ブルーアーカイブ "旅する少年と記憶の欠片” 作:天風 月夜
僕はこの地獄から逃げ出すことにした。
確実に追手は来るはず。逃走経路と自治区の地図は頭に入れた。
逃げ出した後は……その時に考えよう。
……そろそろ時間だ。
Vanitas vanitatum et omnia vanitas。
それでも僕は希望を持ち続けよう。
「それが願いだから」
0話:希望と想いと願いを籠めて
「はぁっ…はぁっ……」
息を殺して、陰に隠れる。見失った僕を探すあいつらの足音が聞こえてくる。
「くそっ。あのガキどこにいった!!」
「探せ!まだそう遠くに行ってないはずだ!」
ガスマスクをつけた人たちが僕を探して走っていった。
路地裏から顔だけを出して周囲をうかがい、走っていった人たちとは反対へ走る。
内戦の影響が色濃く残り、倒壊している家屋、穴だらけの街路、きれいだったはずの街並み。
その中を穴に躓きそうになりながら走り続ける。
「どこだ!どこに行った!」
「路地も探せ!見つけ次第捕縛しろ」
愛中を背負って瓦礫に身を隠し、自治区の中を走り回り、頭に入れておいた地図を頼りに進む。
心残りが何度も頭によぎり続ける。
思い出さないように、考えないように蓋をしてたこと
サオリ、アツコ、ミサキ、ヒヨリ、アズサ。
自治区に残してしまったみんなに向けて手紙は書いて僕の部屋に置いておいた。
それなのに、
みんなを
(わかってた。後悔しないって覚悟してたことなのに)
不安になり僕はホルスターに入れてあるハンドガンに触れる
「(大事なのは生きること。どんなに虚しくても、どんなに苦しくても、生きていれば必ず報われる日が来るから。だから……)」
いつだったか、顔も思い出せなくなってしまった姉さんの言葉。
「(だからクオン。私の代わりにこの子達を連れて行ってください)」
「(この灰色で憎しみにだけ満ちたこの場所から、おとぎ話のような澄み切った空の下に。この子達を)」
そういって渡された2丁のハンドガン。
左右それぞれのホルスターに入って、走るたびにその重さを伝えてくる。
その片方に触れるだけでも視界がにじんでいく。
(いつか。いつか僕はここに帰る。あの”魔女”を殺して、みんなをあの青い空の下に連れていくために)
目をこすって視界をもどす。
この場所を”復讐に捕らわれた”なんて言った僕が一番復讐に捕らわれている。
そんな矛盾を抱えてしまっていることに気づいて、自嘲した笑いがこみあげてくる。
ただ、このときは疑問に思わなかったけど、後から思い出すとおかしいと思う。
みんなを”あの青い空”下に…
なんで、そんな風に言えるのだろうか?
僕は生まれも育ちもここだから。アリウスから一度も出たことがない僕がなぜ外の景色を知っているのだろうか。
「うぐっ」
走っていると肩に痛みが走る。
後ろを見ると硝煙が出てるアサルトライフルが見える。
「見つけたぞ!!こっちだ!」
「絶対に逃がすな!」
打たれた方を抑えながら目の前にある路地へ入る。
曲がった瞬間にくすねてきたスタングレネードのピンを外して路地の入口へ投げる。
爆発の瞬間に後ろから目を細めてしまうような光と同時に爆発音と叫び声が聞こえた。
僕は振り返らずに路地を走りぬけていくと、足に痛みがはしる。
「いっ……!!」
一瞬の浮遊感。世界がゆっくり進む中で見えたのは目を抑えながら銃口をこちらに向ける教員の姿があった。
そのまま僕は冷たさの中に身を落とし、世界が黒に染まった。
ーーーーーーーーーー
「クオン。戻ったぞ」
「おかえり、サオリ。みんな」
焚火の上に作った簡易性の料理セットで沸かした水の中で温めていた缶詰をとりだす。
「今日の収穫はあった?」
「ちょっと少ないかも。でも、兄さんが集めてくれた分があるからしばらくは大丈夫だよ」
「お疲れ様。ゆっくり休んでねアツコ」
「うん。でも、今日頑張ったのはヒヨリだから」
「ふぇっ!姫ちゃん?!」
アツコの突然のパスにヒヨリが驚いている。
ふーん…ヒヨリがねぇ。
ヒヨリのほうを向くと肩をびくっとさせていた。
「えっと、あの、あ」
慌てているヒヨリのあために手を伸ばしてそのままなでる。
「あっ…えへへ。やっぱ兄さんに撫でてもらえると暖かくなります。もっと撫ででください、あと頑張ったご褒美もください」
「相変わらずだね、ヒヨリは」
「やっぱ駄目ですよね」
「なんてね。はいこれ、こんなのでよければ」
苦笑しながら僕は拾っておいた雑誌を渡す
「これいいんですか、兄さん」
「うん。ヒヨリのために拾ってきたからね」
「えへへ…ありがとうございます」
「兄さん。報告なんだけど」
雑誌をもらって、笑顔になったヒヨリを眺めていると、物を整理していたミサキが話しかけてくる。
「ん。聞くよミサキ」
「最近のアリウスの兵士たちが輸送車で何かを運んでいるのは確認できた。おおよそ中身は物資だと思うけど」
「うーん……。やっぱり近いうちに何か起こりそうだね。内乱も最近は落ち着いているし」
「あと、この拠点はしばらくは大丈夫そう。この周辺にあまり来てないみたいだから」
「そっか。ありがとねミサキ」
「あっ。兄さん!……ん」
頭をなでると、最初は文句を言ってきたがそのままなでると目を細め始める。
「あっ…何でもない」
それで、頭から手を離すと寂しそうな声を出す。
それで顔を少し赤くして目をそらす。
「クオン。缶詰が冷えてしまう」
「そうだね。みんなの分も温めておいたし、ご飯にしよっか」
僕の一声で焚火の周りにみんなが集まる。
缶詰だけの味気ないご飯もみんながいるから気にもならなかったし、おいしいと思えた。
これだけでも幸せで楽しいと思えた。
楽し…かった……はず。
ーーーーーーーーーー
「ゴホッ、ゲホッ。……はぁ…はぁ。ここは」
体から飲み込んでしまった水を吐き出す。
目を覚ますとそこは知らない場所だった。
周りは機で囲まれており、後ろは洞窟から流れている水で湖ができている。
どうやら僕は、打たれたときにバランスを崩して水路に落ち、個々に流れ着いたみたいだ。
上を見ると山の中らしく、上の空いているところからは光が降り注いでいる。
それにしても……
「懐かしい、夢を見た」
もう、戻ることはできないのに。
「まだ後悔が残ってる…のかな。だけど、これからは二度と忘れることは許されない」
閉じた目からは涙がこぼれそうになる。
ゆっくりと開いて、心を落ち着かせる。
「そうだ。持ち物は?」
周りを見渡すと少し離れたところに、持ってきていたバッグが落ちていた。
腰のホルスターにはハンドガンが入っている。
(バッグが耐水でよかった。中身まではダメになってない)
愛銃を取り出して、機能に不全がないか確認する。
ハンドガンも取り出して、確認する。
(こっちはマガジンと薬莢がダメになったから、本体も後でメンテしなきゃ)
外したマガジンをしまって、バッグを背負い、愛銃を担ぐ。
まずはここらあたりの探索を始めなきゃ。
幸い、サバイバルはなれているし、何なら魔女の支配下からも逃れることができた。
あとは、力をつけて滅ぼしてやる。
「|Vanitas vanitatum et omnia vanitas《全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ》。この言葉はもう捨てよう。あの場所から解放された僕には虚しさも絶望なんてものもなくなった。ここから始めよう。すべてを取り戻して、あの日々へ、みんなと苦しくも楽しかった日常へ戻るために」
あえて僕は言葉にする。二度と違えることが無いように忘れないように。そして、
「待っていてね。みんな」
愛する家族のために。
ヘイローは暗く輝いた。
ーーーーーーーーーー
「はぁっ……はぁっ……。クオン、どこに行ったんだ?」
クオンが朝起きたらいなくなっていた。
校舎の中やクオンの部屋、思い当たるところは全部探したはず。
唯一の手掛かりは、クオンの部屋にあったスクワッド全員分の手紙。私の手紙には地図と鍵が入っていた。
他のみんなに渡された手紙に何が入っているかわからないが…。
「そういえばお前、昨日の話は聞いたか?」
「ん?何かあったのか」
地図に書かれた場所に向かっている途中に教官たちの話し声が聞こえ、体を隠す。
「ああ、昨日の夜に脱走したやつがいたらしい」
「マジ?誰が逃げたんだ?」
「捜索してたやつらの話だと逃げたしたのはキメラだそうだ」
「あいつか~。捜索してるやつには悪いが、いなくなって清々したわ」
「だよな」
笑い声が部屋から聞こえてくるが、私はそれどころじゃなかった。
クオンが脱走して行方不明?朝いちばん最初に起きてるのにいなかったのはそういうことか。
今は、地図の場所に向かおう。何か手掛かりがあるはずだ。
ーーーーーーーーーー
「ここか」
地図の場所にはもとはきれいであったろう街並み、その場所についた。
倒壊した家屋、穴だらけの街路、崩れた噴水。クオンがなぜこの場所を指定したのかわからない。
さっきの会話から、手の震えが止まらなくなり、冷や汗も流れる。
不安と疑問。そのほかにもたくさんの感情で埋まっていく。
「リーダー」
「っ!」
声を掛けられ、後ろを振り向くとミサキ、姫、ヒヨリ、アズサ。スクワッドの全員がいた。
「リーダーが来た理由ってやっぱりこれ?」
「ああ。クオンが出した手紙。その意味を探しに来た」
「どうしましょう。私たち、見捨てられてしまったのでしょうか…」
「それは…兄さんのことだから、見捨てたってことはないと思う」
ヒヨリとミサキが不安なようで、横にいるアズサは周囲を見渡している。
「姫はどこに?」
「さっきまで一緒にいたはず」
「……向こうにいる」
周りを見渡すと姫の姿がなくなっていた。
ミサキの言葉にそのほうを見ると、周りと比べて比較的きれいで整った家屋の前に姫がいた。
「姫。どうしたんだ?」
「『この家。多分だけどクオンが言っていた場所だと思う』」
「確かに、この家でだけ整っている」
「だが、鍵がかかっているみたいだ」
「これじゃ、入れません」
「……リーダー?
私は、手紙に同封されていた鍵を取り出して、鍵穴へ差し込む。
ガチャリ。
と、鍵穴の中で回り、錠が開いた。
「鍵なんて持ってたんだ」
「ああ。クオンから手紙と一緒に渡された」
「『それじゃあ。入ろう』」
姫の言葉に私は扉を開いた。
手の震えも、恐怖心もなくなっていた。