紅き彗星の滅竜魔導士   作:雷電 芽衣

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幻想曲(ファンタジア)

ラクサスとの戦いが終わり、ギルドメンバー全員は何とか無事に生還できた。

 

容態が良くなかったマカロフだが、ポーリュシカのお陰で何とか一命を取り留めたことがエルザの口から皆へ報告された。

 

「うぉぉぉっ!!」

 

「やったぁぁぁッ!!」

 

「良かった〜……一時はどうなるかと思った〜」

 

「あんな元気な爺さんがそう簡単にくたばるわけねぇさ」

 

「だが、マスターももうお歳だ。これ以上心労はかければ、また具合が悪くなるかもしれん。皆もそれを忘れるな」

 

『あいさー!』

 

エルザの忠告に皆が肝に銘じて返事をする。

 

「マスターの意向でファンタジアはやることになった。怪我が酷い奴は参加できないから、動ける者は参加するように…とな」

 

「ってことはアタシも!?」

 

「そりゃ、あんな姿の奴ら参加できねぇだろ?」

 

自分はファンタジアを観る側だと思っていたルーシィがビックリして声を上げる。その声を聞いたグレイがある人物達に指差す。

 

「……俺はこの二人よりかは外傷が少ない。参加は出来る」

 

頭や腕に包帯を巻いたジン。

 

「別に俺だってこのくらい大したことねぇし」

 

松葉杖をついたガジル。

 

「ンゴォ!!フガガガッ!!」

 

そしてミイラ男かと言いたくなるくらいの全身に包帯をぐるぐる巻きにされたナツ。口まで塞がれてるので何言ってるか全く分からない。

 

「お前が一番重傷だろう。参加できるわけがない」

 

「だな。おいサラマンダー。何だそのミイラ男スタイルは?随分と愉快な格好じゃねぇか」

 

「ホンゴァァッ!?ファンホァへへェェッ!」

 

「事実だろう。休んでいろナツ」

 

「何で通じてるの……?」

 

滅竜魔導士同士だからか分からないが、ジンとガジルはナツの言いたいことが分かっているようだった。

 

「ひとまず、これでギルドのごたごたは片付いたから良かったな」

 

エルザは一人そう呟く。ファンタジアに向けて張り切るギルドメンバー達は盛り上がっていた。

 

だが、そこに一人の男が現れると騒がしい雰囲気から一変して静かな空気が流れる。

 

「……」

 

ギルドに入ってきたのは、今回の騒動を引き起こした張本人であるラクサスだった。彼もまたポーリュシカの治療により何とか命は助かった身である。

 

だが、いつもの荒々しさはなく、ただ静かにギルド内を歩いて奥の方へ進もうとする。

 

「…ジジイは?」

 

「テメェ!どの面下げてマスターに会いに行こうと……」

 

一部のギルドメンバー達はラクサスを囲む。これまでしてきたことを糾弾するかのように声を荒げて立ち塞がる。

 

だが、それをエルザが静止させた。

 

「やめろみんな。……奥の医務室だ」

 

「ングググゥゥゥゥッ!!」

 

エルザの横を通り過ぎたラクサスだったが、今度はナツに行手を阻まれた。ナツは重傷人とは思えない気迫でラクサスを睨みつけた。

 

「ンングググッ!!ンンンンンンッ!!ンンングンググググッ!!」

 

包帯のせいで全く言ってることが分からないが、ラクサスはそれを笑いもせずに黙って聞いていた。

 

「通訳よろしく」

 

ルーシィは隣に立っていたガジルとジンに通訳を頼んだ。

 

「3対1でこんなんじゃ話にならねぇ。次こそは絶対に負けねぇ。また勝負しろラクサス!だとよ」

 

また、その後ナツが続きを言っていたのでそこからはジンが通訳する。

 

「しかも今回は美味しい所をジンに取られたから尚更勝った気がしねぇ。ナンバーワンを決めるために今度はまとめてぶっ飛ばすからジンとも勝負だ……と」

 

「意味分からんわ。どんだけ乱闘したいんだコイツ」

 

グレイがツッコミを入れる。

 

「でも、勝ったんでしょ?一応」

 

「俺もサラマンダーもアレを勝ったとは思ってねぇ。アイツは化け物だ。ファントム戦に参加してたらと思うとゾッとするぜ。オメェもそうだろ銀翼」

 

「あぁ」

 

ジンもナツとガジルと同じように、ラクサスとの戦いは勝利と呼べるものではないと思っていた。

 

それと同時にラクサスが最後に見せた黒い禍々しきオーラのことが気になって仕方がなかった。

 

(あの謎の力……仮にラクサスがアレを自在に扱えて、尚且つ万全な状態だった場合を考えると恐ろしいな。アレは一体何だったのか……)

 

ラクサスは一通りナツの言葉を聞くと、そのまま横を通り過ぎる。無視されたと思って一瞬憤慨するナツだが、奥の部屋に行く前に軽く手を振ってくれたことで、そうではないことを気づいて喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マカロフの病室に入ったラクサスは、暫く沈黙。先に静寂を破ったのはマカロフだった。

 

「お前は自分が何をしたのか分かっておるのか」

 

「……」

 

「ワシの目を見ろ。ギルドというのはな……仲間の集まる場所であり、仕事の仲介場であり、身寄りのないガキにとっては家でもある。お前のものではない。ギルドとは一人一人の信頼が形となって出来るものであり、それはいかなるものより硬い絆となる。お前はそれを脅かした。これは到底許されることではない」

 

「……分かってる。俺は…このギルドをもっと強くしようと……」

 

どんな相手にも負けない。誰にも脅かされない最強のギルド。ラクサスにとっては切実な願いだった。

 

だが、その願いは全くの間違いだったことに今頃気づき、後悔と自責の念が込められているかのように握り拳を振るわせていた。

 

「全く不器用な奴じゃ。もっと肩の力を抜かんかい。そうすれば、今までとは違ったものが見え、より違うものが見えるはずじゃ。人生はもっと楽しいものじゃぞ。ラクサス……ワシはお前が強くなくても賢くなくても……ただ元気に過ごしてくれていれば嬉しかったんじゃ」

 

今までマカロフの言うことに耳を貸してこなかったラクサスはその言葉を聞いて、何かを堪えるかのように肩を振るわせる。

 

マカロフは少し間をおき、重い口を開けるように告げた。

 

「ラクサス……お前を破門とする!」

 

その言葉はラクサスにとって分かりきっていた言葉ではあるが、悲しみは見せなかった。後ろを振り向き出て行こうとするラクサスは最後の言葉を残す。

 

「世話になったな。身体には気をつけろよ……じいじ」

 

「……出て行けッ…!」

 

自分が下した決断は正しいことではある。それでも、家族が離れることは悲しいことであり、マカロフは涙を流し、ラクサスに嘘の悪態を吐きながら見送った。

 

ラクサスは街を離れる前に話しておかないといけない人達が3人いた。

 

「何でよ!どうしてラクサスだけ!?それなら私達だって破門されるはずよ!」

 

そう、彼を慕う雷神衆の三人だ。今回の件、ラクサスは一人でこの責任を負うことを決め、雷神衆の三人はギルドに残してもらうように頼んでおいたのだ。

 

だが、その結果にエバーグリーンとビックスローは納得がいっていない。親衛隊である自分達とラクサスは一蓮托生だと思っていたのに、急に突き放されたような気分になったからだ。

 

「いいんだよこれで。お前らと違って俺にはこのギルドをに未練はねぇ。じゃあなお前ら……元気でな」

 

「ラクサス!……ちくしょう!!」

 

エバーグリーンとビックスローはラクサスとの別れに涙して地団駄を踏む。その中で、フリードだけは違った。これが永遠の別れにはならないと、根拠はないがそう思ったから。

 

「また会えるよな……ラクサス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になると妖精の尻尾によるパレードが始まり、舞台に乗ったギルドメンバー達が街を徘徊して盛大な芸を披露する。

 

初参加するジュビアは氷を扱うグレイとの連携で氷の城を形成し、人々を魅了する。

 

ミラはビーストソウルによって変身したエルフマンと現れ、それぞれ迫力ある野獣と華麗な美女の登場で会場を沸かせる。

 

ナツは包帯とギブスが巻かれた状態だが、本人の希望で無理矢理参加。炎を吹き出して『FAIRY TAIL』の文字を形成する芸を披露。

 

その後、ゲホゲホと咳のように煙を吹き出していた。やはりまだ本調子ではないらしい。

 

他にも様々なギルドメンバー達が己の魔法を活かして街の皆を魅了する。

 

ラクサスは建物の陰からひっそりとその様子を見ていた。この街を去る前に、どうしても皆の姿を目に焼き付けておきたかったのだ。

 

そんなラクサスは誰かが背後からゆっくり近づいてくる気配を感じとる。警戒はしていなかった。その人物の気配はよく知っていたから。

 

「お前……いつのまにここへ……」

 

「少し抜けてきた。俺の出番は少ないからな」

 

ラクサスに近づいてきたのはジンだった。ジンは話したいことがあるからここへ来た。故に最初に話を切り出そうとしたが、それを遮るかのように先にラクサスが口を開いた。

 

「ジン……オメェには謝っとかないといけねぇ。今回の件もそうだが、前にリサーナの死を悼むお前を女々しいって言ったこともだ。……すまねぇ」

 

こんな素直に謝るラクサスは見たことが無かったので、ジンは珍しく呆気に取られる。いつもの荒々しさが無いラクサスに驚いたあと、その謝罪を真摯に受け止めて返事をする。

 

「……良い。いつまでも引きずる俺に対して、その言葉は間違ってない。それよりもラクサス。お前に聞きたいことがある。お前が最後に見せた黒いオーラの力はなんだ?」

 

「……分からねえ。だが、思い当たる節があるとすれば親父の野郎だ。俺が滅竜魔導士になれたのは、親父が俺の身体に魔水晶を埋め込んだのが理由だからな。その際に細工したとしか思えねぇ……ハッ、上手くいかないもんだな……家族と仲良くするってのは。俺は結局、信じた親父に都合良く利用されたってことか」

 

「ラクサス……」

 

「だが、もうこんな力に振り回されるつもりはねぇ。この力はきっとまた俺を蝕む。だから、いつかこんなものねじ伏せるくらい強くなって見せらぁ……お前らのようにな」

 

一瞬落ち込んだが、その後の力強い言葉を聞いて、ジンは少し安心する。この先独りで生きていくつもりで心境が心配だったが、どうやら杞憂のようだ。

 

二人が話していると、パレードはマカロフの出番が回っていた。

 

倒れた後の復帰したばかりだというのに、動きは激しくコミカルで相変わらずのマカロフ。バカみたいな祖父だが、そんな姿を見れて満足したのかラクサスは無言でその場を去ろうとする。

 

「!」

 

すると突如パレードの進行が止まり、マカロフだけでなく妖精の尻尾の魔導士達全員が親指と人差し指を立て、天に掲げるようなポーズを取った。

 

観客達はそれが何を意味するのかは分からなかったが、ラクサスはそれを見て驚愕し、かつて自分が幻想曲を見ていた頃を思い出す。

 

あのポーズは小さい頃、自分がマカロフに見せた『証』。

 

自分が初めて幻想曲に参加する為、マカロフは客席で孫の晴れ舞台を見るつもりだった。

 

大勢の客の中からマカロフを見つけるのは困難だと思っていた所、ラクサスはあのポーズを提案する。

 

『メッセージ!じーじのとこが見つけられなくても、俺はいつもじーじを見てるって証だ!』

 

孫の気持ちが嬉しかったマカロフは、そのことを忘れたことはなかった。きっとラクサスがこのパレードを見てくれていることを信じて、ギルドの者達にこのポーズを届けることを提案した。

 

(マスターはあのポーズを誰が考えたのかは教えてくれなかった。けど、俺たちは言われなくても察することが出来た。アレがマスターがお前に伝えられる最大限の送別の証なんだろう)

 

驚愕するラクサスは、堪えきれない感情を吐き出すかのように涙を流す。

 

「じいじ……!!」

 

感傷に浸るラクサスの邪魔はしてはいけないと分かっているジンは目を伏せて静かに佇む。

 

━━━たとえ姿が見えなくとも、たとえ遠く離れていようと、儂はずっとお前を見てる。ずっとお前を見守っている。

 

「あぁ……ありがとな……!」

 

言葉にせずとも、伝わるマカロフの想い。

 

涙を流したまま、この街を離れようとするラクサスは黙ってくれているジンに背を向けて歩いていく。

 

「達者でな……ジン。……ミラといつまでも仲良くな」

 

「……!」

 

去っていくまで目を伏せたまま送ろうと思っていたジンは、その言葉に驚き、ハッとなって目を見開くと歩いていくラクサスの背中を見る。

 

昔、ジンとミラが一緒に仕事をこなした日があった。なんと、ギルドに帰ってきた途端に二人は突然ケンカをしてしまう。

 

『お前が無茶ばっかして怪我するから危うくクエスト失敗する所だっただろうが!このバカ!』

 

『ミラが無闇に敵に向かって突っ込んで怪我が酷くなったから俺が前線に出た。碌に敵の攻撃も避けられないなら前に出るなバカが』

 

『テメェもだろ!この!』

 

その時に仲裁に入ったのがラクサスだった。彼は身体が自分よりも一回り小さい二人の首根っこを掴んで身体ごと持ち上げる。

 

『待て待てお前ら!帰ってきた途端にケンカするんじゃねぇ!うるせぇんだよ!騒ぐより、まずは戦果と詳細を教えろ!ったくよ……』

 

ラクサスは何とか二人を冷静にさせ、詳細を聞く。

 

攻撃力が強みのミラとスピードが強みのジン。互いの特性を知っているからこそ

 

敵に対する決定打が足りていなかったジンは疲弊してジリ貧となり、やがて攻撃を受けて怪我を負う。ミラはそれを見て代わりに前線へ出て攻撃を叩き込もうとした。

 

一方、ジンは攻撃を受けるミラを助けようと自分が囮になってミラを守ろうとした。

 

それを聞いてラクサスは呆れたかのようにため息を吐いた。

 

『はあ……そんなことでケンカかよ。とどのつまり、どっちもお互いが心配なだけじゃねぇか』

 

冷静になって話を聞いた後だからか、ジンとミラはお互いを悪く言ったことにバツが悪そうな顔をして視線を逸らす。

 

『お前らがお互いに大事に思ってることを、相手に伝わらなきゃ意味ねぇだろ?』

 

元々口下手な二人故に、言葉で伝えるのは苦手だった。お互いが大切なことを伝え合うと握手をして仲直りをしたので、ラクサスは何とか収まったことに安堵する。

 

『今日は俺がメシ奢ってやるよ。仕事頑張ってきた褒美でな』

 

『やったぁ!ラクサス!私オムライスな!』

 

『俺は激辛麻婆豆腐で』

 

『分かった分かった!服引っ張んな!』

 

幼い二人はラクサスの袖を引っ張るので、ラクサスは二人の子供故の無邪気さに振り回されて困り果てる。

 

だが、ラクサスはこの二人の成長とやり取りを見るのは嫌いじゃ無かった。いつのまにか懐いてくる二人は、まるで自分の弟と妹のように思え、ラクサスはジンとミラに笑いかけながらこう伝えた。

 

『フッ……これからも仲良くしろよな』

 

かつて優しくしてくれた恩は忘れもしない。ジンも背を向けて去っていくラクサスに対し、指を天に掲げてその姿が見えなくなるまで見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレが妖精の尻尾……深い絆で結ばれた良いギルドだ」

 

ラクサスとの抗争中、傷ついたジンを助けた少女『ケイリュウ』は好物のアイスを食べながらパレードを観ていた。

 

幻想曲の中で感じられるギルドの一体感を目の当たりにし、彼らの絆の強さに感嘆する。

 

「おーい!ケイっち〜!こっちこっち〜!」

 

何者かが大勢の観客の間を潜り抜け、あだ名を呼びながら近づいてきた。その者は下を見なければ気づかないほどに小さく、更にはハッピーやアイルのように二本足で歩く『ネコ』だ。

 

「見てみて〜……じゃーん!妖精の尻尾グッズ〜!欲しかったの手に入れてきたよ〜」

 

「おや……気を利かせて感謝するぞ『メラル』。まさか、いつものように掠め取ってきたのではあるまいな?」

 

「まっさか〜。このか弱くて善良なネコちゃんがそんなことするはずありませーん」

 

嘘か本当か分からないような素振りをする黒い体毛が特徴の小さなネコはケイリュウに『メラル』と呼ばれる。

 

ケイリュウはそのメラルからジンの顔が描かれた缶バッジを受け取り、再びパレードに参加している彼の顔を見ると若干頬が赤くなった。

 

「いつかまた相見える時があるだろう。その時は……

 

 ━━━良き死合を」

 

短い言葉の後、視線を向ける男と同じ紅き眼をギラリと光らせ、獲物を見つけたかのようにジッと見つめる。

 

それは敵意か?憎悪か?はたまた憧れを抱く憧憬の意か?

 

「……?」

 

何か強烈な視線を感じたジンは気配のする方向をチラリと見るが、そこにはパレードの観客が大勢いて正体を見分けることは出来ず、気のせいだと思い向き直ってパレードの続きに勤しむのであった。

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