某掲示板に投下したタイトル通り一発ネタです。特に続きません。
当SSには『タフ』語録の混入、ならびに過度なケルシー構文の無駄遣いを含みます。

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挑んだマネモブ・ドクター、ケルシー構文に完全敗北っ

「……ドクター。君の生体サインの乱れと疲労の蓄積は、既に看過できる数値を大きく超過している」

 

 深夜。ロドス・アイランド本艦の深く静まり返ったブロックの奥底に位置する執務室。

 書類の山とモニターの光に包まれたこの狭い部屋に、かすかなドアの電子音が鳴ったかと思うと、一人の女性が足音もなく忍び込んできた。

 

 緑がかった銀色の髪に知性を具現化したような冷たくも理知的なエメラルドの瞳、そして医師特有の白いアウター。ロドス医療部門の最高責任者であるケルシーだ。

 

「仮眠の取得を推奨したはずだが、未だに端末から目を離さないとはどういうことだ? 睡眠の負債は知覚および判断能力を著しく低下させる。それが次回の作戦における致命的なヒューマンエラーへと直結することは、過去のシミュレーションからも自明だろう。私に何かできることがあるか?」

 

 ドクン、と心臓が跳ねる。

 彼女は深夜に二人きりというシチュエーションにも関わらず、相変わらず冷徹で機械的ともいえる語り口で歩み寄ってきた。しかし、今の俺の目にはそんな小言すらも極上のご褒美に思えた。

 

(あ、あざーっス!)

 

 内心で俺の中に潜む何者か──マネモブの人格が雄叫びを上げる。

 なにしろ、疲労困憊の深夜。閉鎖空間に極上のヴィンテージ美女。しかも「私にできることがあるか?」というキラーパスだ。しゃあけど……徹夜明けで理性がぶっ飛んどるわっ!

 

「ふうん、気遣いということか」

 

 俺は口元を歪め、ニチャァと笑みを浮かべた。

 

「ケルシー……ありがたいぜ。正直、ワシはもう限界や。書類の処理で頭が爆発しそうなんだよね。せやから、君のような極上の上物を使えれば最高なんだよねパパ。えっと、つまり……生オナホ的に俺の溜まりに溜まったものを抜いてほしいというか……ボボパンさせろ! ってことやんっ!」

 

 ストレート。極めて知能の低いストレートな直球勝負だ。原始的な衝動を言語化することも放棄した、幼児的な要求と言っても過言ではない。

 ―――怒らないでくださいね、深夜のテンションとはいえセクハラなんてバカみたいじゃないですか。

 しかし、ケルシーは微動だにせず、エメラルドの瞳で俺をじっと見下ろしていた。

 

 沈黙が数秒続いた。

 やがて、ケルシーは静かにため息を一つ吐き、両手を白衣のポケットに突っ込んだ。

 

「……行為に及ぶ前には、少なからず会話がいるものだ。ドクター」

 

 ケルシーのその一言から。

 ──これから始まる永遠にも等しい“講義”が、深夜の午前一時から翌朝の日の出まで続くことになるとは、知る由もなかったんだ。

 

 

 

***

 

 

「……この事前の会話には、意思疎通は勿論として、理性的に脳を働かせることによる過度な緊張の緩和や、行為に及ぶことへの合意を直前の時点で再確認するといった複数の目的が含まれている。本来、性行為は繁殖……つまり自らが属する生物種の維持継承や繁栄を意図して行われるものだが、現代かつ社会的な生活を営むヒトという知性種においては、この肉体的な接触を、遺伝子に刻まれた単なる種の存続活動ではなく親愛を表現するコミュニケーションの一種として捉えている者も少なくない」

 

「え、あ、おう……ケルシー? いきなりなんか壮大なテーマになったけど……いや、俺としては君とイチャイチャして気持ちよくなりたいだけで……服、脱いでもええか?」

 

 俺が白衣のボタンに手をかけようとしたその手を、ケルシーは一切の無駄がない動きで優しく、かつ断固として押し留めた。

 

「国や地域によりヒトの集団が持つ倫理観などは異なるが、一定の発展度合いを超えるエリアでは『個々人の持つ権利は尊重され互いに侵害されるべきではない』という考え方が一般的であることは、君も知っているはずだ。何故なら私たちもまた、ロドス・アイランド製薬という集団を構成する一員として、今述べた倫理観を保持しているのだから。さて……私と君が今こうしてこの部屋で二人きりになり、君が私に対し性的な肉体の接触を求め、私が一定の条件のもとにそれを承諾する前提の話へと進むが、その際に私は、君の目的が『君個人の性欲の単なる発散―――排泄的行為』なのか、あるいは『私という特定の個人を対象にした要望』であったのか、明確に確認することを失念していた」

 

「いや! だからケルシーじゃなきゃダメなんや! 特定の個人に対するボボパンの要望や! じゃけん早くベッドに……」

 

「……ドクター。君は人の話を聞いていないのか? 言葉の意味を違えないで聞いてほしい。もし前者……単なる性欲処理であれば、私は合意の再確認を経た上で、速やかに君に対して『自慰』を推奨し、適切な潤滑剤を渡してこの部屋から退室するだろう。後者であるならば、合意を前提とした上で、この性行為が『親愛表現に留まるもの』か、それとも『繁殖をも目的としているもの』かをも、さらに加えて確認しなければならない。君がどちらを望んでいるかによるのだから。そして今、私が長々と会話によって意思疎通や緊張の緩和を図っているこの意図を再認識させたことで、私自身もいささか『予期せぬ交尾行動に向けた緊張状態』にあること、そしてこちら側からも君に対し『適切な手順を踏むべきだ』という要望があることは伝わっていて、その内容も理解できているはずだろう」

 

(な、なんだぁ! 一向に上着の一枚すら脱ごうとする気配がない! そして繰り出されるあまりにも隙のない合意の再確認の論理的連鎖は! )

 

 ケルシーは一切頬を染めることなく、感情の揺らぎすら見せずに続ける。

 

「この瞬間。君が真に何を求めているのか、そしてそれをテラの大地において私がどう引き受けるかについて、改めて言葉にして聞かせてくれ。ドクター」

 

「だ、だから! 単純に愛し合いたいってことや! 俺と君の……二人きりの、特別なコミュニケーションなんやから! そこに理由なんか後付けで……! もうこれ以上は危険や!」

 

「ふむ……。親愛表現に重きを置いた特別なコミュニケーションであるという見解か。その主張は受け入れよう。しかしドクター。ならばなぜ、先ほど君は私に対し『生オナホ的に抜いてほしい』という言葉を用いたのだ? それは著しい論理的矛盾を抱えているとは考えないのか?」

 

「げっ……いや、あれは言葉のあやというか……その……」

 

「ごまかすな。『生オナホ』。君が私を定義するために用いたその卑俗な隠語について、その語義的な矛盾と、君の精神構造における深刻な病理を紐解く必要があるだろう」

 

(あ……ヤバい……。ケルシーの講義が完全にフルスロットルで始まったんだよね怖くない……?)

 

「まず前提として、『オナホール』とは工業的に生産された、主としてシリコンやエラストマーを素材とする擬似的な生殖器官の模造品であり、使用者の排泄的欲求を効率的に処理するための『道具』だ。そこには人格も歴史も尊厳も存在しない。自慰行為、いわれるようなヒトの疑似生殖行動のことを『オナ二ー』というのは知っているだろう。オナ二ーという言葉は聖書においてオナンと呼ばれる男が性交において中に出さなかったことを理由に神に罰せられた物語が前提にあるとされる場合が多い。ヒトの男性における性欲というのは一般に女性よりも直情的に表出され、その自慰行為の頻度に関する社会心理学的なアンケートにおいても、その傾向がはっきりと表れている」

 

「も……申し訳ないと思っているっス。だから道具なんて思ってないって……」

 

「話を遮らないでくれドクター。もちろん、その性に関することは極めてセンシティブな話題であり、実態として本当のことを言っていない被験者も多いだろう。だが、性関連のコンテンツ傾向として男性向け需要の市場が非常に大きいことを鑑みれば、そこに性的な差動要因が存在しないとは言えない。現代においては技術と表現の進歩によりコンテンツの充実は留まることを知らず、風俗という物理的対面のみならず、映像作品、小説、漫画……時として君が密かに集めている薄い本のような媒体による性欲の仮想的解消が可能となっている。そういった性的コンテンツの中で、最も実用的で、かつ『対人的でない性欲の解放手段』の一つとして確立されたのが先述のオナホールだ」

 

 ケルシーは机の上に散らばったカルテの束を几帳面にまとめながら、一度息を吸ってさらに加速する。

 

「対して『生』という接頭辞について考えてみよう。この言葉は『生身』つまり有機的な生命活動、ひいては体温、脈動、細胞の代謝、そしてなにより自己同一性と意志を持つ個体を示唆する形容詞だ。道具は決して『生きた』ものにはならない。性的コンテンツの中で、擬人化等の仮想的概念を適用し無機物を有機物のように錯覚する脳内プロセスがあるとしても、それは空想に過ぎない。しかし君はこの瞬間、目の前にある現存する生体、つまり意志を持った私に対し、その二律背反する概念を強引に結合させ、『生オナホ』と呼称した。これは君が、私という個体を『生命活動を行うが如き便利な処理道具』としてのみ認識し、君自身の内に潜む加虐的な支配欲求と、他者と対等に親密な相互理解を築くことを放棄した、極めて怠惰なリビドーの表出に他ならない」

 

(う、うぁああっ……怒涛の理詰めで俺のスケベ心が微細に言語化されて断罪されていく! ボボパンしたいだけの猿だと言い当てられてるのと同じなんスよ!)

 

「ドクター、これは典型的な認知の歪みであり、複雑な対人関係からの逃避を目的とした自己防衛機制の暴走だ。私に対する過剰な依存と性的対象化を短絡的に混ぜ合わせた結果生まれたグロテスクな語彙……と言わざるを得ない」

 

「け、ケルシー先生! 俺が悪かった、ホンマに反省しとるんや! 言葉選びを間違えた俺が愚かなタフ・マネモブ・ドクターだったってことは重々承知やから! 今は……今はこの滾る股間を沈めるためにも……服を! 上着を! ちょっと肌を合わせて愛を確かめ合うだけでも!」

 

「静かにしろ」

 

ピシャリと放たれた絶対零度の一言に、俺はビクンと肩を震わせて黙り込む。

 

「加えて、君が口にした『ボボパン』なる擬音語。これは君たちが属する『マネモブ』という特異な文化圏における、暴力と生殖行為を同一視したスラングだと推測されるが、そのような原始的な衝動を言語化することすら放棄した幼児的な表現を用いること自体、君の言語野が著しく退行している証左に他ならない」

 

「貴様ぁーっ! タフ語録を愚弄するかあっ!」

 

「愚弄ではない。ファクトの提示だ。言語解像度の低下は、複雑化する戦場指揮において致命的な判断ミスを誘発する。私が憂慮しているのはロドス・アイランドの作戦指揮官たる君の、脳の器質的な異常の可能性だ」

 

(ええっ!? 脳の病気疑われとるやん! これはいよいよベッドインどころじゃなくなってきたっスね……)

 

「タ…タフって言葉は俺のためにある……これくらいのお説教、徹夜明けの俺なら余裕で聞き流せるんだよね、パパ!」

 

 耐えかねた俺は、防衛本能から自らを奮い立たせるようにお決まりの言葉を叫んだ。

 しかし、そんな虚勢を張った精神的逃避さえも、この理詰めの化け物は逃さない。

 

「『タフ』か。一般的には外部からの物理的、あるいは精神的な圧迫に対する耐久性や、回復速度の高さを指す形容詞だが。君が自身を指してその言葉を用いることには、いささか致命的な事実誤認が見受けられる」

 

「な、なにっ!」

 

「テラにおける真に『タフ』な生物、例えばサルカズの重装兵や、ウルサスの極地を生き抜く感染者たちと比較した場合、君の骨密度および筋線維の断面積はロドスの成人標準値すら大きく下回っており、物理的衝撃に対する耐性は極めて脆弱と言わざるを得ない。さらに精神面においてもだ。ドーパミンの過剰放出や極度の睡眠不足に依存した一時的な躁状態を指して『タフ』と呼称しているのだとしたら、それは強靭さなどではなく単なる中枢神経のバグ、あるいは限界疲労がもたらした『譫妄状態』に過ぎない。現実から逃避するための幻覚的強気だ。加えて、君が最後に発した『パパ』という呼称。ここに君の父親は存在しないし、私も男ではない」

 

「そ、そこまで論破せんでええやん……ただの語録のノリやのに……」

 

「語彙の選択は無意識の露見だ。君が私に対し、あるいは存在しない第三者に対して庇護者たる父親像を無意識に投影している心理状態こそが、君の精神の深刻な後退化、いわゆる『退行現象』を如実に物語っている。肉体も脆弱で、精神も退行している……これのどこが『タフ』だと主張する気だ? ドクター」

 

「あ、あわわ……タ、タフって言っただけで筋組織の評価から精神状態まで丸裸にされて診断されてもうたぁ!」

 

「君の強がりはすべて生理学的に分解可能だと言っているのだ。……姿勢を正せ。まだ先ほどの解説が終わっていない」

 

 俺の股間の龍はすっかり畏縮し、小動物のように震えていた。

 

「私が言及を終えていないのはまだ言葉の選択だけだ。君が性衝動に従って求めた行為における、『パフォーマンス』の是非に関しても明確な情報共有をしておかなければ、相互理解には至らないからだ」

 

(えっ……なになになに。今度はいったい何を言い出す気だ……? すでに時刻は午前二時半。前置きと叱責のウンチクだけで一時間半が経過しているんですが)

 

「『肝心のオナホとしての性能はどうなのか教えてくれ』……仮に君の脳内で私の生殖機能に準ずる器官に対して、そのような工業的、あるいは定量的・カタログスペック的な指標を求める思考があるとしたら、あえて医学的・生物学的な観点から真面目に回答しよう」

 

「え、いや、そんなの気にしてないし! 愛があればそれで!」

 

「聞け」

 

 ケルシーが一歩前に出た。微かにシャンプーの香りが鼻をかすめる。ドキリとする距離だが、発せられる言葉の威圧感がもはや色事の次元ではなかった。

 

「まず、私の肉体は、君が想像しうるテラの標準的な先民……エーギルやフェリーン、あるいはその他の種族とは、根本的に異なる歴史と組成を有している。『一般的なオナホール』……つまり人工的に設計された道具に求められる物理的要素、すなわち膣壁の弾力性、粘膜の摩擦係数、充血に伴う内壁の温度上昇、そして神経系から生じる蠕動運動の強弱とテンポ。……普通の人間であれば、それらは情動に伴い自律神経系のコントロール下で無意識的に反射運動として起こるものにすぎない。しかし私の肉体の練度は、それらの平滑筋のコントロールはおろか、分泌腺の働きに至るまで全て意識的な可変パラメータとして運用可能だ。意味が分かるか? ドクター」

 

「か、可変……パラメータ?」

 

「そうだ。つまり、君が私に対してどの程度の刺激を要求するのか。例えば極めて強烈な圧迫・絞扼による短時間での物理的・反射的な射精の誘発を望むのか、あるいはミリ単位でコントロールされた微細な筋肉の振動による持続的、かつ拷問にも似た快楽の長期提供を望むのか。私は君との接触面積において君の毛細血管の拡張、心拍数の変動、発汗作用、瞳孔の散大、呼吸のリズムを皮膚単位でリアルタイムモニタリングし、常に『君を崩壊させない限界点のギリギリ』となる摩擦や圧迫の最適数値をリアルタイムに算出し、そして実行することが物理的に可能だ。これが、数千年という途方もない時間を刻んだ私の神経網と肉体運用の一端だ」

 

(な……なっ……なんちゅうハイスペック……!)

 

 それは間違いなく「えっちな」言葉だった。

 女性の口から詳細な名器宣言。自分好みにいくらでも締め付けてあげるし弄ってあげるという、全男性が夢に見るような途方もない快楽の提供。

 普通の女がそれをささやけば、瞬時に勃起が限界突破し理性をかなぐり捨てて獣のように貪り食っている場面だ。

 ……だというのに! 何故! 俺の下半身は恐怖すら覚えて萎え始めているんだ!

 

「さらに言えば」

 

 ケルシーは冷酷に続ける。彼女の語る内容が深部へ入るにつれ、部屋の温度が下がったかのように空気が重くなった。

 

「私の脊髄の延長線上には、共生構造体である『Mon3tr』が存在する」

 

 ゾクッ。

 突如、ケルシーの背後から現れた緑色の鉱石のように鋭角的な骨格。異形の魔獣がゆっくりとその巨大な鎌を部屋の天井に擦り付けるようにして鎌首をもたげた。チリ、と耳障りな低い鳴き声のような音が鼓膜を叩く。

 

「君が私と性交し、その身体を合わせ私の深部へと性器を挿入するということは。単なる一女性の軟組織や筋肉の収縮を味わうということにとどまらない。私の神経系の奥深くで脈動する古代の獣、その膨大なエネルギーと闘争本能の源泉となる波長を、物理的距離ゼロの内臓の壁を通して、君の敏感な器官で直接感じ取るということに他ならない。……君の言うオナホールに、生体兵器の駆動音が共鳴機能として備わっているモデルが地球にあったか? なかっただろう。これは比喩ではない。エネルギーの暴流として物理的な重圧となり、交感神経を通じて君の脊髄神経まで蹂躙されるだろう」

 

「も……Mon3trまで絡んでくるんスか……?」

 

 俺の声が情けなく裏返った。ケルシーを抱くことは、背中からいつ真っ二つにされるかわからない巨大生物を同じベッドに乗せているようなものだという事実。それを言葉の暴力として完全に理解させられた。

 

「ドクター。人間、とりわけ君のような虚弱かつ防衛本能を知識に依存している者が、古代の源流から連なる生物学的・源石的な存在と粘膜を通じて情報を交わすこと。その過負荷のすべてを君が受け止められる保証などどこにもない。君が欲する性交渉において問題なのは、私の『性能が良いか悪いか』などという下らない次元の命題ではない。君がその途方もないオーバードーズと化す情報と快楽の物理的提供に対して、『受け止め、なおかつ自律性を保って生存しうる器』をそもそも持ち合わせているのかどうか。そこが致命的に疑問だ」

 

「け、ケルシーちゃん……ワイはもう許してほしいんや……ワイみたいなクソザコマネモブには君の高尚でヴィンテージな名器を味わう資格なんか……」

 

「……まだ終わっていない」

 

 ケルシーがカツン、とヒールの音を響かせて俺の膝元まで距離を詰めた。

 冷たい手首が俺の喉元へ這い、そのままシャツの襟ぐりをきつく掴む。

 おおっ! や、やっとか! ここにきて実技タイムに突入するか! 話し疲れて実力行使やな!

 

 だが、見上げた彼女の顔は、全く情欲に濡れていなかった。冷厳。ただ静謐なる観測者の顔。

 

「シャチという水棲の生物を知っているか。テラにおけるエーギルの一部……あるいはアーミヤの側にいるあの深海ハンター、スカジの特質を想像してもらえば理解しやすい。あの凶暴で知能が高く、運動量が極めて巨大な生物のことだ」

 

「し、シャチ!? 今更どうして海洋生物学の話になるんや! ベッドインする前に哺乳類の解説挟むんかい!」

 

「話を遮るな。知っておくべき事実だから語るのだ。シャチが海というテリトリーの中で食物連鎖の頂点たる支配者として君臨できた最大の要因は何か。それは強靭な顎や筋力ではなく、『肺呼吸』を行えるという生理的特性にある。他の水棲生物──魚類の鰓呼吸と比較して、肺が取り込める酸素の量は絶望的なまでに開きがある。空を覆うほどの酸素を胸郭いっぱいに蓄積したシャチは、どれだけ長時間高速で追いかけようとも筋中の疲労物質を圧倒的代謝能力で中和し続け、さらには血液の大部分を極低温下の水中であっても心臓と『脳』へ優先して送り続けることができる。これは脳の酸欠を防ぎ、高度に社会化された狩りの陣形や作戦構築を可能にし、『高い知能を持ったまま無限に近い暴力を行使し続けられる』という悪夢のような設計に他ならない。哺乳類特有の心肺能力が生み出した最高傑作とも言える」

 

「ほえぇ……なんで俺はパンツ一丁になりかけた状態で水族館の解説ボード読み上げられてる気分になっとるんや……」

 

「私の後ろに控えるこのMon3trを見ろ、ドクター。圧倒的かつ規格外のエネルギー、命令に対する高度な処理機能。それらはいずれも『ある程度極めて高い知能を持った上での圧倒的凶暴性』として現れる。理性が存在しなければ兵器としての運用は叶わない。しかし、シャチの捕食が示すように……そしてテラの戦火を見れば自明の通り、生物が高い知能と自己学習の手段を持つということは、その残虐性と闘争的衝動をただ『効率的かつ理論的に増幅させるだけ』に繋がる可能性を秘めている。理性とは、一見すると凶暴な本能をなだめるための『鎮静薬』だと思われがちだ。しかし間違えるな。進化における真実は、『知能とは、むしろ欲望や本能をより巨大化させて精巧に推し進めるための極大興奮剤』でしかない」

 

「だ、だったらコスプレはどうや!? 君のメイド衣装! あれなら合法的な奉仕の延長線上として受け入れられるやろ! うわキツとか言いつつ色んな服着せてボボパンしたいのが俺なんだよね!」

 

 窮地に陥った俺は、かつて彼女が身に纏ったことのあるフリル付きの奉仕服を免罪符にしようと試みた。労働というコンテキストを付与すれば、このガチガチの論理武装を突破できるのではないかという淡い期待。

 しかし、ケルシーの冷徹な眼差しは、むしろ零下へ向かってさらに温度を下げた。

 

「メイド衣装……メイドという職業に付随する服飾を性的なメタファーとして消費しようというのか。ドクター、君は歴史と社会構造というものを根本的に履き違えている」

 

「なにっ」

 

「ヴィクトリア朝の労働階級において、ハウスメイドが身に纏っていた黒いドレスと白いエプロン、およびカチューシャ等の装飾品は、雇い主への従属と自己の匿名性、そして徹底的な清浄作業における機能性を担保するための制服──言わば『社会的な鎧』であった。労働者の個性を殺し、奉仕という機能のみを抽出するための記号だったのだ。それを君たちのような後世の人間が、非対称な権力関係に萌芽する倒錯的な支配欲求、およびサブカルチャーにおけるフェティシズム的アイコンとして『うわキツ』などという幼児的な煽りを伴いながら再定義したに過ぎない。資本主義が生み出した、極めて歪な性の搾取構造だ」

 

(ま、またや! コスプレしてエロいことしたいだけなのに、どうして産業革命時の労働階級の社会構造から怒られなきゃならないんや!!)

 

「その社会的背景を捨象し、ロドスの最高幹部たる私に対し『仮想的な被支配階級の役割』を強要して視覚的快楽を得ようとする。これは権力勾配を利用した性的嗜好の押し付けであるばかりか、私の歩んできた途方もない時間の蓄積をペラペラの衣装一枚のコンテキストで覆い隠せると思い込んでいる傲慢の表れだ。私が過去にあの服を纏ったのは、作戦行動および情報の秘匿という極めて合理的な『手段』であって、決して君の貧弱なリビドーを満たすための『目的』ではない。君が私に奉仕を求めるならば、まずはヴィクトリアにおける労働争議の歴史から学び直すことだな」

 

「あ、あざーっス……って言うか、なんでメイド服着てイチャつくための事前学習が歴史と資本主義のお勉強なんだよ! えーっ!!」

 

 ケルシーのあまりに論理が飛躍しているように見えるだけで、実は細い糸で繋がっている大長広舌に、俺は白目を剥き始めていた。彼女が襟首から指先を離し、代わりに俺のこめかみあたりを、医学的触診のようにひんやりとした指で撫でた。

 

「知能による闘争と欲望。それこそがドクター、君の本質であるべきだという話を今からするのだ」

 

「え? お、俺の話……?」

 

「君は以前、ロドスの前衛部隊を遠隔で指揮した際に、盤面全体を一つのボードに見立て『戦場をチェスに見立てるような感覚がある』と語ったことがあるだろう。石棺で目覚めてから記憶を失い、かつてほどの『すべてをただの無機質な駒として浪費する冷徹さ』こそを失ったものの、口数が増えた今の君を見ていると君の指揮能力の神髄は『チェスというボードゲームの巧さ』に依存しているわけではないことがわかる」

 

 ふう、と吐息をかけられる。首筋に鳥肌が立った。言葉の内容さえエロければ極上のピロートークの第一歩だったが、耳から入ってくる情報密度が高すぎて知恵熱が出そうだ。

 

「実際の敵部隊の動き、迫り来るサルカズの傭兵団やテレシスの私兵たちは、ゲームのチェスのように『自分はクイーンだから斜めに際限なく移動します』だの『ルークだから直進します』だのと丁寧に教示して盤面に現れてくれたりはしない。事前情報はゼロに等しく、理不尽に四方から出現し形を持たない群れとして暴れるのみだ。しかし君の作戦立案においては違う。君の特筆すべき才能の本質……それは、ただ数秒間の『俯瞰の観察』で、相手の移動ベクトル、兵器のリロードタイミング、疲労による進軍速度の遅滞化から、『敵という未知の群れの限界値と存在理由を計算し、瞬時に脳内であいつはどういう移動ルールのチェスの駒かを逆算して強制的にマス目へと嵌め込んで見せる、その圧倒的な解析力たる眼』だ。相手の暴力そのものを君の高い知性によってゲームの概念にまで貶めて支配してしまう。それが指揮官ドクター、君だ」

 

(ほ、褒められてるんスよね……? それでも俺はケルシー構文なんて一切求めてなかったんだ! 生バイブじゃなくて生オナホを要求してんだぞこっちは!!)

 

「理解したか、ドクター。私をベッドの伴侶にすると君が容易く言ったことのリスクとは即ち、これほどの脳の処理性能を限界で稼働させて戦局を導かなければならない君自身の『脳という最高のツールを不純に消費させること』への医学的警告へと立ち戻る」

 

「け、結局、なんでそれがダメなんだ! 単に愛を育んで精を出し合うだけの話なのに!?」

 

 ケルシーは一切顔色を変えずに淡々と俺を糾弾した。

 

「行為中、私と君の複雑で高度なやりとりに脳のリソースを大きく割くことは必然。君が君自身の『戦術を切り開く灰色の脳細胞と、対象の性質を紐解く指揮能力の知的な眼』……これらを、他者である私との行為における一時の情動的ドーパミン放出と、淫猥な肉体理解に変換して使用させることになるのだ。本来ならば冷徹に世界を分析し、何百もの生命を背負いテラの戦場における正解をただ導き出すための尊い『眼』を、性的な汗と濁った白い体液の泥水の中に強制的に漬け込むことを意味する。ただの下半身の欲求ではなく『知性が持つ性欲』を最高効率で無駄に浪費させられるのだ」

 

(い、いや! 何を飛躍しとんのや! どんな気分になっても戦場の指揮はちゃんとするっての! とはいえ……論破する余地が見当たらないほど言葉で埋め尽くされているのは好感が持てる)

 

 延々と続く理詰めの猛攻。だが、ここで折れる俺ではない。口で勝てないなら、ボディランゲージで訴えかけるしかないんや!

 俺はケルシーの長話の隙を突き、雰囲気をごまかすように「まあまあ、そんな固いこと言わずに……」と、彼女の細い肩に手を回そうとした。

 

 しかし──ピタリ。

 俺の指先が白衣の布地に触れるか触れないかのミリ単位の距離で、彼女の冷え切った眼光が俺の網膜を射抜いた。

 

「ドクター。その不用意な接触の試行に対し、事前の手洗い、および適切なアルコール消毒による手指の滅菌プロセスは完了しているのか? 今、私の表皮、あるいは衣類へと付着しようとしている君の皮脂、そして不特定の細菌叢についての感染リスクアセスメントを提出しろ」

 

「え、あ……? いや、肩を抱こうとしただけっスけど……除菌スプレー必須のラブシーンなんて聞いたことない……」

 

「接触とは物理的現象であると同時に、細菌的、あるいは化学的な情報交換の最前線だ。ヒトの表皮には一平方センチメートルあたり数万の常在菌……表皮ブドウ球菌やアクネ菌などが独自の生態系を形成している。それは免疫防御の観点から不可欠なものだが、同時に外部からの予期せぬ抗原……たとえば君が先ほどまで触れていたであろう書類、ペン、およびコンソールのキーボードから採取された多種多様なグラム陰性菌等を媒介するリスクとなる。さらに言えば、君のその躊躇を含むスロースピードな動作は、衣類との間に不必要な微小摩擦を生じさせ、静電気の発生や繊維へのダメージを無自覚に引き起こす。つまり、非衛生かつ力学的に不出来極まりない接触だと言わざるを得ない」

 

「ええーっ!? ちょっと触れようとしただけで感染症対策と物理のダメージ計算が飛んでくるなんて理不尽を超えた理不尽!! ラブコメの『不意の接触』にこんなマジレスするヒロインおらんやろ!」

 

「行動を非言語的アプローチで強行しようとするならば、最低でも医療現場における術前手洗いの水準……すなわち塩化ベンザルコニウム液による三十二秒以上の擦り込みと、乾燥工程をクリアしてからにしろ。そしてその工程を経た後でも、私がそれを承諾する確率がゼロのままであることの統計的優位性について計算し直せ」

 

「しゃあけど……滅菌済みの手で肩を抱かれても病院の手術前みたいでエロさが一切消え失せるわっ! ロドスのトップはムードって概念を知らんのかーっ!」

 

「もちろん……私とて機械ではない。人間、ひいてはこのテラの大地にしがみつき懸命に社会生活を構築しようとする知的生命体が、基本的な生命機能維持として三大欲求である睡眠・食欲、そして他者との接触を含む性欲・精神的安定への欲求を内包していることは知っている。ストレスマネジメントとしても有用な手段であり、発散しコミュニケーションをとること自体に異論はない。過度な欲動の抑制は、かえって心身を自傷行為へ向かわせ、判断に迷いを生むという見解も否定しない」

 

「おっ……! そ、それなら……!」

 

(いけるのか!? こんだけ散々お説教と長編ポッドキャストみたいな長文聞かされた後に、「それでもドクターには休息としてのぬくもりが必要だ。許そう」みたいな甘々オチがあるんじゃないんスか!?ケルシーとのイチャイチャどこへ!! )

 

「しかしだ」

 

「な、なにっ!?」

 

 ケルシーは冷然として俺に背を向ける。その後ろから這い出てきたMon3trが、ドス黒いオーラを放ちながらベッドを取り囲み始めた。四方の退路が断たれる。時計の針は午前四時を指している。

 

「睡眠時間を三時間三十七分ほど会話によって既に消耗している事実を鑑みるに、これ以上の業務遂行および睡眠に及ぼす致命的悪影響を考慮するなら、いっそ君の要求が一時的なものであるのならば、こんなものに頼って欲情するべきではないという至極シンプルな提言ができるはずだ」

 

「はぁ!? こんなものってなんのことっスか!」

 

 ケルシーの言う意味が分からず反問する俺に、彼女は恐るべき結論──否、タフな男たちの言葉を代用した恐るべき制裁を与えた。

 

「わざわざロドスの最高幹部である私を相手に性的依存関係を結び、戦時中でありながら思考を遅滞させるリスクを背負い込んで仕事をおろそかにするくらいなら──他人にそのリビドーを投影するのではなく、自分ひとりの空想の世界と適当な代用品を消費し処理しろ、という意味だ」

 

「そ……そんな身も蓋もない! あんまりだろケルシー!! 何万字もしゃべり散らかして、俺がお説教の数々と古代獣の脅威を乗り越えてもたどり着く果てが、『自分でやって勝手に寝ろ』なのか!」

 

「『お前の娘は生オナホ』──そのくらいの自制と空想による疑似行為をもってしても対処できぬような精神の練度なら、指揮官など降りてしまえと言っている」

 

(その技はやめろー!なんだかんだ散々難しい熟語で論陣を張ってきたくせに、一番最後の一言がこれだっ! ケルシーは絶対にわざと言ってるし、何に対しても小難しい理屈を並べ続ける説教お姉さんの手口だーっ!!)

 

「だ、ダメだ……俺はもうケルシーと対等に口を聞くことも許されない……! だったら、なんもしなくていい! 君のその美しい足や背中を見せてくれるだけでええ! それだけでも十分ボボパンのオカズになる! 背中がね……って、タフスレのマネモブ達も言うてたんや!」

 

 もはや完全な降伏宣言、ひいては一部位の視姦すら容認してほしいという土下座にも似た妥協案だ。部分的なフェティシズムなら、難しい理屈抜きでただ視覚的に楽しめるだろう―――。

 

 そう思ったのも束の間、Mon3trのハサミが背後から俺の両肩をがっちりとホールドした。

 

「背中、および足に対する部分的な異常執着……すなわち、パシャ的パラフィリアの領域にまで話題を後退させる気か、ドクター。そこまでして己のリビドーを正当化したいのであれば、直立二足歩行を獲得したホモ・サピエンス的先民の生体力学から教え直さなければならない」

 

(うわああああっ! 進化論の話まで後退したああああっ!)

 

「人類、ひいては我々先民が他の四足歩行生物から決別し、直立して二足歩行を獲得した代償は非常に大きい。本来、内臓を下から支え四肢で分散させていた重力を、細い脊柱一本で直立させ、骨盤のみで臓器の全重量を下から受け止めるという物理的な狂気。それが『背中』であり『腰』だ。その極めて不完全かつ脆弱な構造こそが、脊椎やヘルニア、腰痛という二足歩行種固有の原罪的疾患を生み出した」

 

「や、やめてくれ! エロい背中を見て興奮してただけやのに、ヘルニアの話をされると一気に整形外科の待合室みたいになるんや!!」

 

「そして『足』だ。足首の関節、靭帯、アーチ構造という限られた接地面積で全体重のモーメントを処理しなければならない過酷な環境。そこには美などという表面的な装飾以上に、生存のための過剰な適応進化の痕跡が刻まれている。君が私の背中や足を性的対象として消費する時、君は二足歩行を獲得するために支払われたこの進化論的妥協と、骨格構造の哀れな悲鳴に対して欲情しているということになる」

 

「ど、どうしてそんな解釈になるんだ教えてくれよ!! 女性特有の滑らかなカーブやラインに興奮してるだけなんスよ!!」

 

「筋肉や皮下脂肪の流線美にのみ焦点を当て、その下で懸命に物理法則と闘う生体力学を無視するからだ。君のような短視眼的な認識が続く限り、表面的な外装である『肌』にのみ騙され続ける。真に背中や足に愛を向けるというのであれば、姿勢制御の神経伝達速度や、腱への疲労蓄積の度合いから語るべきだろう。だからこそ、私はMon3trを背中に宿し、脆弱な脊椎の防御機能を……聞いているのか? ドクター」

 

「……だ、だったらタイパや!!」

 

 窮鼠猫を噛む。論理の檻に閉じ込められ、打つ手のなくなった俺は、ロドスの最高責任者が最も好むであろう『時間的効率化』という観点からこの状況の打開を試みた。

 

「タイパ、だと?」

 

「そうや! ケルシー先生、さっきから『時間が惜しい』『業務の能率が落ちる』言うてるやろ? だったら逆に考えるんや! ダラダラ長話してる今のこの時間こそが無駄なんやから、たった三分! ほんの180秒だけ俺の息子と向き合って、チャチャッとスッキリさせてくれれば、今すぐ仮眠に入って朝からの執務もバッチリや! 効率的でスマートな解決策……怒らないでくださいね、これこそ最高に合理的な時短交渉じゃないですか!」

 

 ふふっ、完璧な論破や。お互いの利害が一致した妥協案。これで名器の三分間スピード体験という夢の切符が手に入る──!

 

 そう思った瞬間。ケルシーのエメラルドの瞳が、まるで病理組織の顕微鏡スライドを見るような、底知れぬ憐憫と侮蔑を含んだ光を帯びた。

 

「……ドクター。今、君は自らの性的プロセスの開始から射精、および不応期へ至るまでの全所要時間を『三分間、すなわち180秒』と自己定義したな?」

 

「へ? あ、おう。まぁサクッと終わらせるって意味で……」

 

「それは比喩表現ではなく、具体的な臨床的申告と受け取って構わないのか?」

 

「い、いや、ちょっと待て……なんでカルテに書き込むみたいな顔してるのか教えてくれよ」

 

 ケルシーは一切の感情を交えず、淡々と言及を始めた。しかしその内容は、男としての尊厳を無慈悲にミンチにする破壊兵器だった。

 

「テラの国際的な医療基準、および生殖機能学会が定義する男性の機能的障害の中に『早漏』と呼ばれるカテゴリが存在する。通常、交接開始から射精に至るまでの膣内射精潜時――ELTの中央値は約5.4分とされている。そこから逆算して、もし君が『180秒以内に必ず処理を完了できる』という再現性を自負しているのならば、それは極度の精神的興奮、あるいは器質的なセロトニン受容体の機能不全を疑わざるを得ない。これは単なるタイムパフォーマンスの問題ではない。医学的、そして深刻な生殖医学的な『異常』だ」

 

「ち、違うっ!! 話の綾や! 早い方がケルシーにとってもええやろと思って謙遜しただけで、俺の持続時間はほんまはもっとタフやし!! な、なんで急に泌尿器科の診断結果発表会みたいになっとんのや!!」

 

 必死に否定するが、一度診察のスイッチが入った医療部門トップのメスは止まらない。

 

「加えて、交接とは互いの神経系を同期させるプロセスだ。仮に私のような生殖機能における可変パラメータを持った肉体が相手だったとしても、交感神経と副交感神経のバランスが移行する前、十分な潤滑や組織の弛緩が行われないまま一方的に局所的な摩擦──いわゆるピストン運動のみで強行しようとする行為は、私の粘膜上皮細胞に対する単なる研磨作用による暴力、すなわち外傷性微小出血のリスクを急上昇させる。君は自らの利己的な180秒の快楽と引き換えに、パートナー側に後数日間持続する組織的炎症の代償を払わせようというのか。これを君は『合理的』と呼ぶのか、ドクター」

 

(う、うわああああああああっ!! 俺の性技がド下手くそで自己中心的なピストン猿やという事実が、ミクロの解剖学視点から容赦なく言語化されて論破されとる!)

 

「そもそもだ。君が自身の肉体の脆弱性と蓄積疲労を客観視できていないことは先ほど指摘したが、血中の乳酸値が高まった状態での有酸素運動、および短時間での急激な血圧上昇は、君自身の循環器系への特攻だと言ってもいい。腹上死──『性交時突然死』の主要なトリガーとして、君が今提案したような急造の興奮状態での行為は死亡フラグとして機能している。つまり纏めよう」

 

「あ……ああ……もうええ、もうええんやケルシー……」

 

「君の『タイパ優先の三分間プラン』とは。己の生殖器官における持久力の致命的な低さを『時短』という自己弁護で誤魔化しつつ、パートナーの粘膜組織を物理的摩擦によって蹂躙し、最後には己の心室細動により腹上死を迎えて残された私に事後処理という最悪の『時間の浪費』を背負い込ませる。……この破滅的な欠陥企画の、一体どこに最高に合理的な妥協案があるというのか証明して見せろ」

 

「ウワーーーーッ!! 男のプライドが完全論破されて猿空間に消し飛ばされたアァーッ!!無様過ぎて哀れだろ殺してくれ……」

 

 涙目でわめく俺を見下ろしながら、ケルシーは深い、そして心底あきれたような溜息をついた。

 

「理解したなら、己の器に余る行為を短縮化という稚拙なマジックで可能だと偽るのをやめろ。性行為におけるタイパなどという概念は、コミュニケーションの完全な放棄だ。……さて。話題が逸れたが、講義を元に戻す。先ほど言いかけた進化論的妥協、および骨格構造とパシャ的パラフィリアの話だが──」

 

(まだヘルニアの話の続きやんのかーーーーーッ!!ちょっとからかっただけで、メイド服の社会主義批判から音声学の無線通信理論、最後は人類の直立二足歩行の進化とヘルニアまでぶっ通しで聞かされるなんて誰が予想するんスか……)

 

 理詰めの嵐に、俺の脳はすでにダウン寸前だ。ここは方針を転換するしかない。女は言葉だ。女は感情の生き物だ! 愚行を上書きする、極上のロマンチックで責めるんや!

 

「わ、わかった! 最初の言葉は取り消す! だからケルシー……俺はただ、純粋にお前と愛を深め合いたいんや。理屈抜きで、ただお前を愛してる……これだけじゃダメなんスか?」

 

 俺は最も甘い声帯を使い、渾身のラブコールを放った。どうだ、数万年を生きるヴィンテージ名器であっても、直球の愛の言葉には多少なりとも動揺……。

 

「……愛、か。実に興味深い、生存戦略と繁殖行動を補完する後天的な概念プロトコルの名称だ」

 

「は?」

 

「ドクター、君が今『愛』と定義づけし、私に対して出力したその単語の正体を神経内分泌学的に分解して再定義してみよう。ヒト、あるいは先民という高度に社会化された知的生命体が他者へ向ける強い好意や執着、そして現在君が直面している極端な情動の波。これはすなわち、視床下部から脳下垂体後葉を経由して分泌されるオキシトシン、および報酬系回路である腹側被蓋野から放出されるドーパミンとノルアドレナリンの一時的なカスケード反応の総称にすぎない。加えて言えば、視界狭窄をもたらすフェニルエチルアミンの上昇は、君の現在の大局的視野を完全に機能不全へと追いやっている」

 

(な、なげーよ! 俺の甘い「愛してる」の返事が神経内分泌学の学会発表みたいになっとるやん!)

 

「人類史において、なぜこの『愛』と呼ばれる過剰な神経伝達物質の放出プロセスが淘汰されず残ってきたか。それは、脆弱な赤子を一定期間保護するため、オスとメスを強制的に惹きつけつなぎ留めておく必要があった『群れの防衛戦略的バグ』の産物だからだ。この効果の賞味期限は学術的データに基づけばおよそ十二ヶ月から長くて三十六ヶ月と算出されている。つまり、君が今必死に絞り出した『愛』の証明など、私の歩んできた時間的スケールから見れば、まばたきにすら満たない極めて短期的かつ刹那的な化学的自己麻酔に他ならない。……ドクター、この程度の脆弱な麻酔で、私という論理機構を説き伏せられると本気で計算していたのなら、その致命的な見立ての甘さには頭痛を禁じ得ない」

 

「ドーパミンの異常代謝の話なんざ聞いてへんのや……っ! もっとこう、ハートでキャッチボールしてくれや! ボカシなしのロマンスはテラには存在せんのかァーッ!!」

 

 議論の末に疲労だけが蓄積していくが、目の前にはケルシー。そしてすぐ横には俺の私室のベッドがある。言葉の隙を突いて物理的に押し倒せば、後は既成事実を作れるんじゃねーか……?

 

 俺が少しずつジリジリとベッド側へ誘導するように距離を詰めようとした瞬間。ケルシーが横目であのベッドの惨状を観察し、小さく舌打ちをした。

 

「ドクター。その視線の誘導と体重移動のベクトル……最終目標がそこに置かれた簡素極まるマットレスにあることは推測できる。しかし、環境アセスメントの観点から言って、あの寝具で他者との高度な身体的コミュニケーション、すなわち君の求める物理的交接を執り行うのは推奨できない」

 

「ベッドなんて横になれればええやろがい! それともロドスの最高責任者はスプリングの質にまでケチをつけるお嬢様だったってことスか!」

 

「お嬢様ではない。ロドスの医療体制を管轄する者としての見解だ。あそこのシーツの繊維表面の凹凸を見るに、洗濯サイクルは適正な三日以内を超過している可能性が78%。それに加え、室内の湿度が現状55%を割り込んでおり、そのような環境下での激しい有酸素運動──君の言う交接による大量の呼気排出および発汗は、結果的に室内の相対湿度を局所的に上昇させ、ハウスダストダニの急速な増殖とカビ胞子の飛散を招く」

 

(な……なんで今からボボパンしようとするベッドの、ハウスダストの話されとんのや……雰囲気ぶち壊しもええところやんけ!)

 

「さらに人間工学の視点から言えば、君のベッドの体圧分散値は標準的な一人用の睡眠にしか最適化されていない。そこへ私の質量、そして動作による動荷重と応力が加わった際、腰椎へ与える剪断力が君の予想を超える。私の脊椎の耐久度は君とは比較にならないが、脆弱な構造を持つ君の腰部関節にかかる負担係数を考えれば、最悪の場合椎間板の損傷、いわゆる急性腰痛症──『ぎっくり腰』を引き起こし、明日からの戦域指揮において長時間のデスクワークが不可能になるのは明らかだ。私という圧倒的な機能を持つ『存在』を受け止めるためには、それに耐えうるだけのサスペンション機構を備えた耐荷重のフィールドを整えておくのがホストとしての最低限の要件だという基本的なタスクすら完遂できない君に、夜のイニシアチブを握る資格など無いと総括するしかない」

 

「あ、アホな……。部屋が汚いしベッドがショボいから俺がぎっくり腰になるかもしれんとか、そんな理由でおあずけ喰らうとかありえるんかーっ! 腰なら! マネモブ特有のタフさでなんとか耐えてみせるからーっ!」

 

「ダメだ。君が自己管理能力の欠如を物理的な怪我として露呈した場合、結局私の業務としてその治療が舞い込んでくる。結果として私の負担が増すという費用対効果の悪すぎるリスクを背負い込む道理がない」

 

(だ……打つ手がない。衛生、ダニ、腰椎への負担。完全な正論の装甲に包まれた言葉の前では、勃起したタフな肉体も完全沈黙するしかないんや……)

 

 だが、ここで折れるのがタフを自称する男であってたまるか! 言葉で勝てないなら行動で封じるまでだ。

 

古今東西、喋りすぎる女の唇は男の唇で強引に塞いで黙らせるのが純愛ラブコメの定石なんや!

 俺は「あーあ、もう理屈は聞き飽きたぜ」というドラマ顔を作り、ケルシーの言葉を遮るように強引に彼女の肩を抱き寄せその冷たくも美しい唇へ己の口を重ねようと猛然と顔を近づけた。

 

 ──バサッ。

 

 しかし、俺の唇がケルシーのそれに触れる直前、ミリ単位の隙間を塞ぐように、一枚の『殺菌済み滅菌ガーゼ』が無慈悲に挟み込まれた。

 

「んむっ!?」

 

「……衝動的な口腔粘膜の直接接触。ロマンティシズムを免罪符にした暴挙だな、ドクター」

 

 ケルシーはガーゼ越しに俺の口を完全にブロックしたまま、底知れぬ深海のような目で俺を見据えていた。

 

「事前のブラッシング、およびデンタルフロスによる歯間清掃の完了とうがい薬による口腔内常在菌の抑制プロセスを経ずに私の粘膜へ接触を試みるとはどういうことだ。君が今夜、執務の合間に摂取していた糖分の多い缶コーヒー、ならびに塩分の強い携行食の残滓が君の口腔内環境をどれほど悪化させているか理解しているのか?」

 

「むっ……むぐぐ!? 」

 

「ヒトの唾液一ミリリットル中にはおよそ一億個の細菌が存在している。その中にはストレプトコッカス・ミュータンス菌に代表される齲蝕原因菌や、歯周病を引き起こすジンジバリス菌などが多種多様なバイオフィルム、すなわち『プラーク』を形成し棲息しているのだ。とりわけ深夜の過労時やストレス下においては唾液の分泌量が著しく低下し、口腔内の自浄作用が弱まることで、メチルメルカプタンなどの揮発性硫黄化合物……極端に言えば生理的口臭が爆発的に増加する。これは科学的事実だ」

 

「んぐ、む……っ!」

 

(い、色気が一切ない! それより『お前口がクサいし菌だらけだろ』って冷静な事実を突きつけられる方が、男としてのメンタルに何万倍も致命傷が入るんだよね酷くない?)

 

 俺が身悶えして抗議しようとするが、ケルシーの手はアイアン・クローのように顔面を固定して離さない。

 

「その不潔極まりない環境下で培養された細菌叢を、キスという行為によって私の口腔内にダイレクトにトランスファー……移植しようとするのは、バイオテロに近い行為だ。ロドスの医療責任者である私の免疫系を不必要に稼働させ、炎症や感染のリスクを高める意図でもあるのか?」

 

「ぷはっ……! ち、違うやろ! キスってのは、そういうバイ菌すらも愛の証として分け合う儀式なんや! そこにペリオドンタルのガチレスを飛ばしてくる女がおるかーっ!! 口臭ぇからブレスケア買ってこいって言われとるのと同じやんけーーーーッ!!」

 

「『愛の証としての細菌共有』という論理的飛躍には感嘆すら覚えるが、それを実行したいのなら私以外の抗体の強いサルカズ傭兵か誰かで試すことだな。無論、相手からモーニングスターで頭蓋骨を粉砕されても労災は下りないが」

 

(ああ……もう無理や……。口のクサさと虫歯菌の話をされた時点でムードはおろか男としての尊厳まで完全につぶれてもうたんや……)

 

 そしてケルシーはベッドの脇にある折りたたみ椅子を勝手に引き寄せると、そこへ腰を下ろした。俺はMon3trに首をロックされた状態のまま動けない。

 

「とはいえ、だドクター。まだ話し終えていないことがある。キミと私に相互不理解のズレが発生している以上、ここで中途半端に別れれば君の意識の底に澱のように反発と疑惑の未練が蓄積し、結果として明日以降のロドスの各種手続きに関する承認や防衛体制へのフィードバックに悪影響を及ぼし兼ねない」

 

「も、もうええんや……! 俺は俺が悪かった! ケルシー先生に対して性処理頼もうとしたワイが悪かったんや……反省してますからベッドから降ろして!」

 

「―――逃げられると思うなドクター」

 

 無機質。全くの絶対零度の視線で、ケルシーが言葉を発した。

 

「私は今から夜が明けるまで、『テラにおける多種族国家間の歴史的な性倫理観念の形成および発達と宗教的制約の影響』と、『君自身の脳内においてオピオイド系受容体とドーパミン異常放出がどの程度のトリガーによって狂信的執着を引き起こしているかの神経科学的な検証』について。これらを順番に、君の目が開いて私へ直立の視線を保っている限りの時間いっぱいを使用して集中講義を行う」

 

「嘘だろええーっ!?」

 

「横になっていて構わない。が、君は真剣に聞き続けることだ」

 

 

 

 ──終わった。すべてが。

 

 そこからの三時間弱。それは阿鼻叫喚と表現してもいい時間だった。

 

「かつてサルカズという魔族に対する性暴力的な搾取の過去があったことから……」

「サンクタの銃器を用いたある種の閉鎖的タブーが文化的に……」

「ドーパミンの異常代謝においてD2受容体が反応している現状の君のPTSDは……」

 

 

 行為どころではない。エロティックな単語は次々と紡がれる解剖学、発生学、内分泌学的な見地、それらは俺の下半身に集まった熱を一時間単位で確実に取り崩し、最後には冷たい虚無へと完全に冷え切らせた。

 

 (な、長っ……何言ってんだこいつ……)

 

 ただずっと語りかけている。俺はまるで、試験前に一睡もせずに狂気じみた大学の偏屈教授からのマンツーマン地獄補習を受けさせられている生徒だった。前置きの長話が終わったと思ったら、次の第一章第一節がさらに長く続くのだから目も当てられない。

 

 時折「……どう思うドクター。君のこの所業について」と意見を求めてくるせいで気絶する暇さえ許されなかった。少しでも返答が曖昧だとMon3trの足が俺の腹筋に軽く叩き込まれ、息が詰まるという体罰つき。

 

 ああ……純愛でボボパンしたかっただけやのに……なんでこんな長い話付き合わなあかんのや……

誰か……この長い耳年増を超えた耳年増ババ──。

 

「何か不敬な考えが前頭葉の片隅を掠めたがドクター? モニタリングしているぞ。さて講義の続きだが、サルゴンにおいて発生したとされる伝統的配偶者獲得プロセスに見られる自己決定権と略奪の差異に関する事例について話を移すが……」

 

「ア、ア、ハイ……スイマセン」

 

(快眠ASMRとか冗談言うてたマネモブ達おったよな。なめてんじゃねぇぞ!こら!恐怖のあまり一分もまぶたを閉じれやしねぇんだぜ!! )

 

 ケルシコなんて言葉を作り出したヤツはどこのどいつだ。妄想が過ぎる。リアルでは長すぎる論理にぶん殴られて、脳ミソにダメージが入るだけなんやで。

 

 

 

────────────────────────

──────────────────

─────────────

────────

 

 

 

 

 そして。

 

「……ゆえに、自他の存在という定義的境界線を無視して生きた肉体を消耗品として換言するという言語プロセスは、歴史的悲劇を招き寄せた思考構造に完全に酷似している。君は今後この概念についての扱いを改めることを希望して、本件の共有と認識確認のクロージングとする。──以上だ」

 

 朝日。

 窓の外から差し込む、白く眩しいロドスの人工的な起床を告げる照明と同化した太陽の光。

 

 

「ど、どわーっ! ケルシー先生の話で完全に夜が明けとるやん!」

 

 

 俺は焦点の合わない目で天井を見上げていた。涙は枯れ果てている。結局服も一切何も脱いでおらず、一指足りとも彼女の身体には触れていなかった。

指どころか手さえ握ってない。それなのに、徹夜で過密すぎる会議を10本連続で終わらせたような、あるいは血の一滴すら残っていないほどの、致死レベルの重度の精神疲労が襲ってきている。

 

「ヤ、ヤることなく……夜が明けたんスけど……マジで行為中なんか比べ物にならない疲労なんスけどいいんスかこれ……」

 

 呟く俺の前で。ケルシーは涼しい顔をしたまま──いや、おそらく何千、何万時間でもノンストップで喋れる彼女に疲労の色はない──白衣を払ってすっと立ち上がった。

 背後で空を切り裂いていたMon3trも役目を終え、シュワシュワと実態を失い見えざる世界へと収納されていく。

 

「六時十三分。今日の外勤ならびに執務のシフトスタートに際し、遅刻などの過誤なきように願う。この後三十七分間で仮眠をとれば多少脳髄に絡んだグリコーゲンの修復が可能であるとの報告データがある」

 

(鬼かっ……!)

 

 あれだけ数時間にわたり俺から強制的に睡眠と安らぎと自慰という最後の手段のすべての希望を削ぎ取った挙句に、通常通り仕事しろと言って退室しようとするこの女。悪魔どころじゃない。長命者は伊達ではない。他人の一晩の重みを知覚するスパンが壊れまくっとるんや!

 

「ウ……ウソやろ、こ……こんなことが、こんなことが許されていいのか!ケルシー!オレを騙したのか!?」

 

 恨み言のように這いずる声を出した。

 

 その時。ドアのロックパネルに指をかけていたケルシーが、ふっと振り返った。

 無機質。無感情な人形のようにも見えた彼女の、エメラルドのような瞳が……たった一瞬。朝日に照らされて柔らかに歪んだ。

 

「……長い夜に君という話し相手を独占する名目ができて、その結果ドクターである君がいま『私の長ったらしい説教の声と情報で疲労困憊している』という事実は、誰にも共有できない私の一夜の証明として保存させてもらう」

 

「えっ」

 

「それと、最初に短絡的で敬意のない言い方でさえしなければ。……ベッドへの合意プロセスの形成には時間をかけなかった可能性については、いずれ考察材料に提供しよう。では仕事の時間だ。しっかり使えよ、今日の己をな」

 

 

 そのまま、扉の奥へとケルシーは消えていった。

 

 後に残されたのは限界まで疲労した体と、タフな心でも折れきった精神、そして──。

 

 

「ウワーッ!! ここまで説教しといて最後の最後でデレるなァァ!! ボカシなしでボボパンできたルートがあったってことやんけ!!くそァ!! 俺のクソボケがーーーーーーーー!!」

 

 

 

 朝日に向かって、枯れ果てた股間と溢れる涙とともに、マネモブ・ドクターの絶叫が虚しく本艦の通路に響き渡ったのだった。

 


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