原作:イソップ寓話
タグ:残酷な描写 イソップ寓話 イソップ童話 ウサギとカメ うさぎとかめ 兎と亀 寓話 ウサギ カメ かけっこ チーター カタツムリ 速さ 捕食 擬人化 走る 動物 昔話 勝敗 狩り 甲羅 教訓 競走 特技 得意 勝負
ぼくは、走ることが好きなカメだ。
ある日、カメは、ウサギに かけっこの勝負を挑みました。
※ イソップ寓話の一つ『ウサギとカメ』を基にしたおはなしです。原作を離れ、違う展開になります。
※ 脚注タグを使用しています。青い数字をマウスオーバーかタップすると表示されます。
まえがき
カタツムリは、どうすればチーターに勝てるのでしょう?
ぼくは、走ることが好きなカメだ。
ある秋の日。草原と森のさかいめ。
カ メ 「ゴールは、あの山のふもとの……一本だけ高い木」
カメは、ウサギに かけっこの勝負を挑みました。
カ メ 「どこを走ってもいいよ」
ウサギは、少し考えて答えました。
ウサギ 「えっと……ハンデは?」
カ メ 「なし」
ウサギ 「本当にいいのね?」 *1
木の枝から、一枚の葉っぱが離れ、ひらひらと落ちて行きます。そよ風に流されながら。
それを、ウサギとカメが見つめました。
ウサギ 「あの葉っぱが落ちたらスタートね」
葉っぱが地面についた次の瞬間、ふたりが走り始めました。 *2
ウサギはあっと言う間に走り去り、見えなくなりました。
カメはウサギを追って、ゆっくり ゆっくり、一生懸命走りました。
ふたりの行く先には、まばらに木が生えた林がありました。
ウサギが林を抜けると……
ウサギ 「うそ……」
大きな池がありました。
ウサギ 「しくじった!」
真正面、池のむこう側に、ゴールの山が見えます。池を泳がなければ、ぐるーっと大きく遠回りするコースになってしまいます。
ウサギは、泳ぐか 走るか 少し迷って、池のほとりを走り始めました。
カメも、ウサギを追って、林を抜けました。そして、まよわず池に飛び込みました。
ウサギの耳が、くるっと動きました。
ウサギ 「あ!」
ウサギは、走りながら池を見ました。
カメは、にごった水にもぐっていて、姿が見えません。
水面にぽこぽこ泡がのぼってきて、山に向かって、まっすぐに進んでいきます。陸を進むよりも、ずっと速く。
ウサギ 「やるわね!」
ウサギは、走りながら横目で水面を見て、勇気をふりしぼり……
ウサギ 「キヨミズッ!」 *3
……かけ声とともに池に飛び込み、泳ぎ始めました。
カメが池から上がりました。
カメは、山の方を見て少し驚き、はにかんだように笑いました。
ウサギは、すでにゴールしていたのです。びしょびしょに ぬれた姿で。
ウサギ 「最後まで走りなさい! ゴールはここよ!」
カ メ 「……はぁ、ふう……まさか、ウサギさんが…泳ぐなんてぇ……」
カメは、息を切らしながらゴールしました。
ウサギは、何も言わず、カメが息をととのえるのを待ちました。
カメは、少し考えてから言いました。
カ メ 「ありがと……本気で勝負してくれて」
ウサギ 「え?」
カ メ 「ウサギさん、やさしいから、わざと負けるんじゃないかって、心配だったんだ」
ウサギ 「うええ!?」
カメは、にっこり笑って、冗談めかして言いました。
カ メ 「とちゅうで、つかれて寝たふりするとか!」
ウサギは、何やらあせった様子で言いました。
ウサギ 「ししし、しないわよそんなバカなこと!」
ちょっぴり恥ずかしそうでもありました。 *4
ウサギ 「手ぇ抜いたら相手に失礼でしょ……」
カリ……と、かすかな音がしました。
ウサギ 「!」
ウサギが、ちらりと後ろを見ました。その目が真剣なものに変わりました。
ウサギ 「しずかに!」
ウサギが見た方に、大きな岩がありました。でも、そちらに太陽があるせいで、よく見えませんでした。
ウサギは、カメの耳のそばでささやきました。 *5
ウサギ 「手足を引っ込めて動かないで。声も出しちゃだめ」
そして、少し表情をゆるめました。
ウサギ 「そうすればカメさんは……勝てるわ」
とてもやさしい声でした。
カ メ 「?」
カメは、ふしぎそうに首をかしげました。
次の瞬間、岩の上から大きな影がジャンプして、ふたりに襲いかかりました。
ウサギは すばやく、ぴょいっ! っとジャンプして逃げました。
カメは、頭と手足としっぽを甲羅に引っ込めました。
カメの甲羅を噛む つよい牙。大きくて ほっそり美しいネコ科の体に、小さめの頭。黄色の毛に、黒い点々模様。チーターでした。
チーターは、前足の爪でカメをおさえつけ、ガリガリ噛みました。でも、かたい甲羅に傷をつけるだけで、食い破れませんでした。 *6
じれったい状況に我慢できなくなったのか、チーターが、カメをくわえて、すくい上げるように首をふりました。カメは、はじかれて転がり、地面をえぐりながら一回転しました。
ひっくり返されたら、おわりだ……。 *7
草むらにかくれていたウサギが、ぴょーん、っと、まっすぐ上にジャンプしました。
ウサギ 「おーい! こっちこっち!!」
ウサギは、ぴょんぴょんはねてチーターを挑発し、全力で逃げました。
カメとの勝負とは比べものにならないスピード。足がちぎれそうなほどの必死の走りでした。
それをチーターが追いかけました。
一歩で弾丸のような速さになり、三歩でウサギに追いつき……。
ウサギ 「や…キィィッ!! ギィィッ!! ギ……」
草原に、痛々しい鳴き声がひびき、ぷっつり途切れて……しずかになりました。
カメは、頭と手足としっぽを出して、首をのばし、高く上げました。でも、草がしげっていて、何が起きているのか見えません。カサカサと、草がこすれる音だけが聞こえます。
カメは首を上げたまま、そよ風のにおいを嗅ぎました。
血のにおいだ……。
カメは、目をぎゅっと閉じて、うなだれました。
……ぼくの足が速ければ、ウサギさんを助けられたかもしれない……。
そう思ったけれど。
ぼくが速く走れたとして、何ができただろう。死ぬほどトレーニングして速くなっても、カメはチーターに追いつけないし、逃げられない。重たい甲羅をなくして、足が長くなったら……それはもうカメじゃない。ちがう生き物だ。やわらかい体を、あの牙で噛まれたら、あっという間に死んでしまう……。
“ ゴール ” から少し離れた岩の陰。
小さくて丸っこい、チーターの子猫が4匹、新鮮な肉のかけらを取りあい、楽しそうにじゃれあっていました。
チーター(母)「こらこら、なかよくね」
母親のチーターは、毛皮と骨が付いた肉のかたまりを前足でおさえ、噛んで引きちぎって、子供たちに分けあたえました。肉の中から、ぷちゅっ、と、赤黒い内臓がこぼれました。
子供のチーターが、母親の前足を見て気づきました。
チーター(子)「手、けがしたの? おかあさん」
チーター(母)「だいじょうぶ。ちょっと噛まれただけ」
まったく……活きがいいウサギだったわ。 *8
母親のチーターは、前足の小さな傷をなめながら、思いました。
カメの頑丈な体が うらやましいにゃあ……。あんなふうに、のんびり暮らせたらいいのに。
カメは、考えをめぐらせていました。
ぼくはチーターに勝ったんだ。ウサギさんの言ったとおり。
生き残ったのは、勝ったってことだから。
……ぜんぜんうれしくない。こんな勝ちかたは イヤだ……。
さっきカメが転がったあたりの土が、えぐれていました。
そこに、つぶされて割れたカタツムリのカラが、めり込んでいました。
カメはそれを、あわれむような、悲しげな目で見つめました。
ぼくは、走ることが好きなカメだ。手も足も頭もしっぽも隠して、じーっと動かないなんて嫌いだ。カメの得意技だけど、好きでやっているわけじゃない。
でも、生きたいなら勝つしかない。生まれ持ったチカラを活かして、どんなズルい手を使ってでも。そこには手抜きも手加減もない。油断すれば死ぬ。運が悪くても死ぬ。これは、ウサギさんも、チーターも、ぼくも……このカタツムリも……みんなみんな、おなじなんだ。
カメは、カタツムリのやわらかい身を食いちぎって、ガムのように噛みました。
目をとじて、こくん、と のみこむと、涙がひとつぶ流れました。
カ メ 「おいしい……」
おわり
しゃべり方がそれっぽいだけで、本当の性別は筆者にも分かりません。(設定していません)
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
『きつねと苦いぶどう』に続き、またウサギさんが捕食されてしまいました……。
擬人化したファンタジーとリアルな生態の中間を意識して書きました。違和感が出て残酷になりますね。ウサギさんがすごく良い子だったので、余計に痛いです。
筆者は、原作『ウサギとカメ』に疑問があります。寓話に無粋なツッコミですが。
思い切り格下に見られ、競走中に居眠りされ……そんな勝ち方でカメは嬉しいのでしょうか?
なぜ、カメは、寝ているウサギを起こさずに通り過ぎたのでしょう?
カメのプライドが高ければ、「バカにするな! ちゃんと走れ!」と言って、ウサギを叩き起こすでしょう。でも、ウサギを起こせば、カメの負けは ほぼ確定です。
※ ウサギがコースから見えない場所に(隠れて?)寝ていたので、カメは気づかず通り過ぎた……という可能性もあります。
原作では、ウサギが油断して居眠りしたのでカメが勝ちましたが、ウサギが普通に走り続けたら、カメは勝てません。さらに、上には上がいて、ウサギはチーターに勝てません。
『好きこそものの上手なれ』は、半分正しくて半分間違っている、と筆者は思います。
『好きなこと』と『得意なこと』は別です。
『やりたいこと』と『できること』は、一致しない場合が多いです。
『産まれつきの圧倒的な能力差』は実在し、努力でカバーするにも限界があります。
必死に努力して成功した例もありますが、それは非常に希なことです。滅多にないことだから、美談になり、ドラマになるんです。逆転劇は人気がありますよね。エンタメとして。
残念ながら、現実には逆転勝利は難しいです。じゃあ、どう生きれば良いのでしょう?
そんな残酷なことを自然界にあてはめて、イソップ寓話と混ぜたら、本作ができました。
【 表記・文体について 】
童話っぽい文を狙って書いています。小難しい言い回しや読みにくい漢字は避け、ひらがなを多くして。残酷な部分と、童話っぽい ですます調。このズレた感じが筆者は好きです。
“ 子供が読んでも理解できるが、稚拙になりすぎない ” 文章が理想だと筆者は思います。
今回は動物の名前をカタカナにしました。ひらがなが並ぶと単語の切れ目が分かりにくいので。筆者は、ひらがなを多用する方が好きですが。
ひらがなが連なって読みにくい時は、半角スペースを挟むと読みやすくなります。でも日本語はスペースで単語を区切らないので、ルール違反です。だからといって読点を多用すると格好悪いし……悩みます。
【 原作のカメについて 】
『カメ』は生物の分類としてはかなり広く、多種多様です。
イソップ寓話のウサギとカメに登場するカメは、どんなカメだったのでしょう?
古代のギリシャあたりに生息していたリクガメの一種……らしいです。ネットで調べると何種か候補が出てきます。
比較的乾燥した場所に生息するカメなので、水に入る話は間違いかもしれません。日本人になじみがある半水棲のカメとは少し違うようです。
どちらかと言えば草食のカメですが、動物質のものも食べる可能があります。
原作のカメとチーターは生息地が違います。ウサギも同じ場所に住む動物なのかは微妙です。
足の速さの勝負で、これ以上ない存在はチーターだろう、という単純な理由で登場させました。
[ 初投稿日時 2024/07/07 07:07 ]