通り雨に降られた大学生が久しぶりに靴を洗うだけの話。

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brush up

 

大学の帰り道、急に雨が降ってきた。予報では一日中晴れだったから、通り雨だろう。

当然、傘は持っていなかった。校内の売店はもう閉まっているし、他人の置き忘れを使うのも気が引ける。

電車通学であれば駅のコンビニで傘も買えただろうが、あいにく俺のアパートは大学から近く、その間に傘を売ってそうな店はなかった。

大した意味もなく徒歩通学にしたことを後悔しながら、俺は仕方なく走って帰ることにした。

 

雨脚は強く、短時間で道路は水溜まりだらけになっていた。

この辺りは道がでこぼこしているのもあって、深い水溜まりになっているところもある。

俺はできるだけ急ぎながらも、足元に注意して走り始めた。

しばらく走っていると、「ジャッ」という短い音をあげて車が走り去った。

次の瞬間俺のシャツには流線型のペイントが施されていて、驚いてたたらを踏んだ足は泥のパレットに突っ込んでしまった。

最悪だ。足元に気を取られて、周囲を見ていなかった。

不運は重なると言うが、ここまで酷いと笑いが込み上げてくる。もう俺は笑い声ともとれない奇妙な声を上げながら帰るしかなかった。

 

さっきまで不思議と笑えていたのに、アパートに着いた途端ため息が漏れ出た。

ほんの数十分の出来事なのに、散々な一日だった気分だ。

早く着替えて風呂に入りたかったが、一足しかない靴を放置するわけにはいかない。俺は脱いだ靴と靴下を持って、泥棒のように風呂場に向かった。

 

濡れた服は洗濯かごに投げ入れた。

洗濯物がだいぶ溜まっていた。うちには洗濯機がないので、そろそろコインランドリーに行かなくてはならない。梅雨は嫌になる。めんどうな仕事が重なるたび、鬱屈とした気持ちが雨漏りのように溜まっていった。

靴磨きなどという大層なものはないので、古くなった歯ブラシで代用することにした。毛がだいぶ広がっていたので替え時だろう。

靴の洗い方なんてよくわからないのでなんとなく全体を洗い流し、特に汚れているところを重点的に磨く。

数年履いていてかなり汚れていたが、この工程を何度か繰り返すと、靴の側面に砂のような斑点模様が見えてきた。同時に、忘れていた懐かしい記憶が蘇る。

今は汚れてわからなくなっていたが、この綺麗な模様に惹かれてこの靴を買ったのだった。確か初めてのバイト代だった。

あの時は自分で稼いだ金で買うものすべてに価値があって、大切な宝物だった。

買った時は歩くのが楽しみで仕方がなかったのに、いつの間にかここまで履き潰してしまっていたのだ。

 

靴を洗い終えた俺はシャワーを浴びて着替え、靴を物干し竿に干した。ひと仕事終えた気分で、せいせいしていた。

靴は四方に広がりきって汚れた歯ブラシと反比例するように綺麗になっていた。

手入れを怠らなければ、もうしばらく持ちそうだ。

明日も雨だろうか。もし晴れたなら、こいつを履いてコインランドリーに出かけよう。

溜まりに溜まった洗濯物を、綺麗にしてやるために。

 


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