トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。 作:秋津モトノブ
今年中には完結させたい所存。
予定は未定。
「聞いてますか山田さぁん! あのね、カレンがね、カレンがカワイイんですよォ~……!!」
「ああ、はい。もう20回目っすね……」
川添トレーナーが、体をガンガンぶつけてくる。
おいおい、酒が零れちまうだろうが。
「山田ァ……ラァイスがね、ライスがねぇ、カワイイのよォ……アンタもそう思うでしょォ……?」
「あーはい、そうですね、はい」
「返事が適当ォ~! 真面目に答えなさいよォ……!!」
反対側にいるのは、ライスシャワーのトレーナーさんだ。
……そう言えば、未だに名前聞いてねえな。
グイグイと肩を押してくる……この人も酒癖悪ぃなあ。
「こ~ら~、トレーナーちゃん! 山田さんが困ってるでしょ~? はい、こっちでお水飲みましょうね~?」
「んにゅう……崇城ォ! この巨乳が憎いぃ……!」
「きゃ~!? 揉んじゃダメ~!」
助かった、崇城トレーナーが撤去してくれた……なんかセクハラされてるけど。
「でぇ、カレンがカワイイんですけどォ……」
そして言語能力が崩壊した川添トレーナーが残された。
……どうすんだよコレ。
ここは、都内某所にある予約制の居酒屋だ。
現在、トレーナーたちの懇親会……まあ、俗に言う飲み会が行われている。
何故、ここに一介の警備員たる俺が参加しているのかって?
事の起こりは、今朝だった。
・・☆・・
「懇親会?」「こんしんかい~?」
「――ええ、そうなんですよ」
朝、校門前。
立ち番中にウララを肩車していると、川添さんが話しかけてきた。
朝だってのに疲れてんな……いや、寝不足かこれ?
「今晩、トレーナー同士の懇親会があるんですよ。それで……参加しませんか?」
いや、なんで……?
「けーびいんさん、こんしんかいってなーに?」
「あー……なんて言うかな、同じ仕事をしている人たちがする食事会だ。もっと仲良くなろうっていう感じかね?」
そう、同じ仕事だ。
俺はトレーナーじゃない。
「ふうん、仲良くするための食事会なんだね~……わたしたちがけーびいんさんとよくやってるやつ?」
「あー、そう……かな?」
言われてみれば、しょっちゅうなんか作って食ってるな。
いや、正確に言えば飯を作ってるといつの間にか誰かいるって感じなんだが。
ちなみに参加回数上位は大体オグリ、ライス、ブライアンにタイキあたりか。
別に、トレーナーの許可済みだからいいけど。
「でも川添サン、なんで俺なんです?」
「ちょーっと、欠員が出てましてね……んで、これは学園の正式な会じゃないんすよ。だから、駿川さんとかも参加しますよ」
あー、そういう感じね。
「しかし、俺が参加してもいいもんなんすか……おっと、先に。よーしウララ、今日も頑張ってこいよ~」
もう始業時間が近い。
ウララが遅刻しちまうから、下ろす。
「よっと……うん! いってきまーす!」
「あいよ~」
登校する生徒もまばらになってたから、肩車してたんだよな。
なんか、周りも俺が小さいウマ娘を肩車する光景に慣れてきてるから何も言われない。
事案認定は避けられそうだ。
「ほんと、仲いいっすねえ……それで、その……なんとか参加してくれないですか?」
周囲に視線を飛ばし、川添さんが声を潜めた。
ちなみにだが、本日の勤務当番がかち合ったのはフドウギクだ。
反対側の門柱でたづなさんとなにやら話し込んでいる。
「はあ、まあ今晩は暇なんでいいですけど……随分誘いますね?」
試合まではまだ二週間あるから、少しくらいは飲んでも大丈夫だろう。
「――いよっしゃあ!!」
川添さんは、大きくガッツポーズをした。
おいおい、なんだこのリアクションは。
「これで救われたァ! そんじゃ僕はこれで! 詳細はウマインに送っておきますんで~!!」
さっきまでの疲れ顔はどこへやら。
目をキラキラ輝かせた川添さんは、校舎の方角へダッシュで去って行った。
……なんなんだ?
「あら! 今回は山田さんも参加されるんですね~♪」
「たづなさんも来るんですか。そりゃあ楽しい会になりそうですね」
この人とは前に一緒に飲んだけど、尋常じゃないくらい酒が強い以外は楽しいお酒だった。
たぶんたづなさんには肝臓が4つくらいあるんだな。
ばんえい級に飲むからな……
「もう! お上手なんですから♪ あ、フドウギクさんもよかったらどうです?」
「むうぅ……凄く行きたいスけど、今晩は出稽古なんス……」
ああ、コイツはUSCと空手指導員の二足の草鞋だからな。
「そいつは残念だな。また機会があったら飲もうぜ」
「押忍、楽しみス!」
いい顔すんなあ……
「お勧めの超美味い焼き鳥屋があんだよ。ちょいと狭いが、味は保証するぜ」
「あら、そっちも楽しそうですね~? 私も連れて行ってくださいよ~♪」
あっこのオヤジさん、ウマ娘と美人が大好きだからな。
この2人連れてったら喜ぶぞ……
「山田さん! 今焼き鳥と言ったか!?」
「……オグリ、休み時間に話してやるから今は走れ。遅刻すんぞ」
「ああ! 楽しみにしている!!」
一般通過オグリが凄い速さで走って行った。
……アイツを連れてくのはなぁ……あそこ、営業開始は8時ごろだし、酒も出すし……絶対ダメだろ。
今度いい鶏肉を仕入れて、焼いてやるかあ。
結局それが一番財布に優しいことになる。
ま、そんなに困っちゃいねえけどよ。
「それにしてもライ先輩、北海道出張でかわいそうスね……」
「……内緒にしとけよ。しかしタイミングの悪い後輩だな……」
ライが情けなく叫ぶ幻聴が聞こえた気がした。
……帰ってきたら、なんか美味いモンでも作ってやろうかね。
・・☆・・
……と、いうわけで今に至る。
勤務終了後、適当に暇をつぶして電車で最寄りまで向かいたづなさんと合流。
『デートの待ち合わせみたいですね♪』とウキウキの彼女と一緒に店まで向かった。
『俺の人生で、こんなに美人な人間女性と歩いたことないですね。明日あたり死ぬんかな』と言うと、たづなさんは困ったような笑顔で何故か結構な威力の肩パンを何度も放ってきた。
脱臼するかと思った。
「だからぁ~……カレンがぁ~……」
川添さんはもはや俺ではなく、倒れた徳利に話しかけている。
酔いすぎだろ……ビール一杯に日本酒1合くらいでこれか?
疲れてたのかねえ……
「相変わらず仲のいいこって……あ、そういやダイワスカーレットとはどうなんですか?」
そう聞いた瞬間、川添さんは立っている徳利を引っ掴んで一気飲みをした。
おいおいおい、いきなりなんだ?
「キツイぃ~! 当たりがキツイ~! でも言ってることは全部正しいからなんにも言えにゃい~! でもキツイけど基本的に真っ直ぐないい子ぉ~!!」
「ちょっと! いきなり飲み過ぎじゃ……」
川添さんはもう泣きそうだ。
「いぎぃいい! なぁんで僕に担当頼むんだよ~! 他にいっぱいいっぱい有能トレおるじゃん~! やーだ! 僕はそもそもカレンだけでイッパイイッパイなんじゃ~! 店員さあああああん! ウイスキーをジョッキで持ってきて~!!」
「やめろ馬鹿死ぬぞおい!? ああ、店員さんコークハイにしといて! ウイスキー薄めの!」
……川添さん、担当が増えてマジでしんどいんだな。
今日のメンツ、ほとんど女性だから俺を呼んだのかもしれん。
俺は一応同年代で、しかも同性だからな。
愚痴をこぼしやすかったんだろう……しかし、ダイワスカーレットってそんなキッツイのか。
朝の挨拶じゃあ、ハキハキしたいい子って感じなんだが。
よくウオッカって子と一緒にいるが、2人とも元気ないい子に見えるんだがねえ。
しかしまあ、トレーナーさんたちも大変だなあ。
トレセンのウマ娘がいくらすげえアスリートだって言っても、思春期の女の子ばかり。
色々と苦労もあるんだろうねえ。
勤務のついでに仲良くしてる俺とはまさに別次元の激務だろうな。
「――荒れてるねえ、川チャンは」
ライスのトレーナーが座っていたところに、宮浦トレーナーが来た。
大井出身の江戸っ子、イナリワンのトレーナーだな。
いつ見ても髪が濡れてるように光ってる、とんでもない美人さんだ。
色気がすげえ……キツ目だが大美人だ。
……そういや、俺の知ってる女性トレって美人しかいねえな。
「なんか、担当が増えて死にそうみたいですよ」
「ああ、特に男トレーナーにありがちの現象だね。だけど慣れるしかないんだよね……トレーナーってのはどの時代も数が足りてないんだからさ」
宮浦さんは、川添さんを見て苦笑いしている。
確かによく聞く話だ。
トレーナーってのは、そもそもなるのが激烈に難しい。
特に中央トレセンのトレーナーと言えば、誰が言ったか司法試験に受かるレベルの難易度らしいからな。
地方のトレセンで経験を積んで……ってパターンもあるが、そもそも地方のトレーナーになるのも狭き門だ。
「まあ、人手が足りないって言っても難易度を緩和するわけにはいかないんだけどさ……っと、にいさんどうだい? 一献」
「いただきます」
宮浦さんが徳利の酒を注いでくれる。
「じゃ、俺からも」
御返杯、っと。
「悪いねえ……いい男に注いでもらうと酒が美味くなるね」
「俺がどうかは置いておいて、美人に注いでもらうと確かに美味いですよ」
きゅっ、と一口。
……うん、日本酒は冷に限るな。
熱燗が嫌いってわけじゃねえんだが。
「はは、ウマコンのにいさんにそう言われるってことは……アタシも捨てたもんじゃないってことかい」
ウマコンが気にはなるが、宮浦さんは超ド級の美人だからな。
ウマ耳付けたらそのままウマ娘に擬態できそうなくらい。
「トレセン、美男美女まみれなんで肩身が狭いですよ」
横で唸ってる川添さんもイケメンだし、ウララとキングの福久トレーナーもそうだしな。
……アレか? 中央のトレーナーになるには学力の他に顔面の偏差値も必要なのかね?
「はん、何言ってんだか。にいさんもいい男じゃないか……ちっと傷が迫力満点だけどね」
「いやあ、それは照れますね……ま、一献」
「はいよ。しっかし近くで見ると本当にいい体してんねえ……空手ってこんなムキムキになんのかい?」
胸板に軽い裏拳。
「すっご、まるでタイヤじゃないのさ。崇城も触ってみなよ」
「わーすっごい! この大胸筋がタイキちゃんをスルっとおんぶできる理由ですね~♪」
いつの間にか崇城さんも加わってきた。
……アンタもできるじゃねえかよ。
絶対に言わないけど。
えーと、これはセクハラになるのだろうか。
特に嫌じゃないから放置でいいか。
あと2人ともすげえいい匂いがする……
「そんで川チャン、スカーレットとは上手くいってんのかい?」
「才能はグンバツなんすよ~……だから僕がその才能をアレするかもしんないと思うと……もう怖くて怖くて昼夜眠れないんす~……!」
テーブルの上で上半身をグニャグニャさせる川添さん。
それに気付ける時点で、この人も一端のトレーナーだと思うがねえ。
「あらら、こいつは重症だ。アタシの知り合いにそっくりだよ」
「お知り合い?」
ぐい、と酒を煽る宮浦さん。
「ああ、そいつも中央のトレーナ―でね。よりによって1年目にとんでもない才能を持つウマ娘に逆スカウトされちまったのさ……『俺には彼女を完璧に育てる自信がない~!』って、よく愚痴ってたねえ」
「そ、そんな先輩がいたんすね! 一体どうやってソレを乗り越えたんすか!?」
がばっと起き上がった川添さんの顔は必死だ。
「そんなもん、毎日切磋琢磨してぶつかり合って、信頼関係を作ったに決まってんじゃないのさ。近道なんてないんだよ……必死にやってくしかないんだ」
こん、と川添さんの頭に拳を落とし……宮浦さんは再び酒を飲む。
「アタシらトレーナーはね、ウマ娘の一生を左右する立場にいるんだよ? 向こうが望んだんなら……アンタも死ぬ気でダイワスカーレットに向き合いな。カレンチャンにやっているようにね……大丈夫、真摯に当たれば、向こうもしっかり答えてくれるさ」
「……そう、でしょうかぐぅあ!?」
今度はぱぁん! と横っ面を叩かれる川添さん。
「っは! 何子犬みたいな顔してんだい! アンタは腐っても中央のトレーナーなんだ! 自信を持つんだよ! ほんっとうに駄目だと思われてたら、あの理事長サマが2人目の担当なんざ認めるわきゃないじゃないのさ! それでもアンタ男かい? 〇ンコ付いてんのか!? あぁん!?」
「ひゅいいい! すいませんすいません! わかりました! わかりましたからもう許してください!」
「いーやわかってない! ちょうどいい機会だからアタシがありがたあああい説教をしてやろうじゃないのさ! 向こうで正座しな川チャン!」
「ノオオオオオウ! ヘルプミーカレンチャン! レスキューミーカレンチャン!」
あーあー……
あんまり一緒に飲んだことなかったから分からんかったが、宮浦さんは絡み酒かよ。
川添さん、ご愁傷様だな……
俺を必死に見ているが……スマン、俺ァ格闘ウマ娘とかヒグマには勝てるけど、口では誰にも勝てねえんだよ……
「――珍しい顔だな」
隅の方へ引きずられていく川添さんを見ていると、空いた横に誰かが座った。
「ああ……縦山さん、御無沙汰してます」
短く切り揃えた髪に、メリハリの利いたスタイル。
そこにいたのは、ライアンとマックイーンのトレーナーである縦山トレーナーだ。
俺よりも少し背の低い、ボーイッシュな美人さんである。
「まあ飲め、お前にはウチの2人が世話になっているからな」
「いただきます」
ウイスキーをストレートで……氷もらおう。
ロックが好きなんだ。
ハイボールも捨てがたいがね。
「じゃ、こっちも御返杯です」
「うむ、もらおうか……それで山田、ライアンやマックイーンに手を出してはいないだろうな?」
相変わらず担当への愛がデカすぎる。
……この前ライアンに聞いたが、この人はメジロの分家出身らしい。
ウマ娘じゃないが、本家に並々ならぬ恩を感じているためにトレーナーになったんだとか。
この態度もそれが所以かねえ?
「そんなわけないでしょう。俺が未成年に手を出すような変態に見えるんですか?」
「見えない……が! メジロの娘たちは誰も彼も最高だからな……職業倫理さえ粉々にする恐れがある!」
無ぇよ。
それくらいのうっすい倫理観の持ち主ならまず面接で落とされるわ。
こちとら天下のUSCだぞ? 警護対象に手を出すなんざご法度中の御法度だよ。
「……安心してくださいよ、俺にとっちゃあの子らはカワイイカワイイ妹分みたいなもんですから」
「本当か? アルダンやドーベル、ラモーヌにも手を出していないのか?」
ラモーヌに至ってはちょいと話したことがあるくらいだよ、どんな性格かもいまいちわからんわ。
「まず付き合いがないですからねえ」
「ではパーマーはどうだ? よく話しているのを見かけるぞ?」
目敏いなあこの人……
「あの子は話しやすいですからね、トーセンジョーダンと一緒によく詰所に遊びに来るだけですって。俺よりむしろ爺さん連中に懐いてるんじゃないすかね?」
「……そうだな、お前はむしろ小さいウマ娘の方が好きそうだからな……」
「聞き捨てならなすぎる。俺ァウマコンですがロリウマじゃねえすよ」
最大の風評被害じゃないかよ……ウマコンの時点でアレだが。
「ハルウララやツインターボをよく肩車しているじゃないか?」
「あの年頃の子を見ると、妹を思い出すんすよ。ついついお願いされるとやっちゃうんですよ」
ウイスキーを煽る。
うん、この銘柄はやっぱり安定して美味ぇな……ツマミ注文しようかね。
「へ~! 山田さんって妹さんがいたんですね! ウマ娘の方ですか~?」
崇城さんが話に入って来た。
後ろの方でたづなさんが顔を青くしているが、別に気にすることじゃないですよ。
「ええ、『いました』よ」
笑ってそう言った瞬間に、崇城さんと縦山さんの顔色が変わった。
酒のせいかな……やっぱり誤魔化せばよかった。
「おおっと! しめっぽい話はナシで! もうずっと昔の話なんでね」
手で制し、ウイスキーを煽る。
ちょいと回ってきたかなあ?
「妹はトレセン志望でねえ……だから、あの子たちがね……俺ァかわいくって仕方がないんですよ。なんつうか……ホラ、あいつが今も元気でいるみたいに思えて」
ふう……酒が美味い。
もう胸は苦しくない、それほど子供じゃないからな。
とっくのとうに、過ぎ去った過去だ。
「だから俺は――」「――申し訳ない!」
がつん、とテーブルに頭突きする縦山さん。
いや違う、謝ってんのかこれ。
割れちまうぞ、テーブルと頭。
「はいはい、これでこの話はおしまいですよ。縦山さんがあの子達を大事に思ってるからこそですからね……じゃ、飲んだ飲んだ」
氷を入れたグラスにウイスキーを注ぎ、縦山さんの前に。
「……不躾すぎたな、私は」
「はっは、言ってなかったんだから気にせんでください。ホラホラ、酒は楽しく飲まねえと! 崇城さんも飲みましょ! 俺焼き鳥追加で~!」
「私も追加です~♪」
いつの間にかたづなさんが近くにいた。
彼女はジョッキを持って俺の横に座り……一瞬、心配そうに俺を見た。
優しいねえ、この人は。
俺はとりあえず小粋なウインクを返しておいた。
……肩パンが返ってきた。
すいません、キモかったすね。
・・☆・・
「うーん……やっぱりこの年の有マ記念は最高ですね。TTGの競り合いがいつ見ても素晴らしい!」
「そうでしょォ!? 勿論勝ったテンポイントしゃんもいいんですけど……3着のグリーングラスしゃんの追い上げもまた……! ここ! ここのトウショウボーイしゃんも!」
ちょっとしめっぽい話が終わり、気が付けば俺は椎名さんとスマホで動画を見つつウマ談議をしている。
彼女はアグネスデジタルのトレーナーで……性格は担当とほとんど同じ。
ウマ娘が好きすぎてトレーナーになったクチだ。
「いいでしゅよねえ……この、3人揃ってのウイニングライブ! う~~~~~うまだっち!!」
「おおっとぉ!?」
椎名さんは興奮して俺に縋り付いて、その上歌い始めた。
距離感がバグってるぞおい……俺も一応男の端くれなんだがね? 椎名さんも美形なんだからこういうことすんなよ。
周りに見られたらどう思われるか……
周囲は……ああ、全然気にしてねえ。
これ、平常運航なんか。
しっかしこの人、ライスとどっこいの身長なのにウマ娘が絡むと無限の体力を発揮するよな。
たまに学園内で倒れて……否、寝てるけど。
救助活動も慣れたもんだよ、うん。
「あ、椎名さんこれどうぞ」
「はぇ?」
持ってきた鞄からミニ色紙を取り出す。
「なんかね、知り合いがデジタルに渡してほしいって言って預かったんすよ。前に渡せなかったらって……」
「こぉ!? こここ、ここここれぇ!?」
うまぴょい伝説を中断した彼女が震え出した。
俺が渡したミニ色紙は、全部で2枚。
「椎名さんの分もあるみたいですよ。今日渡せてよかったです」
その表面には、大きくサインが書かれている。
「え、えええ、エリモジョージしゃんの! サイン!」
そう、エリモねえさんからのものだ。
前に学園内をふらついている時にデジタルと会ったらしいんだが、色紙を渡す前に昏倒したって話だからな。
そのお詫びも兼ねて、いつか会ったら渡してくれって頼まれてたんだよ。
持ってきてよかった。
「はわぁああああああ――エンッ!?!?」
椎名さんは、色紙をしっかり胸に抱いてから仰向けに倒れ込んだ。
やべえ、頭打って……ねえか、よかった。
座布団畳んで枕にしてやろう。
この人もキャラ濃いよな……
「山田、さっきは――」
おおっと、縦山さんまだ気にしてたんかよ。
「謝罪はいらないっすよ? 気にしてないんでね……縦山さんはいい人ですから」
そう言って、グラスを持ち上げる。
「それに、これで俺がウマ娘に手を出すような男じゃないって信頼してくれたでしょ? その記念にホラ、乾杯」
「う、うむ……乾杯だ」
ちん、とグラスを打ち鳴らす。
よかったよかった、これで解決――ぐぇえ!?
「山田さあああん! ごべんなざいいいい!!」
後ろから! ギャン泣きの崇城さんが! 抱き着いてきた!!
これはもうベアハッグだ!! 肋骨が――死ぬ!!
「わだ! わだぢが山田さんの妹になりましゅから許してくだざあああい!!」
「っき、気にしないで! 気にしないでいいから! やめ! やめなさい年頃の女性がァ!!」
この人は酒が入ると泣き上戸になんのかよ!
あとなんだ! 妹になるからって! そりゃあ年下だけども!!
「たづ! たづなさん! たづなさん助けて! 隣にいる桐生院さんも! 助けてェ!!」
ミシミシと軋む骨の音を聞きながら、俺はなんとか周囲に助けを求めるのだった。
振りほどけはするだろうが、セクハラになりかねんからな!!
・・☆・・
「やまだしゃぁん……ごめんなしゃいぃ……」
「寝言でも謝ってる……気にせんでもいいのにな」
宴もたけなわって所で、会はお開きになった。
俺は……崇城さんをおんぶして、タクシー乗り場へと歩いている。
セクハラになるかもしれんと危惧したんだが、そもそも崇城さんが大きいので俺以外には背負えないという結論でこうなった。
謎のパワーを持つ桐生院さんに頼みたい所だったが、身長の関係でね……
「山田さんは力持ちですね♪」
「まあ、多少は」
横を歩くたづなさんが面白そうに微笑んでいる。
同道するのはあと一人……ずっと黙り込んでいる縦山さんだ。
この人も意外と気にするんだな……もっと傍若無人かと思ってたんだが。
「……山田、お前の人となりはよくわかったぞ」
「はい?」
かと思えば急に喋り出した。
いきなりなんだよ?
「あの子たちが引退し、他のことに目を向けるようになったら……口説くことを許可しよう。勿論、無理強いなどしたらメジロの総力を挙げて叩き潰すが……!」
「――アンタマジで人の話聞かねえなァ!?」
まったく、やっぱりトレーナー連中ってのは大なり小なり変人ばっかりだぜ!
……あれ、そういえば川添さんは何処行ったんだ?
【川添トレーナーのヒミツ】
・翌日トレセン近くの河川敷で『カレンチャンとダイワスカーレット大好き』と顔面に落書きをされた泥酔状態で発見。
なお、第一発見者は揃って早朝ランニングに出ていたカレンチャンとダイワスカーレットである。