俺知ってる。これ勘違いしちゃいけないやつだ! 作:すずまちあめい
クリスマス当日。最近料理をするようになったというひまりの言葉には嘘偽りなく、上手に作ってこちらの家まで持ってきていた。最初は手伝いに行こうかと思っていたけれど、それはひまりに止められたため俺の手は全く加わっていない。
ひまりが持ってきた料理は揚げ物やポテトサラダなどが中心で、健康にはよろしくなさそうだが、クリスマスくらい許されるだろう。
「和人さんのやつも結構体に悪そうだけどね」
「だからいいんだろ? たまにはこういった物も食べたくなる」
普段からずっと健康に気を使い続けるのも疲れる。せっかく若くて、食べてもあまり影響の出ない時期なんだから、食べてなんぼだと思う。この調子で食べ続けていったら将来太ってしまうかもしれないけども。
「そう言えば、咲ちゃんはいつ来るんだ?」
「えっとね……あ、もう十分後だね」
「危ないな! ひまり、あと少し遅れたら咲ちゃんが来るまでに作り終わらなかったんじゃないか?」
「まあ作り終わったんだから、もしもの話は置いといて! ほら、早くジュースとかの準備しよ!」
ひまりはせわしなく動き始める。コップを人数分出したり、ジュースが冷えているかの確認をしたり、食後に食べる予定だろう菓子類がどれくらいあるか見たり……
走行しているとあっという間に十分が過ぎて、ガチャリというドアの開く音とともに、咲ちゃんの声が聞こえた。
「おじゃまします」
靴を脱ぐ音、そして廊下に上がる音。とてとてととても軽そうな足跡が近づいてきて、リビングに顔を覗かせるようにひょこっとその見慣れた姿が現れた。
「いらっしゃい、咲ちゃん」
「はい。少し早く来てしまいましたか? すいません」
「いや、大丈夫だよ。じゃあ、その椅子にでも座って、適当にジュースやらお菓子やら食べてていいから」
「ありがとうございます、ありがたくいただきますね……わ、美味しそうなお菓子が一杯ですね」
テーブルを見た咲ちゃんは目を輝かせてカゴの中に入れてあるお菓子を見た。クッキーや飴、まるぼうろなど多種多様なお菓子が入れてあるが、殆どはひまりが「絶対咲ちゃんはこれで喜んでくれるって!」と買ったものだ。ひまりの目は確かだったわけだな。
咲ちゃんは椅子に座って、テーブルの上のカゴに恐る恐る手を伸ばし、クッキーを取った。そうして一口かじる。
「……! 美味しいです!」
「そっか。それは良かった」
それはそれは美味しかったのか、咲ちゃんはどんどん食べ進めていく。この様子を見るに、相当このクッキーがお気に召したようだ。
ちなみに、クッキーだけは俺の手作りだったりする。昔からこういうちょっとしたお菓子作りが楽しくてしょうがなく、今までたくさん作ってきていること持って自身があるものの一つだ。ひまりにはよく作って食べさせてるけど、これからは咲ちゃんにも上げるようにしようかな。
「あ、咲ちゃんクッキー食べてる」
ひまりがキッチンの方でジュースを注いでこちらに持ってくる。
「あ、ジュースありがと。……ひまりちゃん、このクッキーって何処のクッキー? 美味しいからこれが終わった後も食べたいなって」
「ふふん……それは和人さんの手作りクッキー! だから何処にも売ってないよ!」
咲ちゃんの質問に、なぜか胸を張って返すひまり。いやいや、お前が作ったのでもないのになんでそんなに自信満々なんだよ……
「え、そうなんですか? お兄さんってこういうの得意な人なんですね」
「そうだな。クッキーだけじゃなくてオーブンがあれば作れるもので、そう難しくないものなら大体は作れるよ」
紅茶やら、コーヒーやらを淹れるときにもお菓子として食べたら美味しいものもたくさんある。今でこそ二人で長期出張に行っている両親も、まだこっちにいた時はなにかにつけて、「今日はなにか作ってないの?」と聞いてきたものだ。誰かに求められるのは嬉しい。だから色々作れるようになった。
「わあ……! じゃあ、スコーンって作れますか?」
「うん。もちろん」
スコーンはそのまま食べても、紅茶といっしょに頂いても美味しい万能なお菓子だ。かなり最初……それこそクッキーと同時期から練習しているので、こちらも結構自信があるお菓子の一つである。
「今度勉強会するときに一つ作ってもっていこうか」
「本当ですか? ありがとうございます!」
スコーンを一つだけ作ることはあまりないが、たくさん作って、ひまりと俺で食べて、一つだけ咲ちゃん用にとっておけばいいだろう。実際ひまりもそう思ったのか、小さくガッツポーズをしていた。ひまりもスコーンが大好きなんだよな。案外ひまりと咲ちゃんはにているところが多いのかもしれない。
「よし! ねえ咲ちゃん! せっかくクリスマスなんだし、今日はもう勉強のことなんて忘れて遊ぼうよ!」
「そうだね。お母さんたちからも、今日くらいはって言われたし。何して遊ぶ?」
「色々あるけど……私の想定はこれだ!」
ひまりが見せてきたのは、ボードゲームが多数収録されたテレビゲームだ。確かにこれならみんなでできるうえにそこそこ盛り上がりそうだ。
「うん。いいんじゃないか。咲ちゃんもそれでいい?」
「はい。こうやってみんなでゲームをするのは久しぶりなので楽しみです!」
テレビを付けて接続をし、大画面にメニューが表示される。コントローラーは二つしか無いので、とりあえず咲ちゃんとひまりに渡しておく。
ひまりは家のゲーム機にはだいたいある、ひまり専用のアカウントを使ってゲームに入る。それを眺めていると、袖をちょんちょんと引かれる感覚がした。
「ゲームのアカウント、すごく自然にひまりちゃんのもあるんですね」
「ん、ああ。あいつはこっちでゲームすることも多いからな。ちなみにひまりの家のゲームには俺のアカウントが入ってる」
「そうなんですか……むう……」
普通に応えたはずなのに、なぜか咲ちゃんは少し不機嫌そうに目をそらしてしまった。なんか気に障ること言ったかな? いや、ひまりが俺と仲が良いということに、友達として少し嫉妬していたのかもしれない。かわいいな。
「よーし準備完了! 最初は何する? なんでもいいよ!」
「そうですね。じゃあ将棋で」
実は金章学園では……というかそれのみならず、結構頭が良い子たちは将棋で遊ぶことが多い。頭が柔らかくなるからとか、集中力を鍛えるのにちょうどいいからとかそういうのもあるのかもしれない。
ともかく、例にも漏れずこの二人も結構な強さだ。年数分俺のほうがまだ強いとは思うが、完全に遊びとして選択するには俺にはちょっと荷が重いかな、と思うような選択だった。だが、咲ちゃんとひまりは存外楽しそうだ。
「……えー、咲ちゃん強すぎるからなあ。ま、いいや」
ひまりは将棋を選択し、ゲームをスタートさせた。……ふむ、こういうのは勝った方の商品とかあったほうが楽しめるだろうか。
「勝った方は……後で揚げドーナツ作ってあげるよ」
それを行った瞬間、この部屋の空気がぴんと張り詰めた。電流が走ったと言わんばかりの変化の具合に思わず少しおもしろくなった。
さっきまであんなに賑やかにうんうん考えてどの戦法で行こうか考えていたのに、テレビで見た大一番並みの集中だ。
ひまりは居飛車穴熊、対する咲ちゃんは藤井システムだ。ひまりは一瞬顔をしかめたが、すぐに持ち直し、休戦に変えることもなく淡々と定石通り指し続けた。咲ちゃんも同様だ。
そこからはひまりがそのまま徐々に徐々に追い込まれ、そのまま咲ちゃんに押しつぶされた。どんどん苦くなっていくひまりの顔と、ちらちらこっちを見ながら褒めてほしそうにしている咲ちゃんの顔が対照的で面白かった。
「くぅ! 負けた!」
「居飛車穴熊を選んだ時点で負けたな。咲ちゃんが藤井システム組む素振りを見せた時点で急戦に持っていくべきだったんじゃないか?」
「うがー! 対藤井システムの急戦なんて覚えてないよ! この前まで咲ちゃん、ゴキ中と石田流、それに一手損角代わりからの袖飛車がメイン戦法だったじゃん! 急に使われたら対策できないって!」
「ふふん! この前頑張って検討してきたんだもん。簡単には負けないよ」
「も、もう一回!」
ひまりのもう一回コールに「しょうがないなあ」といってもう一戦を始める二人を眺めながら、勝者の咲ちゃんにあげるための揚げドーナツをとってキッチンに向かった。