エルデンクエスト   作:凍り灯

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金青と銀朱

 

 

 

 

 

モーゴット様の言葉通り、黄金樹は全てを拒絶していた。

 

この棘…確かな黄金の魔力を感じる…触れなくとも、放たれる僅かな光が古い記憶を刺激した。手をかざし、薄っすらと漂う光を掬(すく)って握りしめる。

 

「マリカ様…そこにいるのですね…」

 

格子状に這った根、そして格子状の黄金の紋章。

 

黄金樹が拒んでいるとモーゴット様は言った。しかし…きっとモーゴット様はマリカ様と直接会ったことがなかったから、わからなかったのだろう…これは、どちらかと言うとマリカ様の気配を強く感じる…のだが。

 

余計にわからない。

一体誰がこの封印を…?マリカ様であり、そうではない。似て非なる"何か"、それだけは私にも理解できるとはいえ…

 

 

そしてこの考えに、答えを出せそうな出来事があった。

 

 

『先生!一体どうされたのですか!』

 

ゴッドフレイの幻影と戦うより前。

かつて円卓でも交流のあったコリンが古い闘技場の近く、金仮面卿の側で頭を抱えているのを見つけた時のことだ。

 

『────…ああ、貴方たちでしたか、すみません。気付きませんでした』

『コリン、どうしたんだ一体…金仮面卿に…何か?』

『そうなのです…先生が止まってしまい、取り乱しておりまして』

 

見知った第三者の存在に、コリンは多少の落ち着きを取り戻すことが出来ていた。敬虔(けいけん)な黄金律の信者でもある彼はどうにも危うい一面があることを理解していたが…それにしたってただ事ではなさそうである。

事情を聞けば、彼は心の中の整理と合わせて語り出す。

 

『…黄金樹に近づき、先生の思索は一層激しくなりました。それは厳密な数理でありながら、荒ぶる旋律になったのです…ですが、それは止まってしまいました────先生は今、奇怪な謎に直面しているのです』

『奇怪な、謎…?』

『ええ…黄金律は、女王マリカを唯一の神とする律です。それなのに…マリカの二番目の夫、王配ラダゴンの名が、見出されたのです』

『ラダゴン…』

 

再び、この名が私に立ちはだかる。

何故か欠片も思い出せない存在。英雄、マリカ様の伴侶。ラニ様の母であるレナラ様を棄てたと、ミリエルから聞いていた彼。

こうまで、こうまで高名な彼の記憶は、やはりどこにもない。

 

私の疑問と、全く同じ言葉をコリンが口にする。

 

 

"ラダゴンとは、何者であるのか?"

 

 

『先生は答えを得られずにいます』

『…』

 

私もまた、得られない答え。

コリンは、私に話かけているというよりは、うわごとの様にこの嘆きを呟くだけ。

 

『ラダゴンの名を見出したその時から、指が動かないのです。ああ、我が非才が嘆かわしい…私だけが先生の側にいるというのに、何もお助けできないのです』

 

…しかし次に宿った彼のそ(・)れ(・)は、果たして。

 

『ああ、しかし、それがどれほど重要なのでしょう?黄金樹は、黄金律は、我らの目前にあるのです。何を迷うことがあるでしょうか…。おお、何を迷うことが!』

 

妄信を含んだそれに、私は触れることが出来ないでいた。過ぎた信仰は、何よりも繊細なものだ。

 

相変わらず全く動いていないようにしか見えない彼(卿)の横に並び、黄金樹を見上げる。

その光は巨大で輝かしく…しかしかつての記憶よりも薄い光を放つようになったと今ならば思えた。古い友との邂逅(かいこう)により、掠れた記憶も多少は鮮明になってきたからだろう。

 

不意に、視線を感じた。隣だ。まさに、金仮面卿その人から。

顔はほんの僅かにだけこちらへ傾いており、仮面越しからでは目を見ることは出来ない。それでも、感じた。

 

何かを言わなければいけない気がして、何も思いつかず。その瞬間である。

 

乱れた。"旋律"が。

私にも、それだけはわかった。イメージしたのは私の奏でるハープ。その弦が、キィと震え張り詰める音。そんな。

 

『────貴方は一体、先生に何をしたのですか』

 

コリンが、信じられないという顔で私を見たが、私も心当たりがない。

互いに困惑するばかりで、しかしコリンの興味はすぐに金仮面卿の指先へと食らいつく。続く言葉もやはり、私を見ることもせずに。

 

『…いえ、何であっても構いません。先生の指がまた動き、思索が再開されるのなら、ただそれだけでよいのです。貴方には感謝の言葉もありません』

 

最早彼は必死に指を読むばかり。

邪魔をするのは良くないと、静かに私たちはその場から去ったが…思えば、彼らからもっと話を聞くべきだったのだろう。

 

 

ラダゴン…そう、ラダゴン。マリカ様の伴侶。

しかしマリカ様とゴッドフレイの関係を、私はよくよく知っている。彼らのあの"結び"は、誰もが思うよりもずっと固く強いものだった。

 

だからこそ違和感があった。永い時の流れが心を変えたと言われれば、それまでなのだが。

 

されど彼女は永(・)遠(・)の(・)女(・)王(・)。彼女を冠するその"言葉"は、呪いにも等しく刻まれている。愛も執着も執念も、怒りも嘆きも後悔も何もかも、その内から逃れられないのだ、永遠に。始まりも終わりもない"円環"。その矛盾すら永遠にそのままで生き続けていた。

 

そんな彼女の心を動かしたラダゴンとは、一体何者なのか。

 

最初から二人の策謀だったのか。であればラニ様の母であるレナラ様との結びと終わりも?ラニ様は私たちに全ては語らなかった。陰謀の夜、マリカ様とラニ様は利害の一致から手を組んだと言う。ラニ様にとってマリカ様は、一体…。

…あの夜、ラダゴンは何をしていたのだろうか?いまだ行方も知れぬ彼。

彼も関わっていた…?

ゴッドウィン様が弑(しい)されたのは二人にとっても予想外だったと聞く。壮大な計画に、有り得てならない事態が起こってしまった。

だというのに、ラニ様の話の中でも「ラダゴン」という名前すら出てきていない。おおよそ存在しないかのように。だから三度(みたび)思う。

 

 

"ラダゴンとは、何者であるのか?"

 

 

そんな疑問を、ずっと私は抱えていた。

 

ここに来て、この封印を前にして、何故かまたこの考えが過(よ)ぎったのだ。それは"勘"だ。だが勘とは全くバカにならない。当人すら気がついていない思考の奥底のどこかで、カチリと歯車が噛み合うことを"勘"であると私は信じている。

それはもしかしたらいまだ戻らない記憶の部分がそう言っているのかもしれないのだけれど。

 

 

『────…そして、誰も知ってはいないのですよ』

『ラダゴン様が、なぜレナラ様を捨てたのか…いえそもそも、一介の英雄にすぎなかった彼が、なぜエルデの王として選ばれたのか』

『黄金樹の王都の、ある高名な彫刻家が、ラダゴンの大彫像を作るために召し出され…秘密を垣間見たのだそうです』

『そして、大彫像にその秘密を隠したのだと』

 

 

王都ローデイルに、この封印の答えが眠っている。そういう"勘"。

かつて結びの教会でミリエルが私たちに語った、ラダゴンの秘密。それを探し、解くことは重要なことなのだろう。探しに、行くべきか…?

 

…どちらにせよ、これでは入ることもままならない。

────そうだ…理由はともかくそ(・)こ(・)だ(・)け(・)は(・)教(・)え(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。だからこそ、王都にそ(・)の(・)た(・)め(・)の(・)記憶を求めたというのに。

 

 

 

求めたものは、代わりに彼女た(・)ち(・)が私の元まで運んでくれた。

 

 

 

「────少し、話をさせて欲しい」

 

息絶えたモーゴット様に祈りを捧げているメリナは、静かに立ち上がると私の目を見る。けれども私は彼女よりも先んじて口を開いて先手を取った。

 

「メリナ、身体は大丈夫なのか?」

「ええ…」

「どう見ても致命傷に見えたが…霊体であることと関係があるようだな?」

 

真摯(しんし)に祈りを捧げる彼女の邪魔をできなくて聞けていなかったことを、ブライヴもまた便乗して問いかける。アレキサンダーも同じように、うむうむと頷いて心配を表現していた。

 

「私は…女王マリカの魂の一部。だから死(・)ね(・)な(・)い(・)。この身には欠片とはいえ"永遠"が宿っている。…エルデンリングが砕ける以前の不死性を持っていると考えて欲しい」

 

今こそデミゴッドは大いなる意思に見捨てられたことでその"永遠"を剥奪されているが、元は死ぬことのない存在。

メリナはそれを持っていることを思い出したのだと言う。

 

明確な実体を持たないこともあり、すぐ、とはいかないが再度変わらぬ姿で戻って来れるのだと。

 

「だから────」

「────前に立たせ、囮として消費でもしろと?」

「…まだ、何も言ってない」

「いいや、わかるさ。なぁメリナ、私たちが、そんなことを許すと思うか?」

「…」

 

ぷいと目を逸らす彼女に溜め息をひとつ。

 

「君が言ったことだろう?」

 

"…もっと、命を大事にして"

 

ブライヴ不在の中、永遠の都ノクローンを目指した私たちに、彼女が言い聞かせたのだ。

わかっている。

私もまた同じことを考えるし、実行する。なんせ自分は褪せ人、死ぬたびに何かを失えど、完全な死はないのだから。…私も人のことをとやかく言える立場ではない。

 

そういう意味で、今の私とメリナはより似た思考に陥りやすいということだ、気をつけねばいけない。

 

「絶対に、そんなことは、させないからな」

 

それはそれとして絶対にやらせやしない。

あの時、大丈夫だという確信はあったが、モーゴット様に切り捨てられたメリナを見た時の感情のブ(・)レ(・)は、純粋にその後の戦闘に影響が出るレベルだったと冷静に判断している。

 

つまりは、集中できなくなるからやめてくれ。

身も蓋も無い言い方をすればこういうことでもあるのだ。本当に伝えたい言葉では、ないのだけれど。

 

「…ごめんなさい」

「謝らないでくれ…私も気持ちはよくわかる」

「あぁ、こいつは絶対やるな」

「うむ、貴公はやるだろうな」

「お前たちは私がバラバラに吹き飛んでもそのまま戦えるだろう?」

「まぁ、お前は戻ってくるからな」

「うむ、貴公は大丈夫だからな」

「なんなのあなた達…」

 

なんか、納得がいかない…と、げんなりと眉を顰(ひそ)めたメリナ。

気を取り直して、彼女は元々話そうと思っていた本題にさっさと切り替えることにしたようだ。

 

「…黄金樹の内に、入れなかったのでしょう?」

「ああ、格子状の棘が入口を塞いでいた」

「それは、"拒絶の棘"。黄金樹が、外のすべてを拒む、自我の殻」

 

"黄金樹"と、メリナも確信のあるような物言いで話す。

であればあの感覚は私の勘違いで、モーゴット様の言う通り黄金樹自身の拒みなのだろうか?それとも、彼女は何かを隠そうとしているのか…

 

この会話から、これから何をするべきか察したのだろう。ブライヴが小さな溜息と共につい、愚痴をこぼす。それに続く珍しく察しの良いアレキサンダーはむしろ楽しそう…そんなもんだからブライヴは今度は大きなため息をつくはめになるのだ。

 

「全く…ここまで来たはいいが、ことはそう簡単に運ばないと言うことか」

「まだ旅は続くのだな!貴公らには複雑であろうが、俺にとっては好ましいよ」

「…わかっているなら、少しは隠せ…」

 

"旅は続く"

その言葉に、メリナはどこか儚そうに微笑み、私の目をしかと見上げた。

 

「エルデンリングに見え、エルデの王になるためにはその刺を越えなければならない…私の使命は、そのためのものだった」

「…」

 

"王"という言葉に、私は頷くことはできない。

 

メリナもそれは分かっているはずだ、けれども彼女は引き下がらなかった。

思い出した彼女の使命、それが彼女にそうさせるように。

 

「だから、また私と旅をして欲しい。遥か雲の上、雪深い巨人たちの山嶺(さんれい)。その頂(いただき)にある、"滅びの火"まで。そうしたら、黄金樹を焼くことができる────…そして貴方を導ける。エルデの王たる道に」

「王…か」

「そう、王」

「…」

「…」

 

ジトりと睨むような視線。珍しく、彼女の意地のようなものを感じる。

きっと私が知らない何かを思い出して、そのために真っ直ぐ突き進むつもりなのだろう。喜ばしいことだ、本心から応援したいとも思うし、力にもなりたいとも思う。

 

────だが私のためと言うならば話は別だ。

そ(・)の(・)路(・)だ(・)け(・)は(・)ダ(・)メ(・)だ(・)。

 

…じりじりと睨み合っていれば、ブライヴとアレキサンダーが別に隠す気を微塵も感じない声量で耳打ちし始めた。

 

「アレキサンダー、放っておけ。ああいう喧嘩は俺もラニとしたものだ」

「貴公の幼少もまた気になるところではあるが、俺はやはりかつて巨人たちの住んでいた山々に心が躍ってしまうなぁ。古い伝承で聞いたとも。遥か雲の上、雪深い巨人の山嶺に、滅びの火がずっと燃えていると!」

「"山嶺"か…王都から通じる昇降機があると聞くが」

「うーむ、俺は大丈夫だが、流石に貴公らは入念な準備が必要であろう?」

「雪と霧が酷く、環境は劣悪の極み。その寒さもまた息が音を立てて凍るほどだとラニが言っていたな。山頂付近は絶景だそうだが。ったく…寒いのは得意じゃないというのに…」

「俺が"暖"そのものになれそうだな!赤獅子の騎士、その炎の力よ!」

「頼りにするぞ。一度イジ爺に情報を聞きに戻りたいところだが…流石に距離があり過ぎる。あいつらに"祝福"を経由して飛んでもらうのがいいだろう」

『その必要はない』

「…!…ラニ、お前か?」

『────玉座の間に異変を感じたので見にきたが…成る程な…お前は、最後までその道を貫いたのだな』

 

いつの間にか、モーゴット様の亡骸の前で彼を見下ろ…せてはいないが、俯(うつむ)くように見つめるのは小さなラニ様。

思うところがあるのだろう。表情は帽子の陰で見えないが、どこか悲哀を帯びた背中に見えた。

やがて振り向き、小さな歩幅で私とメリナの元まで歩み寄る彼女。

 

そこにブライヴが、何かを察したように口を挟んだ。

 

「成(・)し(・)た(・)の(・)か(・)?」

『滞(とどこお)りなく、な。二(・)本(・)指(・)は(・)殺(・)し(・)た(・)。こちらの邪魔者はいなくなった。後は、この黄金樹へ入ることさえできれば…』

「どちらの身体も、自由に行き来が出来るように?」

『ああ。だがそう自由なものでもない。つまりまともに干渉できるのはここ、黄金樹の麓ぐらいということだ。期待はするな』

「はい、お手を煩(わずら)わせる気はありません」

『しかし、やはり黄金樹には入れなかったか』

「…知っていたのですか?」

『知っていたさ。そ(・)れ(・)は(・)お(・)前(・)も(・)だ(・)ろ(・)う(・)?』

「…」

『ふむ?まぁいい…。ブライヴの言った通り、王都では"禁域"として指定されたそこには王都の裏門先にある昇降機から至ることができる。だが、そこから"大昇降機"までは断崖の道…────ときに、割符はあるか?』

「ええ、ここに」

 

その大昇降機を起動すたるために必要な割符を持っていたのは、なんとメリナだった。

 

「いつの間に」

「王都の一室で見つけたの」

『よし。しかし"禁域"は霧の深い断崖の道、一寸先も見えないような悪路…先人の残した"光"を追え、それが大昇降機への道になる』

 

 

そこからラニ様は待ち構える脅威について語ってくれる。

巨人戦争の名残でもあるガーディアンゴーレム、毛深いトロルたち、多数のユビムシ、そしてザミェルの古英雄たち。

"滅びの火"の監視者である火の僧兵たちもまた、それに近づかんとするならば敵対は避けられないとも。

 

『最も、やつらは忌むべき火に魅入られたとんだ愚物どもだがな』

 

忘れてはいけないのは"凍てつく霧"と呼ばれる氷龍の"ボレアリス"

太古、山嶺の主であったその竜は"火の巨人"たちに敗れ、頂を追われた竜。はぐれ飛竜とは比べるべくもない程の力を持っているのは言うまでもない。

 

「あぁ、イジー殿も言っていたな。巨人戦争の折りに利害の一致から、かの竜はマリカ様やゴッドフレイと肩を並べたとも」

「俺もそれなら知っているぞ!ザミェルの騎士たちも太古から、火の巨人たちに挑み続け、ついに黄金の軍勢と共に討ち滅ぼしたともな!」

「改めて聞けば規模が段違いだな。神話として謳(うた)われる戦いというのも頷ける」

「ええ…そして、"巨人の火の釜"…そこを、巨人戦争の生き残りである"小さき巨人"が守っている」

『そうだ、そいつこそが釜の火守り。女王マリカに刻印の呪いを施された最後の火の巨人だ』

 

禁忌の火、滅びの火、呼び方は多くあれど、その全てが例外なく恐ろしきものと断じている。

その火は黄金樹を、黄金律を焼き傷つける。

 

それが"導き"になるのだと、私も(・)知っていた。

メリナが、後ろめたさを覚えつつも私の意思を再度、問う。

 

「私は…貴方を、大罪に誘っている。けれども私は、その道を行きたい。…私をまた、連れて行ってくれる?」

「それが私の望む道にも重なる」

「ならば行きましょう────この、"火の路(みち)"を」

『…』

 

ラニ様が何か言いたげにこちらを見つめているのを、あえて気付かぬふりをした。

わかっています。

…わかって、います。

 

その仕草で察してくれたのだろう、それ以上、彼女が口を挟むことはなかった。

代わりにと、ブライヴへ向き直り見上げる小さなラニ様。

 

『ブライヴ』

「なんだ」

『風邪をひくなよ』

「放っておいてくれ、ラニ…」

「ワッハッハッハ!貴公も形無しよな!」

『いつまでもそんなものだ…そう在れることが、最も良いのだから』

 

寒さ嫌いは相当らしい。さて…暖かくなる食事を考えなければ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モーゴット様」

 

メリディアンが、その亡骸に話しかける。

 

"皆同じ、愚かな略奪者共よ"

 

「あなたが、正しいのです。私は愚かで…そして母に似ている」

 

「それでも止まりません」

 

 

決まっているのだ。

 

 

王都の廃屋で名も忘れた友の末路を知った時?いや。

ライカード様を破り、タニス殿の悲願を断った時?…いや。

ラーヤを火山館から連れ出した時?ラニ様の災いを取り除いた時?ブライヴを呪いから解放した時?ラダーン様を見送った時?ゴドリックを討った時?

 

…それよりも前から、道は決まっていた。

ずっとずっと、それが変わることはないのだ、何を思い出そうとも、何を望むようになろうとも、何が立ち塞がろうとも。

 

この愚かな道は、願いは、決まってしまっていた。

 

 

 

『────黄金樹の風習…ですか?…しかし────』

『無駄な配慮などするな、教えろ。何であろうと構わん』

『…では、"捧闘"などはいかがでしょうか。互いに同じ武器を用いて、その戦いの様を黄金樹へ捧げるのです』

『貴様の弓を使ってか?』

『いえ、唯一、弓だけはないのですよ。思えば不思議ですね…きっと母が扱うがために、マリカ様が配慮したのでしょう』

『ならば話に聞く短剣か。………貴様も、貴様の…母、も、舞うのか?』

『そう、ですね…剣であるならば、私も嗜(たしな)んでおります。はい、それは母も同様に』

『…そうか』

『────もし私でよければ、次に来た時にここで舞いましょう。場所など、何の関係もないのです。ただ捧げる相手がいるならばどこであろうと』

『捧げる相手?』

『はい。ですので、私はこの舞いをモーゴット様とモーグウィン様に』

『そうか…────ならば、約束だ。戦より戻り、ここで舞え』

『はい、必ずまた、戻ってきます────』

 

 

 

────そして私の瞳は褪せた。

ゴッドフレイと嵐の王。ケイリッドでのあの戦いを終えてすぐのことであった。

 

また一つ、叶わなかった約束が黄金の火に炙られ、彼だけの紅い空へ昇っていく。

遠く黄金樹を超えて、遥か青い夜空の中へ。

 

 

 

亡骸は、ここに置いてゆきます。貴方が守り続けた、王の座に。

 

「行って参ります」

 

 

 

 

 









サブタイトルの金青は"こんじょう"(紺青と同義)と読み、と銀朱は"ぎんしゅ"と読みます。
金(紺)青は紫がかった暗い青色を指し、古く中国から伝わった、仏像などに使われた色だそうです。
銀朱は黄色がかった赤色で、古く死者への葬祭の使われたり遺骨に塗られたりしたそうです。

言うまでもなく、これは彼の目の色を意識していますが、この場にいるメンツを見ればどこか示唆的でもありますね。

余談ですが、少し前の話で出てきたメリディアンの旧宅は、実際にゲームで黒弓が落ちている場所をイメージしています。とはいえ王都は本編よりもっと広い感覚でやってるのでそのまま、というわけではないのですが、参考として。


…さて、これで連続投稿も終わりとなります。
次回から第六章ということなのですが、果たして次回がいつになるやら…下手しなくとも(これから忙しくなる時期な上に他に更新しないといけない作品がある)一年ぐらい待たせてしまうかもしれません…そうはならないようにしたいとは思ってはいるのですが…
読み返すのもえらく大変な作品なので、大変ご迷惑をかけてしまうのですが、それでも良ければまた読んでいただけると、とても嬉しいです。エンディングは書き終えてるので早くタドリツキタイ。

そしてどれの話についてでもいいので感想等いただけ(ここすきでもいいよ!?)ると今後のモチベーションにメチャクチャ影響してきますので、一言だけでも頂けると嬉しいな!?(卑しい承認欲求)
…純粋な疑問として、皆さんがいいなと思ったシーンがどういうものなのか知りたい気持ちもありますので、もしお暇であれば。



■メリディアン
種火が燻る。
"頂"はいまだ遠く、その火を待っている。
かつて捧闘という名目で、あらゆる武芸を学んでいた。黄金樹に連なる技術は彼の中にあり、しかし彼は弦を弾くことを選んだ。


■メリナ
王にする。この人を。
そのためであれば、この身の全てを捧げよう。


■ブライヴ
メリディアンの危うい戦いに、それでも苦言は控えている。
例え死すとも、彼は戻って来ると確信しているから。


■アレキサンダー
メリメリは似た者同士だなぁと思いつつ、いや、なんだかんだ皆似た者同士なのかもしれないと気が付き始めた。


■コリン
過ぎた盲信は腐りゆく。
預言者は信仰の内に"それ"を垣間見る
身を焼く火の予言を忘れるなかれ。


■金仮面卿
以前メリディアンと出会った時から、いや出会う以前から違和感を感じていた。
そうして一人たどり着くのだ。考えもしなかった、けれど辻褄の合う答えを。


■ラニ
ここぐらいでしか、今は干渉することが出来ない。
果たして名も無きメリディアンの子は成してしまうのか。ただ静かに見送るのみ。


□モーゴット
捧闘の約束は破られ、かの人は戻らず、その母も消えた。
自らの母たるマリカも隠れ、黄金樹は黙して応えず。
それでもついに戻った彼は、確かに自分のために舞った。



- 輝ける金仮面 -

輝ける黄金の輪を模した仮面
それは、かつて彼に訪れた圧倒的閃きであり
探求の先にあるはずの、輪の似姿であるという


- 捧闘の剣のタリスマン -

かつて黄金樹に捧げられた闘いの
儀式の剣を模したタリスマン

王配ラダゴンの時代、捧闘は廃れてしまった
各地に残る闘技場は、その名残である


- 火よ! -

遥か北の山嶺には、巨人の火が今も燻っている
僧兵たちは、その監視者である


- ザミェルの氷嵐 -

ザミェルの騎士たちは、氷嵐を纏い
太古から、火の巨人たちに挑み続けた


- ボレアリスの氷霧 -

太古、山嶺の主であった氷竜は
火の巨人たちに敗れ、頂を追われたという


- ロルドの割符 -
火の頂の描かれた割符のメダル
左右の二つが揃っている
これを掲げることで
ローデイルと巨人たちの山嶺を繋ぐ
ロルドの大昇降機を起動できる

メリナと共に再び旅する目的の地
滅びの火の釜は、山嶺の先にあるという


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