俺知ってる。これ勘違いしちゃいけないやつだ! 作:すずまちあめい
クリスマスと言うのは、受験生にとっては大いに欲望にまみれた日だ。プレゼントやら、彼氏彼女や友達との遊びやら、クラス中が色めき立っている。
それでも難関を受験する人たちにとっては最後の追い込みの時期でもあり、そう簡単にすべてをほっぽりだして遊ぶと言うのは勇気がいることだろうと思う。
実際、俺はこのとき何も祝ってなかったような気がする。いや、ひまりと一緒にケーキだけ食べたっけ。
「うーん、どうしたものか……」
「どうしたの? 和人さん」
リビングで悩んでいると、当然のごとくひまりがひょっこりと顔を出してきた。いつの間に家に入ってきたんだ? まあいいけども。
「クリスマスはどうしようかと思ってな」
「クリスマス? なんでそんなことで悩んでるの?」
ひまりはとてとてリビングに入ってくると、俺が座っているソファの隣りに座った。
「いやな? 今年はせっかくだし咲ちゃんも呼びたいなと思ってるんだけども、咲ちゃんは受験生だろ? 一日……いや、半日とは言え、こんなに遊びに近しいようなものに誘っていいものかと思って」
「そっか。そう言えば、お兄ちゃんも咲ちゃんと仲良くなったんだもんね」
この前、咲ちゃんに勉強を教えていることをひまりに教えたが、案外喜んでくれたし、「それが原因で遅れてたならもっと早く言ってよ!」と、ほんの少し嬉しそうにしていた。
どうも、最初はひまりが咲ちゃんに勉強を教えていたそうなのだが、ひまりが感覚派過ぎて、教えるにもうまく教えることができなかったのだそうだ。だから、少し咲ちゃんに負い目を感じていて、それが解消された今、少しだけ感じていた接しにくさなんかも解消されたらしい。通学中に会ったときのひまりと咲ちゃんでもすれ違いのようなお互いの噛み合わなさはこれからくる気まずさだったわけだ。
「うーん、個人的には、誘ったら喜んでくれると思うよ。聞いとこうか?」
「いいのか? ひまりは誰かと一緒なのは嫌っていいそうな気がしてたんだが」
ひまりは、案外面倒な所がある。誰かと出かけるときは二人になるたがるし、これはもう昔の話だが、最初は凜花ちゃんに警戒をしていた。なぜか斗真には普通だったのにな。
「まあ、咲ちゃんだし。私の親友でもあるんだから、嫌がる理由はないでしょ?」
「確かに。というか、これまですまんかったな。ひまりも、偶には咲ちゃんとクリスマスを過ごしたいときも会ったんじゃないか?」
咲ちゃんとひまりは小学生の時から仲がいい。そんなに長い友人なら、一緒にクリスマスパーティーくらいしたいと思ってもおかしくないかもしれない。今思えば、俺がそこのところ配慮して、「毎回いっしょにいないといけないわけじゃないんだぞ?」とでも促しておけばよかったかもしれない。
もしいっしょにクリスマスを遊びたかったとしても、俺という幼馴染とのクリスマスがあったから行けていなかったのだとしたら、それはちょっと申し訳ない。
「全然大丈夫だよ? まあ二十四日に一緒にパーティーをしても、 二十五日に遊べばいいし。それに、和人さんと一緒に居たいって言ったのは私だから」
「そうだけども。それでたまに二十五日は居なかったりしたのか」
基本俺は「クリスマスは和人さんといるから」と言うひまりのため、クリスマスの二日を両方開けているのだが、二十五日には来ないことがあった。その日に集まって遊んでいたならいいことだ。俺だってひまりには友達がたくさんいてほしいし、咲ちゃんをないがしろにはしてほしくない。
それに俺だって、ひまりが来ていなかったら、帰ってきていたら親とか斗真や凜花ちゃんと遊んだりしていたし。
「そう思うと、この年になって三人でクリスマスをすることになるとは思わなかったな」
「私もだよ。咲ちゃんと和人さんはあんまり接点なかったし、ずっとそれぞれの日で別々に会うしかないと思ってたもん」
「ひまりも嬉しいのか? クリスマスは友達だけで祝いたいとかないのか」
「うん。だって、人数は多ければ多いほどいいでしょ? それに、普段からずっと一緒にいるんだから、逆にこういう機会ほど皆で祝いたいかな」
ひまりはすでに随分と楽しみでありそうに目をきらきらと輝かせながら話すと、ぐいっと体を寄せてきた。
「まあとにかく! じゃあどんな感じにするか決めないとね!」
「近い近い」
いい匂いがしてドキドキするからやめなさい。昔は気にならなかったかもしれないけど、ここ数年はひまりから香ってくる甘い香りがつらい。無防備過ぎるよ。
「まあ、ケーキはもう頼んだから、何を作るかだな」
離れる気は無いと言わんばかりに更に距離を詰められてしまったので、仕方なくクリスマスの予定を早詰めていく。
俺が料理をできるようになってからは、できるだけ俺がクリスマスの料理は作るようにしている。今回も例外ではない。何処かに頼むと来るのが遅かったりするし、色々頼んでいたら出費もかさんでしまう。その点作れば好きなものを色々作っても経済的だし、ひまりの好きな味付けにすれば味を褒めてくれたりもするから嬉しいし。
「グラタンとか食べたい!」
「グラタンか……」
結構面倒なのを……多少の量ならそう面倒でもないが、大量に作るとなると何度も焼かないといけないので時間がかかるのだ。他のを焼く時間がなくなる。まあ、他でオーブンを使わなければいいか?
「他の料理でオーブン使えなくなるけど、いいのか?」
「大丈夫! 和人さんはそれだけでいいから。他は私が作って来るね」
「ひまりが? 大丈夫なのか?」
「私も料理できないといけないかなって思って、最近練習してるから。多分、前よりはうまくなってる……はず」
少し不安になることを言いながらも、自信はある様子。まあ、グラタンを作り終わったあとは咲ちゃんが来るまでひまりの家でその手伝いをしててもいいしな。ひまりの家でパーティをするのもありだ。
「じゃあその予定で進めていくか」
「わかった!……あ、咲ちゃん来るって!」
ひまりが見せて来たメッセージには、行きます!!!! と、勢いよく書かれていた。文面から相当楽しみであるのだろうなというのが伝わってくる。……あ、楽しそうなうさぎのスタンプが送られてきた。
「ふふ……咲ちゃん、相当楽しみにしてるじゃん。和人さん、これはしっかり楽しませてあげなきゃね?」
「ああ。これだけ期待されたら応えてあげなきゃ年上の威厳も無くなるってもんよ」
咲ちゃんはこれから順調に行けばまた後輩になるわけだ。勉強を教える先生として、また先輩として、こういうところで頼ってくれるような存在でありたい。
そして、個人的にひまりちゃんという人間のことを好きな一人として、こういうところで楽しんでほしい。
ひまりと、咲ちゃん。今年は大切な人が二人いるわけだ。その三人で過ごすクリスマスが、今から早速楽しみになってきた。