日本召喚2021   作:秋津とんぼ

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世は夏休み、さてラストスパートです。
ところでカヌハ・エルロンド12世っていちいち書くの面倒なので会話文中を除いてKGVに倣ってKEXIIと表記することにします。

前話にて、ガイメを忘れていたのでショルツラントのセリフを「全員揃ったわね」から「ほぼ全員揃ったわね」に変更しました
※この文章は次話投稿後に削除されます


30 列強の落日?④

 午前6時20分、新宮殿(ファラス・ヌーエ)3階。

 一階入り口の目の前から真っ直ぐ続く大階段。

 基部から天辺、手摺りに至るまで一体して削り出されたこの二個の巨大な白璧は、現在その面を赤く染めてカスケードと化していた。

 その先も同様に真紅がぶちまけられ、壁も、骸も、鉄屑も、全てが血に塗れていた。

 その中にただ一つ、赤以外の色彩を放つところがあった。

 豪奢に装飾された大広間への扉。その前で、イクシオンは返り血で真っ赤になった白銀の鎧を纏って仁王立ちをしていた。

 

 「う、うわああああ!」

 

 情けない大音声を上げながら破れかぶれに突撃した空挺兵が、イクシオンの持つ長剣に袈裟斬りにされ転がる。イクシオンは邪魔だったのか、たった今作ったばかりの骸を無造作に前方に蹴った。反応できなかった兵が一人、直撃した骸もろとも大階段を転げ落ちていく。少なくとも彼の戦闘への復帰は絶望的だろう。

 

 「……」

 「っ!」

 

 振って血を飛ばした長剣を再び構えたイクシオンの、(バシネット)のバイザー越しに見える炯炯とした双眸に、兵士らは恐怖した。

 

 長剣しか持たず、魔法も使ってこないイクシオンに対し、エルローイア側の兵士はいずれも現代的な銃器で武装しており、そのリーチの差は決定的。既に彼以外の近衛騎士は大方戦死しており、その差は隔絶しているというのが戦闘開始当初に認識であった。

 それが()であることに気づいたのは、最初に小銃の一斉射をした一個の分隊が返り討ちに遭った時であった。

 織り込まれた術式によってある程度の防刃性能を備えていたとはいえ、所詮は衣服の域にとどまっていた他の近衛騎士の白衣と違い、彼の着る板金鎧は銃弾の直撃を受けても凹損すらせず耐えきったのである。

 銃撃をものともせず兵士を次々斬り殺すその姿に、恐怖せぬ者はいなかった。

 

 皆、怯んでいた。

 しかし、この先にエㇽラダンが居るのだ。

 

 どうやらイクシオンは呼吸を整えているようで、静かにその場に佇んでいた。

 生まれた僅かな静寂の内に、どうすればよいのかスバが思考を回し始める。

 とりあえず、今用意できる火力では効かない。

 スバは自分の前方に立つ兵士の足元へ目をやった。そこには真っ二つに折れた12.7fn重機関銃が転がっている。

 銃撃する間もなく叩っ斬られたのだ。

 現在用意できる最高火力でこれであるから、もう増援の到着を待つしかないのか。

 

 「なにをしてる! 射撃を止めるな! 撃て! 撃て!」

 

 恐怖をわずかに残った理性的判断で押さえていたところに、後方、二階階段下のテラスにいた小隊長の叫びが最後の一押しをした。

 堰を切ったように、彼らの構える小銃から火箭が放たれた。

 現出するのは先ほどまでと同じで、銃撃は徒に鎧に防がれ続け、バイザーの隙間を狙った狙撃は大剣に弾かれる。

 効いていないのは分かるが、弾かれ続ける銃弾の立てる甲高い音は中身に少なくないプレッシャーを与え、少なからず足止めになっているだろう……そう思いたい。

 夢中で引き金を引いていたら、その場にいたほぼ全ての兵士の銃から、殆ど同時にカチッという音がした。

 肝が冷えた。

 挿弾子を取り出していては遅いと判断したスバは咄嗟に装填済みの拳銃を抜いたが、その間に既に愚かにも小銃の再装填を選んだ前方の兵士がイクシオンに斬られていた。

 スバは発砲した。

 一発、二発、三発。

 そのすべてを避けながら、血染めの鎧は斬り殺していく。

 四発、五発。

 最後に残ったスバへ向けて、イクシオンは斬りかかった。

 六発。

 迫りくる敵のバイザーへ向けて撃った最後の弾をイクシオンが向かって右に避ける様が、いやにゆっくりに見えた。

 

 「!!」

 

 脇腹を襲ったかっとした熱さが、右から左へ走り抜けた。

 視界が廻転する。

 

 瞬間轟音、遅れて光と爆風。

 スバが最期に見たのは、大階段の端に立ったイクシオンがその鎧ごと腹部を吹き飛ばされ、二つに千切れてこちらへ倒れてくる姿だった。

 

 

 

 「なんとかなったようだな」

 

 歩兵携行式呪文砲を構えた兵士の隣で、エルローイアはそう言って階段へ足を踏み出していた。

 血で足を滑らせ落下した部下を置いて、エルローイアは静かに歩を進めると虫の息のイクシオンの傍に立った。

 兜を外すと、少しばかり白いものが混じった長い金髪が床にあふれた。

 

 「小父貴」

 「……逆賊にそう言われる謂れはない」

 

 それを聞いてエルローイアは何かを言おうとしたが、かぶりを振って立ち上がった。

 

 「楽にさせたい」

 「はっ」

 

 エルローイアは差し出された拳銃を手に取ると、銃口をイクシオンのこめかみにあて、静かに引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダックル。

 ブォォン、と低く鈍い音が艦内に響く。

 

 「高度上昇中、80、100、120……」

 「浮遊機関出力安定、現在おおよそ150I(イーレア)/sのペースで上昇中」

 「主機プラズマ縮退炉、制御重力及び抽出エネルギー共に正常範囲内」

 

 「ふむ、概ね良好ね」

 

 淡々と上げられる報告を聞いて、ショルツラントは軽く微笑んだ。

 眼前には、窓越しながら夜明けを迎えようとする仄暗いエダンヤ平原が広がっている。

 現在この艦はエルフィリアへ向けて出航したばかりであった。

 

 「閣下!」

 「む、どうした。一体——!?」

 

 呼ばれて振り返り、彼女はあり得ないものをそこに見て絶句する。

 

 「下命通り、アルウェン殿下を連れて参りました!」

 

 寝間着らしき薄手の服ひとつを纏っただけのアルウェンが、士官に手を引かれて立っていた。

 

 「——は?」

 「え?」

 「……私はそのような命を下した覚えはないわ。なぜ連れてきた」

 「ティっ、ティスカ中将が伝達されまして……」

 「彼女は今日はずっと基地かダックルにいたわ」

 

 それを聞いて、士官は膝から崩れ落ちた。ぶつぶつと何やら呟いている彼を無視し、ショルツラントは命じる。

 

 「連れて来ちゃったものは仕方がないわ、物置にでも入れなさい」

 

 それきり、アルウェンを見なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やっと追い詰めましたよ、兄上」

 「ここまで来るとはな、弟よ」

 「虚勢はいりませんよ、兄上」

 

 言われて、エㇽラダンは唇をかんだ。

 状況は絶望的だった。

 王家の嗜みとして彼はそれなりの魔法は操れたが、その技量に関しては一線を張れるものではなく、精々エルローイアと相討ち、運が良ければ倒せる程度でしかない。この新宮殿(ファラス・ヌーエ)の中に、そして外にひしめく敵兵を突破することなど到底できようもない

 

 「……一つ、問おう。」

 「ほう」

 

 エルローイアは意外そうに眼を大きくした。

 

 「この後、一体どうするつもりだ?」

 「どう、とは」

 「この国の舵取りについてに決まっておろう」

 

 エルローイアは再び目を丸くした。

 

 「どうした、まさか何もないということはあるまい」

 「……いえ、兄上からそんな質問が出てくるとは思わなかったので」

 「どういう意味だそれは」

 

 エルローイアは呆れたようにため息をついた。

 

 「まずは取り敢えず、癒着した官僚機構と商人を引き剝がします。その後は新たな東方の枠組みに参画し共同で発展を目指し、西方のいかなる勢力とも結びつかない独自の勢力圏の形成を進めるつもりです」

 「まて、癒着とはなんだ、癒着とは」

 「一部の商人は不当な待遇を受けています。免税、減税、補助金、事業の優先入札権その他。ダルコン、ウィゼリアル、サクラサといったこれらを取り除き全てを平等にするんです」

 「何を言っている?彼らはこの国の躍進を支えてきた柱だぞ。まさかサッカラールのいけ好かない白エルフ連中を引き込むつもりか?」

 「心配ありませんよ、兄上。彼らが益を齎していたのは過去のこと、害を取り除いて悪いことなど何もありません。それにその穴はほかの東方の国同様ニホンが埋めてくれますよ」

 

 途端、エㇽラダンは気色ばんだ。

 

 「売ったな

 

 エルローイアは一歩、後退った。

 

 「売ったんだな、この国の根本を、業績を、……誇りを

 

 さらに一歩、後退る。

 

 「売ったな貴様ァァァァァァァァァ!

 

 普段の凡々然とした姿からは想像もできない裂帛の気魄に、エルローイアは気圧され硬直した。

 

 「らァァァァァッ」

 

 エㇽラダンは突進して弟の胸倉に掴みかかった。彼が勢い尻餅をついたのをめがけて、高く右拳を振り上げた。

 

 「ヒイッ、タスケ——」

 

 その拳が頬に達しようというところで、兵士が割り込み、エㇽラダンを拘束する。

 

 「——よくやった。これでこの国は安泰だ」

 

 エルローイアは立ち上がると、引き返さんと歩き出した。

 


小ネタ解説

I(イーレア)

 浮遊機関の出力を表す単位。一トンの水を1hm(ハウマリル)、メートル換算にして14m持ち上げる出力を1I(イーレア)とする。

 

 ー次回予告ー

————「プッ、プラズマ縮退炉がッ!!」

 いよいよ追い詰められるエㇽラダン、魔導騎士としての散り花を咲かせるイクシオン、迫るエルローイアの戴冠。

 その全てをぶち壊して今! 帰宅したい輩が押し通る!

 二章クライマックス、エルフィリア上空でミサイルの撃ち合いだ! どうするオーガニア!

 次回ッ! 「列強の落日!或いは叶わぬ帰郷」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「——ん?」

 

 直後、彼はダックルの試製光化学熱線砲の砲撃が直撃し宮殿上層諸共消滅した。


 

真30 列強の落日!或いは叶わぬ帰郷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮殿上層、白き花弁の宮(ファラス・イウィススルリエ)の名の由来たる巨大な白花を消し飛ばした光の奔流は、エルフィリア沖10㎞にまで迫り、照準を宮殿に合わせ丁度エㇽラダンへ降伏勧告を発しようとしていた第一艦隊残存からも、はっきりと見えていた。

 

 「な、なんだ今のは!?」

 

 KEXII(カヌハ・エルロンド12世)の艦橋で、参謀の一人が声を上げた。

 

 「わからん」

 「おい、殿下はどうなのだ! 連絡は!? 現在位置は!?」

 「すべて不明です! ですが先ほどのご様子ですと……」

 「他の部隊はどうなってる!」

 「ランカーシャで決起した同志は既に敵を破って同地域を制圧したようです。また——」

 

 艦橋が困惑と焦燥に包まれる中、双眼鏡を構えていた一人が声を上げた。

 

 「お、おい! あれを見ろ!」

 「なんだ? 何が……なんだ、あれは」

 「信じられん……!」

 

 言われて士官らは次々に提げていた双眼鏡を構え、口々に驚愕の言葉を零す。

 

 「一体何だ? 貴官らは何を見て——」

 

 出遅れたシアウィルスは、先程の海戦でぶつけてしまって右側が正常に見えない自身の双眼鏡を、左の鏡筒が右目に来るように構え、望遠鏡のようにして向こうを見た。

 

 「——浮いている?」

 

 ちょうど差し込んできた朝日が、エルフィリア西方の上空に浮かぶ物体を明らかにしていた。

 ただ単に空に浮かぶのであれば既にパンドーラが飛空船を開発、運用しているから物珍しくもない。しかしこれは、木造である通常のものと違って、どう見ても金属のようであった。材質のみならず、その形状も異様だった。パンドーラの飛空船は船体は帆船のものと然したる違いはないのだが、重心の問題で下にまで帆柱が貫通しているのが大きな特徴である。しかし今眼前にあるそれは、言うなれば海を征く軍艦を喫水線の辺りで切って、その上側に上下反転させた同じものをくっ付けたかのような姿をしていた。こちらへ舳先を向けているそれは上下に連装砲が少なくとも1基ずつ付いているようで、それ以外の武装はぱっと見ではわからない。

 

 「あれは……まさかっ、ダックル!」

 「知っているのかライディン!」

 

 頷くと、シアウィルスの問いに答えてライディン少佐は語りだした。

 

 「手短に言いますと、かの13日戦争を終わらせたのがあれです。ギルキア鹵獲の際に大破して、まだ修復中だと思っていたのですが」

 「……で、そのダックルが、どうして宮殿を吹き飛ばしたんだ」

 「わかりません。そもそもあれに誰が乗っているのかすらわかっていないのですから」

 「そうだな。あのダックルとやらに通信だ。んー、とりあえず……

 

 

 

 『貴艦ハ如何ナル故ニテ白花ヲシテ散ラシムヤ』にでもしておけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「馬鹿馬鹿しい。エルフのお貴族様というのはいちいち迂遠な表現を使わなければ生きられないのかしら」

 

 ダックルのCICにて、ショルツラントはそう言って笑った。

 

 「どう、返答しましょうか」

 「ふっ、知れたこと。主砲を撃ち込みなさい」

 「ですが閣下、先程の射撃で少々不具合が生じたそうで、取れる俯角が浅くなった関係でここからではあの戦艦に当てることができません」

 

 

 

 「エネルギー充填80%、発射準備完了」

 「撃て(フォイエル)

 

 

 

 ショルツラントの声が響いた、その一瞬のち。

 ダックルの上甲板にある連装砲塔、その砲口から眩い光条が放たれた。

 二つの輝く槍は常人では認識できない速度で突き進み、カヌハ・エルロンド12世の檣楼を掠めて向こう側の海面に直撃。おおよそ2200GJにも達する巨大熱量を一瞬にして叩き込まれた海水は温度が瞬時に沸点まで上昇、蒸発して巨大な蒸気柱が聳え立った。

 突如片舷の水が消えたカヌハ・エルロンド12世は大きく傾く。蒸発してできた空隙はすぐさま周りの海水が雪崩れ込んで元通りの姿になるが、大質量の戦艦はなおも大きく左右に揺れ続ける。

 

 「ぬわぁ〜〜〜〜〜〜〜!?」

 

 基本的に重心が低めな設計だが、艦橋だけはサッカラールに倣って檣楼の頂部付近にあったのが災いして、その()()は揺れるたびに壁なりに打ち付けられ、次々と人が気絶していく。

 揺れが大人しくなった時には、シアウィルス含め艦隊司令部は皆、突起物の刺傷による失血なり、壁に叩きつけられたことによる脳震盪なりで、指揮が取れる状態ではなくなっていた。

 

 

 

 「なんてことだ……」

 

 KEXIIのすぐ後ろを航行していた巡洋艦アイレクーヌの艦橋で、艦長カワードは呟いた。

 残存の艦隊はKEXII、アイレクーヌ、そして小型艦三隻のみ。

 しかも射程の関係上、接近しないとあの飛空軍艦にまともに損害を与えられるなのはKEXIIだけである。

 先程「案ずるな!このソテリタギ・カワードが、必ずや諸君を勝利に導いて見せよう!」などと言ってしまったが、彼は到底勝てる気がしなかった。先刻見せられた、一撃で宮殿を消し飛ばし、一瞬にして海水を蒸発させる攻撃。神話かと見紛うような破滅の光に戦意を削がれていたのである。まあそれは艦隊の水兵諸君もそうであろうから、先程の大言も士気の低下を阻害するためと思えば失言から鼓舞に早変わりだ。

 

 「とりあえず、カヌハ・エルロンド12世にはあの飛空軍艦に砲撃するように指示しろ。他の各艦は奴を射程に入れるべく前進」

 

 とはいえ、本当に何も分からない。敵はもちろん、頼りにできそうな友軍ですら。艦隊司令部はともかく、自分のような一艦艇にまで友軍の位置のような重要情報はいちいち回ってこないし、その情報は先程司令部が潰されたことで、少なくとも数時間は失われてしまったからだ。

 聞こえ始める重低音、輝く発砲炎。

 つらつらと考えていると、一つの報告が飛び込んだ。

 

 「艦長、カヌハ・エルロンド12世からなんですが、ニホン艦隊より通信が来たと」

 「何!? 丁度いい、あれを攻撃できないか聞いてみよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んっ!? 報告! 北東約100hm(ハウマリル)よりこちらへ向かう飛翔物体の発進を確認、数は1、速度は約22m(マリル)/s、接触予想時刻まであと434秒! 該地点に存在する国籍不明艦隊の識別をunbekanntからfeindに変更します」

 「ほう? 誘導弾(ラケーテ)か?」

 「その公算が大かと」

 

 ダックルのCICに驚きが広がる。

 それは相手が自分たちと同レベルの技術水準にあることを意味し、かつそのような事態がこれまで無かったからだ。

 

 「艦隊の隻数は?」

 「16」

 

 それを聞いて、士官らは顔を顰めた。

 

 「それでは誘導弾(ラケーテ)は一発も無駄にできないではないか。閣下、ここは副砲での迎撃がよろしいかと」

 「まあそうね。射程に入るまで何秒ほどかしら」

 「おおよそ……340秒です」

 「ふむ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 5分後。

 第2護衛隊群、いせCIC。

 「02、迎撃されました」

 「少なくともFCSは同程度なのか……厄介だな」

 

 司令官江田が呟いた。

 

 「とりあえず、飽和攻撃で良いのではないですか? 敵は単艦です、我々と同等だとしてもたった一隻で50発ものミサイルを迎撃することは不可能でしょう」

 「それは道理だが……一撃で艦隊のSAMの四分の一を消費しても良いのか?」

 「しかし、そうでなければ逐次投入と変わりがなくなります」

 「……そうしようか」

 

 命令一下、いせ と ひゅうが を除く各艦から、4発ずつSAMが放たれる。

 合計56発のミサイルが煙を引いてダックルへと飛翔していく。

 レーダーの画面には夥しい輝点が映り、ゆっくりと目標へ近づいていっているのが分かる。

 命中を待つ、緊張。

 そして。

 

 残り三分の一といったところで一斉にかき消えた。

 

 「っ!? 03から59、全てロスト!」

 「は?」

 「クーデター派の艦に問い合わせろ!何が起こったかおそらく見えているはずだ!」

 「これを迎撃するだと!? 単艦なんだぞ!?」

 

 CICは一転して喧騒に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイレクーヌ艦橋。

 KEXIIの砲撃は全く損害を負わせられないでいた。

 最大射程に近いほどの遠距離である上に、日頃積み重ねてきた訓練とはまるで違う空中目標、水上船は段違いの航行速度。これらの要因に阻まれ、今まで5回ほど射撃したが命中弾を出せていないのである。

 そもそもそれだけの回数で命中弾が出ること自体砲手が優秀でないと中々起こり得ないのだが、そもそも標的がいるのは国土の上空。外れた弾は大地に落下して畑なり道路なり、運が悪いと家屋を破壊しているかもしれないのだ。それゆえの焦りが人員を蝕んでいた。

 先ほどからこちらに向けてほとんど何の行動もしていないと言うのも、自分たちが敵の眼中に無いことを思わせ彼らを苛立たせていた。

 そんな中、ざっと五十を超える飛翔体が煙を引いて標的へと飛んでいく。

 

 「流石にあれを喰らえば落ちるだろう」

 

 そんな安堵が艦内に満ち、緊張と共にその行く末を見守る。

 そろそろ数多のSAMがダックルに到達しようかと言うところで、カッと光が溢れた。

 

 「なーーーっ!?」

 

 試製光化学熱線砲の輝きが、56発の遷音速の槍を呑み込んで迸る。

 視界から光条が消えた時には、それらは跡形もなく消えていた。

 

 

 

 

 

 

 「そんなのってありかよ!」

 

 いせCIC。

 江田の、ダックルがSAMを迎撃した様を聞いての一言である。

 

 

 

 

 「主機が安定しない?」

 

 一方、ダックルもダックルで少々問題が発生していた。

 

 『ああ、比較的短い間隔で大エネルギーを引き出したせいか、少し重力レンズの出力に乱れが出てね。暫く主砲は使わないでもらうと助かる』

 「大問題ではないの」

 「困りましたなぁ」

 

 主砲が当座の間——最悪を考えると戦闘中ずっと——使えないとなると、ダックルの使える武装というのは一般的なミサイル駆逐艦と変わらなくなる。すなわち副砲である12.7cm砲と各種ミサイル、CIWSである。

 しかしこのダックルは光化学熱線砲の実験艦として改修された故に、内部の空間は主砲の動力源となるプラズマ縮退路とその制御機構、主砲の砲撃演算のために増築された電算機で圧迫されており、主砲の装弾数が同型の半分に削られている。そもそも今ある主砲は12.7cm砲の砲塔を一つ撤去して設置されたものであるために、それも上部後方と下部前方にのみ配置されていた。

 さらに、もうはや補給できないミサイルは、SSMを発射筒形式で4発、SAMをVLSで32発運用できたが、SSMはギルキアとの戦いで撃ち尽くされ、SAMは13日戦争の際に半分である16発が消費されていた。

 ニホン艦隊に対して、一隻あたり1発の計算となるが、1発だけではほぼ確実に迎撃されるだろうし、そもそも対応目標が違う上に炸薬量が少ないSAMでは当たったとしても威力が不十分なのではという懸念があった。実際は地球の軍艦は装甲での防御を諦めているためにこの程度であってもおそらく破孔を生じるだろうが、彼らは知らない。

 

 思考の間隙を、衝撃と轟音が貫いた。

 

 「なっ、なんだ!?」

 

 唐突な揺れで艦内にいた人員はよろめき、倒れ、またはどこかに掴まって支える。

 一方不幸な者は頭をぶつけて意識を飛ばした。

 

 「……チャンス」

 

 例えばアルウェンを見張っていた下士官のように。

 

 

 「先ほどの衝撃は、カヌハ・エルロンド12世の砲撃が命中したもののようです、閣下」

 「そうだったの……被害は?」

 「右舷下部の表面が抉り取られた模様です」

 「思ったより少ないわね」

 

 幸い軽い者で済んだようだ。とはいえ、当たったことに変わりはない。

 

 「とりあえずもう少し高空まで上昇しましょう。いずれ届かなくなる」

 

 

 

 「高度上昇中、2380、2400、2420……」

 

 途中一度放たれた自衛隊のSAMを迎撃しながら、ダックルは順調に上昇していく。

 その最中のことだった。

 

 「はあっ!」

 

 可愛らしい声と共に、CIC唯一の扉が凹んで吹っ飛んだ。

 

 「なっなんだあっ」

 「き、貴様は!」

 

 朱に染まった短刀を持ったアルウェンが、服を一部返り血で染めて立っていた。

 彼女は迷うことなく、近くの席に座っていたショルツラントへ吶喊した。

 

 避ける暇などなかった。

 

 

 

 

 突如として右わき腹に何かがぶつかった衝撃と鋭い熱さが迸って、ショルツラントは一瞬視界が白く飛び、思わず後ろへよろよろと後退った。

 ふらっと後ろへ倒れそうになったところを咄嗟に手をつく。何かが押ささったようだが、わからない。脇腹に手をやると、暖かいぬらっとしたものが触れた。見ると軍服の一部が朱に染まり、血がどくどくと流れ出していた。

 刺された。

 誰にだ。

 そう思い辺りを見回そうとして、それまで聞こえていなかった周囲の雑音が再び耳に入ってきた。

 「貴様ッ!」

 部下がそういって、自分の血で両手とそこに握ったナイフを赤く染めたアルウェンを撃つのが見えた。怒りに任せて撃ったためか、狙いがそれて彼女の左上腕から血が飛んだ。

 「なっ、なにがぅぼぁ」

 問おうとしたその時、口から血が溢れた。 内臓がやられているな、くそ。

 「閣下!」

 「貴様、なんてことを!」

 激昂した部下は躊躇なく引き金を引き、銃口とは反対のアルウェンの側頭部が咲いた。

床に頽れ、ぐたっとして動かないアルウェン。その虚ろな瞳と目が合った瞬間、スコルズランドの中で何かが弾け飛んだ。

 「ッハハ!ハハハハッ!」

 「閣下!?どうされました、閣下!」

 「傷に障ります、閣下!おやめください!」

 「ハハッ!ハハハハハハハハハハハ!」

 唐突に笑いだす彼女に、周囲の部下たちは当惑する。

 「ハハハハハハハハ……ハハッ」

 「だーめだ、これ」

 そう言うなり、彼女は俄かに後ろへ倒れかかる。慌てた部下が支えるが、スコルズランドは脱力したままだらんとしていた。

 「閣下!?閣下!?」

 ああ、寒いな。

 

 

 「早く、閣下を医務室へ!」

 「な……んだこれは! プラズマ縮退炉が……!」

 

 偶然だったが、ショルツラントが咄嗟に手をついた時、プラズマ縮退炉の加圧制限を無視する信号が送られてしまっていた。

 重力制御は暴走を始め、炉は急速に不安定になっていく。

 

 「プッ、プラズマ縮退炉がッ!!」

 

 ハインリヒのその言葉を最後に炉は完全に壊れ巨大な重力が発生、ダックルは搭乗する200名余諸共一瞬にして圧壊し砂粒程度の極々小さな塊にまで縮んでしまった。発生する機構も潰れたのでほとんど間を置かずして大重力は霧消、後にはただ風のみが吹いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な、何が起こったんだ……?」

 

 アイレクーヌの艦橋で、カワードは呆然としていた。

 やっと標的に砲撃が掠ったかと思えば、そこから程なくして急にその姿がかき消えたのだ。

 困惑するしかなかった。

 

 

 

 第二、第三護衛隊群がダックルの捜索を打ち切り、エルフィリアにて未だ抗争を続ける双方の残党を尻目に本国へ報告してから1時間後、日本政府はデリア及びその他との戦争に関して、無期限の停戦を一方的に宣言した。

 

 規格外のことが連続して起きた大東洋戦争、その終結の第一歩であった。




小ネタ解説
・イクシオンの鎧
 エダンヤ王国建国以前、エダンヤエルフが最終的にデリアに辿り着くことになる航海に出立する以前に作られたと言われる由緒ある魔導鎧。重機関銃ほどの威力であれば効いたが、作中では効果を発揮する前に斬り壊された

・ダックル
 ショルツラントその他の故郷ディンデュパルト(27話にてミネグモが言及)の空軍が運用していたミサイル駆逐艦の一隻。ある日突如乗員と共に1312年のデリア亜大陸に転移した

 ー各国の反応ー
日本「なにあれ」
デリア「内紛で死にます」
レミジャンティア「……?」(占領統治がゆるすぎて困惑)
マルセリータ「ええ、駐留していただいて結構でございます」
ティフォン「どらあ!」デリア大陸方面軍10個師団懇請
ベルク「おりゃあ!」アトランティスベルク駐留軍3個師団懇請
サッカラール「どんな条件をぶつけてやろうか」講和会議準備
アトランティス「長征やだ(´・ω・`)」講和会議準備
パンドーラ「使節さんいらっしゃ~い」講和会議仲介

 ー次回予告ー
————「今日もミリアちゃんが可愛くてエールがうまいぜ」
 歯医者の手術台には患者しかいないが、酒場に行けば勇者はもちろん、様々な人がそこで屯している。
 世界を肴に酒を呑む彼らは、故にいい反応をする————
 次回、「朝日上りて」
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