俺知ってる。これ勘違いしちゃいけないやつだ! 作:すずまちあめい
揚げドーナツを揚げて、それをリビングにもう一回持ってくる。そこそこの量揚げたからか、もう一局も終わっていた。今回はひまりの勝ちのようで、少し胸を張ったひまりがこちらに誇らしそうにピースをしてきた。
「今回はひまりが勝ったのか」
「うん! だから私にも揚げドーナツ頂戴!」
「多めに揚げてあるから食べればいい」
「やった! 和人さん好き!」
こら。女の子がそんな簡単に好きとか言っちゃいけません。照れちゃうでしょうが。
「あ、ちょっと頬が赤くなってる。もしかして、さっきの『好き』で恥ずかしくなっちゃった?」
「うっさい」
「んふふふ〜」
ひまりはこちらをからかうだけからかうと、ニヤニヤしながら揚げドーナツを頬張り始めた。こっちを見て少し呆けた表情をしていた咲ちゃんにも、目線で促す。そうすると、「ありがとうございます」という言葉とともに一つとって食べ始めた。
「あ、おいしい」
「そうだよね! 手作りだけあるよねえ」
「これも手作りなんですか!? あまりに美味しいので出来合いかお店のものかと思ってました」
「まあ時間はそこそこかかるけど、それは別のも同じだし、揚げドーナツはこういうパーティのときに作ってたらはずれは無いから」
今回複数種類おやつを作っているが、まあどれか好きなものがあるだろうということで、嫌いな人が少ないものを特に選んで作っている。大人数……今回は大人数というほどでもないけど、人がたくさんいて、それのみんなが美味しく食べられるものとして、特に今回置いていたクッキーと揚げドーナツは都合がいい。
それに、こうやって美味しそうに食べてくれるひまりと、今回なら咲ちゃんがいるから、少しぐらい時間がかかっても作ってあげたいなという気持ちにもなるのだ。
それにしてもこうやって二人で食べているところを見ると、小動物みたいで可愛いな。中学三年生にしてもちっちゃい方である二人が、少し大きめに作った丸い揚げドーナツを頬張っているのだから、さしずめリスのように感じられる。
「……ねえ和人さん、さっきからこっちをにやにやしながら見て、何? 気になるんだけど」
ひまりこはちらが気になって仕方ないのか、少し頬を染めて、じとっとしためでこちらを見てくる。
「いや、かわいいなって思って」
「か、かわっ!? な、なんでよ! ドーナツ食べてるだけじゃん!」
「か、かわいいですか!? 私が!?」
俺の発言に、二人は顔を真赤にする。期せずも、さっきの仕返しにもなった。まあ嘘は言ってないし……
「だって二人が美味しそうに食べてくれるものだから。作った側としては嬉しいなあかわいいなあになるわけよ」
「嬉しいなあはわかるけどかわいいなあはわかんないって!」
「あ、それはわかるかも……」
「咲ちゃん!? 咲ちゃんもそっち側だったの!?」
なんと表現したらいいか……そもそも自分が作ったご飯やお菓子というのは多少なりとも手間がかかっていて、それを美味しそうな顔をして食べてもらうことが嬉しくて、また美味しそうに食べているその人が愛おしく思えてくるんだよな。
その点でひまりと咲ちゃんは本当に美味しそうに食べるから可愛さも倍増だ。
「うう……で、でもさ! 女の子にそんな簡単に可愛いとか言っちゃだめだって! い、言うならせめて二人きりのときに……」
「後半なんて?」
「難聴系主人公が! わかってたけど!」
ひまりはぱくぱくと揚げドーナツを最後まで頬張ると、近くのクッションに顔を埋めた。そこからうーうー唸っている。そういう仕草が女の子らしくて可愛いんだけどなあ。
咲ちゃんの方をちらっと見ると、少し驚いたような表情で、2つ目のドーナツを手に取っていた。
「……お兄さん、いっつもあんな感じなんですか?」
「あんな感じって?」
「ほら、さっきまでの一連のやりとりみたいなのです」
「ああ、ひまりが俺をからかってきて、反撃してみたいなやり取りのことか……」
ひまりが俺が恥ずかしくなるようなことを言い出したのはいつくらいだろう。……思いだせないが、はるか昔、下手したら出会った時はお互い何も思わず恥ずかしいことを言い合っていたような気がする。だとすると……
「ほら、子どものときって羞恥心が少ないからお互い好きって言い合うのが簡単だっただろ? その延長線上で、お互いがお互いのことを好きだってわかってるからこそやってるんだよ」
「……ということは、お二人は付き合ってるんですか?」
「え? どうしてそうなる?」
「だって、お互いが好きあってるってわかってるからこそやってるんですよね?」
確かに、そこだけいえばそう捉えてもおかしくは無いか。でも、それは違うのだ。
「ほら、家族や親友に対する愛、好きという感情。それだよ。俺達の間にあるのは」
きっとひまりはその気持ちだけだろうから。
「そうですか。それなら、良かったです」
「良かったって、何が?」
「何でもありません。ただお兄さんがくそぼけ朴念仁さんで良かったってことです!」
くそぼけ? 朴念仁? もしかしてどこか変なことを言ったかな?
「あ、別に気にしなくてもいいですよ? ひどいことは言いましたけど、最近お兄さんと接していて思うんです。そういう鈍感で、でも私達をよーく考えてくれるところがお兄さんのいいところなんだって。……それに、それで私のチャンスもできるわけですからね」
「こ、後半なんて言ったかな?」
さっきもこういうことがあった気がする。もしかして聴力が落ちたのか? だとしたらちょっとショックだ。
「ふふふ、いいですよ、気にしないで。もともと聞こえないように小さく言っただけです。独り言みたいなものですから」
「そっか」
それにしても、『鈍感だけど、私達のことをよく考えてくれているところがいいところ』か……俺の彼女たちに対する向き合い方が、そうやってちゃんといいところとして見られているというのは嬉しいことだ。
そんなことを考えていると、咲ちゃんがそっと俺に身を寄せてきた。
「それにしてもお兄さん。寒いですね」
「え! 咲ちゃん!?」
この間ぶりの距離で、今回は部屋の中。しっかり暖房は付けているし、咲ちゃんは少し厚着をしている。本来ならもう一枚位脱いでも平気そうなくらいなのに寒いだなんて絶対嘘だ!
「ちょ、ちょっと近いんじゃない?」
「まあいいじゃないですか。あー、お兄さんあったかいですね」
ひまりとはまた少し違ったふわっと香る匂い。どきどきと旨を打つ鼓動。それが俺だけじゃなくて、咲ちゃんの方からも聞こえてきた。
咲ちゃんの耳を見てみると、口ではあれだけ平気そうだったのに耳が赤い。もしかして咲ちゃんも恥ずかしいのだろうか。
「どうです? ドキドキしますか?」
「……聞こえてて言ってるでしょ」
「だって、直接聞いたほうが嬉しいですもん」
「……うがー! いちゃつくなー!」
くすくすと俺をからかうように咲ちゃんが笑った瞬間、さっきまでクッションに顔を押し付けていたひまりが飛びかかってきた。そして、咲ちゃんと反対方向にひっついてきた。流石に暑いが!?
「ちょ、ちょっと。流石に暑いからどいて……」
「ふーん、咲ちゃんはよくて私はだめなんだ! へー!」
「そ、そういうわけじゃないけど!」
「じゃあいいでしょ。咲ちゃんだけずるい。私も和人さんとくっついてたいもん」
も、もう……なんでこうこの二人は稿も俺が勘違いしそうなことばかりしてくるんだ……! 俺だって高校生。ここまでされたら勘違いしちゃうかもしれないだろ……まあ、絶対に彼女たちが向けてきている感情は恋愛では無いと思うから、耐えないといけないんだけど……
これから、この二人の猛攻に耐えられるだろうか……
この作品らしさ、出てきたと思います。つまりつよつよ(自爆ダメージあり)な女の子に和人くんが振り回されるお話なんですね。
これからもこの作品をよろしくお願いします!