宇練銀閣、城とともにアビドスに異世界転移するの巻。

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最近ブルアカにハマり気味です。
なんか書きたくなって準備中なんですが、それとは別件で思いついたアイディアを息抜きとして描いてみることにしました。


アビドス高等学校教員 宇練銀閣(一国一城刀付き)

 宇練銀閣は眠かった。いつものことである。

 しかし今日はいつにも増して眠かった。何故と言って昨晩の大地震からこちら、このひどくくたびれた居城は悲鳴を上げ続けているからである。

 

「下酷城、お前も死に損なったな」

 

 畳にしていくらもない、襖以外になにもない小さな一室の壁際にて、暗がりの向こうにある天井を見上げて男はひとりごちる。

 鳥取藩全土を印旛砂漠が呑み込んで幾年月。

 栄えたる折は藩主が座したこの下酷城の雄姿も今は昔、城主はおろか自分を除いて人一人いないこの城は、風雨と砂塵に曝され続け、ただ砂漠のど真ん中にそびえるただ大きいだけの廃墟と成り果てた。

 そこに地震があったとなれば、揺れが収まった今日とて、あちらこちらが軋み続けている。

 

「……ああ、眠れやしねぇ」

 

 この男、銀閣は寝つきが悪く常に眠りが浅い。

 住処がこうも軋み続け、風が吹き込み続けていては、とてもではないが眠るどころではない。

 よって一晩、うたた寝止まりの男は寝不足であった。

 

「いっそ崩れてくれれば、おれも城もけじめがついただろうによ」

 

 そうすれば。

 と、そこで続く言葉を呑んだ銀閣である。

 壁際で座る銀閣が見るものは、見飽きた襖でも壁でも、天井でもなかった。腰に差した一振りの刀であった。

 斬刀・鈍。

 かつて存在したという奇天烈な名工が遺した、やはり奇妙奇天烈な刀。斬れぬもの無しと謳われ、銀閣の先祖が頑なに手放そうとしなかった一振り。

 それが嘘偽りか大言壮語のたぐいであれば救いもあっただろうが、なんの冗談かまったくのまことであった。

 斬刀・鈍はあらゆるものを斬る。

 極めつけに、至高の名刀ゆえにゆえに持ち主を魅了して手放させない、毒のような魅力を持っている。それは銀閣のような剣士にはことのほか強く作用する。

 だから銀閣は刀を手放せない。

 だから宇練銀閣は、この城を守ることにした。

 

「別のものを選べたと思うか、このおれが」

 

 宇練の家に生まれなければ。

 この刀を手にすることがなければ。

 この地に残る最後の一人になっていなければ。

 そうすれば自分も、なにかもっと別のものを守れる人間になっていたのだろうか。

 

「――戯言さ」

 

 すべては終わったことだ。

 銀閣は宇練の家に生まれたし、斬刀・鈍の所有者になったし、鳥取藩最後の住人として下酷城に居ついた。

 そしてきっと、遠からず崩れる城の一室で、終わらない眠りを待ちながら目を伏せている。

 その日まで、斬刀・鈍を狙う賊を切り伏せながら。

 だから、

 

「来たか」

 

 襖の向こうで足音がする。

 古びた廊下は、自然に生まれた鴬張りだ。少しでも体重がかかれば鳴き声を上げる。それが一定の間隔で響くともなれば、誰かが近づいてくるとすぐ分かる。

 そうでなくとも、どうやら足跡の主は通り過ぎざまに襖を片っ端から開けているらしく、物音には事欠かない。

 まったくもって無遠慮で思慮のない賊である。

 やがて足音は銀閣のいる部屋の前に差し掛かり、

 

「ぁ」

 

 開かれた襖の向こうにいたのは女だった。

 それも、かなり奇抜な恰好の女である。

 

「……?」

 

 見たこともない服にやたらとさらけ出した生足。とてもではないが銀閣の知る女性がするような、慎みのある恰好とはいえなかった。

 しかも女は鉄製の鞄のようなものを肩にぶら下げている。女性にしては体格はいいが、そんなものを持って印旛砂漠を渡ってくるなら、水と飯を背負子いっぱいにして担いだ方がずっとましだ。

 だが一番おかしなのは、頭から覗く光の輪のようなものだった。

 なにか家紋のようなものを描く光の絵図が、後頭部に浮かんでいる。それはまるで、幕府に禁じられた海外の宗教画に出てくる神使のようだった。

 ありていに言って、ひどくとんちきな女だった。

 

「……まぁいいけどよ」

 

 目を丸くした銀閣だったが、すぐに考えるのを止めた。

 どうせもうすぐ斬り捨てる相手だからだ。

 こんな砂漠のど真ん中に立つ廃城にわざわざ入ってくる者など、斬刀・鈍を奪いに来た賊以外にはありえない。

 だから斬る。

 それで十分だ。

 刀の毒と宿業に侵された銀閣ができることは多くない。

 この一室、銀閣の間合いそのものである部屋に一歩でも踏み込んだら、首なり胴なりまっぷたつにして見せる。

 

「ぁの」

 

 女の声はひどく干からびていた。

 見ればいたるところが砂まみれの埃まみれ、肌は今にもひび割れてしまいそうなほどに渇いている。

 どうやらここに来るまでにだいぶ消耗したらしい。

 まぁ城内の襖を片っ端から開けて来るような相手だ、そのあたりの準備も足りなかったのだろう。

 馬鹿な小娘、とだけ心の中で呟き、

 

「ぁ、あの」

「なんだって? よく聞こえねぇな」

 

 嘘だ。

 女の声はたしかに干からびていて小さかったが、聞き取れないほどではない。いまだ敷居の向こうにいる女を室内に踏み出させるための嘘である。

 

「随分苦労して来たようだが、声が小さく聞こえねぇな。入ってきて、もっと近くで話してくれよ」

 

 その瞬間、首を泣き別れさせてやる。

 そのつもりで銀閣は狙いを見定めようとして、

 

「……ぅ」

 

 室内へ女が入ってきたのを見た。

 

「!」

 

 まるで倒れ伏すかのような前傾姿勢。走り込む構えをとってこちらに突っ込んでくるつもりか。

 

「甘い」

 

 奇策ではある。

 しかしその程度の策でこちらの意表を突けると思ったら大間違いだ。銀閣の反射速度と居合の速度は不意打ち程度では鈍らない。

 しゃがみ込んで走り出しの姿勢をとるなら、否が応でも減速し、蹴り出すまでの猶予がある。その間に頭をまっぷたつにしてみせる。

 

「――零閃」

 

 鍔が鳴く。

 刀身が光を受けることもないほどの速度。光速を超えると豪語するだけの剣速が飛び、部屋の中へと入り込んだ女の頭を狙う。

 あらゆるものを切り裂く刃は女の頬から入り、鼻筋を割り、頭を上下に斬り分ける。

 そのはずだった。

 

「は?」

 

 だがそうならなかった。

 女は減速せず、むしろ加速して室内に倒れたからだ。

 顔面を勢いよく畳へと叩きつける、どこにだしても恥ずかしくない、まごうことなくそのものずばりと言うべき転倒であった。

 銀閣が斬ったものといえば、倒れるのに合わせてなびいていた女の長髪だけである。

 切り裂かれた髪の束が宙を舞い、敷居をまたいで倒れ伏す女の上に降り注ぐ。

 

「………………」

 

 刀を収めた銀閣は、呆然とした顔で女を見た。

 斬ったわけでもないのにぴくりとしない女に対して、ではない。入ってくるなり倒れ伏した意味不明な挙動について、でもない。

 切り捨てた女の髪に手応えがあったからだ。

 

「なんだこりゃ」

 

 手応え。

 それは斬刀・鈍を使う限りにおいて、銀閣が一度たりとも感じたことがない獲物の存在感であった。

 斬刀・鈍はすべてを斬る。

 木も岩も鉄もなんでも斬り裂く。人体は最たるものだ。感触一つなく、素通りするかのように切断する。

 しかし女の髪にはそれがあった。

 人体すら容易に断つ斬刀・鈍が、たかが髪の毛の束ごときに手応えを感じさせるなど、これまでにないことであった。

 斬ることはできた。

 しかし、何かがおかしい。

 

「おい娘、一体……」

「……がい、しま……」

 

 思わず問いかけた銀閣であったが、しかし当の女はそれどころではなかった。

 鼻面を畳に打ち付けたから、ではもちろんない。

 人に会い、倒れ伏した拍子に、それまで女の中にあったはりつめたものが途切れてしまったのだから。

 

「……ぉねがぃ、します……みずを……みずをわけてください……もう……なんにちも……のんでないんです……」

「……あんた、遭難者か」

 

 思わず頭を掻き、嘆息してしまう銀閣だった。

 現れたのはごくたまに現れる賊かと思えば、もっとありえないほど珍しい、この城と自分に対して希望を見出した砂漠の遭難者であったのだ。

 正直な話、ばつが悪かった。

 宇練銀閣はどこに出しても恥ずかしいれっきとした人斬りである。勘違いで人を斬り捨てたところで罪悪感を得るような良心は持ち合わせていないし、斬刀・鈍の毒に侵された心は刀を振るうことに一切のためらいを持たない。

 しかし。

 だが、自分が勘違いで斬り殺すことは認められても。

 自分を救い主と勘違いされたまま殺すのはいただけなかった。

 

「……生憎と、ろくなもんはねぇぞ。この城にはおれしかいねぇからな」

 

 

 

 

 

△ ▲ △ ▲

 

 

 

 

 

「まったく、がふがふと犬みてぇに飲みやがって」

 

 倒れた女に肩を貸し、自分用に貯めておいた水や保存食の元まで連れて行ったのが数刻前。

 柄杓でもって少しずつ水を飲ませてやったのが運の尽き。自分から動く余力が出来たかと思うと、まさしく餓鬼かなにかのように、一心不乱に水を飲みあさり、保存食を食い散らかした女がそこにいた。

 そして散々銀閣の貯えを消費したかと思えば、改めてくたばったように寝入ってしまった。

 

「なんなんだ、あの女は……」

 

 さすがに今度こそ死んだかと思ったが、かすかなりとも息はしていた。飢餓状態からあれほどの勢いで飲み食いすれば死んでもおかしくないと思ったが、中々どうして頑丈な女である。

 あとに残されたのは、無防備に倒れ伏した女と、空になった水瓶と食糧庫、そして髪の毛がまき散らされた自分の居室だけだった。

 

「……血の染みた畳を片づけたことがあるが、女の髪を片づけるなんざはじめてだよ、まったく」

 

 女を寝床に寝かせてやる気にもならず、食糧庫に置き去りにして居室に戻った銀閣を待っていたのは、そんな現実であった。

 砂混じりの髪が、敷居をまたがるように廊下と居室の中に散乱している。

 それをまたぎ、あるいは踏みしめて、そのままにした上で改めて眠りこける気には到底なれなかった。

 

「どういう女なんだ、あいつは一体……」

 

 今日何度目かも分からないため息をつき、銀閣はしゃがみ込んだ。他人の髪の毛を拾い集めるなど気色の悪いことであったが、それしか手がないのだからしょうがない。

 一本一本、一束一束、残りがないように拾い集める。幸いにして細切れになったものはなく、いずれも長さを保ったまま散らばっていたので、集めるのには苦労しなかった。

 だから手に女の髪を握りしめ、城の外にでも捨ててこようと振り向いたところで、

 

「……今日は千客万来だな」

 

 足音を聞きつけた。

 寝入った女のものではない。女がいる食糧庫とは反対側の廊下から足音は聞こえてくる。

 しかも今度の足音からは抜け目のなさを感じる。ちゃんとこの城を不信に思い、なにか危機があることを想定した、ちゃんとした抜き足差し足だ。

 それにしても、この短い期間に下酷城へ部外者がやってくるとは珍しいこともあるものだ。

 銀閣が新たな足音を見たのは、丁度そう思ったとこのことだった。

 

「………………」

「よぉ、今度の客は随分小さいな」

 

 相手は小柄な少女だった。短く切り揃えた髪に、やはり見慣れない服を着こんでいる。頭の上に光の絵図を浮かべているのも同じだ。

 あれはなんなのだろうか。

 自分が砂漠に引きこもっている間に、ああいうものを映す技術や、それを浮かべる流行が世の中にはできているのだろうか。

 しかし、それを聞く間はないらしかった。

 まるで野犬のような目をした少女は、ひどく驚いた様子で目を見開き、かと思えば憎悪するかのように険しい表情でこちらを睨みつけたのだ。

 

「……お前」

「あ?」

「お前、ユメ先輩になにをした……!」

「はぁ?」

 

 ユメ先輩。

 聞き覚えのない名前であったが、しかし心当たりはあった。むしろそうであろうか、とも思っていた。

 おそらく、先ほど自分の前に現れた女がユメ先輩とやらなのだろう。そして目の前の少女は、そのユメ先輩を探してここまで来た。

 そうでなければ、こんなに連続して部外者が城にやってくるはずもない。両者は関係者だったのだ。

 だから伝えなければなるまい。あの女のことを。

 

「あぁ、この髪の女のことか? それなら……」

 

 ことは正確に。

 

 

 

「――おれが斬ったよ(髪の毛を)」

 

 

 

「あああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 

 

 絶叫。

 激昂。

 そして火花。

 

「なにぃ……!!?」

 

 女が突き付けた、やたら複雑な造形をした鉄の筒。

 その先端を突き付けられたこと、それが火縄銃に思えたこと、剣士として生命の危機を感じたこと。

 何より、斬刀・鈍とそれを使いこなす腕前があったこと。

 それらが、迫る銃弾を切り伏せるという離れ業でもって銀閣の命を繋いだ。

 

「零閃!!!」

 

 手にした髪の毛を投げ捨て、刀を抜き放つ。

 来たのは大振りの弾丸だった。

 しかし来ると分かって正面から来たものを斬れないようでは、斬刀・鈍を持つ居合の剣士たりえない。

 弾丸をきっちり真ん中で両断せしめた銀閣であった。

 

「な……!」

 

 今度は少女が驚きの声を上げた。

 人が刀一本で弾丸を真っ向から切り伏せたのだからそれも当然だ。二つに割れた残骸は、銀閣の左右にある壁をえぐって薄暗い廊下へと消えた。

 硝煙と粉塵が漂う廊下。

 残るのは刀を構えた男と、銃を向けた少女だけ。

 

「ご挨拶だな。そりゃ新手の火縄銃かい?」

 

 額から伝う冷や汗を舐めとる銀閣である。

 銀閣が知るものとはけた違いの正確さと威力を誇る銃器だ。何より、銃というものは目の前の矮躯が使えるような代物ではない。撃てばそれ相応の反動が持ち主を襲うからだ。

 しかし少女にはわずかたりとも怯んだところがない。

 先の女がそうであるように、光の絵図を浮かべた女は何かがおかしい。

 

「まったく、おれが城に引きこもってる間に世の中じゃなにが起きてんだぁ……?」

 

 などとのたまう銀閣だったが、考える暇はない。

 敵は見知らぬ最新鋭の銃を使うやたら頑丈な少女。しかも放つ気配はただ者ならざる猛者のそれ。こちらが弾丸を斬る手合いと分かれば、先ほどのような激情任せの手にはでないだろう。

 対してこちらは刀一本。

 それも長年こもり続けた間合い同然の自室という結界から出た、やり合うに不慣れた環境。

 

「さぁて、どうしたもんか……。おい嬢ちゃん、お前さん、名前は」

「……答えると思ってるのか」

「銃を使う手合いにゃ分からんか? 殺し合うってんなら、名乗り合って尋常にいざ勝負……ってのが常だろうがよ」

 

 と、言いつつ時間を稼ぎ、相手の動きや得物を見定める銀閣である。

 それを知ってか知らずか、どうでもいいと思ったのか、あるいは無意味に終わるのだからどちらであってもいいと思ったのか。

 ともあれ、少女は口を開いた。

 

「アビドス高等学校生徒会、――小鳥遊ホシノ」

 

 下酷城城主、斬刀・鈍の宇練銀閣。

 対。

 アビドス所属、生徒会の小鳥遊ホシノ。

 ただ者ではない相手との、いつ以来になるかも分からない修羅場。それを前にして、銀閣の心臓は武者震いによって高鳴っていた。




私、ブルアカ原作は最終編第2章が始まるあたりなので、ぶっちゃけアビドス編第3章はSNSで流れてきた情報しか知らないのですが、それにしたって「そんな風に死ぬ人じゃなかっただろ……!!?」という気持ちになったので、こんな感じのを書いてみました。
ブルアカ世界において刀の位置づけってどんな感じなんですかね。

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