最強の片割れが召喚されました   作:武竹ちゃん

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とりあえずプロローグはこれで終わりです。


第4話 召喚の儀④

 あの後、学院長室を出た夏油とルイズはまずルイズの部屋へと向かった。

 ルイズはそこに夏油を残し、午後の授業を受けるために教室へと向かった。

 部屋に残された夏油は暇な時間を部屋の中の本や小物を見て過ごした。

 分かったことといえば小物は彼女が貴族と納得が出来るような豪華なものである事と、この世界の文字は当然彼には読めないということくらいだ。

 

 それからしばらくして、その日の授業を終えたルイズが部屋へと戻ってきた。

 

 

「それで、私はまず何をすればいいのかな?」

 

 

 ベッドに腰掛けるルイズに対して、夏油もまた床に胡座をかいて座りながら問う。

 

 

「そうねぇ……秘薬の材料なんかは鼻の良い動物の使い魔じゃないと無理だし……戦いは……あまり期待できそうにないわね」

 

「失礼だな。これでも戦闘能力に関してはそれなりの自信があるのだけど」

 

 

 夏油はそう言って自慢げに自分を手で指す。

 そう、夏油傑は元いた世界では術師の頂点、特級術師が内の一人として数えられていたほどの実力者だ。

 ……尤も、この区分は問題児や危険人物としての分類分けと言った方が正しくはあるが。

 とにかく彼が元いた世界での指折りの実力者であることは変わりない。

 彼に比肩する人物などそれこそ同じ特級術師たち、或いはたまにバグのように降って出る天与の暴君かアフリカの黒人くらいだろう。

 

 

「ふーん……そうは見えないけど。まぁ体格はいいから力仕事には向いてそうね」

 

「いずれ見せる時がくるさ」

 

「あっそ。まぁあとは身の回りの世話ね。とりあえず」

 

 

 ルイズはそう言うと夏油の目の前でいきなり服を脱ぎ始めた。

 夏油は一応目を瞑って終わるのを待ったが、頃合いを見て目を開けると目の前に服と下着が散乱していた。

 

 

「それ、洗っといてね」

 

 

 既に寝巻きに着替えていたルイズはそう言ってベッドに潜り込む。

 夏油は呆れた顔で目の前の衣類を掻き集めた。

 

 

「君は恥じらいというものがないのか」

 

「平民相手にそんなもの感じても意味ないでしょ。そういえば、あんたって歳いくつ?」

 

「二十七」

 

「嘘つくな!!」

 

 

 夏油はルイズの質問に対して自身の享年を答えたが、当然ルイズは納得しなかった。

 今の夏油の見た目は十七、八歳程度なのだから無理もないが。

 

 

「あんた私と大して年変わらないでしょ! あっても二十代前半くらい!」

 

「逆に聞きたいんだけど君はいくつなんだ」

 

「十六よ」

 

「……君こそ歳の割に幼いな、色々と」

 

「うっ、うるさいうるさいうるさい!! ご主人様に向かっての口の利き方に気を付けなさい!! 私もう寝るから! あんたは床で寝なさい!!」

 

 

 そう言ってルイズは怒りながら毛布に全身を隠した。

 疲れていたのか数分後には彼女の寝息とともに毛布が上下する。

 

 

 ——貴族の下にいるのが安牌だと思っていたけど……まぁ今後の交渉次第かな

 

 

 夏油はため息を吐きながら立ち上がると、手に持った衣類を適当な籠に入れる。

 洗濯は明日の朝にでもするとして、彼には今やらなければならないことがある。

 

 

「さてっと」

 

 

 夏油はもう一度ルイズが眠っていることを確認する。

 そうして次に部屋の窓を開け、そこから外へと飛び出した。

 しかし彼の体は地面に落ちることなく、そのまま上の方へと上昇していく。

 彼は今、マンタのような呪霊の上に乗って空中を浮遊していた。

 そして宿舎の真上、誰からも見えない位置で停止する。

 

 夏油は自分の掌からモヤのようなものを発生させ、その中を覗き見た。

 こうやって今、自分の手持ちにある呪霊の数と種類を確認している。

 

 

 ——私の手持ちの呪霊は乙骨憂太との戦いでうずまきとして全て放出したはずだ。にも拘らず今、私の中にはいないはずの呪霊が複数体存在する。

 

 

 そう、彼は手持ちにあった約六千四百体の呪霊の内、約二千体を新宿・京都の百鬼夜行へ、残りの約四千四百体は東京高専での乙骨憂太との戦いで極の番『うずまき』の材料として全て使い切ったはずだ。

 

 

 ——可能性としてはこの体の歳の時点で所有していた呪霊、或いは私の死亡時点でまだ祓われていなかった新宿・京都の呪霊たちが主人の私に引っ張られてやってきた……ぐらいに考えていたが、これは……

 

 

 夏油の中にいた呪霊の数と種類、それは全部だ。

 全部というのは生前彼が取り込んだ全ての呪霊を指す。

 彼が使い捨てた雑魚呪霊から、敵に祓われて手放した呪霊、その全てが今彼の中に集結していた。

 

 

「虹龍や口裂け女の呪霊までいるのか……懐かしいな」

 

 

 彼にとってはもうこの時点で理屈が通用する次元では無くなった。

 時も、死も捻じ曲げて自分はこの世界に召喚された。

 それ以上でも以下でもない、そう考えるしか彼にはできないのだ。

 

 

 ——だがこれは嬉しい誤算だ。呪力のないこの世界では呪霊が発生することはありえない。だがこれだけいれば戦力の補充は必要ないだろう

 

 

 危うく彼の術式が無意味に終わるところだったが、これならこの世界でもなんとかやっていけるだろう。

 夏油はふと思い出したかのように一体の呪霊を取り出す。

 それは人面の芋虫のような低級呪霊、腹になんでも格納できる能力故に夏油が重宝していた呪霊だ。

 彼は格納呪霊に中の物を吐き出すように命じたが、特に口から何かが吐き出されることはなかった。

 

 

 ——流石に呪具の持ち越しは無理か……せめて游雲でもあればよかったんだが……いくつか貴重品も収納してたんだけどなぁ……

 

 

 夏油は少し落胆しながら格納呪霊を身に納めた。

 ふと上を見上げると、夜空には赤と青の二つの月が浮かんでいた。

 ますますここが異世界であることを痛感する。

 

 

「呪いがない世界……か」

 

 

 夏油はふと呟く。

 呪いがない、つまり呪霊がいない世界。

 ここはまさに夏油が目指した世界そのものだ。

 死んでから自分だけがその世界にたどり着いたことに夏油は苦笑する。

 

 いや、違う。

 この世界にも呪いは存在する。

 今日をもって持ち込まれたのだ。

 夏油傑という唯一の呪いが。

 例え彼が持つ呪霊を全て消滅させたとしても、彼自身が特級の呪いとしてこの世界に残る。

 この世界において、彼という存在は異物以外の何者でもないのだ。

 

 

「私は……」

 

 

 その事実に気づいた時、夏油の顔からは笑みが消えた。

 それからしばらくの間、彼は一人夜空の双月を仰ぎ見ていた。




呪霊全部は強すぎだろ!と思う方いるでしょうが、なにぶん夏油本人が使用していた呪霊の種類が少ないもので……オリジナル呪霊はあまり多く作りたくなかったのでそのための処置です。
ぶっちゃけ相対的な夏油の戦力は大した変わらないと思うので。
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