最強の片割れが召喚されました   作:武竹ちゃん

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生きてますよー

あと今回長いです笑


第12話 武器

 騒ぎにならないように人目のつかない場所で呪霊から降り、二人は街の中へ入る。

 石造りの建造物が建ち並ぶ綺麗な街並み、大通りも人で賑わっている。

 異世界に来て可笑しな話ではあるが、夏油は海外旅行に来た気分を味わいながらルイズの後ろに続いて歩いた。

 ふとルイズが足を止めずに夏油に問い掛ける。

 

 

「あんた、何か服装で希望とかある?」

 

「……希望かぁ」

 

 

 正直な話、夏油はファッションに疎い。

 というのも彼はここ十年のほとんどをあの胡散臭い袈裟姿で過ごしていたからだ。

 プライベートでは流石に私服を着ていたが、出来るだけ非術師に頼らない生活をしていた夏油は服装にも特に選り好みしなかった。

 美々子と菜々子、あとは真奈美やラルゥに服を勧められて着るぐらいしかなかった。

 そして高専時代はほとんどが制服だ。

 ……こう考えれば、そもそも夏油がお洒落をする機会や余裕がそもそも少なかったのかもしれない。

 

 

「袈裟とかあるかい?」

 

「ケサ?」

 

「ほらこう、着物というか和服というか」

 

「キモノ? ワフク?」

 

「……動きやすくて派手目じゃなければなんでもいいよ」

 

「うーん、でも貴族の横に立つならやっぱりそれなり見栄えが良い方が良いし……あ、でも主人を立てるなら地味目の方がいいのかしら」

 

「そもそもこっちの流行とか分からないし、ご主人に任せるよ」

 

「それもそうね。それにあんたのセンスが良いとも分からないし。その前髪の事とか考えると私が選んだ方がいいわね」

 

「……ちょっと待ってくれ、聞き捨てならないことが聞こえたね。おーい!」

 

 

 夏油はルイズの心無い一言に抗議の声を上げながら後を追う。

 その小さな体が人混みに紛れて見失わないように気をつけ、そして一軒の服屋に足を踏み入れた。

 

 何軒かの服屋を回った後、夏油は数着の服が入った袋を腕に掛けながら大通りを歩いていた。

 時間はそろそろ昼食時、手頃な店に入って腰を落ち着かせる。

 

 

「はぁ、結局あんたが希望したような服しか買えなかったわね」

 

 

 ルイズが夏油に買い与えたのは彼の希望通りの動きやすく、見た目が地味なものだ。

 

 

「あんた身長高くてガタイが良いから結構選択肢が狭まるのよね」

 

「どこの世界でもそれは同じなんだね」

 

「そうねぇ……あんた何にするの? あまり高いのは頼まないでよ」

 

 

 ルイズはそう言いながらメニュー表を夏油に渡した。

 夏油はそれに一通り目を通す。

 彼がここに来て何度も見た見覚えのない文字列だ。

 ……読めないことはない、修得していない言語だが、頭に意味が流れ込んでくる。

 使い魔のルーンの力だろうか。

 しかし流れ込んでくる文章に少し違和感を感じる。

 それこそ夏油が学生の頃、英語の教科書の文章を無理矢理訳していたような。

 そうだ、美々子と菜々子がラルゥの書いた英文をスマホの翻訳アプリで略した文に似ている。

 

 

「……ルイズが決めてくれ」

 

「……あっ、そっか。あんた文字読めなかったっけ」

 

「いや、読めないわけじゃないんだけど拙いんだ。あと値段の高い安いの基準が分からない」

 

「全く、いったいどこの田舎出身よ」

 

 

 ルイズは呆れながら店員を呼び、二人分の注文をする。

 当然だが夏油は自分が別世界の存在であることをルイズに説明している。

 しかしこれも当然のことではあるが、そんな非現実な話をルイズは信じていない。

 

 

「良い加減信じてくれないか。私はここの世界の人間じゃないんだよ」

 

「魔法がなくてほとんどのことが電気で解決する世界? 信じられるわけないじゃないそんな世界。だいたいあんたは魔法使ってるでしょ」

 

「魔法じゃなくて呪術だよ。これは私の世界でもほとんど認知されていないマイノリティな力だ」

 

「一緒でしょ」

 

「君たちみたいに杖も使ってないだろう。まぁ使うのも稀にいたけど」

 

「名前が違うだけで先住魔法なんでしょ……改めて見るとやっぱり私や他の留学生とも顔立ちが違うし……耳の形といいやっぱりエルフの亜種なんじゃない?」

 

「確信は出来ないけど多分すごい失礼だな君は」

 

 

 その後、運ばれて来た料理を口にしながら二人は何気ない会話を交わした。

 そして食事を終え、店を出る。

 

 

「ご馳走様。悪いね何から何まで」

 

「別に良いわよ。使い魔の面倒を見るのは貴族として当然のことよ。でも感謝の気持ちは忘れないでね」

 

 

 すでに夏油の服を買うという目的は達成した。

 ルイズ自体に特に何か買う予定もない。

 あとは学院に戻るだけだ。

 

 

「他に何かあんたに必要なものってあるかしら……武器? は必要ないわよね。金属を素手で破壊できるんだし」

 

「武器……」

 

 

 その言葉を聞いて夏油は少し考える。

 彼はこの世界の武具の種類や、性能には少し興味があった。

 魔法が存在する世界だ、もしかしたら呪具のような特殊な武具もあるかもしれない。

 手には入らなくとも、何があるかぐらいは知っておいても損はないだろう。

 

 

「ルイズ、武器を見たい」

 

「いるの? それに一応言っとくけど、もうそんなにお金残ってないからあまり良いのは買えないわよ」

 

「いや、見るだけでいいんだ。単なる好奇心だから」

 

「そう、まぁいいわ。ついてきなさい、確か武器屋はこっちだったから」

 

 

 先導するルイズは辺りをキョロキョロと見渡しながら自身の記憶と照らし合わせた。

 そして十数分後、この街にある唯一の武器屋を見つけ出した。

 店に入ると、如何にも商売人といった風貌の店主がルイズにもみ手をしながら話しかけてきた。

 

 

「旦那、貴族の旦那、うちは全うな商売してまさぁ、お上に目をつけられることなんか、なにひとつこれっぽっちもありませんぜ」

 

「客よ」

 

「ありゃ、こりゃ失敬。あぁなるほど、そちらの使用人に持たせる武器ですかね。最近は流行ってますからねぇ」

 

「? なんでそんなことが流行ってるのよ?」

 

「おや? お客様方も同じ理由で武器を買いに来られたのではないのですかい。いやなに、最近貴族様をターゲットに盗みを働く盗賊が宮廷を騒がしてまして。それで用心として下僕に剣を持たせるのが今の宮廷貴族様のトレンドでさぁ」

 

「ふーん」

 

 

 貴族が手を焼く相手に平民が剣を持ったところで意味がないのでは? とルイズは思ったが、すぐにその考えを思い直した。

 今彼女の傍で店の武器を物色する男は、メイジを素手で倒して見せたのだから。

 

 

 ——まぁ、こんなのがそうそういるわけないと思うけど……

 

 

 当の夏油は立てかけられた武器を手に取っては戻しを繰り返している。

 その表情を見るに、お目にかかる武器は今の所見つかっていないようだ。

 

 

「店の武器はここにあるのが全部?」

 

「いやいや、当然そんなことはありませんぜ」

 

 

 ルイズのその言葉に店主は待ってましたとばかりに店の奥に引っ込んだ。

 少し経つと店主は自慢げに一本の大剣を抱えて戻ってきた。

 

 

「こいつはどうでさぁ! 高名なゲルマニアの錬金術師シュペー卿の作でございます」

 

 

 店主が語るその大剣は全体が金で覆われ、赤い宝石を中心に派手な装飾が施されたものだった。

 周囲の光を悉く反射して輝くそれは、一眼見て値打ちの高さとそれを持つ者の品格を見せびらかすような、いかにも貴族が好むビジュアルだった。

 当然ルイズもその例外ではない。

 

 

「いいじゃないこれ! ゲトー」

 

 

 ルイズは振り返って武器を吟味している夏油を呼び寄せた。

 寄ってきた夏油に店主が持ってきた黄金の大剣を持たせる。

 夏油の地味目の服装も相まって、より大剣の派手さが目に余る。

 

 

「……」

 

 

 夏油は口を尖らせながら手に持った大剣を眺める。

 鞘を抜いて刀身を確認する、当たり前だが刃は研がれており、刃物としての役割自体は真っ当するように思えた。

 刀身を指先でコツコツと突いて鳴らし、空いた空間に一振りして重さを確かめる。

 

 

 ——これ実戦用か?

 

 

 夏油が手に持って出た感想がそれだった。

 刃の鋭さ、重さ、強度、形、それらは確かに武器としての条件を満たしてはいるが、あくまで最低限だ。

 出来が悪いというよりは、そもそも用途が違うというべきか。

 おそらく剣も握ったことがない貴族がファッションとして召使いに持たせるか、部屋の装飾として目立つ場所に飾るのが目的なのだろう。

 当然武器屋の店主がそれを知らないわけがない。

 にもかかわらずこれを進めてくるということは、十中八九子供の貴族と下僕をカモにする気だろう。

 夏油はルイズに忠告しようとした。

 

 

「ちなみにおいくら」

 

「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千でさぁ」

 

「にっ、二千!? 立派な屋敷と森付きの庭が買えるじゃない!」

 

「名剣は城に匹敵しますぜ」

 

 

 どうやら夏油の忠告はいらなかったようだ。

 それよりも夏油は今の会話を聞いてすぐにこの剣から手を離したくなった。

 

 

「ルイズ、私は別にそこまで高価な武器は必要ないよ」

 

 

 そう言いながら大剣の刀身を鞘に戻し、店主に返した。

 

 

「お尋ねしたいんですが、三節棍ってあります?」

 

「……サンセツコン? なんですかいそれは?」

 

「こう……三本の棒が鎖で連なった……そう、ヌンチャクみたいな!」

 

「なんですかその変な武器? 私はこれでもいろんな国の武器の知識はありますが、サンセツコンなんてもの聞いたことも見たこともありやせん」

 

 

 その言葉を聞いて夏油は肩を落とす。

 三節棍は以前の世界で夏油が扱っていた武器だ。

 どうせ武器を使うなら扱い慣れたものが好ましかったが、武器屋の人間が言うのだから、少なくともメジャーな武器ではないのだろう。

 

 

 ——服装のことといい、ハルケギニアにはアジア圏に類似した文化がないのかな? 腕が鈍るのが嫌だったから安物で鍛錬でもしようと思ったけど……自作しようか?

 

 

 夏油がなどと考えていたその時、ふと背後から気配を感じた。

 咄嗟に振り返るが、そこには誰もいない。

 しかし夏油の直感が、そこに何者かがいるという確信を彼自身に訴えかけていた。

 

 

「誰だ?」

 

 

 虚空に向かってそう尋ねた。

 その様子をルイズは不思議そうに見ていた。

 やがて夏油の視線の先にある一本の錆びた剣がカタカタと震え出した。

 

 

「はっ! なかなかやるなボウズ! ただの貴族小娘の腰巾着ってわけじゃなさそうだな!」

 

 

 震えるその剣は柄の金属を打ち鳴らし、流暢に言葉を発する。

 夏油は突然喋り出す武器に驚きながらも近づき、それを引き抜いた。

 

 

「! こいつはおどれぇた! おめぇさん『使い手』か!」

 

「使い手?」

 

「これってインテリジェンスソード?」

 

「インテリジェンスソード?」

 

 

 聞き慣れない単語の応酬に夏油は眉を顰めた。

 

 

「魔法で意思を持つように造られた魔剣よ。すごく珍しい物なんだけど……にしては見た目が見窄らしいわね」

 

「ウルセェ! 剣も握ったことのねぇペチャパイ娘にこのデルフリンガー様の偉大さはわかるわけねえってんだ!!」

 

「ペッ、ペチャパイッ!?」

 

「コラッ! デル公! お客様に毎回毎回失礼なこと言いやがって!! 終いにゃ溶鉱炉に放り込んで溶かしちまうぞ!」

 

「おぅ上等だ!! こんなしみったれた店に置かれるぐらいならその方がましだぁ!!」

 

 

 剣と店主の口喧嘩が店内に響く。

 その間に挟まれた当の夏油は、手の中にあるデルフリンガーを興味深そうに見ていた。

 意思を持ち喋る魔剣、いかにも想像していたようなファンタジーな武器だ。

 見た目こそオンボロだが、付与されている能力によってはそんなもの些細な問題であることは夏油も理解している。

 

 

「……ねぇ、この失礼な剣はいくら?」

 

 

 そんな夏油を見兼ねたルイズが店長に質問する。

 まさか聞かれるとも思っていなかった店長は驚きながらも質問に答えた。

 

 

「そいつなら百エキューで十分でさぁ」

 

「……私、この剣にかなり失礼な事言われたんだけど?」

 

「おっとこいつは失礼! お詫びに少し安くさせていただきます! 実を言うと私もこいつを厄介払い出来て得なもんでしてね」

 

「いいのかい、ルイズ?」

 

「別にいいわよ。欲しいんでしょ?」

 

「まぁ興味深いし……」

 

「なんだ娘っ子! 意外と見る目あるじゃねぇか!! ペチャパイなんて言って悪かったな! そのうち大きくなると思うぜ多分!」

 

「砕いて溶かすわよ!!」

 

 

 そんなこんなでデルフリンガーを購入した二人は店を出た。

 長い間誰の手にも渡らなかったデルフリンガーは、ようやく主人を見つけることが出来て非常に上機嫌だ。

 夏油の手の中でずっと喋り続けている。

 

 

「いやぁ主人ができるなんて何十、いや何百年ぶりだろうなぁ! しかもその主人は使い手ときたもんだ! いやぁめでたい! 長い間寝てたからあまり昔のことは覚えてねぇけど、めでたいことだけはわかるぜぇ!!」

 

「ねぇ、そいつずっと喋ってるわよ。なんとかならないの?」

 

 

 ルイズがイラつきながらデルフリンガーを指差した。

 

 

「確かにちょっとうるさいな。店主の話だと確か……」

 

「あっ! ちょ——」

 

 

 夏油は剣の鞘を力一杯押し込んだ。

 するとカチカチとなっていた留め具が固定され、デルフリンガーの声も収まった。

 

 

「よし、これで——」

 

「まだ喋ってるでしょうが!」

 

「うっわ」

 

 

 デルフリンガーは自身で刀身を持ち上げて留め具を緩めると、また騒がしく喋り出した。

 

 

 

「ひどいぜ相棒! これから長い付き合いになるんだからよぉ! お互い親睦を深めるためのアイスブレイクだ。わかるだろ?」

 

「そいつやっぱり返品するわよ」

 

「……分かった」

 

「おっおいおい! そりゃないぜ相棒! 分かった! 静かにするから返品は勘弁してくれ!」

 

「いや、返品はしないよ。せっかくご主人が買ってくれたんだから」

 

 

 夏油はそう言いながら目についた路地の方へと歩き出した。

 路地に入り、人目がないことを確認する。

 

 

「しまうよ」

 

「……しまう?」

 

 

 ルイズは首を傾げて夏油を見た。

 デルフリンガーも柄の上に疑問符を浮かべている。

 

 

「あぁ、荷物も多いしね」

 

 

 すると夏油の横に黒い影が現れた。

 ルイズは知っている、これは夏油が使い魔を呼び出す際に必ず現れるものだ。

 この影の中から彼の言うジュレイと呼ばれる存在が姿を表す。

 

 ルイズの予想通り、影の中から異形の存在が姿を表す。

 それは瞼の腫れた赤ん坊のような顔をした、赤紫色の芋虫のような見た目をしていた。

 通称格納呪霊、その便利な能力から夏油が好んで使役する呪霊の一体だ。

 

 

「気持ち悪っ!」

 

 

 当然ながらその不気味な見た目にルイズは顔を顰め、距離をとった。

 

 

「あんたの使い魔って気持ち悪い見た目ばっかね……」

 

「まぁその感想が自然だね」

 

「なんだこいつぁ!? 普通の動物じゃねえよな! おめぇさん一体——おい! 待て! なんでオレ様をそいつに近づける! やめろ!」

 

 

 夏油はデルフリンガーの言葉を無視して鞘の先を格納呪霊の口に咥えさせた。

 そのままヌプヌプと生々しい音をあげながら、ゆっくりとデルフリンガーを飲み込んでいく。

 

 

「こいつは自分の体内に物を取り込むことができるんだ。大きさ、数に制限はない。酸素とかはわからないけど……まぁ、無機物なんだし大丈夫だろ」

 

「待って! やめろヌルヌルする! 分かった! 静かにする! 必要な時以外は喋らないから飲みこま——」

 

 

 訴えも虚しく、デルフリンガーの姿は格納呪霊の中に丸ごと消えた。

 格納呪霊はゴクリと喉を鳴らすと、小さく赤子のようにゲップした。

 

 

「うわぁ……」

 

 

 一部始終を見ていたルイズは、顔を歪ませながら思わず声を漏らした。

 

 

 ——まさか剣に同情する日がくるとは思わなかったわ……ハッ!

 

 

 ルイズは何かを思いつくとすぐさま夏油に駆け寄った。

 そして彼が腕にかけている服が入った袋を取り上げた。

 

 

「あんたまさかこれもその使い魔に飲み込ませるつもりじゃないでしょうね!? 絶対だめよ!」

 

「……しないって流石に」

 

 

 夏油は不服そうに口を尖らせながら、格納呪霊を納めた。

 それを確認したルイズから荷物を受け取る。

 

 

「それじゃあ帰るわよ」

 

 

 その後、二人は路地から出ると、全ての用を終えたことで街から出た。

 また騒ぎにならないように、街から少し離れた場所まだ歩くと、夏油の呪霊に乗って空に飛び立つ。

 

 二人はペリカン呪霊の口の中で腰を下ろした。

 夏油はルイズに買ってもらった服を再度確認し、礼を言う。

 

 

「ありがとうルイズ。服と、あと剣も」

 

「別に構わないわ。これも主人の役目よ」

 

 

 そう言いながらルイズは夏油の顔を見る。

 その穏やかな顔に思わず口角が上がる。

 

 

「ちょっとは気が晴れた?」

 

「……え?」

 

「あんたここ最近……ギーシュとの決闘のあとかしら、とにかくずっと元気なかったわよ? 勝った方がなんで気落ちしてるんだか……毎晩うなされてるし」

 

「それは多分座って寝てるからじゃないかな?」

 

「……帰ったら毛布用意してあげるわ」

 

「……どうしたんだい急に? いや、よくよく考えれば今日はずっと優しかったね」

 

 

 今までにないルイズの対応に夏油は動揺する。

 問いかけられたルイズは目線を外しながらも淡々と答えた。

 

 

「別に……ただあんたが……私の力をみんなに証明してくれたから」

 

 

 メイジの実力を測るなら使い魔を見ろ、と言われている。

 ルイズは夏油のことをただの平民だと思っていた時、彼女は自分自身に失望していた。

 この平民が彼女の写鏡だというならば、自分は一生このままなのではないかと。

 彼女にとっての唯一の魔法の成功体験すら、彼女自身を否定することになるのではないかと。

 しかし違った、呼び出した使い魔の力は凄まじかった。

 皆の目の前で貴族を素手で圧倒して見せ、今も規格外の能力で彼女に尽くしてくれている。

 もしかしたら自分も彼のようになれるのでは? ゼロだった彼女にとって一縷でも希望が見えたことが、とてつもなく嬉しかった。

 

 

「あの決闘の日から他の奴らの私を見る目が少し変わった気がするの。もちろん私自身が何か出来るようになったわけじゃないけど、でも……嬉しかった。なのに当の使い魔ときたらあの日からずっと暗い顔してるじゃない!」

 

 

 ルイズはそこまで言うと、照れ臭そうな表情を浮かべながらも夏油の目を見る。

 

 

「だから今日のこれはご褒美よ! 横に立つ使い魔にウジウジされてちゃ敵わないわ。下僕のメンタルケアは貴族の役目よ!」

 

「……ククッ、アッハッハ」

 

「なっ、なによ、急に笑い出して」

 

「いや何……ちょっと自分が情けなくてね……こんな小さな女の子に気を遣わせてしまって」

 

「あ、アンタまで小さいって!!」

 

「ありがとうルイズ」

 

「あ……」

 

 

 夏油の不意の礼にルイズは少したじろぐが、すぐに気を取り直すと平らな胸を反らして言った。

 

 

「ふん! その感謝の気持ちを一生忘れないことね! これからは今まで以上に主人の敬い、尊敬し、奉仕するの!! それが使い魔にとってのこの上ない幸せなんだから!!」

 

「かしこまりました、ご主人様」

 

「……もう!」

 

 

 あまりにわざとらしい夏油の仕草と返答に、ルイズは口を尖らせた。

 しかしすぐ口元が緩んだ。

 

 

「でも悪い気はしないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしてもこれはどうかと思うけどなぁ」

 

 

 夏油は学院の水場で一人そう愚痴を溢した。

 手元には洗剤で泡だった主人の衣服が握られている。

 当然下着も含めてだ。

 

 学院に戻った後、夕食を済ましたルイズは夏油に構わずいつも通り衣類を脱ぎ、それを手渡して洗濯を命じた。

 彼がここに来てから毎日の習慣となっている。

 

 夏油は我ながら中身がアラサー近い男が十代半ばの少女の下着を手洗いするのはどうかと思うが、ああ言った手前断るのも悪い。

 

 

「こういうのって召使は普通にするものなのかな? だとしても普通は嫌がると思うんだけど……どう思う?」

 

 

 夏油は傍に置かれた大剣に話しかけた。 

 本来剣に話しかけても返答は帰ってこないが、この剣は違う。

 

 

「知るか」

 

 

 留め具をカチカチと鳴らしてデルフリンガーは悪態をつく。

 表情は存在しないが、声色からして明らかに機嫌が悪い。

 そしてその理由も明白だ。

 

 

「悪かったって謝ってるだろう。あの呪霊の中では蝿頭を飼うことも出来るらしいから、案外快適だと思ったんだよ」

 

「言い訳なんざ聞きたくねぇ! たく、今回の相棒は過去最悪だぜ! あの化け物の中は暗くてヌメヌメで空気も悪いしよぉ! しかもオメェここにくるまで俺のこと忘れてただろ!!」

 

「意思を持つ武器を見るなんて初めてだから、鍛錬以外で手元に出す習慣がなかったんだ」

 

「ケッ! とにかく今後あの化け物の体内に入るのはごめんだぜ!」

 

「わかったわかった」

 

 

 夏油は生返事をしながらデルフリンガーを肩に背負うと、洗濯籠を抱えて立ち上がった。

 これからこの衣類を干しに行かなければ。

 

 

「ん?」

 

 

 その時、夏油は頭上から気配を感じた。

 直後に小さな風が巻き起こり、一人の少女が上空から姿を現した。

 

 夏油は目の前に着地した少女の見覚えがあった。

 

 青い髪、赤縁の眼鏡、ルイズ以上に幼い顔立ちと体型、それに見合わない大きな杖。

 確かキュルケといつも行動している生徒だ。

 

 

「確か君は……」

 

 

 記憶の中のキュルケの言葉から彼女の名前を思い出そうとした。

 

 

「タバサ」

 

 

 それよりも先に彼女自身が名を名乗った。

 

 

「あぁ、そうだったね。こんばんは、タバサ」

 

「話が、ある」

 

「話?」

 

「そう、今、いい?」

 

 

 そう言われて夏油は手元の洗濯籠を見た。

 中にはまだ干されていない衣類が丸ごと残っている。

 

 

「すまない、先にこれを干さないといけないんだ。そのあとならいいかな?」

 

「……」

 

 

 タバサは返答を返すことなく、代わりに杖の先を洗濯籠に向けた。

 すると籠の中の衣類は宙に巻き上がり、円を描きながら数秒たなびく。

 動きが収まった頃にはすでに衣類は乾いていた。

 タバサは更に杖を動かすと、衣類はひとりでに綺麗に折り畳まれて、洗濯籠の上に重ねて積み上げられた。

 

 

「……相変わらず便利だね、ありがとう」

 

「いい、それより、話がある」

 

 

 タバサは杖の先をいつものように地につけると、簡潔に要点を述べた。

 

 

「手合わせして欲しい」




ご愛読ありがとうございます!
 
今回二話くらいに分けようと思ったんですけどちょうどいい区切りがなかったので、いつもの倍の文章量になってしまいました。更新遅れたのもそのせいです。
あと最近リアルが忙しいので。

あまり当てにはならないんですけどタルブ村襲撃までの構想はある程度出来ているので、後はいかに文章に起こすかですね。普段活字から逃げていたので自分の文章力の無さをひしひしと実感してます笑
こんな私の作品を大勢の方に読んでいただけているので、更新遅くても出来る限り続けていきたいので、お付き合いください。
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