日も沈み、夜の帳が降りた頃……
怪我も癒え、落ち着きを取り戻した京也とアルフは部屋でジェーンが夕飯を作り終えるのを待っていた。京也は自室の床に寝そべりながら漫画を読み、アルフはそんな彼に寄り添い彼の胸板を枕にするようにして目を瞑っている。因みに今のアルフの服装は何時ものパーカースタイルだ。密着してきた事に彼女の肉感を鮮明に感じてしまい、胸に感じる重みと温もりもあって漫画の内容が今一頭に入ってこない。
それでも振り払おうと言う気にはならず、それどころかこの重みと温もりを心地良く感じてしまっている。京也はそんな自分と彼女に苦笑しながら、漫画を支える手の片方を離してフードに覆われたアルフの頭を優しく撫でる。彼の手が優しく触れてくると、フードの下からアルフの心地よさそうな吐息が零れ出て身動ぎする。
「……フフッ」
彼女の仕草に可愛らしさを感じ小さく笑みを浮かべる京也。
その時、アルフが弾かれるように飛び起きた。
「……ッ!」
「わっ!」
突然動き出した彼女に面食らう京也だったが、彼女がこんな反応をする理由は1つしかない事を彼は学んでいた。彼は彼女に続いて体を起き上がらせると、真剣な表情で問い掛けた。
「ノスフェクト?」
「うん……そんなに遠くない……!」
言うが早いかアルフは窓辺に近付き、カーテンと窓を開けると素足のまま外へと飛び出した。
毎度の危険な服装で外へと出ていってしまう彼女を京也は一瞬引き留めようとしたが、ノスフェクトが暴れているかもしれない状況下でそんな悠長な事は言っていられないと言葉を飲み込んだ。
そうこうしている内にアルフの姿が夜の街の中へと消えていってしまいそうになったので、彼も急いで彼女の後を追うべく家から出てバイクに跨り走り出す。
「2人共~、ごはん~…………あら?」
2人が夜の街へと飛び出していってから数分後、夕飯を作り終えたジェーンが京也の部屋を覗き込む。だがその時には既に2人の姿は部屋には無く、それを見てジェーンは今何が起きているかを察した。
「やれやれ~、仕方ないわね~」
ジェーンは小さく溜め息を吐くと、エプロンを外してその場を離れる。外したエプロンを適当に椅子に引っ掛け、背後を振り返った時、彼女の顔には何時も浮かんでいる笑みは消え彼女の事を知る者であれば目を疑う程真面目な顔をしたジェーンがそこに居た。
「バチカンも動き出した……さて、何事もないと良いけれど……」
誰に言うでもなくそう呟くと、ジェーンも家を出て玄関先で肺一杯に大きく息を吸いこんだ。鼻から息を吸い、空気に含まれた臭いを嗅いで口からゆっくりと吐き出す。
「すぅ~…………ふぅ~~…………」
ただでさえ豊かな乳房が大きく膨らんだかと思う程肺を膨らませたジェーンの姿は不思議な色香を感じさせ、もし今の彼女を見る者が居れば思わず見惚れたであろう。
「ぁ……」
「んん?」
否、居たらではない、居た。近所に住む高校生だろう。気弱そうな男子学生らしき私服姿の青年が、怪しい色香を放つジェーンに見惚れて街灯の灯りの下で頬を赤く染めている。
ジェーンはそんな青年に気付くと、色気を感じさせる笑みを浮かべて近付いていく。その最中、唇をチロリと舐める。赤い舌が唇を舐める……そんな仕草すら色っぽくて、青年は完全にジェーンの魅力に中てられまるで足を地面に縫い付けられているかのように動けずにいた。
「ウフフ♪」
ジェーンは青年に近付くと、彼の頬を包む様に掴んでその目を正面から見つめた。血の様に赤い瞳に青年は吸い込まれる様な錯覚を感じて動けなくなる。と言うか、動こうと言う気がしなくなった。心此処に在らずと言った様子で、魂が抜けたような表情でジェーンの事を見つめる青年。
そんな彼にジェーンは顔を近付けると、目を見開き瞳を赤く光らせる。カッと彼女の目が光ると、その瞬間青年は体をビクンと震わせた。そしてジェーンが離れると、彼はまるで操り人形の様にゆらゆらと体を揺らしながらその場から離れていった。
離れていく青年の後ろ姿を見送ったジェーンは、しかし若干残念そうにその背中を見ていた。
「ん~、私もそろそろ
暫しその場で悩んでいた様子のジェーンであったが、少し考えてどうでもよくなったのか小さく溜め息を吐くと改めて自身もその場から離れていったのだった。
一方、家を飛び出したアルフは京也に先駆けてノスフェクトが暴れている現場へと到着していた。場所はどこかの配送業者の営業所。勤勉な従業員達が一日の業務を終えて帰宅しようと建物から出た所を襲われた。
「キシャァァァァッ!」
「ぎゃぁぁぁぁっ!?」
「うわぁぁぁっ!?」
「た、助け、ヒィィィィッ!?」
夜の闇に紛れる様に空から襲い掛かて来たクロウノスフェクトは、鋭い嘴を従業員に突き刺すとそのまま血をゴクゴクと吸って殺してしまう。致死量まで血を吸い取られた従業員は肌を土気色に変え動かなくなり、死んだ従業員の体からクロウノスフェクトの嘴が引き抜かれる。
1人が死ねばすぐさま次の従業員が狙われた。逃げ惑う従業員達だったが、あっと言う間に人間の致死量まで血液を吸うクロウノスフェクトは翼を広げて宙を舞い、逃げる従業員に次々と襲い掛かっては血祭りにあげていった。
現場に到着したアルフは周囲に漂う血の匂いに喉を一つ鳴らすも、軽く険しい顔をする程度でそれ以上のアクションは起こさない。
そこに京也も到着した。アルフの近くにバイクを停め、彼女と同じように物陰から従業員が襲われている様子を伺い見る。アルフとは違い彼は従業員の亡骸が無数に転がる光景と、今正に1人の従業員が血を吸われている光景に明確な嫌悪感を抱き顔を顰めた。
「酷い……アルフ、お願い」
「ん」
ヴァンドライバーを腰に装着した京也に、アルフが抱き着き首筋に顔を埋める。彼女の唇が首筋に触れる感触に、京也は場違いな事を自覚しつつも興奮を感じ体を震わせた。そんな彼の首筋にアルフは牙を突き立て、彼の生き血を啜った。
「くぁ……! う、ぁぁ……!」
血を吸われる快楽に喘ぎながら、京也はふとジェーンから聞いた事を思い出していた。本来であれば血を吸い取られる等生命の危機に晒され快楽など感じる筈もない。だがノスフェクトは、血を吸う相手が暴れたりしない様に牙を突き立てた際快楽物質を相手に流し込むのだと言う。特に上級ノスフェクトはその快楽物質が強く、一度吸血され始めたら逃げると言う発想も浮かばない程なのだとか。
この快楽もそれによるものかと頭の片隅で考えつつ、だがそれでも相手がアルフならそれはそれで構わないと思っている自分の存在に気付き快楽とは別の笑みを浮かべた。
「ん……ん……はぁ」
程良く血を吸い満足したアルフが京也の首筋から牙を抜く。そして京也から吸い取った血からクロスブラッドを生成し、口から赤黒い十字架が飛び出した。
「ぐぽっ! ん……ふぅ」
アルフは自分の口から飛び出したクロスブラッドを満足そうに眺め、それを京也に手渡した。自分の血とアルフの唾液に塗れた十字架を受け取ると、バックルの左右のハンドルを引いてドクロの装飾の口を開かせる。
「変身ッ!」
合言葉と共にドクロの口の中にクロスブラッドを逆十字の形で装填し、ハンドルを戻して口を閉じる。その瞬間、ドクロの装飾の双眸が妖しい赤い光を放つ。
〈ダイシリアス! キョウヤ!〉
音声と共に京也の体が血のような液体で包まれていく。京也の全身を包んだ液体は、沁み込む様に彼の姿を変え次の瞬間そこに居たのは京也ではなく彼が変身した仮面ライダーヴァーニィであった。
「ハッ!」
「グルッ!?」
変身したヴァーニィは次の獲物に襲い掛かろうとしているクロウノスフェクトに殴り掛かる。突然の奇襲に反応が遅れたクロウノスフェクトは近くのコンテナに叩き付けられ、九死に一生を得る形で生き残った従業員は自分を助けてくれたヴァーニィの姿を呆然と見つめている。
「あ、アンタは……」
「逃げてください、早く!」
「は、はいぃぃッ!」
唐突に命の危機が去った事に頭の理解が追い付かず呆然としていた生き残りの従業員達だったが、ヴァーニィが逃げる事を促すと我に返り大慌てでその場を離れていった。残されたのはヴァーニィとクロウノスフェクト、そして物陰から戦いの様子を見ているアルフのみ。
「京也……」
アルフの視線を感じながら、ヴァーニィはクロウノスフェクトに飛び掛かる。素早い動きで跳躍し、空中で体を捻りながら蹴りを放つ。生身では当然出来る筈のない動きだったが、変身した事で著しく身体能力が向上したからこそ成せる技だ。
「タァァァッ!」
渾身の蹴り技。しかしクロウノスフェクトはこれを翼を広げて空中に飛び上がる事で難なく回避。それどころか蹴りを空振りした事で隙だらけとなった彼を、逆に地面に向けて蹴り落とした。
「ガゥッ!」
「うわっ!?」
急上昇してからの急降下による蹴り落としを喰らい、地面に罅が入るほどの勢いで叩きつけられるヴァーニィ。だがこの程度で彼は負ける事は無く、転がりながら体勢を立て直すと身に着けていたコートを変形させて両腕に纏うと形成した爪で斬りかかった。
「うぉあぁぁぁぁぁっ!」
変身前からは想像もつかない叫びを上げながらヴァーニィが爪を振り下ろす。蹴り上げでそれに対抗しようとするクロウノスフェクトであったが、地上での一撃であればヴァーニィの方に分があるのか足はヴァーニィの一撃で切り裂かれ引き千切られてしまった。
「ギャァァァァッ!?」
あまりの激痛にもんどりうって倒れるクロウノスフェクト。その様子にヴァーニィは追撃を掛けようとするが、それより早くにクロウノスフェクトが翼を羽搏かせて黒い羽根を周囲に飛び散らせた。
飛び散った羽はただでさえ暗くなっていた周囲の光を更に遮り、物理的にもヴァーニィの視界を眩ませた。突然顔の周りにまで飛んでくる羽根を肥大化した両手で振り払った時、そこにクロウノスフェクトの姿は何処にもなくなっていた。
「あっ! 何処に……」
姿を消したクロウノスフェクトの姿を探すヴァーニィは、出し抜けに背中を強かに蹴り飛ばされ地面に押し倒された。
「がっ!?」
「ガルル……!」
「くっ!」
羽根を目くらましに背後に回っていたクロウノスフェクトに、ヴァーニィは即座に体勢を立て直し反撃する。舞い散る羽根をかき分けるように爪を振るうが、巨腕が命中すると思われた次の瞬間にはクロウノスフェクトの姿は羽根に紛れる様に消えていた。
「これはッ!?」
「シャァッ!」
「がはぁっ!?」
「京也ッ!?」
蹴り倒されるヴァーニィの姿にアルフが思わず身を乗り出す。そのまま彼に駆け寄り助け起こそうとするも、それはギリギリのところで理性が押さえた。今の自分が出ていっても彼の足手纏いにしかならない。
クロウノスフェクトは上級ノスフェクトではない。だから力自体はヴァーニィの方が上である筈なのだが、厄介な能力の所為で強さが上級ノスフェクトに迫るものとなっていた。この能力を前にヴァーニィも苦戦を強いられる。
「くっ、まだまだぁぁっ!」
だがヴァーニィとてこの程度で諦める事はしない。彼は体を蝙蝠に変換しその場を一旦逃れると、羽根が舞い散るフィールドの外で実体化。そしてコートを蝙蝠の翼の様な形状に変化させ、羽搏きにより巻き起こした風で舞い散る羽根を吹き飛ばした。
「グルル……!」
「そこだっ!」
目くらましとなっていた羽根が無くなり、姿を鮮明に捉える事が出来るようになった。視界がクリアになってしまえばこちらの物と言わんばかりに、ヴァーニィが改めて両手をコートで包み作り出した巨椀で攻撃仕掛けようとして……
「あ゛~……」
「えっ!?」
突然目の前に、クロウノスフェクトにより血を吸われ殺された筈の従業員が立ち塞がる。血の気の失せた肌、虚ろな目をして、体調が悪い人の様に覚束ない足取りで両手を上げて近付いてくる。
どう見ても死んでいる筈なのに、自らの意思で立ち近付いてくるその姿は正しくゾンビ。まさかと思いヴァーニィが周囲を見渡すと、先程クロウノスフェクトにより吸血されて殺された筈の人々が次々と立ち上がり血の気の失せた顔で近付いて来た。
「う゛~……」
「あ゛ぁ゛~……」
「あ、あぁ……!?」
どう考えてもゾンビとなった人々は自分に対して敵対的だ。それが分かっていても、ヴァーニィには彼らを攻撃しようと言う気になれなかった。ノスフェクトはまだ割り切れる。元が一般人であろうとも、姿形は完全に異形で動きには凶暴性すら感じた。だがゾンビ達は違う。見た目は完全に人間のそれであり、敵意は感じるがしかしその動きはこちらに助けを求めている様にも見えるのだ。そんな人々だったものを容赦なく爪で引き裂くような事は彼には出来ない。
迷っているとゾンビ達は彼に掴み掛り、牙を突き立ててきた。見るとゾンビになった影響なのか、歯が鋭い牙となってヴァーニィの肉を食い千切ろうと食らい付いてくる。
「うぁっ!? あ、あぁぁぁぁぁぁっ!?」
ボディースーツまでしっかりと頑丈なヴァーニィの体は、ゾンビの牙で肉を食い千切られる様な事は無い。だがそれでも見た目普通の人々に囲まれて食らい付かれると言うホラー映画の様な展開には恐怖の一つも感じずにはいられなかった。牙が体に突き立てられる感触に、ヴァーニィの口から悲鳴が上がる。
「あぁ、京也……!? くっ!」
もう見ていられなくなったアルフは、危険を承知で物陰から飛び出しゾンビをヴァーニィから引き剥がそうとした。ノスフェクトの相手をするには不安があっても、人間に怪我は得た程度のゾンビであればなんとかなる。
そう思い一歩前の踏み出したその時、明後日の方向から何度も銃声が響きゾンビ達の体を撃ち抜いていく。撃ち抜かれたゾンビはその部分が焼け爛れ、崩れる様にその場に倒れていった。
「えっ!?」
まさかS.B.C.T.かと思いアルフは咄嗟に物陰に引っ込む。だが彼女の予想は外れ、銃声が聞こえてきた方から来たのは白いシスター服の様な恰好をしたカタリナであった。彼女の事を始めてみるアルフとヴァーニィは、突如として現れゾンビを倒したカタリナに唖然となる。
「あ、あなたは……?」
カタリナはヴァーニィの問いには答えず、クロスショットを腰のベルトに装着すると胸元に揺れるロザリオを外して祈りを捧げる様に胸元に掲げ目を瞑った。
「主よ……どうか彼の者の魂に、安らかな眠りと救済を……」
神に祈りを捧げたカタリナは、ロザリオをクロスショットの機関部分に装着した。
〈in Jesus' Name we pray.〉
「変身……」
〈Amen〉
「あ……!」
ベルトにロザリオを装填し、引き金を引いたカタリナの体が光に包まれる。その際に彼女が口にした言葉にヴァーニィが言葉を失っていると、カタリナの姿は仮面ライダーシルヴァの物へと変わっていた。
変身したシルヴァはクロスショットをベルトから外し、未だヴァーニィの周囲に残っているゾンビに向け引き金を引いた。重い銃声が響く度にゾンビが倒れ、ヴァーニィの体に掛かっている重さが減っていく。
それを何時までものんびり見ているクロウノスフェクトではなく、シルヴァの動きを止めようと翼を広げて飛び掛かった。
「キシャァァァァッ!」
「ん……」
クロウノスフェクトが飛び掛かって来るのを見て、シルヴァはゾンビへの攻撃を中断し銃口をそちらへと向ける。引き金を引き、放たれる銃弾。だが翼がある分高機動なクロウノスフェクトは迫る銀の銃弾を難なく回避し、突撃の勢いを利用してシルヴァに蹴りをお見舞いした。
「シャァッ!」
「フッ!」
放たれた蹴りを紙一重で回避し、お返しに至近距離からの銃撃をお見舞いするもこれも回避される。
そうしてシルヴァとクロウノスフェクトの攻防が繰り広げられる横で、ヴァーニィは残ったゾンビを振り払い両手の爪で引き裂き倒した。
「ガァァッ!」
ゾンビ達はノスフェクトほど頑丈ではない為、一度切り裂かれただけで簡単に倒せてしまう。しかしその代わり彼らはノスフェクトと違い人間だった姿のまま切り裂かれ倒れていく。倒れて動かなくなったゾンビ達の姿が、そのまま引き裂かれて血の海に沈んだ人々となる光景にヴァーニィは込み上げてくるものを感じながらもそれを振り払いシルヴァの援護に向かおうとした。
(多分あの人が、ジェーンさんの行ってたバチカンの仮面ライダー。ノスフェクトを目の敵にしてるって言う……)
バチカンの教会はノスフェクト関連の存在を一切許さないとジェーンは言っていた。ヴァーニィも例外ではなく、彼女らの攻撃対象になると言う話だ。それを考えればここで彼女の援護を行うのは寧ろ自分の首を絞める行為。一番賢いのは高みの見物をし、どちらか片方が倒れたら漁夫の利を狙うか若しくは両者が戦っている間にさっさと逃げるのが賢明と言えた。
しかしヴァーニィはそれを選ばなかった。ここで我が身可愛さだけで動いては、それこそ自分はあのウルフノスフェクトらと同じ畜生に堕ちてしまうような気がした。例え馬鹿な判断と分かっても、人の道に反する事を選べるほど彼は臆病ではなかったのだ。
「ハァッ!」
「シィィッ!」
「!」
ゾンビの始末をして飛び込んできたヴァーニィに、クロウノスフェクトもシルヴァも僅かに面食らう様子を見せる。特にシルヴァの方は、まるでヴァーニィの事を品定めする様に見つめていた。向けられる視線に何だか居心地の悪いものを感じたヴァーニィは、それを振り払うように爪を振り上げてクロウノスフェクトに斬りかかった。
「ガァァァッ!」
今度はヴァーニィとクロウノスフェクトの戦い。獣のように戦うヴァーニィは爪を壁や電柱に引っ掛けての三次元的な動きで空を自在に飛び回るクロウノスフェクトの動きに対抗している。
その戦いを見つめながら、シルヴァは徐にドライバーをベルトに装着し直した。そしてその状態でレバーを二回連続で起こして戻した。
〈Two judge! Judgement blade〉
ドライバーから音声が響くと、シルヴァの両腕の装甲が変化した。光り輝き始めるとスライムの様に形を変えながら腕から離れ、手の中に納まると形状を細身の刃を持つ剣へと変えた。荘厳な装飾を施された白銀のレイピアを持つと、シルヴァはその剣でクロウノスフェクトに斬りかかった。
「ハァッ!」
「ギッ!?」
ヴァーニィの相手をしていたクロウノスフェクトだが、シルヴァの攻撃が自分にとって致命的である事を察してか羽根を撒き散らして姿を眩ませ回避する。
「くっ! またこれか……」
舞い散る羽根に紛れてこちらを奇襲してくるクロウノスフェクトの戦い方はもう分っている。羽根が邪魔なら吹き飛ばしてしまえばいいと、ヴァーニィは腕に纏わせているコートを翼に変形させようとした。だがそれより早くにシルヴァが動いた。右手の剣を逆手に持ち、親指でドライバーのレバーを3回起こした。
〈Three judge! Admonition chain〉
今度はシルヴァのスカート部分が変化し、無数の白銀の鎖となって周囲に伸びた。伸びた鎖は舞い散る羽根を突き抜けて伸びていき、その内の一つが何かに触れたかと思うと一斉に巻き付いた。
「キァァァッ!?」
悲鳴のような声が上がったかと思うと舞い散っていた羽根が地面に落ちる。視界を遮るものが無くなった先には、無数の銀の鎖で縛られ体のあちこちから煙を上げているクロウノスフェクトの姿があった。銀が弱点となるノスフェクトにとって、この鎖は猛毒を塗布したも同然でありそれで体を雁字搦めにされて全身を焼かれていた。
シルヴァは捕えたクロウノスフェクトを引き寄せると、鎖をスカートに戻すと同時にすれ違いざまに双剣を振るう。振るわれた刃は正確にクロウノスフェクトの翼を切り裂き、自慢の翼を失ったクロウノスフェクトは機動力を奪われ地面に落ちる。
「ギィィィィッ!?」
翼を失ったクロウノスフェクトは錐揉みしながらヴァーニィの目前へと落下する。それは獲物が自らやって来たも同然。ヴァーニィは手を伸ばせば届く距離に落ちてきたクロウノスフェクトに飛び掛かり、クラッシャーを開いて食らい付こうとして…………寸でのところでジェーンの言葉を思い出す。
――まだあっちはヴァーニィが血を吸うって事を知らないだろうけれどね~。でも見られちゃったら~、同じ敵認定喰らっちゃうでしょうね~――
そうだ、まだこの仮面ライダー……シルヴァは自分が血を吸う事を知らない。ノスフェクトと同じ能力を持つ事を知らない。あのライダーが自分を無視してクロウノスフェクトを攻撃しているのは、自分の事をただの仮面ライダーと思ってくれているからだ。だが一度血を吸ってしまえば即座に敵に認定されてしまう。
マズイ……そう思ってヴァーニィはクロウノスフェクトに手を伸ばした姿勢で動きを止めてしまう。不自然に動きを止めたヴァーニィは、不安の視線をシルヴァへと向ける。視線を向けられたシルヴァは、彼の視線に気付いているのかいないのか分からない。ただ、のたうち回りながら立ち上がろうとするクロウノスフェクトを見据えるだけである。
クロウノスフェクトは翼を切り裂かれた苦痛を堪えながら何とか立ち上がる。そしてヴァーニィに視線を向けると、血に飢えた目で彼を見ながら嘴を突き刺そうとした。シルヴァからの攻撃によるダメージを回復させる為のエネルギーをヴァーニィから得ようと言うのだ。
だがシルヴァはそれを許さなかった。両手に持った剣を鎧に戻すとドライバーのレバーを4回倒した。
〈Four judge. God's execution!〉
ドライバーから電子音声が響くと、シルヴァの両手足の鎧とスカートが液状化し形状を変えながらクロウノスフェクトに絡みつく。絡みついた金属が固まり形作るのは鎖と十字架。クロウノスフェクトは十字架に磔にされ鎖で地面に固定される。
「ギ、ギィィィッ!?」
全身を焼かれながら磔にされ藻掻くクロウノスフェクトの前でシルヴァの両足に神秘さを感じさせる白銀の光が集まっていく。そして、彼女は動けないクロウノスフェクトに向け両足でドロップキックを放った。
「ハァァァァァッ!」
シルヴァの必殺技である『ゴッズエクスキューション』がクロウノスフェクトに炸裂する。身動きを封じられたクロウノスフェクトにこれから逃れる術は無く、シルヴァの蹴りを喰らった瞬間その両足から銀の成分を含むエネルギーを流し込まれる。
「ギャァァァァァァァァッ!?」
猛毒を含むエネルギーを流し込まれ、クロウノスフェクトは内部から体を破壊されていく。そして耐えきれなくなったクロウノスフェクトの体は爆散し、炎の光がシルヴァとヴァーニィの姿を妖しく照らし出す。
「うわ……」
「……」
その光景にヴァーニィの口から思わず声が漏れ出る。それは爆発の派手さに驚いたのではない。本能的に分かるのか、シルヴァの一撃が自分にとっても危険なものである事が分かってしまったからだ。あれを喰らえば自分もただでは済まない。何しろ今の自分はノスフェクトと同じなのだから、シルヴァの銀は彼にとっても猛毒となる。
そのシルヴァの視線がヴァーニィへと向けられる。敵意は感じられないが、それでも油断できないと緊張しながら見返していると、シルヴァは不意に視線を彼から外して爆炎の方を見た。彼女が目を向けると炎と煙が晴れ、後にはクロウノスフェクトだったのだろう男性と砕けたクロスブラッドが残されていた。
シルヴァは倒れた男性の死体へと近付くと、その傍で跪き両手を組み仮面の下で目を瞑り、この男性と被害に遭った人々の冥福を願う祈りを捧げた。
「主よ……どうか彼らの魂に、救済と安らぎを……。せめて、安らかに……」
その声には敵を倒した事への達成感などは一切ない。ただただ被害に遭った人々を憐れみ、せめて安らかに天に昇る事だけを静かに祈る慈愛だけが感じられた。それだけを見聞きすれば、本来の彼女が他人を慈しむ優しい女性である事が伺える。思わずヴァーニィも警戒を解いてしまいそうになる。
だが祈りを捧げ終え、立ち上がったシルヴァは徐にドライバーをベルトから外すと銃口をヴァーニィへと向けた。その指は引き金に掛かり、何時でも撃てるようにしている。
「ッ!?」
「あなたは……ノスフェクトですか? 先程、あなたはコートを変形させましたね? その時の様子、まるでコートが血で出来ているようでした」
シルヴァからの指摘にヴァーニィは胃が縮んだ。血を吸う事はしなかったが、それ以外でノスフェクトの疑惑を掛けられた。迂闊だった、彼女が件のバチカンからの仮面ライダーだと疑った時点で能力を使うべきではなかったのだ。
緊張と困惑でヴァーニィは言葉に詰まる。そんな彼に答えを急かす様にシルヴァは銃口を彼の眉間に向け声に圧を掛けて再度問い掛けた。
「答えてください。あなたはノスフェクトですか? それとも……」
今にも引き金が引かれそうな威圧感を前に、しかしヴァーニィは言葉を返す事が出来なかった。
と言う訳で第8話でした。
シルヴァの戦い方は、変身アイテムでもある銃を基本に全身の鎧が必要に応じて剣や鎖などに変化して戦うタイプです。前回はお披露目程度の戦いだったので基本装備の銃だけで戦いましたが、今後は剣や鎖を多用した戦いを見せてくれます。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。