トレセン学園警備員さんは、ウマ娘に勝ちたい。   作:秋津モトノブ

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お久しぶりです。
例によって思いついたので不定期投稿です。
試合は執筆カロリーが高いので、不定期にお待ちください。


特別編 ウマプロレスは素晴らしい。

『あ~……』

 

 マスクによって変声された声で、マイクに話しかける。

そこら中から視線が突き刺さるのを感じる……こういうのは慣れねえなあ……

 

『今回は、お招きくださってありがとうございます』

 

 ヒトは沢山いるのに、誰も発言しねえ。

痛いほどの静けさ、ってやつだが……視線はもう、すげえ。

 

『『無名』です、皆さん……よろしくお願いします!』

 

 一瞬、静かなタメがあって……

 

 

「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」」」

 

 

 まるで爆発したみてえな、黄色い声援が体に叩きつけられた。

おおお、物理的な衝撃が来る……花火を近くで見た時みてえな、感触!

まるでアイドルにでもなったような気分だぜ。

 

「うるるる……この泥棒ウマ共が……いざとなればネットで学んだ毒霧をぶちまけてやるッス……!」

 

「洒落にならないのでやめてくださいス」

 

 後ろから、ライとフドウギクの声を聞きつつ……俺は何故ここに来るハメになったか考えている。

 

 そう、ここは都内某所にある『翔楽園ホール』

こう言いかえた方がいいだろう……『ウマプロレス』の『聖地』だと。

 

 事の発端は、先週に遡る。 

 

 

・・☆・・

 

 

「……ウマプロレス、ファン感謝イベントぉ?」

 

「ああ、そうだ。知っているか?」

 

 トレセン学園、USC詰所。

そこの会議室で、社長が俺と向かい合っている。

 

「知ってますよ……なんなら学生時代は参加する側でしたよ、俺」

 

「ほう、流石はストライクゾーンの広い『ウマコン』だな」

 

 それ、関係あるか?

まあ好きか嫌いかと言われりゃ大好きだが。

 

「覚えているかイチロー。お前が退院した後の記者会見で、『月刊ウマプロレス』の記者と話しただろう?」

 

「ああ、あの後プレゼント用の色紙むっちゃ書きましたね……それが?」

 

 300枚は書いたっけな……そんなに応募あんのかと思ったが、応募総数は10倍以上だったらしい。

世の中には物好きが多いもんだぜ。

 

「その後、雑誌を通じて正式な『依頼』があったのだよ……『IUPW』からな」

 

 IUPW……『インターナショナル・ウマムスメ・プロ・レスリング』

日本にいくつかある、格闘ウマ娘によるレスリング団体……その中でも上位グループだ。

ちなみに、俺がウマレスラーで大好きな『トラマスク』選手が在籍していた団体でもある。

 

「まさか、U-1の前にウマレスリングの試合に出ろって……?」

 

「馬鹿者。準決勝を控えている選手にそんなことをさせるかよ」

 

 あ、別にいいんだが……そこは考えてくれてんだな。

 

「ファン感謝イベントの一環で、まあ……レクリエーションのようなものだ。お前とウマレスラー達の交流行事のようなものだな」

 

「需要あるんすか、それ」

 

「大いにある、ありすぎる。ちなみにファン感謝イベントでは録画映像を流す予定だから、お前がファンの前に出るわけではない」

 

 へえ、そういうことか。

 

「正直、警備の関係で何が起こるかわからんからな……『反ウマ』も『ウマ娘至上主義』もいるし、何かあれば大惨事だ……犯罪者側が、な。なので撮影することもトップシークレットだ」

 

「まあ……ウマレスラー相手に刃物が通じるとは思えねえし、銃はないっすからねこの国」

 

 わざわざ刺激するまでもねえってことか。

そこら辺のチンピラがどうこうできる連中じゃねえけどな。

 

「我がUSCにも、セカンドキャリアとしてレスラー出身の格闘ウマ娘は多い。IUPW程の大団体なら、引退したとて即戦力になりうる者たちも多いからな……ここで顔を繋いでおけば、有能な社員がこの先増えることになる」

 

「採用活動も兼ねてるってことっすか……じゃ、俺はその親睦行事の客寄せパンダみたいなもんすね」

 

 広報活動の一環として考えれば、まあ悪くない。

有能な同僚が増えるのは俺としても望むところではあるし。

スター選手が同僚になるかもしれんし、いいな。

 

「うむ、肩の力を抜いて大いに鼻の下を伸ばすといい」

 

「言い方……」

 

 そりゃあ、ウマレスラーは好きだけども。

 

「内容はインタビュー、握手、並びにハグ会だ」

 

「……需要って」

 

「大いにある、ありすぎる」

 

 えぇえ……

 

「――ウチもぉ! ウチも参加するッス! パイセンの貞操の危機っスからァ!!」

 

 ドアがぶっ壊れた音がした……加減しろよ、ライ……

給料から引かれるぞ、修理費……

 

 

・・☆・・

 

 

 と、いうわけで今日の『翔楽園ホール』

俺はホール中央のリング状に設けられた椅子に座って、マイクを持っている。

ライとフドウギクは斜め後ろにそれぞれ座っている。

目の前の観客席には、IUPWに所属するウマレスラー達が座っている。

全部で80人くらいかな? ……さすがは在籍数トップ層の団体だ。

見たことのあるスター選手が山ほどいやがるぜ……皆すげえ体してんなあ。

 

「(パイセンの目がいやらしいッス……!)」「(この角度からじゃ見えないスよ、先輩)」

 

 なんか、ライの視線が一番強いな……護衛でもしてるつもりなんか、こいつ。

 

「では、これより無名選手への質問コーナーを開始します。 あらかじめ決められた順番通りにお願いしますね~♪」

 

 そして、リング状にもう1人いるウマ娘……背中を向けているが、強靭な筋肉がありありと見える。

彼女は司会進行役のレスラーウマ娘……ではなく、レスラー風のリング衣装に身を包んだ……エリモジョージである。

何でだよ……どんなパイプがあってその役やってんだよ……

俺も控室に挨拶に来て知ったぞ、今日。

相変わらずの気まぐれっぷりだぜ、エリモねえさん。

しかしまあ……似合うねえ、衣装が。

引退したウマ娘の体かよ、これが。

 

 ちなみに社長は会場の奥の方から俺を見てニヤニヤしている。

スマホ向けてるってことは、あっちでも録画してんのか。

……誰に見せるんだろ。

 

「はい! 初めまして! エルボーレディです! ……あ、あの! 私のことって知ってますか!」

 

 早速1人目か。

知ってるに決まってんだろ! 有名人! 

エルボーレディ……打撃戦、特に名前の如くエルボーを得意にしてるスターレスラーじゃねえか!

 

『はい、タイラント選手とのライト級マッチは現地で観戦していました。フィニッシュのシャイニングエルボー連打、素晴らしい速度と角度でしたね!』

 

「うっそ!? 会場にいたの!? うわ、うわー! も、もう大好き! ありがとうございます~!!」

 

 ……こんな感じでいいのか?

喜んでるみたいだからいいか……

 

「はいっ! サンダーレインです! あの、無名さんって……き、筋肉質なウマ娘ってどう思いますかッ!」

 

 今度は足技のコンビネーションが美しいサンダーレイン! 家にサイン色紙あるんだよなあ……抽選で当たったのが!

 

『大変素晴らしいと思います。強いウマ娘は最高です』

 

「やった~! 腹筋割れててよかったぁ~!!」

 

 ……この場にいる全員バキバキだけどな?

顔に出す気はねえが、なんともいい眺めだぜ……!

 

「グレイテストロックよ。その……私の試合は見ているのかしら? 見ているなら、どの試合がお好み?」

 

 おお……グラウンドの攻防戦が得意なレスラー!

大人の魅力があるよな……! 大和撫子って感じで清楚だ……!

 

『そうですね……2年前の大阪湾特設ホール、レディバレット選手との無制限マッチですか……! 特にジャンピングニーを受け止めてからの豪快な雪崩式ブレンバスター! アレは震えました……!』

 

「本当に!? ま、まあ! とても光栄ですわ、無名さん!」

 

 ざわ、とどよめが広がっていく。

 

「ちょい待って、マジで詳しい……」「カンペとかじゃないし、つっかえないし……」「嘘……このイケメン私達のこと好きすぎ……」

 

 なんだ? ひょっとして今まで、俺がリップサービスでウマプロレスが好きだと思ってたのか?

それは心外だな……

 

「(やべえッス、パイセン変態ッス。突き抜けた変態ッス。レースもばんえいもウマプロまで網羅してるッス……)」

 

「(なんていう勉強熱心さ……ジブンも見習うス!)」

 

 よし、これならなんとかなりそうだ。

以前のインタビューはクソ記者が定期的に出て来たから嫌だったが、こんなん俺へのご褒美みたいなもんじゃねえかよ。

目の前にはスター選手しかいねえからな……!

 

「はい! キューティバニーです! 無名さんは……ウマレスラーって弱いと思いますか!?」

 

 ム! 名前の通り跳ね回るルチャ・スタイルの軽量レスラー!

 

『まさか。貴方のヴォーパル・ラッシュを喰らえば無事では済みませんし……弱いなんて言う連中は直々に殴り倒して回りたいですね』

 

「はわー! ありがとうございます~! お望みならスパーだってなんだってしちゃいますよ~!」

 

 ……マジで!?

 

『それは――』『――馬鹿者。試合前に何を考えている』

 

 ……インカムから社長直々のキャンセル!

 

『……U-1が終わりましたら、是非お願いします』

 

「嘘でしょ!?」「スパー……スパー!?」「密着できんの!?」「いまからグラウンドの練習しとかないと!!」

 

「(おキクちゃん! ウチに必殺の正拳突きを教えてくださいッス! このままじゃパイセンが!)」

 

「(やりたいスね……スパー!)」

 

「(あっダメッスこれ。おキクちゃんもあっち側ッス)」

 

 予想以上の食いつきだ……稽古としては最高だな、是非やりたい。

試合が差し迫ってなければなあ……残念だ。

 

「いや~! 場があったまってきましたね~! この場は無制限! ドンドンいきましょ! 長くなっても編集でなんとでもなるんで~! どんどん、どんどーん!」

 

 エリモねえさん、すんげえテンション高いな。

何でそんなに動きが軽いんだよ……サラブレッドウマ娘のロープワークじゃねえぞオイ。

 

「はいはーい! マスクザカラスでっす!」

 

 おー! 謎の覆面ウマレスラーじゃないか!

フレンドリーな性格なのに、ファイトスタイルは意外とえげつないからめ手が多いんだよなあ……!

倒れたと見せかけて足を極めに行く動き、俺も大いに参考にしたぜ!

 

「無名さんが~……いっちばん好きな! ウマレスラーって誰ですか~!?」

 

 ――静寂。

いきなり音が消えた。

視線が……痛い!!

 

 一番……一番かぁ……これは……む、難しい……!

乙名氏さんに聞かれたサラブレッドウマ娘の一番と同じくらいの、難問……!!

そりゃあ初代トラマスクは大好きだが、この場で言い切るのもな……現役も他団体も出して……それって一番じゃねえな?

 

『それ、は……ううん……少し、時間を……』

 

 腕を組んで目を閉じる。

……こう答えるしかねえ!!

 

『素晴らしい選手はそれこそ世界中に、無数にいますから……その中で一番、と言われますと……うううん……ぜ、全員……? せめて年代かジャンルで分けて……いや、それでも全員……?』

 

 駄目だ! サラブレッドウマ娘の時と同じだ!!

 

『も、申し訳ありません……!』

 

「いえいえいえ! その葛藤だけでもう……感無量ですよ! ち、ちなみにアタシの試合だとどれが好きですかね~?」

 

 なんかマスク越しの目がキラッキラしてんな。

 

『……2年前の東北統一トーナメント、ナクコネイガー選手との乱打戦からの……ローリングソバットですね! あの蹴りの姿勢、痺れる程綺麗でした!』

 

「かーっ!?!? マジで見てるこのヒト! うわー嬉しい! 超嬉しい~!!」

 

 うわ、なんか後ろ向きにぶっ倒れたぞオイ。

大丈夫かな……?

 

「はい! どんどん行きましょ行きましょ! 次はどなたですかな~?」

 

 エリモねえさんがノリノリだ。

そういえばこのヒト、結婚式だとか忘年会の司会もやってんな……芸人かな?

 

「――私だ」

 

 客席からスッと立ったそのヒトは、そのまま歩いてリング下まで来る。

鍛え上げられた肉体、マスクからのぞく鋭い……まるで虎のような、目!

そのマスクも、まさに虎……!

 

「初代でなくて申し訳ないな、無名選手」

 

 IUPWが誇る空前絶後のスター選手……!

元は人気漫画とのタイアップ企画だったが……今やこちらの方が有名人!

『トラマスク』選手!

このヒトは三代目だが……初代は俺の座右の銘にしている『強いってことは、格好いい』を残したヒトだ!

 

「よっ……と」

 

 一足でロープを蹴り、リング上に降り立ったトラマスク。

……現役選手だから、すげえ身体能力だ。

 

 ……え? なんでここに来るんだ!?

なにこれ、殴り込み……じゃねえな、社長が動いてねえ。

織り込み済み、ってことか?

 

「ふむ、やっぱり近くで見ると格別だな。人間とは思えん鍛えっぷりだ」

 

 立て、みたいなジェスチャー。

ふむ……まあ、いいが。

 

『死ぬ気で鍛えましたからね』

 

「ふふ、そうだな……試合を見たが、一朝一夕でできる傷じゃないからな、アレは」

 

 上半身裸になるほどボロボロにはなってねえが、目がいいねえ……

 

『それで……何を?』

 

「うん、簡単なことだ。私を攻撃してくれ」

 

 ざわわ、とどよめき。

……え、今なんつった?

 

「デモンストレーションだ。U-1で通用した蹴りでも拳でも、体験してみたい」

 

 社長の方を見る……嘘だろ頷いたぞ。

っと、インカムに通信。

 

『スパーではないからな。精々体を壊さん程度にやってやれ、上の許可は取ってある』

 

 トラマスクの目は真剣だ。

さすがは、相手の攻撃を基本的には全て受けきるウマレスラー……

……そうまで御所望なら、やるしかねえな。

 

『では』

 

 マイクを置き、着ていたジャージの上を脱いでタンクトップに。

筋トレしすぎて、ちょっと上着がキツいんだよな……このまま動いたら破れるかもしれんから、念のためにだ。

 

「おほほ……♡」「すんご……♡」「姐さんだけ至近距離はズルっしょ……」「抱かれて~……♡」

 

「(眼福ッス……ウヒヒヒ)」「(先輩、目がヤバいス。獣ス)」

 

 何度か腕を振り、ジャンプして全身をほぐす。

やはり皆レスラー、体を見る視線が真剣……いや、なんかちょっと違うな?

まあいいが。

 

「いつでもいいぞ」

 

『それでは――行きます』

 

 緩く手を広げ、仁王立ちするトラマスクに――踏み込む。

ステップインに合わせて、体重を移動。

同時に、足を、腰を、上半身を、肩を――螺旋の動きで連動させる!

 

『――破ァッ!!』「――っぐ!?」

 

 右掌がトラマスクの鳩尾に食い込み、体内を衝撃が貫通する!

 

 ――討マ流、打ノ型『拍打』!

 

「っふ、く……!」

 

 衝撃は完全に通った。

通ったが……トラマスクは、1メートルくらい後退しただけだ。

姿勢は若干崩れ、苦しそうな息を吐いたが……倒れていない。

なんって体幹とタフネスだ……まるで鉄柱を殴った感触だぜ、オイ。

完全にクリーンヒットの感触だったのに……さすがはトップクラスの、ウマレスラー!

 

『……ウマレスラーは、やはり弱くない。そこらへんの格闘家なら、これ一発で終わりなんですが……感激ですよ、トラマスク選手』

 

「……それはこちらの台詞だ。この、衝撃……『来る』とわかっていたからこの程度で済んでいる……素晴らしい一撃だったよ、無名選手」

 

 少し汗をかいたトラマスクが、歩み寄って手を差し出してくる。

がっしりとその手を握ると、彼女は嬉しそうにはにかんだ。

俺と同年代のはずだが、こういう顔されっともっと下……学生に見えるな。

ウマ娘は得だねえ。 

 

「ふふふ、どうせならこの後のデモンストレーションもやっておこう。そら」

 

『うおッ!?』

 

 握手状態のまま、トラマスクが跳ぶ。

これはタックル……じゃねえ! 

 

「おお……これは素敵だな、いささかのブレもない。心地よく体を預けられる」

 

『それは光栄ですよ、ええ』

 

 いわゆる、お姫様抱っこだ。

タイキみてえなことしやがるな、このヒト。

この後……ハグ会ってのもマジなんかよ。

これハグじゃねえけど。

 

「ちょっとぉ! 姐さんフライングだよ!!」「ずりーぞ姐さん! タンクトップ越しとかエロすぎんだろ!!」「前年度のベルト奪い取っちゃるからな~!!」

 

 何故かブーイングの嵐だ。

いや、この後にやるんだからよくねえか?

 

『――イチロー、上着を着ることを社長命令で禁止する』

 

 ……えぇえ……

デオドランドはしっかりやってるが、大丈夫かな……

 

『(あの、臭くないですか?)』

 

「素敵な匂いだ。我らの更衣室もこの香りの香水を置きたい」

 

 ……流石はスター選手、リップサービスも一流ってか……

 

「さあ! 中断しちゃったけどどんどん続くよ~! もうめんどいから一人ずつ上がって来てインタビューとかハグとかしちゃお! たった今USCからok出ましたし~! あ、さっきまでのヒトは順番後回しになっちゃうけどみーんな堪能させてあげるからね~!!」

 

「「「ウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」

 

 すげえ歓声だ!?

会場が……揺れてる!?

 

 

・・☆・・

 

(トレセン学園・第一会議室)

 

「すごいすごーい! けーびいんさんよりおっきいヒトがいっぱいだね、キングちゃん!」

 

「物凄い体ね……同じウマ娘とは思えないわ!」

 

「マックイーン! すんごいよ! スター選手ばっかりだ! いいないいな~! ヤマダさんいいな~! 帰ってきたらあたしもやってもらおうかな……!」

 

「今更ながら、ヤマダさんは何故あれだけ飛びつかれても平気なんですの……異次元の体幹ですわ」

 

「ウムムム……ずるいデース! 明日はハグを増量しマース!」

 

「わわわ……す、すごい大きい……色々大きい……くすん、おじさま、とっても嬉しそう……」

 

「あー! キューティバニー選手だ! あのヒト綺麗で可愛くって、それに元気で憧れちゃうな~!」

 

「チケットにちょっと似てるね……ふん、鼻の下伸ばしちゃってさ」

 

「どうしたブライアン、何がそんなに気に入らないんだ?」

 

「何でもない……気のせいだ、姉貴」

 

「ウチの1、5倍以上あれへんか、皆……ごっつデカイわ……」

 

「私もあれくらい大きくなれないものだろうか……」

 

 

・・☆・・

 

 

「んじゃ、ラースト! 張り切ってどうぞ~!!」

 

「はいっ! よろしくお願いしまっす!!」

 

 走り込んできたウマ娘が、大きく踏み切る。

これはフライング・ボディプレス……ではなく、まあ、ウララがよくやってるようなモンだ。

 

『――ふんッ!!』「きゃ~!」

 

 飛び込んできたウマ娘……メキシコ仕込みの空中殺法が得意技のレディイーグル選手を抱き留めて――衝撃を逃がしつつ、回転!

スター選手を落とすわけにはいかんからな! 気張るぜ……よいしょぉ!

 

「ふわぁあ……なんて、ガッシリ感! いい匂いする~!!」

 

 後半のそれは錯覚じゃねえの?

まあ、とにかく……このヒトで最後か。

ちょっとだけ名残惜しくもあるな……これ、俺にとってもすんげえご褒美だぞ。

スター選手たちと握手にハグだもんな。

……今更だが大丈夫か? 『反ウマ』はともかく、『ウマ娘至上主義』の連中が見たら……俺への殺害予告がさらに増えそうじゃねえか?

 

「はいはーい、しゅーりょ~! いやぁ~……役得ですねェ、無名選手~?」

 

 なんかフラフラしてるレディイーグル選手を下ろすと、エリモねえさんが寄ってきてニヤニヤ。

 

『大ファンですからね、罰が当たるかもしれません』

 

「おっほ~……ですってよ皆サン! どうですか~?」

 

「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」

 

 声援の圧が、すげえ!

肺活量のバケモンだなあ、レスラーウマ娘は。

 

「(ウチもレスラーになったらハグしてもらえるんッスかね……)」

 

「(落ち着いてください先輩。目がマジで怖いス)」

 

 ふう……なんとかこれで終わりかね?

いやあ……話を聞いた時はどうかと思ったが、終わってみれば楽しい時間だった。

こんなイベントならいつでもお願いしたいね……ふふふ。

 

「無名さん無名さん……ほいほいッ!」

 

『うおお!? な、何ィ!?』

 

 エリモ姉さんが俺の背中を駆け上がって、肩の上でそれはもう見事なY字バランスを披露。

何ちゅうバランス感覚なんだ……急にやるなよ、びっくりすんだろ!!

 

「撮れ高あるよ~! んっふっふ~!」

 

 ……これは、美味しい所を持ってかれた……ってことになんのかね?

 

「さてさて! 撮影終了~! では、これより無名選手のサイン会へと移行しま~す!」

 

「キター!」「綺麗なシャツ持ってきてよかった~!」「アンタ……ちょっと、下着は流石に駄目っしょ?」「撮影ナシならいいじゃんいいじゃん! 勝負下着だよ、真の意味で!」

 

 マジかよ、まだ終わらねえのか……ちょっと待て、なんか今不穏当な単語も聞こえてきたぞ?!

おいおい……俺はいつ帰れるんだ!?

 

 

・・☆・・

 

 

「「「カンパ~イ! お疲れ様でしたァ~!!」」」

 

「お疲れ様でした!」

 

 翔楽園ホールからほど近い場所にある大型焼肉店。

大盛況のサイン会を終えた後、俺は社長によってそこに連行された。

ちなみに店は定休日だが、USCと提携しているので貸し切りになってる。

 

 そこの大宴会場で……IUPWのレスラーウマ娘たちに囲まれているのが現在である。

さすがはウチが提携してる店……でっけえウマ娘が入っても余裕のある店内だ。

店員さんたちも明らかにガタイがいい……元は何らかのスポーツ選手かね?

 

「無名選手、今日は本当にお疲れ様でした、まずはどうぞ」

 

「いえ、俺も楽しかったですよ……おっとと」

 

 トラマスクが酒を注いでくれる……なんて贅沢なお酌なんだ。

彼女も俺もマスク姿だが、食事用に作られた口元の開いたものだ。

変声機能はないが、ここはUSCとIUPWの関係者しかいないから問題ない。

マスク着用選手は他にもいっぱいいるから、向こうも慣れたものだ。

 

「俺からも、御返杯で」

 

「ああ、すまない」

 

 俺のは普通のコップだが、向こうのはジョッキのバケモンだ。

たぶんレスラーウマ娘には肝臓が4つくらいある。

 

「ふぅ……いい男に注いでもらうと美味いな」

 

「いや、それはこっちもですね。感無量ですよ」

 

 いやあ……本当になあ。

これも仕事みてえなもんだが、いいのかね? こんなもん俺に+しかねえぞ?

 

「しかし、見てくれコレを」

 

 トラマスクがシャツを豪快にまくり上げた! ちょっとなにしてんだアンタ!?

 

「こんな痣は中々できたことがない。あの場ではカメラがあったから強がったが、足にもきていたんだ」

 

「……そうですか」

 

 効いてはいたんだな、打撃。

そいつは嬉しいねえ……

 

「なあ、無名さん。とっととU-1を勝って終わらせて、来年はウチのトーナメントに出ないか? もちろん真剣勝負さ」

 

 へえ、そいつは……いいねぇ!

 

「『人間用特別ルール』なんてぇのはナシ、ですよ?」

 

「ふふふ……当たり前だろう! 複数団体を集めて、ドーンとやろうじゃないか! U-1だけが格闘イベントではないからな! はっはっは!」

 

 U-1は、たぶん来年からレギュレーションの変更があるだろう。

俺が出ても、今回のようなフラットな条件じゃねえだろう。

今年だけだと思ってたが……他にも格闘イベントはある。

 

 俺も有名になったから、出るなら対策はきっとされる。

『初見殺し』も、通じなくなる可能性がある。

初戦で負けるかもしれんし、勝ち残るかもしれん。

……それは、きっととても『楽しい』だろうなァ……!!

 

「いやあ、最高だ。酒がもっと美味くなるってなもんですよ」

 

 ぐい、と煽る。

ウイスキーの強い酒精が、喉を下りていく……嗚呼、たまらねえなあ……!

 

「ちょーっと! 無名さん独り占めしないでよ姐さん!」「アタシらもお話したいっすよ~!」「お肉! お肉焼けましたよ~!」

 

 どどど、とウマレスラー達が群がってきた。

熱気がすげえ……肉だけじゃなく、なんかいい匂いがする……!

 

「があああ! パイセンの貞操はウチが守るんッス~! もっと持ってこい! 酒ェ!!」

 

「先輩! それ死んじゃうス!!」

 

 目の錯覚じゃなければ……樽を抱えて飲んでいるライのことを無視しつつ、とりあえず肉を食うことにした。

いやあ、眼福、眼福……!

 

「ホレ無名くん、私にもお酌~!」

 

 エリモねえさんはマイペースだねえ……




【後日談のヒミツ】
・実は、USC、IUPWによる話し合いの結果……刺激が強すぎるので編集によってハグ会部分はカットされた。

・実は、翌日にタイキシャトルとハルウララが飛び掛かってきた。

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