「竜胆君って塚本君と仲が良かったですよね!」
「うん? まぁそうだけど」
土曜練習の昼休み。午後の練習に備えたエネルギー補給を終えたところで、緑輝に話しかけられた。心なしか目がキラキラと輝いているように見える。
「それならどんな格好が好みなのか知っていますか?」
「……格好の好みは聞いたことないな。いきなりどうしてあいつの好みを? 川島さんが狙ってたり?」
「私じゃありません。ふっふっふっ……実はですね。その塚本君とある人が一緒にあがた祭りに行くんです」
おお! あいつ、ついにやったのか。
「そう、葉月ちゃんが!」
「ひとがいないところで何やっとんじゃお前はぁ!」
教室に戻ってきた葉月にスコンと小突かれる緑輝。
おお? あいつ、何やってんだ?
「……それは良かった。告白でもするのか?」
「そうなんです! 恋する乙女は次のステージへ! お祭りで告白というイベントを経て、甘酸っぱい青春の1ページを―」
「好き勝手をするのはこの口か!」
「痛いれふ」
藪をつついたのは自分だがマジかよ。割と最近、知り合ったはずなのにもう告白をするのか。
よほど熱が入っているのか、いつもの穏やかさからは想像できないような速さで口が回る緑輝。友人の恋バナでここまで盛り上がれるのは感心してしまう。緑輝の口をおさえている葉月もまんざらでもなさそうだ。
「告白までいかなくとも遊ぶだけでもいいんじゃないか。オーディションも近いんだし、その後とか」
塚本の葉月に対する印象がわからない。祭りに一緒に行けるぐらいなのだから悪くはなさそうではある。しかし、本命の話を聞いた身としては葉月の告白が成功するとは思えない。
浮かれているぶんには構わないが、失恋をしたらこいつは絶対に引きずるだろう。練習の時まで尾を引かれるのは嫌だしここで説得をすべきか。もちろん、一発逆転の大勝利の可能性もあるんだが。
「緑に背中を押されたからってのもあるけど……、この気持ちをすぐに伝えないと一生いえない気がするんだ。今、私が心の底から伝えたい、って思っているから」
「そうか……」
恋に浮かれているだけ、と言えないほど真剣な目をしていた。葉月なりに真剣に向き合って考えたことなのだろう。
その姿は武臣には酷く眩しく見えた。そう言うのなら、当たって砕けるにしろ貫くにしろきれいに終わってくれることを祈るしかない。
「その意気です。葉月ちゃん! さっそく告白にいきましょう!」
「え。ちょっと気が早いって! 自分のタイミングで行くから!」
きゃあきゃあと盛り上がり2人。姦しいというのは女が2つでも成り立つのだろう。
そういえば、と目線を動かすと教室の隅に久美子がいた。先ほど見た時と変わらずクロスでユーフォを磨いている。割と大きな声で会話をしていたような気がするが、影響はないようだ。良いんだか悪いんだか。
……ん? いや、よく見ると洗練された動きでひたすら全体を磨く動作が繰り返されている。しかも、心なしか目の焦点があってない。絶対影響受けてるわコレ!
もしかして……どう転んでも低音パートの空気は悪くなる……?
「で、どういうことか説明してもらおうか。低音パートの
「人をサークルクラッシャーみたいに言うな!」
うん、言っててムリがある気がしたけど伝わって良かった。
取調室というのは広いファストフード店。目の前に座る塚本の前にはカツ丼代わりのしなびたポテトが置かれている。
「実際、驚いてんだよ。黄前さんを誘う、って言ってたお前が加藤さんと祭りに行くことになってるなんて」
「それは……。あんな誘われたら断れないし。久美子だって先約があるのを知ってたら……」
どこか心苦しそうに言葉を出す塚本。先約があったというのなら仕方がないか。
しばらく一緒に活動をしていた時間が長いせいでマヒしていたが、葉月は普通にかわいい。教室でもあの元気のよさが変わらないならば、多くの男子が勘違いするだろう。
「そもそも俺が誰と祭りに行くかなんてお前に関係ないだろ」
「関係ないことはない。よそのパートならともかく、うちのパートの2人が関係してんだぞ。しかも友人どうしの。オーディションが近いってのに、祭りの結果によってはたいへん空気がまずくなる。関係性を知っている身としては今後の練習のために、是非とも軟着陸してもらいたい」
低音パートは塚本に引っかき回されていると言ってもいい。武臣たちが3年の時にこの出来事が引き起こされたら目の前の男を殴っていたことだろう。今は発言力のない1年だからいいが、先輩たちの足を引っ張るのは拙い。
「俺が加藤と祭りに行っただけで?」
「黄前さん。加藤とのデートにショックを受けてたぞ」
「……そっか」
ちょっと嬉しそうにしてんじゃねぇよ。
この調子だと葉月の分は悪そうだ。同じチューバ仲間として葉月の恋が成就してほしかったんだがなぁ。ん? その場合、緑輝も一緒に共倒れしそうな……。まぁ彼女は意外と大物だし大丈夫だろう。
「はー、モテる男は大変だな。手伝ってる露店を見かけたら寄って来てくれよ。少しはサービスしてやろう」
「別にモテてはないって。てか、どこら辺にあるんだ?」
スマホを取り出し、地図を開く。楽しい思い出の一助になればいいのだが。