小さかったり大きかったり、優しかったりわがままだったり
空を飛べたり海を泳げたり、足が速かったり動けなかったり
この世界には色んな なの族 がいて、それぞれが日常に潜んでいる
そんな なの族 達の暮らし、覗いてみませんか?
(完全不定期更新の短編集。原作名など、変更したほうがいい点がありましたら教えてください。追加や変更します)
とある夏の日のこと、一匹の なの族 は道に迷っていた。この なの族 は田舎町の段ボールの中で暮らしていたが、ピザを求めて上京してきた。その結果、見知らぬ土地に独りぼっちという状態に追い込まれてしまったのだ。
「なの… ここどこなの〜?」
目の前には なの族 の何十倍のサイズもあるビル。小動物のように小さく、ふらふらと生きてきたこの なの族 にとって、周りの建物はどれも大きすぎる。どこかのピザ屋の屋根裏にでも住み着こうと考えていたこの なの族 は、ピザ屋を探して彷徨っている。
気付いていないが、実はピザ屋の前は既に通り抜けてしまっている。デリバリーが進歩した今の時代、1つの街にピザ屋が何軒もあるわけではない。戻らないと なの族 はピザ屋に辿り着けないのだが… そんな事知る由もなく、日差しの暑さから逃れるように目の前のビルに入ろうとしていた。
「開かないなのー! 開けろなのー!」
扉は開かなかった。透き通ったガラスの扉は、隙間なく固く閉ざされている。 なの族 が上を見上げると、黒色の何かが
しかし、この なの族 はただの なの族 。空を飛んで近付くことも、壁を駆け上がって近付くこともできない。そこで なの族 は考えた。誰かに運んでもらえばいい、と。
「あそこまで連れてってなのー」
「あそこまで連れてけなのー!」
誰も なの族 の声に応えてくれない。小さな生き物が全力で叫んでも、何倍も大きな人間の耳には届かない。届いたとしても、『何の音だろ、新しいピザ屋の宣伝かなー?』としか思わないだろう。この なの族 はただの なの族 、テレパシーも使えなければ、メガホンも持ってはいないのだ。
しかしこの なの族 には考える力があった。周りを見回すと、人用の階段を1段ずつしっかりと登っていった。それから気合を込めて植木鉢に走っていく。
「行くぞーなのー!」
全力で跳んで、上に手を伸ばす。植木鉢の縁を確かに両手で掴み、軽い体を持ち上げてよじよじと登った。それから反対側まで移動して、今度はしなる葉っぱを掴み体を振る。ブランコを揺らすように体を振り、手を離すと体は高々と舞い上げられた。
「よしっ、なの!」
植木鉢から、真っ赤な箱に飛び乗った。ポストである。それから なの族は 待った。このポストの近く、肩に飛び乗れそうな位置を人が通るのを。すると、ポストに何かを入れるために人が屈んだ。助走をつけて、肩に飛び乗った。
「あっちの建物に向かってなのー!」
「え、何の声?」
「あの建物に向かってなのー」
「どれ? というか誰? 私、お姉ちゃんと遊ぶ大事な予定があるんだけど」
「あの大きな建物なのー!」
「面倒だな… でもずっと喋りかけられる方が面倒。行けばいいんでしょ、行けば!」
「なのー!」
なの族 が飛び乗った女性は、面倒そうにビルに向かっていった。不機嫌なのか肩が上下に揺れ、落ちそうになったが踏ん張った。そして、 なの族 はビルの入口に戻ってきた。
「あの黒い変なのの所に連れてってなのー」
「…人感センサー? 中に入りたかったの?」
「なの? じんかんせんさー?」
「あれは人が近付くと扉を開けてくれる装置。ほら、今なら扉が開いてるから。入りたいなら早く入って」
「なのー! ありがとうなのー」
「はいはい、変な生き物だったなぁ」
なの族 は扉を通ってビルに入った。そして、連れてきてくれた女性は居なくなり、扉は閉まった。入口のそばにあった文字の書かれた板を、 なの族 は読む。そして気が付いた。
「ここピザ屋じゃないなのー! 出してなのー!」
ビルに閉じ込められた なの族 。外に出れるのは、いつになるのやら。小さくて愉快な なの族 は、もしかしたら貴方のそばにも居るかも?
この なの族 が外に出れたら、次の冒険をご紹介します。それでは、さようなら。