もしもなるたる古賀のりおが地獄みたいに強かったら 作:サーマート・ジュウバンガイムエタイジム
原作:なるたる
タグ:R-15 ボーイズラブ 残酷な描写 アンチ・ヘイト 鬱フラグクラッシャー 孤独 ハードボイルド 戦闘狂 バトル 原作死亡キャラ生存 市街地戦 バイオレンスアクション 孤軍奮闘 苦戦
鶴丸への報復を企てた豚食いたち。しかし彼らの前に現れたのは竜の子に駐屯地からパクらせた火器で武装したムキムキ地獄の修羅魔神だ!
鶴丸のケツ拭きをやらされてブチ切れるのりおは豚喰いをどのくらいのサイズで解体してしまうのか!?
戦闘狂古賀のりおと拷問愛好家豚食いとの死闘が始まる。
【注意事項】
・骸なる星 珠たる子(なるたる)の二次創作です。
・本作の古賀のりおは80kg級立ち技格闘家みたいな体格をしており、性格が原作とだいぶかけはなれています。
・のりおの強さに比例して豚食いが生物的に強くなっています。
・原作で死亡したキャラが生存しています。
・この作品に登場する人物、団体、出来事は全てフィクションです。
古賀のりおは静かに激怒していた。
核攻撃を企んでいた須藤への怒りでは無かった。
自分だけを頼りにしているといいながらシイナを優先する鶴丸丈夫へ…否、そんな彼への恋心を抱き、彼の命を狙うヤカラの相手を引き受けた自分へなのか。
自嘲を含んだ薄い笑いが答え合わせだった。
のりおは大量の小麦粉と廃材、そして床に敷きつめられた畳に刺さった無数の刀剣達の中心で、座禅を組み来るべき反社会的勢力立ちをまちかまえていた。
反社会的勢力が鶴丸の家へ襲撃に来るのは彼のお節介のせいだった。彼は生業のためにヤクザを懲らしめ、シノギを台無しにしたのだ。
のりおだけが今日ヤクザが家に来ることを察知していた。歴戦で手に入れたESP能力が女の声でのりおに危機を知らせてくるのだ。
鶴丸が子供を産めない自分に興味を持たないことを知り、鶴丸への叶わぬ恋を諦めた頃、のりおは地獄のように体を鍛えた。国内で禁止されているステロイドや興奮剤も竜の子に奪わせ、整形外科の医者を脅し非認可の違法骨延長手術で身長を伸ばすだけでなく骨格すらも作り直した。
何も考えられなくなるくらい体を鍛錬し過去を忘れようとしたのだ。
その結果、古賀のりおはネグロイド系に近い細くしなやかで尚且つ瞬発力とパワーに優れた地獄の肉体を手に入れたのだ。
野生動物のような闘争心も目覚めた。
のりおは気がむくと街に出て血気盛んなヤンチャな若者を集めて夜通し砂利駐でドツキあってボコボコになって帰る日々を送っていた。ただ鍛錬するだけでは彼のフラストレーションは抑えきれなかったのだ。いつしか喧嘩慣れし、痛みも気にしなくなった彼は動物相手にも喧嘩を売るようになった。無論素手や刃物で勝てるはずもなく、またしても竜の子に奪わせた電気銛や銃を背負って単身海を渡り北極でシロクマやシャチ、南米でアリゲーターガー、ピラルクー、ケニアで人の味を覚えた人喰いチンパンジーやトロフィー・ハンターへ恨みを晴らすべく人里を襲う悲しみのアフリカゾウと戦い歩いた。
東南アジアでイリエワニを求めフィリピンに渡航しようと上海から東シナ海をクロールで渡航しようとした矢先、悪天候が彼を襲った。台風だ。猛烈な豪雨と突風が穏やかな海をのりおを引きずり込む三途の川にしてしまった。高波に飲まれさらわれたのりおは海の藻屑になるはずだった──恋に敗れた人魚は泡になってしまうから…
しかし大海原は、のりおを産んだ水の星は彼をおセンチな人魚姫にはしてくれなかった。少年に冥府魔道を生きる宿命を与えたのだ。
途切れゆく意識の中、古賀のりおへ何者かが語りかけた。
──古賀のりおよ。私と戦え
少年から闘気が溢れ出した。凄まじい力が生じて波にも負けず水中を泳ぎ続けた。どす黒い嵐の海の渦潮が闘気で赤く腫れ上がり、塩を打ち上げて地球にとっては非常に矮小な、されど放つ闘気は天の川銀河のように輝かしい男体を呼び声の待つ場所へ届けた。
のりおが目を覚ました時、彼は南西諸島の砂浜に打ち上げられていた。西表島だ。南寄りの潮風が少年の頬に触れて起きなさいと彼に優しく語り掛けた。
浜辺に落ちている丸太を杖代わりにのりおは立ち上がった。
目の前にいる奴に驚き、すぐに納得し、自分を現世に呼び戻した好敵手へ微笑んで礼を示した。
待ち構えていた声の主は黒潮に乗って極東に出向いた10mを越すイリエワニだった。
古賀のりおはテレパスに覚醒したのだ。
激しい耳鳴りがする。外から聞きなれぬ車の停車音と無数の足音が聞こえる。
のりおは依然として畳で座禅している。目は開いているのか分からぬくらい細い隙間を残し閉ざされている。
玄関のドアが空いた。毛破られた、と言った方が正しいか。壊されたドアはボコと音を立てながら落ちて床を滑った。
黒服を来た連中が続々と入ってきた。先頭の男はドスを腰にぶら下げている。着色したオールバックの男だ。男が刀身を抜いたところにでっぷりと太った巨漢の中年がやってきた。ふてぶてしい態度からして地位の高い男だろう。
先鋭の男がドスをのりおの側頭部へ振り下ろした。のりおの左耳が狙いだ。この攻撃で痛みを与え、脅して鶴丸の居場所を聞き出すつもりだろう。
しかし、ドスは若人の肉を跳ねる前に静止した。それどころか手首が前腕から離れ柄ごと上空に打ち上げられた。オールバックの男はけたたましい悲鳴を上げながら蛇口のように血を吐き出す手首の断面を抑えている。
逆さ剣山になった畳から刀が一本消えていた。
男の懐には禅を組んでいた少年が、下段から打ち抜いたであろう太刀から血の糸を虚空に引かせ、残心して中段へ構え直していた。
誰も抜刀の瞬間を、少年が立ち上がる瞬間を見きれなかった。もっとも間近にいた痛みに震える男もだ。その様子を見ていた太った男が口が耳まで避けるくらいにニマリと笑った。
仲間の敵討ちにドスを抜いて駆け出す組員たちを太った男が静止した。
「やめろ、やめろ。刀剣では勝ち目は無い。無駄死にぞ。それにしても〝座禅陣〟とは…お若いのに見事、見事!」
●座禅陣
島津家が関ヶ原の戦いで敗走する島津義弘を本国まで送り届けるために使用した戦術。殿を務める兵士が本体から離れて敵を待ち構え、鉄砲や槍で力尽きるまで戦い続ける捨てみの戦法。捨て奸とも呼ばれる。
大袈裟に拍手して感嘆する男の目は笑っていなかった。砂漠のガラガラヘビのような鋭い瞳が、けだものの眼光が細くなった目尻から隠れきれていない。
野郎…横浜中華街のブタマンみてぇなナリしやがって!手練だな、畜生め!
冷や汗を浮かべるのりおが静かに舌打ちした。
「本題に入ろう。我々はとあるふざけたヤローを探してるところだ。その男はな…俺たちの仕事をめちゃくちゃにしたのだ」
肉で膨らんだこめかみからビクつく青筋がみえた。怒る男にのりおが問い返した。
「鶴丸丈夫のことか?居場所なら教えよう」
意外そうな顔で太った男が
「そう簡単に仲間を売っていいのか?」
「構わないさ。奴の撒いた種だ。僕は知らんよ」
のりおはつらつらと鶴丸の居場所や彼が戦闘中であることなどを教えてしまった。鶴丸への当てつけなのかもしれない。
何やら話し合いを初めた黒服達は太った男と何人かの組員を残して鶴丸宅を後にした。
「どうしたんだ?全員で行けばよかろうが」
「鶴丸という男より興味を惹かれるものがある。恋煩いするくらいにな」
巨漢から殺気が出た。懐に手をやって鋭く輝く鉄片を取り出した。短刀だ。男に握られて殺気に取り憑かれたせいか刃渡りが実物以上に伸びて見える幻覚が発生した。
「貴様の強さだ。どのくらいの実力の持ち主か試したい。そこで手合わせ願いたい。よろしいか?」
のりおはすかさず応じて、
「承知!」
感極まり興奮した男は腰だめして突進してくる。
のりおは斬馬刀を中段に構え打突へのカウンターを狙う!
「ハジキかっ…ドスかっ!?」
「〝豚食い〟の恐ろしさ思い知れ!!」
「なにっ!?」
豚食い。男の名を聞いた刹那、古賀のりおの表情が陰った。瞳にどす黒い怨念が宿った。五体から流れる鬼気が柄から鍔へ、鍔から刀身へ。遂には切っ先に…。刃渡り1mを越す大太刀は小僧の鬼火を受け入れて、魔剣へと叩き治される!
豚食いには目前の血糊を浴びた白い刀身が青白く輝いて見えた。
のりおが呪詛の咆哮をあげた。
「殺してやるぞ!」
豚食いがのりおを制空権に捉えた。踏み込んで胴に一閃!切っ先が少年の蜜蝋のように青白く輝く腹筋に打ち付けられる。
次の瞬間、的である腹部がそれた。回転だ。のりおは刃先が肌に突き当たるすんでのタイミングで渦を巻き神速の速さでスピン!目標を逃した豚食いの得物はのりおの遠心力を受けたかまいたちの如く鋭い一の字を描く閃きに屈して刀身を折られてしまった。
豚食いの握り手もただ事でなかった。つむじ風に煽られた枯れ枝のように右手がひん曲がってしまっているのだ。小指と薬指は手の甲の方へ160°も曲がってしまっている。
苦悶にふるえ四つ這いになった豚食いの頭を踏みつぶし、踏み台にし、殺到する手下たちをコンテナの上に飛び乗って睨みをきかせる。のりおには侵入者たちには見えない印がフロアの至る所で見えていた。その印に彼らが足を踏み入れそうになった瞬間、のりおは斬馬刀で虚空を切った。刀の通り過ぎてすぐ何も無いはずの空間が天井に向けてキラキラ輝き始めた。
上からぎぃと不気味な音がなり、黒服たちが仰いだころにはもう遅い…赤褐色の物体が天井からいくつもいくつも積み重なって落下音を響かせて彼らに向かって降り注いだ!
のりおは集団戦を想定して鶴丸宅の天井を改造しピアノ線と産業廃棄物を利用した罠を仕掛けていたのだ。
悲鳴と骨が砕けるいやらしい音が小麦粉の白い煙の向こうから聞こえてくる。噎せながら助けを呼ぶ声もだ。
のりおは酷く冷酷だった。
仲間を呼ぶ弱々しい組員の声は獲物を狙う狩人は逃さない。視界が朧げなうちに勘で敵の首を探り当てぼんのくぼを貫いた。魔の手にかかった組員は一瞬おぞましい悲鳴を上げてすぐに絶命した。
1人、また1人と悲鳴は続いた。鉄を踏む甲高い足音がして立ち止まったと思えば苦痛の叫びになり、すぐに金属を踏む音が聞こえてまた悲鳴が…。廃材に足を取られた組員達には自分の死が時計の針の様にじわじわとされども確実に迫っていると感じているはずだ。
拷問のような処刑法。
のりおよ、どうしてそこまで残酷になれる…
しかし組員たちも黙っていない。廃材から死にものぐるいで脱出したもの達が小麦粉の煙の対流を見極めてのりおの位置を掴んで発砲。マズルフラッシュがぼやけたしかいに輝いた。
のりおはそこらじゅうを転げ周り、落下物や屍を盾にして隠れ、鉄パイプ等を投げつけて応戦。光る銃口を頼りにいとも容易く敵の位置を掴んで撲殺する。
組員たちも銃弾の節約のため投擲攻撃を開始した。
そうして飛び道具同士の撃ち合いが始まるはずだった。
古賀のりおが正面から戦うはずがないのだ。
のりおは鹵獲した短機関銃の銃底で窓ガラスを粉砕し屋外へ脱出。さらに室内の蛍光灯や照明へ照準をしぼり弾丸を放つ。命中と同時に電子機器はスパークし発火。そして銃撃戦でさんざん部屋にばらまかれた小麦粉、金属粉塵に引火、しかるべくして爆裂!粉塵爆発である。
引き起こされた衝撃波は襲撃者達を鶴丸の家ごと木っ端微塵の粉々に破壊されてしまった。廃墟から立ち上る炎に照らされたのりおの頬が艶やかに輝いた。
勝利の喜び故に綻びが産まれた美しい横顔に鮮血の文字が引かれた。
のりおの体が砂利道へ吹き飛ばされる。
弾道だ。向こうで止まるワゴン車から何者かが射撃を試みているのだ。ワゴン車はこちらを伺ってからしばらくして逃げるように走り去った。のりおは野生の勘で豚食いがあの乗用車で逃走したと察した。なるほど、どうりで近辺に組員たちが足にしたであろう車がなかったわけである。6.0以上の視力でナンバープレートを覚えたのりおはガレージに隠してあったアパッチ戦闘ヘリ──横須賀基地で鹵獲──に乗り込み離陸。崩れゆく我が家を一瞥すると豚食いを載せた乗用車のテールランプを目つけして猛スピードでつけ回す。
ワゴン車の一団は藤沢市*1から国道467号線を南下。窓ガラスから除く顔は上空のヘリに焦る素振りをみせ、短機関銃を対空砲代わりに発砲してきた。
アパッチ戦闘ヘリはその様子を見て急浮上。回避行動をとるヘリ底部に弾幕が命中するも航行には影響せず、上空からバルカン砲を照射。ルーフ、更には車内の人体を貫いた弾丸の雨あられがエンジンを破壊。最後尾の車体は火だるまになり横転し区画線を枕にして爆発した。
砲塔は次なる獲物を狙おうとする。しかし騒ぎを聞き付けて歩道に人々が集まってきてしまった。
これではむやみやたらにバルカン砲は使えない。流れ弾が民間人に命中する。ヘルファイアミサイルなんてもってのほかだ。それに車の進行方向には観光地の江ノ島がある。人口密集地だ。ドンパチやった時には相模湾が血の池地獄になる。つまり奴らの足を止めなければならない。
境川に近づいた頃だった。突如後続を走る3台の車と追随するバイクが橋を超えたあたりで停車した。ありんこみたいにゾロゾロと車内から組員たちがでて大きな包みを4人係で下ろしている。
のりおは身震いした。
ESPが発動している!
命の危険が迫った時発生する危険信号がのりおの脳に逃げろと伝えている。停車した組員たちがのりおの命を危険に晒す兵器を隠し持っていると脳から脊髄を通じて全身の末梢神経全てに知らせてくる。鼓動が早くなる。188cm81kgの細身の肉体に肌が泡立って見えるくらいの鳥肌が浮き出ている。
しかしのりおは退かない。どうしても確かめなくてはならぬことがあった。のりおの憂慮が正しければ敵の車に子供が乗っているはずだった。それを確かめるためにも奴らが車を停めてくれたのは好都合だった。
車を標準から外し、ローターから発生する強風に右往左往する組員たちにバルカン砲を打ちまくった。文字通り蜂の巣が出来上がった。作業をしていた組員たちは数を減らし、残るは河原へ避難した2人だけだ。坊主頭が枯れ草の境目から見える。
とどめを刺すべくヘリで接近を試みたその時──
突如、炎上する大地の上に立ち上がった血まみれの組員が腕周りの2倍くらいある筒を担ぎ持ち手のレバーを引いた。筒の後部から炎を吐き出し、正面から射出された飛翔体はアパッチヘリに引き寄せられるように直進。少年が気づいた頃には回避する時間は残っていなかった。
地対空ミサイルがのりおのいる操縦席へ直撃した。
火球は弧のなかに全長約18mの機体をすっかり飲み込んでしまいバラバラの焦げた鉄くずだけを川に落としてしまった。燃える残骸の中でただ1つ蠢くものがあった。
弾頭が破裂する直前に脱出し炎を浴び損ねた古賀のりおだった。全身に幾ばくかの火傷と落下による打撲痕があったが五体満足で生き残っていた。ケロイドの出来た肌を河川の水で冷やし、怒りで奇声を発しながら這い上がった。
「しゃらくせぇ真似を!豚食いめ、座禅陣を仕返しおったな!!」
生き残った組員たちがのりおを待ち構えて短機関銃を握っていた。銃口がのりおの方向につながっている。トリガーはいつでも引ける。いつでも手負いのガキの命を奪えるはずだ。
それなのに組員たちはのりおを打てなかった。互いの距離は10mもないのに脳天を弾けなかった。
のりおの殺気があるはずのない質量を堪えて組員たちの体に巻き付き、枷になって行動を制限したのだ。
のりおは唯一手元に残った素槍を握って敵へ向かって走り出した。手のひらが擦れて痛かった。水を含んだ衣服が、川の流れがのりおの足に取り付いた。目眩もする。満身創痍だった。
それでものりおは殺意だけを頼りに打突を開始した。のりおが槍を振り上げたと同時に組員たちは金縛りが解けたように動きだしトリガーを引いた。指より早く、のりおは2.7mもある長柄を打ち下ろした。槍が直撃して組員の脳天が陥没し、彼岸花のように上から裂けて広がりながら血を吹き出した。
2人目の射撃はのりおの顔面と胸に直撃した。しかし溶解して筋肉に取り付いた鎖帷子が9mm弾の侵入を拒んで胴体へ致命傷を与えられない。
のりおは死体の頭部に刺さったままの槍を放り出し、腰の小太刀を抜刀し短機関銃へ向け手裏剣投げで投擲した。切っ先は銃口を通り過ぎて弾倉まで切れ込みをいれて破壊し、最後の得物の斬馬刀を抜いて組員へ切りかかった。
組員も銃を投げ捨ててドスを振り抜く。
のりおも組員も、互いの急所へ向け剣を走らせ、紙一重で避けては反撃の打突を加えようとしては刺し損ねて虚空を突き、相手からの反撃に応じては斬る。のりおはカウンターの連続に意表をつこうと接近し鍔迫り合いに持ち込んだ。体当りを繰り出し、敵のバランスを崩すと、敵ひざ関節に向けサイドキックを放ち前足を破壊。続いて軸足を刈り、投げ飛ばしてテイクダウンを奪う。河原に放り出された組員は動けなくなっていた。表情は顔を恐怖そのものにしてしまったように見えた。
のりおは動けない彼を咽喉に向けて斬馬刀で突いた。喉に空いた空洞から血が沢山流れて河畔が真っ赤に染まった。
のりおは組員が動かなくなったのを確認し橋に這い上がった。鞘に戻した長刀を杖代わりにフラフラの足でワゴン車まで歩み寄った。バックドアを開けるとゴルフバックが置いてあった。中から音が聞こえた気がした。鞄へ耳を近づけるとのりおは直ぐにファスナーを開いた。
のりおは絶句した。中身を見て悲しみにも嘆きにも見える表情を浮かべた。胸から挙がってくるものを必死で耐えて飲み込んだ。
女の子だ。のりおと年の変わらぬ少女が首から下を理科室の実験のウシカエルみたいに解体されて中に入っていた。中の臓器と神経が丸見えだった。十二指腸のほとんどはなくなっていた。肋骨は開かれドクドクと心臓が脈打つ姿が丸見えになっていた。
しかし少女は生きていた。こんな姿なのに少女には意識があった。こちらに対して反応は無いが瞳孔は散開していないし、呼吸のために鼻と口がうごいている。
肩に注射が刺さったままになっていた。豚食いが投与したであろう薬液が彼女に意識を保たせていたのだ。
のりおは口を結んだ。歯をガリガリして歯ぎしりを立てた。怒りを抑えきれない。やはり奴こそがのりおが探していた豚食いだったのだ。
のりおが戦いの疲れを癒すため故郷に帰ってきたある日、事件は起こった。
彼が街に入るとかつての喧嘩仲間のストリートチルドレン達がのりおに助けを求めてきた。
「助けてくれ!みんな酷い怪我をして死にそうなんだ!」
のりおが隠れ家のバラックにたどり着いた時初めに迎え入れたのは酷く鉄臭い空気だった。そしてすしずめになって布団の上に寝転がった数十人の少年少女たちが言葉にならない声を上げて苦しみに喘いでいた。
出入口の垂れ幕が捲られて新たな患者が担架で運ばれてきた。
酷い傷だった。被害者の少年少女達の名誉のため詳細は省くが下腹部を残忍なやり方で傷つけられていた。
患者の怪我の状態にのりおは怒りを顕にした。案内役の少年の胸ぐらを掴んで怒鳴り散らした。
「誰だ、誰だこんなことをしたんだ!」
少年は涙ながらに答えた。
「豚食いだ…豚食いという狂った男がみんなを拷問しやがったんだ!」
被害者たちはその日の番に死んだ。
のりおは少年少女たちに何もしてあげられなかった。どんなに世界を渡り歩いていてものりおには傷を癒す力を手に入れられなかった。のりお自身、自分の心の傷を癒すために戦いに身を投じ、結局恋で生まれた傷を癒すことは出来なかった。戦えども戦えども鶴丸への思いは消えず、異国で夜通し彼を思い続け、むしろのりおを蝕んでしまった。
のりおの残虐非道な太刀筋はこの病みが原因なのだ。
自分の心さえ治せぬ男に人の大怪我の治療など出来ようはずもなかった。
彼にあるのは野生に打ち勝つ生命力と戦闘力だけだ。ストリートチルドレン達のためにできることは敵討ちだけだとのりおは思い詰めていた。
〝豚食い〟
その日からのりおは豚食いという男を追いかけ始めた。ヘリを密輸したのもその頃だった。しかし手がかりがなかった。裏社会の人間とはこうも素性を明かさぬものかとのりおの頭を悩ませた。
そして今日、のりおは何者かの思念をテレパシーとして感知した。
──今日あなた達を殺す者が現れます。
女の声だった。酷くやつれた声色をしていた。
「君が僕を呼んだのか?」
「ごめんなさい。あなたを助けるつもりが戦いに巻き込んでしまいました。謝っても謝りきれません」
「こちらから待ち構えて仕掛けたんだ。あなたが気に病むことは無い」
「でも……わたし…」
「無理をするな」
カバンの中の少女は思念でのりおの脳へ直接語りかけた。しかし少女の思念は次第に途切れ始めた。
「私はあと少しの命です。差し出がましいようですがどうか願いをお聞き入れください。この車の中にもう1人拷問を受けた方がいるのです。どうかその方を介錯してください。あなたの技であの人をどうか…」
少女は血を吐いて息絶えた。最期まで自分のことよりも他人を案じて死んでいった。
遺言通りもう1人の被害者を介錯した。
「仇は必ずとるぞ」
決意を胸にのりおは炎を飛び越え敵を追う。
豚食いは焦っていた。
美人局を潰したヒョロいガキに落としまいをつけに行ったはずなのに、自分が追いかけられることになるなんて…それになんなのだあの男は。ルンピニーヘビー級チャンピオンみたいな体格をしていた。厨坊の癖に許可証を貰っているのかどうかわからない刀剣類を大量に所持し、テロ準備罪確定の戦闘ヘリを所持するとは何事だ!
「爆発音聞こえたんですけど、あいつ殺せましたかね?」
自信なさげな声で運転手が豚食いに聞いた。
イライラして豚食いは後部座席から運転手の後頭部を殴りつけた。彼も不安であった。あの男ならスティンガーミサイルを食らっても生きているのではないかと杞憂していた。
「次口開いたら殺すからな」
ナイフを首にたてて豚食いが息巻いた。
ナイフを胸ポケットに戻そうと手を引いた。目線を落とすと、耳の近くで何かが通り抜ける音がした。豚食いは正面を向いた。運転手の首がない、否、首どころかヘッドシートが消失し、フロントガラスにはいつの間にか砕けて無くなっていた。車体に不自然な振動が起こった。隣の席がえぐれて無くなっていることに豚食いが気づいた時、操縦者を失った車体はコントロールが狂って横転。海岸までスリップしても水没してやっと停車した。
豚食いは急いで脱出した。車体正面が突き刺さったまま止まったので、座席をよじのぼり反対側のドアから出て、車体から砂浜へ飛び降りなければならなかった。
あちこちぶつけて痛むからだで地面へおりる。尻もちをついて悪態をつきながら起き上がる。正面から音がした。物凄いスピードでアスファルトを削る音だ。遠くの方で見えてはならないものがみえた。組員のバイクを駆る何者かが何かを投擲した。
ギョッとして豚食いは頭を抱えて縮こまった。振動とともにドンという音が車体の方から聞こえた。振り向くと車の側面と底に計2本の槍が突き刺さっていた。
一本目は車を横転させた槍。車内で感じた振動もこいつが原因だ。運転手を殺した槍はどこかに飛んでいってしまったのだろう。そしてつい先程運転手が投擲した槍。ヘリの残骸を改造して作った即席の柄は柄の半分まで車体にめり込み、石突の方には手榴弾が引っ掛けてあった。栓は抜かれていた。
浜辺で爆発が起こる。悪運が強いことに豚食いは破片を少し浴びただけで爆風に飲まれなかった。だが彼に一息つく暇は無い。すぐ近くまで地獄のバイク乗りが迫っていた。バイクの少年は引き締まった長身の体にほとんど剥がれ落ちた鎖帷子を着て、背後には身の丈ほどある刀剣を二本さし、獅子のように吠えながらアクセル全開で突っ込んでくる。
豚食いは急いでバイクへ短機関銃を発砲した。弾幕が車輪を破裂させ中に放り出された少年へ豚食いは9mm弾を斉射した。
流石の少年も耐え兼ねて煤まみれの身体で地面に叩いて倒れ込み、その上に二輪車が激突。
これを好機と豚食いは爆発するまで短機関銃を打ちまくった。
火柱が上がる。
もはや勝負はついたと豚食いは嘲笑った。
だが、立ち上る黒い炎の中から走り出す人影を豚食いは認めた。
古賀のりおは生きていた。炎に何度巻かれようと、爆撃に身体を叩かれようとも、のりおは絶対に死なない。白目を半開きにし血糊と灰で真っ黒になった顔を晒して、傷だらけの母指球で地面を蹴った。
飛び重なる火災に刀身を焼かれてなまくらになった斬馬刀を〝蜻蛉〟で構えて奇声を発する独特の呼吸法を用いて敵へ向け駆け出す。
豚食いはリロードしたかったが手が震えて思うように行かない。奇声が真上に迫っている。
マガジンを手から滑らせた男の脳天を斬馬刀が叩く。首をそらした男の肩を斬れなくなった切っ先が皮ごと肉を抉り取り、左肩に関連する骨を粉々に打ち砕いた。
豚食いが折れて突き刺さった刀身に「ぎぃやあ」と悲鳴を上げた。
のりおは相変わらず奇声を上げながら最後の一刀を抜刀し、敵へ振り下ろした。刃を変形させた見返りに、鉄塊は豚食いの頭部に直撃し嫌な音をたてて頭蓋骨と脳をやった。豚食いは痙攣して仰向けで倒れ込んだ。虫の息だ。あともう一撃くり出せば勝負が決まる。のりおの復讐が完成する。
しかし、のりおの身体も限界が来ていた。刀から手が離れた。もう握る力が残っていなかった。指が震える。内出血で青くなった指はのりおの闘気を纏った剣技に耐えきれず、知らず知らずのうちに骨折していたのだ。豆と擦り傷だらけの手のひらに剣を振るう力が残されていないのだ。
更に下から痛みが生じた。ナイフだ。足にナイフが突き刺さった。なんということか、意識を取り戻した豚食いが下からアキレス腱を突いてきたのだ。
堪らずのりおは屈み、されど心は屈せず、豚食いの首元へ馬乗りになると掌底でパウンドパンチを繰り出した。顎を揺らし、鼻を折り、眼窩底に衝撃を与続けた。息を吐く度に吐血して、腫れ上がる敵の顔面に血反吐を吐き捨てた。
豚食いも暴れる。殺されまいとブリッチしたりのりおの背後から膝蹴りして脱出しようともがき、足掻く。
だが、のりおの打撃は止まることを知らなかった。虚ろな目には意識が宿っていなかった。もはや無意識のまま豚食いを殺そうとしていた。さながら殺人をインプットされた生きているLAWSだ。
戦闘サイボーグは肘も使い始めた。ムエタイとミャンマーラウェイで仕込んだエルボーがテイクダウン状態で発射される。のりおのリーチ205cmの腕が斧のように敵の肉を叩き切る。豚食いの顔の肉がミンチになる。のりおの肘の骨もささくれた皮膚の中からはみ出ていた。
前触れもなくのりおが倒れた。疲労でバランスを崩した。腹部からは血痕が出ていた。傷跡から血を吐き出す。
豚食いがまたしてもナイフで突いてきたのだ。
フラフラとのりおは立ち上がる。
豚食いも立っているのがやっとであり、ほぼ中腰になってナイフを腰ためし、のりおへ歩み寄る。
凶刃がのりおへ来る。豚食いの得物は切れ味をたもったままだ。懐に巨漢が入った。腕を伸ばすだけ、腕を伸ばす動作だけでのりおの喉が、左胸が突かれてしまう!
「死ね!小便臭い厨坊が!」
のりおが揺れた。体が前後にぶれた。隙を見せたその身体へ豚食いがそれ見た事かと突き刺した。
──
突き刺した。
突き刺したはずであった。
刃はのりおの肋骨を超えて心臓へ突き刺さったはずだった。しかし、のりおの胸へは刃があと一歩のところで止まり、血を鉛色の輪郭で吸うことが出来なかった。
代わりに豚食いの喉前後に空いた傷口がいつまでも血を吐き続けている。
短刀がぼんのくぼを突いていた。柄を握るのは、切られてダメになったはずの、のりおの鋼鉄のような脚の指先だった。のりおの壮絶に鍛え上げられた鉄骨の肌と筋肉は刃物による急所攻撃すらも受け入れず、皮膚の表面で受け流してしまったのだ。
きっちりと柄を握った親指と人差し指が、ミドルキックの要領で豚喰いに打ち付けられていた。
突かれ、押し倒された豚食いはついに生き絶えて砂浜に転がり落ちた。
間違っても蘇生させない為にのりおは使い物にならなくなった手と斬馬刀をぐるぐる巻きにして無理やり握らせ、豚食いの元へ歩み寄り──
豚食いを斬首した。
「終わったよみんな、終わったよ…」
江ノ島の入江で入水し、沖合でフカ共に食われる豚食いの死体を眺める古賀のりおは吐き出すように独り言した。涙を流す血に汚れた顔には寂寥があった。
孤独な男を照らすのは夜空だった。星空の光がのりおが海水で身体を洗い流して産まれたしぶきに映り込み、光の珠になって返り血がなくなった屈強な体に溶けていった。
陸に上がったのりおは豚食いを仕留めた時の状況を思い出していた。勝敗を分けたのは少女の死体から託された薬品だった。少女に刺さっていたあの薬品だ。
テイクダウンで揉み合いになっているさなか、意識を失いかけていたその時のりおは思い出したように注射を静脈に差し込み薬物を注入した。この行動でのりおは当分の間動き回ることが出来た。
豚食いの拷問趣味がのりおの勝利の鍵を握るきつけになるとは皮肉に思えた。
二度と使いたくないとのりおは忌み嫌って豚食いの骸の中にシリンダーを捨ててしまったが。
もっとも彼を手助けしたのはここ数年の戦いに他ならなかった。戦いの中で産まれた超能力が、痛々しく解体された少女と自分を結びつけ豚食いとの決戦のための猶予を与えてくれた。戦いだけがのりおの心の傷を癒してくれる。
ふと豚食いの死体の首を思い出す。断面は恐ろしいほど綺麗だった。超音波カッターで切られた岩石の表面みたいに肉は滑らかに斬られていた。
のりおは自分の心に曇りが消えていることに気づいた。あれほど燃え上がった恋心が消えていた。代わって少年は戦いに恋焦がれている。戦いだけが守りたいものを守るために自分が振るえる力だ。自分を支えてくれる確固たる力、自分が尽くして見返りをくれるのは戦いだけだった。
のりおは竜の子がいつ自分を殺しにくるかわからぬ夜道を歩き始めた。怖くはなかった。死んでも戦い続けてやると心の中で吐き捨てた。
彼の進む道は修羅道か。命を弔い続けて向かう先は地獄か。
例え無間地獄に落とされようとものりおは敵を討ち、戦い続ける。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
なるたるはすごく面白いので原作未読の方も是非ご覧ください!二次創作も増えるとイイナ!
これは贅言ですが、「須藤直角(すどうなおずみ)をボコボコにいてこまし、首の骨を直角(ちょっかく)の病院送り」のくだりは我ながら上手いこと言えたと思います。