自分をイケメンだと勘違いしていた俺、反省するも口説いてきた美女達が許してくれない。 作:恋愛を知らぬ化け物
らしい、でも、かもしれない、でも無い。来るのだ。
『ツバサさんを名乗る方から、「ゲスト出演したいです。蓮司に歌を聞いて欲しいから」という連絡が届いていて………悪戯かと思ったのですが、そのあと事務所の方からも連絡が来まして』
生徒会長に「またかお前」と言うかのような視線を向けられつつ教えられた、ツバサからの逆オファー。誰もが知るトップアイドルとしてスター街道をひた走っている彼女は、堂々と俺の名前を出して、自分を売り込んできたらしい。ちょっと文化祭が有名で、偏差値が高いことで有名なだけの私立高に。
「ツバサが来るの!?」
「すっげーな、さすが帝黎………」
教室の掲示板に張り出された「紅明祭ゲスト:ツバサ」と書かれた紙の前に、多くの生徒が群がる。聞こえてくる声の中に「知らない」や「違う人が良かった」といったネガティブな意見が入っていないところからも、彼女の人気と知名度が伺える。
「意外ね。あなたなら、アイドルが来るとなれば大喜びするものだと思っていたけれど」
紙パックの野菜ジュースをチビチビ飲みながら、クラスメイト達を眺めていると、いつの間にか隣に立っていた九条に声をかけられる。
俺が何とも言えない表情をしていたのを目撃したのだろう。小首を傾げながら、そんな事を言ってきた。
もはや彼女の方から話しかけてきた事に過剰に反応することもなく、いつも通りの俺を取り繕って微笑む。
「喜んでないわけじゃないよ?ツバサの曲は好きだし。ただ、俺は昨日聞かされてたし、みんなを押しのけてまでプリント見に行く必要はないかなって」
「そう」
「九条さんはどう?ツバサの事は知ってる?」
「………名前は知っているわ」
なぜか、表情が硬い。アイドルの話をしているだけとは思えないような、苦虫を嚙み潰したような顔だ。まさか、知り合い―――いや、九条に限ってそれは無いか。
Kasumiの娘だし、芸能人と知り合いでもおかしくはない………と思ってみたが、九条のぼっちは母親お墨付きだったし、多分芸能人どころか一般人でさえ知り合いレベルにすら達していないのが大半だろう。俺も友人を名乗れるようになるまでかなり苦労したし。
なら、一体その表情はどういう理由で………?
「それよりも。紅明祭の事で、少し話があるのだけれど」
「紅明祭の事?」
ほんの少し語勢を強めて話を打ち切り、話題を転換してくる。
紅明祭の事。俺に言うという事は、実行委員に伝えておきたいような重要な話………だろうか。
真面目に聞いている、というポーズをとるためにも、紙パックを自分の席に置いた。
「ええ。………その。紅明祭は、全部で三日、開催されるでしょう?」
「うん、そうだね?」
「なら、一日くらいは、誰とも約束をしていないような日が、ある………のよね?」
「約束って………」
ぽそぽそ呟く姿に、数日前の彼女がフラッシュバックする。
そう。その姿はまさに、花火大会の誘いを持ち掛けてきた時のようで。─――いや。ようで、じゃない。同じだ。九条はきっと、俺を誘おうとしているんだ。紅明祭を、一緒に回ろうと。
本音を言えば、そりゃあ嬉しい。嬉しい、が………それ以上に困る。
俺はもう、そろそろ本格的に人との交流を減らし、影を一層薄くするフェーズに入りたいのだ。紅明祭当日も、クラスの仕事や実行委員の仕事を言い訳にして、良い感じに人と接さないように過ごす予定だった。
だというのに、誘われてしまった。いや、誘われようとしている、か。
この場合、俺はどうするべきだろうか。察していないふりをして、もう予定が埋まっていると嘘を吐く?それとも、予定はないけど一緒に回ったりするのは無理と言ってみる?もしかしたら俺の想像とは違って、誘いでもなんでもない別の言葉が飛び出してくるのに賭ける?
それは、果たして『俺』らしい行動か?怪しまれて、逆に注目を集めてしまうような事にはならないのか?
「――――あのさ、九条さん」
「だからその、私と………っ、な、何かしら?」
考えもまとまらない内に、名前を呼ぶ。俺の声に遅れて反応した九条が、動揺を隠そうともせず、無理やり言葉を切って聞き返してくる。
さて、何をどうやって伝えるべきか―――と考えつつ、彼女から視線を逸らすようにして顔を上げると、掲示板集っていた生徒達が、全員こちらを見つめているのが見えた。
………おい、なんでだよ。お前らツバサはどうした。なんだその「こっちの方がなんか面白そうだぞ」みたいな視線は!!
ほんの数秒程度だが、言葉に詰まったせいで九条が首を傾げる。
不味い、これ以上時間をかけるわけにはいかない。かといって、断ったり、遠ざけたりするようなセリフを今この状況で出すのはもっと不味い。それはあまりに
な、なんか無いのか?みんなが興味をなくして、俺達の会話から意識を逸らしてくれるような何か―――!!
「………………良かったら、紅明祭、一緒に回らない?」
「っ!え、ええ。良いわ。二人で、一緒に回りましょう」
思いつきませんでした。
絞り出すように、されど今までの俺を意識した声音と表情で手を差し出す。
これまでなら無視するかそっぽを向くかしていただろうその手を、九条は迷わず取った。
それだけで、たったそれだけの事で、本当はしたくも無かった申し出が、「やって良かった」と心の底から思えるようになってしまうのだから。やっぱり俺は、単純な男なのだろう。
♡―――♡
「木材買ってきたよ~」
「おー、そこ置いといてー」
「痛っ、また針刺さった………って、うわっ、ごめん!血ついちゃった!」
「血は後でなんとでもなるわよ。まず怪我の心配しなさい。ほら、絆創膏」
昼休みも終わり、紅明祭準備の時間。生徒達は内装を作ったり衣装を作ったりと、精力的に活動している。
俺も、内装担当の一人として、のこぎり片手にギコギコやっている。
「すごーい。御堂君、手際良いー」
「まぁ、DIYって程じゃないけど、趣味でこういうのは良くやってたから」
木組みのおもちゃとか、子供が屈んで入れる程度の小屋とか。お菓子の空き箱工で作ったおもちゃと良い、そういうのを作ってやると舞が喜んでたからな。某ワクワクする工作の人の番組を熱心に見て、ネットでもそういう工作の記事とか探してたっけ。
勘違い野郎時代でも、親戚の子とか、クラスメイトの弟とか妹とか、作ってあげる相手には事欠かなかったし、ほんと無駄な事ってないんだなぁとしみじみ思わされる。
「三宅さんの方は順調?」
「うん。今は休憩中。思った以上に早く進んでるから、余裕ありそう」
「なら良かった」
衣装も内装も、来週までには大半を完成させたいところだ。驚かしの練習も、実際に衣装を着た状態でやった方が身が入るだろうし。何より一回当たりの時間を計測しないといけない。もし時間がかかりすぎるようなら道を減らしたりしないといけないし、明るさの調整とかも考えないといけない。他にも色々と、実際に組み立ててから考えた方が良い事があるのだ。
お化け屋敷って、大変だな………。
そんな当たり前の事を考えつつ、切り終えた木材を色塗り班に渡し、新たな木材を切り始める。その間も三宅は俺のそばを離れず、なんなら適当なところから椅子を持ってきて、腰を下ろした。
休憩するのは良いけど、ここだと木くずで汚れない?
「………ね、御堂君。朝の話なんだけど」
「朝?」
「うん。紅明祭、九条さんと一緒に回るって話」
「それがどうかした?」
背もたれに抱き着く形で座った三宅が、静かに口を開く。ノコギリを動かしながらだが、彼女は特に気にしていないようなので一々止めない。正直内装組はこのままだとちょっと危ういペースなのだ。
男子一同、全力で頑張ってるんだけどね………。
「どうかした、って程でも、無いんだけどね?―――その、それって、まさか三日全部?」
「まさか。まだいつかは話し合ってないけど、多分一日だけだよ」
「そっか」
ギコギコギコ。ゴトン。
我ながら良い手際だ。額の汗を拭い、木材を渡し、受け取る。そしてまた切る。
そんな俺に、三宅は数秒程度間を置いてから、思い切ったように再び声をかけてくる。
「―――じゃ、じゃあさ。九条さんと回る日以外の日、私と」
「なー御堂、木材今切ってる分で全部だけど、足りそー?」
「え?あー………ごめん三宅さん、ちょっと待ってて」
毛先をくるくると忙しなく回しつつ、何かを言おうとした三宅だったが、その言葉は一人の男子によって止められる。一人の男子、とは言ったが、松来だ。彼は男子代表、とでも言うべきリーダーシップを発揮して、材料管理や全体指揮(男子)の補助をしてくれていたりする。
正直、いつぞやの殺気はどうしたと思わざるを得ない協力っぷりに、言いようの無い恐怖を感じていたりするが、助かっているのは事実なのであまり気にしていないフリをしている。
何より、今のこの親しみやすい態度が本来の松来なのだ。痛々しさの権化みたいな俺にさえ、(それが例え困ったような笑いであったとしても)笑顔を絶やさずに対応してくれたのが松来なのだ。
だからなんかちょっと必死さを感じる表情で、なおかつ「距離感大丈夫?」と言いたくなるレベルで三宅の近くに立ってるけど、大丈夫だろう。少なくとも、それ以外は全くもって普通だったし。自称松来の友人が釘を刺しに来た以外に何も起きてないし。
「―――ねぇ、さっきから何が言いたいの?」
………平気平気、って、思ってたんですが。
内装関係の各班の代表から木材とその他材料が現状どの程度あるのか、それで足りるのか、足りないのかを聞いていたところ、ピリッとした空気が教室に流れ始めた。
俺が代表たちと話し合いをしている最中に、三宅と松来の幼馴染ペアも何かを話していたらしい。それで、松来が何か地雷を踏んだ………と、見た感じそう思われる。
声のボリュームがやや上がり、その分トーンが下がった三宅が、目を細める。懐かしい表情だ。まだ話しかけ始めたばかりの頃、俺もしょっちゅうあんな顔をされてたっけ。
まぁ、三宅さんに限った話じゃないんだけどね。俺への態度は。
「何がって………別に?ただ、距離感っつーの?変じゃねって」
「別に変じゃないし。そもそもアンタに関係ないし」
「ッ―――!!ざっけんなよ!あんな、あんな奴のどこが良いんだよ!!」
どうでも良い事を考えている間に、口論はさらにヒートアップ。と言っても、声を荒げているのは松来だけで、三宅の方は冷たい目を向けているだけなのだが。
流石に止めに入った方が、と考えたが、色塗り班代表の男子に肩を掴まれ、首を横に振られる。俺が行ったら逆効果、らしい。俺を恋敵と勘違いしているようだし、確かにその通りかもしれない。現に、俺の方をビシィッ!なんて効果音が付きそうな勢いで指さしてきてるし。
でもアレを放置するのは、あまり良くないんじゃ無かろうか。松来は男子の、三宅は女子のリーダー格だ。その二人が喧嘩してそのまま関係が悪化したら、男子と女子の間に亀裂が入ってしまう可能性もある。そうなれば、紅明祭はおろか、三組の今後も危うくなってしまう。それはいけない。いくらフェードアウトして、全員から居ないのと同じ扱いを受けようとしている身でも、ギスギスした雰囲気のクラスは嫌だ。
かといって、俺に何ができるんだって話だけど―――。
口角泡を飛ばして喚く松来に、苛立ちを隠さず言い返す三宅。誰もが遠巻きに眺めだけに終始していた中、二人の間に割って入ったのは、いつの間にやら教室に来ていた田淵先生だった。
「一旦落ち着け、二人とも」
「っ、先生」
「あ、ちょっと聞いてよ先生。松来がー」
「話は後で聞いてやる。別室でな。―――御堂。倉本先生から『使いたい工具あったら持って行って良いよ』と言われている。必要なら取りに行け」
「あ、はい。ありがとうございます」
田淵先生はそれを伝える為に教室に来たらしい。俺が倉本先生にダメ元で聞いてなければ、あのまま二人の喧嘩を誰も止められず、最悪の事態を迎えていたかもしれない、という事か。
………でも、二人の喧嘩って松来が俺を恋敵だと勘違いしたせいで始まってるっぽいし、俺のおかげとは言えないか。自分の不始末を自分で何とかしただけ、って感じ。
不満そうな顔のまま、しかし言われた通りに喧嘩をやめた二人を連れて、先生が教室を後にする。
ドアが閉まり切ったところで、至る所から安堵のため息やら「松来くんがあんなに怒ってるの初めて見るかもー」などの、さっきの喧嘩の感想(?)やらが聞こえ始めた。
同時に、こちらを見てヒソヒソと話す奴らが出てきたので、俺は工具の受け取りを言い訳に、教室を出た。
………松来とは、本気で話し合う必要があるのかもしれないな。
ついに月一更新すら失敗した、筆が遅いにもほどがある作者は誰でしょう?―――そう、私です。
言い訳ならいくらでもありますが、大半レポートとシャドウバースのせいです。
ドライツェーンの太ももに全てを狂わされました。
松来が声を荒げている場面を、実はクラスメイト達は初めて目撃しました。というか、松来が声を荒げるような事は、中学入学以降無かったんです。お調子者キャラでありながら、喧嘩や暴言なんかは飄々といなしていました。
因みにその理由は、喧しい悪ガキだった頃の自分が、三宅の男嫌いの原因になってしまった事を知った為です。
小学生の頃はデフォで大声かつ喧嘩上等!なガキ大将でしたが、そんな自分だと遠ざけられると理解してから、何とか持ち直そうとしていたわけですね。