最強の片割れが召喚されました   作:武竹ちゃん

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第8話 決闘①

 ギーシュは夏油へ決闘を申し込んだ後、ルイズは撤回を求めたが、彼はそれを聞き入れず決闘場所と時間を告げて取り巻き達と食堂を出て行った。

 夏油も特に焦る様子も見せず、シエスタを連れて厨房の方へと戻って行った。

 ルイズもまたそれを追いかけて厨房内に入る。

 

 決闘のことを聞いた他のメイドやコック長のマルトーは夏油の身を案じていたが、それに対してもいつもの態度を貫く彼には皆もそれ以上何も言うことが出来なかった。

 

 

「決闘なんてどうすんのよ!!」

 

  

 厨房の中でルイズの声が響いた。

 彼女は今厨房内のテーブルに座り、目の前には教室の掃除で遅れて食べられなかった分の料理が並べられている。

 対面して座る夏油もまた、シエスタから出された昼食の料理を食べていた。

 

 

「別にどうってことないさ。喧嘩を売られたら買う、それだけだよ」

 

「相手は貴族でメイジなのよ! 殺されるわよアンタ! だいたい主人がいないところで好き勝手振る舞ってるんじゃないわよ! わかってるの!?」

 

「美味しいねこのスープ」

 

「聴きなさい!!」

 

 

 対照的な態度で昼食を食べ進める二人を、シエスタはオドオドしながら見ていた。

 

 

「あの……本当にご迷惑をお掛けして申し訳ありません!! 私、もう一度ミスタ・グラモンに謝ってきます!!」

 

 

 そう言って厨房を出て行こうとしたシエスタを夏油は制止し、自分たちと同じテーブルに座らせた。

 

 

「君は気にする必要はない。これはもう私と彼の問題だ」

 

「しかし……」

 

「そうよ、こいつが変に煽らなければこんな面倒ごとにはならなかったのに」

 

 

 あの場ではルイズも一緒に煽っていたのでは? と心の中で思ったシエスタだが、その言葉をグッと飲み込んだ。

 

 

「ま、なるようになるさ」

 

「なるようにって……」

 

「それにさ、実を言うと待っていたんだよ。こういう展開を」

 

 

 そう言うとは夏油は椅子から立ち上がった。

 いつのまにか昼食はデザートまで平らげられていた。

 

 

「見せてもらおうじゃあないか。こっちの術師……メイジの実力ってやつを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは学院長室、そこの扉をいくつかの資料を抱えたコルベールが勢いよく開いた。

 

 

「学院長!! 大変ですぞ! ミス・ヴァリエールが召喚したあの使い魔の少年! 見慣れないルーンだったので調べてみたところ——」

 

 

コルベールはそこまで言って言葉を止まる。

 なぜなら目の前のオスマンが床に伏して倒れていたからだ。

 

 

「どうされましたか学院長!!? ご無事ですか!!」

 

「ん……あぁミスタ・コルベールか。いやなに、実はついさっきミス・ロングビルの下着の色を確認しておるのがバレてしまっての。激昂する彼女を宥めようとしてつい婚期のことを口にしてしまい、この様じゃ」

 

「……何をやっているんですかあなたは」

 

 

 コルベールは呆れながらオスマンに肩を貸し、立ち上がらせた。

 そして真剣な面持ちとなり、オスマンの耳元でこう呟く。

 

 

「それで……肝心の色は?」

 

「……ほほっ……おぬしも好きじゃのう……よく聞くのじゃ。ミス・ロングビルの今日のパンツの色は——」

 

「オールド・オスマン!! 大変です!!!」

 

 

 するとそこへ下着談義の当人、ロングビルが学院長室に急いで入ってくる。

 コルベールは動揺して担いでいたオスマンをソファに投げ飛ばした。

 オスマンはソファの上で腰を押さえながら大声で唸った。

 

 

「ぐおぉおおお!!!」

 

「はっ、恥を知りなさいこのスケベジジイ!!」

 

 ——なにやってんだコイツら……

 

 

 場が落ち着いた後、まずロングビルから用件を話した。

 どうやらヴェストリの広場で生徒たちが決闘をすると騒いでいるそうだ。

 止めに入ろうとした教師がいたが、生徒たちに妨害されてそれも叶わないとのことだ。

 

 

「教師の方々は決闘を未然に防ぐ為に『眠りの鐘』の使用許可を求めています」

 

「たかが子供の喧嘩に秘宝を使ってどうするんじゃ。まったく、暇を持て余した貴族ほど性質の悪い生き物はおらんの。それで、決闘をすると騒いであるのは誰じゃ?」

 

「一人はギーシュ・ド・グラモン」

 

「グラモン家のバカ息子か。じゃあどうせ騒動の原因は女絡みじゃろうて。それでその相手は?」

 

「生徒たちの話によると、ミス・ヴァリエールの使い魔だそうです」

 

「!」

 

 

 その返答にコルベールは目を見開いた。

 

 

「あの優男が? ふむ、ここに来てもう女に手を出したのか。人は見た目によらんのお」

 

「多分それが原因ではないかと」

 

「ふむ、そういえばミスタ・コルベール。さっきおぬしその使い魔がどうとか言ってなかったか?」

 

「あ、聞いておられたのですか!」

 

 

 コルベールは持ってきた資料をテーブルに広げて見せた。

 

 

「先ほど申したように、あのルーンが見慣れないものでしたので。書庫で古い文献を読み漁って調べてみたところ……これが」

 

 

 そう言ってコルベールがテーブルの中央に出したのは『始祖ブリミルの使い魔たち』という名の文献だった。

 コルベールはその文献のとあるページの一部を指差す。

 それを見たオスマンは眉を顰めた。

 

 そこにはあの使い魔……夏油傑の左手に刻まれたものと同じルーンが、そしてその横には始祖ブリミルの伝説の使い魔『ガンダールヴ』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏油はギーシュが告げた決闘の場、ヴェストリの広場へと向かっていた。

 その後ろには主人のルイズ、そして事の発端になってしまったシエスタが同行していた。

 

 

「本当に大丈夫なんでしょうか……貴族相手に決闘なんて、殺されてしまうんじゃ……」

 

「気にし過ぎさ。それに、死んでしまったらその時はその時だよ」

 

「そんな……あの! ミス・ヴァリエールはいいんですか!?」

 

「……しょうがないでしょ、言っても聞かないんだから。こいつの言う通り、なるようになるしかないわよ」

 

 

 

 夏油の身を案じるシエスタに半ば諦め状態のルイズがそう溢した。

 

「いざとなったら私が間に入って止めるわよ」

 

「ははっ、それは頼もしいな。あ、そうだ」

 

 

 夏油は思い出したかのように振り返る。

 そして二人に向かって手を出して見せた。

 その手には一匹の生きたイカが握られていた。

 

 

「これ、どう思う?」

 

「なにそれ? というかどこから出したの?」

 

「イカ……ですか? それが一体……」

 

 

 夏油の突然の行動に二人を首を傾げた。

 その様子に夏油は納得したように頷く。

 

 

「なるほどね。いや、なんでもないよ」

 

「いや、なんでもないじゃないわよ。なんなのよ一体」

 

「タコ……タコニ……ナリタ……イ……」

 

「え? 今このイカ喋って」

 

「なんでもないさ」

 

 

 夏油は手に持ったイカを近くの水場へと放り投げた。

 そして何食わぬ顔でヴェストリの広場の方へ再び歩き出した。

 怪訝な顔をしながらついていくルイズ。

 シエスタは気になって水場の方を見に行くと、すでにそこにあのイカの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「諸君! 決闘だ!」

 

 

 ヴェストリの広場、そこにはこれから行われる決闘……という名目で行われる貴族による平民への一方的な制裁を見物しようと、多くの生徒たちが集まっていた。

 

 

「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの使い魔の平民だ!!」

 

 

 自信満々に杖を掲げているギーシュを、生徒たちは囲んで見ていた。

 中にはこれを機に小遣い稼ぎとして賭け事を行う生徒もいた。

 とはいっても、ほとんどの生徒はギーシュに賭け、あとの夏油に賭けている少数派も余興として少額賭けている程度だ。

 

 

「あーあ、せっかくのイケメンなのに……」

 

 

 生徒たちの輪の最前列で、キュルケがため息を吐いた。

 彼女はこの決闘の賭け事には参加していない。

 夏油への応援として彼に賭けるのもありだったが、そんなことをするぐらいならその金で決闘後の彼の治療費にあてた方が有意義だ。

 

 

「しっかし、珍しいわねタバサ、あなたがこういうのをわざわざ観にくるなんて」

 

 

 キュルケの物珍しそうに横に立つタバサを見た。

 

 

「あの男が気になる」

 

「あら、タバサもスグルに気があるの? へぇ、更に意外ね。あなたも色恋に興味があるなんて」

 

 

 当然ながらそういう理由ではない。 

 タバサが夏油に好奇心を抱いたのはあの教室での一件だ。

 あの中で彼女だけが見た夏油の行動。

 その真相を確かめる為に、彼女は今ここにいる。

 

 

「それじゃああなたはスグルに賭けて……て、あなたがそういうことするはずないわよね」

 

「ん」

 

 タバサは懐から紙切れを取り出してキュルケに見せた。

 どうやらそれはこの決闘での賭け事で配られる半券のようだった。

 そしてそこに書かれている事から、彼女が夏油にそれなりの金額を賭けていることが分かった。

 

 

「タバサ……あなたひょっとしてギャンブラー?」

 

「特技」

 

「……私も彼に賭けておけばよかったかなぁ」

 

 

 キュルケがそう嘆いていると、周囲の生徒たちがどよめきだした。

 どうやら夏油がこの場に到着したようだ。

 生徒たちは彼に道を開け、彼とルイズは生徒の輪の中央、ギーシュの方へと歩いて行く。

 シエスタは貴族達より前に立つのは憚れたため、最後列で夏油を見守っていた。

 やがて夏油は生徒の中央に辿り着き、生徒たちは開けた道を閉じて人のリングを作り出した。

 夏油と相対したギーシュは、彼を見下しながら鼻で笑った。

 

 

「ふん、とりあえず逃げずに来たことは褒めてやろう。さぁ、こうべを垂れて命乞いをする準備は出来ているかい!」

 

「君こそ、謝罪文の一つでも考えてきたのかい」

 

 

 これより、決闘が始まる。




 
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