風が吹いていると他人事のように思う。乾いた風に混じった砂が、柔く肌を撫ぜるたびに、冷たいような熱いような、どちらのようにも思えるものを感じた。
私は倒れていた。
辺りは一面が砂、砂丘に覆われている。そして何もかもが乾いていた。
口のうちがわを舌で撫ぜると、ざらついている。砂交じりの粘液がドロドロに濁っているのを想像して、ひとつ、ため息を吐いた。
息がひどく熱いから、割れている唇の裂け目が焼けるような気がした。
身体を起こそうとして、起き上がれないことに気が付いた。どうしてだろうか。
腕はぴくぴくと痙攣するばかりで、下敷きになった髪を動かす力もない。
髪の色をみた。水色とも緑色ともいえる、奇妙な色だ。
どうやら知らない色らしかった。
顔を横へ動かすと、横目に夜空がみえた。どうやら夜らしい。
砂の続く中に、真っ黒な切れ目と、まばゆいほど浮かぶ星々がある。
風はほぼない。けれど、冷たい空気が漂っている気がする。
それなのにひどく熱い。
肌が風船のように熱気を蓄えている。
頭が明瞭なのは、死の間際の錯覚だろうか?
いいや、違う……たぶん、私は……
私はこの少女ではないからだ。
私は先ほどまで、冷房の効いた部屋にいたように思う。
私は先ほど、少女の救われぬ末路に義憤を抱いた。
すると、まことに不思議なことに、彼女は救われたようである。
そういうわけで、私は代わりに死ぬらしい。
これは夢なのかもしれない、小説で読んだことがある気がする。
私は起こすことも転がすこともできない胴体に見切りをつけ、ただ顔だけを空に向けたまま、乾いていく己を噛みしめるように味わう。
苦しみはない。ただ熱く、暑く、そしてひどく乾いている。
そうだ、乾いていた。
その事に気が付くと、ひどくいやな気分になった。
喉が渇いていた。
私は喉がねばついているその感覚を味わい、まことに、心の底から水、より言えば経口補水液的なドリンクを求めた。
しかし微塵も動かない腕は、そもそもないであろう飲み物を手で捜すことすらできない。
この渇望と満たされぬそこからくる苦しみは、乾いた目尻から涙が湧き上がりそうなほどに悲しい。
私は呻いた。そしてまた、唇の割れた断面を、ひどく熱い息がすり抜けて、痛んだ。
目を閉じる気力すらないから、瞬きが少なくて、眼の端が痛む。
そんな具合でみる夜空はひどく美しい。
昔、どこぞの山奥で、こんな空をみる機会があったことを思い出した。
けれど、そんなものよりも、この死の間際に見る空のほうが、ひどく美しい。
頭の先から、感覚のない足先まで、すべてが熱いように思う。
つまり頭の先からずうっと下まで熱い。
意識が薄らいでいくのを感じる。
けれど思考は明瞭なままで、それがなんなのか、ふと気になった。
慈悲だろうか。
しかし一体なんの?
考えているうちに、私は死んだ。
死んだ私らしい少女を、私はぼんやりと感じた。
冷たくなっていく身体から、だんだんと、更に水気が失せていく。
朝日が昇ると、それは一気に乾いて、また夜がきて、乾いた。
それをいくつか繰り返していくうちに、私はその場を失せていった。
私らしい少女はやはり死んでいるのに、私はまだそこにいる。
奇妙に思った。
このことに意味はあるのだろうか。
砂と風が乾いている。。
死んで感覚が失せた口の中、歯と歯の間、境に詰まった砂を噛もうとして、けれど口は動かないから、そのまま、ただ詰まり行く砂たちを感じていた。
風の音ばかりがしている。
その中に、ふと異音を感じた。
足音がする。
私はその声を感じて、その途端、はっきりと死んだ。
たぶん、本来死ぬひとの代わりに。
そうだったらいいなと思う。