ちょっと厨二な赤いずきんの少女は、お母さんに頼まれておばあさんのお見舞いに向かうが……?

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ちょっと厨二な赤ずきんちゃん

 

「ちっ、どうして私がこんなことを」

 

 鬱蒼とした森の中を一人の少女が歩いていた。

 頭には母から贈られた赤いビロードをかぶり、手にはワインとケーキの入った木籠。

 心底億劫そうに毒づきながら、少女はつい先ほどの出来事を回想する。

 

※※※

 

「ねえ、赤ずきん? おばあさんが病「──赤ずきんだと?」」

 

 少女は母親の話を遮るように言葉を発した。

 母親は少しイラっときたものの、構わずに話を続けようとする。

 

「おばあ「私が赤ずきんだと? 否っ! 私こそは血で穢れた赤き衣を身に纏うもの。死を嗤い生を貪るあるゆる生命の終端。残虐にして醜悪な妖精の名を冠する取り換え子。我が名こそはそう──レッドキャップだ」……」

 

 名乗りを上げた少女は可愛らしい顔を片手で覆い、鋭そうな眼光で自分の母に視線を向けた。

 母親は二度に渡って話を遮られてイライラするも、忍耐強く我慢して改めて話を切り出した。今度は遮られなかった。

 

「レッドキャップ? おばあさんが病気になったみたいだから、お見舞いに行ってくれる?」

「はっ、なぜ私がそんな面倒なことをしなければならない?」

「…………」

 

 母親は少しキレた。

 

「……あら、一人じゃ行けなかったかしら。そういえば一人で行くのは初めてだものね? それなら仕方ないわね?」

「なんだと? この私が一人でお遣いもできないと、そう言いたいのか?」

「全くもってその通りだけど、違うのかしら?」

「ふんっ、いいだろうっ。死に掛けの老婆には勿体ない逸品をくれてやろうではないか」

「別に死に掛けではないけど。まあ、はい、これおばあさんによろしく。くれぐれも寄り道はしないようにね?」

 

 そうして煽られた勢いでついお見舞いを引き受けた少女は、母親に見送られながら家を後にしたのだった。

 

※※※

 

「洋菓子はともかく、なぜ病気の老婆に葡萄酒を持っていくのだ? まさか──遠回しに殺そうとしてるのか?」

 

 母親の恐ろしき陰謀に気づき戦慄しながら道を進んでいると、一匹の狼が話しかけてきた。

 

「やあ、赤ずきんちゃん。何をしてるんだい?」

「我が名はレッドキャップだっ! 間違えるなっ!」

「ご、ごめんよ、レッドキャップ。それでどこに行こうとしているの?」

「ふんっ、この先にいる病に侵された老婆に、葡萄酒と洋菓子をくれてやるのだ。分かったらさっさと失せろ、このケダモノめっ!」

「(ここで食ってやろうか)」

「……何か言ったか?」

「いやっ、なんでもないよっ!」

 

 こちらが下手に出ていればいい気になりやがって。

 あまりに不遜な少女の物言いに狼はイラっとしたが、これも御馳走にありつくためだと思い、ぐっと堪える。

 大して身のないおばあさんを先に食べて、その後にメインデッシュとしてこの少女を食べてやるのだ。

 狼はそう企んで、少女がおばあさんの家に行くのを遅らせようと話を続ける。

 

「ええと、レッドキャップ? 折角のお出かけなんだから、そんなにつまらなそうな顔しないで、楽しんで行ったらどうだい? ほら、見てみなよ! 花が咲いていて綺麗だろう?」

「血と狂気こそが私の愉悦。花など下らないな」

「な、なら、少し摘んでおばあさんにプレゼントしてみるのはどうかな? きっと喜んでくれるよ!」

「くどいな、興味がないといってるだろう。……貴様、何か怪しいな? まさか深暗闇の──」

 

 狼の言葉に少女は一切関心を示さず。それどころか少女が狼に謂れも実在もしない冤罪を掛けようとしていた、そんなときだった。

 

 両者の間にさっと風が吹き通り、木々がざわざわと揺れる。

 狼からするとただの風としかいいようがないものだったが、少女にとっては違うらしい。

 

「──不穏な風だな。ふ、命拾いしたな狼よ。私は少し向かうところができたようだ」

「は?」

 

 とうとう奴らが現れたか。いいだろう、この私が相手になってやる。

 少女は楽しそうに独り言を呟きながら、道を外れて森のどこかへと去っていった。

 

「な、なんだったんだ、一体」

 

 しばらく狼は茫然と立ち尽くしていたが、気を取り直して道の先にあるおばあさんの家へと向かった。

 

※※※

 

「あら、どちら様かしら?」

「私はあか──」

 

 こんこんと扉を叩くと、おばあさんの声がした。

 狼は赤ずきんと名乗ろうとして、先ほどの少女のことが脳裏によぎった。

 あの少女が祖母相手にも遜った物言いをするだろうか。

 

「わ、私はレッドキャップだ! 葡萄酒と洋菓子を持ってきたぞ、老婆よ!」

「まあ、レッドキャップちゃん?」

 

 咄嗟に機転を利かせ、狼は声を張り上げてレッドキャップに成りすました。

 なんともいえない羞恥心を感じながらも、これで老婆も騙せたと狼が一安心していると。

 

「お見舞いに来てくれたの? 嬉しいわ。なら──盟約の証を此処に示すがいい」

「は?」

 

 戸惑う狼に、更に言葉が続けられる。

 

「盟約の証を此処に示せと言ったのだ、レッドキャップ。忌まわしき妖精の名を冠する邪悪なるものよ。汝が真に赤き衣を纏うものであれば、この扉の戒めを解くための言葉を知っているはずだ」

 

 何言ってんだ、コイツ。

 そう口に出しそうに堪え、狼はしどろもどろに取り繕う。

 

「す、すまないな、老婆よ。あ、証は忘れてしまったのだ。だが、私こそは確かにレッドキャップだ。扉を開けてはくれないか?」

「証を持っていないのか? ──ならば、失せろ。資格なき者はこの扉を開けるに能わず。もし入りたくば我が血を最も深く受け継ぐ者を連れてくることだ」

「ま、待てっ老婆よっ!」

「…………」

「洋菓子と葡萄酒があるんだ!早く食べないと腐ってしまう!だから、扉を開けてくれ!」

「…………」

 

 それから狼は言い訳を繰り返し、あまつさえ泣き真似さえしたが、ついに返事が返ってくることなかった。

 扉越しにも絶対に開けないという鉄の意思を感じた。

 

 狼はキレた。

 

「クソがっ、ガキもババアも舐めやがって! 俺は狼だぞっ、こんな扉ぶっ壊してやるっ!」

「――ふっ、ようやく正体を表したようだな。邪知と姦計を巡らせる狡知の獣、生き血に飢えた貪欲にして暴食の主よ」

 

 溜め込んだ不満を晴らすように扉を壊そうとしていた狼は、不意に掛けられる声にかばりと背後を振り返った。

 そこには赤いずきんを被った少女の姿があった。

 

「なっ、なんでお前がここに!」

「それを貴様に語る必要があるか?」

 

 元より少女の目的地がここであったことを失念している狼は動揺した。が、所詮は少女一人が増えただけ。不遜な様子に少し慌てたものの少女を先に食べて、後で老婆を食べれば何の問題もない。

 

「御馳走は後に取って置きたかったが、いいさっ、お前から先に喰ってやる!」

「はっ、このレッドキャップに挑もうなどと愚かな。貴様には裁きの一撃をくれてやるとしよう」

「ずっと何言ってんのか分かんねえよっ!」

 

 狼は両手を地について四足で少女の元へと疾駆した。

 それに対して少女は腕を組んだまま、泰然とした仁王立ちで待ち受ける。

 

(バカがっ!)

 

 狼は内心で嘲笑った。

 どれだけ格好をつけようが、非力な少女であるという事実は変わらない。力の差は歴然で、すぐに勝負は決する。

 そして、心の底からそれを疑わない狼が少女まであと三歩の距離に迫ったときだった。

 

「あ?」

 

 ずどんと轟音が耳に届いて、その直後視界がぐらりと揺れた。

 不意の衝撃に狼は身体を支えることもできずに、地面へと崩れ落ちる。

 

 撃たれたのか。微かに感じる硝煙の匂いに気づいたときには、既に立ち上がることもできそうになかった。

 

「ふん、安心しろ、峰撃ちだ」

 

 ──銃に峰打ちとかねえよ。

 少女の言葉へのツッコミを最期に、狼の意識は途絶した。

 

※※※

 

「貴様の敗因は一つ、このレッドキャップをただの美少女村娘と侮ったことだ」

 

 狼が気絶したことに気づかず、手を前に突き出して決め台詞を放っている少女に、一人の男が近づいていく。

 

「はあ、嬢ちゃん。びっくりさせないでくれ」

「ふんっ。こうする方が確実だっただろう。それにしても流石の腕だな、魔弾の射手よ。まさか本当にやってくれるとは思わなかったぞ!」

 

 いつもの偉そうな口調は変わらないものの、少女はきらきらと尊敬の眼差しをしていて、魔弾の射手と呼ばれた猟師は諦めたように溜め息をついた。

 

 猟師がここにいるのは、森の中で迷子になって涙目だった少女を送り届けていたからである。

 そして、いざ来てみれば今にも扉を壊そうとする狼がいたので、少女が囮になって時間を稼ぎ、移動した猟師が銃で撃ち抜いたというのがことの次第であった。

 

 ――実際は撃ち抜いたといっても、少女からの要望により命を奪わないようにしたので、顎を掠める軌道に横から銃弾を放つことで脳を揺らして気絶させたというのが正しい表現であるが。

 少女が狼に告げた峰撃ちというのも、あながち間違いではなかった。

 

「それより殺さなくて良かったのか? また狼が来ても助けられるかは分からんぞ」

「はっ、その時は私自ら落とし前をつけてやるさ。ああそうだ、仕事の礼に茶でも振る舞おうではないか。老婆の入れる茶はそれなりに美味いぞ」

「……いや、婆さんに入れさせるのかよ。いや、まあ喉渇いたしもらうけどさ」

 

 二人は軽口を交わしながら、のっそりと倒れ伏す狼を放置して戸の前へと歩いていった。

 

「おい、老婆、扉を開けろっ! レッドキャップが来たぞっ!」

「──盟約の証を此処に示せ」

「ふ、このレッドキャップに証を求めるか。まあ、いいだろう。──『人は徒に死に、妖精は悪戯に生きる(トリック オア トリート)』──この言葉こそが盟約の証だ」

「……毎回こんなことやってんのか?」

「そうだが? ……どうした老婆、証は示したぞ、さっさと扉を開けるがよい」

「──其れは証にあらず」

「は? いや、『人は徒に死に、妖精は悪戯に生きる(トリック オア トリート)』、これでいいはずだ。耄碌したか、老婆よ? さあ、扉を開けろ!」

「──資格なき者はこの扉を開けるに能わず」

「ち、おいっ開けろっ老婆っ!この耄碌婆っ!」

「…………」

「本当に開けない気かっ? いいだろうっ、我が声も分からぬ痴れ者には裁きの一撃をくれてやろうっ! さあっ撃てっ、魔弾の射手よ!」

「……やれやれだぜ」

 

 ぎゃーぎゃーと喚く少女を眺めつつ、今日も平和だなーと猟師は思った。

 


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