京也がヴァーニィに変身したのは学校での事であった。何時もの如くノスフェクトの気配を察知したアルフは、この時間帯彼が学校に居る事を知っている為彼を迎えに学校へと赴いた。その時京也はちょうど授業中であり、教室で授業を受けている最中に窓の外にアルフの姿を見て目玉が飛び出る程驚いた。
「ブッ!?」
「ん? どうした、紅月?」
「えっ!? あ、いや、その……」
この事態に京也は焦った。今までこんな日の高い時間帯にノスフェクトが出た事は無かったのだ。ノスフェクトの基本的な活動時間は夕方から夜なので、アルフが京也を迎えに来るのは早くても下校途中。間違っても授業中に来るような事は無く、京也自身こんな時間に変身するような事は無いだろうと高を括っていた。
「えっと……す、すみません!? ちょっと体調が悪いので、保健室行ってきますッ!」
苦しい言い訳だが他に何も思いつかなかった為、京也は急いで教室を後にすると一目散に階段を上り屋上へと向かう。普段から施錠されていない屋上への扉を開けると、何時ものパーカーの下にズボンを穿いた姿のアルフの方がそこで彼を待っていた。
「京也……!」
「ゴメン、アルフ急いでッ!」
「ん」
何時もであれば、来てくれたアルフと気力を高め合う意味で抱きしめ合うのだが今は緊急事態。急いで変身して急いで敵を倒さなければならない。
手早く変身して現場へと向かい、少し手を焼かされながらもキャットノスフェクトとゾンビの集団を倒したヴァーニィは折角友好的に接してくれそうなS.B.C.T.と話し合うのも諦めて一直線に学校へとトンボ返り。そしてギリギリ授業が終わっていないのを確認すると、アリバイ工作の意味も込めて保健室へと飛び込んだ。
汗だくで飛び込んできた京也の姿に、女性の保険教諭は何事かと目を丸くして彼の事を見た。
「ど、どうしたの君?」
「ぜぇ、ぜぇ……あ、いえ、ちょっと…………ふぅ」
一先ず呼吸を整えると、京也は保険教諭に適当な事を告げ場を誤魔化そうとした。
「あの、ちょっと気分が悪くなって……」
「え~っと、君は紅月君か。気分が悪く? ふ~ん……」
保険教諭は何やら訝しんだ様子で京也の事を見ながら、彼を椅子に座らせ触診して体調を確認していく。下瞼の裏をひっくり返されたり顎の下などを触られる中、京也はそう言えばこの女性教諭は他の男子生徒達から人気であった事を思い出す。理由は言わずもがな、若くてそこそこ美人だからである。おまけに包み込むような優しさがあり、気安く接する事が出来る彼女に大人の女性を見て憧れる男子生徒も少なくなかった。
しかし京也は別にこの教諭に心動かされる事は無かった。彼の心は既にアルフに掴まれているし、純粋な女性としての美しさも普段共に生活しているジェーンに比べると数段劣る。有り体に言えば目が肥えた京也にとって、この保険教諭位の女性であれば冷静に接する事が出来た。
「ふ~む……特におかしなところは無いわね。まぁ念の為? 体温は測っておくけれど」
そう言って保険教諭は京也に背を向け、窓の近くのデスクに向かい体温計を取ろうとした。
その瞬間、彼女は窓の外に居たアルフと目が合った。
「えっ!?」
私服姿の明らかな部外者に目を瞬かせる女性教諭。彼女が面食らっている間にアルフは赤い目を煌かせ、その妖しい光を見た女性教諭は一瞬雷に打たれた様に体をビクンと痙攣させると次の瞬間には魂が抜けた様に心此処に在らずと言った様子で自分の席に座った。
「アルフッ!」
事の顛末を見ていた京也は慌てて女性教諭の状態を確かめる。彼女は変わらず茫洋とした顔で虚空を見つめており、取り合えず大事に至った様子はない事に一応の安心をしてから窓を開けアルフを問い質した。
「ちょ、アルフッ! 何やってんのッ!」
「これで、この人……京也が来たら、口裏合わせてくれる」
「え?」
「京也、体調不良って事で、誤魔化せる。……迷惑だった?」
どうやらアルフは、今後学校に京也が居る間にこの様な事が起きた場合の事を考えこの女性教諭をアリバイ作りの為の手駒とした様だ。確かに積極的に仮病を作り出して合わせてくれるのであれば、今後日中に変身する必要に駆られても誤魔化しが容易となる。
アルフとしては京也の為、良かれと思ってやった行動であるが彼の慌てようにもしかしたら余計な事をしたかもしれないと不安になった。若干首を竦ませ、フードと前髪に片目が隠れた上目遣いで彼を見る。そんな彼女の姿に改めて落ち着きを取り戻した京也は、一つ息を吐くと彼女を保健室の中へと居れて優しく抱きしめた。
「迷惑だなんて、思ってないよ。ただちょっと驚いただけ。ありがとう、アルフ」
「ん……!」
京也に抱きしめられ、アルフも彼の背中に手を回して甘える様に頭を擦り付ける。彼女の仕草が可愛らしくて、京也はそのまま彼女の頭を撫でながら軽く頬擦りしようとした。
その瞬間、保健室のドアが何者かにノックされた。弾かれるように京也がそちらを見ると、扉の向こうから聞き慣れた揚羽の声が聞こえてきた。
『せんせ~! 紅月君大丈夫ですか~?』
「ッ! ま、マズイ……!?」
恐らく保健室に行ったまま音沙汰がない京也の事を教師か揚羽が心配して様子を見に来たのだろう。チャイムには気付かなかったが、見れば授業はとっくに終わっている。
この状況に京也は激しく焦った。このままでは学校にアルフが来ている事が揚羽に知られてしまう。そう思った次の瞬間には、京也はアルフの手を引いて近くのベッドの中に飛び込み彼女を抱きしめながら布団を被り頭だけを出した。密着して布団を被れば、少し不格好だがバレる事は無い。
問題があるとすれば…………
(あ、マズイ……! む、胸が……!)
密着した事でアルフの豊満な乳房が京也の体に押し付けられる。普段から密着してくるアルフと暮らしている京也にとって、乳房が押し付けられる感触も日常茶飯事だ。だがだからと言って、無頓着で居られるかと言えばそれはまた別問題。特に今はシチュエーションの関係もあって、緊張感からか胸の感触を普段よりも強く感じているような気がした。
アルフは学校の部外者なのだから、窓の外に押し出して隠すと言う手もあった筈なのだが、あの瞬間彼の中にアルフを放り出すと言う選択肢は欠片も浮かびはしなかった。それだけ彼女の事を大事に思っている事の証なのだが、今はそれが逆に仇となる。
京也がアルフと共にベッドに入り彼女を隠すと、状況が落ち着くのを待っていた保険教諭が部屋の外の揚羽に入室を促した。
「入って良いですよ」
「は~い!」
「ちょっと揚羽、一応保健室なんだから少しは静かに」
引き戸を開けて揚羽と共に実里が入ってくる。十中八九、何時もの如く揚羽のストッパーとしてだろう。しかし今は少しマズいかもしれない。実里は察しが良い。ふとした瞬間に、布団の中にアルフが隠れている事がバレる危険があった。
最悪2人もアルフのノスフェクトとしての能力で、記憶を少し弄る必要があるかもしれない。あまりやりたい事ではないが、それも選択肢の一つとして考えていると揚羽がベッドの中の京也に心配する様に近付いて来た。
「ありゃりゃ、紅月君大丈夫? 風邪?」
「ちょっとした貧血よ。大事には至らないだろうけど、念の為暫くここで休ませておくわ」
揚羽達に何と言って誤魔化すかを考えていたら、保険教諭が良い感じにフォローしてくれた。これなら確かにこの後しれっと教室に戻っても言い訳が付く。アルフが彼女を催眠術とは言えこちらに引き込んでくれたおかげだ。その感謝を込めてアルフを抱き寄せる腕に力を籠めると、布団の下でアルフの乳房が更に強く京也の体に押し付けられる。するとアルフの方も京也に強く密着した事で興奮しているのか、瞬間的に声が零れ出る。
「ん……!」
「んん? 今、変な声が聞こえなかった?」
「え? そう? 私は何も聞こえなかったけど……」
幸いな事に今の声が聞こえたのは揚羽だけだったようだが、アルフの存在が感付かれそうになった瞬間京也は焦りで顔を青褪めさせた。思わずアルフに動かない様にと伝える意味で強く抱きしめようとすると、その手が彼女の乳房に当たり手に彼女の柔らかな感触を感じた。同時に布団の中のアルフも京也に抱きしめられながら胸を揉まれた感触に体をビクンと反応させる。
「んぁ……!」
(ちょ、アルフ……!?)
「あ、また! やっぱり何か聞こえるって!」
「ちょ、止めてよ!? 高校で学校の怪談とか今時流行んないって!」
「だって聞こえたもん!」
アルフが体を跳ねさせたことには気付かれなかったようだが、揚羽と実里は声が聞こえた聞こえないで議論を続けている。このままだとマズイと思った次の瞬間、保険教諭が揚羽達を宥めた。
「ほ~ら、2人共。紅月君は休ませないといけないんだから。問題ないと判断したら教室に帰らせるから、あなた達は早く次の授業に行きなさい」
「「は~い」」
時計を見ればもう直ぐ次の授業が始まってしまう。京也の現状も分かった事だし、揚羽達がこれ以上ここに居る必要は無くなった。2人は促されるままに大人しく保健室から出ていった。
「じゃあね、紅月君! 先に教室戻ってるから!」
「先生には貧血って伝えとくね」
「ゴメンね2人共、ありがとう」
手を振る揚羽を実里が引っ張る様にして教室へと帰っていく。その直後次の授業が始まるチャイムが鳴り、保健室の外からは2人が慌てて廊下を走る音が遠くなっていった。周囲が静かになると、そこで漸く京也は安堵し大きく息を吐きながら布団を退かした。
「はぁ~……あ、危なかった。あ、ごめんねアルフ、大丈……!?」
布団を退かして隠していたアルフを見て京也は思わず息を飲んだ。
「京也……!」
布団の下で密着していたアルフは頬を上気させ、潤んだ瞳で京也の事を上目遣いに見ていた。布団と言うある種密封された空間で密着した事で混ざり合い充満する自分と京也の匂い、感じる彼の温もりと心臓の鼓動、そして胸に触れる彼の手に、アルフは興奮状態となってしまっていたのだ。
そのまま這い上がる様にアルフは京也の首筋に顔を近付け、発情した猫の様に荒い息遣いで熱い吐息を吐きつけながら首筋に赤い舌を這わせた。
「ん、京也……! はぁ、はぁ……ペロ……京也ぁ……!」
「ぅあ……! ま、アルフ待って……!」
興奮しながら甘えてくるアルフを必死に宥める京也。ここが家ならばまだいい。だが今2人が居るのは学校で保健室だ。学び舎でこんな事をするのは良くない。
何より今この場には2人だけでなく保険教諭の先生もいるのだ。第3者に見られながらなど、気まずいにも程がある。
そう思いながら京也がチラリと先生の方を見れば、先生はまるで2人の姿など見えていないと言う様に事務仕事に没頭していた。
「大丈夫……今、あの人、私達に協力的……私達のやる事、何でも見逃す。だから大丈夫」
「いや、そう言う問題じゃ……」
口ではそう言う京也だったが、体の方はそこまで大きく抵抗していない。心の何処かで、そう言う事ならいいかと言う気持ちが働いてしまっていたのだ。ついさっき授業が始まったばかり。本当に体調を崩した生徒が駆け込んでこない限り、2人の邪魔をする者は現れる事は無い。そう思うとこのままアルフに全てを委ねてしまおうと言う気持ちが強くなってしまった。
京也が心で受け入れてしまった事を察したのか、アルフが信じられない位妖艶な笑みを浮かべながら彼の首筋に牙を突き立て静かに血を吸い始める。その快楽に京也は頬を赤く染め体を震わせた。
「ん……!」
「くぁっ! ぁ、ぁぁ……!」
京也の静かな喘ぎ声と、アルフが血を吸う音が保健室の中に響き渡る。保険教諭の先生はそちらに視線を向ける事無く扉の鍵を閉め、不意の入室が起こる事が無いようにとするのであった。
***
S.B.C.T.の九州支部に帰還したδチームは、事後処理とデブリーフィングを終え束の間の休息を思い思いに過ごしていた。
そんな中でレックスだけは1人装備を身に着け訓練に精を出していた。
シミュレーターによりヘルメットから見える視界に映るファッジに果敢に攻撃を仕掛ける。銃撃しながら接近し、ガンマソードで斬り付け蹴り飛ばし倒れた所を狙ってガンマカービンの銃口を向け引き金を引こうとした。
が、不意に彼の動きが鈍った。まるで何かに引っ張られた様に動きが止まり、その瞬間彼の口から苛立ちと苦悶の混じった声が上がる。
「くっ!?」
時間にして僅か数秒にも満たない時間でしかなかったが、その僅かな時間は致命的であった。シミュレーターが作り出した虚像のファッジは素早く立ち上がると、レックスのライトスコープに飛び掛かりその爪を振るい彼の首筋を一撃で切り裂いた。
「あっ!?」
急所となる首を切り裂かれた事で死亡判定を受け、視界に任務失敗の表示が浮かびファッジの姿が消える。この結果にレックスは悔しさと落胆を感じさせる溜め息を吐きながら、ヘルメットを外して汗を拭った。
「はぁ……クソ」
悔しそうに呻きながら拭った汗を振り落とすと、何かが背中に当たるのを感じた。装甲越しにノックされて背後を振り返ると、そこにはドリンクの入ったボトルを持ったテックとその後ろに居るリリィの姿があった。
「お疲れ、レックス。要る?」
「ん……あぁ、すまねぇ」
何時からここに居たのかは分からないが、恐らくはレックスが訓練に打ち込んでるのをリリィが見つけてテックにドリンクを持ってこさせたのだろう。受け取ったドリンクをレックスは一気に飲み干す。程良く冷えたドリンクが全身に染み渡るような感覚に、彼の口からリラックスした吐息が零れ出る。
「ふはぁ……」
「レックス、最近スランプかい?」
「スランプ?」
「何か悩んでる感じだから」
テックの問いにレックスは首を傾げた。特別悩んでいると言う程の事は無いのだが、どうもテックの目にはそんな感じに見えているらしい。悩みが無いわけではないが、今レックスを苛んでいるのは悩みとは別の物である。
それを理解しているリリィは、手元のノートパソコンで先程の彼の訓練の内容と結果を見ながら口を開いた。
「スランプとは違うでしょ。ね、レックス?」
「そうなの?」
「ん、まぁな」
「ま~た装備に無茶させたわね。これ、整備のおじさん達が黙ってないわよ」
ここ最近レックスの頭痛の種となっていたのは、装備の性能不足であった。ライトスコープの装備は普通の人間からすれば破格の性能を持つ装備であり、これを身に着けるだけでファッジを始めとした怪物と戦う事が出来るようになる。
だがそんな装備も、レックスにとっては役者不足であった。
彼の肉体は過去に改造され、それをデイナに治療された結果緩やかな進化を果たし常人を遥かに超える能力を得てしまっていた。ライトスコープは飽く迄常人が超人的な戦闘に耐える為の防護服としての意味合いが強い。サーボモーターの性能で動きも強化されるが、レックスの能力はそのサーボモーターの性能をも超えてしまっていた。
その結果ライトスコープの装備が逆にレックスの動きを阻害してしまう結果となっており、最近は先程の訓練の様に意図しないタイミングで動きを邪魔されたり装備自体が音を上げて故障してしまう事が多くなっていたのだ。
お陰でここの所レックスは装備の破損が目立つようになり、その度に整備士達から文句を言われたり始末書を書く羽目になったりと忙しい日々を送っていた。
「最近は特にレックスの装備壊れる事多くなったね?」
テックが小首を傾げながらそう呟く。部隊1の体格の彼がそう言う仕草をすると、野生の熊がふとした瞬間見せる愛くるしさの様なものを感じさせる。実際性格も穏やかで見た目と中身のギャップを感じさせると言う事で、女性からの人気はそこそこあったりする。
「あぁ、ここの所どうも装備が窮屈でな……」
「だからと言って下手に壊されると困るがな」
堪らず愚痴が零れてしまったレックスの言葉に、何時からそこに居たのか敦が言葉を返す。彼の登場にレックスだけでなくリリィとテックも跳ねる様にそちらを向き敬礼する。
「た、隊長ッ!?」
「いらしてたんですか?」
「たまたま近くを通っただけだ。近くεチームが合流するから、その事も関係してな」
普通に返答する敦だったが、その内心はあまり穏やかとは言い難かった。決して怒っている訳ではなく、由々しき事態だと認識しての事である。
それと言うのも敦自身最近のレックスの成長に装備がついてこれなくなっている事には危機感を抱いていたのだ。組織の古株として、レックスとリリィの境遇は彼も知っている。彼らがこの部隊に配属されると聞いた時などは、態々仁の下を訊ねて2人に関して留意しておくべき事等をメモったくらいだ。
その時に言われたのだ。レックスはいずれ人間としての枠を超える時が来る。その時、もしかするとライトスコープの装備が逆に彼にとっての枷となるかもしれないと。その危惧が現実のものとなった事に、敦も隊長として焦りを感じずにはいられなかった。
(いい加減ライトスコープも限界か。根本的な装備の改善が必要になるが……)
「あの、隊長……?」
思わずレックスの事を見ながら難しい顔になる敦。強面の部類の彼がそんな顔で見つめるとかなり迫力がある。レックスも思わず慄き後退りそうになるが、部下として彼がただ強面なだけで必ずしも機嫌を悪くしたりしている訳ではない事を理解しているので後ろに動きそうになる足を気合で押さえた。
(テックの愛嬌が少しでも隊長に移せればなぁ……)
世には二物も三物も与えられる者が居る一方、一物しか与えられない者も居る。その理不尽さにレックスが天を仰いでいると、思い出したようにリリィがノートパソコンを開き敦に見せた。
「あっ! そうそう、隊長。先日確認された仮面ライダーについてですが……」
リリィが持ってきたのは彼女達に取って未知の仮面ライダーであるシルヴァに関する調査資料だった。この調査には万閃衆の協力もあり、想定を超える速度で情報が集まった。とは言え情報自体は決して多くは無かったが…………
「万閃衆の忍びの協力で得られた情報ですが、どうもあの仮面ライダーと思しき者は欧州で特に存在を確認されていたみたいです」
「欧州で?」
リリィの口から出た情報に、敦を含む3人が怪訝な顔になる。欧州と言えばノスフェクトが生み出された地だ。これは果たして偶然だろうか?
「まぁ、存在が確認されたと言っても、飽く迄噂話程度に近いレベルで、信憑性も高いとは言い難いみたいですけどね。実際現地で彼らも現物を確認する事は出来なかったみたいです」
「欧州は彼らにとっては完全にアウェイだろうからな。そんな所で詳細な情報を求めても酷と言うものだろう」
「ただ、彼らにもプライドはあるのか今後も調査は続けてくれるみたいです。何か分かったら即座に報せてくれると」
「続報を待つしかない、か」
***
S.B.C.T.の九州支部でレックス達が難しい話をしている頃、授業を終えた京也は下校し帰路についていた。あの後体力が回復したと名目で教室に戻り普通に授業を受けた京也は、揚羽らに心配されながらも1人街中を歩いていた。因みにアルフは彼が教室に戻る際に姿を消している。今頃は家に帰り、何時もの様に彼の部屋で彼の帰りを待っているだろう。
ぼんやりと特に何かを考える事もせず歩いていると、出し抜けに背後から揚羽が声を掛けてきた。
「あ、紅月君!」
「ん? あ、磯部さん、須藤さん?」
そこに居たのは何時ものコンビである揚羽と実里だった。2人がここに居る事に京也は目を瞬かせる。普段通学路で京也が2人と顔を合わせるのはもう少し学校に近付いたところでの話だ。ここはもう2人の通学路から離れている筈なのに何故ここに居るのか?
「2人共、何でこっちに? こっち別に遊べるようなところなかったと思うけど?」
首を傾げて問い掛ける京也に、揚羽は得意げに胸を張りながら答えた。
「んっふふ~! 別に私達だって遊ぶ為だけにこっち来た訳じゃないんだよ! あ、そうだ! 折角だから紅月君も来る?」
「え? 行く? 何処に?」
「ちょちょ、揚羽ッ! 紅月君学校で貧血起こしたんだから無茶させたら……」
「いや、大丈夫だよ須藤さん」
実際貧血は仮病だった訳だし、何より揚羽が興味を持つような何がこの辺りにあるのかを知りたかった。純粋な好奇心だが、彼だって日常では何の変哲もない高校生。食指が動けば好奇心に身を委ねる事もある。
京也の答えに揚羽も満足そうに頷き、対する実里は頭痛を堪える様に額に手を当てて溜め息を吐く。そんな彼女を京也が宥めながら、ズンズンと歩いていく揚羽について行くと、その先にあるモノに京也も目を丸くした。
「教会?」
そこにあったのは教会であった。彼の通学路からは外れた所にあるので、普段あまり意識した事は無い場所だが、そう言えば時々この辺を通っているような気がする。少し前にも、アルフと出掛ける際にここを通ってリリィとアルフがぶつかった事があったのを思い出していた。
京也が目を丸くする中、揚羽は迷うことなく門をくぐりチャペルの正面に立つとパンと手を打って神社にお参りする様にお辞儀をした。宗教を履き違えた彼女の行動に実里が呆れながら間違いを指摘する。
「揚羽、お寺や神社じゃないんだから……」
「同じ神様なら大丈夫じゃない?」
「って言うか、磯部さんって神様信じてるの?」
「ん~、どうだろ? あんまり意識した事ないかも?」
なら何故ここに来たのか? 教会なんて神を信じて祈りを捧げる為に来るくらいの印象しかない京也にとって、揚羽の行動は不可解であった。
そんな彼の疑問に答える様に、揚羽は快活な笑みを浮かべて2人の手を引いた。
「二ヒヒッ! 本命はこっちにあるんだ!」
そう言って揚羽が2人を連れて行ったのは、教会に併設された孤児院であった。広場では子供達が元気よく遊んでおり、外からは聞こえ辛かったが楽しそうな子供達の笑い声が辺りに響いている。
「ここって……」
「孤児院?」
「そそ。実はここ孤児院あってさ、私時々ここに来てたんだ!」
そう言うと揚羽は子供達に負けないテンションで広場へと駆けこんでいった。
「ヤッホー! 皆、元気~?」
「あっ! アゲハおねえちゃんだ!」
「わ~い!」
「おねえちゃん、一緒に鬼ごっこしよう!」
「よ~し! 負けないよぉ!」
子供達の輪に混ざり遊び始める揚羽の様子に、京也と実里は素直に感心した。学校帰りの筈なのによくもまぁあんな元気があるモノだ。揚羽が体力お化けなのは2人も知っていたが、学校が終わった後で子供達の輪に混ざれる事には驚きも感じていた。
「磯部さん凄いなぁ、あの元気どこにあるんだろ?」
「胸じゃないの? 揚羽あれで結構胸ある方だから」
「ふ~ん」
「……あれ? 紅月君あんまり反応しないね?」
「え?」
子供達と一緒に駆けまわる揚羽を保護者感覚で眺めながら実里の声に何気なく答えていると、実里から意外そうな声が掛けられ思わずそちらを見た。そこで京也は健全な男子としては今の反応は些か反応が淡泊過ぎたと内心で焦りを浮かべる。
「他の男子連中なら、今の話聞いて揚羽に向ける目の色変わるのに」
「あ~、い、いや~……」
正直、京也の周りには既に魅力的な女性が居るので今更着痩せして実は胸が大きいと言う言葉には特別反応する理由が無い。ジェーンはミステリアスな美女だし、アルフに至っては巨乳を押し付ける様に密着してくる事もザラである。加えて人間離れした美少女のアルフに比べてしまえば、揚羽も十分可愛いと言えるが態々反応する程の事は無かった。
ちょっと気まずくなり明後日の方を見ながら京也が頭を掻いていると、そこに1人のシスター……カタリナが子供達と遊ぶ揚羽を眺めながら近付いて来た。
「あなた達は、あの女の子のお知合いですか?」
「あ、はい! ウチの揚羽が、どうもすみません」
「いえ、あの子には何時も子供達に良くしてもらって助かってます。ああして子供達の遊び相手をしていただけて」
カタリナが見ている先では、子供の1人が揚羽に掴まって持ち上げられキャーキャーと笑いながら叫んでいる。実に楽しそうなその様子にカタリナも慈愛に溢れる笑みを浮かべていた。
「揚羽、そんなによく来るんですか?」
「そうですね、揚羽さんもお休みの日とかには良く来られてます。子供達ともすっかり仲良くなって……」
他愛ない会話を続けるカタリナと実里であったが、一方で京也は衝撃を受けていた。カタリナの姿は以前見た事がある。そう、彼女が仮面ライダーシルヴァに変身する瞬間とその後銃口を突き付けられたのを覚えていたのだ。
(こ、この人がバチカンから来たって言う……!)
「? 何でしょう?」
驚き凝視する京也の視線に、カタリナも気付き首を傾げる。暫くは不思議そうに京也の事を見ていたカタリナだが、彼の纏う雰囲気に不意に既視感を感じ更に疑問を強くした。
「あれ? あなた……何処かで……」
恐らくは直感的なもので京也がヴァーニィである事に気付きかけたのだろう。これ以上ここに居るのは不味いと察した京也は、何かを思い出したかのように急いでその場を離れた。
「あ、あぁ~、そうだ。早く帰らないといけないんだった。そう言う訳だから須藤さん、またね!」
「あ、うん。ゴメンね、揚羽に付き合わせちゃって?」
「いいよいいよ。それじゃ、僕はこれで」
京也は実里とカタリナに頭を下げて手を振り、足早にその場を離れていった。実里は素直に手を振り返し、カタリナも疑問を頭の片隅に感じながら淑やかに手を振って京也を見送った。
京也は居なくなったが、それでも尚疑問を完全に拭う事は出来なかったのかカタリナは顎に指を当てて違和感の正体を探ろうとした。だがそこでルクスが近付いてきて、カタリナに声を掛けてきた。
「カタリナ~、お仕事よ。お・し・ご・と」
ルクスの言う”仕事”の意味に気付き、束の間カタリナの視線が鋭くなる。だが近くに居る実里を不安にさせないよう直ぐに顔を元に戻すと彼女に柔らかな笑みを向け別れを告げた。
「すみません、私も忙しいのでこれで失礼させていただきます。揚羽さんには宜しく伝えておいてください」
「はい、分かりました」
「それでは。あなた達にも、神の加護がありますように」
カタリナは揚羽と実里に祈りを捧げ、ルクスと共にその場を離れていった。実里に背を向けたカタリナの顔は、心優しいシスターのそれから鋭い修道騎士のそれへと変わっていたのだった。
と言う訳で第11話でした。
今回は前回のヴァーニィ参戦の裏で何が起きていたのかと言う話から始まりました。京也は言うまでもなく学生なので、授業中に戦闘が始まると当然こんなドタバタも起こり得たりします。
ライトスコープは汎用性の高い装備ですが、レックスに対してはその汎用性の高さが仇となりました。ここで言う汎用性とは常人の範疇に納まる話ですので、常人を超える身体能力を持つレックスにとっては逆に足枷となってしまう訳です。今後のレックスとしてはここら辺が大きな課題ですね。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。