原作設定ガン無視ですので、気を悪くしないようにしてください。
あとやり尽くされたネタだったらごめんさい。
pixivにも同じ文章が投稿されています。AIで生成したイメージ絵も。
日が傾きはじめた午後。
リビングの窓から差し込むオレンジ色の陽射しが、アリス・マーガトロイドの読んでいた魔導書を照らしていた。
「……ふぅ」
一息ついたアリスが、木製の椅子にもたれ掛かると、ギィと擦れる音が鳴る。
メガネを外し、テーブルの上に置く。そしてティーカップに入っていた紅茶を飲み干した。
喉は潤ったが、紅茶はいつの間にか冷め切っていて、美味しくはなかった。
魔導書の解読も行き詰まったし、良いこと無しだ。アリスは不満そうに、ティーカップの底を見つめた。
そして気分転換に改めて紅茶を淹れ直そうと、ティーポットを持って立ち上がった、その時だった。
突然バンッと、乱暴に玄関の扉が開けられた。それと同時に女の子の声がした。
「よう、来たぜ。アリス」
アリスが驚いて、扉の方に目を向けると、霧雨魔理沙が悪びれる様子もなく入ってきた。
左手に持っていた箒を手放すと、玄関の傍にふわりと立てかけた。
魔理沙は躊躇う様子もなくリビングに侵入して、椅子に座った。
それから被っていた黒色のとんがり帽子を脱ぐ。その拍子に魔理沙のしなやかな金髪があらわになり、ふわりとなびいた。
「いやあ、今日も疲れたぜ」
「え? 今日は何の約束していないでしょ?」
状況を飲み込めずに呆けていたアリスが、ようやく口を開く。
しかし魔理沙は飄々とした様子で応える。
「アリスの家だったら、いつ来てもいいだろ?」
「あのねぇ……。私にも予定があるのよ。それに今はそれぞれ自分のお家があるんだから」
「近くだったから、寄ったんだよ。顔を見たかったしな」
「こないだも来たばかりじゃない」
「別にいいだろ?」
「……だ、駄目とは言ってないけど」
アリスは何も言い返せずに、口籠る。
「それより喉が渇いたから私の分も淹れてくれよ」
魔理沙はアリスが手に持っていたティーポットを見て、注文をする。
「……まぁ、いいわ」
アリスは口を尖らせながら、しぶしぶティーポットを持ってキッチンへと向かう。
それから湯を沸かし、ティーポットをもうひとつ取り出して、2人分の紅茶を淹れる。
リビングに戻ってくると、魔理沙はまるで自分の家かのように、椅子の上で姿勢を崩してリラックスしていた。
「ちゃんと座りなさいって、いつも言ってるでしょ」
「しょうがないだろ。疲れてるんだよ」
「あぁ、そう。それで、今日はいったいどこで行ってきたの?」
アリスは呆れてため息をつきながら、対面の席に座った。
「森で食糧と魔法研究の材料を調達。一日中、走り回って大変だったぜ」
「だからまたこんなに汚れているのね」
アリスはじろりと目を細め、魔理沙を睨んだ。しかし魔理沙は気にする様子もなく手で頭を掻いて、照れ臭そうに笑った。
「悪い悪い。ちょっと、森の中で遊びすぎちゃって。たぶん木の枝に引っかかったな」
アリスは苦笑いを浮かべて、小さくため息を吐くと、魔理沙の脇に置かれていた帽子に手を伸ばした。
それから引き出しからソーイングセットを取り出して、黙々と魔理沙の帽子のほつれを直し始めた。
「まったく……」
「ありがとう、アリス。本当に助かるぜ」
魔理沙は悠々とした態度で、湯気が立ち込める紅茶に口をつけた。
帽子には白色のリボンが付いているのだが、ほとんど取れかかっている。生地が破れているところもあり、直すのは骨が折れそうだった。
アリスは口をつぐみながら、手を動かしていく。
「そうだ、今日も森でめっちゃ良い場所を見つけたんだ!」
魔理沙が突然、思い出したかのように口を開いた。
「森の奥深くまでいったところに洞窟ががあって、中に入ると見たこともない草とか花が咲いてたんだよ。多分あれは魔法の調合に使えるぜ。今度はアリスも一緒に行こう!」
「それは素敵ね。でも、もう少し大人しくしててくれないと、またほつれちゃうわよ」
アリスは落ち着いた口調で、子どもをなだめるかのように言う。
その間も、修理の手が止まることはない。
「そうだな。でも、じっとしてるのは退屈なんだよ」
魔理沙は不貞腐れながら、窓の外を見つめた。
外はすっかり夜の帳が下りていて、自分の顔が反射して映った。
魔理沙は肩の部分にある大きな傷に気付いて、慌てて服で覆い隠す。
アリスの方をチラリとみたが、その動きには気づいていないようだった。
それから魔理沙は取り繕うかのように話を続ける。
「アリスはずっと家で引きこもっていて、退屈じゃないのか?」
「私は魔導書を調べながらのんびりと研究ができれば、それでいいの」
それからアリスは最後の一針を通し、魔理沙の帽子のほつれを完璧に修復した。
よく観察しても、もともとほつれていた場所がどこだかは分からなくなっていた。
「はい、これでまた元通り。気をつけてね」
魔理沙は椅子の上でぴょんと跳ねて、元気よく言った。
「ありがとう、アリス。今度は気をつけるから!」
「ちょっと待ちなさい」
アリスはピシャリと言い放つ。その声は鞭のように、しなやかでありながらも痛打されたような威圧感があった。
魔理沙は慌てて動きを止める。
「次はあなたの番よ」
そう言って、アリスは魔理沙の背後に周り、肩に手を置いた。
アリスが魔理沙の服の肩の部分をめくると、傷付いた皮膚が露わになった。
やはりアリスにはバレていたのか、と魔理沙は決まりの悪そうな顔をする。
そしてアリスは細い針を手に取り、柔らかい生成り色の糸を通した。まずは魔理沙の肩の傷つきほつれた部分に集中する。針先を慎重にほつれた糸の端に通し、一針一針、丁寧に縫い合わせていく。ほつれた部分がしっかりと結びつくように仕上げた。
「ここは少し難しいわね。」
アリスは魔理沙の背中のほつれた部分を見つめながら呟いた。彼女は引き出しから補修布を取り出し、それを小瓶に入った「妖精のエキス」に軽く浸した。
「痛くないようにしてるからね、魔理沙」
アリスはそう言いながら、背中のほつれに合わせて、補修布を慎重に織り込んでいった。エキスに浸して使うことで、元の生地と同じような肌質が再現され、魔理沙の背中はまるで新品のように修復された。
「この傷、枝に引っ掛けただけじゃないでしょう?」
アリスは優しく声をかける。後ろを振り返らなくても、笑顔なのが分かった。
「私を驚かせないように、隠したんでしょ?」
すると魔理沙は観念してうなだれて、白状する。
「……うん。最近、人里で暴れている妖怪がいたから、退治してきたんだ」
「偉いわね。誰かの為に異変解決することも、冒険もいいことよ」
アリスはしおらしくなって、言葉をゆっくりと紡ぐ。
「外の世界は楽しい?」
「あぁ」
魔理沙はぽつりと呟く。
「良かったわ。私が貴方を創ったとき、まさかこんなに良くできた子になるとは思いもしなかったわ。努力家で真面目で、優しい自慢の子よ」
アリスは、魔理沙の頭を優しく撫でる。
「……だからあまり心配させないでね。貴方が壊れた姿を見るのは、とても辛いから」
「……わかったよ」
魔理沙の返事を聞き、アリスはふんわりと暖かい微笑みを浮かべた。
そしてアリスは気を取り直し、最後の仕上げに取りかかった。
ゆっくりと演唱をしながら、手のひらを魔理沙の身体にかざす。そこから柔らかな光を放ち、魔理沙全体にその光を包み込まれた。光は魔理沙の体を温かく包み込み、完全に修復が終わり、命が吹き込まれる。
「さあ、これでおしまいよ」
「ありがとう、アリス!」
魔理沙は今度こそ、元気溌剌に椅子から飛び上がった。
それはまるで、よし!と許可された子犬のようだった。
「また森に行くのが楽しみだぜ」
魔理沙はすぐさま玄関まで走って行き、立てかけていた箒を手に飛び出して行った。そして扉を開けると、箒にまたがり、空高く飛んでいってしまった。
あまりの変わり身の早さに、アリスは大きくため息をついた。
それでもどんどんと小さくなっていくその後ろ姿を見送りながら、心の中で願った。
どうか、無事に帰ってきてね。
暗闇に消えるまで、アリスはリビングの窓から魔理沙の姿を見守り続けた。