最強の片割れが召喚されました   作:武竹ちゃん

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第1話 召喚の儀①

 2017年12月24日。

 東京都立呪術高等専門学校の入り組んだ建物の間を、一人の男が歩いていた。

 その男は日本に四人しかいない特級術師の一人にして最悪の呪詛師、夏油傑だった。

 彼はその術式によって単独で国家転覆を可能とするほどの戦力を保有する。

 

 だがしかし、彼のその力は失われていた。

 

「素晴らしい」

 

 彼は笑みを浮かべながらそう呟いた。

 いつも後ろで結っていた長髪は解け、端正な塩顔の一反面は傷に覆われていた。

 いつも身に纏っていた袈裟はボロボロに破れ、右腕は根本から消し飛ばされている。

 

 そう、彼はつい先程失敗したのだ。

 特級過呪怨霊、祈本里香を奪うことに。

 そしてその主人、自身と同じく特級術師の乙骨憂太の殺害に。

 そう、彼は敗れたのだ。

 にも拘わらず、彼はその笑みを崩さなかった。

 

 

「本当に素晴らしいよ。まさに世界を変える力だ」

 

 

 目的であった折本里香の力は素晴らしかった。

 彼の理想を体現するための手段として、これほどにもないほど理想的だった。

 

 

「里香さえあれば、せこせこ呪いを集める必要もない」

 

 

 ——あの力さえあれば、私も、君のように……!!

 

 

「次だ、次こそ手に入れる!! ……!」

 

 

 壁にもたれながら通りに這い出た彼の目に見知った姿が映る。

 

 白髪に青い眼。

 自他共に認める現代最強の特級術師——五条悟。

 彼の、夏油傑の唯一の親友だ。

 

 

「遅かったじゃないか、悟」

 

 

 夏油は五条に向かって軽く言い放つ。

 何物も見通す青い眼が、彼を見返していた。

 夏油は観念したようにその場に座り込んだ。

 

 

「まさか君で詰むとはな。家族たちは無事かい?」

 

「揃いも揃って逃げ果せたよ。京都の方もオマエの指示だろ」

 

「まぁね、君と違って私は優しいんだ」

 

 

 最後だというのにどこか緊張感のない会話が続く。

 変わってしまった二人、変わらざるを得なかった二人。

 しかし今この瞬間、否、あの夏の日からずっと、彼らの中には決して変わらないものがあった。

 それはもしかしたら呪いなのかもしれない。

 しかしそれでも彼らは——

 

 

「……何か言い残すことはあるか」

 

 

 五条は穏やかな声で親友に言った。

 その言葉に、親友もまた本心で答える。

 

 

「……誰がなんと言おうと非術師は嫌いだ。でも別に高専の連中まで憎かったわけじゃない。ただこの世界では、私は心の底から笑えなかった」

 

 

 正真正銘の夏油傑の本心。

 呪いに囲まれ、呪いを溜め込み、呪いに満ちた彼の人生。

 悔いがない……わけは全くない。

 無念も、疑念も、無力感も、後悔も。

 

 しかしそれと同時にどこか満足していた。

 

 自分の人生を締め括るのが、自分にとって最も大きな存在であることに。

 

 

「傑」

 

 

 親友の口から出た介錯の言葉に耳を傾ける。

 

 

「——————」

 

 

 しかしその口から放たれたのは夏油にとって思いもよらない言葉だった。

 彼は呆れた表情の後、思わず笑を漏らした。

 

 

 

 

「最期くらい、呪いの言葉を吐けよ」

 

 

 

 

 次の瞬間、夏油傑の意識は、そして命は途絶えられた。

 

 最も愛する、親友の手によって。

 

 

 

 

 

「宇宙のどこかにいる、私の僕よ!」

 

 

 その時、彼の視界を眩い光が覆いつくし——

 

 

「神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ!! 我が導きに、応えなさい!!」

 

 

 轟く爆発音が、彼の意識を覚醒させた。

 

 

「——ッ!!?」

 

 

 夏油は視界に突然飛び込んだ光と、周囲に立ち込める煙に顔を顰めた。

 状況が理解できない

 だが頭で理解するより先に、尻餅をついていた体勢からすぐさま立ち上がる。

 

 

「なんだ……これは……!?」

 

 

 思わずそう呟いた。

 煙はまだ晴れない。 

 これでは自分の姿すら満足に視認できない。

 しかしこの地面を踏みしめる肉体の感覚、内から込み上げてくる呪力。

 呪霊になったわけではない、これはまさに生の感覚だった。

 そもそも術師である五条に殺されたのなら、彼が呪霊に転ずることはあり得ない。

 ならば残る可能性は。

 

 

 ——……悟が私を見逃した?

 

 

 あの場面で五条の性格を考えると、そんなことはありえない……はずだ。

 しかしどうしてもその可能性が頭をよぎる。

 それにこの感覚、消し飛ばされたはずの右腕がある。

 夏油は反転術式を習得していない。

 他者への反転術式のアウトプットを出来るのは、彼の知る限り家入硝子と乙骨憂太のただ二人。

 乙骨が彼の腕を治すとは考えづらい。

 ならば……。

 

 

 ——……とりあえず今は状況確認だな

 

 

 夏油は掻き乱れた思考を振り払う。

 とにかく今はこの現状を理解しなければならない。

 ここはどこで、今はいつなのか。

 彼自身の身に起きたことに関してはそのあとだ。

 

 

 ——煙が晴れる……

 

 

 夏油は腰を低くして身構え、周囲を警戒した。

 この舞い上がった煙の向こう側、影や声から察するにそれなりの人数が周りにいるようだ。

 しかし呪力は感じない。

 では周りにいるのは非術師か?

 

 

 ——……体がなんだか軽いな

 

 

 煙が晴れ、周囲の様子が確認できる直前、夏油はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

「に、人間……こ、これが、神聖で、美しくそして強力な……」

 

 

 トリステイン魔法学院付近の草原。

 春の二年生進級試験の一環、使い魔召喚の日。

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは使い魔の召喚に成功した。

 しかしその使い魔は、彼女とさほど歳の変わらない若い青年だった。

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