの網倉、西野、白石を探して歩き出す。
とはいえ、見つけるのはそう難しくなかった。網倉も、西野も、白石も、グループで行動しているようで三人一緒になって雪合戦を見学していたからだ。
「おはよう」
「おはよー」
「おはよ、綾小路くん」
「おはようございます」
流石に修学旅行4日目ともなれば、挨拶くらいは普通に出来るようになる。初日には男子一人だと浮いていた空気も、今では特に気にしないくらいには仲良くなれていた。
「みんなは参加しなかったのか?」
「見るだけならまだしも、朝から雪で汚れるのはちょっと……」
「寒いし、本当は出かけるまで部屋で待ってたかったんだけどね……」
「せっかくの機会ですから見学だけでもしようという話になりまして」
おそらく原作通り、桔梗に連れて来られたのだろう。その桔梗は、今はここに居らず、雪や鈴音のいる場所で話をしている。
「綾小路くんは雪合戦に参加しないの?」
「別に自慢でも何でもないんだが、オレが参加するとパワーバランスが崩れる。雪も参加するならオレと一緒のチームを選ぶだろうしな」
「あー……確かに、綾小路くんと椿さんが一緒のチームじゃ勝ち目はなさそー」
「お二人とも、勉強、運動共に男女で学年トップですからね」
と、網倉の疑問に答えると、西野や白石も同意の声を出していた。網倉も、そんなオレたちが今では同じクラスと改めてわかって嬉しいようで少しドヤ顔をしている。
「まぁ、雪合戦の経験はないから、もしかしたら杞憂かもしれないけどな」
「でも、運動能力の高い人が有利なのは確かじゃない?」
「そうね。うちのクラスの伊吹さんも張り切ってるみたいだし」
「その伊吹さん対堀北さんのカードを最終試合にする辺り、企画したBクラスの平田くんも盛り上げ方をわかってますよね」
洋介も、かつての失敗から今ではサポートに回りたがることが多いが、何だかんだ人を率いる資質を持っているのかもしれない。特に、こういう誰もが楽しめるイベントを先導するのは、洋介にしても嬉しいことだろう。
「本当に、盛り上がっていますね……」
白石が、まるで遠くを見るかのようにそう呟く。
実際、この修学旅行が始まった頃はどのグループも探り探りの様子だった。それはオレたちも同じだったし、それがこうして一緒のイベントを並んでみるくらいに仲良くなれたのは、白石にしてみれば夢のようなことのように感じるのかもしれない。
「見ているのは楽しくないか?」
「いえ、逆です。割と楽しいと感じているから少し驚きました……いつもは特定の友達としか遊ばないですし、クラスでも話す方じゃないのですが、このグループのメンバーは話していても苦じゃありません。むしろ――」
「こしょばゆい話はやめて。別にいいじゃない、今が楽しいならそれで」
「それに連絡先だって交換したんだし、もしまた会いたくなったら会えばいいだけだよ。違う?」
西野が真面目な雰囲気を恥ずかしがり、網倉が場を纏める――そんな関係も悪いものではないようで、白石も「いいえ、違いません」と笑みを浮かべた。
「……最初は長いと思っていた修学旅行も、今日で終わるんですね。少し、寂しい気もします」
白石も、最初は坂柳に命じられて龍園のことを探るだけの修学旅行のつもりだったのだろう。が、過ごしてみれば、意外と一緒にいるのも悪くないと感じたようだ。
「知っていますか? この修学旅行中、徐々に鬼頭くんの龍園くんへの悪口が減っているんです」
「そうなの?」
「気付かなかった……」
「勿論、仲良くなった訳ではないので、険悪なムードは変わらずですからね。でも、最初はずっと殺してやるとか、地獄に送るとか言っていたのが少なくなっています」
「それを言えば、龍園も思ったよりは静かに修学旅行を過ごしたな」
問題行動と言えば、二日目の他校生への暴力くらいだが、あれは鬼頭もやっていたので龍園だけの問題行動とは言えない。それに、一応は西野と白石の救済という名目もあった。
「確かに、あの龍園くんにしては静かだったわね。昨日もごねなかったし」
「うん。龍園くんなら、『俺を動かしたかったらPPを払え』くらい言いそうだもんね」
西野と網倉も、昨日の龍園が大人しくしたがったのは予想外だったようで頷いている。
「あれも、綾小路くんのおかげなんですよね? 龍園くんがそう言っていましたし」
「別にオレのおかげって訳じゃない。ただ、龍園があのまま意見を下げないなら、オレは四日目を犠牲に三日目を楽しむ案を出そうと思っていただけだ」
「それ、結局よくわからなかったんだけどどういうこと? 龍園くんはなんかわかった感じだったから下手に口出ししなかったけどさ」
「私たちも雰囲気で頷いてはいたけど、正直に言うと二人の話には置いてきぼりだったんだよね。龍園くんが素直に意見取り下げたから敢えて追及はしなかったけど」
と、白石、西野、網倉の全員が首を傾げる仕草を見せる。どうやら、昨日のオレと龍園の話は、グループ内だと割と謎の会話だったらしい。
オレとしては結構わかりやすく話していたつもりだったのだが、やはり結果だけを先に話してもそこに行くまでの理論が理解できないと内容は上手く伝わらないようだ。
仕方ない。少し説明してやろう。
「龍園はPPが欲しくて20得点集める派だった。対するオレたちはPPを捨てて、観光をメインにする派で対立していた。実際、北海道の地理に詳しくないオレたちが、時間内に指定ポイントを回って20得点集める可能性はかなり低かったと言って良い」
ここまでは問題ないようで全員頷いている。
「けど、龍園はやる前から諦める男じゃない。もし、あの場にオレがいなければ、PPを取りに行く方策を強行していただろう」
「でも、私たちだけならともかく、鬼頭くんが素直に龍園くんの言うことを聞くとは思えないんだけど……?」
「そうでもない。あれで鬼頭はグループ内でもかなり気を使って動いている。口では拒絶しても、いざ他の全員が龍園の意見に乗れば嫌々ながらも動き出すはずだ」
網倉の疑念を払拭してやると、白石は同じクラスなこともあって何となく理解できるのか、「確かに……そうかもしれませんね」と頷いていた。
「それで、綾小路くんはどうやってそんな龍園くんの意見を封じたの?」
「別に特別なことをしようとしたわけじゃない。さっきも言った通り、今日の自由時間を犠牲にする代わりに、三日目にルールを無視して観光をしようと言おうとしただけだ」
「ルールを無視して? どういうことですか?」
「あの状況では龍園が意見を変えない限り、こちらの意見は通らなかっただろう。やろうと思えば、あいつは四日目を捨てる覚悟でオレたちに対して持久戦を仕掛けてきたはずだ」
西野や白石の疑問に答えながら、わかりやすく状況を説明していく。実際、龍園ならばやりかねないとわかっている三人は納得した様子を見せている。
「しかし、前提条件が変わればどうだ? もし、オレたちも四日目の自由時間を捨てる覚悟で、三日目に学校のルールを無視して自由に観光することを選んだら? 四日目の自由はなくなるが、代わりに三日目は門限まで好きに北海道巡りが出来る」
「そっか。午後5時っていうのはあくまでスポット巡りの制限時間であって、学校のルールだと門限は午後の9時まで……それにスポット巡りを無視するなら、どこに行こうと咎められない。それなら確かに四日目を捨てる価値はあるかも」
「ああ。だから、素直に話を聞いたんだ。そりゃそうよね、私たちがルール無視して自由行動したら、龍園くんはPPを集められないんだから」
網倉と西野も、ここまで道筋立てて話せば理由が理解できたようで納得の素振りを見せた。白石も、「流石は綾小路くんですね」とこちらを褒めてくれる。
「最終的に、あいつの意見に従う理由がなくなれば、あいつも自分の試験を押し通すのは無理だとわかる。PPが得られない上に4日目の自由時間もなくなるなら、素直にオレたちに従った方が得ということだ」
「でも、それをすぐに察した龍園くんも凄いですね。勿論、意見を取り下げさせた綾小路くんも凄いのですが……」
白石の言う通り龍園はオレの行動を読んでいた――それは原作以上の成長の兆しでもある。
オレが抜けたことで停滞しているBクラスの面々に比べて、龍園はまるで主人公のように順調に成長していると言って良いだろう。
と、話していると、何だかんだ雪合戦も最終試合に突入したようで、鈴音チームVS澪チームの勝負が始まった。
原作通り、最終的には鈴音と澪の一騎打ちとなっており、その時は澪が勝っていたはずだが、この世界では何の因果か鈴音が澪を下している。
もしこのゲームで賭けをしていたら危うく大損する所だった。やはり、もう原作とはいろいろと変化している。未知という意味では歓迎だが注意もしないとな。
そんなこんなで、この日の午後は最後にもう一度スキーを堪能し、残りの時間でお土産もしっかり買って終わった。
大浴場での入浴も終えて、後はもう明日帰るだけ――という状況になると、坂柳から『会いたい』というメッセージが届く。
特に拒絶する理由もないので、すぐに坂柳が指定したロビーへ向かった。まだ夜の8時だが、他の日に比べて人が少ない。最後の夜なので、積もる話もあるのかもしれないな。
「待たせたか?」
「そんなことはありません。わざわざ来て頂きありがとうございます」
そんな中、坂柳はロビーの椅子に腰かけて静かに座っていた。人気は少ないが、オレと坂柳という組み合わせは外から見た場合、少々目立つ組み合わせではある。普段は、人のいない場所で会うのが殆どなので問題ないが、あまり長話はすべきではないだろう。
「短い時間でしたが、修学旅行は楽しかったですか?」
「そうだな。これまでに経験したことがないことを学ばせて貰った。他のクラスの生徒と交流できる機会もそうないからな。白石や鬼頭のことも少しはわかった気がする」
「そうですか。知識を吸収することに貪欲な綾小路くんですから、特に驚きはしません」
「あの二人とは仲がいいのか?」
「クラスメイトで特別視している人はいません――と、前までなら答えていたでしょうが、最近は少しずつですが相手を見るようにしています。鬼頭くんとはあくまで、私が彼の願いを叶えるための協力関係という感じで、白石さんはまだそこまで親しくはありません。どうも、彼女は私にも隠したいことがあるようで、あまり深入りをさせてくれないので」
森下や山村との付き合い方、橋本の早期退学――それらは全て、坂柳の変化から起きていると言って良い。
5月の件でオレに負けてから、坂柳は人との向き合い方が変わった。勿論、基本的な部分は大きく変わってはいない。
リーダーとしての動きに変化はないが、今まで他人を駒として見ていたのを止め、その人物の人間性をしっかり把握して関わるようになっている。
白石の隠し事についても、あの頃の坂柳ならば気づかなかっただろう。気付かないのと、気付いていて放置するのとは意味合いが違った。白石も、今までのようにただ従っていればいいという状況じゃなくなってやりにくさを感じているかもしれない。
「それで、要件は?」
「当然、学年末試験についてのことです」
だろうとは思っていた。オレがクラス移動してから、坂柳とはまだちゃんとした話をしていない。だが、オレがわざわざCクラスに移動した意図をこいつは理解しているはずだ。
「いろいろな理由はあれど、あなたはCクラスにクラス移動した。それは、“そういうこと”だと認識してもいいのでしょうか?」
「ああ、そうだ。学年末試験がオレとお前の勝負の場になる。それがクラス移動をした理由の一つであり、無人島試験でお前に借りていたものの返済のつもりだ」
龍園がオレとの対決を望んでいたように、坂柳もまたオレとの対決を望んでいた。
オレとしては原作のように、龍園と坂柳が勝手に戦ってどちらかが退学するなんて事態にならなければそれで良かったのだが、いい機会なので坂柳に借りていたものを返そうと思っただけだ。向こうとしても、去年の雪辱がしたいだろうしな。
「素晴らしい……でもいいんですか? 私にはプロテクトポイントがありますが綾小路くんにはありません」
「問題ない。万が一の時の保険はある。それに、去年と全く同じシステムとは限らないしな」
「むしろ、私は去年よりも大変だと思いますよ。それこそ、一人や二人くらい簡単に退学者が出ても驚きはしません」
「かもしれないが、勝てば問題ない」
退学のシステムはあくまでも敗北した相手やルール違反者へのペナルティであって、勝者に与えるべきものではない。
あくまで、勝つのはオレだと伝えてやると、坂柳は目に見えて嬉しそうな表情を浮かべる。
「余裕ですね……前回の学年末試験でしてやられたのは確かですが、私がいつまでも負けたままでいると思われるのは癪に障ります。今年は必ず、私があなたに土を付けて見せましょう」
「持ち駒は変わったが、全体的な能力は底上げされている。対するお前は、持ち駒の中でも強力だった駒を失った。その損失は痛いんじゃないか?」
「その駒が裏切りの可能性を秘めているならば、早めに切るのが正解だったと思いますが?」
「いいや、オレがお前なら首輪を繋いだ。逆らえばどうなるか、犬でもわかるような理屈で縛り付けてやれば、橋本は十分にお前の為に働いただろう」
勿論、あの満場一致試験での状況がそれを許さなかったというのはあるのかもしれない。
しかし、最初からあの場を裁きの場としてではなく、釘を刺す場として橋本の裏切りを未然に防げば、CP100は逃しても強力な駒を失うことはなかった。
実際、坂柳としても、橋本を切り捨てたのは早計だったという思いもあったのだろう。僅かだが表情が歪んでいる。
100というCPは一見大きいが、橋本の存在はそれに見合ったものだったはずだ。裏切りの目は孕んでいたかもしれないが、それに見合った情報屋でもあり、各クラスにも口が利く使い勝手の良さがあった。オレとしては切るのも切るべきではなかったと思っている。
「……確かに、優秀な駒を一つ失ったのは認めましょう。ですが、それでもあの時得たCPが、今現在Aクラスと他クラスの差を大きなものにしているのもまた事実です」
坂柳の言葉も正しい。現在のAクラスのCPは1343ポイント――次点のBクラスが981で362ポイントの差。Cクラスは869で474ポイントの差。Dクラスに至っては650で、693ポイントもの差がある。ぶっちゃけ、300以上の差はかなり大きい。
今まで、CPを大きく稼ぐ試験はいくつか存在したが、やはり大きいものは夏に行われる無人島試験だ。
しかし、今はもう冬であり、残りの特別試験も限られてくる。前回の学年末試験だって、大差での敗北ならば最大210CPを得られたが、それでも最大で200程しか得られていない。
一気に300もの差を覆す試験はそう多くなく、基本は50や100をやりくりする。そして、体力を使用する試験が前半に偏っていた分、後半は知能を使う試験が多い。つまり、坂柳の独壇場ということだ。
原作では橋本の裏切りのおかげで敗北した坂柳だが、そう言う意味だと裏切りの目を摘んだのは憂いを無くしたとも言える。この先の結果がどうなるかはオレにも読めない。
だが、わかっていることもある。それは――
「どの道、オレが勝つことは決まっている」
――負けるつもりは毛頭ないということだ。
「ふふ、楽しみです。負けたあなたがどんな顔をしてくれるのか」
「特に変わらないと思うぞ。これまでの人生だって、別に負けたことがない訳じゃないんだ」
むしろ、負けの方が多かったまである。それこそ、最初は水泳だって雪に負けていた。
だが、負け続けてはこなかった――学習し、身に着け、最終的には勝っている。そういう意味だと、オレの性質は龍園に近いのかもしれないな。
坂柳としても、オレと戦える場が整ったという確認が出来れば他に用はなかったようで、話が終わると解散になった――原作では、神崎がオレの親父殿を知っている話をしたり、石上の正体を明かしたりする一幕があるが、この世界では全部カットになっている。
当然、帆波の立場も原作地違うことも有り、恋心を拗らせて行方不明になるなんていうイベントは起きず、修学旅行はそのまま残り時間をゆっくりと過ごして終了となった。
原作との変化点。
・グループメンバー(女子)と雪合戦を見た。
原作だと参加したり、山村と話をしている。地味に、3日目が原作読んでない初見さんに厳しいのではないかと思って、ここで改めて内容を確認した。
・坂柳と話した。
宣戦布告。原作だと神崎が一緒に居るが、全く違う話になっている。
今話の登場人物一覧。
・綾小路清隆
修学旅行中なのでおしがま出来なかった。残念。
・西野武子
原作以上にグループ仲が深まっている。
・網倉麻子
いろいろ足りない所もあったが、この修学旅行内で頑張って清隆をフォローした。清隆としても関係性が深まったので良し。
・白石飛鳥
原作と違う人間関係が出来ている。が、西川と同じく仲は良くとも深入りはしていない。
・坂柳有栖
時任が退学したことで一枚絵が消失。その代わりに学年末で清隆との勝負が正式に決まってワクワクしている。