仮面ライダーヴァーニィ   作:黒井福

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どうも、黒井です。初めての方は初めまして。すでに私の作品をいくつか御覧になられている方はありがとうございます。

私が手掛けるオリジナル仮面ライダー作品もこれで4作品目となります。今回は吸血鬼をモチーフとした作品。前作のコガラシとは打って変わって私の得意とするモンスターパニック映画的な作風で描いていきますので、どうか最後までお付き合いくださいますよう、よろしくお願いいたします。

今回は主人公の出番もあまり多くないのでプロローグとしましたが、内容自体はガッツリ1万字越えとなっておりますので楽しんでいただけると幸いです。


プロローグ:惨劇の館

 2045.6.15 PM22:35 宮崎県 阿呉山中……

 

 日も完全に落ち、空には星空と月が輝く時間帯。宮崎県の阿呉山の山道を1台のワゴン車と3台のトレーラーが疾走していた。静かな山中に響くエンジン音を鳴らしながらヘッドライトで闇夜を切り裂き走る、それらの車体にはいずれもS.B.C.T.の所属である事を示す紋章が刻まれている。

 

 車列の戦闘を走るワゴン車は、この部隊の指揮車であり内部には様々な機材が詰め込まれ移動指令室として機能している。その指令室のオペレーターとして勤めている女性は、耳にインカムを装着しコンソールを叩きながら正面に並ぶ画面を見ながら口を開いた。

 

「隊長、間もなく目標地点に到着します」

『よし、全員の装備の確認をしろ』

「了解。全員、装備チェック」

 

 正面に並んだ画面は、それぞれのライトスコープのヘルメットに装着されたカメラからの映像を映したものである。並んだ画面の中では、それぞれの隊員が何をどう見ているのかが手に取るように分かる。

 その映像の一つが奇妙に乱れていた。その画面の端には、それが誰のカメラの映像であるかが表示されている為、オペレーターは即座に異常のある隊員に声を掛けた。

 

「あ~、ι(イオタ)6、カメラが乱れてるわ。ちょっと叩いてみてくれる?」

 

 オペレーターがそう言うと、隣のι5の画面が動き隣の座席に座るライトスコープを見た。見られた方のライトスコープは自分を見た隊員を見返すと、徐に頭を思いっ切り後ろに振り後頭部を壁にブチ当てる。すると乱れていた映像が元に戻った。

 

「あぁ、もう大丈夫。隊長、総員装備のチェック完了、異常無しです」

『よし』

 

 報告に通信機から隊長の満足そうな声が響く。直後車両が停車し、オペレーターの体が慣性で一瞬大きく揺れる。

 

「現場、到着しました」

『総員、降車!』

 

 開けた場所に停車した車列のトレーラーの後部ハッチから次々とライトスコープが降りて車列の前のスペースに整列する。最後にワゴン車の助手席から壮年の男性が出てきて整列した隊員達の前に立つと、部下の顔を一通り見渡してから口を開いた。

 

「今回の任務は、この背後にある屋敷の調査だ」

 

 そう言って隊長の男が親指で背後を指差す。そこには車のヘッドライトで壁の一部が照らされた大きな屋敷があった。前方からは車のライト、そして後方からは月明りに照らされて闇夜に浮かび上がるその屋敷は、目に見える範囲で長く人の手が加わっていない事が分かるほどにボロボロだ。

 

 今回この部隊、S.B.C.T.ιチームが派遣されたのは周辺住民からの通報を受けての事である。

 

 曰く、この屋敷に向かった者が誰1人帰ってこない……と。

 

 見ての通りこの屋敷は廃墟となってから長く、その外観も相まって近隣住民からは幽霊屋敷などと呼ばれていた。その理由は外観だけでなく、夜な夜な悲鳴や呻き声のようなものが響くと言われているからである。

 その噂を聞き付けた動画配信者を始めとする肝試しに来た若者が次々と姿を消し、更にはこの屋敷でライブ配信をした動画配信者が何者かに襲われた映像が流れた為、警察が調査に訪れたがその警察も音信不通となった。

 事ここに至りこの屋敷には何かがあると、S.B.C.T.は部隊の派遣を決定。ιチームが調査の為訪れたのである。

 

 それらの情報を一通り話し終えた隊長は、スコープに変身すると部下を引き連れて屋敷の中へと突入した。

 

「ι3、ι4、先発しろ」

「「ハッ!」」

 

 主武装であるガンマカービンの銃身下部にフラッシュライトを取り付けた2人のライトスコープがまず最初に屋敷の中へと足を踏み入れる。ボロボロで穴が空いた扉をι3がゆっくりと開き、ι4が開いた隙間に銃口を挿し込む様に内部をライトで照らしながらエントランスへと入っていく。その間残りの隊員は周辺を警戒しながら、中へと入っていった斥候の様子を固唾を飲んで見守っていた。

 

 2人が開いた扉の中へと入っていき、外観同様ボロボロとなったエントランスを切り裂く様にライトで照らしていく。右へ左へ、上へ下へと光芒が動き回り、これと言った異常が見られないと判断すると片方が外で待つ隊員に安全を確認した事を告げた。

 

「内部、異常ありません」

「よし、前進」

 

 エントランスが安全だと聞き、次々と隊員達が屋敷の中へと入っていく。一気にライトの数も増え、エントランスが先程に比べて遥かに明るくなる。

 

「屋敷内部に入った。そちらでは何か異常は見つかったか?」

 

 スコープがオペレーターに通信すると、オペレーターはコンソールを叩きながら忙しなく並んだ画像を次々と見やる。

 

『いえ……こちらから確認できる範囲で異常のようなものは確認できません。隊長、この屋敷には一般人が多数出入りしたと聞きましたので、ちょっと足元を良く見せてもらえますか?』

「総員、足元を照らせ」

 

 オペレーターの言葉にスコープが指示を出すと、全員一斉に足元をライトで照らした。床はタイルもカーペットもボロボロで見る影もない有様であったが、その床に幾つか真新しい足跡があるのを数人の隊員が見つけた。

 

「隊長、こっちに足跡があります」

「こっちもです」

「複数の足跡が確認できた。どうだ?」

 

 前線のライトスコープ達がカメラで映した映像は、即座に後方のオペレーターの元へと送られる。そしてオペレーターが映像を処理・分析して、前線の隊員達が見つけた足跡がどのように続いているのかを解析。解析した結果を今度は前線の隊員達に送信し、彼らの装備しているヘルメットの視界に反映され全員の目に床に出来た足跡が見えるようになった。

 

 足跡は形状や歩幅がどれもバラバラで、且つ違う方へと向かっている。過去に複数人がここを訪れた証拠だ。そして気になるのは、どの足跡も入り口から入って奥へ行くばかりで、逆に奥から入り口へと向かう様な足跡が一切見られない事だ。

 それはつまり、少なくとも正面玄関から外へと出ていった者が誰も居ないと言う事に他ならなかった。普通であれば、入ったのであれば出ていくのが当たり前であるのにだ。

 

 それが意味するものはつまり、噂は本当でありこの屋敷に訪れた者は誰1人として帰ってきてはいないと言う事である。それを理解して、誰からともなく緊張からか唾を飲む音がした。

 

「この足跡に沿って進むぞ。ツーマンセルで行動し、何かあれば即座に報告しろ」

 

 チームは二人一組となって目に見る範囲でバラけている足跡に沿って屋敷の中を進んでいく。客室に向かう足跡もあれば2階に向かう足跡など。

 

 後方の指揮車の中からその様子を見ていたオペレーターは、暫く固唾を飲んで前線の隊員達の動向と彼らが見た視界からの映像を見守っていた。

 

 どの隊員も、異様な雰囲気を感じているからか一言も言葉を発さず調査を続けている。だが不気味な事に、異変は勿論何かが起こった痕跡一つ見つける事が出来ない。争ったような跡すら見られないのだ。この屋敷に入ってから出ていった者が誰も居ない筈なのにである。

 

 明らかな違和感に屋敷内に散開した隊員達が、相方の隊員と顔を見合わせ首を傾げていた時、食堂に向かった隊員達から緊急を知らせる通信が届いた。

 

『こちら、ι4! 現在食堂に居ます。大至急来てくださいッ!』

『総員聞いたな! 急いで食堂へ向かえッ!』

 

 ι4の通信に続いて響いた隊長の声に、客室などに散っていた隊員達が急いで食堂へと向かった。

 

 そこで隊員達が見たのは、他の部屋とは明らかに違う酷く争ったような形跡であった。壁や天井に血が飛び散り、黒く乾いて悍ましい模様を作り出している。

 

「こいつは……ここに来た者達の物か?」

「恐らくは……」

「他が何ともなくて、ここにだけこんなのがあるって事は……」

「行方不明者は全員ここで……」

 

 しかも態々食堂を選ぶところが趣味が悪い。まるで犠牲となった者達を礼儀正しく食堂で頂いたとでも言いたげな有様だ。幸いと言うべきか死体は見当たらないが、これだけの血痕があると言う事は犠牲となった者は無事では済まないだろう。良くて体の一部を欠損、最悪死んでいる。

 

 明らかにここで惨劇があった。それを感じさせる光景に束の間誰もが言葉を失っていると、出し抜けに隊員の1人があらぬ方向へと銃口を向けた。

 

「ッ!?」

「どうした?」

 

 暗闇に銃口を向けた隊員ι9に、傍にいたι3が問い掛ける。ι9は暫く暗闇に銃口を向けながら視線を左右に振って何かを探していたが、見える物は銃身下部のライトに照らされた汚れた壁だけで他には何もない事に小さく息を吐きながら銃口を下ろした。

 

「いや……今何かが近くを通ったような気が……」

 

 戸惑いを隠せない様子でι9がそう呟くと、今度は反対側に居るι5がやはり暗闇に銃口を向けた。

 

「うッ!?」

「ι5?」

「何があった?」

「今、何かが傍を通らなかったか?」

 

 立て続けに2人の隊員が感じた異変に、他の隊員達も違和感を感じ始めたのか周囲を警戒し始める。この様子は当然後方のオペレーターにも届いている為、異変を察知したオペレーターが即座に映像から手に入る情報を精査しその結果を伝えた。

 

『ι9と5の音響を確認した結果、微弱ですが確かに何かが移動した形跡があります。何かが部隊の近くを素早く移動しているようです』

「周囲を警戒しろッ! 何かが居るぞッ!」

 

 敵かどうかは分からないが、何かが自分達の近くを動き回っている。装備のお陰でそれに気付けたιチームの隊員達は、自然と円陣を組むような形で周囲を警戒し食堂の壁や天井をライトで照らした。

 

 だが皮肉な事に異変に気付く事が出来たのが装備のお陰なら、迫る脅威への反応が遅れた原因も装備にあった。

 不意にι7の肩に赤い何かが滴った。だが小さな水滴レベルのそれが肩に滴った所で、衣服ならともかく装甲の上に滴ったそれに気付く事は難しくι7はたまたま隣に居たι10にその事を指摘されて漸くそれに気付いた。

 

「ん? ι7、肩に何かが……」

「え?」

 

 ι10からの指摘にι7は自分の肩に触れ、指先に付着したやや粘度のある赤い液体を見て何かに気付くと咄嗟に上を見上げた。

 

 その直後、天井の暗がりの中から赤い目を光らせた影のような物がι7を捕らえ、そのまま天井へと引っ張り上げていった。

 

「うわっ!? うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 悲鳴を上げながら手足をしっちゃかめっちゃかに振り回しながらι7が天井の暗がりの中へと引き摺り込まれていく。赤い目を光らせる影に覆い被さられた際に持っていた銃を落としたのか、ι7は抵抗も出来ず引っ張り上げられていく。

 

「ι7ッ!?」

「クソッ!」

 

 引っ張り上げられていくι7はあっという間に暗闇へと消えていった。残された隊員達は下から銃撃してι7を救出しようとするが、天井は高くフラッシュライトの光も届かない。姿が見えなくなったι7に誤射する危険もあり、程なくして銃撃は止まった。その直後、バキッと言う音が響いたかと思うと夥しい血液が降り注ぎ偶然その下に居たι3が血の雨を浴びてしまう。

 

「ヒィッ!? うわっ!?」

『ι7、バイタルロストッ!?』

「円陣を組めッ! 警戒しろッ!」

 

 スコープが隊員達に指示を出す。訓練された隊員達は素早く周囲を警戒する為に動くのだが、ただ1人ι3だけは円陣から離れている。

 

「おいι3ッ! 早くこっちにッ!」

「み、見えないッ!? 前が……!?」

 

 ι3は降り注ぐ血を頭から浴びた際にカメラとゴーグル部分を塞がれ、周囲の状況が分からなくなってしまっていた。幾ら訓練を受けていても、目が見えなければ正しい動きなど出来る訳がない。必死に視界を確保しながら仲間と合流しようとするが、カメラとゴーグルを拭いながらι3が歩いて行ったのは部隊が円陣を組んでいるのとは逆の方向。このままでは仲間が孤立すると、比較的近くに居たι6が誘導しようと円陣を離れる。

 

 襲撃者はそれを待っていたかのように暗がりから飛び出した。何時の間にか天井から降りてきていたその存在は、異様に肥大化し鋭い爪の生えた手でι3とι6に襲い掛かり鋭い爪で2人の隊員の腹に風穴を開けて一撃で絶命させてしまった。

 

 部隊に近付いた事で先程よりも鮮明に姿を見えるようになった襲撃者。それはドクロのような顔から赤い眼光を放っている。

 

 その眼光を目印にιチームの生き残りは一斉に射撃を開始した。

 

「撃てッ!」

 

 一斉に放たれた銃弾が襲撃してきた存在に襲い掛かる。対特異生物用の銃弾が襲撃者の体の表面で弾け、徐々にだが体を抉っていく。

 あまり長くこの銃撃に晒されるのは不味いと思ったのか、肥大化している両腕で防ぎながら襲撃者はこの場から一度離れようとする。だがこの手の相手を多く相手にしてきたS.B.C.T.は、相手に逃げる隙を与えない。銃撃しながら包囲していき、気付けば襲撃者は壁を背に四方八方からの攻撃に晒されその場に釘付けにされていた。

 

 スコープはこれを好機と見て、必殺技のエンドスマッシュを発動した。

 

「これでッ!」

〈Recognition〉

「ハァァァッ!」

 

 放たれた必殺の蹴り。この瞬間、周囲の隊員達は同士討ちとなる事を避ける為銃撃を止めた。

 

 襲撃者はこのタイミングを待っていた。周囲からの射撃が止んだ瞬間、襲撃者は防御の構えを解き顔を上げた。そして…………

 

「カァァァァッ!」

 

 大きく口を開けて鋭い牙を剥くと、逆にエンドスマッシュを放つスコープに逆に飛び掛かった。そして紙一重でスコープの必殺技を回避すると、鋭い牙でスコープの首筋に食らい付き喉笛を食い千切るどころか頭を引き抜いてしまった。

 

「隊長ッ!?」

 

 自分達を率いる隊長が返り討ちで命を落とした。その事実に動揺が広がる中、その襲撃者は即座に次の獲物に狙いを定めて襲い掛かる。狙われた隊員は銃撃して応戦するが、素早く動き回る襲撃者を足止めする事叶わず鋭い爪で胸の装甲をぶち抜かれて絶命。その後も次々と仲間が倒されていく光景に、オペレーターはこれ以上の戦闘は不可能と判断し生き残っている隊員に撤退の指示を出した。

 

『撤退ッ! 急いで撤退をッ! これ以上の戦闘は無理です、急いでッ!』

 

 次々と仲間が死んでいく光景に、恐怖に駆られた隊員達は我先にと食堂を飛び出し玄関から外に出ようとする。だが彼らが逃げる速度より襲撃者の動きの方が早く、背後からの攻撃に1人、また1人と隊員が命を落とす。

 

「チクショウッ!」

 

 遂に残り2人となってしまった隊員の内、片方が仲間を逃がす為その場に足を止め迎え撃つ。背後からの銃撃音と直後の悲鳴を聞きながら唯一の生き残りが玄関を飛び出し屋敷の外に出た。

 

 が、直後足を掴まれ唯一の生き残りの隊員も屋敷の中へと引き摺り込まれてしまった。

 

「や、止めっ!? 助け、ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

 指揮車で部隊の様子を見ていたオペレーターの耳に、通信機越しの悲鳴とバイタルが停止した事を知らせる無情な音が響く。

 

「あ、ぁぁ……!?」

 

 暫し部隊が全滅した光景に唖然としていたオペレーターだが、我に返るとワゴン車の運転席のドライバーやトレーラーに撤退を指示した。

 

「全員撤退ッ! 急いでここから離れて……!?」

 

 だが運転手達からは反応一つ返ってくる事は無く、車のエンジンがかかる様子もない。一体何事かと指揮所に改造した後部座席から出て運転席へと向かおうとする。

 

「ちょっと何やって――」

 

 が、ドアを開けてまず真っ先に目に入ったのは、赤い眼光を光らせるドクロ顔の異形であった。

 

「ヒッ!?」

 

 射抜くような眼光に引き攣ったような悲鳴を上げるオペレーターを襲撃者は引き摺りだした。抵抗する間もなく引き摺りだされたオペレーターに、襲撃者が血の滴る牙を剥きながら覆い被さる。

 

「やめ、助けっ!? い、ぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 車から引き摺りだされた直後、肉を引き千切り骨を砕く音に混じってオペレーターの悲鳴が響き渡る。

 

 だがその悲鳴も長くは続かず、後には血を啜り肉を食い千切る音だけが響いていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「――――以上が、先日消息を絶ったιチームの指揮車のレコードに残されていた映像だ」

 

 その声と共に部屋に明かりが灯る。

 

 ここはS.B.C.T.の支部の一つ。ここに居るのは突如消息を絶ったιチームの捜索の為に送られたδチームである。

 

 記録映像を見ていた隊員達の表情はいずれも暗い。無理もない。彼ら特異生物災害を相手にするS.B.C.T.にとって、未知の敵との戦いで部隊が全滅すると言う状況は決して無縁ではない。S.B.C.T.が発足してから10年近く、その間に部隊が全滅したと言う話は全く聞かない訳ではないが、それを記録映像とは言え目の当たりにして平然としていられるかはまた別問題。しかも今回全滅したιチームは、数あるS.B.C.T.のチームの中では多くの戦果を挙げているベテランの部隊。その部隊が、たった1体の敵に物の数分で全滅させられた事は、彼らを不安にさせるには十分なインパクトを持っていた。

 

 沈黙する隊員達を一通り見渡して、隊長の剛田(ごうだ) (あつし)は咳払いを一つして話を再開した。

 

「諸君も知っての通り、ιチームは最近ある事件を追っていた」

「吸血鬼事件ですね?」

 

 近頃、阿呉山のある宮崎県の季桔(きけつ)市を中心に人が何者かに襲われると言う事件が相次いでいた。犠牲者は体の何処かに鋭い牙に食らい付かれた痕があり、その傷口から血液を吸い取られていたり場合によっては体の各部を欠損させた遺体となって発見される事が多かった。その遺体の状態から『吸血鬼事件』と称され、ベテラン部隊のιチームが調査に当たっていた。

 

「報告によると、ιチームは調査の最中に度々正体不明の怪物との戦闘に入る事があったらしが、いずれの場合も対象には逃げられ、仕留めるまではいけていなかったらしい」

「そこに今回廃屋敷で連続行方不明事件が起こった?」

「その通り。事件との関連性を感じたιチームが調査に向かい、そしてそこで消息を絶ったと言う訳だ」

 

 その消息を絶ったιチームの捜索の為に派遣されたのが、S.B.C.T.の全部隊の中でも1~2を争う戦果を誇るδチームであった。彼らは阿呉山へと入り、問題の屋敷へと向かいそこで乗り捨てられたιチームのトレーラーと指揮車を発見。オペレーターの遺体を見つけ、何が起きたのかを確認するべく指揮車からレコードを回収し引き上げたのである。

 

 敦の話が一通り終わると、それまで黙っていたこの部隊のオペレーターであるリリィが手元のノートパソコンを見ながら口を開いた。

 

「事態を重く見た司令部は、急遽ここ九州支部に我々δチームを含めてS.B.C.T.の部隊を3つ招集、3部隊共同で事態の解決に当たらせる事を決定しました」

「どの部隊が参加するんだ?」

 

 リリィの話に質問したのはこの部隊の若きエースと言えるレックスであった。彼の質問に、リリィはノートパソコンに表示されたデータを見ながら答えた。

 

「我が隊の他に参加するのは、γ(ガンマ)チームとε(イプシロン)チームの2部隊となります。両部隊はこちらに合流するまで数日から数週間掛かるそうなので、暫くは我々だけで調査をする必要がありますが」

「ちょっと待ってください、ιチームがあっという間に全滅した相手に我々だけで挑むんですか?」

 

 味方が合流するのは数週間後と聞き、別の隊員が顔を顰めながら声を上げた。無理もない、既に一つの部隊が一晩も経たない間に全滅した事件に自分達だけで暫くは対処しなければならないのだ。

 その隊員の言いたい事も分かるのか、敦は難しい顔になって唸り声を上げる。が、この部隊の隊長である彼は部下に命令を下さなければならない立場にあった。

 

「そう言う事になる。当然危険は伴うが、我々がやらなければならない。そうしなければ、被害は拡大する一方だ」

「それは……そうですが……」

 

 苦言を呈した隊員はそれ以上反論する事が出来なくなり、仕方なく沈黙せざるを得なくなる。意気消沈した様子のその隊員に、隣に座っていたレックスは肩に手を置き話し掛ける。

 

「心配すんなって。俺達ならやれる、今までだってそうだったろ?」

「そうだと良いけどな」

「お前は気楽でいいよなレックス」

「うるせえな」

 

 レックスを中心に、徐々にだが隊員達の間にあった緊張が弛緩していく。それを感じた敦は、軽く手を叩き隊員達の注目を集め口を開いた。

 

「δ5ではないが、そう重く受け止める必要はない。司令部だって鬼ではないからな。増援の部隊が合流するまでは、我々に課せられた任務は調査と防衛だ。暫くは異変の調査と、出現するだろう怪物から人々を守る。やる事は何時もと変わらん、訓練通りにやれ。以上だ」

 

 敦のその言葉を合図にブリーフィングは終わった。この後はまず事件が起きた近隣の調査だ。

 

 新たな脅威の出現に、しかし彼らは恐怖を跳ね除け戦いに臨む。その最中、レックスは先程のιチームの戦闘の様子を今一度思い出していた。

 

(あの……怪物……)

 

 赤く光る眼光に、肥大化した両手。そして大きく開く鋭い牙の生えた口。それらにレックスはある種の既視感の様な物を感じていた。

 

 そう、少し前に海都を襲った傘木社残党との戦いで姿を現した新たな仮面ライダーヴァーニィだ。

 あの時ヴァーニィは自分達を助ける為に戦ってくれた。そのヴァーニィが、今度は自分達の敵になるとは考えたくないが…………

 

(もし何か関係があるなら、また会えるかもな)

 

 何処か似通った姿の、ιチームを全滅させた怪物とヴァーニィ。もしこの両者に関係があるのなら、そして縁があれば会えるかもしれない。

 

 レックスは不安と期待を胸に、胸元からネックレスを取り出して眺めた。大分くたびれている星形のネックレス。やや子供っぽいデザインのそれは、掛け替えのない家族からの最初のクリスマスプレゼント。

 視線をリリィに向ければ、彼女の髪にも同じデザインの髪留めがある。レックスはこれをプレゼントしてくれた家族に、勇気を分けてもらう様に軽く口付けをしてブリーフィングルームを後にするのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 宮崎県内にある季桔市と言う街は、周囲を山に囲まれた街である。自然に囲まれた街ではあるが、街自体は東京程ではなくとも地方都市としては発展している方であり、この街を知る者は季桔市を『自然と都会が共存する街』と称していた。

 

 その街の一画に、一軒の少し古びた家があった。一軒家以上屋敷以下と言う程度の大きさの家は、街の住宅街の奥まった所に建つその家は、少し古びた外見もあって周辺住民の中には幽霊屋敷と呼ぶ者も居た。

 勿論それは間違いで、この家にはちゃんと住人がいる。

 

 その住人の1人が、カーテンの隙間から差す朝日を受けて布団の中に逃げる様に潜り込む。

 

「ん、んん……」

 

 小さく呻き声を上げながら布団の中に潜り込んだ少年の名は、紅月(あかつき) 京也(きょうや)。街にある高校、季桔高校に通う16歳の高校一年生だ。

 京也が布団の中に逃げ込むと、直後枕元の充電しているスマホがアラームを鳴らした。目覚まし代わりにしているアラームだ。これが鳴ったと言う事は、そろそろ起きなければ学校に遅刻してしまう。

 

 名残惜しいが眠気を振り払って起きて学校に行かなければ。そう思って布団から出ようとした京也だったが、布団を退けようとすると体が重い事に気付いた。まさかと思い布団の中を見ると、そこには体を密着させるように抱き着いて眠っている京也と同年代の少女の姿があった。

 京也は少女の姿が自分に抱き着いて眠っているのを見て、苦笑を浮かべながら少女の肩を揺すった。

 

「もう、アルフ? アルフ、起きて。僕そろそろ学校に行かないといけないからさ」

「ん~、ん~……」

 

 京也が優しく声を掛けながら少女……アルフの肩を揺すって起こそうとする。だがアルフはそれを拒絶する様にさらに体を密着させてきた。アルフは年齢に反して豊満な胸を持っているので、密着してきた事でその柔らかさが薄い寝間着越しに伝わってくる。柔らかな乳房の感触に、京也は顔を赤くしながらさらに強めに彼女を起こそうとした。

 

「アルフ! ねえってば!」

「ん、んん?……あ、京也……?」

 

 強めに声を掛けられたからか、アルフが漸く目覚めた。鴉濡れ羽の様な黒髪と、血の様に赤い瞳が印象的な少女の顔が見上げてくる。まるで人間を魅了するかのような怪しい魅力を感じさせる眼光に、見入りそうになった京也は彼女を優しく引き剥がそうとした。

 

「ほら、朝だから起きよう。そろそろ起きないと――――」

 

 そこまで告げた所で、京也の部屋の扉がノックも無しに開かれた。そこにはエプロンを着けた、薄桃色の髪と赤い瞳の蠱惑的な女性がニコニコと笑みを浮かべて佇んでいた。

 

「あ……」

「おはよ~、2人共朝よ~」

 

 扉を開けた女性……ジェーンは、京也と彼に抱き着いているアルフを見ながらそう告げると部屋へと入った。そして窓へと近付くと、カーテンを()()()()()()()()()()ベッドの方へと向かい、京也に抱き着いているアルフを引き剥がした。

 

「は~い、アルフちゃんはまた自分の部屋を抜け出して京也君の部屋に入っちゃったのね~。仕方が無いんだから~」

「あ、京也……」

 

 無理矢理引き剥がされ、アルフは名残惜しそうに京也に手を伸ばす。一方の京也は、自分に手を伸ばしてくる彼女に満更でもないと言う様な笑みを浮かべ、小さく肩を竦めるとジェーンにより引き離されたアルフを逆に抱きしめた。

 

「大丈夫……ただ今日も朝が来ただけ。少しの間離れるけど、ちゃんと帰って来るから」

「ん……」

 

 子供を優しく諭すような京也の言葉に、アルフは身を委ねる様に小さく頷く。聞き分けの良い反応を見せるアルフの、肩より少し下まで伸びた髪を京也が優しく撫でる。

 

 と、アルフが京也の首筋に顔を埋める様に体を摺り寄せた。首筋にアルフの熱い吐息が掛かり、京也が小さく体を震わせる。

 彼の反応にアルフの顔に薄い笑みが浮かぶ。そして彼女は口を開けてそのまま彼の首筋に――――

 

「は~い、そこまで~」

「あ…………!」

 

 あと少しでアルフの口が京也の首筋に触れようかとした時、間にジェーンが割って入り2人を引き剥がした。

 

「ダメよ~、まだ朝だから~。京也く~ん、早く朝ご飯食べちゃって~」

「は、はいッ!」

 

 引き剥がされたアルフを見ていた京也だったが、ジェーンの言葉にハッとなると時計を見て急いで居間へと向かった。去っていく京也の背を、アルフが残念そうに見送る。

 ジェーンはそんな彼女の頭を優しくポンポンと叩いた。

 

()()()()()()でしょ~。()()()()()()()()よ~」

「うん……」

 

 それでもまだ名残惜しそうなアルフ。するとジェーンは小さく笑うとアルフを抱きしめる様に自分の首筋に彼女の口を押し当てた。

 

「今は~、()()で我慢しなさ~い」

 

 ジェーンの言葉を唇に触れる肌の感触に、アルフは次第に呼吸を荒くし口を開き、長く尖った犬歯を突き立てた。皮膚を犬歯が突き破り、滲んだ血が流れるがジェーンは全く気にした様子がない。その間アルフはジェーンの血を飲む様に喉をゴクゴクと鳴らし、ジェーンはもっと飲めと言わんばかりにアルフの頭と背中を撫でた。

 

 カーテンも閉め切られた、朝日の入らない室内にアルフの喉の鳴る音だけが響く。それは朝食を終えて登校の準備の為に部屋に京也が戻ってくるまで続くのだった。




と言う訳でまずはプロローグでした。

前半はS.B.C.T.の戦いの様子を描きました。本作は主人公の仮面ライダーヴァーニィ=翔琉の他にも、S.B.C.T.のレックスなど多数のキャラに視点を当てて物語が展開していく予定です。今後もメインでスポットが当たるキャラは増えていきますので、どうかお楽しみに。

後半に登場した主人公の翔琉とヒロインのアルフ。彼の変身は次回をお待ちください。

本作は登場人物が多くなる予定ですので、近日中に登場人物紹介も投稿します。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。



2024.06.25:主人公の名前ですが翔琉だと他のハージェネ作者さんの作品の主人公と丸被りしてしまうので、改めまして京也に変更します。
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